専門用語解説
冷やし球
冷やし玉は、IPOや急騰銘柄で買い注文が殺到して初値がつかないような状況を避けるために、主幹事証券が実際に株式を売却して一時的に相場を冷却する手法を指します。ここで「玉」とは株式そのもの、つまり売却されるポジションを意味し、単なる見せ玉とは異なり、約定を伴う実体のある売り注文です。
冷やし玉は主に、主幹事証券が保有する自己在庫株や、大株主などから借り入れたオーバーアロットメント(OA)分の株式を使って発動されます。OAの上限は公募・売出株数の15%とされ、後日買い戻す仕組みとセットで運用されます。
こうした一連の操作は、金融商品取引法に基づく「価格安定操作取引」の枠組みに沿って行われる必要があり、実施には安定操作届出書の提出が義務付けられ、期間・価格帯・数量などが明確に制限されています。具体的には、上場日前日から上場後一定期間内で、発行価格や初値を上限とした価格帯でのみ売却が可能です。これらの条件を逸脱すれば、相場操縦とみなされて処分対象になるため、合法性を保つには厳格な遵守が求められます。
冷やし玉は「売りによる価格の頭押さえ」という点で、上場後の「買い支え(価格安定操作買付)」とは真逆の方向の操作です。また、冷やし玉は相場の健全な価格形成を目的とした制度的な手法であるのに対し、見せ玉(見せ板)は投資家を誤誘導する目的で出される約定意思のない注文であり、金融商品取引法で明確に禁止されています。
冷やし玉の発動により初値形成が抑制されると、短期的な上昇益を期待していた投資家にとっては不利に働くこともあり、安定操作期間中の需給が本来の市場動向と乖離する可能性もあります。そのため、個人投資家は目論見書や適時開示で操作期間やOA規模を確認したうえで、相場のゆがみを前提にした売買判断が求められます。
冷やし玉は主幹事証券にしか実行できない専門的な施策であり、個人が類似の売り圧力を出すのは現実的ではありません。ただし、その存在と仕組みを理解しておくことは、IPOなど相場が過熱しやすい局面での適切な投資判断に役立ちます。