専門用語解説
精通者意見価格
精通者意見価格とは、市場で価格が形成されにくい資産について、その分野に精通した専門家が評価手法に基づいて算出した、適正と考えられる価格のことを指します。非上場株式、美術品、骨董品、不動産など、標準的な市場価格が存在しない資産を対象として、M&Aや贈与、企業再編、相続などの局面で用いられます。
このような資産の評価においては、会計士、税理士、美術品鑑定士、M&Aアドバイザーなどが、対象に応じた手法を用いて評価を行います。たとえば非上場株式であれば、ディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)や類似会社比準法、純資産法などが用いられます。一方、美術品や骨董品については、専門の鑑定士や評価機関が、過去のオークション実績や類似作品の市場価格、作者の評価、保存状態、来歴(プロヴェナンス)などを総合的に勘案し、比較事例法と専門的見解に基づいて価格を算出します。
ただし、税務上の取り扱いには注意が必要です。たとえば非上場株式の相続税評価については、国税庁の「財産評価基本通達」に従い、類似業種比準方式、純資産価額方式、配当還元方式などによる定型的な評価が原則となります。精通者意見価格は、こうした通達評価が実態と著しく乖離している場合や、企業再編や株式移動に関連して実態に即した補足説明が求められる場合に、税務上の主張を補強する資料として用いられることがあります。
また、美術品や骨董品の相続税評価でも、原則として「時価」での申告が求められますが、その時価を示す有力な根拠として、専門家による精通者意見価格が評価資料として提出されることがあります。ただしこの場合も、税務当局がそのまま評価額を認めるとは限らず、算定根拠の妥当性や客観的資料の裏付けが重要となります。
精通者意見価格は、あくまでも専門家の判断に基づく意見価格であり、取引価格や公的な評価額とは異なります。資産の譲渡や申告に際しては、目的に応じて評価方法を選定し、必要に応じて専門家の助言を得ることが望まれます。