投資家所有モデル(Investor-Owned Structure)
専門用語解説
投資家所有モデル(Investor-Owned Structure)
投資家所有モデル(Investor-Owned Structure)とは、資産運用会社の所有形態の一つで、外部株主ではなく投資家自身が実質的なオーナーとなる仕組みを指します。最も代表的な事例が米国のバンガード社であり、同社では投資信託(ミューチュアルファンド)が運用会社を所有し、その投資信託の受益者である投資家が間接的にバンガードを保有しています。つまり、運用会社の株主が顧客であるという構造です。
このモデルの最大の特徴は、利益相反の排除にあります。一般的な運用会社では、株主(出資者)の利益最大化と投資家(顧客)の利益最大化が必ずしも一致しません。しかし、投資家所有モデルでは、会社の収益が外部株主に配当されるのではなく、コスト削減や手数料引き下げの形で投資家に還元されます。そのため、経営方針が一貫して「投資家の利益第一(Client First)」に基づいており、長期・低コスト・中立という経営理念を実現できるのです。
実際、バンガード社では、運用報酬などから得られる利益を再投資やコスト削減に回すことで、業界最低水準の信託報酬を実現しています。この構造が同社のインデックス投資戦略を支える根幹であり、長期投資家から高い信頼を得る理由にもなっています。
投資家所有モデルは、株主資本主義に代わる新しいガバナンスモデルとして注目されています。外部株主の短期的な利益ではなく、顧客である投資家の長期的利益を守る構造的仕組みである点で、金融業界の透明性と公正性を高める意義があります。
