専門用語解説
第三者割当増資
第三者割当増資は、企業が新株を発行する際に、その株式をあらかじめ選定した特定の第三者(事業パートナー、主要取引先、金融機関、創業者の資産管理会社など)だけに引き受けてもらう資金調達手法です。公募増資のように不特定多数の投資家を対象とするのではなく、発行会社と第三者が事前に条件を合意し、取締役会決議(上場企業の場合は株主総会決議を追加で要するケースもある)を経て実行されます。発行価格は直近株価よりディスカウントされることが多く、発行側はディスカウント幅を抑える代わりにロックアップ(一定期間の売却制限)や業務提携契約を組み合わせるのが一般的です。
既存株主にとっては、新株が特定の第三者にのみ割り当てられるため持ち株比率が希薄化します。とくに発行株数が大きい場合や発行価格が割安な場合は、一株当たり利益(EPS)の低下や議決権構成の変化が発生し、株価が短期的に調整することがあります。希薄化割合が25%を超える案件では東証が「第三者割当による募集等に関する有価証券上の取扱い」の適用を求めるなど、投資家保護の観点から追加開示や第三者評価機関の意見取得が必要になる点にも注意が必要です。
一方、第三者割当の対象となる投資家側には、(1)市場価格より安い価格でまとまった株式を取得できる、(2)資本参加と同時に業務提携や供給契約を結びやすい、といったメリットがあります。個人投資家が市場で株式を保有する立場から見ると、割当先のバックグラウンドやロックアップ期間、資本提携の内容を確認することで、資金調達後のシナジー効果や株価の下落リスクをより正確に見積もることができます。
要するに、第三者割当増資は「スピード重視」「関係強化重視」の場面で機動的に使える半面、既存株主には希薄化リスクが避けられません。第三者との資本提携が企業価値向上につながるか、発行条件が適切かを見極めることが、既存株主・新規投資家双方にとって不可欠です。