海外資産による情報漏洩や家族の安全リスクはありますか?
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2025/04/16 11:00
男性
30代
CRS(共通報告基準)などの制度により、海外の金融機関に保有する口座情報が税務当局を通じて各国と自動的に共有されると聞きました。名前や住所、口座残高といった個人情報が海外に渡ることで、情報漏洩や第三者への悪用が起きる可能性はないのでしょうか?また、資産があることで家族が犯罪や誘拐のターゲットになったり、治安の悪い国で情報が悪用されるリスクについても懸念しています。実際にそのような事例はあるのでしょうか。海外資産を持つ際にプライバシーと安全を守るための注意点があれば教えてください。
回答
株式会社MONOINVESTMENT / 投資のコンシェルジュ編集長
近年は、海外資産を保有すること自体が、税務面だけでなく、情報管理や安全保障の観点でも新たなリスクを生みつつあります。とくにCRS(共通報告基準)の導入により、海外の金融機関が非居住者の口座情報を各国の税務当局に報告し、それが国境を越えて自動的に共有される仕組みが整備されました。
氏名や住所、口座番号、納税者番号、残高や利子・配当といった収益情報など、極めて機微な個人情報がその対象です。そして、それらの情報が、情報管理体制や政治の安定性に課題のある国にも渡る可能性がある点には注意が必要です。
OECDは加盟国の情報保護体制を定期的に評価していますが、情報漏洩や悪用リスクを完全に防げるとは言い切れません。実際、ある新興国では、富裕層の資産情報が外部に流出し、不審な営業勧誘や、家族への接触、さらには誘拐未遂といった深刻な事案が報告されたこともあります。
こうした事態を避けるには、資産を預ける国や機関を選ぶ際、金利や税制の優位性だけでなく、情報セキュリティ、ガバナンス、治安の水準を含めて検討することが大切です。たとえば、信託を活用して資産の名義と実態を分離したり、複数拠点に分散させてリスクを分散させるといった戦略も有効です。
CRS時代においては、資産を「隠す」ことではなく、「守る」視点が不可欠です。プライバシーと安全を両立させる資産構成のあり方を検討し、必要に応じて、国際税務やリスクマネジメントに精通した専門家のサポートを受けることを強くおすすめします。
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CRS(共通報告基準)
CRSとは、「共通報告基準(Common Reporting Standard)」の略で、各国の税務当局同士が金融口座に関する情報を自動的に交換するための国際的な制度です。これは主に、海外口座を利用した税逃れや資産隠しを防ぐことを目的として、OECD(経済協力開発機構)が提案し、多くの国が参加しています。 たとえば、日本に住んでいる人が海外の銀行に口座を持っている場合、その情報は現地の金融機関から日本の国税庁に自動的に報告される仕組みになっています。これにより、海外に資産を移してもその存在が把握されやすくなり、適正な納税を促すことができます。投資初心者にとっては直接の影響は少ないかもしれませんが、グローバルな資産運用やオフショア投資を考える際には知っておくべき重要なルールのひとつです。
非居住者
非居住者とは、所得税法第2条第1項第5号に基づき、「国内に住所を有さず、かつ1年以上引き続いて居所を有しない個人」を指します。一般には、海外に生活の拠点を移して1年以上継続して滞在している方、特に海外赴任や永住を前提とした移住者などが該当します。 非居住者になると、日本の税制や金融制度上の取扱いが大きく変わります。税務上、日本は非居住者に対して「国内源泉所得」のみ課税権を持ちます。たとえば、日本国内勤務に対応する給与や賞与は国内源泉所得とされ、15.315%の税率で源泉徴収されます。非居住者は住民税や累進課税の対象外であるため、金額にかかわらずこの定率で課税が完結し、原則として確定申告も不要です。 この仕組みを活用すれば、高額報酬を受け取る場合でも、居住者の最大55%課税に比べて大幅に税負担を抑えられる可能性があります。ただし、非居住者として認められるには、住民票の除票だけでなく、生活拠点・勤務実態・業務の指示系統などから総合的に実態が判断されます。租税回避とみなされないよう、恒久的施設(PE)課税や居住国側での課税リスクにも留意が必要です。 一方、海外勤務に対応する給与・賞与は国外源泉所得とされ、日本では非課税です。報酬の支払元や雇用契約の内容によっては判断が分かれるため、租税条約の有無や適用範囲の確認も重要です。 退職金については、従業員の場合は国内勤務に対応する部分が、役員の場合は全額が国内源泉所得とみなされ、20.42%で源泉徴収されます。なお、退職所得の選択課税制度を使えば、居住者と同様に退職所得控除や1/2課税が適用され、還付を受けられることがあります。 金融面では、非居住者になることで日本の銀行口座や証券口座に制限がかかることがあります。多くの銀行では非居住者の口座維持に制限があり、住民票を除票後に届け出を行っていないと口座凍結のリスクもあります。証券口座の特定口座も廃止され、一般口座への移管が必要になります。 NISA口座も非居住者になると原則利用できなくなります。ただし、会社都合による海外赴任で「非課税口座継続適用届出書」を提出すれば、最長5年間は非課税枠を維持可能です。この場合でも、新規買付や積立は停止され、自己都合による移住では口座の廃止が必要です。 また、日本と非居住者の居住国との間に租税条約がある場合、課税が軽減または免除されるケースもあります。たとえば、台湾との間では、国外勤務に対応する退職手当の一部が日本で非課税となる取り扱いがあります。 このように、非居住者となることで税制・金融制度の適用が大きく変わります。とくに高額所得者や国際的な勤務を行う方にとっては、非居住者ステータスの活用が節税につながる一方で、税務リスクや手続き上の注意点も少なくありません。実態に基づいた制度設計と事前の準備が不可欠です。
納税者番号
納税者番号とは、個人や法人が税務手続きを行う際に使用される、税務上の身分証明番号です。各国で名称や制度は異なり、日本では「マイナンバー」、アメリカでは「TIN(Taxpayer Identification Number)」と呼ばれます。この番号は、納税者を一意に識別するためのものであり、税務申告や証券口座の開設、投資先からの配当・利子に関する課税処理など、さまざまな場面で使用されます。 資産運用においては特に、国外の金融機関での口座開設や、外国株式・債券への投資時に提出を求められることが多く、グローバル投資に不可欠な情報です。さらに、OECDが推進するCRS(共通報告基準)では、この納税者番号をもとに各国の税務当局が資産情報を共有し、国外財産の所在を把握・追跡する体制が整えられています。不適切な申告や番号の欠落は、口座凍結や税務調査の対象となるリスクもあるため、正確な管理が求められます。
OECD(経済協力開発機構)
OECDは「経済協力開発機構」の略で、主に先進国を中心とした約40カ国が加盟する国際的な組織です。各国が協力して、経済成長を促したり、貿易や税制度をより公平で透明なものにするためのルール作りを行っています。資産運用に関係する分野では、特に税制に関する取り組みが重要です。 たとえば、多国籍企業や富裕層による税逃れを防ぐための「BEPSプロジェクト」などは、OECDが主導しており、多くの国で税法の見直しに影響を与えています。海外に資産を持つ場合や国際的な投資を考える際には、OECDの動向が各国の制度に反映されることが多いため、知っておくべき存在です。
信託
信託とは、お金や不動産などの財産を信頼できる相手(受託者)に託し、特定の目的に沿って管理・運用してもらう仕組みです。財産を託す人を「委託者」、管理する人を「受託者」、利益を受け取る人を「受益者」といいます。 たとえば、親が子どもの教育資金を信託したり、高齢の親の認知症対策として資産管理を家族に委ねたりするケースがあります。このような個人間で活用される信託は「家族信託」と呼ばれ、相続対策や資産承継の手段として近年注目されています。 一方、資産運用の世界では「商事信託」として、信託銀行や運用会社が多数の投資家から集めた資金をまとめて運用する「投資信託」が一般的です。さらに、海外では、受益者への分配内容を受託者が裁量で決められる「ディスクリショナリートラスト(裁量信託)」という形態もあります。 信託は目的や状況に応じて柔軟に設計できる制度であり、大切な資産を計画的に管理・承継するための有力な選択肢となります。