専門用語解説
延納
延納とは、相続税や贈与税の納付について、一定の条件を満たした場合に限り、税務署の許可を得て年賦で分割して納めることができる制度です。原則として相続税は相続開始から10か月以内に一括納付する必要がありますが、相続財産の大部分が不動産や非上場株式など換金しづらい資産で占められている場合などには、現金での即時納付が困難なことがあります。こうした場合に、資産の処分を避けながら納税を進める手段として延納が活用されます。
延納が認められるには、納税者が金銭納付を一度に行うことが困難であると税務署に認められる必要があります。具体的には、資産の構成や収支状況、生活費への影響などを示す書類を添付した申請を行い、税務署の審査を経て許可を受ける必要があります。申請期限は、相続税の申告期限である相続開始から10か月以内と定められています。
延納期間は最長20年とされていますが、適用される財産の種類により認められる期間や条件が異なります。たとえば不動産等については20年までの延納が可能な一方で、換金性の高い財産が含まれる場合には延納そのものが認められないこともあります。延納できるのは相続税全額ではなく、延納の対象として認められた金額に限られます。
延納が許可されると、期間中は利子税が課されます。この利子税は毎年変動し、財務省告示により定められています。たとえば2024年時点では、延納期間が5年以内であれば年1.9%、5年超〜10年以内であれば年2.4%、10年超〜15年以内であれば年2.9%、15年超〜20年以内であれば年3.4%といった具合に延納期間に応じて利率が高くなります。なお、不動産など一部の特例財産については年0.9%とする軽減措置が適用されることもあります。
また、延納税額が一定額を超える場合には、原則として担保の提供が求められます。担保には不動産や上場株式などが用いられ、税務署がその価値や換金性を審査します。担保を準備できない場合や担保価値が不足している場合、延納申請が却下されることもあるため注意が必要です。
延納とよく混同される制度に物納がありますが、物納は延納をもってしても金銭納付が困難とされる場合に限って認められるもので、延納の次に検討される制度です。物納は納税資産として国に現物を引き渡す制度であるのに対し、延納はあくまでも金銭納付を分割で行う制度です。
相続税対策においては、納税資金の準備と同時に、延納の利用可能性をあらかじめ想定しておくことが重要です。特に、不動産中心の資産構成である場合や、被相続人の死亡時に手元資金が少ないケースでは、資産の一部を売却するか、延納・物納の制度を活用するかの判断が必要になります。延納は資産を残しつつ納税を可能にする制度ですが、その分、計画性と事前の準備、専門家による支援が不可欠です。