役員退職金にかかる税金をできるだけ抑える方法はありますか?節税につながる制度や注意点も知りたいです。
役員退職金にかかる税金をできるだけ抑える方法はありますか?節税につながる制度や注意点も知りたいです。
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2025/10/20 09:04
男性
60代
役員退職金を受け取る際に、どのような税金がかかるのか、そしてできるだけ税負担を軽くする方法を知りたいです。退職所得控除や分離課税などの制度を活用できると聞いたことがありますが、具体的にどのような仕組みなのか、注意すべき点も含めて教えてください。
回答
株式会社MONOINVESTMENT / 投資のコンシェルジュ編集長
役員退職金の税金を抑えるためには、制度の仕組みを理解し、受け取り方と時期を上手に設計することが大切です。退職金は通常の給与や賞与とは異なり、「退職所得」として分離課税の対象になります。退職所得控除が適用され、さらに課税対象が半分(1/2)になるため、同じ金額を給与として受け取るより税負担が大幅に軽くなります。まずは退職前に「退職所得の受給に関する申告書」を会社に提出しないと、一律20.42%が源泉徴収されてしまうため、必ず手続きしましょう。
勤続年数の扱いも重要です。退職所得控除は勤続年数に応じて増え、20年以下は40万円×年数(最低80万円)、20年超は800万円+70万円×(年数−20)で計算します。勤続年数は1年未満を切り上げるため、退職日を少しずらすだけで控除額が増える場合があります。例えば、20年11か月の勤続を21年にすれば、控除が70万円増えます。
役員の場合、特に注意すべきなのが「特定役員退職手当等」と「短期退職手当等」です。役員としての勤続年数が5年以下の場合、その期間に対応する退職金は1/2課税が適用されません。たとえば就任から4年11か月で退職すると不利になりますが、5年1か月在任すれば有利になります。また、使用人としての勤続が5年以下の場合、控除を超える300万円を超える部分について1/2課税が外れることもあります。
同一年内に複数の退職金(会社と企業年金の一時金など)を受け取ると合算され、控除額も共有になります。年をまたげば別計算できますが、勤続期間が重なる場合は控除が調整されるため、必ず受給の時期を計画しましょう。退職金、企業年金、確定拠出年金などを同時期に受け取る場合は、申告書に源泉徴収票を添付する必要があります。
さらに、確定拠出年金(企業型DCやiDeCo)を一時金で受け取る場合も注意が必要です。2026年以降は「9年内」に他の退職金を受け取ると控除調整が入るようになります。つまり、60歳でiDeCoを一時金で受け取り、65歳で退職金を受け取ると、9年内に該当して控除が減る可能性があります。受け取りの順番や間隔、一時金か年金かの選択を慎重に検討しましょう。
役員退職金でよく行われる「分掌変更退職」も節税の手段ですが、形式だけでは認められません。代表取締役から非常勤役員や顧問への変更など、実質的に経営から退く必要があります。報酬の大幅減額(50%以上)、経営権の喪失、職務内容の変更など、実態を伴うことが条件です。議事録や職務権限の明確化も欠かせません。
また、小規模企業共済の活用も有効です。これは経営者向けの「退職金制度」で、掛金は全額所得控除の対象になります。一括受取なら退職所得、分割なら雑所得扱いです。ただし他の退職金と勤続期間が重なると控除調整の対象になるため、受け取り時期をずらすなどの設計が必要です。
最後に、退職金の税金で損をしないための基本は5つあります。①申告書を必ず提出する、②役員勤続5年以上を確保する、③複数の退職金受取は年をまたぐよう調整する、④分掌変更は実態を伴わせる、⑤確定拠出年金や小規模企業共済の受取時期を設計する。この5点を意識するだけで、数百万円単位の税負担差が生じることもあります。
税金の取り扱いは年ごとの法改正や個人の勤続年数、会社規程によって変わるため、実際に退職を検討する1年以上前から専門家に相談し、最適なスケジュールと受け取り方法を設計するのが安全です。
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関連する専門用語
退職所得控除
退職所得控除とは、退職金を受け取る際に税金を軽くしてくれる制度です。長く働いた人ほど、退職金のうち税金がかからない金額が大きくなり、結果として納める税金が少なくなります。この制度は、長年の勤続に対する国からの優遇措置として設けられています。 控除額は勤続年数によって決まり、たとえば勤続年数が20年以下の場合は1年あたり40万円、20年を超える部分については1年あたり70万円が控除されます。最低でも80万円は控除される仕組みです。たとえば、30年間勤めた場合、最初の20年で800万円(20年×40万円)、残りの10年で700万円(10年×70万円)、合計で1,500万円が控除されます。この金額以下の退職金であれば、原則として税金がかかりません。 さらに、退職所得控除を差し引いた後の金額についても、全額が課税対象になるわけではありません。実際には、その半分の金額が所得とみなされて、そこに所得税や住民税がかかるため、税負担がさらに抑えられる仕組みになっています。 ただし、この退職所得控除の制度は、将来的に変更される可能性もあります。税制は社会情勢や政策の方向性に応じて見直されることがあるため、現在の内容が今後も続くとは限りません。退職金の受け取り方や老後の資産設計を考える際には、最新の制度を確認することが大切です。
分離課税
分離課税(ぶんりかぜい)とは、特定の所得について他の所得と合算せず、その所得単独で税額を計算し、課税する方式です。分離課税には「源泉分離課税」と「申告分離課税」の2種類があります。
特定役員
特定役員とは、法人において経営の重要な決定に関与する役職にある人を指し、具体的には取締役、監査役、執行役、理事などが該当します。この区分は、税制上の取り扱いに関係があり、特定役員に対しては、退職金や賞与、一部の報酬などについて通常の従業員とは異なる課税ルールが適用される場合があります。たとえば、役員退職金の損金算入やストックオプションの課税タイミングなどが関係してきます。資産運用の観点から見ると、特定役員として受け取る報酬や退職金は高額になるケースが多く、税負担のコントロールや受け取り方の設計が重要になります。そのため、役員として働く人は、特定役員に関する税制や資産の受け取り方法について正しく理解しておく必要があります。
企業型確定拠出年金 (企業型DC)
「企業型確定拠出年金(企業型DC:Corporate Defined Contribution Plan)」とは、企業が従業員のために設ける年金制度の一つです。企業が毎月一定額の掛金を拠出し、そのお金を従業員が自分で運用します。運用商品には、投資信託や定期預金などがあり、選び方によって将来の受取額が変わります。 この制度は、老後資金を準備するためのもので、掛金の拠出時に税制優遇があるというメリットがあります。ただし、運用によっては資産が増えることもあれば、減ることもあります。また、個人型確定拠出年金(iDeCo:Individual Defined Contribution Plan)と異なり、掛金は企業が負担します。企業にとっては福利厚生の一環となり、従業員の定着にも役立つ制度です。
iDeCo(イデコ/個人型確定拠出年金)
iDeCo(イデコ)とは、個人型確定拠出年金の愛称で、老後の資金を作るための私的年金制度です。20歳以上65歳未満の人が加入でき、掛け金は65歳まで拠出可能。60歳まで原則引き出せません。 加入者は毎月の掛け金を決めて積み立て、選んだ金融商品で長期運用し、60歳以降に年金または一時金として受け取ります。加入には金融機関選択、口座開設、申込書類提出などの手続きが必要です。 投資信託や定期預金、生命保険などの金融商品で運用し、税制優遇を受けられます。積立時は掛金が全額所得控除の対象となり、運用時は運用益が非課税、受取時も一定額が非課税になるなどのメリットがあります。 一方で、証券口座と異なり各種手数料がかかること、途中引き出しが原則できない、というデメリットもあります。
小規模企業共済
小規模企業共済とは、中小企業の経営者や役員、個人事業主の方のための退職金制度です。「小規模企業」という文言が含まれているとおり、一定の要件を満たす中小企業や個人事業主が対象です。 小規模企業共済制度は、独立行政法人中小企業基盤整備機構(以下、中小機構)が運営している「小規模企業共済法」という法令に基づいた共済制度です。 掛金は全額所得控除され、加入者は事業資金の借入れも可能です。 加入資格は、従業員が20人以下(商業・サービス業では5人以下)の個人事業主や会社役員などです。ただし、兼業で会社員をしているなど、給与所得を得ている場合は加入資格がないため注意が必要です。




