相続した株を売りたい、現金化したい場合注意点はありますか?
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2025/08/18 07:40
男性
60代
今後親から株を相続する可能性があります。相続した株を売って現金化したい場合の注意点はどのようなものがありますか?
回答
株式会社MONOINVESTMENT / 投資のコンシェルジュ編集長
相続した株を売って現金化する場合、まず知っておきたいのは、相続発生後すぐには売却できない点です。被相続人(亡くなった方)の証券口座は、相続発生の連絡をすると取引が停止されます。その後、必要書類を揃えて名義変更や相続口座開設を行い、相続人名義に移してから売却が可能になります。手続きには通常3~4週間程度かかるため、売り急ぐ場合はスケジュール管理が重要です。また、複数の相続人で売却代金を分ける場合は、遺産分割協議書による全員の同意が必要です。
税務面では、相続した株を売却すると譲渡所得が発生し、原則として約20.315%(所得税・住民税・復興特別所得税)の申告分離課税が適用されます。取得費は被相続人の購入価格を引き継ぎますが、NISA口座で保有していた株式は死亡日の終値が取得価格となります。さらに、相続税を支払った財産を一定期間内(相続税申告期限の翌日から3年以内)に売却した場合、「相続税の取得費加算」が利用でき、相続税の一部を取得費に加えることで譲渡益を減らせる可能性があります。
売却タイミングの判断には、相続税評価額と市場価格の差も影響します。評価額より株価が上昇してから売れば譲渡益が増えますが、下落すれば利益は減少します。評価が高く相続税負担が大きかった場合は、取得費加算を活用することで実効税率を下げられるケースがあります。
また、株式の保有割合や立場によっては追加の規制や義務が発生します。相続で発行済株式の5%超を保有することになった場合は、大量保有報告書の提出が必要です。さらに、役員や10%以上の大株主になると短期売買益返還制度やインサイダー取引規制が適用されるため、売買のタイミングや方法に注意が必要です。
非上場株式(自社株)を売る場合は、譲渡制限や会社承認など会社法上の手続きがあり、買い手探しや評価に時間がかかります。会社による自己株式の取得では「みなし配当」として課税される場合もあるため、税区分を誤らないようにしましょう。単元未満株(端株)の場合は、市場で売却できず、発行会社への買取請求や買い増し後の売却など特殊な手続きが必要です。
これらの点を総合すると、相続した株を売る前には、①証券口座や口座区分の確認、②必要書類の準備と手続き期間の見積もり、③取得費と取得費加算の可否、④他の損益との通算方針、⑤法令規制の該当有無、といった項目を事前にチェックすることが不可欠です。場合によっては税理士や弁護士、証券会社に相談し、売却順序や申告の有無まで含めた最適なプランを立てることが望ましいでしょう。
関連する専門用語
名義変更
名義変更とは、不動産や預貯金、株式、自動車などの財産について、登記簿や契約書、口座記録などに記載されている所有者の名前を、現在の所有者から新しい所有者へと正式に書き換える手続きのことです。相続が発生した場合には、亡くなった人の名義になっている財産を、相続人の名義に変更する必要があります。この手続きを行わないと、たとえ法的に相続人であっても、その財産を自由に売却したり運用したりすることができません。 名義変更には、それぞれの財産に応じて必要な書類や手続きが異なり、例えば不動産であれば法務局での登記変更が必要になり、銀行口座であれば金融機関への申請が求められます。資産運用の観点では、名義変更を早めに行うことで、相続後の資産の管理や再運用がスムーズに進むため、とても重要なステップです。
遺産分割協議書
遺産分割協議書とは、相続人全員が話し合って決めた遺産の分け方を文書にまとめたものです。被相続人が遺言を残していない場合や、遺言書に記載されていない財産がある場合、相続人同士でどの財産を誰が受け取るかを決める必要があります。 その合意内容を正式に記録し、全員が署名・押印することで作成されるのが遺産分割協議書です。この書類は、相続した不動産の名義変更や預貯金の払い戻しなど、実際の手続きを進める際に必須となることが多いため、非常に重要な役割を持ちます。作成の際は、相続人全員の同意が必要で、1人でも欠けていると無効になってしまう点に注意が必要です。資産運用においても、円満な財産の承継や手続きのスムーズ化に役立つ書類です。
申告分離課税
申告分離課税とは、特定の所得について他の所得と分離して税額を計算し、確定申告を通じて納税する方式です。 主な対象となる所得は以下の通りです: - 譲渡所得: 土地や建物、株式などの譲渡による所得。 - 山林所得: 山林の伐採や譲渡による所得。 - 先物取引による所得: FXや商品先物取引による所得。 例えば、株式の譲渡所得については、他の所得と合算せずに分離して課税されます。また、上場株式等の配当所得についても、申告分離課税を選択することができます。
インサイダー取引
インサイダー取引とは、上場企業の未公表の重要情報を知る立場にある人が、その情報を利用して株式などを売買する行為を指します。これは金融商品取引法で禁止されており、市場の公平性を守るために設けられた重要なルールです。 たとえば、決算の内容や合併・買収の計画、大口契約の締結・解消、役員の交代といった情報は、企業の株価に大きな影響を与える可能性があります。これらが公表される前に、会社の役員や従業員、関係会社、取引先などの内部関係者が株式を売買すると、公平な取引が損なわれることになります。 さらに、こうした情報を直接知らされていなくても、内部関係者から話を聞いた家族や知人が、その情報をもとに株を売買した場合も「情報受領者」としてインサイダー取引に問われる可能性があります。 たとえ意図的でなくても、未公表情報に基づく取引は規制の対象となることがあるため、企業に関わる立場にある人やその周辺の人は特に注意が必要です。投資を行う際は、常に公正な情報に基づいた判断を心がけ、市場の信頼を損なわない行動をとることが求められます。
大量保有報告
大量保有報告とは、上場企業の株式を一定割合以上保有した投資家が、保有状況を金融当局に報告しなければならない制度のことを指します。具体的には、株式の5%以上を取得した場合に、取得から5営業日以内に「大量保有報告書」を提出する義務があります。この報告により、誰が企業に対して大きな影響力を持ち始めたかを投資家全体が把握できるようになります。資産運用の場面では、大量保有報告によって有力な投資家やファンドの動向を知ることができるため、株式の売買判断に役立つ重要な情報源となります。
短期売買益返還制度
短期売買益返還制度とは、上場企業の役員や大株主が、自社株式を6か月以内に売買して得た利益を会社に返還しなければならないと定めた制度です。インサイダー取引や市場の公正性を損なう行為を防ぐ目的があり、金融商品取引法に基づいて設けられています。 この制度により、企業の内部関係者が株価の変動を利用して短期的な利益を得ることを抑止し、一般投資家の信頼を守ります。返還請求は会社が行いますが、会社が請求しない場合、株主が代わりに会社のために請求できる仕組みもあります。投資家にとっては、公平な取引環境を保つための重要な規制です。