なぜアメリカの失業率は日本の失業率より高いのですか?理由を教えて下さい
回答受付中
0
2024/12/31 16:34
男性
40代
現在S&P500やオルカンをNISAで運用しています。<br>アメリカ市場の影響を大きく受けるので米国の雇用統計を見ておいたほうがいいと知人に言われ、定期的に確認するようにしています。アメリカの雇用統計を見ていると、日本よりもかなり高い失業率になっているのが気になりました。これはなぜなのでしょうか?
回答
株式会社MONOINVESTMENT / 投資のコンシェルジュ編集長
米国の失業率が日本より恒常的に高く見える主因は、①労働市場の流動性、②雇用維持・補償の政策姿勢、③統計上の「失業者」の定義――という三つの制度的相違です。
日本では新卒一括採用・終身雇用・年功賃金といった慣行が依然強く、企業は雇用調整助成金などで人員削減を回避しやすい仕組みが整っています。このため離職や転職が相対的に少なく、統計上失業者として計上されにくい低流動型の市場構造となっています。
対照的に米国は「雇用の柔軟性」を優先し、企業は業績に応じて解雇・採用を機動的に行います。労働者側も失業保険や職業紹介(ワンストップセンター)を通じて短期間で再就職することを前提とするため、離職が一時的に失業率を押し上げやすい高流動型の市場です。
さらに統計の扱いが異なります。日本は「過去1週間以内に求職活動を行った人」を失業者とし、一時帰休者は就業者に含めます。一方米国は「過去4週間以内に求職した人」に加え、レイオフ直後など求職活動前の短期離職者も失業者に数えるため、母数が広くなります。
こうした制度差が数字を押し拡げているだけで、米国の雇用環境が一概に劣っているわけではありません。投資家が米国雇用統計を参照する際は、日本と前提条件が違うことを踏まえ、絶対値よりもトレンドや変化率に注目して景気サイクルを判断するのが賢明です。
関連記事
関連質問
関連する専門用語
ISM製造業景況感指数
ISM製造業景気指数とは、アメリカの製造業の現在の景気の状態の印象を示す指標。これは米供給管理協会(Institute for Supply Management)がアメリカ国内の300社以上の製造業にアンケートを実施し、公表しているものである。アメリカはGDPランキングにおいて1位の国であり世界の経済動向を反映しやすい点と、毎月第一営業日にこの指標は発表されるのでほかの指標に比べて速報性がある点で、この指標は有用であるとされている。具体的には「生産」、「新規受注」、「在庫」、「価格」、「雇用」などの項目について、前月と比較し結果をスコアで表す。50が景気判断の分岐点となっており、50を上回ると製造業の景況が良く、50を下回ると悪化していることを示している。
FOMC(Federal Open Market Committee/連邦公開市場委員会)
FOMC(Federal Open Market Committee、連邦公開市場委員会)は、米国の金融政策を決定する最高意思決定機関です。米連邦準備制度(FRB)が、インフレ抑制・雇用最大化・経済安定化を目的に、政策金利(FF金利)の調整や金融市場の流動性管理を行います。 FOMCは年8回開催され、米国の景気・物価動向・雇用状況を評価し、政策金利の変更や量的緩和・量的引き締めなどの金融政策を決定します。会合後には声明が発表され、議長の記者会見が行われます。 FOMCの決定は、米国経済だけでなく、世界の金融市場にも大きな影響を与えます。市場予想と異なる決定が出た場合、株式市場・債券市場・為替市場が大きく変動することがあります。一般的に、利上げが発表されると株価は下落し、ドル高が進行し、債券価格は下落します(利回りは上昇)。反対に、利下げが発表されると株価は上昇し、ドル安が進行し、債券価格は上昇します(利回りは低下)。 日本では「日銀金融政策決定会合」がFOMCに相当しますが、決定プロセスには違いがあります。FOMCはFRB理事7名と地方連銀総裁5名の計12名による投票で政策を決定し、金融政策の透明性が高いのが特徴です。
FRB(Federal Reserve Board/米連邦準備制度理事会)
FRB(Federal Reserve Board、米連邦準備制度理事会)は、米国の中央銀行制度であるFRS(Federal Reserve System)の中核をなす組織である。FRSは、ワシントンD.C.にあるFRB(理事会)と、全米に分布する12の地区連邦準備銀行(連銀)から構成される。 FRBの主な役割は、金融政策を通じて米国経済の安定を図ることであり、その目的として「最大雇用(Maximum Employment)」と「物価の安定(Stable Prices)」という2つの目標(デュアルマンデート)を掲げている。これらの目標を達成することで、米国経済の持続的な成長を促す。 FRBは、日本の日本銀行に相当する機関であり、政府から独立した中央銀行として運営されている。ただし、完全に独立しているわけではなく、議会に対して定期的に金融政策の報告を行うなど、説明責任を負っている。
完全雇用
完全雇用とは、働く意思と能力がある人すべてが職に就いている状態を意味しますが、これは「失業者がゼロ」ということではありません。現実の経済では、転職活動中や一時的な離職による「摩擦的失業」、産業構造の変化に伴う「構造的失業」など、避けられない失業は常に一定程度存在します。 そのため、完全雇用とは「望まない失業が存在しない状態」や「自然失業率の水準にある状態」とされ、実質的には経済が持つ労働力を最大限に活用している健全な雇用状態を指します。完全雇用は景気のピークに近い段階で現れることが多く、インフレ率の上昇リスクと隣り合わせでもあります。そのため、中央銀行は金融政策を決定する際に、完全雇用の水準を重要な判断材料の一つとしています。