遺族年金は非課税でずるい、おかしいという声を聞きましたが、なにか問題があるのでしょうか?
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2025/10/22 09:04
男性
50代
ニュースやSNSで、遺族年金は非課税なのはずるいという意見を見かけました。たしかに他の収入には税金がかかるのに、なぜ遺族年金だけが非課税なのか疑問です。税制上の優遇として正当な理由があるのか、それとも制度の不公平さが指摘されているのか、専門家の立場から教えてください。
回答
株式会社MONOINVESTMENT / 投資のコンシェルジュ編集長
遺族年金が非課税であることは制度上の正当な理由に基づいており、「ずるい」や「おかしい」といった批判は当たりません。
遺族年金は、家計を支えていた人が亡くなった際に残された家族の生活を支えるための保障的な給付であり、所得を得る性格のものではありません。そのため税法上は担税力が低いとされ、障害年金と同様に非課税と定められています。
遺族年金の非課税対象には、遺族基礎年金、遺族厚生年金、寡婦年金、中高齢寡婦加算などがあります。一方で、老齢年金は老後の所得補填という性格を持つため課税対象です。
このように、課税か非課税かの違いは「給付の目的」によって区別されています。したがって、遺族年金の非課税は特別な優遇ではなく、制度の目的に沿った自然な取り扱いです。
ただし、「税法上の非課税」がすべての制度に共通するわけではありません。健康保険の被扶養者認定や生活保護、就学支援などでは、実際の収入として遺族年金を含めて判定される場合があります。
一方で、国民健康保険料や介護保険料は住民税の課税状況を基準に決まるため、遺族年金が非課税であることが負担軽減につながる場合もあります。このように、税・社会保険・福祉の各制度で扱いが異なるため、個別に確認することが重要です。
実務上もいくつか注意点があります。遺族年金は源泉徴収の対象外であり、確定申告は原則不要です。ただし、給与や事業収入など他の課税所得がある場合は、通常どおり申告が必要です。
また、住民税の非課税証明書を求められる手続きでは、自治体に住民税申告を行う必要があります。申請先によっては遺族年金を収入に含める場合があるため、必ず確認しておきましょう。
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非課税所得
非課税所得とは、所得が発生していても税金がかからないと法律で定められている収入のことをいいます。たとえば、失業保険の給付金や、障害年金、遺族年金、一定額の生活保護費、通勤手当の一部などがこれに該当します。 また、一定額までの奨学金や、死亡保険金のうち法定範囲内の受取額なども非課税とされています。これらの収入は、所得税や住民税の計算の対象から外れるため、確定申告や年末調整において申告する必要がない場合があります。資産運用の場面では、NISA口座で得た利益が非課税になるなど、制度をうまく活用することで税金の負担を軽減できる点が大きなメリットとなります。
寡婦年金(かふねんきん)
寡婦年金は、国民年金第1号被保険者だった夫が亡くなったとき、一定の条件を満たす妻(主に子のいない専業主婦層)が60歳から65歳になる前まで受け取れる「つなぎ給付」です。夫の保険料納付済期間(免除期間を含む)が10年以上あり、妻自身が遺族基礎年金・障害基礎年金を受けられない場合に限って支給されます。妻は生計維持関係(年収850万円未満が目安)を証明する必要があり、再婚すると失権します。 2025年度(令和7年度)の年金額は次のとおりです。 | 項目 | 月額 | 年額 | | --- | --- | --- | | 老齢基礎年金(満額) | 69,308円 | 831,700円 | | 寡婦年金(老齢基礎の4分の3) | 51,981円 | 623,775円 | 支給は妻が60歳になった月の翌月から始まり、65歳になる月分で終了します(以後は自分の老齢基礎年金へ切替)。妻が死亡するか再婚・内縁関係が成立した時点でも打ち切られます。子がいる家庭はまず遺族基礎年金が優先され、子が18歳年度末を迎えた後に条件を満たせば寡婦年金へ移行する仕組みです。厚生年金に加入していた夫の場合、遺族厚生年金との併給は可能ですが、組合せ調整により一方が全額または一部停止されることがあります。 寡婦年金の請求は、死亡日の翌日から5年以内に市区町村役場または年金事務所で行います。戸籍謄本、年金手帳(基礎年金番号通知書)、生計維持・収入証明などを揃えて申請します。5年を過ぎると時効で受給権そのものが消滅しますので注意が必要です。 税務面では、相続税法12条により相続税の課税対象外ですが、受給後は雑所得として所得税・住民税の計算に含まれます。金額が比較的小さいため、老齢基礎年金や遺族厚生年金、退職金、私的年金、預貯金などと合わせたキャッシュフロー設計が不可欠です。具体的な併給試算や受給手続きの確認には、日本年金機構の年金見込額試算サービスや社会保険労務士・ファイナンシャルプランナーへの相談を活用すると安心でしょう。
中高齢寡婦加算
中高齢寡婦加算とは、遺族厚生年金を受け取る妻が40歳から64歳までの中高年齢層であり、子どもがいない、または子どもがすでに支給対象外となっている場合に、遺族厚生年金に上乗せして支給される加算金のことです。これは、配偶者の死後、急に収入を失った中高年の女性が、老齢年金を受け取れる年齢になるまでの生活を支える目的で設けられています。 特に子育てが終わった後の女性が対象となりやすく、再就職が難しい年齢層であることから、生活の安定を支援する制度として重要です。なお、65歳になると老齢年金の受給が始まるため、この加算は終了します。中高齢寡婦加算は、遺族年金制度の中でも特定の生活状況に配慮した制度であり、遺族厚生年金の理解を深めるうえでも欠かせない要素です。
担税力
担税力とは、税金を支払うことができる経済的な力のことを指します。つまり、どれくらいの税金を負担することが可能かという「支払う余裕」のような考え方です。税制度を設計するときには、この担税力を考慮して、収入や資産が多い人ほど多くの税金を支払うようにする「応能負担の原則」が用いられます。 たとえば、年収が高い人は住民税や所得税の税率が高くなるのは、この担税力の考え方に基づいています。公平な税負担を実現するために非常に重要な考え方です。
被扶養者
被扶養者とは、健康保険に加入している人(被保険者)に生活の面で養われていて、自分では保険料を払う必要がない家族のことを指します。 一般的には、配偶者、子ども、親などが該当しますが、その人の年収が一定額以下であることなど、いくつかの条件を満たす必要があります。たとえば、専業主婦(または主夫)や収入の少ない学生の子どもなどが典型的な例です。 被扶養者は、自分で健康保険に加入していなくても、扶養している被保険者の健康保険を通じて医療を受けることができ、医療費の一部負担で済みます。 この仕組みによって、家族全体の保険料負担が軽減されるメリットがあります。ただし、就職などで収入が増えた場合には扶養から外れ、自分自身で保険に加入する必要があります。
確定申告
確定申告とは、1月1日から12月31日までの所得を計算して翌年の2月16日から3月15日に申告し、納税する手続き。多くの会社では年末調整を経理部がしてくれるが、確定申告をすると年末調整では受けられない控除を受けることができる場合もある。確定申告をする必要がある人が確定申告をしないと加算税や延滞税が発生する。




