債券の利率と利回りの違いは?債券価格と金利の関係も解説
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公開:
2024.02.02
更新:
2024.12.12
はじめに
「利率」と「利回り」は、一般的には混同されやすい言葉です。しかし債券投資の世界において、両者は明確に使い分けがなされています。「利率」と「利回り」の正確な理解が、債券投資の第一歩といっても過言ではありません。
債券への投資を行う際、理解が必要不可欠となる「利率」と「利回り」について、その内容を詳しく解説します。「利率」と「利回り」の内容と違いをしっかり理解して、正しい知識を身に付けて債券投資にのぞみましょう。
債券の利率と利回りはどう違う?まず押さえておきたいポイント
最初に、債券の利率と利回りについて簡単に把握しましょう。簡単な説明の後に、詳細を解説します。
債券の利率(クーポンレート)は受け取る利子の割合
債券には額面価格と毎年受け取れる利子の金額が決められています。
債券の利率は、債券の額面価格に対し毎年受け取ることができる利子を%で表記したものです。なお、債券の利子はクーポン、債券の利率はクーポンレートとも呼ばれます。
債券の利回りは、債券の購入金額に対する年間の収益
次に債券の利回りとは、債券の購入金額に対する年間の収益を表します。債券に投資すると利子が得られます。また、投資家間で売買される債券には価格変動があります。1年間に得られる利子に加えて、価格変動による年間損益を加えて%表記したものが利回りです。
次に利率と利回りについて、詳しく計算式も用いて解説します。
債券の利率の仕組み
債券の利率(クーポンレート)の仕組みと計算方法
債券は借用証書のイメージになる、と債券の説明の冒頭で解説しました。一度発行された債券は、基本的に額面金額と利子(クーポン)は変わりません。そのため、利率も変動することなく一定です。ただし借用証書と異なり、債券は投資家間で売買されることもあるため、額面金額と取得金額が異なるケースも多くなります。しかし、利率は債券をいくらで購入したかに関係ありません。利率は単純に債券の額面と利子から算出されます。
利率の計算式
・利子 ÷ 額面金額 × 100 = 利率(%)
同じ発行体が同じ年限の債券を発行しても、タイミングが少し違うだけで異なる利率の債券が発行されるケースは珍しくありません。この場合、発行体の信用力(ex.格付など)に変化が生じていないなら、債券の価値としては同じ価値を持つと考えるのが普通です。簡単にいえば、債券発行のタイミングが悪かった・良かった、というタイミングだけの問題となります。
金融商品の発行価格が投資家と発行体の需給の関係で決まるのと同様に、債券の利子も発行体と投資家の需給で決定されます。ただし同じ発行体で信用力に変化がない場合(年限も同じ)、単にタイミングだけで変化した利子については補正圧力がかかります。しかし発行時の利率は変化しないため、補正圧力は債券価格にかかることになります。ただし、利率では債券の価格の変化の把握ができない、という欠点があります。
債券の利率はどうやって決まる?主な2つの利率変動要因
債券の利率は、主に下記の2つの要因により決定されます。
- 発行体の信用力
- インフレ率
発行体の信用力(信用格付け)がに利率与える影響
債券の利率は、発行体の信用力に大きく影響されます。発行体が財務的に強固であると投資家が判断すれば、返済に対するリスクは低いとされ、低い利率で債券の発行ができます。逆に、発行体の財務状態が悪化していれば、投資家から返済に対するリスクがある判断とされ、債券発行に対し高い利率が求められます。
発行体の信用力は、格付け機関により第三者評価がされています。債券購入時には格付けと、その根拠となるレポートは参考になる情報源です。
インフレ率があがると、新規債券の利率も上昇
インフレ率の上昇は、債券の利率を引き上げる要因になります。ほとんどの債券は固定利率であり、インフレが発生すると実質的な利率が低下せざるを得ません。よって同じ発行体が信用力に変化がない中で発行する債券でも、インフレ率が上昇していると、前回に比べ高い利率での発行を余儀なくされます。
債券の利回りの仕組み
債券の利回りは利率と売買金額で決まる
債券の利回りとは債券の購入金額に対する年間の収益、と最初に簡単に説明しました。債券の利回りで特徴的なのは“年間の収益”という部分です。
株式の投資収益は基本的に株価の変動から生じますが、債券は利子に加えて債券価格の変動から生じます(ただし利子は、基本的に発行時に決められており変動しません)。
本来同価値の債券が発行タイミングで利率が異なる状態は、債券価格の変動でその差が補正されます。ここで、債券の金利が上がれば債券の価格は下落する・債券の金利が下がれば債券の価格は上昇する、というメカニズムが発動します。
債券から得られる収益は、利子と売買益
債券から得られる投資収益は利子と売買益の2つがあります。投資家間で売買される債券は、額面で売買される訳ではなく、債券価格は投資家間の売買時に変動します。また満期時に額面金額が返済される債券は、満期が来ると売買損益が自動的に確定します。
債券の利回りとは上記の、「確定している利子」と「満期や売却で確定する売買損益」を、1年当たりの投資収益として%(パーセント)で表したものです。
利回りは、下記の計算式で算出可能です。
利回り(%) = (利子合計 + 償還差益)/年/購入価格 × 100
また債券の保有期間に応じて、「応募者利回り」・「最終利回り」・「所有期間利回り」の3者が下記の計算式で算出されます。
・債券の新規発行時に購入し償還まで保有(応募者利回り)
応募者利回り(%)=((表面利率 + (額面100円-発行価格/償還期限)/発行価格)×100
・債券を途中で購入し償還まで保有(最終利回り)
最終利回り(%) =((表面利率 + (額面100円-購入価格/残存期間)/購入価格)×100
・債券を途中で購入し途中で売却(所有期間利回り)
所有期間利回り(%) =((表面利率 + (売却価格-購入価格/所有期間)/購入価格)×100
なお、一般的に利回りという場合は“最終利回り”を指します。
なぜ利回りを計算することが重要か?
債券から得られる投資収益は、利子に加えて売買差益(償還差益)の2つがあると説明しました。債券も金融商品であり、売買時は他の債券との比較(相対的に高いか安いかなど)が必要です。しかし、単なる利子や債券価格の比較のみでは役立ちません。利率と売買損益の両者を踏まえた比較が必要です。
ここで「利回り」が役立ちます。年間単位の「利率」と売買損益などを残存年数で割った数値を合算することで、債券の年間当たり収益率が分かります。債券は年間当たりの収益率を用いて、相対的な比較が行われます。
利回りは債券投資において、各債券の比較を行う重要なモノサシです。債券投資を行う際は、利子のみを対象とする利率ではなく、売買損益も加味した総合的な指標となる利回りが重要です。
なお、本記事では便宜上手数料を除いて説明や計算を行っています。しかし実際の債券取引時には、取引を仲介する金融機関に対する支払い手数料も踏まえた計算が必要です。
また、債券は株式と異なり取引市場での取引ではなく、証券会社との相対取引などが中心です。株式投資の場合は、ネット証券を利用すれば個人でも手数料無料で取引できる時代です。しかし債券は株式に比べると、特に個人投資家は取引手数料が高いといえます。
債券の金利と債券価格の関係
「金利が上がれば債券の価格は下落する・金利が下がれば債券の価格は上昇する」、というのが債券の基本的な原理です。以降でそのメカニズムを解説します。こちらはメカニズムも後述しますが、数学の公式のように先に言葉として覚えてしまうと便利です。
本メカニズムは、実際の債券投資をイメージすると分かりやすいです。投資家が保有する債券から得られる利子は、発行時に決定されるため、基本的に最初から決まっています。よって、利子=金利、は変えることができません。この前提をまず理解しましょう。
債券の金利が上がれば債券の価格は下落する・債券の金利が下がれば債券の価格は上昇する、のメカニズム
金利が上がれば債券の価格は下落する・債券の金利が下がれば債券の価格は上昇する、という債券の基本原理について具体例で見てみましょう。
国債などの発行は単発で行われるのではなく、継続的に行われます。よって当初1%の金利で発行された債券が、インフレの進展などにより、異なる金利で発行されることは日常茶飯事です。
債券は原則的に発行時の利率は変わりません。最初に利率2%で債券Aが発行されたとします。その後、同じ発行体でも、インフレが進んだことを受け債券Bは利率3%で発行されました。すると、投資家は利率の高い債券Bを欲しがります。
一度発行した債券の利率は変えられないため、債券Aを売るには債券Aの価格を下げざるをえません。これによって、購入時と償還時の差益が大きくなり、低い利率による魅力の低下を補うことが出来ます。
これが、金利が上がれば債券価格が下落する、についての具体的メカニズムとなります。
債券投資を行う際の、利率と利回りの考え方の具体例
これまで利率と利回りについて説明を行い、債券の比較を行う際は、利率ではなく利回りが用いられると解説しました。
それでは実際に、利率や利回りはどのように利用されているのでしょうか?以下では「新規発行の債券を購入し償還まで保有した場合」と「既発債を購入して途中売却した場合」について、具体例を用いて解説します。
新規発行の債券を購入し償還まで保有した場合
新規発行の債券(新発債)を下記の条件で購入し、償還まで保有した場合を考えてみましょう。
事例1:A国10年国債
対象銘柄 | A国10年債国債 |
---|---|
発行日 | 2020/1//1 |
満期(償還日) | 2030/1/1 |
クーポン(年利) | 2.00% |
利払い回数 | 年2回 |
最低購入金額 | 100万円 |
利率と利回りはいずれも2.0%です。
事例2:B国5年国債
利率は同条件ながら償還までの期限が異なる債券でも計算してみましょう。
対象銘柄 | B国5年債国債 |
---|---|
発行日 | 2020/1//1 |
満期(償還日) | 2025/1/1 |
クーポン(年利) | 2.00% |
利払い回数 | 年2回 |
最低購入金額 | 100万円 |
こちらも利率と利回りはいずれも2.0%です。
新規発行された債券を額面価格で購入し、償還されるのを待つ場合は、キャピタルゲインが発生しないため償還期間に関係なく利率=利回りとなります。
既発債を購入して途中売却した場合
既に発行されている債券(既発債)を下記の条件で購入し、途中売却した場合を考えてみましょう。まずはケースAとして下記を取り上げます。
ケースA:利率2.0%の既発債を2年保有して売却した場合の利回り
対象銘柄 | A国10年債国債 |
---|---|
発行日 | 2020/1//1 |
満期(償還日) | 2030/1/1 |
クーポン(年利) | 2.00% |
利払い回数 | 年2回 |
最低購入金額 | 100万円 |
ケースB:利率2.0%の既発債を3年保有して売却した場合の利回り
次に、本債券を3年保有して98円で売った場合(ケースB)は下記となります。
対象銘柄 | A国10年債国債 |
---|---|
発行日 | 2020/1//1 |
満期(償還日) | 2030/1/1 |
クーポン(年利) | 2.00% |
利払い回数 | 年2回 |
最低購入金額 | 100万円 |
利率は2.0%ですが、利回りは3.546%です。ケースAの2年保有後の96円売却の利回り3.191%に比べ上回ります。よって3年保有後に98円で売却が得ということが分かります。
このように利回りを活用することで、利率だけでは比較が難しい債券の比較ができます。そして途中売却する際の比較も簡単に行えます。
ケースC:利率2.0%の既発債を6年保有して売却した場合の利回り
それでは、仮に6年保有後に100円で売却する機会があった場合(ケースC)はどうなるでしょうか?
対象銘柄 | A国10年債国債 |
---|---|
発行日 | 2020/1//1 |
満期(償還日) | 2030/1/1 |
クーポン(年利) | 2.00% |
利払い回数 | 年2回 |
最低購入金額 | 100万円 |
この場合、利回りは3.191%となり、ケースAの2年保有後の96円売却と利回りは同一です。よって、2年保有96円売却により急いで売却して利回り3.191%以下の債券に乗り換えるよりも、6年保有100円売却のほうが合理的、という判断ができます。
このように利回りは債券の投資判断において重要なモノサシの役割を果たします。
ケースD:利率2.5%の既発債を6年保有して売却した場合
ケースA~Cは利率2.0%でしたが、利率が異なる債券(ケースD)でも比較してみましょう。
対象銘柄 | B国10年債国債 |
---|---|
発行日 | 2020/1//1 |
満期(償還日) | 2030/1/1 |
クーポン(年利) | 2.50% |
利払い回数 | 年2回 |
最低購入金額 | 100万円 |
利率は2.5%ですが、利回りは2.982%です。
事例からわかる、利回り計算の重要性
利回りについてケースA(3.191%)、B(3.546%)、C(3.191%)、D(2.982%)となりました。ケースAからDまで、利回りはいずれも3%前後の水準にあり、パッと見では難しい投資判断が迫られます。しかし利回りを利用することで、客観的かつ合理的な比較が可能になります。
このように利回りを利用することで、利回り(インカムゲイン)と売買損益(キャピタルゲイン)が異なる様々な債券を、一律のモノサシにより簡単に比較ができるようになります。
海外債券との比較も利回りで可能だが為替に注意
利回りを利用することで、国内債券同士の比較のみならず、海外債券も加えた比較が可能です。ただし海外債券と国内債券を比較する際は、為替の影響を加味する必要があります。
非常に利回りの高い外国債券の場合、内容を分析すると利率と売買損益は他の国内債より低いものの為替の影響で利回りが大きくプラスとなっていることもあります。
海外債券の利回りを見る際は、為替の影響に注意しましょう。
まとめ
債券は株式と異なり、値動きによる損益だけはなく利子による投資収益も発生します。ただし、新発債を購入して償還を待つ場合は、投資金額がそのまま返済されるため、利率の把握だけで投資収益の把握が可能です。
しかし、債券も投資家間で売買がなされる金融商品です。よって償還を待たずに途中売買を行う際は、利率に加えて売買損益も踏まえた利回りへの理解が必要不可欠です。利回りの理解なく売買を行うと、当初の債券を償還まで持っていたほうが得だった、という自体が生じかねません。
一見すると利回りは複雑な計算式と感じますが、エクセルなどで計算式を組み立てて活用すればすぐに算出可能です。債券投資を行う際は、利率と利回りについて、正しい知識を持った上で行いましょう。
石井僚一
金融・投資ライター
大手証券グループ投資会社への勤務を経て、個人投資家・ライターに。株式関連、為替関連、資産運用関連を中心に執筆中。Yahoo!トップページに掲載実績あり。第一種証券外務員資格保有。
大手証券グループ投資会社への勤務を経て、個人投資家・ライターに。株式関連、為替関連、資産運用関連を中心に執筆中。Yahoo!トップページに掲載実績あり。第一種証券外務員資格保有。
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国債
発行体が各国中央政府の債券を国債といいます。発行目的や利払い方式などで種類が分別されます。中央政府に資金需要が発生した際に、国債を発行して資金の調達を行うことがあります。 投資家は国債を購入することで、発行体である中央政府へ資金を提供し、その見返りとして半年に1回などのペースで、中央政府から利子を受け取ります。償還期限までに中央政府の財政が悪化するなど、債務が履行されない状況に陥らなければ、満期には額面どおりの金額が投資家へ償還される仕組みです。 国債には、固定利付国債、変動利付国債、物価連動国債などがあります。
利回り
投資金額に対する収益の割合のこと。この収益には「利息」だけでなく、投資商品を売却した場合に得られる「売却損益」も含む。通常は1年間の「年利回り」のことを利回りと呼ぶことが多い。利回りには単利と複利が存在する。
劣後債
発行企業の倒産時には、一般の債権と比較して弁済順位が劣る債券。 普通社債の元利金などが全額支払われた後でなければ元利金が支払われず、社債でありながら相対的にリスクは高い。 その分、利回りは相対的に高めに設定されており、また、金融機関が発行する劣後債については、制限付きで自己資本への算入が認められているため、金融機関が自己資本比率を高める手段として発行するケースが目立つ。
リターン
運用の結果得られる収益率(または損失率)のこと