
しょうゆだけじゃない!キッコーマンの成長戦略と“投資視点”で見る魅力
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公開:
2025.06.02
更新:
2025.06.02
1917年に設立された、しょうゆメーカーとして知られるキッコーマンは、実はグローバル展開や技術革新に積極的な成長企業です。密封ボトルやグルテンフリー対応など商品開発を進め、海外売上は全体の8割弱を占めます。自己資本比率75%と財務も健全で、ESGや株主還元にも注力。この記事では、キッコーマンの成長戦略や業績、自社株買いの動向などを投資視点でわかりやすく解説し、初心者でも判断しやすいポイントを整理します。
サクッとわかる!簡単要約
本記事を読むと、密封ボトルや次世代しょうゆ、ESG経営が生むキッコーマンの世界シェア拡大力と、海外売上比率8割弱・自己資本比率75%の盤石な財務基盤を俯瞰できます。同時に、原材料高や為替変動が利益率を揺らすリスク、PER20.7倍・PBR2.5倍という評価水準を同業他社と照合し、長期保有時の損益分岐点を具体的に把握できます。さらに工場見学などCSRがブランド価値を底上げする仕組みまで理解でき、定性と定量の両面から投資判断に必要な視座を得られます。
工場見学で知る、キッコーマンの100年超の歴史と挑戦
千葉県野田市にある「もの知りしょうゆ館」は、キッコーマンの工場見学施設の一つです。2023年5月のリニューアルを経て、デジタルコンテンツも導入された体験型の施設に進化しました。(見学は要予約)
名称 | もの知りしょうゆ館 |
---|---|
住所 | 千葉県野田市野田110 キッコーマン食品野田工場内 |
電話 | 04-7123-5136 |
開催日 | 見学カレンダーに準ずる(基本は平日のみ) |
所要時間 | 約60分 |
予約 | 要(前日までに電話にて) |
参加料 | 無料 |
駐車場 | あり |
アクセス | 東武アーバンパークライン「野田市駅」から徒歩3分 / 常磐自動車道「流山IC」より20分 |
キッコーマンもの知りしょうゆ館 | キッコーマングループ 企業情報サイト
施設内では、しょうゆづくりの工程が実際にガラス越しに見学可能で、伝統的な製法と最新技術の融合を体感できます。また、もろみの香りや色の変化を五感で体験できる展示など、子どもから大人まで楽しめる工夫が随所に。バリアフリー対応で誰でも無料参加できる点も、同社の社会的責任(CSR)の表れと言えるでしょう。
「今回のリニューアル改修では、コンテンツ内容を全面的に見直しました。映像の作り直しやプロジェクションマッピングの設置、海外のお客様を受け入れるための多言語対応の音声ガイダンスの整備などを行いました」(キッコーマンご担当者さま様:以下同)
海外向けの予約サイトも完備しており、国内外から訪れる多様な来館者に対応するための工夫が随所に施されています。
実際に来館した人々の反応も大切にしており、館内には社会科見学で来館した学生からの手紙が掲示してあります。
「作文や絵など、心を込めて書いてくれたメッセージを見ると、工場見学スタッフ冥利に尽きます。いただいた作品は、可能な限り館内に掲示しております」(キッコーマンご担当者さま)
工場に併設された「まめカフェ」では、しょうゆソフトクリームを楽しむことができ、売店では見学の余韻を残しながら買い物も楽しめます。
“おいしい記憶をつくりたい。”をコーポレートスローガンに掲げているキッコーマン。
「地球上のより多くの人が、しあわせな記憶を積み重ね、ゆたかな人生をおくれるようお手伝いをしていきたい、という想いが込められています。これからも、工場見学をはじめとしたさまざまな活動を通じて、より多くのお客様の“おいしい記憶”づくりのお手伝いができればと思います。」
実はすごい!密封容器で変えた市場の常識
キッコーマンの現在の代表商品は、2010年に登場した「いつでも新鮮」シリーズ。従来のしょうゆ容器では開栓後の風味の劣化が課題でしたが、同社は10年以上かけて密封容器を開発し、開栓後の常温での鮮度保持を実現しました。
この技術革新により、しょうゆ市場の新たなスタンダードが生まれたのです。
投資家視点のヒント
- 長期視点での製品開発力や、ユーザー目線に立った改善ができる企業は、将来的な成長力にも期待が持てます。
健康・宗教・環境に対応した“次世代のしょうゆ”
健康志向や食の多様化に対応する形で、キッコーマンはグルテンフリーや減塩商品、さらにはハラール認証しょうゆなどを開発し、販売しています。
投資家視点のヒント
- 新たな市場への挑戦や、国際的なニーズへの対応力は、グローバル展開の強みにつながります。
グローバルビジョン2030が示す未来のキッコーマン
キッコーマンは、2030年に向けた長期ビジョン「グローバルビジョン2030」を掲げ、「新しい価値創造への挑戦」をテーマにグローバルでの成長を加速させています。
特にアメリカ、ヨーロッパ、アジアに注力しながら、カーボンニュートラルやサステナブルな製品開発も推進。従業員の働きやすさや多様性の尊重といった“人への投資”も強化しています。
投資家視点のヒント
- ESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みを進める企業は、長期的に安定した成長が期待されやすい傾向があります。
キッコーマンは長期投資向き?最新業績と株価のポイントをやさしく解説(2025年5月時点)
しょうゆで有名なキッコーマンは、海外売上の拡大と安定した利益成長を背景に、初心者にも人気のある投資先の一つです。
2025年5月23日時点の株価は1,347円で、予想PERは約20.7倍、PBRは約2.5倍と、企業価値に対してバランスのとれた水準です。自己資本比率は約75%と高く、財務面でも安心感があります。
直近の業績は以下のとおり、着実に成長しています。さらに2025年には最大200億円の自社株買いも発表され、株主還元の姿勢が強まっています。ESG対応やプラントベース食品の開発など、成長余地のある分野でも積極的に取り組んでおり、長期目線での魅力が高まっています。
決算期 | 売上(億円) | 営業利益(億円) | 当期純利益(億円) | EPS(円) | 年間配当金(円) |
---|---|---|---|---|---|
2022年3月期 | 5,164 | 507 | 389 | 40.6 | 61(※分割前) |
2023年3月期 | 6,189 | 554 | 437 | 45.7 | 78(※分割前) |
2024年3月期 | 6,608 | 667 | 564 | 59.2 | 104(※分割前) |
2025年3月期 | 7,090 | 737 | 617 | 65.0 | 25(※分割後) |
※2024年4月に1株→5株に分割されたため、配当金もそれに応じて表示されています。
この記事のまとめ
キッコーマン社の魅力は、密封容器などの技術革新力、海外に振れた売上構成、自己資本比率75%の財務健全性、さらにはESGや株主還元を重視する経営姿勢に集約されます。一方、為替や原材料高騰による利益変動、しょうゆ依存度の高さ、PER20倍台の株価妥当性は常に検証が必要です。投資を検討する際は、成長ビジョンと資本政策、ライフサイクル別の資産配分を照らし合わせ、他の食品セクター銘柄や指数投資と比較した上で、自身の損失許容幅と時間軸を確認しましょう。最終的な判断は自らのゴールに沿って行うことが肝要です。必要に応じて専門家に相談するのも選択肢です。

ライター
1988年、岐阜県生まれ。 信州大学農学部応用生命科学科卒業。 食品メーカーにて生産管理やOEM先管理に携わり、現在はフリーライターとして活動。経済系や環境系、育児系などを幅広い分野で執筆。学生時代から工場見学が趣味で、訪問回数は500回を超える。工場見学マニアとしても、記事監修や執筆、メディア出演なども行う。台湾高雄に5年間在住経験あり。
1988年、岐阜県生まれ。 信州大学農学部応用生命科学科卒業。 食品メーカーにて生産管理やOEM先管理に携わり、現在はフリーライターとして活動。経済系や環境系、育児系などを幅広い分野で執筆。学生時代から工場見学が趣味で、訪問回数は500回を超える。工場見学マニアとしても、記事監修や執筆、メディア出演なども行う。台湾高雄に5年間在住経験あり。
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PER(株価収益率)
PER(株価収益率)は、企業の株価がその企業の利益と比較して割安か割高かを判断するための指標です。計算方法は「株価 ÷ 1株当たり利益(EPS)」で求められ、数値が低いほど利益に対して株価が割安であることを示します。ただし、業界ごとの平均PERが異なるため、他の企業や市場全体と比較して判断することが重要です。PERが高い場合は将来の成長期待が大きいと解釈されることもありますが、過大評価されている可能性もあるため注意が必要です。
PBR(株価純資産倍率)
PBR(株価純資産倍率)とは、企業の株価が1株当たり純資産の何倍で取引されているかを示す指標です。計算式は「株価 ÷ 1株当たり純資産(BPS)」で求められます。PBRが1倍未満の場合、理論上は会社の解散価値よりも株価が低いとされ、割安と判断されることがあります。
EPS(1株あたりの利益)
EPS(Earnings Per Share)とは、企業を評価する際に使われる指標のひとつで、企業が稼いだ純利益を発行済み株式数で割った値です。1株当たりの利益がどれだけあるのかを示します。 EPS = 当期純利益÷発行済株式数 EPSは株式投資の重要な指標であり、企業の収益性を測る基準として活用されます。EPSが高いほど、投資家にとって魅力的な企業とされることが多いです。
自己資本比率
自己資本比率とは、会社が持っている全体の資産のうち、どれだけが借金ではなく自分自身の資本(=自己資本)でまかなわれているかを示す割合のことです。 この比率が高いほど、会社は外部からの借入れに頼らずに経営していることになり、財務的に安定していると判断されやすくなります。たとえば、自己資本比率が50%であれば、会社の資産の半分が自己資本、残り半分が借入金などの他人資本ということになります。 投資家にとっては、自己資本比率が高い企業ほど経営の安定性が高く、倒産のリスクが低いと考えられるため、企業の健全性を見極めるうえで重要な指標のひとつです。特に長期投資を考える際には、注目しておきたい数字です。
自社株買い
自社株買いとは、企業が市場に出回っている自社の株式を自ら買い戻すことを指します。この行為は、企業が余剰資金を使って株主への利益還元を図る方法のひとつであり、株価の下支えや上昇を促す目的でも行われます。自社株を買い戻すことで市場に出回る株式の数が減少し、1株あたりの利益(EPS)が相対的に高まるため、投資家にとっては企業の価値向上のサインと受け取られることもあります。 また、買い戻した株式は「自己株式」として保有するか、将来的に消却(完全に廃止)されることが多く、それによって株式の希少性が高まるという効果もあります。自社株買いは、配当と並ぶ株主還元策として注目される一方で、その実施の背景やタイミングには注意が必要です。
配当
企業が株主に利益を分配することをいい、株主が保有する株数に比例して分配される。 通常は決算時に分配されるが、特別大きな利益がある年や会社の記念の年には、特別配当、記念配当といったように通常の配当に上乗せ、または区別して分配されることがある。 配当は必ず行われるものではなく、赤字のときや企業の方針によって行われないこともある。
配当性向
配当性向とは、会社がその期に稼いだ税引後の利益、つまり当期純利益のうち、どれくらいを株主への配当金として支払ったかを示す割合です。投資家にとっては、企業が利益をどの程度還元してくれるのかを知る目安になります。 計算方法は、1株当たりの配当額を1株当たりの当期純利益で割って求められます。たとえば、配当性向が50%であれば、会社が利益の半分を配当として出しているということになります。配当を重視する投資家にとっては重要な指標であり、企業の利益配分方針を理解するために役立ちます。
株式分割
株式分割とは、1株をいくつかに分割し発行済みの株式数を増やすことである。増資をする訳ではなく無償で株式数を増やすため、「株式無償割り当て」とも呼ばれる。株式を分割するため、1株あたりの価値は小さくなるが、保有株の総価値自体は変わらない。 企業側のメリットとしては、株式の流動性が上がるという点がある。投資家側からすると、株式の最低購入金額が下がる、配当金を受け取る株数が増えるといったメリットがある。 一方、デメリットとしては株価変動の幅が大きくなることから、企業の信頼性の低下を招く恐れがある点が挙げられる。
ESG
ESGは環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の略で、企業がこれらの観点で持続可能性に配慮しているかを評価する基準です。投資判断に活用され、社会的課題への関心が高まる中、注目されています。
CSR
CSRとは「Corporate Social Responsibility(コーポレート・ソーシャル・レスポンシビリティ)」の略で、日本語では「企業の社会的責任」と訳されます。これは、企業が利益を上げるだけでなく、環境への配慮や地域社会への貢献、従業員の働きやすさの確保など、社会全体に対して責任ある行動をとるべきだという考え方です。たとえば、環境に優しい製品を開発したり、労働環境を改善したりといった取り組みがCSRに当たります。 近年では、こうした姿勢が企業の信頼性や持続的な成長に直結するとされ、投資の世界でも重視されるようになっています。CSRに積極的な企業は、ESG投資などの評価でも高く評価されることが多く、長期的に見て安定した投資先として注目されています。
カーボンニュートラル
カーボンニュートラルとは、地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO₂)などの温室効果ガスの排出量と、森林などによる吸収量を差し引いて「実質ゼロ」にすることを意味します。企業や個人が活動の中で出すCO₂を、できるだけ減らしたうえで、どうしても避けられない分については植林や再生可能エネルギーの利用などで相殺し、地球環境への負荷をゼロに近づける取り組みです。資産運用の分野では、こうしたカーボンニュートラルに向けた目標を持つ企業やプロジェクトが注目され、環境への責任を果たす姿勢が投資判断の材料となります。長期的な成長が期待できる「サステナブルな企業」として評価されるポイントにもなっています。
為替リスク
為替リスクとは、異なる通貨間での為替レートの変動により、外貨建て資産の価値が変動し、損失が生じる可能性のあるリスクを指します。 たとえば、日本円で生活している投資家が米ドル建ての株式や債券に投資した場合、最終的なリターンは円とドルの為替レートに大きく左右されます。仮に投資先の価格が変わらなくても、円高が進むと、日本円に換算した際の資産価値が目減りしてしまうことがあります。反対に、円安が進めば、為替差益によって収益が増える場合もあります。 為替リスクは、外国株式、外貨建て債券、海外不動産、グローバルファンドなど、外貨に関わるすべての資産に存在する基本的なリスクです。 対策としては、為替ヘッジ付きの商品を選ぶ、複数の通貨や地域に分散して投資する、長期的な視点で資産を保有するなどの方法があります。海外資産に投資する際は、リターンだけでなく、為替リスクの存在も十分に理解しておくことが大切です。
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損益分岐点とは、売上と費用がちょうど同じになり、利益も損失も出ない境目の売上金額のことを指します。つまり、これ以上売上が増えれば利益が出て、これより少なければ赤字になるという基準点です。企業の経営や事業の採算性を判断するうえで非常に重要な指標です。投資の場面では、企業の収益構造を理解するために損益分岐点を確認することで、どれくらいの売上規模で利益が出るのかを把握できます。また、新しく事業を始める際にも、どのくらい売上を確保すれば黒字になるかを考える材料として使われます。投資判断や事業計画を立てるうえで欠かせない基本的な概念です。
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借換コストとは、すでに借りているお金を、より有利な条件(たとえば金利が低いなど)で借り直す「借換(リファイナンス)」を行う際に発生する費用のことを指します。この費用には、元の借入の繰上返済手数料や新たな契約にかかる手数料、保証料、事務手数料などが含まれます。 個人であれば住宅ローン、企業であれば社債や銀行借入などが対象となります。資産運用や企業分析の観点では、借換コストが大きいと、たとえ金利が下がっても借換のメリットが薄れるため、資金調達の見直しに慎重な判断が必要になります。借換の効果を正確に見積もるために、借換コストの把握は非常に重要です。
指数投資
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サステナブルとは、「持続可能な」という意味で、将来の世代のことも考えて、今の社会や環境、経済が無理なく長く続けられるようにする考え方を指します。資産運用の分野では、企業が環境に配慮した取り組みをしていたり、社会的責任を果たしていたりするかを重視する投資方法と関係しています。たとえば、環境汚染を防いだり、働きやすい職場をつくったりしている企業は、将来的にも安定して成長すると期待されるため、サステナブルな投資先として注目されます。投資を通じて社会や環境にも良い影響を与えたいと考える人にとって、大切な視点となります。