
傷病手当金がもらえない6つのケースとは?受給の仕組みや申請書・支給日・退職後の扱いなど徹底解説
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公開:
2025.09.08
更新:
2025.09.08
病気やケガで長期間働けなくなったとき、収入が途絶える不安を和らげるのが「傷病手当金」です。会社員が加入する健康保険制度に基づき、給与の約3分の2が最長で通算1年6か月支給されます。2022年の法改正で制度は柔軟化しましたが、待期3日の扱いや退職後の条件、併給の制限など、細部を誤解すると大きな損につながります。本記事では、受給の可否判定から申請手続き、退職後の取り扱いまでを整理し、家計を守る判断軸を提示します。
サクッとわかる!簡単要約
この記事を読むと、傷病手当金の仕組みを数字と条件で正しく理解し、受給可否を自分で判断できるようになります。待期3日の考え方や、2022年改正で導入された通算1年6か月の支給期間、標準報酬月額を基にした「給与の約3分の2」の支給額計算、さらに退職後に継続給付を受けるための1年以上の加入や退職日の労務不能などの要件が整理されています。併給調整や非課税扱い・扶養判定の違いも理解でき、安心して申請手続きに進めます。
傷病手当金とは?休職中の生活を支える公的制度の基本
傷病手当金(しょうびょうてあてきん)とは、会社の健康保険に加入している方が、業務外の病気やケガが原因で働けなくなったときに、生活を支えるために支給されるお金のことです。「もしも」の休職に備えるための公的な制度で、給与が受け取れない期間、収入が途絶えてしまうのを防ぐ役割があります。
具体的には、長期の休職が必要になった際に、給与のおよそ3分の2にあたる金額を受け取ることができ、安心して療養に専念できるよう支援することを目的としています。
対象者は会社の健康保険に入っている本人(被扶養者は対象外)
傷病手当金は、会社の健康保険に加入している方なら誰でも利用できるわけではありません。この制度の対象となるのは、保険に加入しているご本人に限られます。扶養に入っているご家族は対象となりませんので、誰がもらえるのかをここで正確に確認しておきましょう。
この制度は、会社などを通じて健康保険に加入している被保険者ご本人のためのものです。そのため、被保険者に扶養されているご家族は、傷病手当金を受け取ることはできません。
国民健康保険(国保)は原則対象外なので注意
会社員などが加入する健康保険とは異なり、自営業者やフリーランスの方が加入する国民健康保険には、原則として傷病手当金の制度がありません。そのため、病気やケガで働けなくなった場合に利用できる公的な所得保障は限られます。この違いについて理解しておきましょう。
自営業者やフリーランスの方などが加入する国民健康保険には、基本的にこの傷病手当金の仕組みは含まれていません。
労災保険や失業手当との違いは?目的別に使い分ける公的制度
休業した場合の公的な保障には、傷病手当金の他にもいくつかの種類があり、混同しやすいため注意が必要です。特に、仕事が原因の場合に利用する労災保険との違いは重要です。それぞれの制度の目的を理解し、ご自身の状況に合った制度を正しく選択できるようにしましょう。
傷病手当金は、仕事とは関係ないプライベートな病気やケガによる収入減少を補うための制度です。これに対して、仕事中や通勤中に起きた病気やケガの場合は、労災保険(労働者災害補償保険)の給付対象となります。このように、休業の原因が業務によるものか、そうでないかによって利用する制度が明確に区別されています。
傷病手当金の4つの受給条件
傷病手当金を受け取るためには、定められた4つの条件をすべて満たす必要があります。一つでも満たせない場合は支給されません。ご自身が対象になるかどうか、休職を考える前にこの4つの条件を確認してみましょう。会社の担当部署や健康保険組合への事前相談もおすすめです。
条件1:業務外の病気やケガで療養している
傷病手当金の対象となるのは、仕事以外のプライベートな時間で発生した病気やケガです。仕事中や通勤中のものは労災保険の対象となるため、原因によって制度が使い分けられます。美容目的の施術なども対象外となるため注意しましょう。
業務外の理由による病気やケガの治療が対象になります。仕事や通勤が原因の病気やケガは労災保険の範囲となるため、傷病手当金は支給されません。また、健康保険が適用されない美容整形手術などが理由の休業も対象外です。つまり、私的な理由による病気やケガの療養であることが第一の条件です。
条件2:働くことができない状態である
自己判断で「働けない」と感じているだけでは条件を満たせません。治療を担当する医師が、専門的な立場から「現在の仕事に従事することができない」と判断し、その意見を申請書に記入してもらうことで、客観的に証明される必要があります。
医師の診断に基づき、これまで行っていた仕事ができない状態だと判断されることが必要です。この「働けない状態」かどうかは、ご自身の仕事内容や症状などを考慮して個別に判断されます。言い換えれば、病状のために現在の業務ができないと認められなければ、手当金は支給されません。
条件3:連続して3日間休み、4日目以降も休んでいる
傷病手当金の支給対象となるには、まず「待期期間」を完了させる必要があります。これは、休み始めてから最初の連続した3日間のことで、この期間は支給対象になりません。4日目以降に休んだ日について、手当金が支払われる仕組みです。
待期期間の数え方|土日・祝日・有給休暇を含めてOK
この待期期間の3日間には、土日や祝日といった会社の公休日、有給休暇を取得した日も含まれます。例えば金曜日に休み始めた場合、土日を含めると連続3日間の待期が完了し、月曜日が4日目となるため、その日から支給対象になります。一度この待期期間が成立すれば、同じ病気やケガで再び休む際には、改めて待期は必要ありません。
条件4:休んだ期間、給与が支払われていない
傷病手当金は、休職によって給与が受け取れず、収入が減少することへの補償です。そのため、会社から給与が支払われている日については、原則として傷病手当金は支給されません。有給休暇を取得した日などもこれに該当します。
給与や有給があっても差額が支給されるケースとは?
ただし、会社から支払われる給与の日額が、傷病手当金の日額よりも少ない場合は、その差額分が支給されます。例えば、有給休暇を使って給与が全額出ている日は対象外ですが、一部の手当などが支払われている場合は調整の対象となります。つまり、給与がまったくないか、あっても傷病手当金の額より少ない休業日が支給対象になると覚えておきましょう。
傷病手当金はいつまで?支給期間「通算1年6か月」の正しい考え方
傷病手当金は、いつまでもらえるわけではなく、支給される期間には上限が設けられています。同じ病気やケガが理由の場合、受け取れる合計期間は「通算1年6か月」です。以前より柔軟な仕組みになり、途中で復職を挟んでも期間を無駄なく使えるようになりました。
2022年の法改正で、より柔軟な受け取り方が可能に
2022年1月の法改正により、傷病手当金の期間の数え方が利用者にとって有利な仕組みに変わりました。以前は支給開始から1年6か月が経過すると終了していましたが、現在は実際に支給された日数の合計で管理されるようになっています。
以前は、支給が始まってから暦の上で1年6か月が経過すると、途中に復職して手当金を受け取っていない期間があっても、支給は終了していました。しかし現在は、実際に支給された日数を合計していく「通算」方式に改善されています。これにより、途中で職場復帰した期間はカウントされず、残りの期間を後で再び休職した際に利用できるようになりました。
途中で復職し、再度休職した場合の期間の数え方
一度回復して仕事に戻った後、同じ病気やケガが原因で再び休職することもあるかもしれません。このような場合でも、通算1年6か月の範囲内であれば、残りの期間について傷病手当金を受け取ることができます。具体例を見てみましょう。
例えば、ある病気で3か月間手当金を受け取った後に復職し、しばらくして同じ病気で再び休職したとします。この場合、休職していなかった期間はカウントされませんので、残りの1年3か月分を通算期間の上限として手当金を受け取ることが可能です。
ただし、実際に支給された日数の合計が1年6か月分(約540日)に達すると、同じ病気やケガではそれ以上傷病手当金は支給されません。もし療養がさらに長引く場合は、障害年金など、別の公的制度の利用を検討する段階になります。
申請の権利は2年で時効に!早めの手続きを
傷病手当金を受け取る権利には時効があるため注意が必要です。療養が長引いて申請を後回しにしていると、権利が消滅してしまう可能性があります。給付金を受け取りそびれないよう、申請期限についてもしっかりと把握しておきましょう。
傷病手当金の申請期限は、給付金を受け取る権利が発生した日(休業した日)の翌日から2年間です。この期間を過ぎてしまうと、時効によって権利がなくなってしまいますので、休んだ期間については早めに手続きを進めることが大切です。
傷病手当金はいくらもらえる?計算方法と金額シミュレーション
休職中に最も気になるのが「いくらもらえるのか」という点でしょう。傷病手当金の支給額は、休職に入る前の給与に基づいて計算され、おおよその目安として「給与の3分の2」と覚えておくと良いです。ここでは、具体的な計算方法と、月収別のシミュレーションを見ていきましょう。
傷病手当金がいくらもらえるか、税金がかかるかどうかは以下Q&Aでも説明しています。
支給額の計算式|給与のおよそ3分の2が目安
傷病手当金の1日あたりの金額は、国が定めた計算式で算出されます。計算の基礎となるのは「標準報酬月額」という、社会保険料を決めるための給与の目安です。まずはこの計算式と、少し難しい用語の意味を理解することから始めましょう。
1日あたりの支給額は、以下の式で計算されます。
(支給開始日より前の直近12か月間の各月の標準報酬月額の平均額)を30で割り、その3分の2を掛けた金額です。
「標準報酬月額」とは、毎月の給与などを一定の幅で区切った等級のことで、ご自身の給与明細などで確認できます。簡単に言えば、休職前1年間の平均月収の約3分の2が、1日あたりの支給額になると考えると分かりやすいでしょう。
具体例:月給30万円と28万円のケースでシミュレーション
計算式だけでは、実際の金額をイメージしにくいかもしれません。ここでは、具体的な月収例を挙げて、1日あたりの支給額や、もし2か月間休んだ場合の総支給額がどのくらいになるのかをシミュレーションしてみます。ご自身の状況と見比べてみましょう。
例えば、休職前の標準報酬月額が平均30万円だった場合、1日あたりの支給額は約6,667円です。もし1か月(30日間)休んだ場合、総額は約20万円となり、月収の約3分の2が補償される計算になります。
また、標準報酬月額が28万円の方が2か月(60日間)休んだ場合は、最初の3日間(待期期間)を除いた57日分が支給対象となり、総額は約35万5千円ほどになります。通常の給与に比べると減額となるため、休職中の家計管理は大切です。
入社1年未満の計算はどうなる?特例ルールを解説
入社して1年が経たないうちに病気やケガで休職することになった場合でも、傷病手当金は支給されます。ただし、12か月分の給与実績がないため、計算方法には特別なルールが適用されます。損をしないよう、この特例について知っておきましょう。
健康保険の加入期間が12か月に満たない場合は、特別な計算方法が用いられます。具体的には、「ご自身の入社から休職前月までの平均標準報酬月額」と、「加入している健康保険の全加入者の平均標準報酬月額(令和7年3月までは30万円)」を比べ、どちらか低い方の金額を基に計算されます。これにより、入社直後の方でも公平な金額が支給されるよう調整されています。
給与や他の公的給付があると支給額は調整される
傷病手当金の支給額は、他の収入や公的給付とのバランスを取るために調整されることがあります。例えば、会社から一部給与が支払われたり、障害年金などを受け取っていたりする場合です。満額もらえないケースもあるため、注意が必要です。
休業中に会社から給与の一部(傷病見舞金など)が支払われている場合、その金額は傷病手当金から差し引かれます。同様に、同じ病気やケガが原因で労災保険や障害年金、老齢年金などを受け取っている期間は、原則として傷病手当金は支給停止、または差額のみの支給となります。このように、他の制度で補償される分との重複を避けるための調整が行われます。
傷病手当金の申請方法|書類準備から振込までの5ステップ
傷病手当金は、条件を満たしていても自動的に支給されるものではなく、ご自身で申請手続きを行う必要があります。ここでは、申請書の準備から実際に給付金が振り込まれるまでの流れを、5つのステップに分けて具体的に解説していきます。
申請の中心となる書類は「健康保険傷病手当金支給申請書」です。この申請書は、主に「ご本人が記入する欄」「医師が記入する欄」「会社が記入する欄」の3部構成になっています。それぞれの担当者に正確に記入してもらうことが重要です。
STEP1:申請書を入手する(協会けんぽ・各健保組合)
まずは申請に必要となる「傷病手当金支給申請書」を手に入れましょう。会社の担当部署で受け取るか、ご自身が加入している健康保険のウェブサイトからダウンロードするのが一般的です。事前に記入例などを確認しておくとスムーズです。
申請書は、ご自身が加入している全国健康保険協会(協会けんぽ)や各健康保険組合のウェブサイトからダウンロードできます。また、勤務先の総務・人事といった担当部署に依頼して受け取ることも可能です。
STEP2:自分で必要事項を記入する(記入例あり)
申請書を入手したら、ご自身の情報を記入する欄を埋めていきます。氏名や住所、振込先口座といった基本情報に加え、休職期間やその理由などを正確に記入することが求められます。不備があると手続きが遅れるため、丁寧に進めましょう。
申請書の本人記入欄に、氏名、住所、被保険者番号、給付金の振込先口座などを記入します。休んだ期間や日数、原因となった病気やケガの名前も申告します。マイナンバーの記入が必要な場合は、本人確認書類の添付を忘れないように注意しましょう。
STEP3:医師に「意見書」を記入してもらう
次に、治療を担当している医師に申請書への記入を依頼します。働けない状態であることを医学的な観点から証明してもらう、非常に重要な部分です。通院の際に、忘れずに申請書を持参してお願いするようにしましょう。診断書料がかかる場合があります。
通院している医療機関に申請書を持参し、医師記入欄への記入を依頼します。ここには、病名や療養の状況、そして医師が「働けない状態」と判断した期間を記入してもらいます。これが、手当金を受給するための医学的な証明となります。
STEP4:会社に「事業主の証明」を依頼する
医師の記入が終わったら、次は勤務先に提出し、会社の証明をもらいます。ここでは、申請期間中に会社を休んでいた事実や、その間の給与の支払い状況について会社に証明してもらいます。円滑な手続きのため、事前に担当部署と連携しておきましょう。
申請書を勤務先の総務・人事などの担当部署へ渡し、事業主の証明欄を記入・押印してもらいます。会社側は、申請者が実際に休業していたことや、その期間の給与支払い状況を証明します。休職に入る際には、この手続きについて担当者とよく話しておくことが大切です。
STEP5:健康保険の窓口へ提出する
ご本人、医師、会社のすべての記入が完了すれば、いよいよ提出です。完成した申請書を、ご自身が加入する健康保険の担当窓口へ提出します。提出方法は郵送が一般的ですが、窓口へ直接持参することも可能です。不備がないか最終確認しましょう。
すべての欄が記入された申請書を、必要に応じて賃金台帳の写しなどの添付書類と共に、健康保険の管轄窓口へ提出します。提出先は、協会けんぽに加入している場合はお住まいの都道府県の支部、組合健保の場合はその組合の担当部署となります。
傷病手当金はいつもらえる?申請から振込までの日数と進捗確認の方法
申請を終えた後、いつお金が振り込まれるのかは気になるところです。ここでは、申請する際のタイミングに関する注意点と、提出から支給までにかかるおおよその期間、そして万が一遅れた場合の対応について解説します。
まず、申請は実際に休んだ期間が経過してから行うのが原則です。療養が長引く場合は、1か月ごとなど、給与の締め日に合わせて区切って申請すると手続きがスムーズに進みます。
提出後、健康保険側で審査が行われ、支給が決定されると指定口座に振り込まれます。一般的に、申請書の提出から振込までには2週間から1か月程度の時間がかかります。
傷病手当金がいつもらえるかは以下Q&Aでも説明しています。
退職後も傷病手当金はもらえる?継続給付の条件と注意点
在職中に傷病手当金を受け取っていた方が退職する場合、一定の条件を満たせば、退職後も引き続き手当金を受け取ることが可能です。これを「継続給付」といいます。通常、退職すると健康保険の資格が切れ、給付も止まってしまいますが、特例として生活を支える仕組みが用意されています。ここでは、そのための条件や注意点を詳しく見ていきましょう。
退職後にもらうための2つの必須条件とは?
退職後も傷病手当金を受け取り続けるには、退職日までに以下の2つの条件を両方とも満たしている必要があります。どちらか一方でも満たしていない場合は継続して受け取ることができないため、ご自身の状況を事前にしっかり確認することが非常に重要です。
条件1:健康保険に1年以上継続して加入していたこと
退職日までに、現在加入している会社の健康保険に、継続して1年以上加入していたことが必要です。途中で転職していても、同じ健康保険(例えば協会けんぽ)に継続して加入していれば通算できますが、国民健康保険や任意継続の期間は含まれません。
条件2:退職日に傷病手当金を受け取れる状態であること
退職日に、実際に傷病手当金を受け取っているか、または受け取れる条件(4つの受給条件)をすべて満たしている状態であることが必要です。ここで最も注意すべきなのは、退職日に出勤しないことです。たとえ挨拶のためだけであっても出勤すると「働ける状態」と見なされ、この条件を満たせなくなり、退職後の給付が受けられなくなる可能性があります。
この2つの条件を満たしていれば、退職後も在職中と同じように、残りの期間(通算1年6か月の範囲内)について傷病手当金が支給されます。
失業手当(雇用保険)との同時受給は不可!受給期間の延長を忘れずに
傷病手当金と、ハローワークで手続きする失業手当(雇用保険の基本手当)を同時に受け取ることはできません。傷病手当金が「働けない方」への給付であるのに対し、失業手当は「働ける状態にある方」への給付だからです。そのため、退職後も傷病手当金を受け取る場合は、ハローワークで失業手当の受給期間を延長する手続きを行いましょう。これにより、療養が終わってから失業手当を受け取ることが可能になります。
退職後に国保へ切り替えても継続給付は受け取れる
退職後も傷病手当金を受け取る場合、手当金を支払ってくれるのは、退職前に加入していた健康保険(協会けんぽや会社の健康保険組合)です。そのため、退職後に国民健康保険(国保)に切り替えたり、ご家族の扶養に入ったりした場合でも、前の会社の健康保険から継続して手当金を受け取ることができます。
また、退職後に同じ健康保険に個人で加入し続ける「任意継続」という制度がありますが、この制度では新たに傷病手当金は支給されません。ただし、退職前から継続給付の条件を満たしている場合に限り、任意継続中でも手当金を受け取ることが可能です。
退職後の傷病手当金受給については以下Q&Aでも説明しています。
要注意!傷病手当金がもらえない6つのケースとは?
傷病手当金は休職中の生活を支える心強い制度ですが、誰でも、どんな状況でも受け取れるわけではありません。申請しても支給されない代表的なケースが存在します。ここでは、特に誤解や勘違いが多い6つのケースをご紹介します。ご自身の状況が当てはまらないか、事前に確認しておくことで、スムーズな手続きにつながります。
傷病手当金がもらえないケースは以下Q&Aでも説明しています。
ケース1:休みが3日間続かなかった
傷病手当金が支給されるには、「待期期間」として病気やケガのために連続して3日間休む必要があります。この条件を満たしていない場合は、手当金を受け取ることができません。
例えば、月曜日に体調不良で休み、火曜日は無理して出勤、そして水曜日と木曜日に再び休んだとします。この場合、休みが連続していないため「待期期間」が成立せず、傷病手当金は1日も支給されません。
ケース2:仕事中や通勤中のケガだった
傷病手当金は、あくまで「業務外」の、つまりプライベートな理由による病気やケガを対象とした制度です。そのため、仕事中や通勤途中のケガ、あるいは仕事が原因で発症した病気(職業病)については、傷病手当金の対象外となります。
このような業務上の傷病については、健康保険ではなく「労災保険(労働者災害補償保険)」から給付が行われるため、申請先が異なります。
ケース3:国民健康保険に加入している
傷病手当金は、会社員や公務員などが加入する「健康保険」に設けられた制度です。したがって、自営業者やフリーランス、退職者などが加入する「国民健康保険」には、原則として傷病手当金の制度はありません。
ご自身が加入しているのが会社の健康保険か、市区町村の国民健康保険かによって、利用できる制度が大きく異なるため注意が必要です。
ケース4:有給休暇を使い給与が全額支払われた
傷病手当金は、休職によって収入が減少した際の生活を保障するための制度です。そのため、休んだ日に有給休暇などを利用して会社から給与が全額支払われている場合は、収入が減少していないため、傷病手当金は支給されません。
ただし、もし会社から支払われる給与の額が、本来もらえるはずの傷病手当金の額よりも少ない場合は、その差額分を受け取ることが可能です。
ケース5:退職後に申請したが、加入期間が1年未満だった
退職後も傷病手当金を受け取り続ける「継続給付」という制度がありますが、これを利用するには「退職日までに、継続して1年以上」同じ健康保険に加入している必要があります。
例えば、新卒で入社して10か月目に病気で休職し、そのまま退職した場合、加入期間が1年に満たないため、退職日以降の傷病手当金は支給されません。
ケース6:医師が「働けない状態」と認めなかった
傷病手当金を受け取るには、医師が専門的な見地から「働けない状態(労務不能)」であると証明することが不可欠です。ご自身がどんなに辛いと感じていても、医師が診察の結果「この症状であれば、業務は可能である」と判断し、申請書にその旨を記入した場合は、条件を満たせないため支給されません。
自己判断ではなく、客観的な医師の証明が必要となる点がポイントです。
他の制度と併用できる?出産手当金・年金などとの調整ルール
傷病手当金と、目的が似ている他の公的な給付を同時に受け取ることはできるのでしょうか。生活保障が重複しないよう、法律によって優先順位や金額の調整ルールが定められています。ここでは、出産手当金や年金、労災保険など、代表的な制度との関係について解説します。
出産手当金が優先、差額があれば傷病手当金が支給される
妊娠・出産も、病気やケガによる休業と同じく健康保険からのサポート対象です。産休期間中に体調を崩した場合など、傷病手当金と出産手当金の両方の条件を満たすことがありますが、その場合は出産手当金の支給が優先されます。
産前産後休業を取得する方は、健康保険から出産手当金を受け取ることができます。もし同じ期間に傷病手当金の条件も満たした場合、両方を同時には受け取れず、出産手当金が優先的に支払われます。ただし、計算上の出産手当金の額が傷病手当金の額より少ない場合に限り、その差額分を傷病手当金として受け取ることが可能です。
出産育児の手当・一時金・給付金等については以下記事で詳しく解説しています。
障害年金や老齢年金を受給中は支給停止または減額調整
傷病手当金の受給期間(1年6か月)を超えても回復せず、障害が残った場合は、生活を支える保障が年金制度に引き継がれることがあります。そのため、同じ病気やケガで障害年金や老齢年金を受け取る場合、傷病手当金との間で調整が行われます。
同じ病気やケガが原因で障害厚生年金や障害手当金を受け取っている期間は、原則として傷病手当金は支給されません。ただし、年金額を日割り計算した額が傷病手当金の日額より少ない場合は、その差額分が支給されます。
また、退職後に傷病手当金を受け取っている間に老齢年金の受給が始まった場合も同様に、年金額と比較して差額のみが支給されるか、支給停止となります。
業務上のケガや病気は労災保険が最優先
傷病手当金は、あくまで「業務外」の病気やケガに対する保障制度です。そのため、仕事中や通勤途中の災害が原因で休業する場合は、健康保険ではなく労災保険が適用されます。この二つの制度は明確に役割が分かれていると理解しましょう。
仕事中や通勤中の災害で休業した場合は、労災保険から休業中の給付が支払われます。これは傷病手当金の支給条件である「業務外の事由」に当てはまらないため、傷病手当金の対象にはなりません。また、別の病気で傷病手当金を受けようとする期間に、労災保険からも給付を受けている場合は、金額が調整されることがあります。
傷病手当金に税金はかかる?社会保険料・扶養の扱いを解説
休職中のお金の管理で気になるのが、税金や社会保険料の扱いです。傷病手当金は税金がかからないという大きな利点がありますが、一方で社会保険料の支払いは継続し、扶養の判定にも影響します。こうしたお金周りのルールを正しく理解し、休職中の家計を考えましょう。
所得税・住民税は非課税!年末調整や確定申告は不要
傷病手当金の一番の利点は、受け取った金額に所得税や住民税がかからないことです。そのため、年末調整や確定申告も原則不要です。ただし、住民税の支払いについては、仕組み上注意が必要な点があるため、事前に確認しておきましょう。
傷病手当金は、法律で非課税所得と定められているため、所得税や住民税の対象にはなりません。給付金がそのまま手取り額となり、休職中の生活の大きな支えとなります。
ただし、住民税は前年の所得を基に計算されるため、休職して収入が減った後も、前年分の給与に対する納税通知が届きます。この支払いは続くことを念頭に置いておきましょう。
注意!社会保険の扶養判定では「収入」とみなされる
税金がかからないことから傷病手当金を「収入ではない」と考えがちですが、社会保険の扶養に入るかどうかを判断する際には「収入」として扱われるため注意が必要です。税金と社会保険では「扶養」の考え方が異なることを理解しておきましょう。
健康保険の扶養に入るための年間収入の上限(通常130万円)を計算する際、非課税である傷病手当金も収入に含めて判断されます。そのため、退職後にご家族の扶養に入ろうとしても、傷病手当金の受給額によっては上限を超えてしまい、扶養に入れない場合があります。
一方で、配偶者控除など「税法上の扶養」を判定する際には、非課税のため収入としてカウントされません。
休職中も社会保険料の支払いは必要!負担を忘れずに
休職して会社から給与が支払われていない期間も、在籍している限り、健康保険料や厚生年金保険料の支払いは免除されません。給付金の中から支払う必要があるため、休職中の大きな支出の一つとして、あらかじめ計画に含めておくことが大切です。
育児休業中とは異なり、病気やケガによる休職では社会保険料の免除制度はありません。給与がなくても、休職前と同じ等級の保険料を毎月支払い続ける必要があります。支払い方法については、会社が一時的に立て替え、復職後に精算する場合など、企業によって対応が異なります。事前に会社の担当部署に確認しておくと安心です。
この記事のまとめ
傷病手当金は、業務外の療養で医師が労務不能と判断し、待期3日を経て給与が支払われていない場合に支給されます。支給額は標準報酬月額を基準とした給与の約3分の2、期間は通算1年6か月が上限です。申請は本人・医師・事業主の三者の協力が欠かせず、休業翌日から2年の時効に注意が必要です。退職後の継続給付を望むなら、1年以上の被保険者期間と退職日の労務不能が必須条件です。判断に迷う点は早めに勤務先や加入健保へ確認し、安心して生活設計を続けましょう。

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投資のコンシェルジュ編集部は、投資銀行やアセットマネジメント会社の出身者、税理士など「金融のプロフェッショナル」が執筆・監修しています。 販売会社とは利害関係がないため、主に個人の資産運用に必要な情報を、正確にわかりやすく、中立性をもってコンテンツを作成しています。
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傷病手当(しょうびょうてあて)
傷病手当(しょうびょう)とは、会社員などが病気やけがで働けなくなり、給与の支払いを受けられない場合に、健康保険から支給される所得補償の制度です。原則として、連続する3日間の待期期間のあと、4日目以降の働けなかった日から、最長で1年6か月間支給されます。 支給される金額は、休業前の標準報酬日額の約3分の2に相当する額とされており、就労不能による収入減少を一定程度カバーする役割を果たします。対象となるのは健康保険に加入している被保険者(主に会社員など)で、国民健康保険には原則としてこの制度はありません。なお、同時に傷病手当金を受け取りながら、会社から給与が支給された場合は、差額調整が行われることがあります。短期的な就労不能時の生活安定を図るための、大切な公的保障の一つです。
被保険者
被保険者とは、保険の保障対象となる人物。生命保険では被保険者の生存・死亡に関して保険金が支払われる。医療保険では被保険者の入院や手術に対して給付金が支払われる。損害保険では、被保険者は保険の対象物(自動車など)の所有者や使用者となる。被保険者の同意(被保険者同意)は、第三者を被保険者とする生命保険契約において不可欠な要素で、モラルリスク防止の観点から法律で義務付けられている。
被扶養者
被扶養者とは、健康保険に加入している人(被保険者)に生活の面で養われていて、自分では保険料を払う必要がない家族のことを指します。 一般的には、配偶者、子ども、親などが該当しますが、その人の年収が一定額以下であることなど、いくつかの条件を満たす必要があります。たとえば、専業主婦(または主夫)や収入の少ない学生の子どもなどが典型的な例です。 被扶養者は、自分で健康保険に加入していなくても、扶養している被保険者の健康保険を通じて医療を受けることができ、医療費の一部負担で済みます。 この仕組みによって、家族全体の保険料負担が軽減されるメリットがあります。ただし、就職などで収入が増えた場合には扶養から外れ、自分自身で保険に加入する必要があります。
国民健康保険
国民健康保険とは、自営業者やフリーランス、退職して会社の健康保険を脱退した人、年金生活者などが加入する公的医療保険制度です。日本ではすべての国民が何らかの健康保険に加入する「国民皆保険制度」が採用されており、会社員や公務員が加入する「被用者保険」に対して、それ以外の人が加入するのがこの国民健康保険です。 市区町村が運営主体となっており、加入・脱退の手続きや保険料の納付、医療費の給付などは、住民票のある自治体で行います。保険料は前年の所得や世帯の構成に応じて決まり、原則として医療機関では医療費の3割を自己負担すれば診療を受けられます。病気やけが、出産などの際に医療費の支援を受けるための基本的な仕組みであり、フリーランスや非正規労働者にとっては重要な生活保障となる制度です。
労災保険
労災保険とは、働いている人が仕事中や通勤中にけがをしたり、病気になったり、あるいは亡くなってしまった場合に、その人や遺族を金銭的に支援するための公的保険制度です。正式には「労働者災害補償保険」といい、すべての労働者が対象となります。保険料は事業主(雇用主)が全額負担し、労働者自身が支払うことはありません。 治療費の補償だけでなく、働けない期間の生活費を支える給付や、障害が残った場合の補償、遺族への年金など多くの給付内容が含まれています。資産運用の視点から見ると、万が一の事態に備えるセーフティネットとして、この制度を理解しておくことが安心につながります。
標準報酬月額
標準報酬月額(ひょうじゅんほうしゅうげつがく)とは、日本の社会保険制度において、健康保険や厚生年金保険の保険料や給付額を計算する基準となる月額報酬のことを指します。これは、従業員の給与や賃金を基にして決定されますが、月ごとの変動を考慮して一定の範囲に分類されます。 <計算対象の例> 基本給、能率給、奨励給、役付手当、職階手当、特別勤務手当、勤務地手当、物価手当、日直手当、宿直手当、家族手当、休職手当、通勤手当、住宅手当、別居手当、早出残業手当、継続支給する見舞金等、事業所から現金または現物で支給されるもの
時効
時効とは、一定の期間が経過することで、法律上の権利が消滅したり、逆に新たに取得されたりする制度のことです。 これは、長いあいだ権利を行使しなかった場合や、反対に長期間にわたって安定的に事実関係が続いた場合に、法的な区切りをつけるために設けられています。 代表的なものとして、以下の2つがあります。 - 消滅時効:たとえば、お金を貸していたとしても、一定期間請求しないままでいると、その請求する権利が消滅してしまうことがあります。 - 取得時効:他人の土地を長年にわたって平穏に、かつ継続して使い続けていた場合には、その土地の所有権を取得できることがあります。 このように時効制度は、社会の秩序や公平性を保つために重要なルールです。 権利や財産の状態をいつまでも不安定なままにせず、一定のタイミングで「けじめ」をつける仕組みといえます。 資産運用や相続の場面でも、債権の管理や財産の引き継ぎにおいて影響を及ぼす可能性があるため、基本的なしくみを理解しておくことが大切です。
失業手当
失業手当とは、会社を辞めた後にすぐに仕事が見つからない場合に、一定期間お金の支援を受けられる制度です。これは、雇用保険に加入していた人が、やむを得ず離職したときに受け取れる給付金の一種です。 ハローワークでの手続きを経て、一定の条件を満たすと受け取ることができます。生活を安定させながら新しい仕事を探せるようにするためのもので、就職活動を真剣に行っていることが支給の条件にもなっています。資産運用においては、失業というリスクを考慮して、万が一に備えて生活費を確保しておくことの大切さを考える上で関係してくる概念です。
任意継続
任意継続とは、会社を退職したあとも、一定の条件を満たせば引き続きその会社の健康保険(健康保険組合や協会けんぽ)に最長2年間まで加入し続けられる制度のことです。通常、退職すると会社の健康保険の資格を喪失しますが、任意継続を選べば、退職後も同じ健康保険証を使って医療を受けることができます。 この制度を利用するには、退職日の翌日から20日以内に申請する必要があり、保険料は全額自己負担(会社負担分も含む)となる点に注意が必要です。任意継続は、年齢や持病などの理由で国民健康保険よりも保険料が安くなる場合があるため、比較検討して選ぶことが大切です。
出産手当金
出産手当金とは、働いている女性が出産のために仕事を休んだ期間中、給与の代わりとして健康保険から支給されるお金のことです。対象となるのは、会社などに勤めていて健康保険に加入している人で、産前42日(多胎妊娠の場合は98日)から産後56日までの間に仕事を休んだ日数分が支給されます。 支給額は日給のおおよそ3分の2程度で、休業中の収入減少を補う役割を持っています。なお、パートや契約社員でも条件を満たせば受け取ることができます。会社から給与が出ていないことが条件になるため、給与が支払われている場合には支給額が調整されることがあります。出産による経済的な不安を和らげるための重要な制度です。
障害年金
障害年金とは、病気やケガによって日常生活や就労に支障がある状態となった場合に、一定の条件を満たすと受け取ることができる公的年金の一種です。これは、老後に受け取る老齢年金とは異なり、まだ働き盛りの年齢であっても、障害の状態に応じて生活を支えるために支給されるものです。 受け取るためには、初診日の時点で年金制度に加入していたことや、一定の保険料納付要件を満たしていること、そして障害の程度が法律で定められた等級に該当することが必要です。障害年金には「障害基礎年金」と「障害厚生年金」の2種類があり、どの年金制度に加入していたかによって対象や支給額が異なります。これは障害を抱えながらも暮らしていく人の経済的な支えとなる大切な制度です。
老齢年金
老齢年金とは、一定の年齢に達した人が、現役時代に納めた年金保険料に基づいて受け取ることができる公的年金のことをいいます。基本的には、日本の年金制度における「老後の生活を支えるための給付」であり、国民年金から支給される老齢基礎年金と、厚生年金から支給される老齢厚生年金の2つがあります。 国民年金に加入していたすべての人が対象となるのが老齢基礎年金で、会社員や公務員など厚生年金に加入していた人は、基礎年金に加えて老齢厚生年金も受け取ることができます。原則として65歳から支給されますが、繰上げや繰下げ制度を利用することで、受け取り開始年齢を60歳から75歳まで調整することも可能です。老齢年金は、長年の働きと保険料の積み重ねに対して支払われる、生活設計の中心となる制度です。
非課税所得
非課税所得とは、所得が発生していても税金がかからないと法律で定められている収入のことをいいます。たとえば、失業保険の給付金や、障害年金、遺族年金、一定額の生活保護費、通勤手当の一部などがこれに該当します。 また、一定額までの奨学金や、死亡保険金のうち法定範囲内の受取額なども非課税とされています。これらの収入は、所得税や住民税の計算の対象から外れるため、確定申告や年末調整において申告する必要がない場合があります。資産運用の場面では、NISA口座で得た利益が非課税になるなど、制度をうまく活用することで税金の負担を軽減できる点が大きなメリットとなります。
社会保険上の扶養
社会保険上の扶養とは、健康保険や年金などの社会保険制度において、家族を扶養していると認められることで、その家族が保険料を支払わずに保険の適用を受けられる仕組みのことです。たとえば、会社員の配偶者や子どもが一定の収入以下であれば、その家族を「扶養家族」として申請することができます。 扶養に入った家族は、保険料を払わなくても健康保険証を持つことができ、医療費の助成なども受けられます。税金上の扶養とは異なり、収入の基準や生計の状況が細かく定められているため、両方の扶養条件を正しく理解しておくことが大切です。資産運用や家計設計をする際には、この制度を活用することで支出を抑え、手元資金の効率的な活用につながります。
扶養
扶養とは、主に家族の生活を経済的に支えることを指し、税金や社会保険の制度においては特定の条件を満たした家族を「扶養親族」として扱う仕組みをいいます。税制上の扶養に該当すると、扶養する人の所得から一定額が控除され、結果として支払う税金が少なくなります。また健康保険における扶養では、収入の少ない配偶者や子ども、親などを被扶養者として登録することで、その人の医療費が保険でカバーされます。