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SPC(特別目的会社)とは?資産運用で使うスキームやメリット・注意点を徹底解説

SPC(特別目的会社)とは?資産運用で使うスキームやメリット・注意点を徹底解説

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公開:

2025.07.15

更新:

2025.07.15

SPC(特別目的会社)は、不動産投資や企業買収などでよく耳にしますが、「具体的に何をしている会社なのか」「なぜ資産運用で使われるのか」を正確に理解している方は少ないかもしれません。SPCとは、特定の資産や事業のリスクを親会社から切り離し、資金調達を効率化する目的で設立される法人です。2021年にソフトバンクと愛知県が設立したSPC事例のように、官民連携にも活用が広がっています。この記事では、SPCの基本的な仕組み、活用スキーム、メリットやリスクを実例とともに詳しく解説します。

サクッとわかる!簡単要約

この記事を読むと、SPC(特別目的会社)の仕組みやメリットが具体的な活用事例を通じてスムーズに理解できます。「倒産隔離」や「オフバランス化」など重要な仕組みを整理し、SPV・GK-TK・TMKなど複雑に見えるスキームも実際のコストを交えて把握できます。さらに2023年の地方銀行によるLBO融資の事例や、1万円から投資可能な不動産クラウドファンディングの活用例を通じて、実務的なイメージが掴めます。読了後はSPCを使った資産運用の可能性を自信を持って検討できるようになります。

目次

SPC(特別目的会社)とは?資産を切り離すための法人スキームを基礎から解説

SPCの本質:特定事業のためだけに設立される「リスク隔離の箱」

SPCとSPV・TMKの違い:枠組み・法人格・法的性質で整理

SPC制度の成り立ちと法制度の変遷

SPCの代表的な活用スキーム(GK-TK、TMK、REIT)

GK-TKスキーム:合同会社と匿名組合の組合せ

TMKスキーム:制度設計されたフォーマルな証券化

REIT:不動産版SPCとしての投資法人

SPCを活用する5つのメリット:資産管理と戦略的投資の選択肢としての可能性

メリット1:対象資産の信用力を活かした資金調達(ノンリコース構造)

メリット2:親会社から切り離された「倒産隔離」の仕組み

メリット3:B/Sからの切り離しによる財務指標の改善(オフバランス処理)

メリット4:二重課税を回避できる「導管性(パススルー課税)」の仕組み

メリット5:目的に応じた柔軟な制度設計が可能

SPCへの投資で注意すべきリスクと落とし穴:構造の裏に潜む不安要素とは

注意点1:スキーム設計・運営にコストがかかるため、案件規模に左右されやすい

注意点2:LBO型スキームでは、買収先企業の財務健全性に依存するリスク

注意点3:想定より収益が悪化した場合、SPCが倒産する可能性がある

注意点4:不適切に使われれば、会計不正や損失隠しの手段にもなり得る

その他に注意したいリスク項目

リスク管理の要点:投資家が確認すべき3つのチェックポイント

チェックポイント1:スキーム設計に法務・税務上の欠陥はないか

チェックポイント2:運営体制とキャッシュフローは健全か

チェックポイント3:情報開示は透明で、継続性が担保されているか

投資家に求められるのは「仕組みを読み解く力」

SPCの設立方法とコストの見方:合同会社(GK)と特定目的会社(TMK)の違いとは?

STEP1:スキームの目的と法人形態の選択

STEP2:設立と登記に必要な手続きと費用

STEP3:設立後にかかる運営・管理コストを把握する

投資家のための視点:設立スキームをどう見抜くか?

SPCの使い方:国内資金調達・投資スキームの代表的3事例

事例1:官民連携によるJV型SPC―ソフトバンクと愛知県が設立したスタートアップ支援スキーム

事例2:中小企業M&AにおけるLBO支援スキーム―地銀が支援するRHサクセション型の買収案件(2023年)

事例3:個人投資家向けクラウドファンディング型不動産スキーム―Jointo α(穴吹興産)におけるGK–TK型SPC活用

SPC(特別目的会社)とは?資産を切り離すための法人スキームを基礎から解説

この章では、SPCの基本的な定義や設立目的、活用領域を整理します。混同されやすいSPVやTMKとの違い、制度の成り立ち、代表的なスキーム(GK-TK、TMK、REIT)まで、実務に直結する知識を体系的に解説します。

SPCの本質:特定事業のためだけに設立される「リスク隔離の箱」

SPC(特別目的会社)とは、特定の事業・資産の保有・管理を目的として設立される法人で、資産を本体(親会社)から切り離し、リスクを隔離(倒産隔離)するための仕組みです。

不動産証券化やM&A、プロジェクトファイナンスなどで広く活用され、資金調達の効率化とリスク管理を両立する財務戦略ツールとして機能します。

SPCとSPV・TMKの違い:枠組み・法人格・法的性質で整理

SPCを理解する上で、混同しやすいSPVやTMKとの違いを整理しましょう。

SPV(特別目的事業体):法人格の有無を問わない広義の枠組み

SPV(Special Purpose Vehicle)は、特定の目的のために設けられた事業スキーム全般を指す包括的な概念で、法人格の有無を問いません。信託や匿名組合などの非法人形態も含まれます。

TMK(特定目的会社):資産流動化法に基づく日本の証券化専用SPC

TMK(Tokutei Mokuteki Kaisha)は、資産の流動化に関する法律(旧SPC法)に基づいて設立される、日本独自の証券化専用法人です。資産を裏付けにした証券発行や税制優遇(導管性)など、制度上の特徴があります。。

ペーパーカンパニー・SPACとの違い

SPCは正当な資産運用・資金調達を目的とするもので、課税逃れを主目的とするペーパーカンパニーとは異なります。また、SPAC(特別買収目的会社)は未公開企業の買収を目的とする上場会社であり、運用対象を保有・管理するSPCとは役割が異なります。

整理:SPCは法人格を持つSPV、TMKはその中の特殊型

SPVという広義の中に、法人格を持ち、契約主体になれるSPCが含まれます。株式会社や合同会社の形をとるSPCは、資産を所有・管理し、独立した信用補完体として機能します。その中でもTMKは、証券化に特化した法制度に基づく特殊なSPCです。

SPC制度の成り立ちと法制度の変遷

SPCの本格的な活用は、1998年施行の「特定目的会社による特定資産の流動化に関する法律」(旧SPC法)から始まりました。2001年の法改正により対象資産が全財産権に拡大され、手続きも簡素化されたことで、資産証券化の実務に広く活用されるようになりました。

現在、資産流動化法に基づいてTMKを設立するには内閣総理大臣への届出が必要ですが、合同会社など会社法に基づくSPCを設立する場合には、こうした届出は不要です。

SPCの代表的な活用スキーム(GK-TK、TMK、REIT)

SPCの代表的な活用スキームとして、不動産投資などで多用される「GK-TKスキーム」「TMKスキーム」「REIT」の3つを紹介します。それぞれの仕組みを理解し、SPCがどう資金調達や投資に活かされるかイメージを掴みましょう。

GK-TKスキーム:合同会社と匿名組合の組合せ

合同会社(GK)をSPCとして設立し、投資家と匿名組合(TK)契約を結ぶことで出資を受け、不動産等の取得・運用を行います。

匿名組合投資の基本についてはこちらのQ&Aもご参照ください。

特徴とメリット

  • 設立・維持コストが低い
  • 投資家の匿名性が保たれる
  • 所得分配は損金算入され、SPC段階での課税を回避(導管性)

不動産信託受益権の保有を通じて倒産隔離を図ることも多く、不動産小口化スキームの定番です。

匿名組合については以下の記事で解説しています。

TMKスキーム:制度設計されたフォーマルな証券化

TMKを用いたスキームは、資産流動化計画を策定・届出したうえで、優先出資証券の発行等により資金調達を行います。

特徴とメリット

  • 利益の90%超を配当すれば法人税実質ゼロ(導管性)
  • 公募も可能で資本市場から広範な資金調達が可能
  • 反面、設立・運営が煩雑でコストが高い

大規模案件や公的性格の強い証券化で多く用いられます。

REIT:不動産版SPCとしての投資法人

REIT(不動産投資信託)は、投資信託及び投資法人に関する法律に基づく法人で、SPCではありませんが、類似の機能を持ちます。複数の不動産を保有・運用し、配当として収益を投資家に分配します。

REITの基本についてはこちらのQ&Aもご参照ください。

特徴とメリット

  • J-REITとして上場、流動性が高く少額投資が可能
  • 導管性による法人税実質ゼロ
  • 資産の分散、情報開示の充実、個人投資家にもなじみ深い形態

REITについての詳細解説はこちらの記事をご参照ください。

SPCを活用する5つのメリット:資産管理と戦略的投資の選択肢としての可能性

SPC(特別目的会社)は、複雑な資産管理や効率的な資金調達を行ううえで欠かせないスキームです。もともと企業や事業者向けに設計された枠組みですが、富裕層の個人投資家にとっても、SPCを活用した商品やスキームへの投資は広がりを見せています。

ここでは、投資家の立場から理解しておきたいSPCの代表的な5つのメリットを整理し、背景にある制度や仕組みも含めて解説します。

メリット1:対象資産の信用力を活かした資金調達(ノンリコース構造)

SPCの大きな特徴の一つは、親会社の信用力に依存せず、対象となる資産の将来キャッシュフローのみを担保に資金調達ができる点にあります。これを「ノンリコースファイナンス」と呼びます。

この構造により、プロジェクト単位で独立した資金調達が可能となり、不動産開発や再生可能エネルギー案件など、事業単体の採算性をもとに投資家から資金を募ることができます。

※一方で、親会社が保証を提供する「リミテッドリコース型」との違いや、実際の保証範囲についても確認が必要です。

メリット2:親会社から切り離された「倒産隔離」の仕組み

SPCは、親会社とは法的に別法人として設立され、資産やリスクを切り離すことができます。これにより、仮に親会社が経営破綻したとしても、SPCが保有する資産には原則として影響が及びません。

この「倒産隔離(bankruptcy remoteness)」は、以下の条件が整っていることで初めて有効に機能します:

  • SPCが独立した法人格を有していること
  • 資産の譲渡が形式上でなく、実質的にも移転されていること
  • 保証・支配関係が適切に整理されていること

投資家としては、スキーム設計の初期段階でこの隔離性が本当に確保されているか、第三者が関与する体制が構築されているかを確認する必要があります。

メリット3:B/Sからの切り離しによる財務指標の改善(オフバランス処理)

一定の要件を満たすことで、SPCに移転した資産や負債は、親会社の貸借対照表(B/S)から外すことができ、財務指標を最適化する手段としても活用されます。これにより、表面上のレバレッジや自己資本比率を改善し、柔軟な資本政策を可能にします。

ただし、近年ではIFRSや日本基準(J-GAAP)のもとで「実質支配」基準が重視されており、名義上の切り離しだけでは連結対象とされるケースもあります。

出資する側としては、表面利回りだけでなく、背後にある連結・非連結の判断基準や、それが投資判断に与える影響を読み解く視点が求められます。

メリット4:二重課税を回避できる「導管性(パススルー課税)」の仕組み

SPCを活用した投資スキームでは、法人段階での課税を回避し、投資家へ直接収益を分配できる「導管性」が確保されるケースがあります。

たとえば、TMK(特定目的会社)やREITなどは、利益の90%以上を配当することで、その配当額を損金に算入でき、実質的に法人税が課されません。

また、GK–TKスキームにおいても、合同会社(GK)から匿名組合(TK)出資者への分配金が損金扱いされることで、SPCを経由しても二重課税にならない構造が形成されます。

投資家にとっては、「表面利回りと実効税引後リターンが一致しているかどうか」を見極めるうえで、この導管性の有無は極めて重要な判断材料になります。

メリット5:目的に応じた柔軟な制度設計が可能

SPCはその自由度の高さから、国内外のさまざまな法制度やスキームを組み合わせて設計でき、案件の目的や投資家層に応じて最適化することが可能です。

代表的なスキーム構成の例

  • GK–TKスキーム(合同会社+匿名組合):不動産クラウドファンディングや少額小口投資向け
  • TMK+信託スキーム:資産証券化や機関投資家向け大型案件に活用
  • 海外ストラクチャー(ケイマンSPC+日本トラスト):クロスボーダーの金融商品組成・富裕層向けグローバル資産管理

投資家としては、使われている制度や枠組みの背景を理解し、自身のリスク許容度・税制適合性・資産規模に合ったスキームかを見極めることが重要です。

SPCへの投資で注意すべきリスクと落とし穴:構造の裏に潜む不安要素とは

SPC(特別目的会社)を活用した投資スキームは、リスク分離や税務効率など多くのメリットがある一方で、投資家の立場から見逃せないリスクや注意点も存在します。ここでは、とくに投資家が知っておくべき4つの代表的なリスクと、その背景を解説します。

注意点1:スキーム設計・運営にコストがかかるため、案件規模に左右されやすい

SPCは弁護士や会計士、信託会社など多くの専門家を巻き込んで組成されるため、一定の設立・維持コストがかかります。特にTMK(特定目的会社)型など法制度に基づくスキームでは、手続きの複雑さから数百万円単位の初期費用や継続的な管理コストがかかることも少なくありません。

投資家の立場では、こうした固定コストが運用益を圧迫していないか、特に小規模案件では利回りがコストに飲まれていないかを見極める必要があります。

注意点2:LBO型スキームでは、買収先企業の財務健全性に依存するリスク

不動産や企業買収で使われるLBO(レバレッジド・バイアウト)型のSPCでは、SPCが借入で対象資産を取得し、その返済を将来のキャッシュフローでまかなう構造になっています。

このようなスキームでは、最終的に借入の返済負担が買収先企業に移ることが多く、想定通りに利益が出なければ財務負担が重くのしかかります。つまり、表面利回りだけで判断するのではなく、返済原資となるキャッシュフローの見通しや財務耐性の確認が不可欠です。

注意点3:想定より収益が悪化した場合、SPCが倒産する可能性がある

SPCは親会社などからの支援を前提としない独立スキームであるため、収益が計画を下回ると、債務不履行や倒産に直結するリスクがあります。とくに高いレバレッジ(借入比率)をかけているスキームでは、少しの収益未達でも配当停止や元本棄損につながる可能性があるため注意が必要です。

投資家としては、提供される資料で「DSCR(債務返済余裕率)」や「リザーブ口座の有無」などの財務設計が慎重になされているかを確認し、ストレス時の耐久性を見極める視点が求められます。

注意点4:不適切に使われれば、会計不正や損失隠しの手段にもなり得る

SPCの特性は、過去に不正会計や「飛ばし」の温床として悪用された歴史もあります。代表例が米国エンロン社で、資産をSPCに移すことで本体の損失を隠し、最終的に破綻に至りました。

現在では国際会計基準(IFRS)や日本基準でも、実質的に親会社が支配するSPCは連結対象とされ、透明性は改善されていますが、スキームの意図や開示姿勢に疑義がある場合は警戒が必要です。とくに匿名組合型など、情報開示義務が緩いスキームでは、信頼できる管理者・開示体制が整っているかが鍵となります。

その他に注意したいリスク項目

投資家の立場では、以下のような間接的なリスクにも注意が必要です。

  • 制度変更リスク:導管性(パススルー課税)やオフバランス基準など、税務・会計制度が改正されると、配当減少やスキームの継続に影響を与える可能性があります。
  • 再ファイナンスリスク:期間限定の借入や社債で運用されている場合、金利上昇や信用環境悪化により借換条件が悪化し、配当圧縮や運用終了のリスクがあります。
  • 為替・海外法制リスク:海外SPCを用いたスキームでは、為替変動や現地の法制度・税制変更も含めて検討が必要です。
  • レピュテーションリスク:富裕層向け投資でも、「SPC=複雑で不透明な仕組み」という印象があるため、信頼できる運営主体か、説明責任を果たしているかが重要です。

リスク管理の要点:投資家が確認すべき3つのチェックポイント

SPC(特別目的会社)を活用した投資商品には、高い利回りや税務効率といった魅力がありますが、その構造の複雑さゆえに特有のリスクも内包しています。投資家としてこのメリットを正しく享受するためには、仕組みを「信じる」のではなく、「確認する」姿勢が重要です。

ここでは、投資家が投資判断の際に確認すべき3つの要点を整理します。

チェックポイント1:スキーム設計に法務・税務上の欠陥はないか

SPCスキームの組成段階で、法的または税務的な設計ミスがあると、本来回避できるはずだった課税や連結対象化が発生し、投資リターンに大きな影響を与える可能性があります。

投資家としては、以下の観点を最低限チェックしておきましょう:

  • 税務面で「導管性(パススルー課税)」が適切に設計されているか
  • 親会社との関係性が整理され、「倒産隔離性」が保たれているか
  • 設計段階から弁護士・税理士・会計士などが関与しているか

パンフレットや営業トークだけで判断せず、スキーム概要書やストラクチャー図で仕組みを可視化し、専門家がレビューした痕跡があるかを確認することが重要です。

チェックポイント2:運営体制とキャッシュフローは健全か

SPCは少人数で運営されるケースが多く、ガバナンス体制が不十分なまま資金が運用されているケースも散見されます。加えて、投資リターンの源泉であるキャッシュフロー管理が甘い場合、想定利回りに届かないばかりか、元本毀損のリスクすらあります。

確認すべきポイント:

  • 独立性のある取締役や第三者監査が設置されているか
  • 運用レポートが定期的に発行され、プロジェクト収支の監視体制があるか
  • 金利変動や空室率の悪化などに備えたストレスシナリオが検討されているか

「想定利回り」だけに目を奪われず、裏付けとなる収支の積算根拠や、リスクシナリオにおける対応策を見極めることが肝要です。

チェックポイント3:情報開示は透明で、継続性が担保されているか

投資家が安心して資金を預けられるスキームには、透明性の高い情報開示体制が欠かせません。定期的な運用レポートや財務情報の開示がないスキームは、それだけで信頼性に疑義が生じます。

確認すべきポイント:

  • 運用状況・配当実績・将来見通しなどの定期開示があるか
  • リスク事象(テナント退去、金利上昇など)発生時に即時開示される仕組みがあるか
  • 管理会社やアレンジャーの実績・評判・資本関係の説明があるか

信頼性ある開示体制は、投資判断を下す材料であると同時に、将来の資金回収や再投資の意思決定にも直結します。

投資家に求められるのは「仕組みを読み解く力」

SPCスキームの成否は、構造と運営の健全性にかかっています。高い利回りを謳う案件ほど、仕組みの複雑さやリスクの所在が見えにくくなっていることもあります。

富裕層の投資家として求められるのは、「仕組みを信じること」ではなく、「仕組みを読み解くこと」です。

そのためにも、3つの観点(設計・運営・開示)から冷静にチェックし、「誰がどう守ってくれるのか」を明確にしてから資金を投じることが、長期的な資産保全と成長の鍵になります。

SPCの設立方法とコストの見方:合同会社(GK)と特定目的会社(TMK)の違いとは?

SPC(特別目的会社)は、不動産投資や事業承継、M&Aなどにおいて重要な投資スキームとして活用されています。

この章では、SPCがどのように設立され、どの程度のコストがかかるのか、特に実務でよく使われる「合同会社(GK)」と「特定目的会社(TMK)」の違いに着目し、出資者の立場から見ておくべきポイントを整理します。

STEP1:スキームの目的と法人形態の選択

まず最初に明確にすべきなのは、「このSPCは何のために設立されるのか」という目的です。不動産小口化投資、企業買収(LBO)、資産証券化など、目的によって選ばれる法人格が異なります。

代表的な選択肢は以下の2つです。

  • 合同会社(GK):設立が簡便でコストも比較的低いため、小規模な不動産投資や匿名組合(TK)スキームに多く用いられます。
  • 特定目的会社(TMK):資産流動化法に基づいて設立され、導管性や証券発行の制度整備がある一方で、設立・運営が煩雑でコストも高くなります。大規模な資産証券化やファンド型スキームに利用されます。

投資家の立場では、スキームの規模・構造・税制対応を確認し、法人格の選定理由が妥当かを見極める視点が重要です。

STEP2:設立と登記に必要な手続きと費用

法人形態が決まったら、資金計画に基づいて登記・届出などの手続きを進めます。それぞれの法人格に応じて、以下のような違いがあります。

TMK(特定目的会社)の場合

  • 登録免許税:3万円(資本金1,000万円以下の場合)
  • 内閣総理大臣への届出が必要(資産流動化計画の提出含む)
  • 設立から事業開始までに数週間~1か月程度の準備期間を要する

GK(合同会社)の場合

  • 登録免許税:6万円(一律)
  • 登記完了後、即日から事業開始が可能
  • 届出不要で迅速に設立でき、機動性に優れる

投資家としては、スキーム全体の「立ち上がりのスピード感」や「制度的安定性」を天秤にかけて設計者の判断を読み取ることが大切です。

STEP3:設立後にかかる運営・管理コストを把握する

SPCは設立後も、会計・税務処理、投資家への報告対応、法定監査など、多岐にわたる管理業務が継続的に発生します。とくにTMKやGK–TKのように**導管性(パススルー課税)**を前提としたスキームでは、厳格な会計処理や配当条件の管理が必要です。

以下は、SPCの主なコスト項目です

項目内容
設立時コスト登録免許税、定款認証費用、司法書士・弁護士報酬など
運営管理コスト税理士・会計事務所への顧問料、監査法人報酬、役員報酬、法務コスト
資金調達コスト銀行手数料、証券発行コスト、投資家への配当(またはTK配分)等

案件規模やスキームの複雑さによっては、年間数百万円以上の運営費用が継続的に発生する場合もあります。

出資を検討する際は、「このスキームはコストに見合ったリターン構造になっているか?」という視点で、収支バランスを確認することが肝要です。

投資家のための視点:設立スキームをどう見抜くか?

SPCの設計は自由度が高い一方、費用構造やガバナンスの差が投資リターンに直接影響します。

出資する立場として確認すべき代表的なチェックポイントは以下の通りです。

  • なぜGKなのか/TMKなのか?(税制・投資家構成・証券化の有無)
  • ガバナンス体制はあるか?(独立役員、第三者監査など)
  • スキームコストが収益計画に対して過大ではないか?

信頼できるスキームは、「速く立ち上がるもの」ではなく、「適切に設計され、持続可能なもの」です。法人格の選定背景や構造の妥当性を理解することが、投資リスクを最小限に抑える第一歩になります。

SPCの使い方:国内資金調達・投資スキームの代表的3事例

SPC(特別目的会社)は、資金調達や事業推進の「器」として、官民連携からM&A、個人向けの不動産投資まで幅広く活用されています。

ここでは、国内で実際に活用されたタイプの異なる3つの事例を通じて、SPCがどのように機能し、投資家にとってどのような意味を持つのかを整理します。

事例1:官民連携によるJV型SPC―ソフトバンクと愛知県が設立したスタートアップ支援スキーム

2021年、ソフトバンクと愛知県は、県内のユニコーン企業育成を目的に、官民共同でSPCを設立しました。

このSPCは、ベンチャー支援事業の主体として機能し、以下のような構造的メリットを発揮しています:

  • 官(自治体)は、予算の執行透明性を確保
  • 民(ソフトバンク)は、投資リスクをグループ本体から切り離し
  • 出資・運営・成果分配の枠組みを明確に整理

富裕層投資家としては、自治体が関与するSPCは信頼性や社会的意義を評価しやすく、共感型・インパクト投資の視点でも注目に値します。

事例2:中小企業M&AにおけるLBO支援スキーム―地銀が支援するRHサクセション型の買収案件(2023年)

2023年、ある地域銀行は、飲食業企業の買収を目的としたSPC(RHサクセション)に対し、LBO(レバレッジド・バイアウト)型の融資を実行しました。このスキームでは、以下のような構造となっています:

  • SPCが買収資金を銀行から借入
  • 対象企業を取得後、そのキャッシュフローで借入を返済
  • 買収者は少額出資で企業の実権を得る

富裕層投資家としてこのスキームに参加する場合、利回りの源泉が「買収先企業の将来キャッシュフロー」に依存している点、レバレッジリスクの程度、SPCの債務構造をよく理解する必要があります。

事例3:個人投資家向けクラウドファンディング型不動産スキーム―Jointo α(穴吹興産)におけるGK–TK型SPC活用

不動産クラウドファンディングの拡大により、個人投資家がSPCを通じた間接投資に参加する機会が広がっています。たとえば「Jointo α」では、以下のようなスキームが採用されています:

  • SPC(合同会社=GK)が不動産を保有
  • 投資家は匿名組合(TK)契約を通じて出資
  • プロが運営・管理し、収益を分配(導管性を活かした構造)

この仕組みでは、ファンドごとにSPCが独立しているため、万一のトラブル時でも影響が他ファンドに波及しない構造的メリットがあります。

富裕層投資家にとっては、信託・SPCによる資産隔離構造が担保されているか、ガバナンス・情報開示体制が整っているかが重要な見極めポイントです。

よくある質問(FAQ)

この記事のまとめ

SPC(特別目的会社)は、資産のリスクを切り離して資金調達を効率化するために活用される仕組みです。GK-TKやTMKなどのスキームを活用することで、親会社の信用力に依存せずに投資やM&Aを実行できます。ただし、設計ミスやガバナンス不備による倒産リスクや粉飾リスクにも注意が必要です。SPCを適切に活用するには、スキーム選定や法務・税務の事前確認、運営体制の整備が不可欠です。自社や自身の投資に適した仕組みを具体的にイメージし、専門家への相談を通じて実践的な判断につなげてください。

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SPC(特別目的会社)

SPC(特別目的会社)とは、ある特定の事業や取引だけを行うために設立される会社のことをいいます。主に資産の流動化や証券化など、金融取引を効率的かつリスクを限定して行う目的で使われます。たとえば、不動産やローンなどの資産を切り出して、SPCに移してから証券化することで、投資家がその資産に対して投資できるようにする仕組みが一般的です。SPCは、通常の事業会社とは異なり、活動内容が限定されており、倒産リスクを本体企業から切り離す役割も果たします。これにより、投資家や関係者がより安心して取引に参加できるようになります。資産運用や金融商品の構造を理解するうえで、非常に重要な概念です。

SPV

SPV(特別目的会社)とは、ある特定の目的を達成するためだけに設立される法人のことです。資産運用や投資の場面では、不動産開発や証券化といった一つのプロジェクトを実行・管理するために活用されることが多いです。この会社は、その目的が終われば解散されることもあり、事業全体の一部だけを切り離して運用したいときに使われます。 投資家にとっては、プロジェクトの成果やリスクがこの会社の中に限定されるため、損失が他の資産や投資に広がりにくくなるという利点があります。企業側もリスク管理や資金調達の柔軟性を高めるためにSPVを利用することがあります。

TMK(特定目的会社)

TMK(特定目的会社)とは、不動産や資産の証券化を目的として設立される、法律で定められた特別な形態の法人です。正式には「資産の流動化に関する法律」に基づいて設立され、主に不動産や債権といった特定の資産を取得し、それらから得られる収益をもとに証券を発行して投資家に提供します。 TMKは資産を「倒産隔離」する役割も持ち、親会社や関係企業が倒産しても影響を受けにくい構造となっています。不動産投資やファンド商品に関心のある投資家にとって、TMKは資産を効率的かつ安定的に運用する手段として知られています。

倒産隔離

倒産隔離とは、ある企業や事業が倒産した場合でも、その影響が特定の資産や別の事業に及ばないようにする仕組みのことです。特に証券化取引や不動産ファンド、信託などの分野で用いられます。 たとえば、企業が資産を特別目的会社(SPC)に移して、その会社を通じて証券を発行する場合、元の企業が倒産してもその資産に影響が出ないようにするのが倒産隔離の目的です。これにより、投資家は元の企業の経営状態にかかわらず、資産から生まれる収益を安定的に受け取ることができるようになります。資産運用の分野では、リスクの切り分けと安定したリターンの確保に重要な役割を果たします。

オフバランス

オフバランスとは、企業が保有する資産や負債を財務諸表(バランスシート)に計上せずに管理・運用することを指します。これにより、表面的には財務状態が良好に見えるため、企業の信用力や資金調達力が高く見えることがあります。たとえば、リース契約や特別目的会社(SPC)を通じて資産を持つことで、バランスシートにはその資産や借入金が載らない仕組みが取られます。 オフバランス化は合法的な会計手法として使われることもありますが、使い方によっては実態を隠す目的になりうるため、投資家は注意深く企業の財務の裏側を読み取る力が求められます。

GK-TKスキーム

GK-TKスキームとは、不動産や再生可能エネルギーなどの事業に対して、複数の投資家から資金を集めるために用いられる日本独自の投資スキームで、「合同会社(GK)」と「匿名組合(TK)」を組み合わせた構造です。事業の実施主体である合同会社が営業者となり、投資家は匿名組合契約を通じてその合同会社に出資します。 投資家は有限責任の立場でリスクを限定しつつ、事業の利益の一部を分配として受け取る仕組みです。このスキームは、少人数の投資家でも柔軟に資金調達ができることから、資産運用商品の設計に広く活用されています。法的・税務上のメリットがある一方で、事業リスクや情報開示の制限についても十分に理解することが求められます。

REIT(Real Estate Investment Trust/不動産投資信託)

REIT(Real Estate Investment Trust/不動産投資信託)とは、多くの投資家から集めた資金を使って、オフィスビルや商業施設、マンション、物流施設などの不動産に投資し、そこで得られた賃貸収入や売却益を分配する金融商品です。 REITは証券取引所に上場されており、株式と同じように市場で売買できます。そのため、通常の不動産投資と比べて流動性が高く、少額から手軽に不動産投資を始められるのが大きな特徴です。 投資家は、REITを通じて間接的にさまざまな不動産の「オーナー」となり、不動産運用のプロによる安定した収益(インカムゲイン)を得ることができます。しかも、実物の不動産を所有するわけではないので、物件の管理や修繕といった手間がかからない点も魅力です。また、複数の物件に分散投資しているため、リスクを抑えながら収益を狙える点も人気の理由です。 一方で、REITの価格は、不動産市況や金利の動向、経済環境の変化などの影響を受けます。特に金利が上昇すると、REITの価格が下がる傾向があるため、市場環境を定期的にチェックしながら投資判断を行うことが重要です。 REITは、安定した収益を重視する人や、実物資産への投資に関心があるものの手間やコストを抑えたい人にとって、有力な選択肢となる資産運用手段の一つです。

LBO(レバレッジド・バイアウト)

LBO(レバレッジド・バイアウト)は、借入金を活用して企業や事業を買収するM&A手法の一つです。買収資金は、自己資金と借入(LBOローン) の組み合わせで調達され、特に買収対象企業のキャッシュフローを担保として資金を借りることが特徴です。これにより、買い手(通常はプライベート・エクイティ(PE)ファンドや経営陣)は、比較的少ない自己資金で企業を取得できます。 一般的にLBOでは、多額の借入を行うため、対象企業には安定したキャッシュフローが求められます。特にバイアウト・ファンドは、投資リターンを最大化するためにLBOを活用し、経営改善や成長戦略を推進した後に企業を売却することで利益を狙います。また、LBOはMBO(現経営陣による買収)やMBI(外部経営者による買収)などの形態でも利用されます。 LBOは、企業価値向上の手段として有効ですが、過剰な借入(レバレッジリスク) による財務リスクにも注意が必要です。特に、買収後のキャッシュフローが計画通りに確保できない場合、債務返済が困難になり、最悪の場合は破綻するリスクもあります。そのため、LBOを実行する際には、適切な財務戦略とリスク管理が不可欠です。

飛ばし(不正会計)

飛ばしとは、本来その期に計上しなければならない損失や負債を、他の会社や将来の会計期間に一時的に移して隠す不正な会計手法のことです。企業が経営成績をよく見せかけるために行うもので、利益を実際よりも大きく見せたり、赤字を隠したりする目的で使われます。 たとえば、子会社や関係会社に損失を一時的に押し付けることで、本体の財務状況をよく見せるというやり方が典型です。飛ばしは投資家を欺く行為であり、発覚すれば株価の急落、企業への信頼失墜、経営陣の退任や刑事責任といった重大な影響をもたらします。日本では過去に大手企業で発覚した事例もあり、資産運用を行う際にも企業の財務の透明性を見極めることが重要だとされています。

優先出資証券

優先出資証券とは、企業や投資ファンドが資金を集めるときに発行する証券の一種で、一般の出資者よりも先に配当や利益の分配を受けられる権利があるものです。会社が利益を出したときに、まずこの証券を持っている人たちに決まった割合の配当が支払われ、その後に残った利益が他の出資者に分配されます。 ただし、株式とは違い、議決権(会社の重要な方針に関して投票する権利)がない場合が多いのが特徴です。リスクをある程度抑えながらも安定した収益を期待できるため、資産運用の中でも比較的保守的な選択肢として利用されます。

合同会社

合同会社とは、出資者(社員)が経営に直接関与できる法人形態で、出資者は有限責任を負います。設立手続きや維持費用が株式会社より簡易で、柔軟な運営が可能です。利益配分の自由度が高いことも特徴です。

匿名組合(TK投資)

匿名組合(TK投資)は、事業者が資金を集めるために使う仕組みの一つで、投資家が出資をしても経営には関与せず、利益の分配のみを受け取る形の契約です。投資家は「匿名組合員」として名前を表に出さずに出資し、出資先の事業が成功すれば利益を受け取りますが、損失が出た場合には出資金の範囲内で損をします。 この仕組みは不動産や飲食店、ソーシャルレンディングなどでよく利用されており、投資家は経営リスクを負わずに事業の収益をシェアすることができます。ただし、元本保証はなく、情報開示も限定的な場合があるため、内容をよく理解したうえで投資判断をすることが大切です。

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