
劣後債とはどんな債券?メリット・デメリットをわかりやすく解説!
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公開:
2024.07.20
更新:
2025.06.05
金利上昇局面でも高利回りを狙える商品として、シニア債より一段高いクーポンを提示する「劣後債」が注目を集めています。金融機関の自己資本強化を背景に個人向け販売チャネルも拡大していますが、返済順位の低さに起因する回収率低下リスクや、コール条項による再投資リスク、長期・無期限ゆえの価格変動など見落としがちな落とし穴も少なくありません。本記事では期限付きと永久の違い、利回りと弁済順位のトレードオフ、会計上の扱いまで整理し、あなたのリスク許容度に合うかを判断するための材料を提供します。
サクッとわかる!簡単要約
この記事を読むと、劣後債がシニア債より弁済順位が低い代わりに高利回りを得られる構造と、その対価として価格変動やデフォルト時回収率低下が大きい理由がわかります。さらに、期限付きと永久の比較から利回り水準・満期の有無・コール条項が投資成否に与える影響を整理でき、他の債券や株式と並べた位置付けを確認しながら自分のインカム戦略に組み込むべきか即座に判断可能。格付けチェックや流動性確保など購入前に押さえるチェックリストも把握でき、商品パンフレットだけでは見抜けない盲点を先回りできます。
劣後債(Subordinated Bonds)とは?特徴と仕組みを解説
劣後債は債券と株式の中間的特性を備えた証券です。額面に対して一定の利金が支払われるというシニア債(普通社債)と同じ特性を持つ一方、発行体が資本不足に陥った際には、シニア債に先んじて損失を吸収する役割を果たします(シニア債よりも支払い順位が劣後する)。このような特徴を持つ金融商品を資本性有価証券(ハイブリッド証券)と呼び、劣後債は、ハイブリッド証券の1種です。
ハイブリッド証券は、発行体にとっては株式のような資本性があるため、一定の資本性が認められますが、株式ではないため発行しても株式の希薄化が回避できます。
劣後債の特徴
劣後債には、以下6つの特徴があります。
- 支払い(弁済)順位がシニア債より低い
- 償還期限(満期)が長い
- 繰上償還条項が付記されている
- 価格変動リスクがシニア債より高い
- 利回り水準がシニア債より高い
- 会計上の分類が特殊
それぞれの特徴について詳しく説明します。
支払い(弁済)順位がシニア債より低い
劣後債は、企業が倒産または財務困難に陥った場合、他の債務(特にシニア債)よりも返済優先度が低いです。そのため、発行体企業が支払い困難な状況に陥ると、他の債権者の支払いが全て終わった後に、お金に余裕がある時のみ支払いがなされます。
償還期限(満期)が長い
劣後債の償還期限は通常長く、無期限のものもあります。長い償還期限は、市場の利率が変動する中で投資が固定されてしまうリスクを高めます。そのため、他の有望な投資機会が現れた場合でも、資本が既に劣後債に拘束されている可能性があります。
繰上償還条項が付記されている
繰上償還条項(コール条項)が一般的に付されています。この条項により、企業は特定の条件下で劣後債を早期に償還することができます。早期償還されると、高い利回りの投資が終わってしまう可能性があります。これは、再投資を低い利回りで行う「再投資リスク」を引き起こす可能性があります。
価格変動リスクがシニア債より高い
普通社債に比べて価格変動が大きい傾向にあります。大きな価格変動は、投資家が劣後債を売却する際に不利な価格で売らざるを得ない可能性があることを意味します。
利回り水準がシニア債より高い
普通社債に比べて利回りが高い傾向にあります。高い利回りは魅力的に見えますが、それは高いリスクを取ることの対価でもあります。そのリスクが受け入れられるかどうかは、投資家自身で慎重に評価する必要があります。
会計上の分類が特殊
劣後債は一定の条件下で自己資本に算入可能です。一定の条件を満たす場合、劣後債は企業のバランスシート上で自己資本として扱われることがあります。これが意味するのは、企業が財務上で不安定になると、劣後債は資本削減の対象になる可能性があり、それによって投資家に更なるリスクが生じる可能性があるということです。
期限付劣後債と永久劣後債の特徴と違い
劣後債にも種類があります。それが期限付き劣後債と永久劣後債です。名前の通り、期限付き劣後債は満期が設定されている劣後債、永久劣後債は満期が設定されていない劣後債です。
それぞれの特徴と、メリット・デメリットについて説明します。
期限付き劣後債とは?
期限付劣後債は、満期が設定されている劣後債です。そのため、シニア債と同様に満期が来たら償還されます。ものにもよりますが、期限付劣後債は比較的短期間で元本が返還される傾向にあります。一般に、満期が設定されていない永久劣後債と比較して、期限付き劣後債の方が利回りは低いものの、弁済順位が高く、値動きも小さいという特徴があります。
期限付劣後債のメリット・デメリット
期限付き劣後債のメリットは、シニア債(普通社債)と比べて利回りが高く設定されていることです。発行体が破綻しなければ、償還期限(満期)になると元本も払い戻されます。永久劣後債と比べて支払い順位も高いため、リスクも少ないです。
一方で、シニア債と比べると弁済順位が低く、永久劣後債と比べると利回りが低いというのがデメリットです。
永久劣後債とは?
永久劣後債とは、弁済順位がシニア債や期限付劣後債よりも低く、満期日が設定されていない債券です。弁済順位が低いため、比較的高い利回りが設定されることが多く、また、企業が破綻しない限り、利息の支払いが永久に続く仕組みとなっています。しかし、多くの永久劣後債には繰上償還条項(コール条項)が設定されており、実際にはその条項に基づいて償還されるケースが多いため、本当に永久に効果を発揮しているものは多くありません。
永久劣後債のメリット
永久劣後債はシニア債や期限付き劣後債よりも利回りが高く設定されています。
また、永久劣後債はシニア債や期限付き劣後債と異なり、変動金利の場合があります。変動金利の永久劣後債では、発行体があらかじめ定められた期日までに繰上償還(コール)しなかった時、以降の支払い金利(利率)が上昇するような仕組みが一般的です。
永久劣後債のデメリット
永久劣後債のデメリットは大きく2つあります。1つはデフォルト時の回収率が低いこと、もう1つが繰り上げ償還が見送られると債券価格が下落するリスクがあることです。
デフォルト時の回収率が比較的低い
永久劣後債は、万が一デフォルトした場合に回収できる元本の割合が一般的に低いことがデメリットです。発行体が破産手続きを開始したなどの劣後事由の発生時、普通社債や期限付劣後債よりも弁済順位が低いため、元本や利払いが正常に行われない可能性が比較的高いといえます。
発行体が繰上償還を見送ると債券価格が下落する価格変動リスクがある
永久劣後債では、初回の繰上償還可能日に発行体による早期償還(ファーストコール)が行われることが市場慣行となっており、一般的です。
そのため、市場慣行から外れてファーストコールが行われなかった(コールスキップされた)場合、発行体の財務状況の悪化などが懸念されます。
この結果、債券市場において、発行体の信用力が低下したと判断され、価格が下落する可能性が高いです。
この記事のまとめ
劣後債を検討する際は、弁済順位・格付け・コール条項・満期の長さを客観指標として比較することが重要です。二次市場は狭く売却時スプレッドが広がりやすく、自己資本算入要件の変化が価格に影響する点も見逃せません。初回コール償還後の再投資先やコールスキップ時のドローダウン許容度も事前に想定しましょう。国債やシニア債より高いが株式より低いリスク・リターンの位置付けを踏まえ、ポートフォリオ全体の流動性・税コストと併せて総合判断してください。必要に応じて専門家に相談するのも選択肢です。

MONO Investment
投資のコンシェルジュ編集部は、投資銀行やアセットマネジメント会社の出身者、税理士など「金融のプロフェッショナル」が執筆・監修しています。 販売会社とは利害関係がないため、主に個人の資産運用に必要な情報を、正確にわかりやすく、中立性をもってコンテンツを作成しています。
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劣後債
劣後債とは、企業や金融機関が資金調達のために発行する債券の一種で、通常の社債(シニア債)よりも弁済順位が低い(劣後する)債券のことです。発行体が破綻した場合、一般の債券や他の債権者への支払いが優先され、劣後債の保有者への弁済はその後に行われるため、元本や利息の支払いリスクが相対的に高くなります。 このリスクの高さを補うため、劣後債は通常の社債よりも利回りが高めに設定されており、リスクプレミアムが反映されたハイリスク・ハイリターンの投資対象として位置づけられます。劣後債には、シニア劣後債とジュニア劣後債があり、ジュニア劣後債の方がさらに弁済順位が低いため、リスクが高くなる傾向にあります。 特に、金融機関が発行する劣後債の一部(例:AT1債やTier 2債)は、国際的な銀行規制であるバーゼル規制に基づき、一定の条件を満たせば自己資本として算入できるため、自己資本比率を向上させる手段として利用されています。ただし、AT1債(追加的Tier 1債)は発行体の財務状況によって利息の支払いが停止される可能性もあるため、リスクが高くなります。 投資家にとっては、高い利回りの魅力がある一方で、発行体の信用リスクや市場環境を十分に考慮した慎重な判断が求められる金融商品です。また、流動性が低く、満期前に売却が難しい場合がある点にも注意が必要です。
ハイブリッド証券
ハイブリッド証券とは、債券と株式の両方の特徴を併せ持つ金融商品で、資金調達の柔軟性を高めるために企業が活用することが多いです。債券のように定期的な利払いがある一方で、株式のように返済義務が劣後したり、発行企業の業績によって利払いが変動することがあります。 また、一定の条件下で株式に転換できるものもあり、投資家にとってはリターンが見込める一方で、リスクも高めです。企業にとっては、通常の借入や株式発行では対応しにくい状況でも、信用力や資本性を維持しながら資金を調達できる手段として重宝されます。とくに金融機関や格付機関の評価において、自己資本として一部認められるケースがあり、財務体質の強化にもつながります。