暦年贈与とは?110万円の非課税枠や最新の改正ルール、相続時精算課税制度との違いなどを解説

暦年贈与とは?110万円の非課税枠や最新の改正ルール、相続時精算課税制度との違いなどを解説
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公開:
2025.07.09
更新:
2025.11.25
贈与税はいくらからかかるのか、毎年110万円までの暦年贈与は本当に「安全」なのか──。2024年以降の税制改正や、相続前7年加算、相続時精算課税との違い、名義預金・子どもの通帳・株や土地の生前贈与など、考えるべきポイントは想像以上に多く、自己判断だけでは不安が残ります。この記事では、暦年課税と相続時精算課税の仕組みとメリット・デメリット、110万円非課税枠の正しい使い方を整理し、自分や家族のケースで「どの制度をどう組み合わせて贈与すべきか」を具体的にイメージできるところまで解説します。
サクッとわかる!簡単要約
この記事を読むと、暦年贈与の基本的な仕組みである110万円非課税枠と7年加算ルール、相続時精算課税の仕組みや違い、信託・生命保険を使う際の注意点まで体系的に理解できます。そのうえで、自分の家族構成や資産額に合わせて「暦年課税と相続時精算課税をどう使い分けるか」「どのタイミングで・いくら・どの制度で贈与するか」を具体的に設計し、税負担と将来のトラブルを抑えた生前贈与のプランを自分で描けるようになります。
目次
暦年贈与とは?毎年110万円まで非課税で財産を渡せる仕組みの基本
暦年贈与の3つのメリット|相続税対策と計画的な資産移転を実現
メリット3:教育・住宅資金贈与の特例と併用すれば非課税枠がさらに拡大
暦年贈与の注意点とデメリット|知らないと贈与が無効になる3つのリスク
注意点1:死亡前7年以内の贈与は「なかったこと」にされる【7年加算ルール】
注意点2:「名義預金」とみなされ相続財産として課税されるケースがある
注意点3:将来の制度改正で非課税枠が縮小・廃止される可能性がある
トラブルを避ける暦年贈与の方法|契約書作成から贈与税申告までの4ステップ
1.相続時精算課税|一度に高額な財産(不動産など)を贈与したい人向け
2.暦年贈与信託・家族信託|手続きを専門家に任せたい・将来の認知症に備えたい人向け
暦年課税と相続時精算課税はどちらが有利?シミュレーションで比較
暦年贈与とは?毎年110万円まで非課税で財産を渡せる仕組みの基本
暦年贈与とは、1月1日から12月31日までの1年間に受け取った贈与額の合計が110万円以下であれば贈与税がかからない制度です。言い換えれば、毎年110万円までの生前贈与は非課税になる仕組みです。
贈与税の計算方法|110万円を超えたら税金がかかる
暦年贈与は「暦年課税」という方式で贈与税を計算します。贈与税では受贈者(もらった人)がその年に受け取った贈与財産の総額から基礎控除110万円を差し引き、残りに対して税率をかけて税額を算出します。110万円を超える部分には累進課税が適用され、金額が大きいほど高い税率(最低10%~最高55%)が課されます。
贈与税の税率は贈与の相手によって2種類に分かれ、直系尊属から18歳以上の子や孫への贈与には「特例税率」が適用されるため若干低めの負担です(それ以外の贈与は一般税率)。それでも贈与税率の最高55%は相続税より高い水準であり、まとまった額を一度に贈与すると税負担が重くなる点には注意が必要です。
なお、発生する贈与税の目安については、以下の記事で詳しく解説しています。
非課税枠は「もらう人」1人につき年間110万円
110万円以内の贈与であれば贈与税はかからず申告も不要ですが、この非課税枠は受贈者(もらう人)ごとに適用されます。例えば子や孫など受贈者が3人いれば、それぞれに110万円ずつ、合計330万円を毎年非課税で贈与することも可能です。誰にでも自由に贈与できるため、暦年贈与は相続人以外(例:孫や第三者)にも財産を渡せる柔軟な仕組みとなっています。
贈与税の基本と暦年課税については、以下のQ&Aでも説明しています。
【2024年改正】暦年贈与と相続税の主なルール変更点
2024年の税制改正で、生前贈与に関するルールが大きく変わりました。主なポイントは以下の4つです。
ポイント1.相続税への加算期間が「7年」に延長
死亡時に相続財産へ加算される生前贈与の対象期間が、従来の「死亡前3年以内」から「死亡前7年以内」に延長されました。
相続前7年加算ルールについては、以下質問でも解説しています。
ポイント2.延長した4年分には100万円の控除あり
今回の改正で延長された4年間(死亡の4年〜7年前)に行われた贈与については、合計100万円までは相続財産に加算されません。
ポイント3.新ルールの適用は段階的に
この「7年ルール」は2024年1月1日以降の贈与から適用され、2027年から加算期間が少しずつ延長されます。完全に7年分が加算対象となるのは、2031年1月1日以降に発生する相続からです。
ポイント4.相続時精算課税制度も改正
もう一つの贈与制度である「相続時精算課税制度」に、年間110万円の新たな基礎控除が設けられました。この枠内の贈与は、将来の相続財産に加算されず、贈与税の申告も不要なため、制度の利用しやすさが向上しました。
相続時精算課税と暦年贈与(暦年課税)の比較については以下質問でも解説しています。
暦年贈与の3つのメリット|相続税対策と計画的な資産移転を実現
暦年贈与には、相続対策や資産承継を計画する上で様々なメリットがあります。最大の利点は相続税の圧縮効果ですが、それ以外にも資金を渡すタイミングの柔軟さや受贈者(もらう人)の金銭教育といった側面があります。それぞれ具体的に見ていきましょう。
メリット1:将来の相続税を減らせる長期的な節税効果
暦年贈与を活用すれば、将来課される相続税の課税財産を減らすことができます。生前に財産を贈与しておけば、その分だけ最終的な相続財産が圧縮されるためです。特に贈与から相続まで7年以上の期間が空けば、その贈与分は相続財産に一切持ち戻されないため大きな節税効果があります。
- 例えば、毎年110万円ずつ10年間贈与した場合、累計1,100万円が相続税の計算から除外される計算です。仮に相続税の実効税率が30%だとすれば、約330万円もの相続税を節約できる可能性があります。
さらに暦年贈与は、贈与した財産のその後の値上がり益を相続税課税から外せる効果もあります。例えば将来価格が上がりそうな不動産や株式を早めに子や孫へ贈与しておけば、贈与時の評価額で課税関係が確定し、その後の値上がり分は相続財産に含まれません。
なお暦年贈与には「非課税枠を人数分使える」という強みもあります。先述の通り110万円の基礎控除枠は受贈者ごとに適用可能です。例えば配偶者と子2人・孫4人に毎年それぞれ110万円ずつ贈与すれば、1年間で合計770万円もの財産を無税で移転できます。贈与と同時に相続財産もその分減少しますから、大幅な節税効果が期待できます。
生命保険を活用した相続対策については、こちらの記事も参考にしてみてください。
メリット2:子や孫が必要なタイミングで柔軟に資金を渡せる
暦年贈与のメリットには、資金を渡すタイミングを柔軟に選べる点も挙げられます。相続の場合、財産の受け渡しは被相続人の死亡時に一度きりですが、生前贈与なら子や孫が資金を必要とするタイミングで支援できます。
- 例えばお子さんの大学進学や留学、住宅購入、結婚・子育てといったライフイベントに合わせて贈与を行えば、資金が必要な時に役立ててもらうことが可能です。
また、計画的な暦年贈与は受贈者の金銭感覚を養う教育の機会にもなります。仮に莫大な遺産を一度に相続すれば受け取った子孫が戸惑ったり浪費してしまうリスクもありますが、少しずつ贈与していけば金銭管理の経験を積ませることができます。
メリット3:教育・住宅資金贈与の特例と併用すれば非課税枠がさらに拡大
暦年贈与の非課税枠は、他の生前贈与の非課税特例と組み合わせることで一層大きな効果を発揮します。代表的な特例には教育資金の一括贈与や住宅取得資金の贈与の非課税措置があります。これらを上手に活用すれば、年間110万円を超える贈与でも非課税にすることが可能です。
- 例えば、お孫さんの教育資金として1人当たり1,500万円まで非課税で贈与できる「教育資金一括贈与特例」を利用しつつ、別途毎年110万円ずつを暦年贈与していくケースが考えられます。また住宅取得資金の贈与特例も有力です。一定の要件を満たせば、子や孫の住宅購入資金として最大1,000万円まで非課税で贈与できます。
ただし各特例には適用期限や条件、手続きがあります。また、これら特例で贈与した財産も相続開始前7年以内であれば相続財産に加算される点に留意が必要です。
暦年贈与の注意点とデメリット|知らないと贈与が無効になる3つのリスク
便利な暦年贈与にも、知っておくべきリスクやデメリットがあります。税制改正による加算期間延長への対応、贈与が無効とみなされないための手続き管理、将来的な制度変更リスクへの備えなど、慎重に検討すべきポイントを整理します。
注意点1:死亡前7年以内の贈与は「なかったこと」にされる【7年加算ルール】
7年加算ルールの導入により、死亡直前の駆け込み贈与はほぼ効果を失いました。現在では少なくとも7年以上前から計画的に贈与を始めないと相続税の圧縮効果が得られません。
- 特に相続人(子など)に対する贈与は慎重です。7年以内であればその110万円×年数分は相続財産に足し戻され課税されます。「110万円までは無条件に非課税」というのはあくまで贈与税の話であり、相続税については7年という長期スパンで監視される時代になった点を忘れてはいけません。
一方、相続人以外への贈与(例:孫への贈与)には生前贈与加算が適用されません。ただし、子が先に亡くなって孫が代襲相続人になる場合や、孫に遺言で財産を遺贈した場合は加算対象となりうるため注意が必要です。
注意点2:「名義預金」とみなされ相続財産として課税されるケースがある
暦年贈与で最も気を付けたいのが「それが本当に贈与として成立しているか」です。後から税務署に「それは贈与でなく単なる名義預金だ」と否認されては意味がありません。名義預金とは、表面上は子や孫の名義でも、実質的には親や祖父母が管理・支配している預金のことです。
贈与が名義預金と認定されないためには、贈与の成立をきちんと証明できることが重要です。
贈与と認められるための4つのポイント(契約書・振込・口座管理・申告)
- 贈与契約書を作成する:口頭ではなく書面で「いつ、誰が、誰に、いくら贈与したか」という証拠を残します。
- 記録が残るように贈与を実行する:現金手渡しは避け、金融機関の振込で記録を残します。
- 贈与後の管理権限を渡す:贈与後は受贈者が自由に使える状況にし、通帳や印鑑を贈与者が保管し続けないようにします。
- 贈与税申告を適切に実施する:年間110万円を超える場合は必ず申告します。あえて111万円を贈与して少額の申告・納税を行うことで、贈与の事実を税務署に認知させる方法もあります。
注意点3:将来の制度改正で非課税枠が縮小・廃止される可能性がある
暦年贈与を取り巻く制度は、この先も変更される可能性があります。将来的に暦年贈与そのものが縮小・廃止されるリスクはゼロではありません。制度変更に備えた選択肢も考えておくべきでしょう。
ひとつは信託や保険など他のスキームを活用する方法です。「暦年贈与信託」や「家族信託」、生命保険の非課税枠(法定相続人1人あたり500万円)などを組み合わせることで、制度変更があっても想定通りの承継プランを進めやすくなります。
税制改正の動向を常にウォッチし、必要に応じて専門家に相談しながら対策をアップデートしていくことが重要です。なお、相続や贈与に関して相談相手を探している方は、こちらの記事を参考にしてみてください。
トラブルを避ける暦年贈与の方法|契約書作成から贈与税申告までの4ステップ
暦年贈与を確実に行うには、正式な手続きを踏むことが安心です。「贈与しました」と言うだけでは後からトラブルになる可能性があるため、一連の流れを押さえておきましょう。
ステップ1:贈与前に現状の分析を行う
贈与を始める前に、まず整理しておきたいのは主なポイントは以下のとおりです。
贈与前に確認すべきポイント
- 現在の家族構成と将来の相続人候補の確認
- 所有している資産の把握
- どのくらいの相続税が発生するのか
- 納税できるだけの資金があるのか
現在の家族構成と将来の相続人候補を把握します。誰にどのくらい財産を残したいのか、争いになりやすい関係性がないかを、ざっくりでも良いので把握しておきます。
現金・預貯金・株式・投資信託・不動産・生命保険など、所有している資産の一覧を作成しましょう。
相続人や資産状況を踏まえて相続税ラインを超えそうかどうかで、暦年贈与と相続時精算課税の位置づけや、使うべき非課税制度の優先順位が変わってきます。
ステップ2:贈与の証拠として「贈与契約書」を作成する
実際に贈与を行うときは、現金なら振込や振替、不動産や株式なら名義変更や登記手続きなど、相手に権利が移ったことが分かる形を整えることが大切です。書面を交わすことで後日の紛争予防や税務署対策に万全を期すことができます。
贈与契約書には、贈与者・受贈者の氏名・住所、贈与額、贈与日などを明記し、双方が署名押印して1通ずつ保管します。可能であれば公証役場で「確定日付」の付与を受けると、より証明力が高まります。
そのうえで、贈与契約書を作成し、「いつ・誰が・誰に・何を・いくら贈与したか」を書面に残しておくと、後から税務署に説明しやすくなります。場合によっては領収証や残高証明書などもセットで保管しておくと安心です。
ステップ3:現金手渡しではなく銀行振込で財産を移動する
贈与契約書を交わしたら、実際に財産を受贈者に移転します。金銭の贈与であれば贈与者から受贈者へ銀行振込を行うのが一般的です。振込記録が確実な受け渡し証拠になります。現金手渡しは証明が難しいため、なるべく避けましょう。贈与後は、贈与金が入った口座の通帳やカード類は受贈者自身が管理し、贈与者が預かったままにしないことが重要です。
ステップ4:年間110万円を超えたら贈与税の確定申告を行う
暦年贈与で基礎控除110万円を超える贈与を受けた場合、その受贈者は贈与を受けた翌年2月1日から3月15日までの間に贈与税の申告と納税が必要です。国税庁ホームページの「確定申告書等作成コーナー」を使えば申告書を作成でき、e-Taxでの電子申告も可能です。110万円以下で申告不要の場合でも、あえて申告書を提出して税務署に贈与の事実を記録として残しておくことも有効な対策の一つです。
【暦年贈与・相続時精算課税制度・信託】目的別に徹底比較
暦年贈与以外にも、生前に財産を渡す制度として相続時精算課税制度や家族信託などがあります。どの方法を選ぶべきかは、贈与者・受贈者の関係や財産額、目的によって異なります。それぞれの長所短所を比較し、賢く制度を選択しましょう。
| 目的 | 適した制度 | 特徴 |
|---|---|---|
| コツコツ節税したい | 暦年贈与 | 長期間続けることで大きな相続税圧縮効果。 |
| すぐに大きな財産を渡したい | 相続時精算課税制度 | 2,500万円まで贈与税を抑えて一括移転可能。 |
| 手続きを自動化・将来に備えたい | 暦年贈与信託・家族信託 | 手間なく計画的に、判断能力低下後も贈与を継続。 |
1.相続時精算課税|一度に高額な財産(不動産など)を贈与したい人向け
相続時精算課税制度は、60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与について、累計2,500万円までを特別な控除枠とし、その代わり贈与財産をすべて相続時にまとめて精算する仕組みです。2024年改正でこの制度にも年間110万円の基礎控除が設けられました。
- メリット:贈与時の税負担を抑え、不動産など一度に大きな資産を移転できる。
- デメリット:暦年贈与に戻れず、原則として相続税の節税効果はない。
- 向いている人:相続税の心配はあっても、とにかく早くまとまった財産を子や孫に渡したい人。
相続時精算課税については以下質問でも解説しています。
2.暦年贈与信託・家族信託|手続きを専門家に任せたい・将来の認知症に備えたい人向け
暦年贈与信託は、信託銀行に資金を預け、毎年一定額ずつの贈与手続きを代行してもらうサービスです。贈与忘れの防止や、贈与者が認知症になっても計画通り贈与が実行されるメリットがあります。
家族信託は、自分の財産を信頼できる家族に託し、管理や承継方法を契約で定めておく仕組みです。認知症対策として財産の凍結を防ぎ、柔軟な財産承継を実現できます。
これらの信託は、贈与の手間を省きたい方や、ご自身の判断能力の低下に備えたい方にとって有効な選択肢となります。
家族信託については、こちらの記事でも解説しています。あわせてご覧ください。
暦年課税と相続時精算課税はどちらが有利?シミュレーションで比較
相続時精算課税制度と暦年課税ではどちらが得なのか、事例に基づいてシミュレーションしてみましょう。
モデルケース
- 父(資産総額1億円、うち現預金5,000万円、不動産5,000万円)が、子に生前贈与で現預金の一部を渡したいと考えているケース(父の余命や資産増減は考慮しない)。
- ケースA:暦年課税で贈与した場合:子に毎年500万円ずつ10年間贈与(合計5,000万円)。各年の贈与税を払い、父死亡時には過去7年内の贈与分を相続財産に加算。
- ケースB:相続時精算課税で贈与した場合:子に初年度に5,000万円を一括贈与。贈与時に精算課税特別控除を適用し、超過分に一律20%課税。父死亡時に贈与財産5,000万円を相続財産に合算(ただし贈与税額控除あり)。
ケースA:暦年課税で贈与した場合
毎年の贈与額500万円に対し基礎控除110万円を差し引くと課税価格は390万円となり、毎年の贈与税は48.5万円(390万円×15%-10万円)です。10年繰り返すと、贈与税の総額は約485万円です。
なお、父が10年後に死亡したときに直近7年間(仮に最終贈与から7年以内の死亡)の贈与分3,500万円は、相続財産に加算されます。つまり、8,500万円(5,000万円の不動産+加算3,500万円)に対して贈与税が課されます。
ケースB:相続時精算課税で贈与した場合
5,000万円の一括贈与に対し、まず特別控除2,500万円を適用し、さらに基礎控除110万円を差し引いた残り2,390万円に贈与税が課されます。税率20%で計算し、贈与税は478万円(2,390万円×20%)を納付します。
その後、父死亡時にはこの贈与5,000万円が相続財産に合算されますが、既に納付した贈与税478万円は相続税から差し引かれます(贈与税額控除)。
単純に贈与税額だけ比較すると、ケースA(暦年課税)では贈与税の総額は485万円、ケースB(精算課税)は478万円です。そこまで大きな差は発生しませんでした。
ただし、相続税まで含めたトータルでは違いが出ます。ケースAでは7年以上前の贈与1,500万円が相続財産から除外され、節税効果があります。
一方で、ケースBでは贈与したほぼ全額が相続財産に計上されます。暦年贈与と比較して、相続税負担がやや増える可能性が高いでしょう。相続時精算課税制度は、相続時に贈与分を精算する制度なので、生前贈与で相続税を減らす効果は基本的に期待できません。
- つまり、「贈与税+相続税」をトータルで考えた場合、暦年課税のほうが有利になる可能性が高いでしょう。ただし、贈与者の寿命によっても左右されるため、どちらが有利かは一概に言えません。
暦年贈与と相続時精算課税の使い分け方法
暦年贈与と相続時精算課税制度のどちらが適しているかは、状況により異なります。
暦年課税:毎年コツコツ移す「柔軟性重視」の贈与におすすめ
暦年課税は、毎年1月1日〜12月31日までのあいだに受けた贈与の合計額から、基礎控除110万円を差し引いて課税する仕組みです。イメージとしては「毎年110万円分の非課税枠が用意されていて、その範囲内なら贈与税はかからない」「超えた部分だけに贈与税がかかる」と考えると分かりやすいです。
相続前の一定期間(原則7年)の贈与が相続財産に持ち戻される「7年加算」のルールが入っても、暦年贈与には、必要な年だけ行う・金額をその年の状況に応じて変える・受け取る人を変えるなど、設計の柔軟さというメリットがあります。
一方で、毎年の贈与行為をきちんと行い、名義預金にならないように振込や贈与契約書で記録を残す手間があること、長期間にわたると途中で方針転換しづらいデメリットがあります。
相続時精算課税:一気に資産を移す「タイミング重視」の贈与におすすめ
相続時精算課税は、原則として2,500万円までの贈与を非課税とし、それを超えた部分に一律20%の贈与税をかける制度です。ただし、贈与時にいったん計算した税金は「仮払い」のような扱いで、最終的には相続が起きたときに、贈与した財産を含めて相続税で精算します。早めにまとまった財産を移しやすい一方で、「選択したら原則として暦年課税に戻れない」という重さがあります。
この制度が向くのは、自社株や事業用不動産など、価値が将来大きく上がりそうな資産を早めに後継者へ移したいケースや、将来の相続税がある程度かかることが見込まれていて、相続時の精算を前提に長期的な設計をしたいケースです。逆に、相続税がそもそもかからない可能性が高い家庭や、贈与するかどうか迷っている段階では、慎重な検討が必要になります。
信託・生命保険を使った生前贈与の仕組み
信託や生命保険を活用し、生前贈与を行うことも可能です。
暦年贈与信託のメリット・デメリット
暦年贈与信託は、信託銀行などに財産を預け、毎年一定額を子どもや孫に取り崩していく仕組みを使った贈与の方法です。親が直接管理するよりも、信託の枠組みを使うことで、受け取る側の使い込みを防ぎやすくなり、一定のルールに沿って計画的に資産を移していける点がメリットです。
また、信託契約書に基づいて受益権が移転していくため、贈与の事実関係を客観的に説明しやすいという面もあります。
一方で、信託には手数料がかかり、解約や条件変更に制約があるなど、柔軟性が損なわれるデメリットもあります。相続が起きたときの取り扱いも、信託の内容によって変わるため、相続税の評価や配分を踏まえた設計が欠かせません。
生命保険を使った生前贈与のメリット・デメリット
生命保険は、保険料を誰が負担し、誰が被保険者となり、誰が保険金を受け取るかという組み合わせによって、相続税・贈与税・所得税のどれがかかるかが変わります。
一般的に「被保険者=親、保険料負担者=親、受取人=子」という形で契約しておけば、死亡保険金は相続財産として扱われ、相続税の対象になります。この場合、相続人1人あたり500万円の非課税枠があるため、一定の金額までは相続税の負担を抑える効果が期待できます。
一方で、保険料を子が負担し、親を被保険者として子が保険金を受け取る形にすると、死亡保険金は子自身の財産として扱われ、贈与税や相続税ではなく所得税の対象になるなど、設計次第で税目が変わります。
- 保険を使った贈与や相続対策を考えるときは、「節税になる」といった宣伝文句だけで判断せず、自分の家族構成や資産の全体像を踏まえ、「どの税目で・どのタイミングで課税されるのか」を整理することが大切です。
この記事のまとめ
暦年贈与と相続時精算課税の基本構造と2024年改正のポイント、110万円非課税枠と相続前7年加算の考え方、名義預金を避けるための実務、信託や生命保険を組み合わせる際の注意点まで整理しました。まずは家族構成と保有資産を書き出し、「相続税がどの程度かかりそうか」「毎年コツコツ移すのか、一度にまとめて移すのか」といった方針をざっくり決めてみてください。そのうえで、実際の贈与額やタイミングを検討し、少しでも不安や迷いが残る場合は、税理士や専門家、投資のコンシェルジュの無料相談などを活用しながら、ご家庭に合った生前贈与プランへと具体化していきましょう。

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投資のコンシェルジュ編集部は、投資銀行やアセットマネジメント会社の出身者、税理士など「金融のプロフェッショナル」が執筆・監修しています。 販売会社とは利害関係がないため、主に個人の資産運用に必要な情報を、正確にわかりやすく、中立性をもってコンテンツを作成しています。
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暦年贈与
暦年贈与とは、毎年1月1日から12月31日までの1年間に受け取った贈与額を1年ごとに区切って課税する方式をいいます。その年に取得した財産の合計額から基礎控除110万円を差し引いた残額に対して贈与税が計算されるため、同じ贈与者から毎年110万円以内の贈与であれば原則として贈与税はかかりません。 各年の贈与は独立した取引とみなされるため、翌年以降の贈与額や時期をあらかじめ決めてしまうと「定期贈与」と見なされ、一括で課税されるリスクがあります。この回避策として、金額や日付を毎年変えたうえで都度の贈与契約書を作成し、実際に資金を動かした証拠を残すことが推奨されます。 また、2024年以降の税制改正により、生前贈与の持ち戻し期間が死亡前3年から段階的に7年へ延長され、3年超〜7年以内の贈与については合計100万円までが加算免除となる点も踏まえ、相続開始時点での課税影響を見据えた計画が欠かせません。さらに、相続時精算課税制度を選択すると暦年贈与とは併用できなくなるため、どちらの制度を使うかは将来の資産移転方針や税負担を比較して判断する必要があります。
暦年課税
暦年課税とは、1月1日から12月31日までの1年間に贈与された金額に対して課税される仕組みのことをいいます。特に贈与税の計算方法として使われており、年間の贈与額が基礎控除額である110万円を超えた部分について課税されます。たとえば、1年間に親から子へ150万円を贈与した場合、110万円を差し引いた40万円に対して贈与税がかかるというわけです。 この制度は毎年リセットされるため、長期的に少しずつ財産を移す「生前贈与」の手段として活用されることが多いです。ただし、相続税との関係で、亡くなる前の一定期間内の贈与については相続財産に加算される「10年ルール」があるため、計画的な利用が大切です。初心者の方にとっては、贈与に関する基本的な課税制度として、まず最初に押さえておくべき考え方です。
受贈者
受贈者とは、贈与によって財産や権利を受け取る人を指します。日本では贈与税の課税主体は受贈者側にあるため、財産をもらった人が贈与税の申告と納税を行います。 毎年1月1日から12月31日までに受けた贈与額の合計から基礎控除を差し引いた残額に対して税率が適用される仕組みです。資産運用の観点では、贈与を受けると保有資産が増える一方で、贈与税の負担が発生するため、受贈者は税負担を含めたライフプランや運用方針を検討することが大切です。 例えば親から資金を贈与されて投資を始める場合でも、贈与税の基礎控除や特例制度を踏まえ、税額と将来の資産形成のバランスを考慮する必要があります。
贈与者
贈与者とは、自分の財産や権利を無償で他人に譲り渡す人を指します。日本の民法では、贈与は贈与者と受贈者の意思表示が合致して成立する契約と定義されており、贈与者が「与える」と意思を示し、受贈者が「受け取る」と同意することで成立します。 贈与が成立すると贈与者は所有権を失い、以後は原則として財産を取り戻せません。また、贈与された財産に対する贈与税は受贈者が納める仕組みですが、贈与者が贈与時期や額を調整することで、受贈者側の税負担を抑える計画を立てることができます。 資産運用の観点では、生前贈与や相続対策として贈与を活用する場面が多く、贈与者は将来のライフプランや家族の資産配分を見据えたうえで、贈与額やタイミング、適用できる特例の選択などを検討することが重要です。
名義預金
名義預金とは、預金口座の名義人と、実際にそのお金を出した人(出資者)が異なる預金のことを指します。 たとえば、親が自分のお金を子どもの名義で開設した口座に預けているようなケースが代表的です。名義上は子どもの預金でも、実際にお金を出したのが親で、子どもが自由に使えない状態であれば、そのお金は「親の財産」とみなされます。 このような名義預金は、相続の際に「相続財産」として課税対象になる可能性があり、税務署から指摘を受けることもあります。 つまり、「相続対策のつもりで家族名義の口座にお金を移していたつもりが、かえって相続税の対象になってしまう」といったリスクがあるのです。 名義だけでなく、実際にお金を管理・使用しているのは誰なのか?という“実質的な所有者”を明確にしておくことが重要です。 相続や贈与を意識した資産管理を行う際には、形式だけでなく実態をともなった対策が求められます。
贈与契約書
贈与契約書とは、贈与者と受贈者が財産を無償で移転することに合意した事実を文章で残す書類です。民法上、贈与は口頭でも成立しますが、書面を作成しておけば資金移動の経緯や当事者の意思を客観的に示せるため、税務調査や家族内の誤解を未然に防ぐ効果があります。 書式に法律上の定型はありませんが、日付・当事者の氏名と住所・贈与財産の内容・贈与の態様(現金振込や不動産登記など)を明記し、双方が自署捺印したうえで2通作成してそれぞれ保管するのが一般的です。 現金や株式など不動産以外の贈与では印紙税がかからない一方、不動産の無償贈与では200円の収入印紙を貼付して消印をする義務が生じます。連年贈与を暦年課税で扱う場合には毎年内容を変えた贈与契約書を作成し、都度の合意であることを明確にすることで、税務上「定期贈与」と認定されるリスクを下げられます。 このように贈与契約書は、相続対策や資産移転の透明性を高め、将来の税負担を見通すうえで欠かせない役割を果たします。
相続時精算課税制度
相続時精算課税制度とは、60歳以上の父母や祖父母から、18歳以上の子や孫へ財産を贈与する場合に利用できる、特別な贈与税の制度です。この制度を使うと、贈与を受けた年に2,500万円までの金額については贈与税がかからず、それを超えた部分にも一律20%の税率が適用されます。そして、その後贈与者が亡くなったときに、過去の贈与分をすべてまとめて「相続財産」として扱い、最終的に相続税として精算します。 つまり、この制度は「贈与税を一時的に軽くし、あとで相続税の段階でまとめて精算する」という仕組みになっています。将来の相続を見据えて早めに資産を移転したい場合や、大きな金額を一括で贈与したい場合に活用されることが多いです。 ただし、一度この制度を選ぶと、同じ贈与者からの贈与については暦年課税(通常の贈与税制度)には戻せないという制限があるため、利用には慎重な判断が必要です。資産運用や相続対策を計画するうえで、制度の特徴とリスクをよく理解しておくことが大切です。
家族信託
家族信託とは、ご自身の財産を信頼できる家族に託し、その管理や運用を契約で定めた目的に沿って行ってもらう仕組みです。委託者さまは公正証書で信託契約を締結し、現金や不動産、株式などを信託財産として受託者名義に移転します。これにより、たとえ将来認知症を発症されても資産が凍結されず、受益者さまへ生活費や医療費を継続して届けられる点が大きなメリットです。相続発生後は受益権そのものが相続対象となるため、遺産分割協議を簡素化できる効果も期待できます。 もっとも、家族信託には手続きと費用が伴います。不動産を組み入れる場合は信託登記が必要となり、登録免許税や司法書士報酬、公証人手数料が発生いたします。また、受託者さまは信託口座の開設、収支報告書の作成、信託財産とご自身の財産の分別管理など、煩雑な事務を担う義務があります。税務面では契約締結時に贈与税が課税されることは原則ございませんが、信託財産を売却した際の譲渡所得税や信託終了時の相続税は避けられません。そのため、成年後見制度や遺言信託と比較しながら、費用対効果や家族の負担を総合的に検討することが大切です。
暦年贈与信託
暦年贈与信託とは、贈与者が毎年一定額の贈与を継続して行うために、信託の仕組みを利用して計画的に贈与する方法のことです。通常の暦年贈与では、毎年110万円までの非課税枠を使って財産を移転することが可能ですが、信託を使うことで、将来にわたって安定的に贈与を実行しやすくなります。 たとえば、祖父母が孫のために信託口座を設け、そこから毎年110万円ずつ贈与されるように設定することで、手続きの簡素化と贈与の確実性が得られます。受贈者が未成年の場合や、判断能力に不安がある場合にも、信託を活用することで管理を専門家に任せられるという利点もあります。ただし、税務上の取り扱いには注意が必要であり、形式的な信託でも「一括贈与」とみなされるリスクがあるため、税理士などの専門家に相談することが望ましいです。
特例税率
特例税率とは、通常の税率とは異なり、一定の条件を満たす場合に適用される優遇された税率のことです。資産運用や相続・贈与に関する場面では、特定の制度を利用することで、この特例税率が使えることがあります。たとえば、贈与税においては、父母や祖父母から子や孫へ教育資金や住宅取得資金を贈与した場合、一定の非課税枠や軽減税率が適用されることがあります。 このような特例は、個人の資産移転を円滑にし、税負担を軽くすることを目的としています。ただし、特例を受けるためには所定の手続きや条件を満たす必要があり、利用には注意が必要です。






