
贈与税の完全ガイド|課税ルール・非課税制度・申告実務まで徹底解説(2025年版)
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公開:
2025.06.26
更新:
2025.06.26
2024年の税制改正により、生前贈与のルールが大きく変わりました。これまで相続開始前3年分だった「持ち戻し」期間は最長7年に延長され、住宅取得等資金や相続時精算課税制度にも新たな要件が加わっています。知らずに進めた贈与が、後に「名義預金」や「定期贈与」と判定され、想定外の追徴課税につながるケースも増えています。
本記事では、2024年改正の核心ポイントから、期限付き特例の活用法、贈与税申告の流れ、e-Taxでの注意点、そして最新の税務署チェックリストまで、実務に直結する情報を体系的に解説します。
サクッとわかる!簡単要約
2024年改正で導入された7年加算延長と相続時精算課税の年110万円非申告枠を軸に、住宅資金1,000万円・教育資金1,500万円・結婚子育て1,000万円の非課税枠を比較表とシミュレーションで整理します。名義預金・定期贈与のリスク回避策やe-Tax申告の実務ステップ、暦年課税と精算課税の選択基準、専門家に相談すべきタイミングまで網羅。読後には、今すぐ安心して生前贈与計画に着手できる判断軸と行動手順が手に入ります。
贈与税の基本構造
贈与税とは、毎年1月1日から12月31日までの間に、贈与を受けた財産の合計に対して課税される税金です。原則として、受贈者(贈与を受けた人)ごとに年間110万円の基礎控除があり、1年間にもらった財産の合計額が110万円以下であれば贈与税はかかりません。
贈与税の基本構造
- 贈与者(贈与をする人)
- 受贈者(贈与を受ける人。贈与税を実際に支払うのは受贈者)
110万円を超える部分については累進税率を適用し、計算した税額に基づいて、受贈者(贈与を受けた人)が納税します。
贈与者と受贈者の関係によって2通りの税率表(一般税率と特例税率)があり、例えば両親や祖父母から18歳以上の子・孫への贈与には特例税率が、それ以外(夫婦間や兄弟姉妹、未成年の子への贈与など)には一般税率が適用されます。
暦年課税と税率速算表(一般・特例)
暦年課税とは、毎年の贈与額に対して基礎控除110万円を差し引いた後、残額に累進税率を課す贈与税の計算方法です。
特例贈与財産用(父母や祖父母などの直系尊属からの贈与)
特例贈与財産は、受贈者が贈与を受けた年の1月1日において18歳以上で、直系尊属(父母や祖父母など)から贈与により取得した財産です。
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200 万円以下 | 10 % | ― |
400 万円以下 | 15 % | 10 万円 |
600 万円以下 | 20 % | 30 万円 |
1,000 万円以下 | 30 % | 90 万円 |
1,500 万円以下 | 40 % | 190 万円 |
3,000 万円以下 | 45 % | 265 万円 |
4,500 万円以下 | 50 % | 415 万円 |
4,500 万円超 | 55 % | 640 万円 |
なお、直系尊属については以下のFAQで解説しています。あわせて参考にしてみてください。
一般贈与財産用(特例贈与財産用以外の贈与)
特例贈与財産以外の贈与は「一般贈与財産」に該当します。具体的には、兄弟間の贈与や夫婦間の贈与、親から子への贈与で子が未成年者の場合などは、一般贈与財産の税率表に基づいて計算します。
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200 万円以下 | 10 % | ― |
300 万円以下 | 15 % | 10 万円 |
400 万円以下 | 20 % | 25 万円 |
600 万円以下 | 30 % | 65 万円 |
1,000 万円以下 | 40 % | 125 万円 |
1,500 万円以下 | 45 % | 175 万円 |
3,000 万円以下 | 50 % | 250 万円 |
3,000 万円超 | 55 % | 400 万円 |
基礎控除額を差し引いた後の贈与額が200万円を超えると、特例贈与財産のほうが控除額が大きくなります。つまり、課税対象となる贈与額が減るため、同じ贈与でも特例贈与財産のほうが贈与税の負担を抑えられるのです。
【2024年改正】相続前7年加算ルールと注意点
相続税では、生前贈与による持ち戻し加算制度があります。これは、被相続人が亡くなる前一定期間内に贈与していた財産を相続財産に加算し、相続税の課税対象に含める仕組みです。
2023年までは、持ち戻し期間が「死亡前3年以内」でしたが、2024年以降の贈与については最終的に「死亡前7年以内」の贈与が持ち戻し対象となります(段階的に延長される)。具体的には2024年1月1日以降の贈与が対象となり、2031年1月1日以降の相続から7年間の贈与がすべて加算されます。
- この仕組みは、相続税を抑えることを目的として、亡くなる直前に生前贈与をすることを防ぐ目的があります。持ち戻し期間の延長により、これまで以上に生前贈与による相続税対策を、計画的に考えなければなりません。
持ち戻しの対象になる人
贈与を受けた全員が、持ち戻しの対象になるわけではありません。持ち戻しの対象となるのは、原則として将来相続人になる人への贈与です。
持ち戻しの対象になる人
- 配偶者
- 子
- 直系尊属
- 兄弟姉妹
※直系尊属や兄弟姉妹は、上位の相続人がいる場合は相続人にならない
例えば、「父・母・長男・長女」という家族で考えてみましょう。父が相続対策で母・長男・長女に生前贈与をしても、7年以内に亡くなってしまうと生前贈与分を相続財産にカウントしなければなりません。つまり、生前贈与による節税効果は得られません。
持ち戻しの対象にならない人
以下のように、将来相続人にならない人への贈与は持ち戻しの対象外です。
持ち戻しの対象になる人
- 孫
- 子の配偶者
- 相続放棄や遺産分割協議により遺産を相続しない相続人
孫や子の配偶者などへの贈与は、贈与の翌日に亡くなった場合でも持ち戻しの対象外です。
なお、持ち戻しの対象となるのは「相続または遺贈により財産を取得した者」と定義されており、相続放棄や遺産分割協議により遺産を相続しない相続人も該当します。
相続対策を進めるには、相続税の基本的な知識が欠かせません。相続税の基礎控除に関しては、以下のFAQをご覧ください。
非課税制度の全体マップ
基礎控除以外にも、贈与税負担を軽減できる非課税の特例制度が複数用意されています。それぞれ適用期限や上限額、対象者の要件が異なるため、全体像を把握した上で適切に組み合わせましょう。
以下で、主要な非課税制度について上限額・適用期限・所得制限・必要な手続きなどを解説します。
1.年110万円の基礎控除
- 上限額:贈与者ごとに年間110万円まで(基礎控除)
- 適用期限:恒久措置(毎年利用可能)
- 所得制限:なし(受贈者の所得に関係なく適用)
- 要手続き:不要(110万円以下なら贈与税申告不要)※贈与の事実が明確になるよう記録推奨
110万円の基礎控除は、暦年課税における基本の非課税枠です。富裕層の生前贈与対策では、この枠を毎年コツコツ活用するのが王道とされています。
例えば子や孫一人につき毎年110万円ずつ贈与すれば、10年で1,100万円、20年で2,200万円を無税で財産を移転できます。
しかし、あまりに規則的・定型的な贈与は注意が必要です。例えば「総額1,000万円を10年間で毎年100万円ずつ贈与する」といった合意を明確にしてしまうと、それは各年100万円の贈与とは認められず「1,000万円を一括贈与したもの(定期贈与)」と見なされる可能性があるためです。
視点 | 連年贈与 | 定期贈与 |
---|---|---|
法的性質 | 毎年ごとに独立した単発の贈与契約を結ぶ | あらかじめ総額・回数・金額などを包括的に約束した贈与契約 |
税務上の扱い | 各年ごとに基礎控除(110万円)・税率を適用し、暦年課税で計算 | 税務署は最初の年に総額を一括贈与したとみなし、初年度に全額の贈与税が課税される |
典型例 | 毎年、必要に応じて110万円や150万円などを都度振込し、その都度「贈与契約書」を作成 | 「10年間、毎年100万円ずつ子へ贈る」という事前の取り決め |
リスク | 形式が整っていれば課税上の問題は少ない | 税務調査で認定されると追徴課税+延滞税・加算税の可能性 |
定期贈与とみなされると、基礎控除が適用されるのは初年度だけで、「1,000万円-110万円=890万円」に対して贈与税が発生します。この場合、177万円の贈与税を納付しなければなりません。
毎年基礎控除内に収める場合でも、贈与の都度で完結したものとして契約書を交わしたり、資金移動の記録を残したりして、名義預金と疑われないようにすることが大切です。
2.住宅取得等資金贈与(2026年12月31日まで)
- 上限額:省エネ等住宅の場合1,000万円、それ以外の住宅の場合500万円
- 適用期限:令和6年(2024年)~令和8年(2026年)12月31日までの贈与
- 所得制限:受贈者の合計所得金額2,000万円以下(※住宅の床面積40~50㎡の場合は1,000万円以下)
- 手続き:贈与税の申告要(住宅性能証明書等を添付)。資金を翌年3月15日までに住宅取得に充当し、同日までに居住見込みであること。
住宅取得等資金贈与とは、父母・祖父母など直系尊属から住宅取得や増改築の資金援助を受ける場合に利用できる、期間限定の非課税枠です。受贈者1人につき、最大で1,000万円(省エネ等住宅の場合)まで贈与税が非課税になります。
例えば、高断熱・省エネ性能等級が一定基準(ZEH水準)を満たす新築住宅なら1,000万円まで、それ以外の住宅なら500万円までが非課税です(省エネ等住宅の認定基準は2024年税制改正で引き上げられ、令和6年以降の新築では断熱等性能等級5かつ一次エネルギー消費量等級6以上が求められます)。
なお、住宅取得等資金贈与は暦年課税の110万円基礎控除と併用が可能です。例えば省エネ住宅に係る1,000万円の贈与と同時に110万円までの現金を贈与すれば、合計1,110万円を非課税で贈与できます
適用を受けるには受贈者が贈与年の1月1日時点で18歳以上であること、贈与者が父母や祖父母であること(※配偶者の親からの贈与は対象外)などの要件があります。受贈者の所得要件(2,000万円以下)もあり、高収入の子には使えない点に留意が必要です。
贈与を受けた翌年3月15日までに確定申告(贈与税の申告)をする必要があり、贈与税の申告書に住宅取得等資金非課税の明細書を添付し、住宅の契約書や住宅性能証明書、登記事項証明書など所定の書類を提出します。
3.結婚・子育て資金贈与(2027年3月31日まで)
- 上限額:受贈者1人につき1,000万円まで非課税(※うち結婚関連費用は最大300万円まで)
- 適用期限:令和9年(2027年)3月31日まで(契約締結・預入期限)
- 所得制限:受贈者の前年合計所得金額が1,000万円以下
- 手続き:信託銀行・銀行等で専用口座を開設し「結婚・子育て資金管理契約」を締結。金融機関を経由して所定の非課税申告書を提出し、支出の都度領収書を提出。
結婚・子育て資金贈与とは、祖父母や両親が、結婚・出産・育児に備える資金をまとめて子や孫に贈与する場合の非課税制度です。受贈者が18歳以上50歳未満であることが条件で、金融機関で結婚・子育て資金口座を開設し、そこに贈与資金を預け入れる形で利用します。
贈与資金の使途は婚礼費用(挙式・披露宴費用、新居の敷金等)や不妊治療・出産費、子の医療費や保育料など多岐にわたり、具体的な対象項目が定められています。結婚関連費用については300万円の支出上限がありますが、子育て資金と合わせて総額1,000万円まで非課税となります。
【結婚資金】
非課税対象となる費目 | 非課税対象外となる費目 |
---|---|
【挙式、披露宴関連費用】 ・会場費 ・衣装代 ・引き出物代 ・写真・映像代 など | 【挙式、披露宴に直接関係しない費用】 ・婚活費用 ・エステ代 ・結納式費用 ・婚約指輪・結婚指輪の購入 ・新婚旅行費用 など |
【新居を賃借する際の費用】 ・賃料、共益費 ・敷金・礼金 ・仲介手数料 ・引っ越し費用 | 【生活費・設備費】 ・駐車場代 ・水道光熱費 ・家電・家具の購入費用 など |
【子育て資金】
非課税対象となる費目 | 非課税対象外となる費目 |
---|---|
【妊娠・出産関連費用】 ・不妊治療(人工授精・体外受精等) ・妊婦健診費用 ・出産の入院費用 【子どもの医療・保育費】 ・治療費 ・予防接種 ・健診費用 ・幼稚園 ・保育園費用 | 処方箋に基づかない医薬品や交通費 |
単に現金を手渡すだけでは適用されないため、必ず信託銀行や銀行・証券会社との間で専用契約を結び、贈与資金を信託受益権や預金等の形で管理してもらいましょう。受贈者(子・孫)は契約を結んだ金融機関に結婚・子育て資金非課税申告書を提出し、贈与額1,000万円までは贈与税非課税となります。ただし受贈者の前年所得が1,000万円を超える場合、この非課税措置は利用できません。
資金の払出し時には、領収書等の証拠書類を金融機関に提出する必要があり、使途管理が求められます。制度の適用期間は受贈者が50歳に達するまでで、口座残高がゼロになるか50歳到達で契約終了します。
受贈者が50歳を迎え契約終了時に残額があれば、その残額は贈与税の課税対象となり、一括して贈与税申告が必要です。また契約期間中に贈与者が死亡した場合、残額(管理残額)は受贈者が相続で取得したものとみなされ、相続税の課税対象となる点に注意しましょう。
4.教育資金一括贈与
- 上限額:受贈者1人につき1,500万円まで非課税(※学校等以外への支払いはそのうち500万円まで)
- 適用期限:令和8年(2026年)3月31日まで(信託設定・預入期限)
- 所得制限:受贈者の前年合計所得金額が1,000万円以下(2019年改正で追加要件)
- 手続き:信託銀行等で専用口座・信託契約を設定。金融機関等を経由して非課税申告書提出、支出の都度領収書提出。受贈者30歳到達で契約終了。
教育資金一括贈与とは、祖父母や父母から教育資金をまとめて贈与する場合の非課税措置です。受贈者が30歳未満であることが条件で、贈与資金は信託銀行や銀行で教育資金管理契約を結んで管理します。
非課税となる上限額は1人あたり1,500万円で、このうち学校以外(塾・習い事・留学渡航費など)への支出分は500万円が限度です。
- 例えば、大学や学校への入学金・授業料などは全額で最大1,500万円まで認められますが、ピアノ教室や塾代など学校等以外への支払いは合計500万円までしか非課税対象になりません。両方の費用を贈与する場合、まず学校等への支払いに非課税枠を優先的に充当し、それぞれの上限内で合計1,500万円までが非課税となります。
手続きは基本的に結婚・子育て資金贈与と類似しており、金融機関に教育資金非課税申告書を提出して預金口座等に資金を預け入れ、支払いの際に領収書を提出します。受贈者が30歳に達すると契約は終了し、残っている資金があればその時点で受贈者への贈与と見なされ、贈与税の課税対象となります(30歳までに使い切ることが前提)。
5.相続時精算課税制度(2,500万円+年110万円枠、申告不要要件)
- 上限額:特別控除枠2,500万円(累計)+基礎控除110万円/年(2024年以降)
- 適用期限:恒久制度(選択時から贈与者死亡まで適用)
- 所得制限:なし(贈与者・受贈者の所得による制限なし)
- 手続き:適用開始時に税務署へ「相続時精算課税選択届出書」を提出し贈与税申告。※2024年以降、年間110万円以下の贈与は申告省略可。
相続時精算課税は、高齢世代から子・孫世代への大口贈与を促すための制度です。原則60歳以上の親・祖父母(贈与者)から、18歳以上の子・孫(受贈者)への贈与が対象となり、受贈者ごとに累計2,500万円までの贈与に対する贈与税がかかりません(超過分は一律20%の贈与税)。
「精算」という言葉があるように、相続時精算課税制度を選択すると、贈与者が亡くなった際にそれまでの贈与財産を相続財産に合算して相続税を計算・精算します。いわば「贈与時には税金を猶予し、最後にまとめて相続税で清算する」制度といえるでしょう。
2024年の改正ポイントとして、相続時精算課税制度にも新たに年間110万円までの基礎控除枠が設けられました。改正後は、相続時精算課税を選択中の贈与でも1年間に110万円以下の贈与は非課税で、しかもその110万円部分は2,500万円の特別控除枠にもカウントしません。さらに、その110万円は将来の相続財産に持ち戻す必要もありません。
つまり、暦年課税と同様に毎年110万円までなら全く課税も報告も不要で、超えた分だけを相続時精算課税として申告・管理すればよい柔軟な仕組みに変わりました。2024年以降は年間110万円以下の贈与は申告不要となったため、多くの方にとって使いやすい制度となっています。
制度利用の手順としては、最初の贈与の際に税務署へ「相続時精算課税選択届出書」を提出し、以後は贈与の都度申告を行います(110万円以下なら不要)。一度この制度を選ぶと、その贈与者から受ける贈与は全て相続時精算課税で扱われ、暦年課税には戻れません。
デメリットとしては、相続時に結局精算されるため節税にならないケースが多いこと、贈与後に贈与者が長生きすると相続開始まで資産が受贈者側で遊休化しやすいことなどが挙げられます。暦年課税とどちらが有利かは、贈与者の資産規模や余命や受贈者の資金需要などによって異なるため、ケースバイケースで専門家とシミュレーションし、最適な方法を選びましょう。
生命保険を活用して、相続税対策を進めることも可能です。以下の記事で、詳しく解説しています。
確定申告が「必要なケース」と「不要なケース」
贈与税の申告は、通常贈与額が基礎控除110万円を超えた場合に受贈者に義務が生じます。特例制度を使って税額がゼロになる場合でも、申告書の提出が必要なケースがあります。
一方で、相続時精算課税利用中の少額贈与など申告が省略できるケースもあります。ここでは、非課税でも申告が必要なケースについて整理します。
非課税でも申告が必要になる特殊ケース(住宅取得・配偶者控除等)
特定により贈与税が発生しない場合でも、特例適用のために申告が必要なケースがあります。
申告が必要なケース
- 住宅取得等資金贈与
- 相続時精算課税制度(初年度は基礎控除以下でも必ず手続きが必要)
- 結婚・子育て資金贈与(金融機関経由で届出)
- 教育資金一括贈与の非課税(金融機関経由で届出)
例えば父から子へ1,000万円以内の住宅資金の贈与が行われても、翌年の3月15日までに手続きをしなければ、非課税特例を受けられません。
なお、相続時精算課税制度を利用する場合、贈与を受けた年の翌年2月1日~3月15日までに、贈与税の申告とあわせて「相続時精算課税選択届出書」の届出が必要です。
贈与税の申告フロー・必要書類・e-Taxの留意点
贈与税申告の流れは以下のとおりです。
贈与税の申告フロー
- 申告要否の確認:前年1月~12月の受贈額を集計し、贈与者ごとに110万円を超えるか、または特例適用の申告要件があるか確認する
- 申告書の作成:贈与税申告書(第1表および第2表)に必要事項を記入する。国税庁の確定申告書作成コーナーでは贈与税にも対応しており、画面に従って金額等を入力する
- 必要書類の添付:贈与の態様に応じて戸籍謄本や住民票、契約書コピー、特例適用の証明書類などを用意する。例えば相続時精算課税を開始する年は受贈者と贈与者の戸籍関係書類や選択届出書、住宅資金非課税を使う場合は住宅性能証明書や工事契約書、配偶者控除なら婚姻期間を証明する戸籍と不動産の登記事項証明書など
- 申告書提出と納税:申告期限は贈与を受けた年の翌年3月15日。この日までに申告書を税務署に提出し、納付税額がある場合は納税も完了させる
提出方法は窓口持参や郵送のほか、現在はe-Tax(電子申告)も利用できます。e-Taxを使えば自宅からオンラインで申告が可能で、マイナンバーカード等で本人認証を行います。
e-Tax利用時の留意点として、添付書類の提出期限が挙げられます。電子申告で書類を添付し忘れた場合でも後から郵送で提出することは可能ですが、申告期限内に提出がないと特例の適用が認められない恐れがあるため、注意しましょう。
申告後に納税がある場合は、現金納付のほか口座振替やクレジットカード納付も選択できます。贈与税は一括納付が原則ですが、高額の場合は延納(分割納付)や物納(不動産で納付)制度も相続税同様に用意されています。ただし、適用条件が厳しいため、納税資金を計画的に準備することが大切です。
4.制度活用シミュレーション
非課税枠や制度を理解したところで、具体的な活用シミュレーションを考えてみます。富裕層にとって重要なのは、複数の特例を組み合わせて、できるだけ無税で資産移転を図る戦略です。
これにより、コストをかけずに資産の移転を図りつつ、相続税を軽減できます。相続発生までの年数や家族のライフイベントに応じて最適な手順を踏むために、具体的な贈与戦略例を解説します。
住宅+結婚資金を段階的に贈与するモデルケース
モデルケース
- 祖父(70代、資産2億円)が孫夫婦に対し、結婚と住宅取得の支援を段階的に行う。孫は現在25歳で近く結婚予定、数年内に住宅購入も検討している。目標として、結婚資金300万円と住宅資金1,000万円を非課税で援助したい。
今回のケースでは、具体的に以下のような手順で贈与を進めるとよいでしょう。
結婚資金の一括贈与 | 孫が結婚する年(2025年)に、祖父は孫名義で結婚・子育て資金贈与の専用口座を開設し、まず300万円を贈与する(結婚関連は上限300万円まで非課税) |
---|---|
住宅資金の贈与 | 孫夫婦が住宅を購入するタイミング)で、祖父から孫に住宅取得等資金の非課税特例を活用して1,000万円を贈与する |
110万円枠の活用 | 上記大口贈与とは別に、祖父母は孫夫婦に対し毎年110万円ずつ(祖父から孫、祖母から孫、それぞれ年間110万円)現金贈与を検討する |
結婚資金の一括贈与で300万円、住宅資金の贈与で1,000万円を贈与すれば、トータルで1,300万円を無税で孫に渡せます。孫の生活支援をしつつ、孫は贈与税を納めずに新生活の準備を進められるため、一石二鳥です。
結婚資金の一括贈与と住宅資金の贈与とは別に、暦年贈与を活用することも可能です。年間で110万円まで非課税で贈与できるため、祖父の寿命次第では2,000万円以上の資産を非課税で贈与できます。
相続時精算課税と暦年課税の比較
相続時精算課税制度と暦年課税ではどちらが得なのか、事例に基づいてシミュレーションしてみましょう。
モデルケース
- 父(資産総額1億円、うち現預金5,000万円、不動産5,000万円)が、子に生前贈与で現預金の一部を渡したいと考えているケース(父の余命や資産増減は考慮しない)。
- ケースA(暦年課税):子に毎年500万円ずつ10年間贈与(合計5,000万円)。各年の贈与税を払い、父死亡時には過去7年内の贈与分を相続財産に加算。
- ケースB(相続時精算課税):子に初年度に5,000万円を一括贈与。贈与時に精算課税特別控除を適用し、超過分に一律20%課税。父死亡時に贈与財産5,000万円を相続財産に合算(ただし贈与税額控除あり)。
ケースA(暦年課税)の場合
毎年の贈与額500万円に対し基礎控除110万円を差し引くと課税価格は390万円となり、毎年の贈与税は48.5万円(390万円×15%-10万円)です。10年繰り返すと、贈与税の総額は約485万円です。
なお、父が10年後に死亡したときに直近7年間(仮に最終贈与から7年以内の死亡)の贈与分3,500万円は、相続財産に加算されます。つまり、8,500万円(5,000万円の不動産+加算3,500万円)に対して贈与税が課されます。
ケースB(精算課税)の場合
5,000万円の一括贈与に対し、まず特別控除2,500万円を適用し、さらに基礎控除110万円を差し引いた残り2,390万円に贈与税が課されます。税率20%で計算し、贈与税は478万円(2,390万円×20%)を納付します。
その後、父死亡時にはこの贈与5,000万円が相続財産に合算されますが、既に納付した贈与税478万円は相続税から差し引かれます(贈与税額控除)。
単純に贈与税額だけ比較すると、ケースA(暦年課税)では贈与税の総額は485万円、ケースB(精算課税)は478万円です。そこまで大きな差は発生しませんでした。
ただし、相続税まで含めたトータルでは違いが出ます。ケースAでは7年以上前の贈与1,500万円が相続財産から除外され、節税効果があります。
一方で、ケースBでは贈与したほぼ全額が相続財産に計上されます。暦年贈与と比較して、相続税負担がやや増える可能性が高いでしょう。相続時精算課税制度は、相続時に贈与分を精算する制度なので、生前贈与で相続税を減らす効果は基本的に期待できません。
- つまり、「贈与税+相続税」をトータルで考えた場合、暦年課税のほうが有利になる可能性が高いでしょう。ただし、贈与者の寿命によっても左右されるため、どちらが有利かは一概に言えません。
贈与に関するよくある落とし穴と対策
特例制度を活用すれば贈与税は大幅に軽減できますが、一方で思わぬ落とし穴も存在します。非課税のつもりが、後になって課税されてしまうケースも少なくありません。
最後に、富裕層の生前贈与で陥りがちなミスとその対策をまとめます。
名義預金・定期贈与認定リスク
贈与税対策の落とし穴でまず挙がるのが、「渡したつもりが渡したと認められない」ケースです。典型的な事例が「名義預金」です。
祖父母が孫名義の預金口座を開設し、毎年110万円ずつ振り込んでいても、孫がその事実を知らず口座管理も祖父母が行っている場合は贈与とみなされません。正式な贈与をするには贈与者と受贈者双方の合意が必要であるため、税務調査では「贈与者単独の意思で資金を移しただけで、受贈者との合意がない」と見なされるのです。
- 名義預金と疑われないためには、贈与したお金は受贈者自身に管理させることが大切です。通帳・印鑑を預け、受贈者が自由に引き出せる状態にしておきます。また贈与契約書を毎年作成し、「◯年◯月◯日に◯円を贈与する。贈与者〇〇、受贈者〇〇」と双方署名押印しておけば、合意の証拠となります。
名義預金以外にも、定期贈与のリスクがあります。「毎年100万円ずつ10年間贈与する契約」を交わしてしまうと、税務上は最初の年に1,000万円を贈与したと扱われます。基礎控除も一度きりしか使えず、残り890万円に対して累進税率で贈与税が課せられてしまいます(1年ごとなら非課税で済むものが、一括課税となる)。
定期贈与と認定されると大幅な課税となるため、贈与はその都度独立した契約とすること、贈与者の生前に「○年間定期で渡す」などと書面に残さないことが重要です。
生命保険が、贈与税の対象になるケースもあります。以下のFAQで詳しく解説しているため、参考にしてみてください。
非課税枠残金が相続税課税対象になるパターン
「非課税だから安心」と思っていたものが、後になって課税されるケースもあります。代表例が、結婚・子育て資金や教育資金の特例で残ってしまった未使用資金です。
結婚・子育て資金贈与では50歳で契約終了して残額がある場合、教育資金贈与では30歳で契約終了して残額がある場合は贈与税の課税対象です。
さらに、両制度とも贈与者の死亡時に残高があると、それが受贈者の相続財産に加算され相続税が課されます。せっかく非課税で渡したのに、使い切らず残しておくと結局課税されてしまうのです。
例えば、結婚資金で1,000万円を孫へ贈与したものの、孫が独身のまま祖父が亡くなった場合、祖父の死亡時にすべて相続財産としてカウントします。これでは、当初見込んだ節税効果が損なわれてしまいます。
- 贈与は「資金を渡すこと自体」が目的化しがちです。非課税で贈与をするためにも、計画段階から「贈与したお金を確実に目的どおり使い切るプラン」を立てるべきです。
契約書・領収証保存の実務
生前贈与対策では、書類の整備・保存も落とし穴になりがちです。税務署から指摘を受けても適切な書類がないと、正当な非課税枠まで否認されかねません。
まず、贈与契約書や合意書の保存です。先述のとおり名義預金や定期贈与を避けるためには、贈与の事実と内容を記録しておくことが大切です。
贈与契約書に記載すべき内容
- 日付
- 当事者氏名
- 贈与する金額や財産の詳細
- 贈与の日時を記載し
- 双方が署名押印
契約書は2部作成し贈与者・受贈者がそれぞれ保管します。紙での保存が基本ですが、電子データ上で保管しても問題ありません。
教育資金一括贈与の場合は教育資金口座から、結婚・子育て資金贈与の場合は結婚資金口座から、支払いをした際に領収書の原本を金融機関に提出する必要があります。あわせて、自分でもコピーを控えておくと安心です。
金融機関から税務署に報告がいくとはいえ、万一税務署から照会が来た際に手元に証拠がないと、対応に苦慮します。特定の目的で支出したことを証明するためにも、大切に保管しましょう。
よくある質問(FAQ)
この記事のまとめ
生前贈与は「毎年少額を積み上げる暦年課税」と「大口をまとめて渡す精算課税」で総税負担が大きく変わります。2024年改正で7年加算延長と年110万円非申告枠が生まれた今こそ、基礎控除・住宅資金・教育資金・結婚子育て資金の特例を組み合わせ、名義預金や定期贈与を避けつつ計画的に資産を移転することが重要です。e-Taxでのオンライン申告や添付書類管理まで確認し、専門家と連携して最適な贈与プランを実行すれば、相続時の税負担を抑えつつ円滑な世代間資産移転を実現できます。

金融系ライター
厚生労働省や保険業界・不動産業界での勤務を通じて、社会保険や保険、不動産投資の実務を担当。FP1級と社会保険労務士資格を活かして、多くの家庭の家計見直しや資産運用に関するアドバイスを行っている。金融メディアを中心に、これまで1,000記事以上の執筆実績あり。
厚生労働省や保険業界・不動産業界での勤務を通じて、社会保険や保険、不動産投資の実務を担当。FP1級と社会保険労務士資格を活かして、多くの家庭の家計見直しや資産運用に関するアドバイスを行っている。金融メディアを中心に、これまで1,000記事以上の執筆実績あり。
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関連質問
関連する専門用語
受贈者
受贈者とは、贈与によって財産や権利を受け取る人を指します。日本では贈与税の課税主体は受贈者側にあるため、財産をもらった人が贈与税の申告と納税を行います。 毎年1月1日から12月31日までに受けた贈与額の合計から基礎控除を差し引いた残額に対して税率が適用される仕組みです。資産運用の観点では、贈与を受けると保有資産が増える一方で、贈与税の負担が発生するため、受贈者は税負担を含めたライフプランや運用方針を検討することが大切です。 例えば親から資金を贈与されて投資を始める場合でも、贈与税の基礎控除や特例制度を踏まえ、税額と将来の資産形成のバランスを考慮する必要があります。
累進税率
累進税率とは、所得が高くなるほど段階的に税率が上がる仕組みを累進税率といいます。一定の所得幅ごとに「税率区分」という階段が設けられており、課税所得がその階段を上がるごとに、超えた部分に対してより高い税率が適用されます。 この方式は所得が多い人ほど税負担能力が高いという考え方に基づいており、税負担の公平性を保ちつつ、低所得者の可処分所得を守ることを目的としています。投資で得た利益や給与収入が増えると、課税所得が上がり累進税率の高い区分に入る可能性があるため、資産運用の計画を立てる際には、控除の活用や課税所得の把握が重要になります。
贈与者
贈与者とは、自分の財産や権利を無償で他人に譲り渡す人を指します。日本の民法では、贈与は贈与者と受贈者の意思表示が合致して成立する契約と定義されており、贈与者が「与える」と意思を示し、受贈者が「受け取る」と同意することで成立します。 贈与が成立すると贈与者は所有権を失い、以後は原則として財産を取り戻せません。また、贈与された財産に対する贈与税は受贈者が納める仕組みですが、贈与者が贈与時期や額を調整することで、受贈者側の税負担を抑える計画を立てることができます。 資産運用の観点では、生前贈与や相続対策として贈与を活用する場面が多く、贈与者は将来のライフプランや家族の資産配分を見据えたうえで、贈与額やタイミング、適用できる特例の選択などを検討することが重要です。
生前贈与加算
生前贈与加算とは、被相続人が亡くなる前に行った贈与を相続財産に「持ち戻し」て相続税を計算し直す仕組みです。従来は「死亡前3年以内」の贈与が対象でしたが、令和6年(2024年)以降の贈与から段階的に対象期間が延長され、2031年1月1日以降に発生する相続では「死亡前7年以内」の贈与まで加算されます。また延長された4年間(3年超~7年以内)の贈与については、総額100万円までが加算対象から除外される優遇措置が設けられています。この制度は、死亡直前の駆け込み贈与による節税を防ぎ税負担の公平性を確保することを目的としており、暦年贈与を利用した資産移転の効果が小さくなるため、相続時精算課税制度や早期贈与の活用など計画的な相続対策がより重要になります。 従来は「死亡前3年以内」の贈与が対象でしたが、令和6年(2024年)以降の贈与から段階的に対象期間が延長され、2031年1月1日以降に発生する相続では「死亡前7年以内」の贈与まで加算されます。 また延長された4年間(3年超~7年以内)の贈与については、総額100万円までが加算対象から除外される優遇措置が設けられています。 この制度は、死亡直前の駆け込み贈与による節税を防ぎ税負担の公平性を確保することを目的としており、暦年贈与を利用した資産移転の効果が小さくなるため、相続時精算課税制度や早期贈与の活用など計画的な相続対策がより重要になります。
定期贈与
定期贈与とは、あらかじめ贈与の期間と各年の金額を取り決めたうえで、一定期間にわたり継続して財産を渡す贈与を指します。たとえば「毎年110万円を10年間贈与する」と契約した場合、契約した年に「定期金に関する権利」を一括で取得したとみなされ、その合計額(1,100万円)に対して贈与税が課税される点が特徴です。 毎年ごとに契約を結び直す暦年贈与とは異なり、定期贈与では各年の贈与額が110万円以下であっても課税対象となるため、相続対策として利用する際は、贈与契約の形態や贈与税の基礎控除の活用方法を慎重に検討する必要があります。
連年贈与
連年贈与とは、毎年別々の意思表示と手続きに基づいて財産を贈与する方法を指します。各年の贈与は独立した暦年贈与とみなされ、贈与税はその年に受け取った金額の合計から基礎控除110万円を差し引いた残額に対して課税されます。 あらかじめ「10年間毎年100万円を渡す」と決めてしまうと合計額に贈与税がかかる定期贈与とみなされるおそれがあるため、連年贈与を維持するには贈与契約書を毎年作成し、金額や時期を適度に変えるなどして「都度合意」の形を整えることが重要です。 この方法を適切に運用すれば、非課税枠を毎年活用しながら長期的に資産を移転でき、相続時の課税対象財産を減らす効果が期待できます。
贈与契約書
贈与契約書とは、贈与者と受贈者が財産を無償で移転することに合意した事実を文章で残す書類です。民法上、贈与は口頭でも成立しますが、書面を作成しておけば資金移動の経緯や当事者の意思を客観的に示せるため、税務調査や家族内の誤解を未然に防ぐ効果があります。 書式に法律上の定型はありませんが、日付・当事者の氏名と住所・贈与財産の内容・贈与の態様(現金振込や不動産登記など)を明記し、双方が自署捺印したうえで2通作成してそれぞれ保管するのが一般的です。 現金や株式など不動産以外の贈与では印紙税がかからない一方、不動産の無償贈与では200円の収入印紙を貼付して消印をする義務が生じます。連年贈与を暦年課税で扱う場合には毎年内容を変えた贈与契約書を作成し、都度の合意であることを明確にすることで、税務上「定期贈与」と認定されるリスクを下げられます。 このように贈与契約書は、相続対策や資産移転の透明性を高め、将来の税負担を見通すうえで欠かせない役割を果たします。
暦年贈与
暦年贈与とは、毎年1月1日から12月31日までの1年間に受け取った贈与額を1年ごとに区切って課税する方式をいいます。その年に取得した財産の合計額から基礎控除110万円を差し引いた残額に対して贈与税が計算されるため、同じ贈与者から毎年110万円以内の贈与であれば原則として贈与税はかかりません。 各年の贈与は独立した取引とみなされるため、翌年以降の贈与額や時期をあらかじめ決めてしまうと「定期贈与」と見なされ、一括で課税されるリスクがあります。この回避策として、金額や日付を毎年変えたうえで都度の贈与契約書を作成し、実際に資金を動かした証拠を残すことが推奨されます。 また、2024年以降の税制改正により、生前贈与の持ち戻し期間が死亡前3年から段階的に7年へ延長され、3年超〜7年以内の贈与については合計100万円までが加算免除となる点も踏まえ、相続開始時点での課税影響を見据えた計画が欠かせません。さらに、相続時精算課税制度を選択すると暦年贈与とは併用できなくなるため、どちらの制度を使うかは将来の資産移転方針や税負担を比較して判断する必要があります。
住宅取得等資金贈与
住宅取得等資金贈与とは、父母や祖父母など直系尊属から住宅の新築・取得・増改築費用に充てるための資金を贈与された場合に、一定額まで贈与税が非課税となる制度を指します。 現在は令和6年(2024年)1月1日から令和8年(2026年)12月31日までの贈与が対象で、省エネ等住宅なら1,000万円、それ以外の住宅なら500万円が非課税限度額です。受贈者は贈与年の1月1日時点で18歳以上かつ合計所得金額2,000万円以下(床面積が40㎡以上50㎡未満の場合は1,000万円以下)であることなどの要件を満たし、贈与を受けた翌年3月15日までに全額を住宅取得に充当する必要があります。 これにより、親世代の資金援助で住宅購入の初期負担を減らしつつ、良質な住宅ストックの形成を促す狙いがあります
結婚・子育て資金贈与
結婚・子育て資金贈与とは、父母や祖父母など直系尊属から受贈者(18歳以上50歳未満)へ結婚・出産・育児に充てる資金をまとめて贈与する際に、最大1,000万円(うち結婚関連費用は300万円まで)が贈与税の課税対象から外れる特例です。 非課税を受けるには受贈者の前年分合計所得金額が1,000万円以下であること、贈与資金を信託口座や専用預金口座に入れ、領収書を提出して資金使途を証明することなどが求められます。資金を使い切らずに贈与者が亡くなった場合や受贈者が50歳に達した場合には残高が相続税または贈与税の対象となる点が特徴です。 制度の適用期限は令和7年(2025年)3月31日までとされていましたが、こども未来戦略の一環として令和9年(2027年)3月31日まで2年間延長され、2025年4月1日以後の一括贈与にも引き続き適用されます。これにより、若年世代の結婚・子育て費用の負担軽減を図り、世代間の資産移転を促進する狙いがあります。
評価額固定
評価額固定とは、資産を生前贈与する際に「贈与時点の価額」を将来の相続税計算でも用いることで、その後の値上がり分を課税対象から切り離す手法をいいます。 日本では相続時精算課税制度を選択すると、贈与した財産は贈与時の評価額で相続財産に持ち戻されるため、例えば将来成長が見込まれる自社株式や不動産を早期に移転すれば、贈与以降の値上がり益は受贈者に帰属し、贈与者の相続税負担を抑えられます。 一方で、贈与後に評価額が下落すると、本来より高い価額で相続財産に加算されてしまうリスクや、制度選択後は暦年課税に戻れない点に注意が必要です。
e-Tax
e-Taxとは、国税庁が運営するインターネット上の税務手続きシステムで、所得税の確定申告や源泉所得税の納付などを自宅や職場からオンラインで行えるサービスです。 紙の申告書を税務署へ持参・郵送する必要がなくなり、24時間いつでも送信できるうえ、申告ミスの自動チェックや過去データの再利用といった利便性があり、手続き時間の短縮や控除額の自動計算による精度向上に役立ちます。 また、電子納税と連携すれば振替納税の手数料が不要となり、税金の支払いもスムーズになります。マイナンバーカードとICカードリーダー、あるいはスマートフォンの対応アプリを利用して本人認証を行うため、セキュリティ面でも高い安全性が確保されています。
特例贈与財産
特例贈与財産とは、親や祖父母など直系尊属が18歳以上の子や孫へ贈与した財産を指し、贈与税の区分上「一般贈与財産」と区別して扱われるものです。 税率は一般贈与に比べて段階的に低く設定されており、早い段階で資産を次世代に移しやすくすることで相続発生時の税負担を平準化する狙いがあります。毎年1月1日から12月31日までの暦年課税において適用され、年間110万円の基礎控除を差し引いた後の課税価格に特例税率がかかります。 贈与者と受贈者の続柄や年齢条件を満たすことが必要で、条件外の贈与は一般贈与財産として課税されるため注意が必要です。
一般贈与財産
一般贈与財産とは、贈与税を計算するときに「特例贈与財産」以外の贈与として扱われる財産です。贈与者と受贈者の関係や年齢が特例の条件を満たさない場合に該当し、住宅資金のような特定目的の特例を利用しない通常の贈与もここに含まれます。 課税方法は暦年課税が基本で、毎年1月1日から12月31日までの贈与額から基礎控除110万円を差し引き、残額に一般贈与財産用の税率が段階的に適用されます。税率は特例贈与財産より高めに設定されているため、多額の資産を一度に移転すると税負担が大きくなる点に注意が必要です。 適切な贈与契約書を作成し、受贈者が自分の資金管理を行うことを示す通帳管理などを通じて「名義預金」と誤認されない対策を講じることも大切です。
贈与税
贈与税とは、個人が他の個人から金銭・不動産・株式などの財産を無償で受け取った際に、その受け取った側(受贈者)に課される税金です。通常、年間110万円の基礎控除を超える贈与に対して課税され、超過分に応じた累進税率が適用されます。 この制度は、資産の無税移転を防ぎ、相続税との整合性を保つことを目的として設けられています。特に、親から子へ計画的に資産を移転する際には活用されることが多く、教育資金や住宅取得資金などに関しては、一定の条件を満たすことで非課税となる特例もあります。 なお、現在は「暦年課税」と「相続時精算課税」の2制度が併存していますが、政府は近年、相続税と贈与税の一体化を含めた制度改正を検討しており、将来的に制度の選択肢や非課税枠、課税タイミングが見直される可能性があります。 こうした背景からも、贈与税は単なる一時的な贈与の問題にとどまらず、長期的な資産承継や相続対策の設計に深く関わる重要な制度です。税制の動向を踏まえた上で、専門家と連携しながら最適な活用方法を検討することが求められます。
名義預金
名義預金とは、預金口座の名義人と、実際にそのお金を出した人(出資者)が異なる預金のことを指します。 たとえば、親が自分のお金を子どもの名義で開設した口座に預けているようなケースが代表的です。名義上は子どもの預金でも、実際にお金を出したのが親で、子どもが自由に使えない状態であれば、そのお金は「親の財産」とみなされます。 このような名義預金は、相続の際に「相続財産」として課税対象になる可能性があり、税務署から指摘を受けることもあります。 つまり、「相続対策のつもりで家族名義の口座にお金を移していたつもりが、かえって相続税の対象になってしまう」といったリスクがあるのです。 名義だけでなく、実際にお金を管理・使用しているのは誰なのか?という“実質的な所有者”を明確にしておくことが重要です。 相続や贈与を意識した資産管理を行う際には、形式だけでなく実態をともなった対策が求められます。
基礎控除
基礎控除とは、所得税の計算において、すべての納税者に一律で適用される控除のことを指す。一定額の所得については課税対象から除外されるため、納税者の負担を軽減する役割を持つ。所得に応じて控除額が変動する場合もあり、申告不要で自動適用される。
教育資金一括贈与
教育資金一括贈与とは、祖父母などの直系尊属が、子や孫の教育資金として金融機関の専用口座を通じて一括で贈与する場合、一定の条件を満たせば1,500万円まで非課税となる制度のことをいいます。この制度は、子どもや孫の学費、入学金、塾代などに充てる目的で利用され、教育資金に限定されることで贈与税が免除される特例です。贈与を受けた人が30歳になるまでが対象期間であり、それまでに使い切れなかった残額には贈与税が課される可能性があります。 また、実際に使った金額に対して領収書を提出する必要があり、教育以外の支出には使えません。資産を次世代に円滑に移しつつ、子や孫の成長を支援できるため、相続税対策としても注目されています。初心者にとっては「生前贈与をしながら非課税の恩恵を受けられる制度」として、活用方法を知っておくと役立ちます。
暦年課税
暦年課税とは、1月1日から12月31日までの1年間に贈与された金額に対して課税される仕組みのことをいいます。特に贈与税の計算方法として使われており、年間の贈与額が基礎控除額である110万円を超えた部分について課税されます。たとえば、1年間に親から子へ150万円を贈与した場合、110万円を差し引いた40万円に対して贈与税がかかるというわけです。 この制度は毎年リセットされるため、長期的に少しずつ財産を移す「生前贈与」の手段として活用されることが多いです。ただし、相続税との関係で、亡くなる前の一定期間内の贈与については相続財産に加算される「10年ルール」があるため、計画的な利用が大切です。初心者の方にとっては、贈与に関する基本的な課税制度として、まず最初に押さえておくべき考え方です。
相続時精算課税制度
相続時精算課税制度とは、60歳以上の父母や祖父母から、18歳以上の子や孫へ財産を贈与する場合に利用できる、特別な贈与税の制度です。この制度を使うと、贈与を受けた年に2,500万円までの金額については贈与税がかからず、それを超えた部分にも一律20%の税率が適用されます。そして、その後贈与者が亡くなったときに、過去の贈与分をすべてまとめて「相続財産」として扱い、最終的に相続税として精算します。 つまり、この制度は「贈与税を一時的に軽くし、あとで相続税の段階でまとめて精算する」という仕組みになっています。将来の相続を見据えて早めに資産を移転したい場合や、大きな金額を一括で贈与したい場合に活用されることが多いです。 ただし、一度この制度を選ぶと、同じ贈与者からの贈与については暦年課税(通常の贈与税制度)には戻せないという制限があるため、利用には慎重な判断が必要です。資産運用や相続対策を計画するうえで、制度の特徴とリスクをよく理解しておくことが大切です。
生前贈与
生前贈与とは、本人が亡くなる前に、自分の財産を家族や親族などに贈り与えることを指します。たとえば、子どもや孫に現金や不動産などを自分の意思で生きているうちに渡す行為がこれにあたります。生前贈与を活用することで、相続時に財産が一度に多額に移転するのを防ぎ、相続税の負担を軽減する効果が期待できます。ただし、贈与にも贈与税がかかるため、贈与額やタイミング、誰に贈るかによって課税額が大きく変わることがあります。また、一定の条件を満たせば非課税になる特例制度もあるため、計画的に行うことが重要です。資産運用や相続対策として、生前贈与は家族に財産を無理なく引き継がせるための有効な手段のひとつです。