格付け機関が各国で規制対象となった背景と主な内容は?
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2025/06/04 19:19
男性
50代
リーマン・ショック以降、格付け機関には厳しい規制が課されたと聞きます。ムーディーズを含む業界全体で、どのような経緯で制度が整備され、米国・EU・日本ではどんなルールが導入されたのでしょうか?投資家にとっての意義は何ですか?
回答
株式会社MONOINVESTMENT / 投資のコンシェルジュ編集長
2007〜08年の世界金融危機では、複雑な証券化商品に過大評価が付いたことが損失を拡大させ、格付け機関の利益相反と不透明な手続きが問題視されました。この反省から各国は監督制度を整備しました。米国では2006年格付け機関改革法でSEC登録制を導入し、2010年ドッド・フランク法で定期検査・実績開示・アナリストのローテーションなどを義務化。
EUは2009年の規則で登録制を敷き、欧州証券市場監督局(ESMA)が直接監督し、独立取締役の設置や損害賠償責任も規定しました。日本は2010年金融商品取引法改正で「指定信用格付業者」登録を創設し、誠実義務・体制整備義務・方法論・実績の開示を求めています。
いずれも評価内容には介入せず、透明性と内部統制を監督する「手続き監督型」です。投資家は情報の質向上と比較可能性の恩恵を受けますが、格付けは助言にすぎないため、自身の分析と併用する姿勢が依然不可欠です。
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格付機関
格付機関とは、企業や国、債券などの信用力を評価し、「信用格付」と呼ばれる等級をつける専門の機関のことをいいます。信用格付は、投資家がその企業や国が借りたお金をきちんと返せるかどうかを判断するための重要な指標となります。たとえば、格付が高ければ「信用度が高く、返済の可能性が大きい」とみなされ、逆に格付が低ければ「リスクが高い」と判断されることになります。代表的な格付機関には、ムーディーズ、スタンダード&プアーズ(S&P)、フィッチ・レーティングスなどがあります。投資初心者にとっても、債券や企業の安全性を見極めるうえで、格付機関の評価はとても参考になります。
証券化
証券化とは、もともと流動性の低い資産(すぐに現金化しにくい資産)をもとに、将来得られる収益を裏付けとして、投資家向けに売買可能な証券を発行する仕組みのことです。わかりやすく言えば、「資産を金融商品に変える」手法です。 たとえば、住宅ローンやオートローン、売掛金、不動産などから将来得られる返済や収入をまとめて、それを担保とした「資産担保証券(ABS)」を発行し、投資家に販売します。これによって、企業は本来すぐに現金化できない資産を活用して資金を調達できるようになります。 証券化された商品は、複数の資産をまとめて分散効果を持たせたり、信用リスクを分割・構造化することもできるため、機関投資家向けの高度な金融商品として発展してきました。一方で、2008年のリーマン・ショック時には、住宅ローン担保証券(MBS)の過剰な証券化が信用不安を拡大させた側面もあり、リスク管理の重要性も同時に認識されています。 証券化は、資産の有効活用・流動性向上・資金調達の多様化といった観点で、現代の金融市場における重要な金融技術のひとつです。
利益相反
利益相反とは、ある人物や組織が複数の立場や利害関係を同時に持っていることによって、どちらか一方の利益を優先することで他方の利益が損なわれるおそれがある状況のことをいいます。たとえば、投資アドバイザーが自分の利益を優先して、自社にとって都合の良い商品を顧客に勧めるようなケースがこれにあたります。 このような状況は、投資判断の公正さを損なう可能性があるため、資産運用の分野では利益相反がないかどうかを確認することがとても重要です。信頼できるアドバイザーや金融機関を選ぶ際には、この点に注意を払うことが大切です。
ドッド・フランク法
ドッド・フランク法(Dodd-Frank Act)とは、2008年のリーマンショックを契機に、アメリカで2010年に制定された金融規制改革法の通称で、正式には「ウォール街改革および消費者保護法」といいます。この法律は、金融システムの安定性向上と消費者保護を目的としており、大手金融機関に対する規制の強化、デリバティブ取引の透明化、リスク管理体制の厳格化、そして破綻リスクのある金融機関の監督強化などが盛り込まれています。 また、消費者金融保護局(CFPB)の創設など、金融消費者の権利保護に重点を置いた制度も特徴です。資産運用の世界では、ファンドや証券会社にも情報開示やリスク管理の強化が求められるようになり、世界的な金融規制強化の流れの先駆けとされています。
証券取引委員会(SEC)
証券取引委員会(SEC:Securities and Exchange Commission)とは、アメリカ合衆国の連邦政府機関で、証券市場の健全性、公正性、透明性を確保するための監督・規制を行う機関です。1934年に設立され、主に上場企業のディスクロージャー(情報開示)、証券取引の監視、不公正な取引(インサイダー取引や市場操作など)の摘発、投資家保護などを担っています。 SECは、金融商品取引に関するルール作り(規則制定)や執行権限(罰則適用)を持っており、アメリカ資本市場の信頼性を支える中心的な存在です。また、ESG情報開示や気候関連リスクの報告義務化といった分野でも、近年その影響力が拡大しています。SECの動向は、グローバルな投資ルールや企業の開示戦略にも大きな影響を及ぼします。
欧州証券市場監督局(ESMA)
欧州証券市場監督局(ESMA:European Securities and Markets Authority)とは、EU(欧州連合)加盟国の金融市場を監督・調整するために設立された独立機関で、証券市場の健全性・統一性・透明性を確保することを目的としています。2011年に設立され、本部はフランス・パリにあります。 ESMAの主な業務には、金融商品市場指令(MiFID II)や投資運用指令(UCITS)の実施監視、信用格付機関や取引所の登録・監督、金融商品に関する投資家保護・リスク評価・ルールの策定などが含まれます。 また、ESG情報開示やグリーンファイナンス規制、サステナブル金融開示規則(SFDR)など、新たな非財務情報の監督でも中心的な役割を担っており、EU内外の投資行動や企業開示に強い影響力を持つ存在です。