「年金は60歳からもらった方が賢い」という意見を目にしましたが、本当でしょうか?
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2025/10/17 09:12
男性
50代
先日、知人から「年金は60歳から繰り上げ受給した方が、長生きリスクを考えても総額で得になる」という話を聞きました。しかし、繰り上げ受給すると年金額が減額されると聞いたこともあり、本当に60歳からもらう方が賢い選択なのか判断がつきません。判断基準について、分かりやすく教えていただけると助かります。
回答
株式会社MONOINVESTMENT / 投資のコンシェルジュ編集長
結論から申し上げますと、「60歳から年金をもらった方が賢い」という意見は、すべての人に当てはまるわけではありません。統計的には平均寿命まで生きる前提では、65歳からの通常受給や繰り下げ受給の方が総額で有利になります。ただし、個々の健康状態や家計状況によって最適な選択は変わってきます。
繰り上げ受給を選ぶと、1ヶ月早めるごとに0.4%減額されます。60歳から受給すると24%減額され、この減額された金額が生涯続きます。逆に繰り下げ受給では1ヶ月遅らせるごとに0.7%増額され、70歳まで繰り下げると42%増額、75歳まで繰り下げると84%増額された年金を生涯受け取れます。
仮に65歳から年間100万円の年金を受け取れる場合、60歳繰り上げでは年間76万円、70歳繰り下げでは年間142万円となります。60歳受給と65歳受給を比較すると、約80〜81歳が損益分岐点になります。
つまり、それより長生きすれば65歳受給の方が総額で多くなるのです。日本人の平均寿命は男性約82歳、女性約88歳ですから、統計的には繰り上げ受給が必ずしも有利とは言えません。
60歳からの受給を勧める意見の背景には、早く受け取れば確実にもらえる、元気なうちにお金を使える、受け取った年金を運用できる、といった考え方があります。しかし重要なデメリットとして、24%の減額が生涯続くこと、長生きした場合に後年の生活資金が不足するリスクが高まること、そして一度繰り上げ受給を選択すると取り消しができないことがあります。
受給開始時期を決める際には、いくつかの要素を考慮する必要があります。健康状態については、持病があり平均寿命より短い可能性が高ければ繰り上げ受給も選択肢になりますが、医療の進歩で予想以上に長生きする可能性も忘れてはいけません。
家計の状況では、60代前半の生活費が不足しているなら繰り上げ受給を検討する余地がありますが、十分な貯蓄や退職金があるなら繰り下げ受給で年金額を増やす方が有利です。また継続して働く予定があるなら、収入があるうちは繰り下げが賢明でしょう。
具体的な判断のために、まずは年金定期便で65歳時点の見込み額を確認し、退職金や貯蓄の総額を整理してください。そのうえで60歳から90歳までの収入と支出を年単位で書き出し、繰り上げ・通常・繰り下げの3パターンでシミュレーションすることをおすすめします。
年金は老後の生活基盤となる重要な収入源ですから、長期的な視点で慎重に判断しましょう。投資のコンシェルジュでは、老後資金のシミュレーションを無料で承っているので、ぜひご利用ください。
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