
公的年金の繰上げ・繰下げ完全ガイド:損益分岐点・判断基準・受給シナリオを徹底解説
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公開:
2025.07.04
更新:
2025.07.04
年金を60〜64歳から繰上げ受給をした場合、通常よりも早く受給できる一方で、受給額が減ります。一方で、66歳以降に繰下げ受給をした場合、通常よりも受給は遅くなりますが、受給額が増えます。本記事では、65歳時点で受給を開始したときをベースに「繰上げ受給をすると何歳以上生きると損をするのか」「繰下げ受給をすると何歳以上生きると得をするのか」を、数字を用いながらシミュレーションします。
サクッとわかる!簡単要約
繰上げ受給を選択すると、「受給開始年齢の20年10ヶ月以上」長生きすると、結果的に損をします。一方で、繰下げ受給を選択すると「受給開始後10年11ヵ月以上」長生きすると、得をします。
この記事を読めば、このような損益分岐点を理解でき、あなたに適した年金の受給開始年齢を決めるための考え方を理解できます。年金は老後の生活を支える軸となる収入である以上、慎重な判断が求められます。年金だけでなく、退職金や企業年金を含めた老後生活の設計方法を知り、経済的な不安のない生活を送りましょう。
目次
公的年金の繰上げ・繰下げ制度の全体像
公的年金は、老後生活を支える貴重な収入源です。現行制度では60歳から75歳までの間で、受給を開始するタイミングを選択できます。
まずは、繰上げ・繰下げ制度の全体像から確認しましょう。
制度改正の経緯と2025年時点の選択肢
日本の公的年金(老齢基礎年金・老齢厚生年金)は、かつて60歳から受給開始するのが原則でした。しかし、高齢化に伴う制度持続性の観点から1990年代以降に段階的な改革が行われ、2025年時点では原則65歳から受給開始となっています。
男性は2025年度までに特別支給の厚生年金(60〜64歳の報酬比例部分支給)が終了し、女性も2030年度までに同様の移行が完了する予定です。これから年金を受給する多くの方は、65歳から老齢年金を受け取るのが基本形となります。
公的年金には、繰上げ受給(65歳より前に年金をもらい始める)と繰下げ受給(66歳より後まで受給開始を遅らせる)という選択肢が用意されています。制度の趣旨は、人それぞれの引退時期や老後資金状況に応じて、年金受給のタイミングを柔軟に選べるようにすることです。
2022年4月の年金制度改正では、繰下げ受給の選択可能年齢の上限が、それまでの70歳から75歳へ引き上げられました。同時に、繰上げ受給時の減額率についても見直しが行われ、1962年4月2日以降生まれの人に対しては繰上げ減額率が従来の月0.5%から月0.4%に緩和されています(1962年4月1日以前生まれの人は従来通り月0.5%減額)。
繰上げ/繰下げ | 内容 |
---|---|
繰上げ受給 | 60~64歳から受給 |
繰下げ受給 | 66~75歳から受給 |
選択可能な期間が75歳まで拡大されたことで、2025年時点では「60歳から75歳まで」の好きな時期に、年金受給を開始できる制度設計になっています。
月あたり減額0.4%/増額0.7%の仕組みと上限年齢
公的年金の繰上げ・繰下げ受給では、65歳を基準として受給開始を何ヶ月早めるか(または遅らせるか)に応じて年金額が調整されます。
繰上げの場合は「繰上げた月数×0.4%」が年金月額から減額され、繰下げの場合は「繰下げた月数×0.7%」が年金月額に増額されます。増減率は、いずれも月単位で計算される点がポイントです。
繰上げ・繰下げによる増減率は、一度決定すると一生涯変わりません。繰下げで増額した年金は、受給開始後ずっとその増額率が適用された金額で支給され続けます(繰上げで減額した場合も同様です)。
長生きリスクに備えるためには、公的年金の繰下げ受給が有効な対策となります。ただし、繰下げ受給をすると年金を受給できない期間が発生するため、「できるだけ長く働く」「企業年金やiDeCoで生活費をカバーする」などの対策が欠かせません。
なお、繰上げ受給は65歳未満の「特別支給の老齢厚生年金」(報酬比例部分の定額支給)とは別物である点に注意が必要です。特別支給の老齢厚生年金は、定額部分の支給開始年齢引上げの経過措置として設けられた制度で、1961年4月1日以前生まれの男性(女性は1966年4月1日以前生まれ)が60~64歳で受け取れる年金です。
老齢基礎年金と老齢厚生年金で別々に選択する場合の注意点
公的年金は2階建て(国民年金+厚生年金)の仕組みです。いずれも老後生活を支える大切な原資ですが、以下のように繰上げ・繰下げのルールは異なります。
繰上げ/繰下げ | 内容 |
---|---|
繰上げ受給 | 繰上げ受給をする場合、両方を繰上げする必要がある |
繰下げ受給 | いずれか一方のみの繰下げ、両方とも繰下げ受給が可能 |
繰上げ受給に関しては、原則として老齢基礎年金だけ、あるいは老齢厚生年金だけを単独で繰上げることはできません。例えば、会社員で厚生年金加入期間がある方が「基礎年金だけ60歳から繰上げ、厚生年金部分は65歳から受給」という選択は認められていません。
一方で、繰下げ受給については柔軟性が認められています。老齢基礎年金と老齢厚生年金は別々に繰下げすることが可能であり、例えば「老齢基礎年金は66歳から受給開始、一方で老齢厚生年金は70歳まで繰下げる」といった選択ができます。
在職老齢年金・高年齢雇用継続給付との関係
繰上げ・繰下げの判断において、60代以降の就労状況も重要な要素です。60歳以降も厚生年金保険に加入しながら収入を得ており、年金と給与の両方を受け取る際には、在職老齢年金制度による調整が入ります。
在職老齢年金とは、一定以上の給与収入がある年金受給者について、年金の一部または全部を支給停止とする仕組みです。具体的には、65歳未満では「基本月額+総報酬月額」が月額51万円(基準額は毎年度見直し)を超えると、厚生年金部分の一部または全部がカットされる制度です。
受け取れる年金額が多く、得られる収入も現役時代と遜色ない場合、在職老齢年金による調整が行われる可能性が高いでしょう。
長生きリスクへの対応や在職老齢年金などの影響を考えると、60代で働き続ける場合は安易に年金を繰上げない方が有利なケースが多いでしょう。「働いているうちは年金を繰下げておき、退職したタイミングで請求する」という選択肢がベースになります。
損益分岐点を求める計算ロジック
繰上げ・繰下げ受給をめぐってよく議論されるのが、「何歳から受け取り始めるのが得か」「どのくらい長生きすれば繰下げ(または繰上げ)の方が得になるか」という視点です。
これを定量的に測るために、累計受給額の損益分岐点(ブレークイーブン)を計算することができます。
繰上げ受給と65歳受給開始の場合
繰上げ受給を選択すると、年金を受給できるタイミングが早まるものの、減額された金額が一生涯続きます。損益分岐点をまとめると、以下のとおりです。
年金受給開始年齢 | 受給率 | 損益分岐点(額面ベース) |
---|---|---|
60歳 | 76.0% | 80歳10ヵ月 |
61歳 | 80.8% | 81歳10ヵ月 |
62歳 | 85.6% | 82歳10ヵ月 |
63歳 | 90.4% | 83歳10ヵ月 |
64歳 | 95.2% | 84歳10ヵ月 |
繰上げ受給の場合、何歳から受給を始めても、損益分岐点は「受給開始年齢の20年10ヶ月後」です。損益分岐点よりも長生きした場合は、結果的に「65歳で受給したほうが得だった」となります。
なお、繰上げ受給を選択すると年金額が減るだけでなく、障害年金を受給できなくなります。一般的に、高齢になるほどケガや病気になる確率が高まる(障害状態になるリスクが高い)ため、デメリットの一つとして知っておくとよいでしょう。
繰下げ受給と65歳受給開始の場合
続いて、繰下げ受給の場合で考えてみましょう。繰下げ受給を選択すると、受給できるタイミングは遅くなるものの、増額された年金額が一生涯続きます。損益分岐点をまとめると、以下のとおりです。
年金受給開始年齢 | 受給率 | 損益分岐点(額面ベース) |
---|---|---|
66歳 | 108.4% | 77歳11ヵ月 |
67歳 | 116.8% | 78歳11ヵ月 |
68歳 | 125.2% | 79歳11ヵ月 |
69歳 | 133.6% | 80歳11ヵ月 |
70歳 | 142.0% | 81歳11ヵ月 |
71歳 | 150.4% | 82歳11ヵ月 |
72歳 | 158.8% | 83歳11ヵ月 |
73歳 | 167.2% | 84歳11ヵ月 |
74歳 | 175.6% | 85歳11ヵ月 |
75歳 | 184.0% | 86歳11ヵ月 |
繰下げ受給の場合、損益分岐点は「受給開始後10年11ヵ月後」です。損益分岐点よりも長生きした場合に、結果的に「繰下げ受給を選択したほうが得だった」ことを意味します。年金は終身に渡って支給されるため、繰下げ受給を選択した人は長生きするほど有利です。
ただし、年金が増えれば税金や社会保険料の負担が重くなるため、手取り額ベースではズレが生じる可能性がある点に注意が必要です。一概にはいえないものの、増額分の1割程度は目減りする、というイメージを持っておくとよいでしょう。
ケーススタディ:繰上げ・繰下げ選択の実務シナリオ
いくつか代表的な例を挙げて、状況別に繰上げ受給すべきか、繰下げ受給すべきかの判断シナリオを検討します。自身の状況に近いものをイメージしながら、参考にしてください。
早期退職後に生活費ギャップがない場合(資産余裕型)
定年より前に早期退職し、退職後の生活費を十分賄えるだけの預貯金・運用資産があるケースです。経済的な自由を達成している方や、多額の退職金・不動産収入等で65歳まで無収入でも困らない方が該当します。
資産に十分な余裕がある方の場合、生活費のギャップを埋めるために無理に年金を繰上げる必要はありません。公的年金は長生きリスクに対する最高のヘッジ手段ですから、日々の生活費に困らないなら、繰下げ受給を前向きに検討すべきでしょう。
繰下げ受給は、ほとんどリスクを負わずに受給額を増やせる「運用商品」ともいえます。1年繰下げれば8.4%増額されますが、これに相当する利回りの商品は市場でもなかなかありません。
資産に余裕がある方ほど、公的年金はできるだけ繰下げて将来の月額を増やし、長寿リスク(長生きによるお金の枯渇リスク)に備えるのが賢明です。
ただし、資産に余裕があるとはいえ退職直後から年金開始まで収入がゼロになる期間が長いと、精神的な不安を感じる方もいます。フロー収入が全くない状態だと、保有している資産が減り続ける状況であるため、「本当に大丈夫か」というストレスを感じるかもしれません。
そのため、精神的な健康を保つために、あえて65歳から受給を開始するのも一つの選択肢でしょう。
定年後も就労を継続する場合(再雇用型)
定年(一般的に60~65歳)後も引き続き働き収入を得る場合、在職老齢年金の仕組みや税金面を考えると、繰下げが有力な選択肢となります。現行制度では企業に65歳までの雇用確保措置が義務化されており(70歳までは努力義務)、60歳定年後も嘱託社員や再雇用で働けます。
例えば60歳で定年退職後、そのまま同じ会社で65歳まで継続雇用される場合を考えましょう。この方は60~64歳の期間は給与収入があるため、繰上げ受給をする必要性はほとんどありません。
65歳でリタイアをする予定であれば、リタイア時の資産状況や企業年金、iDeCoの運用資産などを総合的に鑑みて、「65歳からの受け取り」「可能な範囲での繰下げ」を検討しましょう。
近年では、65歳以上も雇用延長する企業も増えています。仮に65歳以降も働いて給与収入で生活費を賄える場合、繰下げ受給を選択しましょう。
収入があるうちは年金に手を付けず、完全にリタイアしたタイミングで増額された年金を受け取る、という選択肢が考えられます。
つまり、できるだけ長く働くことは、リタイア後の生活保障を手厚くする効果的な戦略です。厚生年金保険に加入する期間を延ばせば、そもそもの受給額を増やせるため、より老後生活の経済的安心が大きくなるでしょう。
もっとも、何歳まで働けるかは健康寿命や雇用状況にもよります。無理に働いて心身の健康を損ねるのは本末転倒であるため、健康面との兼ね合いを考えることも重要です。
自営業・国民年金中心で長寿リスクを重視する場合
自営業者やフリーランスの方で、国民年金(老齢基礎年金)中心の受給となる方は、できるだけ繰下げ受給を検討する必要があります。老齢基礎年金は満額でも年間約81万円程度であり、それだけで老後生活を賄うのは現実的ではありません。
自営業者やフリーランスは定年がなく、心身ともに健康であれば何歳でも働ける強みがあります。この強みを活かして、健康に気を遣いながらできるだけ長く働き、年金を繰下げるのが基本的な戦略になるでしょう。
例えば、70歳まで現役で働いて年金は70歳から繰下げ受給する場合、老齢基礎年金は42%増額されます。本来であれば約月6.8万円の年金が約月9.6万円程度まで増え、夫婦2人分であれば月19万円ほどになります。
総務省家計調査によると、高齢夫婦無職世帯の平均支出は毎月約22万円です。70歳まで繰り下げれば、「ほぼトントン」の家計運営を実現できます。
もっとも、65歳を超えても元気に働けるかどうかはわかりません。また、収入を維持できる保証もありません。NISA・iDeCo・小規模企業共済などを活用して、自助努力により老後資産を作ることも、あわせて行うべきでしょう。
介護・医療費リスクを抱える場合(流動性優先型)
持病がある方や、将来の介護リスクを懸念して手元資金の流動性を高めておきたい場合は、年金を繰上げ受給して早めに現金を得る選択肢があります。
例えば、50代で大きな病気を経験した方は「自分の寿命はそれほど長くないかもしれない」と考えるかもしれません。医療費や介護費の支払いもあるため、60代前半から年金を受け取るプランニングも選択肢の一つでしょう。
特に、単身者で頼れる家族・親族がいない場合、自分の貯金をなるべく減らさずに公的年金から生活費や医療費を賄いたいと考える人もいるでしょう。繰上げ受給は一度開始すると取り消せませんが、「自分の余命や健康状態をシビアに見積もった結果、繰上げた方が得策」と判断するシナリオも十分あり得ます。
長生きリスクに備えるうえでは、繰下げ受給が効果的な対策であるのは事実です。しかし、その人の健康状態や不安、ライフプランなどを鑑みて繰上げ受給することは、必ずしも悪いことではありません。
意思決定フレームワーク
制度知識・数理計算・ケーススタディを踏まえ、繰上げるか繰下げるかの最終判断を下すためのフレームワークを整理します。重要な要素を漏れなくチェックし、総合的に意思決定することが肝要です。
期待寿命と健康状態の評価
まず考えるべき点は「自分(夫婦)は平均余命より長生きしそうか?」という点です。繰下げが有利になるか繰上げが有利になるかの分岐点は、概ね80歳台前半に集中しています。
厚生労働省の簡易生命表(令和5年)によれば、男性の平均寿命は81.09年、女性の平均寿命は87.14年でした。65歳時点でリタイアした場合、男性で15年以上、女性で20年以上の老後期間を想定する必要があります。
さらに、健康寿命(健康上の問題で日常生活が制限されることなく自立して生活できる年齢)も考慮しましょう。いくら長生きしても、80代で介護状態になってしまえばお金を使う楽しみも減ってしまいます。
厚生労働省によると、2022年の健康寿命は男性で72.57歳、女性で75.45歳でした。平均寿命と比較して10年近い差があるため、「心身に何らかの不調をきたしている状態が10年くらい続く」という可能性も想定する必要があります。
繰下げ受給は「長生きして元気でいればいるほど有利」な選択ですから、自身の健康寿命の展望も判断材料に加えましょう。例えば「70代後半までは元気に趣味や旅行を楽しみたいが、80代後半以降は分からない」と思うなら、損益分岐点が85歳を超える繰下げはあまり意味がないかもしれません。
もちろん予測は難しいですが、「家族の病歴・寿命」「現在の健康診断結果・病気リスク」「生活習慣」などを総合的に評価して考えましょう。
リタイア時の資産状況と生活費ギャップの想定
65歳時点における資産状況も考える必要があります。不足が生じるかどうかを確認します。70歳まで繰下げる考えなら、65歳からの5年間は「年金がなくても生活できる状況」である必要があります。
年金を受け取れない期間の対処法
- できるだけ長く働く
- 配偶者の収入でまかなう
- 企業年金やiDeCo、個人年金などでまかなう
- 預貯金や退職金の取り崩しでまかなう
- 株式の配当や投資信託の分配金などでまかなう
もし私的年金や預貯金・退職金などで十分生活費を補えるのであれば、繰下げ受給のハードルは下がります。しかし「貯蓄にはあまり余裕がなく、年金がないと生活が苦しい」という場合は、無理に繰下げるべきではありません。
65歳以降、どのタイミングで年金の受給申請(裁定請求)をしても構わないため、たとえば「68歳から繰下げ受給する」という調整も可能です。まずは60~65歳あるいは70歳までの収支シミュレーションを行い、年金なしでも生活できる期間を把握しましょう。
現役のうちに形成した金融資産をいつ・どれだけ取り崩すかというマネープランとも関係してくるため、ライフプラン表を作成して慎重に検討してください。
税金・社会保険負担の影響
年金受給開始年齢の選択は、税金や社会保険料の負担にも影響を与えます。年金は雑所得として課税対象になるため、受給額が増えると所得税・住民税が発生(または増加)します。
税金や社会保険料(国民健康保険や後期高齢者医療保険の保険料)の負担が重くなるだけでなく、住民税非課税世帯に該当しなくなることで、さまざまな行政の支援制度を利用できなくなる可能性もあります。
したがって、額面ベースでは年金が増えても、手取りベースでは思ったほど増えない可能性がある点に注意しましょう。例えば、年金受給額が50万円増えても、税金や社会保険料が5万円増えれば実質的なプラスは45万円です。
また、働きながら年金を受け取る場合は、在職老齢年金により年金額が調整される可能性があります。60代以降に働きながら年金を受け取る場合、年金の一部または全部がカットされる可能性がある点に注意しましょう。
なお、年金と税金の関係は以下の記事でも詳しく解説しています。
年金の「211万円の壁」に関しては、以下のFAQで詳しく解説しています。
iDeCo・企業年金・退職金との統合シナリオ
公的年金以外の私的年金や退職一時金との兼ね合いも含めて、総合的に検討しましょう。企業の退職金制度や確定拠出年金(企業型DC)、個人型確定拠出年金(iDeCo)なども、大切な老後資金です。
例えば、退職金を60歳で一時金として受け取り、そのまま働き続ける場合は退職金の取り崩しを抑えられます。65歳時点でリタイアし、温存していた退職金を取り崩せば、年金を繰下げても生活できるでしょう。
企業年金(厚生年金基金や企業型DC)を年金形式で受け取れる場合は、10年間や20年間で期間が決まっているケースがほとんどです。毎月の受給額や受給期間なども、公的年金の繰下げに影響を与えます。
企業年金に加えてiDeCo(個人型DC)の資産がある場合、さらに選択肢が増えます。「iDeCoは一時金で受け取り、企業年金は年金で受け取る」という方法を選択すれば、経済的に余裕が生まれる可能性が高いでしょう。
なお、企業年金もiDeCoも、年金形式で受け取れば雑所得となり公的年金等控除を受けられます。公的年金を受給するタイミングをずらせば、税負担を軽減する効果が期待できます。
会社員の場合、60歳前後でまとまった退職金が支給されるのが一般的です。ぜひ資産全体のキャッシュフロー表を作ってみて、「ここで年金を繰下げるとこの年の収入はいくら、不足分はいくら」というシミュレーションを作成してみてください。
企業年金やiDeCoがある方は、手取り収入を意識する必要があります。以下のFAQで詳しく解説しているので、参考にしてみてください。
手続きフローと留意点
最後に、実際に繰上げ・繰下げ受給を選択する際の手続き面の流れと注意事項をまとめます。制度上有利だからといっても、必要な手続きを怠ると思わぬ不利益を被る可能性がありますので、しっかり把握しておきましょう。
請求タイミングと必要書類(共通・年金機構窓口)
年金は、65歳になったら自動的に支給されるわけではありません。年金事務所に対する「年金受給の請求(裁定請求)」の手続きを自分でしなければ、年金は支給されません。
原則として65歳の誕生月に、日本年金機構から送られてくる「年金請求書」を提出することで老齢年金の受給が開始します。
繰上げ受給を希望する場合
受給資格(原則10年間の保険料納付)のある方は、60歳の誕生日以降であれば、いつでも繰上げ請求ができます。
ただし、60歳になった時点で、年金事務所から連絡が来るわけではありません。繰上げ受給を希望する時期に、繰上げ請求書を持って年金事務所または街角の年金相談センターへ提出する必要があります(日本年金機構からダウンロードが可能)。
手続きを行った時点で繰上げ減額率が決まり、撤回はできないため、慎重に判断しましょう。
請求時には、あわせて年金手帳(基礎年金番号のわかるもの)や本人確認書類(運転免許証等)、振込先金融機関口座情報なども持参すると安心です。
障害年金の申請方法は以下のFAQで解説しています。老齢年金の申請方法とあわせて、確認しておきましょう。
繰下げ受給を希望する場合
繰下げ受給を希望する場合、特別な手続きは不要です。65歳になる3カ月前に年金事務所から「年金請求書」が送られてきますが、何もしなければ自動的に繰下げとなります。
つまり、そのまま未請求の状態で待機する形になります。年金事務所に対して、事前に繰下げ受給を希望する旨を伝える必要はありません。
繰下げ受給の申出は、受け取り始めたいと思った時点で、年金事務所へ請求書を提出すればよいのです。例えば、70歳から受給したければ、70歳時点で年金事務所に繰下げ請求書を提出します。
その申出をした月の翌月分から、増額された年金が支給されます。繰下げ待機中はいつでも請求手続きが可能ですが、上限の75歳を超えるとそれ以上は繰下げできませんので、遅くとも75歳の誕生日が来る月までに請求を行う必要があります。
特別支給の老齢厚生年金を受給している人
60歳台前半で特別支給の報酬比例部分を受け取っている方が65歳になると、「老齢基礎年金+老齢厚生年金の本来給付」に切り替わります。65歳から年金を受給する場合は、あらためて年金請求書の提出が必要です。
なお、繰下げ受給を希望する場合、65歳時点での請求手続きは不要です(通常の繰下げ受給と同じ)。
老齢基礎年金と老齢厚生年金のうち、一方の年金のみ65歳時点での受け取りを希望する方は、以下のように申請しましょう。
老齢基礎年金のみ繰下げる場合:「年金請求書」の「受取方法欄」の「厚生年金のみ65歳から受け取る(基礎年金は繰下げ予定)」にチェック
老齢厚生年金のみ繰下げる場合:「年金請求書」の「受取方法欄」の「基礎年金のみ65歳から受け取る(厚生年金は繰下げ予定)」にチェック
なお、年金請求手続きは原則として年金事務所等の窓口で行いますが、郵送請求や電子申請(マイナポータル)も一部可能です。必要書類は年金加入歴や個人状況によって異なるため、年金機構の案内や公式サイトで確認してください。
繰上げ選択後は取消し不可
繰上げ受給の申請は、一度行うと取り消しができません。例えば、「60歳で繰上げ開始して数年経ったが、やっぱり減額が大きいので65歳からに戻したい」ということは認められていません。
繰上げするか迷った場合でも、安易に手続きしないことが鉄則です。減額された年金が一生涯続いてしまうと、預貯金を取り崩すペースが早まり、想定よりも長生きをした場合に資産が枯渇してしまう恐れがあります。
「初診日・障害認定日がともに繰上げ受給前だった」のように、特別なケースでは障害年金を請求できます。ただし、このようなケースは稀なので、基本的には繰上げ受給を選択すると、取り消しはできない点を押さえておきましょう。
障害年金に関しては、以下の記事で詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
繰下げは柔軟性がある
繰下げ受給の場合は柔軟性があり、66歳以降はいつでも好きなタイミングで年金を受給できます。つまり、65歳を過ぎて請求していなければ、いつ請求するかは本人の自由です。
また、請求の方法は以下2つがあります。
- 増額された年金を受け取る
- 繰り下げてきた期間の分をまとめて受け取る(この場合、増額はなし)
例えば、70歳まで5年間繰下げた場合であれば「42%増額された年金を受け取る」または「5年分の年金をまとめて受け取る」のいずれかを選択できます。
もし70歳時点でまとまったお金が必要になった場合(入院や介護施設への入居など)、増額はあきらめてでも、まとめて受け取ったほうがよいかもしれません。65歳時点での年金額が年額180万円だった場合、「180万円×5年=900万円」を額面で受け取れます(ただし、以後の年金についての増額はなし)。
繰下げ待機中に亡くなった場合でも、遺族は未支給期間の年金(最大5年分)を一括して受給できます。ただし、請求した時点から5年以上前の年金は、時効により受け取れません。
部分年金受給・加算年金など関連制度の活用
繰上げ・繰下げ制度と関連して知っておきたい周辺制度もあります。
加給年金
加給年金とは、年金版の家族手当のようなものです。厚生年金保険の被保険者期間が20年以上ある方が65歳に到達した時点で、その方に生計を維持されている配偶者または子がいる場合に加算されます。
支給額は年額約40万円(子は約24万円)で、老齢厚生年金の上乗せとして、配偶者が65歳になるまで受け取れます(子は18歳到達年度の末日まで、1級・2級の障害の状態にある場合は20歳未満)。
しかし、繰上げ受給・繰下げ受給をした場合、加給年金は以下のような取り扱いになる点に注意しましょう。
- 繰上げ受給:65歳まで加給年金は受給できない
- 繰下げ受給:繰下げ期間中は加給年金を受け取れない
繰上げ受給を選択しても、加給年金は前倒しでは支給されません。たとえば63歳で老齢厚生年金を繰上げても、加給年金は夫65歳になるまでは支給されないのです。また、繰下げ期間中に「加給年金だけ受け取る」ということはできません。
なお、加給年金は減額・増額の対象外です。老齢厚生年金を70歳から繰下げ受給する場合、その時点で妻が65歳未満であれば加給年金は支給されますが、繰下げ増額の対象にはなりません(増額されるのは夫自身の厚生年金部分のみ)。
加給年金の権利がある方は、繰上げ・繰下げの戦略を慎重に練る必要があります。「加給年金」と「繰下げ受給で増えると見込まれる総額」を考えたうえで、よりよい判断をしましょう。
ただし、加給年金が支給されるのは、あくまでも老齢厚生年金です。加給年金を受け取るのであれば、「厚生年金は65歳から受け取り、老齢基礎年金だけを繰り下げる」という選択も検討しましょう。夫婦の年齢差が大きい場合、「約40万円×年齢差分」の加給年金を受け取れます。
付加年金
第1号被保険者の期間中に月400円の付加保険料を納めていた方は、老齢基礎年金に「200円×付加保険料納付月数」の付加年金が上乗せ支給されます。付加年金についても、通常と年金と同様の繰上げ減額・繰下げ増額が適用されます。
なお、付加年金は老齢基礎年金の上乗せであるため、付加年金単独での繰上げや繰下げはできません。
よくある質問(FAQ)
この記事のまとめ
公的年金の繰上げ・繰下げは単純な増減率では語れず、健康寿命、就労収入、税・社会保険料が複雑に絡みます。本文で紹介した損益分岐点計算と意思決定フレームワークを使えば、自分に合う開始年齢を論理的に導けます。迷う場合は年金相談センターや独立系アドバイザーにシミュレーションを依頼し、請求期限を逃さず行動に移しましょう。

金融系ライター
厚生労働省や保険業界・不動産業界での勤務を通じて、社会保険や保険、不動産投資の実務を担当。FP1級と社会保険労務士資格を活かして、多くの家庭の家計見直しや資産運用に関するアドバイスを行っている。金融メディアを中心に、これまで1,000記事以上の執筆実績あり。
厚生労働省や保険業界・不動産業界での勤務を通じて、社会保険や保険、不動産投資の実務を担当。FP1級と社会保険労務士資格を活かして、多くの家庭の家計見直しや資産運用に関するアドバイスを行っている。金融メディアを中心に、これまで1,000記事以上の執筆実績あり。
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長生きリスク
長生きリスクとは、自分の寿命が予想よりも長くなることで、老後の生活資金が不足してしまう可能性があるリスクのことを指します。 医療の発達や生活環境の改善によって平均寿命が延びている中、年金や貯蓄だけでは十分な生活を続けられない事態が起こりやすくなっています。 このリスクを踏まえて、長期的な資産運用や保険の活用など、老後の生活を支えるための計画がますます重要になっています。投資初心者の方も、老後の資金をどう確保するかという視点で、このリスクについて考えることが大切です。
在職老齢年金
在職老齢年金とは、年金を受け取る年齢に達していても、働いて一定以上の収入がある場合に、老齢厚生年金の支給額が調整される制度のことを指します。 具体的には、賃金や年金の合計が一定の基準を超えると、年金の一部が支給停止となる仕組みになっています。 これは、働きながら年金を受け取る人の公平性を保つための制度ですが、収入によっては年金額が減ってしまうため、退職時期や働き方を考える上で重要な要素となります。投資初心者の方にとっても、自分の将来の収入と年金の関係を理解するうえで欠かせない概念です。
キャッシュフロー表
キャッシュフロー表とは、一定期間の収入と支出の動きを一覧にして、将来の資金残高を予測するための表のことです。 主に家計や企業の資金計画に使われ、毎年の収入や生活費、教育費、住宅ローンの返済、投資などを記録することで、お金の流れが見える化されます。 資産運用を考える際にも、いつどれだけのお金が必要になるかを把握するために欠かせないツールです。特に投資初心者の方にとっては、自分のお金の使い方や貯蓄・運用のバランスを把握する第一歩として活用されることが多いです。
未支給年金
未支給年金とは、年金受給者が亡くなった際に、本来その方が受け取るはずだったけれど、まだ支払われていなかった年金のことを指します。 この年金は、死亡日以降に支払われる予定だった分ではなく、死亡日以前に発生していたが未払いだった金額が対象になります。 受け取るには、配偶者や子どもなどの遺族が、所定の期間内に「未支給年金の請求手続き」を行う必要があります。遺族が請求しなければ受け取れないため、家族が年金の手続きについて正しく理解しておくことが大切です。投資初心者の方でも、自分や家族の万一に備えた知識として知っておくべき制度の一つです。
年金請求書
年金請求書とは、年金を受け取る権利がある人が、公的年金を実際に受け取るために提出する書類のことです。 日本では、老齢年金や遺族年金、障害年金などの受給を開始する際に、この請求書を年金事務所に提出する必要があります。年齢や加入期間、受給条件を満たしていても、この請求書を提出しない限り年金の受け取りは始まりません。 手続きには本人確認書類や口座情報なども必要で、正確な記入と準備が重要です。投資初心者の方にも、年金は老後資金の柱の一つとなるため、この請求手続きについて理解しておくことは大切です。
繰下げ待機
繰下げ待機とは、年金の受給開始年齢を法定年齢よりも遅らせる「繰下げ受給」の制度を利用する際に、実際に受け取りを始めるまでの待機期間のことを指します。 この期間は、年金を請求せずに待機することで、将来の受給額が増える仕組みになっています。例えば、老齢基礎年金を65歳から受け取らずに70歳まで繰り下げた場合、受給額は最大42%増加します。 繰下げ待機は、長生きする可能性がある方や他に収入源がある方にとって、有利な選択肢となることがあります。投資初心者でも、老後の収入戦略の一環としてこの制度を理解しておくと、自分に合った年金の受け取り方を選ぶ手助けになります。
健康寿命
健康寿命とは、日常生活を自立して送り、介護を必要としない期間の平均年数を指します。平均寿命が「生まれてから亡くなるまで」の長さを示すのに対し、健康寿命は「心身ともに健康で制限なく暮らせる期間」に焦点を当てます。 医療水準の向上によって平均寿命が延びても、病気や要介護状態で過ごす時間が長いと生活の質は下がり、治療や介護にかかる費用が増える恐れがあります。 そのため、投資や老後資金を考える際には、単に長生きする可能性だけでなく、健康寿命を延ばすための生活習慣や予防医療への投資も重要となります。健康寿命が伸びれば、自立した期間が長くなり、医療費や介護費の負担を抑えながら充実したセカンドライフを過ごせる可能性が高まります。
裁定請求
裁定請求とは、公的年金を受け取る資格が生じた人が、日本年金機構などに対して年金の支給開始を正式に申し立てる手続きです。 資格を満たしても自動的に年金が振り込まれるわけではなく、所定の書類を提出して初めて「裁定」(受給額や支給開始時期を決定する審査)が行われます。裁定が下りると、請求者の口座へ年金が支給され始めるため、老齢年金や障害年金を受け取りたい場合は適切な時期にこの手続きを行うことが重要です。
公的年金
公的年金には「国民年金」と「厚生年金」の2種類があり、高齢者や障害者、遺族が生活を支えるための制度です。この制度は、現役で働く人たちが納めた保険料をもとに、年金受給者に支給する「世代間扶養」の仕組みで成り立っています。 国民年金は、日本に住む20歳以上60歳未満のすべての人が加入する制度です。保険料を一定期間(原則10年以上)納めると、65歳から老齢基礎年金を受け取ることができます。また、障害を負った場合や生計を支える人が亡くなった場合には、障害基礎年金や遺族基礎年金を受け取ることができます。 厚生年金は、会社員や公務員が対象の制度で、国民年金に追加で加入する形になります。保険料は給与に応じて決まり、支払った分に応じて将来の年金額も増えます。そのため、厚生年金に加入している人は、国民年金だけの人よりも多くの年金を受け取ることができ、老齢厚生年金のほかに、障害厚生年金や遺族厚生年金もあります。 公的年金の目的は、老後の生活を支えるだけでなく、病気や事故で障害を負った人や、家計を支える人を亡くした遺族を支援することにもあります。財源は、加入者が納める保険料と税金の一部で成り立っており、現役世代が高齢者を支える「賦課方式」を採用しています。しかし、少子高齢化が進むことで、この仕組みを今後も維持していくことが課題となっています。公的年金は、すべての国民が支え合い、老後の安心を確保するための重要な制度です。
繰下げ受給
繰下げ受給とは、本来65歳から支給される公的年金(老齢基礎年金や老齢厚生年金など)の受け取り開始を自分の希望で後ろ倒しにする制度です。66歳以降、最大75歳まで1か月単位で繰り下げることができ、遅らせた月数に応じて年金額が恒久的に増えます。 増額率は1か月当たり0.7%で、10年(120か月)繰り下げた場合にはおよそ84%の上乗せとなるため、長生きするほどトータルの受取額が増えやすい仕組みです。ただし、繰下げた期間中は年金を受け取れないため、その間の生活資金や健康状態、就労収入の見通しを踏まえて慎重に検討することが大切です。
老齢厚生年金
老齢厚生年金とは、会社員や公務員などが厚生年金保険に加入していた期間に応じて、原則65歳から受け取ることができる公的年金です。この年金は、基礎年金である「老齢基礎年金」に上乗せされる形で支給され、収入に比例して金額が決まる仕組みになっています。つまり、働いていたときの給与が高く、加入期間が長いほど受け取れる年金額も多くなります。また、一定の要件を満たせば、配偶者などに加算される「加給年金」も含まれることがあります。老後の生活をより安定させるための重要な柱となる年金です。
老齢基礎年金
老齢基礎年金とは、日本の公的年金制度の一つで、老後の最低限の生活を支えることを目的とした年金です。一定の加入期間を満たした人が、原則として65歳から受給できます。 受給資格を得るためには、国民年金の保険料納付済期間、免除期間、合算対象期間(カラ期間)を合計して10年以上の加入期間が必要です。年金額は、20歳から60歳までの40年間(480月)にわたる国民年金の加入期間に応じて決まり、満額受給には480月分の保険料納付が必要です。納付期間が不足すると、その分減額されます。 また、年金額は毎年の物価や賃金水準に応じて見直しされます。繰上げ受給(60~64歳)を選択すると減額され、繰下げ受給(66~75歳)を選択すると増額される仕組みになっています。 老齢基礎年金は、自営業者、フリーランス、会社員、公務員を問わず、日本国内に住むすべての人が加入する仕組みとなっており、老後の基本的な生活を支える重要な制度の一つです。
損益分岐点
損益分岐点とは、売上と費用がちょうど同じになり、利益も損失も出ない境目の売上金額のことを指します。つまり、これ以上売上が増えれば利益が出て、これより少なければ赤字になるという基準点です。企業の経営や事業の採算性を判断するうえで非常に重要な指標です。投資の場面では、企業の収益構造を理解するために損益分岐点を確認することで、どれくらいの売上規模で利益が出るのかを把握できます。また、新しく事業を始める際にも、どのくらい売上を確保すれば黒字になるかを考える材料として使われます。投資判断や事業計画を立てるうえで欠かせない基本的な概念です。
iDeCo(イデコ/個人型確定拠出年金)
iDeCo(イデコ)とは、個人型確定拠出年金の愛称で、老後の資金を作るための私的年金制度です。20歳以上65歳未満の人が加入でき、掛け金は65歳まで拠出可能。60歳まで原則引き出せません。 加入者は毎月の掛け金を決めて積み立て、選んだ金融商品で長期運用し、60歳以降に年金または一時金として受け取ります。加入には金融機関選択、口座開設、申込書類提出などの手続きが必要です。 投資信託や定期預金、生命保険などの金融商品で運用し、税制優遇を受けられます。積立時は掛金が全額所得控除の対象となり、運用時は運用益が非課税、受取時も一定額が非課税になるなどのメリットがあります。 一方で、証券口座と異なり各種手数料がかかること、途中引き出しが原則できない、というデメリットもあります。
企業年金
企業年金とは、企業が従業員の退職後の生活資金を支援するために設ける年金制度のことです。代表的なものに確定給付企業年金(DB)と確定拠出年金(DC)があります。DBでは企業が給付額を保証し、DCでは従業員自身が運用リスクを負います。企業年金は、長期的な資産運用が求められるため、運用方針や市場環境の変化が大きな影響を与えます。
付加年金
付加年金とは、国民年金に加入している人が、定額の保険料(月額400円)を上乗せして納めることで、将来の年金額を増やせる制度です。自営業者やフリーランスなどの第1号被保険者が対象で、支払った付加保険料に応じて、老齢基礎年金に上乗せして受け取ることができます。 受け取り額は、付加保険料を納めた月数に200円をかけた金額が年金に加算される仕組みで、長生きするほどお得になるとされています。特に、iDeCoなどの他の自助努力型制度と併用することで、老後の年金対策に柔軟性を持たせることができます。資産運用の観点からは、少ない負担で将来の収入を増やす手段として、非常に効率的な選択肢の一つです。