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全世界所得課税とは?居住者・非居住者の税務対応と申告ルールを徹底解説

全世界所得課税とは?居住者・非居住者の税務対応と申告ルールを徹底解説

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執筆者:

公開:

2025.06.07

更新:

2025.06.07

基礎知識資産管理タックスプランニング

海外に資産を持つ日本人や駐在員が直面する「全世界所得課税」。居住者と非居住者の区分が、所得税や申告義務を大きく左右します。特に富裕層やグローバルに資産運用を行う方にとっては、制度の理解不足が重い税負担や申告漏れのリスクにつながりかねません。本記事では、日本の課税ルールの全体像から非居住者戦略、二重課税の回避方法、最新のCRS・CARF対応まで、実務で必要な論点を網羅的に解説します。

サクッとわかる!簡単要約

本記事を読むことで、居住者・非居住者の定義や課税対象の違いといった基本から、駐在員や富裕層が陥りやすい税務リスク、国外所得の申告義務、租税条約や外国税額控除の具体的な活用方法までを体系的に理解できます。加えて、近年注目されるCRS(共通報告基準)やCARF(暗号資産報告枠組み)による情報共有の影響や、国外転出時課税などの出口対策もカバー。読後には、自分の資産や居住形態がどの区分に当てはまり、どのような税務対応が求められるのかを具体的に把握できるようになります。単なる制度の説明にとどまらず、実務での意思決定に役立つ視点が得られます。

目次

日本の居住者に適用される課税対象とは

なぜ海外所得も申告・課税対象になるのか

居住者・非居住者の区分と税務上の違い

所得税法における居住者・非居住者の定義

課税対象の違い(全世界所得 vs 国内源泉所得)

実務で迷いやすいパターン(駐在員・短期帰国・海外移住)

二重課税の仕組みとその回避策──租税条約と外国税額控除の活用

二重課税が発生する典型パターン

租税条約による課税権の配分と回避方法

外国税額控除の仕組みと適用限度

控除対象外の事例・注意点(タックスヘイブン、非協定国など)

CRS・CARFと「全世界所得課税」の接点──情報の透明化が進む現代

CRS(共通報告基準)による口座情報の自動交換

CARF(暗号資産報告枠組み)の制度概要

申告漏れ・過少申告が発覚しやすくなる仕組み

実務で注意すべきケーススタディ──よくある申告漏れ・トラブル

ケース① 海外不動産からの賃料収入と日本での申告

ケース② 外国証券の配当・利子・売却益への対応

ケース③ 日本に扶養家族を残している駐在員の税務判定

税務・資産運用上のリスクマネジメントと対応策

「非居住者化」のメリットと注意点

移住・海外投資による節税スキームの限界

全世界課税を踏まえた税務戦略と専門家活用の意義

全世界所得課税とは、日本の税法上の居住者の個人に対し、その所得が国内で得たものか国外で得たものかを問わず、全世界で得た所得すべてを日本で課税対象とする考え方です。これは各国で広く採用されている「居住地国課税」の原則であり、対となる概念に「源泉地国課税」(所得が生じた国で課税)があります。

つまり、日本に生活の拠点を置く人は日本国内・国外を問わず全所得に日本の所得税が課される仕組みであり、非居住者には日本国内源泉の所得にのみ課税する方式です。

日本がこの全世界所得課税を採用する背景には、国際的な所得移転による課税漏れを防ぎ、課税の公平性を保つ目的があります。例えばタックスヘイブン(租税回避地)に所得をため込んで本国に配当しない場合、どの国でも課税されずに済んでしまいます。

こうした所得が各国で捕捉されなければ、日本の課税ベースが侵食され、税負担の公平性・中立性が損なわれるおそれがあります。全世界所得課税により、日本は居住者の経済力に見合った負担を求める一方、国外に所得を逃がす不公平を防止しているのです。

日本の居住者に適用される課税対象とは

日本の居住者が課税対象とする所得には、給与・事業所得から利子・配当、不動産賃貸収入、資産の譲渡益に至るまで全世界で得たあらゆる所得が含まれます。たとえ海外で得た収入であっても、日本に居住している限り日本での申告・納税義務があります。

例えば海外の銀行口座で発生した利息、海外の証券口座で得た配当金や売却益、海外不動産からの賃料収入なども、日本への送金の有無にかかわらず日本の所得税申告が必要です。居住者に課される税負担は全球的な所得に及ぶため、その分野は多岐にわたります。

一方で、日本には「非永住者」と呼ばれる特殊な区分もあります。非永住者とは日本国籍を有さず、かつ過去10年以内の日本居住期間が5年以下である居住者を指し、この場合は外国で得た所得のうち日本に送金・支払されたものだけが課税対象となる優遇があります(原則として国外源泉所得の一部非課税)。

ただし、非永住者に該当しない日本人や長期居住者は原則として全世界所得課税**となります。自分がどの区分に属するかによって、課税範囲が異なる点に注意が必要です。

なぜ海外所得も申告・課税対象になるのか

海外で得た所得にも日本で課税される理由は、大きく分けて課税の公平性確保と国際的な脱税・租税回避の防止のためです。居住者が国外で得た所得を申告しなくてよいとすれば、高所得者ほど所得を海外に移すインセンティブが生まれ、不公平になります。

また、先述のように各国が協調して課税しなければ、所得がどの国でも課税されない「課税の空白」が生じてしまいます。日本はOECD(経済協力開発機構)加盟国の一員として、国際的な課税ルール作りにも参加しており、自国の居住者には世界中で得た所得について納税義務を課す一方、二重課税排除の取り組み(租税条約の締結や外国税額控除制度の導入)も行っています。

要するに、海外所得も含めて申告させることで富裕層を含む居住者全員に公平な負担を求め、国外に所得を移す節税スキームに歯止めをかけるのが全世界所得課税の趣旨なのです。グローバル化した現代では、多くの国がこの原則を採用し、自国居住者の国外所得まで捕捉・課税する体制を整えています。

居住者・非居住者の区分と税務上の違い

日本の所得税法では個人を「居住者」と「非居住者」に区分しており、課税範囲が大きく異なります。まず居住者とは「国内に住所を有し、または現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人」を指します。

簡単に言えば日本国内に生活の拠点がある人が居住者です。逆に非居住者は「国内に住所を持たず、且つ現在まで引き続き1年以上居所を持たない人」を言い、海外に生活の拠点が移っている人が該当します。この判定は形式的な住民票の有無ではなく、実質的な生活実態によってなされます。

非居住者になったときの証券口座の取り扱いについては、こちらのFAQもご参照ください。

所得税法における居住者・非居住者の定義

居住者か非居住者かの判断基準として重要なのは、「住所」と「居所」の概念です。住所とは法律上明確な定義はありませんが、一般に「生活の本拠」を指し、本人とその家族の生活基盤が置かれている場所と解されます。一方、居所とは住所ほど恒久的ではないものの「現に居住している場所」を意味し、ホテル暮らしや短期滞在先などが該当します。

所得税法では、国内に住所がある人、または1年以上継続して居所がある人を居住者とみなします。したがって、たとえ国外に長期滞在していても日本に明確な生活拠点(住所)が残っていれば居住者と判定される可能性があります。また逆に、日本に一時的に入国して1年以上滞在すれば、その時点で住所がなくとも居所の基準により居住者となります。

課税対象の違い(全世界所得 vs 国内源泉所得)

居住者に対する課税範囲は前述の通り全世界所得、つまり日本国内外のあらゆる所得が対象です。一方、非居住者の場合は日本国内源泉所得のみが課税対象となります。国内源泉所得とは、日本国内で生じた所得や日本国内で支払われる所得のことで、具体的には日本企業から支払われる給与、日本の不動産からの賃料、日本所在の資産売却益などが該当します。

非居住者には国外で得た給与・利子・配当・事業収入などは日本では課税されず、日本の税務上は把握の対象外となる点が居住者との大きな違いです。

例えば、日本に住所を有する方が海外勤務となった場合でも、その赴任期間中に日本の居住者であり続ける限り海外での給与所得も日本で課税対象になります。一方、海外に生活拠点を完全に移して非居住者となれば、日本での納税義務は日本国内に源泉のある所得だけ(日本に残した資産からの所得など)に限定されます。したがって、日本の課税をコントロールする上で「居住者か非居住者か」の区分は非常に重要です。

実務で迷いやすいパターン(駐在員・短期帰国・海外移住)

居住形態の変化に伴う判定は実務上しばしば悩ましい問題を生じさせます。典型例として、海外駐在員が挙げられます。日本の会社から海外赴任する場合、多くは「1年以上国外で勤務」の予定で出国するため、その時点で翌日から非居住者として取り扱われます。

会社は赴任前日までの所得について年末調整や確定申告を行い、出国後は給与について日本での源泉徴収を停止するのが通常です。一方で、短期の海外出張や半年程度の留学など、滞在期間が1年未満の場合は税法上は引き続き居住者とみなされ、日本での課税関係が継続します。

また、滞在期間だけでなく家族や生活拠点の状況も判定に影響します。例えば家族を日本に残して単身で海外赴任したケースでは、本人は長期間日本を離れていても日本に住所(生活の本拠)を維持しているとみなされる可能性があります。

出国後も自宅が日本にあり家族が住み続けている場合は、「生活の本拠」がなお日本にあると推定され、非居住者として認められにくくなる傾向があります。反対に家族ごと海外に移り住めば、日本側に生活基盤がなくなるため非居住者判定が容易になるでしょう。

さらに、所得の発生状況や職業も考慮されます。一般に国外勤務を常とする職業(外交官や船員など)の人は非居住者と推定され、逆に国内でプロジェクト任務を帯びて一定期間国外滞在するだけの場合は居住者の可能性が高まります。

なお、「183日ルール」について誤解があるので注意が必要です。これは多くの国で居住者判定の目安として使われたり、租税条約で一時滞在者の免税要件(日数要件)に用いられる日数ですが、日本の所得税法上は183日という明確な期間基準は存在しません。

日本ではあくまで「住所がどこにあるか」で総合的に判断されます。したがって「半年以上海外にいれば日本非居住者になれるだろう」というのは誤りであり、実際には出入国の状況、家族・資産の所在地、生活実態などを総合して判定されます。税務上の居住区分は専門的判断を要する場合も多く、駐在や海外移住を検討する際には税理士等専門家に相談することが望ましいでしょう。

海外赴任前後の資産運用については、こちらの記事で詳しく解説しています。あわせてご覧ください。

二重課税の仕組みとその回避策──租税条約と外国税額控除の活用

国外所得に全世界課税を及ぼすと避けて通れない問題が「国際的二重課税」です。これは一つの所得に対して二つ以上の国がそれぞれ課税する状況を指し、典型的には居住地国と源泉地国の双方で課税が発生するケースです。例えば、日本の居住者が米国株式の配当を受け取れば、米国(源泉地国)で10%程度の源泉徴収課税を受け、さらに日本(居住地国)でもその配当を所得税の課税対象として申告しなければなりません。

また、日本に居住したまま海外の支店・現地法人で働く駐在員の場合、給与所得が勤務国と日本の両方で課税対象となり得ます。こうした二重課税はそのまま放置すれば納税者の負担が過重になるだけでなく、国際的な経済活動の阻害要因ともなるため、各国は回避策を講じています。

二重課税が発生する典型パターン

投資収益の重複課税

海外の預金利子や株式配当・譲渡益は現地国で課税されたうえで、日本でも課税対象となります。先述のとおり米国株の配当は米国で源泉徴収(通常10%)された残額に対し、日本でも約20%の課税が行われるため、放っておけば合計税率は30%超に達します。同様に、海外の不動産を売却して利益が出た場合も、現地で譲渡益課税されたうえ日本でも申告課税される可能性があります。

勤務先と居住地の課税権競合

海外勤務中の日本居住者や、日本で働く非居住者(外国人)の給与所得も二重課税が典型的に問題となる分野です。駐在員の場合、勤務国が給与に課税すると同時に、日本では居住者として全所得課税の原則から日本円換算した給与を申告する必要が生じます。ただし給与については赴任先と日本の間の租税条約で特別の規定(例えば短期滞在者免税など)が置かれていることもあります。また外国人が日本で働く場合は、日本では源泉徴収される一方で母国でも全世界所得課税が及ぶケースがあり得ます。このように国際的な人的移動や投資により、一つの所得を複数国が課税権主張する局面が生じます。

租税条約による課税権の配分と回避方法

こうした二重課税を調整するため、各国間では「租税条約」が結ばれています。租税条約は二国間で課税権の配分ルールを定める協定であり、特定の所得についてどの国が課税できるか、また課税する場合の税率上限(制限税率)等を取り決めています。

例えば日米租税条約では、米国株の配当は米国で最大10%まで課税できると定められており、日本居住者が米国株配当を受け取る際は米国源泉税は10%に軽減されます(通常米国は非居住者に30%課税するが条約適用で軽減)。

このように条約により源泉地国の課税を限定または排除することで、居住地国での課税と合わせて適正な税負担となるよう調整が図られます。所得種類によっては一方の国のみが課税できるとする条約規定(例:年金や不動産所得の取り扱いなど)もあります。

日本は米国、英国、中国など主要国を含む約60か国超と租税条約を締結しており、投資や雇用による所得について二重課税の回避措置を講じています。条約適用を受けるには所定の届出(租税条約に関する届出書や居住者証明書の提出など)が必要ですが、適用されれば源泉徴収税率の引下げや免除が受けられるため、海外から所得を得る際はまず条約による軽減措置を検討することが重要です。

外国税額控除の仕組みと適用限度

租税条約をもってしてもなお生じる二重課税に対しては、居住地国(日本)の側で「外国税額控除」という救済制度が用意されています。外国税額控除とは、その年に外国で支払った所得税相当額について、日本の所得税から一定限度まで差し引くことを認める仕組みです。具体的な控除限度額は「日本の所得税額 × (外国源泉所得÷その年の総所得)」という比率で計算されます。言い換えれば、外国源泉所得が日本の総所得に占める割合に応じて、日本の税金のうちその所得に相当する部分までを上限に外国での納税分を控除できる計算です。

例えば、日本の総所得1億円のうち外国株の配当が1,000万円(10%)の場合、外国税額控除で差し引ける上限は日本の所得税額の10%までです。仮にその配当について外国で源泉税15%相当を支払っていても、日本で差し引けるのは日本の税額分(約20%×1,000万円の所得=200万円)の範囲内となり、それを超える部分(外国で多く払い過ぎた5%分)は控除しきれず二重課税が一部残ってしまうことになります。

この超過分は日本の税制では今後3年間まで繰越控除することも可能ですが(控除しきれなかった外国税額を翌年以降に繰り越して控除申請できる制度)、最終的に控除しきれない場合もあり得ます。つまり、外国税額控除によっても完全には二重課税が解消されないケースが生じうる点に留意が必要です。

また、外国税額控除の対象となるのは基本的に外国の所得税またはそれに相当する租税に限られます。外国で課された税であっても、所得に対する課税でないもの(例えば固定資産税など資産課税や罰金的な課徴金)は控除の対象になりません。

適用対象外の税金を外国で納めている場合、その分は日本で考慮されず完全に負担増となります。さらに言えば、そもそも外国で税金が課されなかった場合(タックスヘイブンなど極端な低税率国)には日本での外国税額「控除」に充てるもの自体がないため、日本で通常どおり全額課税されます。

この場合は厳密には二重課税ではありませんが、「外国で非課税だから日本にも申告しなくてよい」という誤解は禁物です。日本の居住者である以上、無税の国で生じた所得も含め日本で申告・納税義務がある点を忘れてはいけません。

控除対象外の事例・注意点(タックスヘイブン、非協定国など)

上記のように、外国税額控除や租税条約によっても取り切れない二重課税コストが発生する場合があります。代表的なのは外国の税率の方が日本より高い場合や、日本と条約を結んでいない国(非協定国)で所得を得た場合です。

非協定国では源泉税率が高止まりすることが多く、先の例のように日本の控除限度を超過する恐れがあります。また、日本と条約のない国では租税協力も限られるため、外国で課税された事実関係の証明取得が難しく、最悪その税金が日本で控除認容されないリスク(形式要件を満たせず控除不可)もあります。

さらに富裕層の節税策として用いられるタックスヘイブンへの投資については、日本にはタックスヘイブン対策税制(外国子会社合算税制)があり、一定の要件下では外国法人に貯めた所得も日本で合算課税されます(この点は後述)。

そのため、単に外国で無税だからといって安心できず、日本の高税率が後から適用される場合があります。総じて、国際的に活動・投資する場合は条約や税額控除をフルに活用しつつも、完全に二重課税をゼロにできるとは限らないこと、国ごとの税制の違いによる思わぬ課税漏れ・超過負担のリスクがあることを認識しておきましょう。最適な対応策は所得の種類・相手国の組合せによって異なるため、専門家の助言を得ながら税務戦略を立てることが肝要です。

CRS・CARFと「全世界所得課税」の接点──情報の透明化が進む現代

国際的な課税ルール強化において近年特に重要なのが、各国税務当局間の情報交換システムです。OECD主導で導入が進んだ共通報告基準(CRS: Common Reporting Standard)や、新たに策定された暗号資産報告枠組み(CARF: Crypto-Asset Reporting Framework)によって、世界規模で金融情報の透明化が飛躍的に進みました。これらは全世界所得課税を実効あるものにするインフラとも言え、日本の富裕層にとっても無視できない制度です。

CRS(共通報告基準)については、以下の記事で詳しく解説しています。あわせてご覧ください。

CRS(共通報告基準)による口座情報の自動交換

CRSはOECDが策定した、各国の税務当局同士が非居住者(外国人)の金融口座情報を自動的に交換するための国際基準です。金融機関に対し口座保有者の居住地国を特定する手続きや報告義務を課し、それに基づいて各国税務当局が毎年情報交換を行います。日本でも2017年(平成29年)からこの制度が導入され、現在までに100を超える国と地域が参加しています。

具体的には、日本の税務当局(国税庁)は、参加国から提供される日本居住者の海外口座情報を受け取り、逆に日本国内の金融機関にある非居住者の口座情報を各国に提供しています。交換される情報には、口座名義人の氏名・住所・納税者番号、口座残高や利息・配当などの収入額が含まれ、租税条約等に基づく厳重な管理の下で利用されます。これにより、日本に居ながら海外口座で運用していた財産も税務当局の把握するところとなり、国外所得の申告漏れを発見しやすくなっています。

事実、CRS導入後数年で日本の税務調査の様相は変化しつつあります。「海外資産の申告漏れが疑われる層」への調査件数は増加傾向にあり、海外銀行口座や証券口座で発生した利息・利益について申告していなかったケースが次々と指摘されています。「国外財産調書」(後述)を提出していない富裕層に対する調査も強化されており、国外への大型送金記録なども分析の対象です。CRSというグローバルな網により、もはや海外にお金を逃がせば日本の目が届かないという時代ではなくなったのです。

CRSで報告対象となる資産の種類については、こちらのFAQもご参照ください。

CARF(暗号資産報告枠組み)の制度概要

近年台頭した暗号資産(仮想通貨やデジタル資産)についても、国際的な情報共有の枠組みが整備されました。それがOECDによるCARF(Crypto-Asset Reporting Framework)です。CARFは各国の暗号資産取引業者(交換業者や取引プラットフォーム)に対し、非居住者の暗号資産取引情報を自国税務当局へ報告する義務を課す制度であり、CRSと同様に各国当局間でその情報を自動交換する仕組みです。

具体的には、外国人(非居住者)の氏名・住所・納税者番号や、暗号資産ごとの年間の売買金額・収益額などが報告・交換される想定です。

CARFが策定された背景には、「分散型台帳(ブロックチェーン)を悪用した国際的な脱税リスクが顕在化した」ことがあります。暗号資産は匿名性が高く国境をまたいだやりとりも容易なため、従来の銀行口座とは別の経路で資産を海外移転させる手段になり得ました。そこでOECDは2022年にCARFを公表し、G20でもその実施が支持され、2027年までに多くの国で国内法整備・情報交換開始が予定されています。CARFではビットコインなど典型的な仮想通貨だけでなく、セキュリティ・トークンやNFT(非代替性トークン)なども報告対象に含めうる柔軟な設計となっています。日本もこれに沿った「日本版CARF」の導入準備を進めており、既に2023年11月には日本含む48か国が共同声明を発表しました。

要するに「仮想通貨で海外に資産を移して隠す」ことも今後は難しくなる見通しです。銀行口座から仮想通貨ウォレットに資金を逃しても、取引業者経由で税務当局に情報が渡れば把握されます。時価の乱高下する暗号資産取引で利益が出た場合、そのキャピタルゲインも各国に共有されて課税の網がかかることになるのです。

申告漏れ・過少申告が発覚しやすくなる仕組み

CRSやCARFの登場によって、海外における金融取引の匿名性は大きく後退しました。以前であれば、日本の税務当局が個人の海外資産や所得を把握するには情報提供要求や捜査協力といったハードルの高い手段が必要でした。しかし今や、協定参加国で合法的に集められたデータが自動的に入手できるため、申告漏れの発見が格段に容易になっています。

実際の税務調査現場でも、「海外口座で生じた利息収入を申告していないのでは?」といった具体的指摘が増えています。税務署はCRS交換情報や国外送金調書(国内銀行から税務署に報告される海外送金情報)など複数の情報源を突き合わせ、怪しい動きを洗い出します。海外資産についての国外財産調書が未提出だったり、提出内容と齟齬がある場合もチェック対象です。

納税者側の心理としても、「海外のことは税務署に分からないだろう」「少額だから申告しなくてもバレないだろう」という考えは非常に危険です。CRS導入以降、「申告する所得が無いと思っていた」「申告不要と思い込んでいた」「バレないだろうと敢えて無申告にした」といったケースが次々と摘発されています。今後CARFが本格運用されれば、暗号資産に関する過少申告も同様に発覚リスクが高まるでしょう。

結論として、現代の金融行政はグローバルに連携しています。 海外に所在する所得を日本で申告しなければ、いずれ各種情報網で把握され、深刻なペナルティを科される可能性があります(重加算税や刑事罰の対象となるケースもあります)。富裕層であれば尚更に注目されやすいので、全世界所得課税の原則を前提に正確な申告と適切な節税策の範囲内での対応を心掛ける必要があります。

実務で注意すべきケーススタディ──よくある申告漏れ・トラブル

海外に関わる所得で日本の申告を失念しやすいケースを、具体的に3パターン見ていきましょう。いずれも富裕層の資産運用や国際的な居住に関連して起こりがちなトラブルです。それぞれのケースについて、注意点と対応策を解説します。

ケース① 海外不動産からの賃料収入と日本での申告

事例

日本在住のAさんはハワイにコンドミニアム物件を所有し、年間2万ドルの家賃収入を得ています。しかしその収入は現地の管理会社にプールしたままで、日本には送金していません。Aさんは「日本にお金を持ち込んでいないから日本の税金は関係ないだろう」と考え、確定申告をしていませんでした。

問題点

上述の通り、日本の居住者は海外での所得も送金の有無にかかわらず申告義務があります。Aさんのケースでは、本来毎年日本円に換算した賃料収入を不動産所得として申告しなければなりません。申告していなければ無申告加算税や延滞税のリスクがあります。またハワイ州や米国連邦でも現地課税が行われているはずで、米国と日本で二重課税の状況にもなっている可能性があります。

実務上の注意点

ハワイなど海外で得た不動産の賃料収入は、日本でも不動産所得として課税対象になります。国内の不動産と同様に確定申告が必要で、賃料を現地通貨で受け取っている場合は、その年の平均為替レートなどを用いて円に換算して申告します。現地で支払った管理費や固定資産税などの費用も必要経費として差し引くことができます。申告漏れがあった場合は、速やかに修正申告を行い、追徴課税や延滞税などの対応を行うことが大切です。

また、現地で既に所得税を納めている場合には、日本の確定申告で外国税額控除を利用することで、二重課税を防ぐことができます。たとえば、ハワイで納税した分を日本で支払う税額から差し引くことが可能ですが、控除できる上限は日本の課税所得に応じて定められており、超過分は控除されません。外国税額控除を適用するには、現地の納税証明書や税額明細などの書類が必要となるため、書類の保管を忘れずに行いましょう。

さらに、日米間の租税条約では、不動産所得については不動産のある国でも課税できることが定められています。このため、ハワイで課税された賃料収入に対して、日本でも課税されるのは条約上も正当な扱いです。条約に基づき、日本側で外国税額控除を適用することで二重課税が解消される仕組みになっているため、「条約があるから日本では申告不要」といった理解は誤りです。正しくは、日本でもきちんと申告し、そのうえで控除制度を活用する必要があります。

対策・アドバイス

海外不動産投資はリターンが魅力的な反面、日本での税務手続きが煩雑になりがちです。物件ごとに為替レートや経費仕訳も必要で、国ごとに税制も異なるため自力対応が難しいケースもあります。したがって、早めに国際税務に詳しい税理士の支援を受けることをお勧めします。

専門家であれば外国税額控除の計算や有利不利の判断(例えば損失が出ている場合の取り扱いなど)も適切に行ってくれるでしょう。なお、将来的に物件を売却して利益が出た場合も、日本で譲渡所得申告が必要です。売却益には現地でも課税されますが、こちらも租税条約や税額控除で調整可能です。いずれにせよ**「海外にあるから日本に申告しなくていい」という考えは通用しない**と心得ましょう。

ケース② 外国証券の配当・利子・売却益への対応

事例

Bさんは欧州の株式や香港の投資信託など外国証券に幅広く投資しています。海外の証券会社口座を利用しており、毎年配当金や利息を現地通貨で受け取っていますが、日本では特に確定申告をしていません。日本の証券口座で生じた利益は特定口座源泉ありで完結しているので、外国分も申告不要だと思っていました。

問題点

このケースで見落とされやすいのは、海外の金融機関で得た運用益には日本での源泉徴収が行われていないため、本来は自分で確定申告をして納税しなければならないという点です。日本の証券会社を使っている場合、特定口座(源泉徴収あり)であれば、売却益や配当金には自動的に20.315%の税金が差し引かれ、確定申告が不要となるケースもあります。しかし、海外口座の場合、日本の税務当局は一切関与しておらず、自動的な課税もありません。

そのため、たとえばBさんが海外の銀行や証券口座で得た利子・配当・譲渡益について、日本で確定申告をしていなければ、それは申告漏れ(脱漏)に該当します。たとえば、香港のファンドから分配金を受け取る場合、香港では非課税であっても、日本では課税対象になります。欧州株の配当も同様で、現地で源泉徴収された上に、日本でも課税が発生します。

こうした海外所得を申告していない場合、国際的な金融情報の自動交換制度(CRS)により、日本の税務署へ口座情報が通知される可能性があります。その結果、後日税務署から申告漏れを指摘され、追徴課税や過少申告加算税が課されるリスクが高まります。

実務上の注意点

海外の預金利息や外国株の配当金など、国外の金融資産から得た収益は、日本では原則として確定申告が必要です。たとえば海外で受け取った利子は、日本円に換算したうえで「利子所得」として申告します。国内の利子のようにすでに税金が差し引かれているわけではないため、自分で申告して納税しなければなりません。

外国株の配当金も同様に、日本では「配当所得」として扱われます。配当所得は通常、他の所得と合算して総合課税されますが、上場株などの一定の条件を満たす場合には、確定申告によって20.315%の申告分離課税を選ぶことも可能です。ただし、この特例を受けるには確定申告が必須であり、申告しなければいずれにせよ申告漏れになります。

一方、日本の証券会社を通じて外国株に投資している場合、配当金を受け取る際に外国で源泉税が引かれ、さらに日本でも20.315%の税金が源泉徴収されます。この場合、日本国内での課税は完了しているように見えますが、外国で差し引かれた税金を取り戻すには確定申告をして「外国税額控除」を適用する必要があります。少額の場合は見逃されることもありますが、配当額が大きくなればなるほど、確定申告によって税額控除や還付を受けるメリットが大きくなります。

また、NISA口座で外国株を保有している場合、日本では配当金や譲渡益が非課税となりますが、外国で源泉徴収された税金(たとえば米国での10%)はそのまま差し引かれます。NISAでは日本側の課税がないため、外国税額控除も使えません。つまり、引かれた10%分の税金は取り戻すことができず、そのまま実質的なコストとなってしまいます。NISAは非課税制度として魅力的ですが、海外投資の場合はこうした税負担が発生することを理解し、投資対象や口座の使い分けを工夫することが大切です。

対策・アドバイス

海外金融資産からの所得も含め、全世界所得を適切に申告することがまず大前提です。「海外だから税務署は知らないはず」は通用しないことを肝に銘じましょう。CRS等でいずれ情報は把握されますし、近年は富裕層の海外口座にメスが入る事例が増えています。

未申告があるなら自主的に修正申告すれば加算税が5%軽減される措置もあります。また、外国税額控除を受けるためには確定申告が必要なので、多少手間でも税務上有利になるよう申告を活用する発想が大切です。専門家に依頼すれば、例えば配当所得を総合課税にして配当控除と外国税額控除を組み合わせる節税策や、損益通算できるケースの見極めなど、細かな最適化も可能です。

海外ETFや海外ファンドの場合、税制上の扱いが特殊なもの(ファンドの分配金が元本払戻し扱いになる等)もあるため、商品ごとに税務処理を確認しましょう。国外資産が5,000万円を超える場合は「国外財産調書」の提出も忘れずに行います。こうした総合的な管理により、海外投資による収益も国内投資と遜色なく適正に利益確定できるでしょう。

海外駐在が決定したときは、こちらのFAQもご参照ください。

海外駐在が決まりました。NISA口座は維持できますか?

ケース③ 日本に扶養家族を残している駐在員の税務判定

事例

日本企業に勤めるCさんはシンガポール支社へ3年間赴任中です。妻子は日本に残り、自宅も日本で維持しています。Cさん自身は赴任先に社宅が用意され、年に数回日本に一時帰国しています。会社からは「赴任期間中は非居住者扱いになる」と聞いていましたが、実際に日本での課税がどうなるのか不安に感じています。

問題点

この事例のポイントは、家族を日本に残している場合の居住者判定です。Cさんは3年間国外勤務予定なので形式的には非居住者となる条件を満たしています。しかし税務上の「住所」が日本に残っているとみなされる可能性があります。自宅に妻子が住み続け、生活費もCさんが日本の口座から送金しているような場合、「生活の本拠は依然日本にある」と判断されればCさんは日本居住者と認定されかねません。

その場合、シンガポールでの給与も日本の課税対象となり、シンガポールと日本の両方で課税される事態になります。一方、完全に非居住者と認められれば、日本では給与所得非課税ですが、代わりに日本出国時課税(いわゆる出国税)など他の論点も浮上します。

実務上の注意点

海外赴任にあたって、特に注意すべきなのが「居住者か非居住者か」の判定です。たとえば、Cさんが家族を日本に残して単身で赴任する場合、税務上は「国内に生計を共にする家族がいるかどうか」が居住者か否かの判断材料となります。一般的に、家族が日本にとどまり、生活基盤が日本に維持されていると見なされれば、海外に長期滞在していても引き続き日本の「居住者」と判断される可能性が高いです。ただし、居住者判定は一つの要素だけでは決まらず、赴任先での勤務形態や生活の実態、資産の管理状況、帰国予定の有無などを総合的に見て判断されます。たとえば、現地企業に転職し、その国に長期的に定住するようなケースでは、非居住者とみなされる余地が出てきます。

この居住区分によって、給与などの課税関係も大きく変わります。もしCさんが日本の居住者のままであれば、シンガポールで受け取る給与も日本で課税対象となり、日本の確定申告で外国税額控除の手続きを行う必要があります。一方で、非居住者に該当すれば、シンガポールの給与には日本の課税は及びません。ただし、日本国内の不動産収入や金融資産などから所得がある場合、それらには引き続き日本での申告義務があります。また、たとえ非居住者となっても、会社からの給与が日本の法人から支払われていたり、社会保険の加入が継続されていたりする場合には、別の取り扱いとなることもあります。赴任前には、会社の人事担当や税務の専門家と相談し、住民票の扱いや給与の支払い方法なども含めて事前に確認しておくことが重要です。

さらに、家族が日本に残る場合の税務上の取り扱いにも注意が必要です。たとえば、Cさんが非居住者となった場合、日本に住む妻子は引き続き居住者ですが、非居住者であるCさんには配偶者控除や扶養控除の適用が認められません。これは、非居住者にはそもそも日本の所得税の申告義務が基本的にないことが背景にあります。逆に、Cさんが日本の居住者として扱われれば、これらの控除を受けることができますが、その場合は全世界所得が課税対象となるため、結果として税負担が重くなる可能性があります。こうした点を総合的に踏まえ、赴任前には税務の影響を十分に検討しておくことが不可欠です。

対策・アドバイス

駐在員の場合、「自分が日本非居住者になるメリット・デメリット」を総合的に判断する必要があります。非居住者化すれば給与の日本課税は免れますが、例えば出国税の問題や、帰任時に再び居住者となってからの税務処理なども考慮しなければなりません。

また、日本に残した自宅を賃貸に出す場合は非居住者としての不動産所得申告が必要になり、納税管理人の選任といった追加手続きも発生します。会社によっては赴任者向けに税務アドバイスを提供してくれるところもありますから、渡航前に専門家を交えたシミュレーションをしておくと安心です。

どちらにせよ、居住者・非居住者の判断に不安がある場合は税務署や税理士に確認を取り、誤った自己判断で申告漏れや過大納税をしないようにしましょう。国際的な人事異動に伴う税務戦略は難易度が高いため、プロのサポートを得る意義が大きい分野です。

税務・資産運用上のリスクマネジメントと対応策

グローバルに資産運用を行う富裕層が取り得る税務戦略やリスク対策について考えてみます。全世界所得課税の網の下で、いかに適正に税負担を管理しつつ資産を増やすかはプロフェッショナルにとっても重要なテーマです。以下、特に論点となる事項を整理します。

「非居住者化」のメリットと注意点

近年、一部の富裕層の間で日本を離れて海外移住(非居住者化)する動きも見られます。日本の最高税率は所得税45%(住民税と合わせ最大55%)と高水準なため、税率の低い国に移り住めば大幅な節税になる可能性があるからです。

例えば、相対的に所得税の軽いシンガポールやドバイなどに移住すれば、日本非居住者となることで国外所得は日本課税されず、現地の低税率だけで済むメリットが享受できます。さらに日本では金融所得課税も分離20%課税ですが、非居住者になれば日本株の配当・売却益も原則非課税となり、国内資産からの収入も一部を除き課税を免れます。極端な例では、日本に全く所得がなければ所得税も住民税もゼロにできます。このように非居住者になること自体が強力な節税策となり得るのは事実です。

しかし、その一方で注意点やコストも無視できません。まず第一に、2015年から導入された「国外転出時課税制度(出国税)」があります。出国時に1億円以上の有価証券等の含み益を保有している人は、日本を出て非居住者になる際に、その含み益に対して日本で所得税が課される制度です。つまり、株式などを売却していなくても、出国のタイミングで評価益に課税され、多額の納税を余儀なくされる可能性があります。

富裕層であればこの基準に該当することも多く、下手に非居住者になろうとすると巨額の税金(いわば「離脱税」)を支払う羽目になりかねません。納税資金が不足する場合には担保提供により納税猶予を受ける制度もありますが、いずれにせよ安易に国外転出すると出口で課税が待っている点に留意が必要です。

次に、日本非居住者になると日本の社会保障から外れる、国内の医療保険が使えない、日本にいる家族の扶養控除等が使えないなど生活面・制度面での変化もあります。また、いったん非居住者になっても将来日本に戻れば再び全世界課税の対象となるため、生涯にわたるプランニングが求められます。

例えば資産の多くを金融投資に振り向けている方が5年間シンガポールに移住して非居住者になり、その間に利益確定して非課税で資産を売却し、6年目に日本に帰ってくる…といったスキームも理論上考えられます。しかし日本では過去10年内5年以下の居住という非永住者区分がありますので、5年経たずに戻ると再度全世界課税に組み込まれ、タイミングによっては節税にならない可能性もあります。

また、日本を出ている間も国内に不動産や会社など利源があれば非居住者として申告納税義務は残るため、完全に日本と縁を切らない限り税務手続きから逃れられるわけではありません。

要するに、非居住者化にはメリットとデメリットの精査が必要です。税負担だけでなく人生全体の設計、事業展開、日本への愛着や家族の事情など様々な要素を考慮すべきでしょう。もし非居住者化を本格的に検討するなら、出国税対策として評価益が大きい資産は事前に売却しておく、信託や法人を活用して資産を分散する、出国時期を工夫する(年末にかけて資産評価額が低い時期に出国する等)といった細かな戦略も考えられます。これも専門家との入念な計画立案が不可欠な領域です。

移住・海外投資による節税スキームの限界

富裕層の中には、タックスヘイブンに会社を設立して所得を移転する、外国籍を取得して節税を図る、といったスキームを模索する方もいます。しかし日本の税制はそうした租税回避行為に対抗する仕組みも備えています。その代表例が前述のタックスヘイブン対策税制(外国子会社合算税制)です。

この制度により、日本の居住者が一定以上の株式を保有する海外法人(しかも法人税負担率が低い場合)については、その法人の留保所得を日本の個人所得と合算して課税されます。合算された所得は「雑所得」として総合課税されるため、最高55%の個人所得税率が適用され、下手をすると日本で普通に課税されるより重い負担にもなりえます。つまり、「法人を海外に作れば個人の税金を逃れられる」という甘い考えでは、かえって高率の課税を招くのです。

さらに、日本では資産移転に関する課税強化も進んでいます。富裕層が海外に資産を移して相続や贈与で税負担を逃れることを防ぐため、国外財産調書制度や国外財産に係る相続税・贈与税の課税ルール整備がなされています。

毎年12月31日時点で5,000万円超の海外資産を持つ居住者(非永住者除く)は「国外財産調書」を税務署に提出する義務があり、提出を怠ればペナルティがあります。また調書を提出していれば万一申告漏れが発覚した場合の加算税が軽減される措置もあります。このように、海外資産を秘密に保持すること自体がリスクとなる時代です。国税当局は国外送金や金融口座情報、各種調書を突合し、不自然な資産移転には鋭く目を光らせています。

以上から言えるのは、移住や海外投資を利用した節税策には明確な限界があるということです。グローバルな情報ネットワークと国内法制の両面から、行き過ぎた節税は是正・課税される仕組みが整っています。「税金が高いから日本を出ればいい」「海外に会社を作れば所得を貯め放題だ」といった単純なものではなく、どの選択肢にもメリットとリスクがあります。下手をすると節税どころか多額の追徴課税や罰金を招きかねません。

全世界課税を踏まえた税務戦略と専門家活用の意義

富裕層にとって最も重要なのはリスクを管理しつつ合法的に税負担を最適化する戦略を立てることです。ポイントを整理すると次のようになります。

国外所得の適切な申告と控除活用

全世界所得課税を前提に、海外で得た所得は漏れなく日本で申告しましょう。その上で租税条約による軽減税率や外国税額控除を最大限活用し、二重課税を緩和することが基本戦略です。申告を通じて初めて取り戻せる税金(外国税の一部控除等)も多々あるため、面倒がらずに確定申告を活用します。

居住地・拠点の慎重な設定

税負担だけでなくビジネスや家族の状況も考慮し、どの国に居住するかを決めます。日本に住み続けるなら全世界所得への課税を織り込んだ資産運用プランを、日本を出て非居住者化するなら出国税や将来の再居住も視野に入れた計画を立てます。短期的な節税だけでなく長期的な総利益の最大化を図る発想が必要です。

制度変更へのアンテナ

税制や国際ルールは変化します。OECDの新提案や各国の税制改正によって有利不利が逆転することもあります。例えば今後CARFが実施されれば新たな対応が必要になるでしょうし、日本の税制も毎年改正があります。常に最新情報を収集し、戦略をアップデートしていく姿勢が求められます。

プロフェッショナルの助言

国際税務は専門知識無しに最適解を導くのは困難です。税理士、公認会計士、資産コンサルタントなど専門家の力を借りる意義は大きいでしょう。特に富裕層向けの資産税・国際税務に強いプロに相談すれば、一般には気づかない節税の余地や、逆に潜在的なリスクの指摘を受けられます。「税制に関しても変わっていく可能性が高いので、海外投資を専門とする税理士などとの連携が重要」だとの指摘もあります。費用対効果を考えても、プロのアドバイスによる節税額が報酬を上回るケースも多々あります。

コンプライアンスの重視

節税と脱税は紙一重です。不適切なスキームは将来否認されれば重加算税や社会的信用失墜という大きな代償を払います。したがって節税策は法律の範囲内で無理のないものに留め、法定調書や国外財産調書の提出など義務は確実に履行することが大前提です。「攻め」と「守り」のバランスを取り、リスクシナリオを常に想定したプランニングを行いましょう。

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投資のコンシェルジュ編集部は、投資銀行やアセットマネジメント会社の出身者、税理士など「金融のプロフェッショナル」が執筆・監修しています。 販売会社とは利害関係がないため、主に個人の資産運用に必要な情報を、正確にわかりやすく、中立性をもってコンテンツを作成しています。

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難易度:

タックスプランニングオフショア投資

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全世界所得課税

全世界所得課税とは、日本に住んでいる人が、日本国内だけでなく海外で得たすべての所得について、日本の税金の対象となる仕組みのことです。これは「居住者課税主義」と呼ばれる考え方に基づいており、日本に生活の拠点がある人(たとえば1年以上日本に住んでいる人など)が対象になります。たとえば、海外の株式や不動産から得た利益、外国の銀行預金の利息なども日本での所得として申告し、税金を納める必要があります。 一方で、すでにその海外で税金を支払っている場合には、「外国税額控除」という制度を使うことで、同じ所得に対して二重に課税されることを防ぐことができます。海外に資産を持つ投資家や、グローバルに資産運用を考えている方にとっては、正しい申告と節税対策のために知っておくべき重要なルールです。

居住者

居住者とは、日本の税法や外為法などにおいて、日本国内に住所があるか、または現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人を指します。つまり、生活の本拠地が日本にある人や、長期的に日本に滞在している人が「居住者」として扱われます。 これに対して、日本に住んでいない、または一時的な滞在でしかない人は「非居住者」とされます。税務上の居住者になると、日本国内外の所得すべてが課税対象となり、国外で得た収入にも日本の所得税がかかることがあります。金融取引や資産運用においても、居住者か非居住者かによって課税の扱いや手続きが大きく異なるため、自分の居住者区分を正確に理解しておくことは非常に重要です。

非居住者

非居住者とは、所得税法第2条第1項第5号に基づき、「国内に住所を有さず、かつ1年以上引き続いて居所を有しない個人」を指します。一般には、海外に生活の拠点を移して1年以上継続して滞在している方、特に海外赴任や永住を前提とした移住者などが該当します。 非居住者になると、日本の税制や金融制度上の取扱いが大きく変わります。税務上、日本は非居住者に対して「国内源泉所得」のみ課税権を持ちます。たとえば、日本国内勤務に対応する給与や賞与は国内源泉所得とされ、15.315%の税率で源泉徴収されます。非居住者は住民税や累進課税の対象外であるため、金額にかかわらずこの定率で課税が完結し、原則として確定申告も不要です。 この仕組みを活用すれば、高額報酬を受け取る場合でも、居住者の最大55%課税に比べて大幅に税負担を抑えられる可能性があります。ただし、非居住者として認められるには、住民票の除票だけでなく、生活拠点・勤務実態・業務の指示系統などから総合的に実態が判断されます。租税回避とみなされないよう、恒久的施設(PE)課税や居住国側での課税リスクにも留意が必要です。 一方、海外勤務に対応する給与・賞与は国外源泉所得とされ、日本では非課税です。報酬の支払元や雇用契約の内容によっては判断が分かれるため、租税条約の有無や適用範囲の確認も重要です。 退職金については、従業員の場合は国内勤務に対応する部分が、役員の場合は全額が国内源泉所得とみなされ、20.42%で源泉徴収されます。なお、退職所得の選択課税制度を使えば、居住者と同様に退職所得控除や1/2課税が適用され、還付を受けられることがあります。 金融面では、非居住者になることで日本の銀行口座や証券口座に制限がかかることがあります。多くの銀行では非居住者の口座維持に制限があり、住民票を除票後に届け出を行っていないと口座凍結のリスクもあります。証券口座の特定口座も廃止され、一般口座への移管が必要になります。 NISA口座も非居住者になると原則利用できなくなります。ただし、会社都合による海外赴任で「非課税口座継続適用届出書」を提出すれば、最長5年間は非課税枠を維持可能です。この場合でも、新規買付や積立は停止され、自己都合による移住では口座の廃止が必要です。 また、日本と非居住者の居住国との間に租税条約がある場合、課税が軽減または免除されるケースもあります。たとえば、台湾との間では、国外勤務に対応する退職手当の一部が日本で非課税となる取り扱いがあります。 このように、非居住者となることで税制・金融制度の適用が大きく変わります。とくに高額所得者や国際的な勤務を行う方にとっては、非居住者ステータスの活用が節税につながる一方で、税務リスクや手続き上の注意点も少なくありません。実態に基づいた制度設計と事前の準備が不可欠です。

租税条約

租税条約とは、国と国との間で取り決められる「税金に関する国際的な協定」です。たとえば、日本に住む人が外国の株式などに投資したとき、利益に対して日本とその国の両方で税金を取られてしまう可能性があります。これを「二重課税」と言います。 租税条約があると、この二重課税を防ぐ仕組みが整えられていたり、源泉徴収税率(配当や利子にかかる税率)が軽減されたりします。こうした仕組みにより、国際的な投資がしやすくなるため、資産運用においてとても重要な存在です。

二重課税

二重課税とは、同じ所得や資産に対して、二つ以上の国や課税主体から重ねて税金が課されることを指します。たとえば、外国の株式や債券に投資して得た利息や配当金に対して、まず現地の国で源泉徴収され、その後に日本でも課税されるというケースがあります。このような状況では、同じ収益に対して二重に税金がかかってしまい、実質的な手取りが減ることになります。ただし、日本では外国で課税された分を日本の税額から差し引く「外国税額控除」という制度があり、一定の条件を満たせば二重課税の負担を軽減することができます。海外投資を行う際は、このような税制のしくみにも目を向けることが重要です。

外国税額控除

外国税額控除とは、日本に住んでいる個人や法人が、海外で所得を得てその国で税金を支払った場合に、同じ所得に対して日本でも課税される「二重課税」を避けるために、日本で支払う税金からその分を差し引くことができる制度のことをいいます。たとえば、外国株式の配当金を受け取った際に、外国で源泉徴収された税金がある場合、その金額を一定の計算に基づいて日本の所得税や法人税から控除することができます。この制度を利用することで、国際的な投資やビジネスを行う際の税負担を適正に調整できるようになります。ただし、控除できる金額には上限があり、正確な申告と証明書類の提出が必要です。資産運用や海外取引を行ううえで、知っておきたい重要な税務上の仕組みです。

CRS(共通報告基準)

CRSとは、「共通報告基準(Common Reporting Standard)」の略で、各国の税務当局同士が金融口座に関する情報を自動的に交換するための国際的な制度です。これは主に、海外口座を利用した税逃れや資産隠しを防ぐことを目的として、OECD(経済協力開発機構)が提案し、多くの国が参加しています。 たとえば、日本に住んでいる人が海外の銀行に口座を持っている場合、その情報は現地の金融機関から日本の国税庁に自動的に報告される仕組みになっています。これにより、海外に資産を移してもその存在が把握されやすくなり、適正な納税を促すことができます。投資初心者にとっては直接の影響は少ないかもしれませんが、グローバルな資産運用やオフショア投資を考える際には知っておくべき重要なルールのひとつです。

CARF(暗号資産報告枠組み)

CARF(暗号資産報告枠組み)とは、暗号資産に関する取引情報を国際的に共有し、課税の公平性を保つことを目的として経済協力開発機構(OECD)が策定した国際的な報告制度のことです。正式名称は「Crypto-Asset Reporting Framework」で、税務当局が暗号資産の保有や取引を把握できるように、取引所などのサービス提供者に対して利用者の取引情報を報告する義務を課しています。これは従来の金融口座情報の自動的情報交換制度(CRS)を補完する形で設計されており、匿名性が高く国境を越えやすい暗号資産の税逃れを防ぐための取り組みです。CARFの導入により、今後は暗号資産の保有や売買についても、より厳格な情報開示と税務管理が求められるようになります。暗号資産に投資する個人にとっても、税務上の透明性と遵守が一層重要になる枠組みです。

タックスヘイブン

タックスヘイブンとは、法人税や所得税などの税金が非常に低い、またはまったくかからない国や地域のことを指します。企業や富裕層がこうした場所に資産や会社を移すことで、税金の負担を軽くする目的で利用されることが多いです。代表的な地域にはケイマン諸島やパナマ、バミューダなどがあります。ただし、合法的に使う場合でも、各国の税務当局に正しく申告する必要がありますし、不正に利用すると脱税とみなされることもあります。投資初心者の方にとっては直接関係がないように思えるかもしれませんが、ニュースなどで目にする機会があるため、基本的な意味を理解しておくと安心です。

出国税(国外転出時課税制度)

出国税(国外転出時課税制度)とは、日本に住んでいる人が、一定額以上の有価証券などを保有したまま海外へ移住する場合に、実際には売却していなくても「売却したもの」とみなして、その含み益に対して課税される制度のことをいいます。この制度は、海外移住によって日本の課税権を回避することを防ぐ目的で導入されました。対象となるのは、出国時点で1億円以上の株式や投資信託などの金融資産を保有している人で、原則としてその含み益に対して所得税が課されます。実際に売却していなくても税金が発生する点が特徴で、納税は出国前または一定条件のもとで延納が可能です。資産の多い個人が国外に居住地を移す際には、事前の計画と税務上の対応が重要となる制度です。

国外財産調書

国外財産調書は、日本に住む個人が海外に保有する財産の状況を税務署に報告する制度です。 対象者は、その年の12月31日時点で5,000万円を超える国外財産を持っている日本の居住者(非永住者を除く)です。提出義務がある場合、翌年3月15日までに税務署へ届け出る必要があります。 国外財産の種類には、海外の銀行預金、株式、不動産、仮想通貨などが含まれます。これにより、税務当局は国外資産の保有状況を把握し、適正な課税を行うことが可能になります。 もし提出しなかったり虚偽の報告をしたりすると、罰則が適用される可能性があります。例えば、未提出や虚偽報告が判明した場合、過少申告加算税や重加算税が加重されることがあります。 国外資産を持つ人は、正しく申告し、税務リスクを回避することが重要です。

納税管理人

納税管理人とは、日本に住所や居所がない非居住者が、日本国内で所得を得る場合に、その納税義務を履行するために選任する代理人のことです。非居住者は原則として日本の税務署からの通知や納税手続きを直接行うことができないため、日本国内で納税関連業務を代行できる者を「納税管理人」として届け出る必要があります。 たとえば、不動産を貸して賃料収入を得ている海外在住者が、日本での所得税を納める場合などに活用されます。納税管理人は税務署との窓口として機能し、確定申告、納税、通知の受領などを行う役割を担います。この制度により、非居住者であっても円滑に納税義務を果たすことが可能となり、税務の透明性と確実性が確保されます。

源泉地国課税

源泉地国課税とは、ある収入が発生した国、つまり「源泉地」となる国が、その収入に対して課税する仕組みのことをいいます。たとえば、日本に住んでいる人が海外の企業から配当を受け取った場合、その配当が発生した国、つまりその企業が所在する国が課税を行うのが源泉地国課税です。 このような課税方式は、国際的な投資において二重課税を避けるために、居住国と源泉地国との間で租税条約などを結んで調整されることが多いです。投資先の国によって税率や課税方法が異なるため、事前に確認しておくことが大切です。

所得税法

所得税法とは、日本で個人が得た所得に対して課される「所得税」に関する基本的なルールを定めた法律です。給与や事業による利益のほか、資産運用で得られる株式の配当金や売却益なども、この法律のもとで課税されます。特に投資に関しては、「譲渡所得」や「配当所得」といった形で分類され、それぞれ異なる計算方法が用いられます。 たとえば、証券会社で特定口座を開設している場合は、源泉徴収されることで確定申告が不要になるケースもあります。また、NISAなどの非課税制度は、この所得税法のルールから一部の課税を除外する仕組みです。資産運用を始める際には、この所得税法の基本的な仕組みを知っておくことで、税金の仕組みを理解し、効率的な投資計画を立てやすくなります。

租税回避行為

租税回避行為とは、法律の範囲内で税金の負担を軽くするために、制度のすき間や抜け道を使って税金の支払いを減らす行為のことをいいます。脱税のように法律に違反しているわけではありませんが、税金を課す側の想定と異なるやり方で負担を回避するため、問題視されることがあります。 特に企業や富裕層が複雑な取引や海外の仕組みを利用して行うことが多く、税務当局はこのような行為を封じるために法律の整備を進めています。資産運用を行う際には、合法であっても過度な租税回避は信頼性や評判に影響することがあるため、注意が必要です。

課税範囲

課税範囲とは、税金がかかる対象の広さや範囲のことを指します。資産運用においては、どの収益に対して税金がかかるのかを示すもので、たとえば株の売却益や配当金、利子収入などが含まれます。日本では、国内外で得た一定の金融収益に対して所得税や住民税が課せられるため、自分がどの収入について申告しなければならないのかを理解することが大切です。課税範囲を正しく理解することで、予想外の納税を避けたり、適切な節税対策を行うことができます。

配当(配当金)

配当とは、会社が得た利益の一部を株主に分配するお金のことをいいます。企業は利益を出したあと、その一部を将来の投資に使い、残った分を株主に還元することがあります。このときに支払われるお金が配当金です。株を持っていると、持ち株数に応じて定期的に配当金を受け取ることができます。多くの場合、年に1回または2回支払われ、企業によって金額や支払い時期は異なります。配当は企業からの「お礼」のようなもので、株を長く持ち続ける理由の一つになることがあります。

非永住者

非永住者とは、日本に住んでいる外国籍の方のうち、日本に永住する予定がなく、過去10年のうち日本に住んでいた期間が5年以下の方を指します。この区分は主に税金の計算に関係しており、資産運用においても重要な意味を持ちます。非永住者の場合、日本国内で得た収入は課税の対象となりますが、海外で得た収入は、そのお金を日本に送金しない限り課税されません。 たとえば、海外の株式や不動産から得た利益があっても、日本に送らなければ日本の税金はかかりません。そのため、海外資産を活用した運用を行っている方や、国際的に資産を持つ人にとっては、非永住者であるかどうかが税負担に大きく関わってきます。

課税対象所得

課税対象所得とは、税金を計算するためのもとになる所得のことです。たとえば、給与や事業などで得た収入から、必要経費や各種控除(医療費控除や扶養控除など)を差し引いた後に残る金額がこれにあたります。この金額に基づいて所得税や住民税が決まるため、「いくら稼いだか」ではなく、「いくらに対して税金がかかるか」という点が重要になります。 投資の場合も、配当金や売却益から必要な経費や控除を差し引いた後の金額が課税対象所得になります。税金の負担を正しく理解するために、この考え方はとても大切です。

タックスヘイブン対策税制(外国子会社合算税制)

タックスヘイブン対策税制とは、日本の企業や個人が、税率の低い国や地域、いわゆる「タックスヘイブン」に子会社を設立し、そこで得た利益に対して日本で課税されるのを回避するのを防ぐための仕組みです。この制度では、日本に住んでいる人や法人が持っている海外の子会社が、一定の条件を満たす場合、その子会社の利益を日本の親会社の利益とみなして、日本で課税されることになります。 つまり、海外で利益を留め置いても、日本の税務上は合算して課税されるということです。これにより、税逃れを防ぎ、税の公平性を保つことを目的としています。投資先が海外にある場合や、外国の金融商品を利用する際には、この制度の影響を受ける可能性があるため、仕組みを理解しておくことが大切です。

控除限度額

控除限度額とは、税金を計算するときに所得から差し引くことができる金額の上限のことをいいます。たとえば、確定拠出年金や医療費控除などで使われる制度には、「この金額までなら控除できます」という決まりがあり、その上限が控除限度額です。 この仕組みにより、一定の範囲内で税金の負担を軽くすることができますが、限度額を超えた部分については控除の対象にならないので、利用する際には注意が必要です。投資や資産運用においても、節税を考えるうえでとても重要なポイントになります。

制限税率

制限税率とは、特定の所得や投資収益に対して課される税金のうち、税率に上限が設定されている仕組みのことです。これは主に国際的な課税に関する取り決めや、投資を促進する目的で導入されることが多く、たとえば外国株式の配当金に対しては、租税条約によって税率の上限が決まっていることがあります。 こうした仕組みによって、同じ所得でも本来よりも低い税率が適用され、二重課税を防いだり、過度な税負担を避けたりする効果があります。資産運用においては、受け取る利益に対する実際の課税額を把握する上で重要な考え方となります。

外国源泉所得

外国源泉所得とは、日本以外の国で得た収入のことを指します。たとえば、海外の株式や不動産に投資して得た配当や家賃収入、または海外で働いて得た給与などがこれにあたります。日本に住んでいる人は、原則として世界中で得た所得に対して日本での課税対象となるため、外国源泉所得も申告する必要があります。 ただし、すでに現地で税金を払っている場合は「外国税額控除」という仕組みを使って、二重に課税されないように調整することができます。資産運用を海外にも広げる場合、この仕組みや所得の種類を理解しておくことがとても大切です。

海外不動産

海外不動産とは、日本以外の国や地域にある住宅やオフィスビル、土地などの不動産を指します。投資の目的で購入されることが多く、現地の家賃収入を得たり、物件の値上がりによる利益を期待して保有したりします。海外不動産投資には、通貨の違いや法律、税制など日本と異なるルールが関わるため、事前に十分な調査と専門家のサポートが必要です。また、為替レートの変動も利益や損失に影響を与えるため、リスクを理解したうえで取り組むことが大切です。

不動産所得

不動産所得とは、アパートやマンション、駐車場、土地などの不動産を人に貸すことで得られる収入のことをいいます。たとえば、持っているマンションの一室を他の人に貸して家賃を受け取ると、その家賃収入が不動産所得になります。ただし、収入から固定資産税や修繕費、管理費などの必要経費を差し引いた後の利益部分が実際の「所得」として計算されます。この不動産所得は、確定申告の際に他の所得と合わせて税金の対象になりますので、正しく計算して申告することが大切です。

円換算

円換算とは、外国通貨で表示された資産や取引金額を、日本円に直して評価することをいいます。たとえば、アメリカの株式や海外の投資信託を購入した場合、その金額は通常米ドルで表示されますが、日本に住む投資家がその価値を正確に把握するには、為替レートを使って日本円に換算する必要があります。 円換算は、保有資産の評価額を知るときだけでなく、売買による損益を計算するときにも欠かせない考え方です。また、為替相場の変動によって、円換算後の金額が変わるため、為替リスクにも注意が必要です。特に外貨建ての資産を持つ場合には、定期的に円換算して価値の変動を確認することが大切です。

平均為替レート

平均為替レートとは、一定期間の為替レートの平均値のことをいいます。為替レートは、ある国の通貨と他国の通貨を交換するときの比率で、たとえば「1ドル=150円」のように日々変動しています。平均為替レートは、そのような変動をならして、特定の期間における全体的な水準を把握するために使われます。 この期間は1日、1か月、1年などさまざまで、目的に応じて使い分けられます。個人の資産運用でも、たとえば外国株や外貨預金などの評価額を計算する際に、どの為替レートを基準にするかが重要です。平均為替レートを使うことで、一時的な為替の動きに振り回されず、より安定した判断がしやすくなります。

海外証券口座

海外証券口座とは、日本以外の国にある証券会社に開設する投資用の口座のことです。この口座を使うことで、アメリカやシンガポールなどの海外市場に上場している株式やETF、債券など、国内では購入が難しい金融商品にも直接投資することができます。現地の証券会社を通じて取引するため、手数料が抑えられたり、取引の選択肢が広がったりするメリットがあります。また、現地通貨での運用となるため、為替差益の可能性も生まれます。 ただし、税務申告の手間が増えることや、為替リスク、口座開設や入出金に関わる手続きの煩雑さといった注意点もあります。さらに、近年ではCRS(共通報告基準)により、海外での資産状況が日本の税務当局に報告される可能性もあるため、適切な申告と管理が求められます。

駐在員

駐在員とは、日本の企業などに所属したまま、一定期間、海外の支店や関連会社に派遣されて勤務する社員のことをいいます。企業の指示で赴任するため、給料や福利厚生は日本の本社水準で支払われることが多く、住居費や子どもの教育費なども会社がサポートする場合があります。資産運用の面では、海外での勤務により外貨で収入を得ることがあり、外貨建て資産への投資機会が広がります。 また、居住地によっては所得税や社会保障の制度が異なり、税金の取り扱いが日本と変わることがあります。特に、居住者か非居住者かという税務上の区分によって、日本国内の金融商品への投資に制限が出る場合や、海外送金のルールを把握しておく必要があるため、駐在員は通常の日本在住者とは異なる視点で資産運用を考える必要があります。

給与所得

給与所得とは、会社などに勤めて働いたことによって得られる収入のことを指します。具体的には、月々の給料やボーナスなどがこれに該当します。会社員や公務員の方が受け取る報酬はすべてこの給与所得にあたります。税金の計算においては、収入金額から「給与所得控除」と呼ばれる必要経費のようなものを差し引いた後の金額が、実際の課税対象となります。投資の世界では、自分が得ている所得の種類を理解することが、資産運用の第一歩としてとても大切です。

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