遺産分割協議書の提出先と主な手続き・期限は?
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2025/07/11 09:09
男性
60代
父が亡くなり兄弟で遺産分割協議書を作成することになりました。ただ、役所や銀行など、具体的にどこにどんな順番で提出するのか分かりません。提出するタイミングや遅れた場合のペナルティも気になります。実際にはどのような手続きをどのタイミングで行えばよいでしょうか?
回答
株式会社MONOINVESTMENT / 投資のコンシェルジュ編集長
遺産分割協議書は、相続手続きを円滑に進めるうえで中核となる書類です。提出が求められる場面は複数あり、それぞれの提出先に応じた手続きや期限への理解が欠かせません。
① 法務局(不動産の相続登記)
不動産を相続する場合は、遺産分割協議書を添えて法務局に登記申請を行います。2024年4月の法改正により、相続を知った日から3年以内に登記申請を行うことが義務化されており、期限を過ぎると10万円以下の過料が科される可能性があります。万一、協議が期限内にまとまらない場合は、まず「相続人申告登記」を行い、遺産分割が成立した時点で正式な登記を行うことも可能です。
② 金融機関(預貯金・証券口座の名義変更)
被相続人の死亡により、銀行口座や証券口座は凍結されます。名義変更や払戻しの手続きを行うには、遺産分割協議書のほか、各社所定の申請書や戸籍などの書類が必要です。法的な提出期限はありませんが、印鑑証明書や委任状には通常3〜6ヶ月の有効期限があるため、なるべく早めに対応することが望まれます。
③ 税務署(相続税の申告)
相続税の申告が必要な場合、被相続人の死亡日の翌日から10ヶ月以内に申告書を税務署へ提出する必要があります。遺産分割協議書は、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を適用する際に不可欠です。申告期限までに遺産分割が確定していない場合は、いったん法定相続分で申告し、「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付することで特例の適用を受ける余地を残せます。その後、分割が成立した際には4ヶ月以内に更正の請求を行い、税額を修正する必要があります。
④ 運輸支局(自動車の名義変更)
普通自動車を相続する際には、遺産分割協議書を添えて所管の運輸支局で名義変更を行います。法定の期限は設けられていませんが、手続きを怠ると保険契約や納税手続きに支障が生じることがあるため、早めの手続きが推奨されます。
⑤ 非上場株式(株主名簿の名義変更)
非上場株式を相続した場合は、発行会社や株主名簿管理人(通常は信託銀行など)へ名義変更の手続きを行います。この際も、遺産分割協議書の提出が必要になることが一般的です。
一方、死亡保険金や遺族年金など、受取人が指定されている資産については、法的に相続財産とはみなされず、遺産分割協議書の提出を求められないケースがほとんどです。
実務上は、遺産分割協議書の原本を法務局に提出して「原本還付」を受け、その後は他の機関へコピーを提出することで手続きを効率的に進めることが可能です。手続きの流れとしては、まず戸籍謄本や住民票、固定資産評価証明書などの必要書類を収集し、遺産目録を作成。そのうえで協議書を作成・署名・押印し、不動産登記、金融機関、税務署など、必要な窓口に順を追って提出していくのが一般的です。
なお、手続きが遅れた場合のリスクとして、不動産登記の義務違反による過料、相続税の延滞税や無申告加算税、税制優遇の不適用、金融機関での書類再提出、自動車保険の契約不備などが挙げられます。
相続手続きは関係先が多く、同時並行で進める場面も少なくありません。全体の流れを事前に把握し、早めに着手することが円滑な相続の鍵となります。不安がある場合は、司法書士や税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
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遺産分割協議書
遺産分割協議書とは、相続人全員が話し合って決めた遺産の分け方を文書にまとめたものです。被相続人が遺言を残していない場合や、遺言書に記載されていない財産がある場合、相続人同士でどの財産を誰が受け取るかを決める必要があります。 その合意内容を正式に記録し、全員が署名・押印することで作成されるのが遺産分割協議書です。この書類は、相続した不動産の名義変更や預貯金の払い戻しなど、実際の手続きを進める際に必須となることが多いため、非常に重要な役割を持ちます。作成の際は、相続人全員の同意が必要で、1人でも欠けていると無効になってしまう点に注意が必要です。資産運用においても、円満な財産の承継や手続きのスムーズ化に役立つ書類です。
相続登記
相続登記とは、不動産を所有していた人が亡くなったときに、その不動産の名義を相続人へ変更する手続きのことです。この登記を行うことで、相続人が正式な所有者として法的に認められ、売却や担保設定などの権利行使が可能になります。これまでは義務ではありませんでしたが、2024年からは相続登記が法律上の義務となり、正当な理由なく放置すると過料(罰金)が科される可能性があります。 相続登記を行うには、戸籍謄本や遺産分割協議書などの書類を用意し、法務局に申請する必要があります。不動産の相続が発生した場合には、早めに登記を済ませることで、後のトラブルを防ぎ、相続資産を円滑に活用できるようになります。
法務局
法務局とは、法務省の地方機関として、全国に設置されている行政機関で、主に不動産登記や商業登記、戸籍・国籍の届け出、公証人の管理、人権擁護など、法に関わるさまざまな手続きを取り扱っています。資産運用の分野では、土地や建物の所有権を明確にする「不動産登記」に関して、登記事項証明書を取得したり、所有者を変更したりする際に利用される場面が多いです。また、法人を設立する場合にも「商業登記」が必要となるため、会社経営や不動産投資を行う人にとって重要な関係機関です。手続きの正確性が求められるため、法務局の役割や利用方法を理解しておくことは、資産を守り、運用する上でも役立ちます。
口座凍結
口座凍結とは、銀行や証券会社などの金融機関が、特定の預金口座や証券口座の出し入れや取引を一時的に停止することを指します。相続の場面では、口座名義人が亡くなったことを金融機関が把握した時点で、故人の口座が凍結され、残高の引き出しや振込などができなくなります。 これは、遺産分割が確定するまでに勝手に資産が動かされるのを防ぐための措置です。凍結された口座を再び利用するには、相続人全員の同意による遺産分割協議書や必要書類を金融機関に提出し、手続きを経て資産を相続人名義に移す必要があります。万が一、凍結前に引き出しを行うとトラブルの原因になることもあるため、注意が必要です。
相続税申告
相続税申告とは、人が亡くなって相続が発生したときに、相続人が相続によって得た財産について税務署に申告し、必要に応じて相続税を納める手続きのことです。被相続人の財産総額が相続税の基礎控除額を超える場合に申告義務が発生します。申告期限は、被相続人が亡くなった日の翌日から10か月以内で、その期間内に必要な書類を整えて提出しなければなりません。 相続税は現金や預金だけでなく、不動産や株式、美術品なども対象となるため、資産の内容によって評価や申告が複雑になることがあります。また、節税のための特例や控除制度も複数存在し、正しく活用することで税負担を軽減できる可能性もあります。資産運用の観点では、相続税を見据えた財産の組み換えや、生前対策が重要になってきます。
未分割申告
未分割申告とは、相続が発生したものの、相続人同士で遺産の分け方(遺産分割)がまだ決まっていない状態のまま行う相続税の申告手続きのことです。相続税の申告期限は原則として相続開始から10か月以内と定められているため、たとえ話し合いが終わっていなくても、期限内に申告を行う必要があります。 このような場合、遺産全体を法定相続分に従って仮に分けたものとして相続税を計算し、申告と納税を行います。後日、遺産分割が確定した際には「更正の請求」や「修正申告」といった手続きによって、正しい内容に修正することができます。申告期限を守りながら柔軟に対応できる制度ですが、各種控除や特例が受けられなくなる可能性もあるため、注意が必要です。