第三者割当増資を実施すると、既存株主の持ち株比率や株価にはどのような影響があるのでしょうか?
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2025/10/30 09:14
男性
40代
会社が新たに株を発行して外部の投資家から資金を集める「第三者割当増資」を行うと、資金面ではプラスになりそうですが、既に株を持っている人にとってはどんな影響があるのでしょうか?持ち株比率が下がると聞いたことがありますが、実際に株価は下がるのでしょうか?また、企業が増資を決める理由によって、投資家の反応も違うのでしょうか?
回答
株式会社MONOINVESTMENT / 投資のコンシェルジュ編集長
第三者割当増資を行うと、既存株主の持ち株比率は必ず低下します。新株が特定の第三者に発行されるため、既存株主が増資に参加しない限り、総株式数の増加によって相対的な保有割合が薄まるからです。この希薄化により議決権の影響力も減少し、支配構造が変化することもあります。
株価への影響は、発行価格と時価の関係によって左右されます。新株の発行価格が時価よりも低い場合、一株あたりの価値が平均的に薄まり、短期的に株価が下がりやすくなります。逆に、発行価格が時価並みか高ければ、希薄化の影響は小さく、株価への悪影響も限定的です。
EPS(1株当たり利益)やBPS(1株当たり純資産)は、株数の増加により一時的に低下します。しかし、調達した資金が成長投資や事業拡大に有効に使われれば、将来的に収益力が高まり、一株当たり指標が回復・向上する可能性もあります。資金の使途が重要で、借入金返済などリターンの低い用途では希薄化の回復は難しくなります。
市場では、第三者割当増資の発表直後に株価が下がることが多いです。これは、ディスカウント発行による価値移転の懸念や、新株供給による需給悪化、発行先による売却懸念が原因です。特に、新株予約権付きの発行では将来の追加希薄化リスクが意識され、株価の上昇が抑えられることもあります。
結局のところ、第三者割当増資の影響は「どの程度の希薄化が起きるのか」と「その資金が企業価値の向上につながるのか」で評価が分かれます。短期的には株価下落のリスクがありますが、長期的には資金調達の成果次第で株主にプラスとなる場合もあります。
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第三者割当増資
第三者割当増資は、企業が新株を発行する際に、その株式をあらかじめ選定した特定の第三者(事業パートナー、主要取引先、金融機関、創業者の資産管理会社など)だけに引き受けてもらう資金調達手法です。公募増資のように不特定多数の投資家を対象とするのではなく、発行会社と第三者が事前に条件を合意し、取締役会決議(上場企業の場合は株主総会決議を追加で要するケースもある)を経て実行されます。発行価格は直近株価よりディスカウントされることが多く、発行側はディスカウント幅を抑える代わりにロックアップ(一定期間の売却制限)や業務提携契約を組み合わせるのが一般的です。 既存株主にとっては、新株が特定の第三者にのみ割り当てられるため持ち株比率が希薄化します。とくに発行株数が大きい場合や発行価格が割安な場合は、一株当たり利益(EPS)の低下や議決権構成の変化が発生し、株価が短期的に調整することがあります。希薄化割合が25%を超える案件では東証が「第三者割当による募集等に関する有価証券上の取扱い」の適用を求めるなど、投資家保護の観点から追加開示や第三者評価機関の意見取得が必要になる点にも注意が必要です。 一方、第三者割当の対象となる投資家側には、(1)市場価格より安い価格でまとまった株式を取得できる、(2)資本参加と同時に業務提携や供給契約を結びやすい、といったメリットがあります。個人投資家が市場で株式を保有する立場から見ると、割当先のバックグラウンドやロックアップ期間、資本提携の内容を確認することで、資金調達後のシナジー効果や株価の下落リスクをより正確に見積もることができます。 要するに、第三者割当増資は「スピード重視」「関係強化重視」の場面で機動的に使える半面、既存株主には希薄化リスクが避けられません。第三者との資本提携が企業価値向上につながるか、発行条件が適切かを見極めることが、既存株主・新規投資家双方にとって不可欠です。
希薄化(ダイリューション)
希薄化(ダイリューション)とは、企業が新株発行やストックオプションの行使、転換社債の株式転換などを行った結果、発行済株式数が増加し、既存株主が保有する株式の「持ち分比率」や1株当たり指標(EPS・BPS・配当など)が相対的に低下する現象を指します。たとえば、発行済株式が1,000万株の会社で100万株を追加発行すると、株数は1,100万株に増え、従来10%を保有していた株主の持株比率はおよそ9.1%へ下がります。この比率低下だけでなく、利益や純資産が同じまま株数だけ増えるため、1株当たり利益(EPS)や1株当たり純資産(BPS)も薄まる点が既存株主にとっての実質的な影響です。 希薄化は、資金調達やM&A対価の支払いなど経営上の目的で避けられない場合がありますが、次のような視点で注意が必要です。 発行規模と発行価格 既存株主に与える希薄化インパクトは「何株・いくらで」発行するかで大きく変わります。発行株数が多い、あるいは発行価格が市場より著しく低い場合は希薄化が急激に進みやすいです。 資金使途とリターン 調達資金が成長投資や財務改善に使われ、中長期で収益拡大が見込めるなら、希薄化を上回る株価上昇につながる可能性があります。逆に、明確なリターンが見込めない増資は株価を長期的に押し下げることがあります。 潜在株式の規模 ストックオプションや転換社債など、まだ株式化していない潜在株式も将来の希薄化要因です。有価証券報告書の「潜在株式数」や平均行使価格を把握し、完全希薄化後EPSでバリュエーションを確認することが重要です。 ロックアップ・売却制限 発行先にロックアップ(一定期間の売却禁止)が設定されているかで、実際に市場へ売り圧力が出るタイミングが異なります。解除時期が近いと、株価の上値を抑えるオーバーハング要因になります。 まとめると、希薄化は発行済株式数の増加に伴う既存株主の持ち分低下と1株当たり価値の減少を意味します。投資判断を行う際は、新株発行の規模・価格・資金使途に加え、潜在株式の存在やロックアップ条件まで確認し、将来のリターンとリスクを総合的に見極めることが欠かせません。
EPS(1株あたりの利益)
EPS(Earnings Per Share)とは、企業を評価する際に使われる指標のひとつで、企業が稼いだ純利益を発行済み株式数で割った値です。1株当たりの利益がどれだけあるのかを示します。 EPS = 当期純利益÷発行済株式数 EPSは株式投資の重要な指標であり、企業の収益性を測る基準として活用されます。EPSが高いほど、投資家にとって魅力的な企業とされることが多いです。
発行価格
発行価格とは、株式や債券などの有価証券を新たに発行する際に、投資家に対して提示される1単位あたりの販売価格のことを指します。たとえば、新規公開株(IPO)であれば、上場前に決定される1株あたりの販売価格が発行価格にあたります。債券の場合は、額面(100円)に対して割引(アンダーパー)や上乗せ(オーバーパー)で発行されることがあり、その実際の販売価格が発行価格となります。 発行価格は、市場価格とは異なり、企業や政府などの発行体が、資金調達の目的や市場環境、需要動向などを踏まえて決定します。発行価格が割安かどうかは、投資家にとって投資判断の重要な材料であり、初値(市場での最初の取引価格)との比較もよく行われます。資産運用においては、発行価格を正しく理解することが、投資のリスクとリターンを見極めるうえで欠かせない視点となります。
新株予約権
新株予約権とは、将来あらかじめ決められた価格で会社の株式を取得できる権利のことです。この権利を持っている人は、指定された期間内に株式を買うかどうかを選べる仕組みになっています。 この仕組みは、企業が資金を調達したり、役員や従業員にインセンティブを与えたり、敵対的買収への備えとして使われることがあります。たとえば、ベンチャー企業では役員や社員に新株予約権を付与することで、会社の成長に応じて報酬を得られる仕組みとしています。これがいわゆるストックオプションです。 投資家の立場では、新株予約権は「潜在的に株式が増える可能性があるもの」として注意が必要です。行使されると新しい株式が発行されるため、既存の株主の持ち分が薄まる(希薄化)ことになります。このため、企業分析では「潜在株式数」を考慮して、1株あたりの利益や株主価値への影響を見ていくことが重要です。 また、新株予約権の価値は、株価の変動や行使価格、残り期間によって大きく変わります。株価が行使価格を上回っている場合は行使されやすく、そうでない場合は価値がないまま失効することもあります。 資産運用に関心のある方にとっては、投資先企業の開示資料などで「新株予約権の発行状況」や「ストックオプションの残高」などを確認することが、投資判断を行ううえで非常に有益です。企業の成長性を評価する際には、その裏で将来の株主構成や株式数がどう変化する可能性があるのかを見ておくとよいでしょう。
BPS(1株当たり純資産)
BPSとは、「1株当たり純資産」を意味し、企業が解散した場合に株主が受け取ることができる理論的な資産の価値を表します。計算方法は、企業の純資産を発行済株式数で割って求めます。 たとえば、純資産が100億円あり、発行済株式数が1億株なら、BPSは100円ということになります。BPSは企業の安定性や資産価値を測るうえでの基本的な指標の一つで、株価がBPSより大きく乖離している場合は、割安・割高の判断材料になることがあります。 初心者の方にとっては、企業の「持ち物の価値がどれくらい株主1人あたりに割り当てられるか」を知るための目安として捉えるとわかりやすいです。


