
内縁の夫・内縁の妻の相続・贈与・社会保障ガイド|婚姻との違いを徹底解説
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公開:
2025.07.25
更新:
2025.07.25
内縁カップルは増加傾向にある一方、法律婚に比べ相続・税制・社会保障で手薄な保護しか受けられません。2024年の相続税改正で生前贈与の加算期間が3年から7年へ延長されるなど制度は厳格化し、備え不足は負担増に直結します。さらに配偶者控除1億6,000万円の非課税枠が使えない点は設計上の死角です。本記事では、こうした見落としがちなリスクと遺言・保険・信託による具体策を体系的に解説します。
サクッとわかる!簡単要約
この記事を読むと、配偶者控除1億6,000万円が適用されない内縁特有の税負担や、贈与加算7年ルールに対応した資産承継の勘所を、事例と数値でわかりやすく理解できます。「自宅はどう守るか」「遺言と生命保険をどう組み合わせるか」など、自分の家庭に当てはめて次の一手を描ける状態に。限られた時間でリスクと対策を可視化し、パートナーの安心と資産の最適承継を同時に実現するヒントが得られます。
目次
内縁関係と法律婚の基礎知識|定義・成立要件・法的効力
内縁の夫・妻とは?判例に見る要件と実態
内縁関係とは、婚姻届を提出していないため法律上の夫婦とは認められないものの、日常生活において夫婦同然の共同生活を営んでいる関係を指します。法令上の明確な定義は存在しませんが、判例では「準婚関係」として、法律婚に準じた保護が一定範囲で認められています。
たとえば、最高裁昭和33年4月11日判決では、長年にわたる内縁関係を「婚姻に準ずる関係」と評価し、不当に解消された側に対して損害賠償を認めました。このように、形式的な届出がなくても、実質的に夫婦とみなされる生活実態があれば、法的効力が生じる可能性があります。
内縁と認められるには、①当事者双方に「将来的に夫婦として生活する意思」があること、②その意思に基づいて実際に共同生活が営まれていることが必要です。単なる同居や、一方にしか婚姻意思がない愛人関係は内縁とは認められません。
判断にあたっては、住民票の同一世帯、家計の一体運営、近隣や親族からの夫婦としての認識など、客観的事情を総合的に考慮します。また、どちらかがすでに法律上の配偶者と婚姻関係にある場合(いわゆる「重婚的内縁」)は原則として保護の対象外ですが、法律婚が形骸化している場合に限り、例外的に保護が認められることもあります。
法律婚との主な違いと比較ポイント
法律婚とは、婚姻届を役所に提出し受理されることで成立する正式な婚姻関係です。成立には当事者双方の婚姻意思に加え、以下の民法上の要件を満たす必要があります。
- 男女ともに18歳以上であること(2022年民法改正により統一)
- 重婚の禁止(既婚者は再婚不可)
- 近親婚の禁止(一定範囲の親族間の婚姻は禁止)
- 再婚禁止期間(女性は離婚後100日。ただし妊娠していない等、例外あり)
法律婚が成立すると、夫婦いずれかが改姓する義務が生じ、未成年者であっても成年とみなされます。姻族関係も生じ、配偶者の家族と法律上の親族となり、相互に扶養義務が発生するほか、社会保障や税制上の恩恵も適用されます。
一方、内縁関係にはこうした効力は及びません。改姓義務はなく、未成年が内縁関係を結んでも成年扱いにはなりません。姻族関係も生じず、相互扶養義務も発生しません。
子どもに関しても違いがあります。法律婚で生まれた子は「嫡出子」となり、父母が共同で親権を持ちますが、内縁関係における子は「非嫡出子」となります。父親が認知しない限り法的な父子関係は成立せず、認知された場合でも原則として親権は母親単独です。
一定の保護が認められるケース
内縁関係は法律婚に比べて制約がある一方、実質的に夫婦としての生活実態が認められる場合には、一定の法的保護が与えられます。
まず、正当な理由なく一方的に内縁関係を解消された場合、損害賠償(慰謝料)の請求が可能です。最高裁平成14年3月28日判決では、長年生活を共にした内縁妻を一方的に排除した行為が違法とされ、慰謝料の支払いが命じられました。
また、共同生活の中で築かれた財産については、内縁関係の解消時に「財産分与」が認められることがあります。これは法律婚の離婚時と同様に、貢献度に応じた公平な分配を目的とするものです。ただし、これは生存中の解消に限られ、死別による解消には適用されません。死別時には相続制度が優先されるためです。
不貞行為に関しても、一定の条件を満たすことで慰謝料請求が可能です。大阪高裁平成4年8月28日判決では、内縁の妻がいると知りながら不貞関係を持った第三者に対し、損害賠償責任が認められました。社会的に婚姻と同等と見なされる内縁関係には、第三者の違法行為に対しても法的保護が及ぶ可能性があります。
さらに、生活費を共にしていた場合には、日常家事債務について夫婦と同様に連帯責任を負うとする判例も存在します。明文規定はありませんが、生活実態に応じて法律婚に準じた義務が認められる場合があります。
相続と親族関係における制限と例外
内縁関係において最も大きな制限となるのが相続と親族関係です。内縁の配偶者には法定相続権が一切認められず、戸籍上も赤の他人とされます。このため、死亡届の提出や遺産分割協議の場面でも「配偶者」としての法的立場を持てません。
住民票に「妻(未届)」と記載されたり、生命保険の受取人に指定されていたりすることは、事実婚の証拠として活用できますが、それだけで相続権が発生することはありません。
例外的な救済策として、民法958条の3に基づく「特別縁故者制度」があります。これは、被相続人に法定相続人がいない場合に限り、内縁配偶者が家庭裁判所に申し立てることで、遺産の一部または全部の分与を受けられる制度です。たとえば、内縁の夫に子も親族もいない場合、内縁の妻が生前の同居や療養看護といった特別の事情を証明できれば、遺産の取得が認められる可能性があります。
ただし、この制度はあくまで例外的な救済措置であり、認定には時間を要します。手続きが長期化することも多く、死亡後の早急な生活資金確保や住居維持には間に合わない可能性があるため、現実的な相続対策としては不十分です。
内縁関係における相続の違いと備えるべき対策
法律婚における法定相続人と順位の基本
法律婚をしている配偶者は、民法上の法定相続人として常に相続に参与します。相続順位は以下のように定められています(民法887条~889条、民法890条)。
- 配偶者(妻または夫):常に相続人になります。他の血族相続人と組み合わされて遺産を相続します。
- 第1順位:直系卑属(子・孫):配偶者と子が相続人となる場合、配偶者が1/2、子全体で1/2を相続。子が複数いる場合は均等に分割されます。
- 第2順位:直系尊属(親など):子がいない場合、配偶者が2/3、親が1/3を相続します。
- 第3順位:兄弟姉妹:子も親もいない場合、配偶者が3/4、兄弟姉妹が1/4を相続します。代襲相続も適用されます。
たとえば、夫が亡くなり妻と子ども2人が残された場合、妻は1/2、子どもは各1/4ずつ相続します(国税庁No.4132)。このように、法律婚をしていれば配偶者は必ず相続人となり、強い法的保護が与えられます。
また、法律上の婚姻関係にある配偶者と認められれば、養子や認知された非嫡出子も含めて相続人になります。非嫡出子についても、相続分に関する過去の差別は廃止され、現在では嫡出子と同等の権利があります(民法900条ただし書の削除により)。
内縁配偶者が直面する相続上のリスク
一方で、内縁の夫・妻は法律上の配偶者とは認められないため、民法上の相続人には該当しません。どれだけ長年連れ添い、家計を共にしていても、内縁配偶者は法定相続人としての地位がないため、被相続人が亡くなっても自動的に遺産を取得することはできません。
たとえば、夫が前妻との子どもと内縁の妻と共に暮らしていた場合、夫が亡くなると相続人はその子どもだけです。内縁の妻は遺産に一切関与できず、自宅から退去を求められたり、生活費を失ったりするリスクを抱えます。
さらに、故人と内縁配偶者の関係が親族と良好でない場合、遺産分割を巡るトラブルに発展することも少なくありません。
遺留分が及ぼす制限と課税上の不利益
内縁配偶者には相続に関して「遺留分」も認められません。遺留分とは、配偶者・子・親といった法定相続人に保障される最低限の取り分で、遺言によっても侵害できない部分です。兄弟姉妹には遺留分が認められていませんが、内縁配偶者もまた対象外です。
つまり、被相続人が「全財産を内縁の妻に遺贈する」と遺言を書いていたとしても、たとえば子がいれば、その遺留分(法定相続分の1/2)を請求することができ、最終的に内縁配偶者が手にする財産は大きく減る可能性があります。
加えて、相続税上の不利益も無視できません。法定相続人でない内縁配偶者は、基礎控除額の計算で人数に含まれず、控除額が減ることで課税対象が増えます。また、相続税の税率や非課税枠も法律婚の配偶者より不利な扱いとなるため、高額資産がある場合には特に慎重な対策が求められます。
遺留分の基礎と請求期限についてはについてはこちらのQ&Aもご参照ください
遺言・遺贈・死因贈与による保護策
こうしたリスクを回避するため、内縁関係のカップルにとって最も重要な対策が「遺言書の作成」です。法定相続人ではなくても、被相続人が遺言で「○○に財産を遺贈する」と明記すれば、遺産を受け取ることが可能になります。
遺言による財産移転を「遺贈」といい、相手が法定相続人でなくても有効です。とくに内縁配偶者を遺贈の受遺者に指定する場合、公正証書遺言の活用が推奨されます。公正証書遺言は、公証人の立ち会いのもと作成され、原本が保管されるため、紛失・改ざんリスクがなく、遺言の有効性が高く担保されます。
ただし、遺留分のある法定相続人(子や親など)に配慮した内容にしなければ、後に遺留分侵害額請求を受け、実際に受け取れる金額が減るおそれがあります。たとえば「全財産を内縁の妻に」とした場合でも、子がいれば遺留分(本来の相続分の1/2)を請求することができるため、争いの種になることも。
そのため、実務上は「自宅不動産は内縁配偶者に、預貯金は子どもに」といったように、遺留分を考慮したバランスの取れた内容が望まれます。
また、遺言以外に「死因贈与契約」という方法もあります。これは「自分が死亡したら、○○に財産を贈与する」という生前の合意によって効力が発生する契約で、内縁配偶者との間で双務的に交わされるケースもあります。死因贈与は遺言よりも撤回が困難で、受贈者側の安心感が高いという特徴がありますが、税制面では遺贈と同様に相続税が課されます。
ただし、死因贈与の契約書を確実に作成し法的効力を担保するには専門家の関与が必要であるため、一般的には公正証書遺言のほうが現実的かつ簡便といえるでしょう。
まとめ:生前の準備がすべてを左右する
内縁関係のまま相続への備えを怠ると、望まぬ結果を招きやすくなります。たとえば、配偶者・子どもがいない富裕層の内縁カップルで何の手当てもしていない場合、疎遠な兄弟姉妹や甥姪が突然相続人となり、残された内縁配偶者は財産を一切得られない事態もあり得ます。
こうしたリスクを避けるには、以下のような対策が有効です。
- 公正証書による遺言書の作成
- 死因贈与契約の活用(専門家の関与が必要)
- 生命保険金の受取人指定
- 信託制度の活用
内縁の夫・妻が「自分に万一のことがあったとき、パートナーが困らないようにしたい」と考えるなら、早期に多層的な相続対策を講じることが不可欠です。制度上の制約があるからこそ、主体的な備えによって、信頼関係を築いてきた内縁パートナーの生活を守ることができます。
相続税・贈与税の優遇措置比較
内縁関係では法律婚と異なり、相続において大きな法的差異が存在します。違いを正しく理解するためにも、まずは法律婚の場合にどのような仕組みで相続人が決まり、どのような順位で相続が行われるのかを確認しておきましょう。
配偶者控除・小規模宅地等特例の適用可否
相続税や贈与税には、法律上の配偶者に対して大幅な優遇措置が設けられています。典型的なのが相続税の配偶者控除(配偶者の税額軽減)と、小規模宅地等の特例です。まず配偶者控除について説明します。
配偶者控除とは、被相続人の配偶者が相続した財産について「法定相続分に相当する額」または「1億6,000万円」まで相続税がかからないという強力な減税制度です。簡単に言えば、法律婚の配偶者は最低でも1億6,000万円までは非課税で遺産を相続できることになります(出典:相続税法19条の2)。
そのため一般のご家庭はもちろん、相続財産が多い富裕層でも、配偶者が全財産を相続すれば相続税が一切発生しないケースがほとんどです(実際、相続税を払う人の割合は8~10%程度ですが、多くは配偶者控除の効果で申告不要となるためです)。
一方、内縁の配偶者にはこの配偶者控除が一切適用されません。法律上の配偶者ではないため、たとえ長年連れ添った内縁の妻・夫でも1億6,000万円の非課税枠はゼロです。例えば夫から内縁の妻へ遺産2億円を遺す遺言を残していた場合、法律婚であれば相続税ゼロですが、内縁だと基礎控除超過分に対してそのまま課税され、多額の相続税負担が生じます。この差は極めて大きく、法律婚でいることの最大の経済的メリットといえます。
次に小規模宅地等の特例です。これは被相続人の居住用や事業用の宅地を相続する場合に、一定の要件を満たせば評価額を最大80%減額できる特例です。居住用について言えば、亡くなった方と同居していた配偶者や親族が自宅の土地を相続する際に、330㎡までの部分について評価額を20%に圧縮できる制度です。
しかし、この特例も適用対象は「配偶者または一定の要件を満たす親族」に限られ、内縁の妻・夫が遺言により土地を取得しても利用できません。内縁配偶者は法令上「親族」に含まれないためです(租税特別措置法69条の4)。
例えば夫名義の自宅に内縁の妻が住んでいたケースで、夫が亡くなり妻にその宅地を遺贈した場合、妻が引き続きそこに住む意思があっても特例による減額は受けられず、評価額満額に相続税が課されてしまいます。「家に住み続けるため手放せないのに、高額な相続税が課される」という事態にもなりかねず、注意が必要です。
以上のように、法律婚か否かで相続税負担に決定的な差が生じます。加えて内縁の場合、相続税計算上の基礎控除額にも不利が出る点を再度強調します。基礎控除は前述した通り法定相続人の人数で決まりますが、内縁配偶者は人数にカウントされないため、その分控除額が減って課税遺産が増えることになります。
例えば妻と子1人が法定相続人の場合は基礎控除3,600万円ですが、妻が内縁で子1人だけが法定相続人だと基礎控除は3,600万円→3,000万円に減額されます。この差も課税ライン上では影響し得ます。
なお、相続税以外に所得税の「寡婦控除」にも差があります。配偶者と死別または離別して生計を一にする子がいる女性は所得税の寡婦控除を受けられますが、内縁の夫と死別した場合は法律上の婚姻関係がないため適用外となります。
まとめると、法律婚の場合は相続税の配偶者控除によって多くのケースで税負担ゼロ、小規模宅地特例で自宅を守りやすいなど極めて有利です。一方、内縁の場合はこれら恩典が一切無く、相続税負担が大きく跳ね上がるリスクがあります。
したがって高額資産を持つ内縁カップルがこのまま事実婚を続けるか法律婚に切り替えるか判断する際は、これら税制メリットを天秤にかける必要があります。税負担も含めた総合的な資産承継プランについては、専門家(税理士やファイナンシャルプランナー)への相談をおすすめします。
内縁関係での贈与税課税と贈与契約の注意点
次に贈与税について見てみましょう。生前にパートナーへ財産を渡しておきたい場合、贈与税の問題が出てきます。贈与税は年間110万円までの基礎控除(非課税枠)がある以外は累進課税で最大55%の高税率です。ここでも法律上の夫婦には有利な特例が存在します。
代表的なのが「贈与税の配偶者控除」(いわゆるおしどり贈与)です。婚姻期間20年以上の夫婦間で、自宅不動産またはその購入資金を贈与する場合、基礎控除110万円に加えて2,000万円まで非課税で贈与できる特例です(1回限り、一括適用可)(出典:租税特別措置法70条の2)。
例えば夫が妻に持ち家を生前贈与する際、時価2,110万円までであれば贈与税がかからない計算になります。この制度は老後の住居確保などを目的に設けられた夫婦間贈与の優遇措置ですが、内縁関係の夫婦には適用されません。
戸籍上の配偶者に限った制度のため、内縁のパートナーに自宅を贈与しようとしても2,000万円控除は受けられず、通常の贈与税が課税されます。
そのため、内縁カップルで生前に資産移転を行う際は毎年110万円以内の暦年贈与をコツコツ活用するのが基本戦略となります。
例えば毎年110万円ずつ10年間贈与すれば合計1,100万円を非課税で渡せます。この方法であれば贈与税申告の手間もなく確実に財産移転できます。しかし多額の財産を移すには時間がかかるため、内縁配偶者に確実に渡したい自宅や事業用資産など主たる財産は遺言や生命保険で備えるのが現実的でしょう。
なお、内縁関係で贈与を行う際の注意点として、贈与契約書の作成を強くお勧めします。口頭や曖昧な形で大金を渡すと、後日他の相続人から「あれは本当に贈与されたものなのか」「預けていただけではないか」と揉める可能性があります。
また税務署から贈与の事実関係を疑われるおそれがあります。そこで、例えば「金○円を無償で贈与する。受贈者はこれを受諾した」等の内容を明記した贈与契約書を作り、日付と双方の署名押印をしておくとよいでしょう(できれば第三者の証人がいる公正証書にするのがベストです)。契約書があれば贈与の事実を証明しやすく、内縁解消時や相続時に「それは私の固有財産だ」と主張する根拠になります。
加えて、内縁の場合は婚姻と異なり離別時に財産分与請求ができるのは贈与者死亡によらない解消時のみです。そのため生前贈与を受けた財産は、万一関係が悪化して内縁破棄となっても原則返還不要ですが、逆に言えば相手が亡くなった後ではそもそも受け取る術がありません。
従って、「相手に先立たれたら生活が成り立たない」という資産については、生前贈与より遺言や生命保険の活用を軸に検討すべきでしょう。贈与はあくまで補助的な位置づけとして、110万円非課税枠内で生活費・療養費の支援などに活用する形が現実的です。
最後に、贈与税の話ではありませんが相続人の遺留分との関係にも触れておきます。被相続人が生前に特定の人(内縁配偶者など)へ多額の贈与をしていた場合、他の法定相続人の遺留分を侵害するようなケースでは、その贈与分も含めて遺留分減殺(侵害額請求)の対象となる可能性があります。
現行法では相続人以外への生前贈与についても、死亡前1年間にされたものは遺留分計算に加算されると規定されています(民法1044条)ので、高額な贈与は時期にも注意が必要です。例えば亡くなる直前に内縁の妻へ自宅を贈与していた場合、子の遺留分算定ではその自宅分も含めて計算され、結果的に内縁の妻に返還請求が来るリスクがあります。こうした点からも、内縁カップルの資産承継は専門家と相談しつつトラブル防止に万全を期すことが重要です。
贈与税の基礎については以下の記事で詳しく解説しています
生前贈与・相続時精算課税制度の活用シナリオ
生前贈与による資産承継について、内縁関係ならではの留意点をまとめます。まず、相続時精算課税制度についてです。これは高齢の親などから子や孫に生前贈与する際に、2,500万円まで非課税(超過分は一律20%課税)で贈与でき、将来の相続時にその贈与分を含めて税額を精算する制度です。
贈与税と相続税の一体化を図る仕組みですが、適用できるのは直系親族間(祖父母→孫や親→子など)に限られます。内縁の配偶者との間では利用できません。例えば事実婚の夫が妻にこの制度でまとまった金額を贈与することは制度上認められていないのです。
したがって内縁関係では、相続時精算課税制度は直接の節税策にはなりません。ただし間接的に役立つケースもあります。例えば内縁夫婦にそれぞれ前配偶者との子がいる場合、お互いの遺産は最終的に各自の実子に渡す計画を立てることになります。その際、生前に各自が自分の子へ相続時精算課税制度を使って大部分の財産を贈与しておけば、内縁のパートナーに万一のことがあっても相続財産自体を減らしておけるため、パートナー側の遺産に自分が関与する必要がなくなります。
つまりお互いの死後の遺産整理を簡潔にする効果が期待できます。ただ、このシナリオはかなり限定的であり、一般には内縁カップルでわざわざ相続時精算課税を使うケースは多くありません。
内縁関係では「生前贈与+生命保険+遺言+信託」の総合活用がカギとなります。生前贈与で贈れる範囲(年間110万円非課税枠の積み重ね等)については地道に進めつつ、生命保険でまとまった死亡保障を確保し、遺言で特定資産の承継先を指定し、必要に応じて家族信託で柔軟な資産管理・承継スキームを組む、という発想です。
例えば高所得のAさん(内縁夫)・Bさん(内縁妻)カップルで子どもがいない場合、それぞれ生命保険に加入してパートナーを受取人にしておけば、死亡時に非課税枠は無いものの速やかに現金を渡せます。
生命保険を活用した節税術については以下の記事で詳しく解説しています。
併せて遺言でお互いに主要財産を遺贈するよう定めておき、さらに信託銀行の「遺言代用信託」などを活用して、残されたパートナーが生涯困らないよう定期交付金を受け取れる仕組みにすることも検討できます。
また、成人養子縁組という選択肢もあります。内縁のパートナー同士で一方が他方を養子にすると、法律上は親子関係となり相続権が発生します。これは最終手段的な方法ですが、同性カップルなどで実際に行われる例があります。
ただし養子縁組すると戸籍上親子になるため婚姻関係にはなれず(養子縁組を解消しないと結婚できなくなる)、社会的な見え方も変わるなどデメリットもあります。特に異性の内縁カップルで養子縁組するのは稀ですし、相続税上も養子には2割加算の例外が適用されないなど注意点があります(養子は法定相続人になるものの、被相続人の子として一親等血族なので2割加算なし。
ただし養子縁組が節税目的と見做されると認められない場合もあります)。養子縁組を検討する際は法律専門家に相談してください。
結論として、生前贈与について内縁夫婦が取れる典型的なシナリオは次のとおりです。
- 毎年110万円までの非課税贈与で生活費や将来資金をパートナーに移転しておく(こまめな資金移転による将来の遺産圧縮)。
- 婚姻関係にない分、早めに資産分割を進める:たとえば不動産を購入する際に共同名義にしておき、それぞれに持分を持たせておく(こうすれば片方死亡時に少なくとも自分の持分は確保できる)。ただし共同名義の割合設定次第では持分の贈与と見なされ贈与税課税の恐れがあるため要注意です。
- 基礎控除内での定期贈与+生命保険+遺言+信託のハイブリッド対策:税負担を抑えつつ確実に遺産を渡すため、あらゆる制度を組み合わせておく。
財産承継の最適解はケースバイケースで、内縁カップルごとの資産状況や家族構成によって異なります。税制は今後も改正があり得るため、最新の制度動向を確認しつつ、専門家の助言を受けながらプランを検討することが重要です。なお、2024年(令和6年)の相続税改正により、生前贈与加算期間(相続開始前の贈与の持ち戻し対象期間)は従来の3年から7年へ延長されました。こうした法改正を踏まえ、長期的な資産承継戦略を策定しましょう。
内縁関係における社会保障と税制扶養の違い
内縁関係でも、制度によっては法律婚と同様の取り扱いがなされる一方で、そうでない領域も少なくありません。とくに社会保障制度や税制においては、「実態重視」と「戸籍重視」の差が明確に現れます。ここでは、健康保険・年金・遺族給付・税控除といった各制度における違いを整理し、内縁カップルが直面しやすい実務上の課題や留意点を詳しく見ていきます。
健康保険・厚生年金における扶養認定
法律婚と内縁では、社会保険制度における扶養の取り扱いに違いがあります。会社員が加入する健康保険や厚生年金では、一定の条件を満たせば収入の少ない配偶者や子を「被扶養者」として登録でき、保険料負担なしで医療給付を受けたり、年金保険料が免除されたりするメリットがあります。
内縁の夫・妻についても、健康保険法や厚生年金保険法では「事実上婚姻関係と同様の事情にある者」として配偶者に含まれると明記されています。したがって、双方に法律上の配偶者が存在せず、実態として夫婦同様の生活を送っていれば、内縁の配偶者も被扶養者として認定される可能性があります。
認定にあたっては、住民票の続柄に「夫(未届)」や「妻(未届)」と記載されたものを提出するのが一般的です。さらに、同一世帯での生活実態を示す公共料金の領収書や賃貸契約書なども証拠として用いられます。
被扶養者に認定されれば、内縁配偶者は健康保険料や年金保険料を自ら負担する必要がなくなり、医療や将来の基礎年金の給付を受けられます。逆に扶養に入れない場合は、国民健康保険・国民年金の第1号被保険者として、自ら保険料を納めなければならず、経済的負担が大きくなります。
なお、扶養の条件(主に生計を維持されていること、年間収入130万円未満等)は法律婚と同様に適用されます。内縁配偶者に収入がある場合や、扶養条件を外れた場合には資格喪失となるため、収入管理には注意が必要です。
遺族年金・死亡退職金・労災補償の違い
パートナーが死亡した際に支給される年金や退職金などの制度でも、内縁と法律婚では取り扱いに差があります。
まず遺族年金のうち、遺族厚生年金については、法律上の配偶者に加えて「事実上婚姻関係と同様の事情にある者」も対象とされています(厚生年金保険法第3条第2項)。内縁配偶者でも、被保険者によって生計を維持されていたことが証明できれば受給資格があります。ただし、年金事務所からは住民票や家計状況などの詳細な確認が行われるため、事前の準備が重要です。
一方、遺族基礎年金は「子のある配偶者」に限定されており、子のいない内縁配偶者は対象外です。
死亡退職金や団体保険などの勤務先から支給される給付については、就業規則や退職金規程によって内縁配偶者が受取人に指定できることが多くなってきています。実質的に夫婦同様の生活を送っていれば、法律婚でなくとも優先的に支給されるケースもあります。
ただし、戸籍上の配偶者がいる場合は注意が必要です。原則として法律婚の配偶者が優先されますが、婚姻関係が実質的に破綻している場合には、内縁配偶者に支給が認められることもあります(最高裁平成17年4月21日判決など)。ただしこれは例外的な判断であり、原則的には戸籍上の配偶者が有利です。
労災保険の遺族補償給付についても、「配偶者」には内縁配偶者が含まれるとされます。ただしここでも法律婚の配偶者が存在する場合はそちらが優先され、内縁の配偶者は原則として受給権を持てません。訴訟にまで発展した事例もあり、現実には法律婚と比べ不安定な立場と言えるでしょう。
所得税における扶養・配偶者控除の違い
税制上では、社会保障よりも内縁に対する扱いが厳格です。配偶者控除や配偶者特別控除は、いずれも民法上の配偶者(=法律婚をした者)に限定されています。
そのため、たとえ内縁のパートナーが専業主婦(主夫)であっても、婚姻届を提出していない限り、所得税上の控除は一切認められません。たとえば、年収1,000万円の夫が年収ゼロの内縁の妻を扶養していても、配偶者控除38万円は受けられず、税負担が重くなります。
また、扶養控除も同様です。税法上の「親族」は6親等以内の血族または配偶者に限られており、内縁配偶者は該当しません。そのため、年齢要件や所得要件を満たしていても、税法上は扶養家族として扱われず、控除の対象にはなりません。
会社員の場合も、「給与所得者の扶養控除等申告書」に内縁配偶者の記載はできません。社会保険では認められる事実婚も、税制上は一切考慮されないという点に注意が必要です。
社会保障は「実態重視」、税制は「戸籍重視」 まとめると、社会保険や公的年金、退職金制度などにおいては、内縁関係でも「実質的な夫婦関係」が証明できれば、法律婚と同様の扱いが受けられる場面が増えてきています。
一方で、所得税や住民税などの税制面では、婚姻届の有無が絶対条件とされており、内縁関係は戸籍上「独身」として扱われます。その結果、法律婚に比べて年間数万円程度の税制上の不利益を被るケースも少なくありません。
こうした制度の非対称性を理解したうえで、内縁関係を選ぶか、法律婚に踏み切るかを判断することが大切です。特に、パートナーの収入差が大きい場合や将来的な扶養関係が見込まれるライフプランでは、結婚による制度上の恩恵が大きくなる傾向があります。内縁を選ぶ場合でも、必要な手続きを怠らず、公的書類や勤務先制度の内容を定期的に確認・更新しておくことが、安心な生活につながります。
内縁関係におけるライフプラン別ケーススタディと現実的な対策
内縁関係を選択する理由は人それぞれですが、制度上は法律婚と異なり相続・税制・社会保障の各領域でさまざまな制約があります。そのため、家庭の事情や価値観に応じて、早い段階でリスクと対応策を可視化し、準備を整えておくことが不可欠です。
実際に起こりうる3つの内縁ケースに対して、それぞれにおける課題と対策の方向性を具体的に紹介します。
高所得カップルが内縁を選択する場合の資産承継設計
想定読者は、東京都内在住・年収1,800万円の事業会社管理職(45歳)と、10歳年下のパートナーという高所得層のカップルです。婚姻届を出さず、あえて内縁関係を選択している場合、どのように資産と相続を設計すべきでしょうか。
まず、双方が高収入であるため、法律婚による配偶者控除や扶養控除といった所得税の節税メリットは事実上ありません。健康保険の扶養も必要なく、税務・社会保障の面で結婚による実利は限定的です。むしろ「資産は各自で管理したい」「自分の子に確実に遺したい」といった意向から、内縁を選ぶケースが増えています。
たとえば読者が前婚で授かった子を育てており、「財産はすべて実子に残したい」という意思がある場合、婚姻届を出すと再婚相手にも相続権が生じてしまいます。内縁関係であればパートナーには法定相続権が発生しないため、実子に100%の取り分を確保することが可能です。
ただし、内縁パートナーには保障が伴いません。急逝や疾病といった事態に備え、以下のような資産承継の設計が有効です。
- 生命保険や現預金を遺贈する:自宅などの不動産を実子に相続させ、生活資金として現金1,000万円などをパートナーに遺贈する。生命保険金は遺産とならないため、遺留分を侵害せず確実に手渡せます。
- 遺言に居住権を記載する:法律上の配偶者居住権は使えませんが、「自宅に生涯住んでよい」旨を付言事項として遺言に記載すれば、子に意向を伝えることができます。場合によっては事前に不動産を子に贈与し、パートナーと子の間で賃貸契約を結ぶことで、法的根拠を持たせることも可能です。
- 相続税のシミュレーション:高額な遺贈をすると、配偶者控除のない内縁パートナーは多くの税を負担することになります。必要最低限の金額に抑える、または生命保険金で代替するなど、相続税を意識した設計が重要です。
- 共有資産は増やしすぎない:預金や不動産の共有名義は相続手続きを複雑にするため、それぞれの資産は明確に分け、各自が自分の遺言を作成する方がスムーズです。
高所得カップルにとっては、法律婚による税制メリットが小さい分、柔軟な財産管理が可能です。ただし相続における「無保護状態」を放置せず、専門家の助言を得ながらライフプラン・エンディングプランを設計することが不可欠です。
子連れ再婚夫婦が内縁を継続する場合の相続トラブル回避
次に、夫婦ともに前配偶者との子を連れて再婚同然に生活しているが、法律上は内縁関係にある場合です。このような家庭では、「それぞれの資産は自分の子に残したい」という希望が強く、法律婚を選ばないケースが多く見られます。
この関係のメリットは明確です。たとえば夫が亡くなった際、法律婚であれば内縁の妻にも相続権が発生しますが、内縁のままであれば遺産は全て夫の実子に渡ります。継子とのトラブルを防ぎ、実子の取り分を確実に守れる点が内縁の利点です。
しかし、その裏返しとして、パートナー本人の保障が極めて脆弱になります。以下のような対策が重要です。
居住権の保護:遺言で「妻に〇年間は自宅に住んでもらいたい」などの意向を書き残し、子にも理解を求める。確実性を高めるなら生前に不動産を子へ贈与し、妻と賃貸契約を結ぶことで居住権を法的に保護する。
- 死亡保険金で生活費を確保:遺産と切り離してパートナーに現金を渡す手段として、死亡保険の活用が有効。遺留分の影響を受けず、確実に生活資金を確保できます。
- 感情面への配慮も忘れずに:長年同居してきた継父・継母に対し、「感謝を込めて○万円遺贈する」といった記述があれば、実子の心理的反発を和らげ、遺産分割の円滑化に寄与します。
- 任意後見契約の活用:老後の介護や意思決定に備え、パートナーに代理権を持たせる任意後見契約を締結しておくと安心です。財産管理委任契約や見守り契約とセットで検討を。
このように、実子の取り分を確保しつつパートナーの生活も守るには、遺言を中心とした多層的な対策が必要です。感情的な摩擦を避けるためにも、生前から家族間での丁寧な話し合いが不可欠です。
同性パートナーが内縁関係を継続する場合の法的課題と備え
同性婚が法制化されていない現行の日本において、同性カップルは法律婚を選ぶことができません。そのため、たとえ実質的に夫婦同様の関係であっても、法的には内縁としての扱いになります。
自治体によるパートナーシップ制度の広がりにより、社会的な認知は進んでいますが、制度面での保障は依然限定的です。とくに次のようなリスクと向き合う必要があります。
- 相続・資産承継:法定相続権が一切ないため、公正証書遺言を必ず作成することが重要です。さらに、生命保険や信託を活用して、お互いの生活資金・老後資金を備えておきましょう。
- 医療・介護の意思決定:法的に他人のため、延命治療や介護方針に関与できないリスクがあります。任意後見契約を締結し、法定代理権を持たせる備えが必要です。
- 社会的承認の確保:パートナーシップ宣誓書は法的効力はありませんが、賃貸契約や病院対応、職場の福利厚生などで配慮されることがあります。取得しておくことで社会的な保護が得やすくなります。
- 税金・年金制度への影響:配偶者控除・扶養控除が一切使えないため、所得税・相続税ともに不利な扱いを受けます。一方、厚生年金の遺族年金については、生計維持関係が証明できれば同性でも受給できる可能性があります。
同性パートナーは制度に頼れないぶん、すべてを自分たちで備える必要があります。任意後見、保険設計、遺言書作成など、活用できる手段をフルに取り入れて、法的な抜け漏れを補っていくことが求められます。
このように、内縁関係には法律婚にない柔軟性がある一方で、放置すれば重大な不利益を被る場面も少なくありません。各ライフステージに応じて、どのような設計と備えが必要なのか、当事者が主体的に選択と準備を進めることが、安心した共生の鍵となります。
内縁関係のリスクマネジメント実務
内縁関係を選ぶことで、自由な関係性や財産の独立性を保つことができますが、法律婚とは異なり、法的保護が及ばない領域も多く存在します。万一のときに大切なパートナーが不利益を被らないようにするには、法的・経済的な備えを日頃から講じておくことが欠かせません。
ここでは、公正証書遺言・生命保険・信託・任意後見契約・パートナーシップ制度など、内縁パートナーを守るために活用できる制度や手続きについて、具体的な実務の視点から解説します。
公正証書遺言を作成するステップ
内縁関係において、パートナーへの財産承継を実現する基本手段が遺言書の作成です。その中でも、公正証書遺言は法的効力・保管性・信頼性において最も実用的な形式とされています。
以下に、公正証書遺言の作成手順を5つのステップに分けてご紹介します。
ステップ1:遺言内容の整理と構成
まずは遺言の目的と内容を明確にし、遺産の分配方針や遺留分への配慮を考えながら構成を決めます。
ステップ2:公証人との事前打ち合わせ
遺言案が固まったら、管轄の公証役場に相談予約を行い、公証人と内容の確認・調整を進めていきます。
ステップ3:公証役場での正式作成・署名
予約当日は、本人と証人が公証役場に出向き、本人確認・内容確認・署名押印を経て正式に成立します。
ステップ4:遺言の保管と伝達
せっかく遺言を作成しても、その存在が知られなければ意味を成しません。信頼できる人物への通知や、エンディングノートへの記載が重要です。
ステップ5:定期的な見直し
人生や家族構成の変化に応じて、遺言の内容も定期的にアップデートしておくことが重要です。
生命保険受取人指定・信託設定のポイント
内縁配偶者に確実かつスムーズに資金を残すためには、遺言以外の方法も併用することが望ましいです。特に、生命保険と信託は、遺産分割に左右されず柔軟な財産移転を実現できる手段として有効です。
ここでは、それぞれの制度の基本と実務上の注意点を整理します。
生命保険の受取人指定
死亡保険金は、受取人に直接支払われるため、相続手続きとは独立して活用できます。パートナーの生活保障の第一手段となる選択肢です。
信託の活用
信託を活用すれば、内縁パートナー→実子など、複数段階の財産承継が設計可能になります。資産規模が大きい場合や多世代への継承を考える家庭に適しています。
任意後見契約・パートナーシップ制度の活用
生前・老後のリスクに備えるには、財産承継だけでなく、日常の判断能力低下や医療・介護の場面でも準備が必要です。そこで有効なのが、任意後見契約やパートナーシップ制度の活用です。
それぞれの制度が持つ特徴や、内縁関係でどのように活用できるのかを解説します。
任意後見契約
判断能力が低下した際、パートナーに法的な代理権を付与することができ、財産管理・医療手続きの主導権を確保できます。
パートナーシップ宣誓制度
法的拘束力はないものの、自治体の証明を得ることで社会的認知が得られ、医療・住居・職場などで配慮を受けやすくなります。
内縁関係は、法制度上の空白が多い関係性だからこそ、自分たちでルールを整える姿勢が不可欠です。公正証書遺言や生命保険、信託、後見契約などを組み合わせ、パートナーに確実な保護が及ぶよう多層的な備えを講じましょう。制度の壁に備えることは、二人の信頼を形にする最良の手段でもあります。
この記事のまとめ
内縁関係でも、公正証書遺言・生命保険・信託を重ねれば資産移転と生活保障は確保できます。重要なのは「配偶者控除が使えない」「遺留分請求の余地がある」といった制度面の弱点を放置しないことです。記事で示したチェックリストを基に、早めに専門家へ相談してプランを具体化しましょう。行動を先送りせず、制度改正が続く時代でも揺るがないライフプランを築くことが、二人の未来を守る最短ルートです。

MONO Investment
投資のコンシェルジュ編集部は、投資銀行やアセットマネジメント会社の出身者、税理士など「金融のプロフェッショナル」が執筆・監修しています。 販売会社とは利害関係がないため、主に個人の資産運用に必要な情報を、正確にわかりやすく、中立性をもってコンテンツを作成しています。
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内縁関係(事実婚)
内縁関係(事実婚)とは、法律上の婚姻届を提出していないものの、社会的・実質的には夫婦として共同生活を営んでいる関係を指します。お互いに結婚の意思を持ち、継続的に同居し、家計や生活を共にしている場合、一定の法的効果が認められることがあります。裁判所は、その実態に基づいて、内縁関係の成立と効力を判断します。 たとえば、生活費の分担義務や内縁解消時の財産分与、慰謝料請求、さらには労災や生命保険における遺族補償の受給資格など、法律婚に準じた取り扱いを受ける場面もあります。また、健康保険の被扶養者や国民年金の第3号被保険者として認められる場合もあります。 しかし、内縁関係はあくまで法律上の「婚姻」ではないため、相続や税制上の扱いには明確な限界があります。内縁の配偶者には法定相続権がなく、遺産を受け取るには遺言や信託契約などによる明示的な指定が必要です。また、相続税における配偶者控除(最大1億6,000万円)や、所得税の配偶者控除・配偶者特別控除といった優遇措置も原則として適用されません。 このため、内縁関係にある当事者が安心して暮らし続けるには、生前からの明確な財産承継対策が不可欠です。公正証書遺言の作成、信託スキームの活用、生命保険金の指定などを通じて、遺産の受け渡しや税負担への備えを整えておくことが重要です。 なお、同居期間や関係の安定性、家計の一体性などが不十分な場合、内縁としての法的保護が否定されることもあり得るため、形式にとらわれない実質的な関係性の証明が重視されます。内縁関係の権利保全には、専門家の助言を受けながらの対応が望まれます。
法律婚
法律婚とは、婚姻届を役所に提出し、法律上正式に認められた婚姻関係のことを指します。日本の民法では、結婚は婚姻届の提出と受理によって効力が生じると定められており、これが成立した関係が「法律婚」です。 法律婚をすると、夫婦は互いに扶養義務を負い、財産の共有、相続、税制上の配偶者控除、社会保険の被扶養者認定など、さまざまな法的な権利と義務が与えられます。また、子どもが生まれた場合は、嫡出子として扱われ、戸籍にも夫婦の子として記載されます。 これに対し、婚姻届を出さずに共同生活を送る「内縁関係(事実婚)」とは、法的な保障や権利に大きな違いがあるため、資産運用や相続、生活設計を考えるうえで、法律婚かどうかは非常に重要な要素となります。
嫡出子(ちゃくしゅつし)
嫡出子とは、法律上の婚姻関係にある夫婦の間に生まれた子どものことを指します。戸籍上も「嫡出子」として記載され、親子関係に法的な疑いがなく、相続や扶養、氏の継承などにおいても完全な法的権利を有します。 日本では、子どもが生まれた時点で両親が婚姻していれば自動的に嫡出子とされ、特別な手続きを要しません。一方で、両親が婚姻していない場合は「非嫡出子」となり、父親との法的な親子関係を得るためには「認知」が必要になります。 ただし、現在の法律では、嫡出子と非嫡出子の相続に関する権利は平等とされています。資産承継や家族関係の法的整理において、子どもの出生状況がどのように扱われるかを理解するための基礎的な概念です。
慰謝料(いしゃりょう)
慰謝料とは、他人の不法行為や権利侵害によって精神的な苦痛を受けた場合、その損害に対する賠償として支払われる金銭のことです。たとえば、交通事故、名誉毀損、いじめ、離婚、浮気(不貞行為)などにより精神的ダメージを受けたとき、その苦しみに対して「心の損害」として請求されます。 慰謝料の金額は、被害の程度や加害者の行為の悪質さ、当事者間の関係性、社会的影響などを考慮して裁判所が判断することが多く、明確な相場があるわけではありません。物理的な損害に対する「損害賠償金」とは異なり、精神的側面に焦点を当てた救済手段であり、法的な権利保護の一環として重要な役割を果たします。
財産分与
財産分与とは、離婚に際して夫婦が結婚生活中に築いた共有財産を公平に分け合う手続きのことです。たとえば、現金、預貯金、不動産、自動車、退職金、年金分割などが対象となり、名義が夫婦どちらか一方になっている財産であっても、原則として共同で形成されたものであれば分与の対象となります。 財産分与には、単なる「清算的分与」だけでなく、離婚後の生活保障を目的とした「扶養的分与」、不貞行為などに対する「慰謝的分与」も含まれる場合があります。分与の方法は、当事者の話し合い(協議)によって決められますが、合意できない場合は家庭裁判所に調停や審判を申し立てることも可能です。財産分与は、離婚後の経済的安定や公正な清算のために重要な役割を果たす制度です。
相続権
相続権とは、亡くなった人(被相続人)の財産を、法律に定められた権利として受け継ぐことができる資格を指します。通常は配偶者や子ども、父母、兄弟姉妹などが相続人となり、その範囲や優先順位は民法で定められています。相続権を持つ人は「法定相続人」と呼ばれ、財産を法的に引き継ぐことができます。 また、遺言がある場合には、遺言によって指名された人(遺贈を受ける人)にも一定の財産を受け取る権利が生じることがあります。ただし、相続には権利だけでなく義務(借金などの負債の承継)も含まれるため、相続放棄や限定承認といった選択も可能です。資産運用や相続設計の場面では、誰に相続権があるかを明確にすることが、円滑な財産承継のために非常に重要です。
特別縁故者
特別縁故者とは、亡くなった人に法定相続人がいない場合に、その人と特に深いつながりがあったとして、家庭裁判所の判断によって遺産を受け取ることができる人を指します。たとえば、長年一緒に生活していた内縁の配偶者や、介護や看病をしていた知人などが該当することがあります。遺産は通常、相続人がいない場合には国庫に帰属しますが、この制度を利用すれば、亡くなった人に貢献してきた人がその恩恵を受けることが可能になります。ただし、特別縁故者として認められるには、裁判所への申し立てや証明が必要であり、認められるかどうかは状況によって異なります。資産運用や終活の観点からは、遺言書を残しておくことで確実に希望する人に財産を渡すことができ、トラブルを未然に防ぐことができます。
遺留分
遺留分とは、被相続人が遺言などによって自由に処分できる財産のうち、一定の相続人に保障される最低限の取り分を指す。日本の民法では、配偶者や子、直系尊属(親)などの法定相続人に対して遺留分が認められており、兄弟姉妹には認められていない。遺留分が侵害された場合、相続人は「遺留分侵害額請求」によって不足分の金銭的補填を請求できる。これは相続財産の公平な分配を確保し、特定の相続人が極端に不利にならないようにするための制度である。
遺贈
遺贈とは、遺言書によって自分の財産を相続人や第三者に無償で譲ることを指します。生前の贈与とは異なり、遺贈は本人が亡くなったときに初めて効力が生じるのが特徴です。たとえば、「私の預金を○○さんに渡す」といった内容を遺言書に書いておけば、その人が相続人であってもなくても、遺贈として財産を受け取ることができます。 遺贈は、特定の財産を指定して渡す「特定遺贈」と、財産の一定割合を指定して渡す「包括遺贈」に分けられます。また、相続人以外の人や団体(たとえば知人や慈善団体など)にも遺贈することが可能なため、本人の意思を柔軟に反映できる方法として活用されています。資産運用や相続の場面では、誰にどの財産をどのように渡すかを明確にする手段として、遺贈はとても大切な制度です。
死因贈与契約
死因贈与契約とは、「自分が亡くなったときに、ある財産を特定の人に贈与する」という約束を生前に結ぶ契約のことです。遺言と似ていますが、死因贈与は契約であるため、贈与する側と受け取る側の双方の合意が必要です。この契約が成立すると、贈与者が亡くなった時点で契約が効力を発し、指定された人が財産を受け取れるようになります。生前に意志を確実に伝えておく方法の一つであり、特定の人に感謝の気持ちを込めて財産を渡したいと考える方に向いています。ただし、相続税の対象となるため、税務上の確認や、後々のトラブルを防ぐための契約書の作成が重要になります。
公正証書遺言
公正証書遺言とは、公証人が本人の意思に基づいて作成する遺言書で、遺言の中でも最も法的な信頼性と実効性が高い形式とされています。作成にあたっては、公証役場にて遺言者が口頭で内容を伝え、それを公証人が文書にまとめ、証人2名の立会いのもとで公正証書として正式に成立します。 この方式の最大の特徴は、家庭裁判所による検認手続きが不要である点です。つまり、相続開始後すぐに法的に効力を持つため、遺族による手続きがスムーズに進むという実務上の大きな利点があります。また、公証人による作成と原本保管によって、遺言の紛失や改ざん、内容不備といったリスクも大幅に軽減されます。 一方で、公正証書遺言の作成には一定の準備が必要です。財産の内容を証明する資料(不動産登記簿謄本や預金通帳の写しなど)や、相続人・受遺者の戸籍情報などが求められます。また、証人2名の同席も必須であり、これには利害関係のない成人が必要とされます。公証役場で証人を紹介してもらえるケースもありますが、費用が別途発生することもあります。 費用面では、遺言に記載する財産の価額に応じた公証人手数料がかかりますが、将来のトラブル回避や手続きの簡素化といったメリットを考えれば、特に財産規模が大きい場合や、遺産分割に不安がある家庭では非常に有効な手段と言えるでしょう。 資産運用や相続対策において、公正証書遺言は重要な役割を果たします。特定の資産を特定の人に確実に引き継がせたい場合や、相続人間の争いを未然に防ぎたい場合には、公正証書遺言を活用することで、遺言者の意思を明確かつ安全に残すことができます。
配偶者の税額軽減
配偶者の税額軽減とは、相続税における特例の一つで、亡くなった方の配偶者が相続する財産について、一定の金額までは相続税が課されない、または大きく軽減される制度です。 具体的には、「1億6,000万円」または「法定相続分相当額」のいずれか大きい金額までの相続について、配偶者には相続税がかからないという非常に大きな優遇措置です。 これは、夫婦の共同生活によって築かれた財産を配偶者が引き継ぐことを社会的に保護するための制度です。配偶者がその後亡くなった場合に、残された財産が再度相続税の対象になるため、一時的な繰延べ的性格も持ちますが、結果として相続税の負担を大きく軽くする効果があります。
小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例とは、相続が発生した際に、被相続人が居住や事業に使用していた土地について、一定の条件を満たせば、その土地の相続税評価額を大幅に減額できる制度です。主な目的は、相続税負担によって自宅や事業用不動産を手放すことを防ぎ、円滑な資産承継を支援することにあります。 たとえば、亡くなった方の自宅に配偶者や同居していた親族が引き続き居住する場合、その宅地の評価額を最大で80%まで減額できる可能性があります。事業用地や貸付事業に用いられていた土地についても、50%〜80%の減額が認められるケースがあります。この減額によって相続税の課税対象となる財産の価額が抑えられるため、納税資金の負担が軽減され、不動産を売却せずに相続を完了できる事例も多く見られます。 ただし、この特例の適用には、居住や事業の継続に関する要件、土地の面積制限(最大330㎡まで)など、細かな条件を満たす必要があります。また、相続税申告期限内に適用を受ける旨を申告することが必須であり、準備不足や誤解によって適用を逃すケースもあるため注意が必要です。 自宅や事業用不動産を含む資産を次世代に円滑に引き継ぐ上で、この特例は極めて重要な制度のひとつです。早めに対策を講じ、制度の内容を正しく理解したうえで、税理士など専門家のサポートを受けながら計画的に進めることが求められます。
おしどり贈与
おしどり贈与とは、正式には「夫婦間における居住用不動産の贈与の特例」と呼ばれる制度で、婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、居住用の不動産やその購入資金を贈与する場合、贈与税の基礎控除とは別に最高で2,000万円まで非課税となる特例のことです。長年連れ添った夫婦の間で、老後の住まいや生活の安定を目的として活用されることが多く、「おしどり夫婦」にちなんでこのように呼ばれています。 この特例を受けるためには、贈与を受けた年の翌年3月15日までに贈与税の申告を行う必要があります。なお、一度しか使えない制度なので、使うタイミングや不動産の名義変更については、専門家に相談することが大切です。
相続時精算課税制度
相続時精算課税制度とは、60歳以上の父母や祖父母から、18歳以上の子や孫へ財産を贈与する場合に利用できる、特別な贈与税の制度です。この制度を使うと、贈与を受けた年に2,500万円までの金額については贈与税がかからず、それを超えた部分にも一律20%の税率が適用されます。そして、その後贈与者が亡くなったときに、過去の贈与分をすべてまとめて「相続財産」として扱い、最終的に相続税として精算します。 つまり、この制度は「贈与税を一時的に軽くし、あとで相続税の段階でまとめて精算する」という仕組みになっています。将来の相続を見据えて早めに資産を移転したい場合や、大きな金額を一括で贈与したい場合に活用されることが多いです。 ただし、一度この制度を選ぶと、同じ贈与者からの贈与については暦年課税(通常の贈与税制度)には戻せないという制限があるため、利用には慎重な判断が必要です。資産運用や相続対策を計画するうえで、制度の特徴とリスクをよく理解しておくことが大切です。
信託
信託とは、お金や不動産などの財産を信頼できる相手(受託者)に託し、特定の目的に沿って管理・運用してもらう仕組みです。財産を託す人を「委託者」、管理する人を「受託者」、利益を受け取る人を「受益者」といいます。 たとえば、親が子どもの教育資金を信託したり、高齢の親の認知症対策として資産管理を家族に委ねたりするケースがあります。このような個人間で活用される信託は「家族信託」と呼ばれ、相続対策や資産承継の手段として近年注目されています。 一方、資産運用の世界では「商事信託」として、信託銀行や運用会社が多数の投資家から集めた資金をまとめて運用する「投資信託」が一般的です。さらに、海外では、受益者への分配内容を受託者が裁量で決められる「ディスクリショナリートラスト(裁量信託)」という形態もあります。 信託は目的や状況に応じて柔軟に設計できる制度であり、大切な資産を計画的に管理・承継するための有力な選択肢となります。
任意後見
任意後見とは、自分の判断能力が低下する将来に備えて、あらかじめ信頼できる人を後見人として選び、公正証書で契約を結んでおく制度のことをいいます。これは「元気なうち」に本人の意思で準備できる後見制度であり、判断能力が実際に低下したときに、家庭裁判所の監督のもとで任意後見人が正式に活動を開始します。 任意後見人は、本人の財産管理や生活支援などを本人の希望に沿って行うことができるため、自分らしい生活を維持するための手段として注目されています。法定後見と違い、自分で「誰に、何を任せるか」を決めておける点が特徴です。高齢化や認知症のリスクが高まる中で、資産や生活の管理を将来にわたって安心して託すための、重要な準備の一つです。初心者にとっても、「自分の老後を自分で選ぶ」ための有効な制度として知っておく価値があります。
パートナーシップ宣誓制度
パートナーシップ宣誓制度とは、法律上の婚姻ができない同性のカップルなどが、自治体に対して「人生のパートナーであること」を宣誓し、認めてもらう制度です。この制度により、自治体からパートナー関係を証明する書類が発行され、住宅の入居申込や病院での面会など、生活のさまざまな場面で配偶者と同じように扱われることが増えています。法的な結婚とは異なり、相続権や税制上の優遇措置は得られませんが、金融機関や保険会社の一部でもこの証明を尊重する動きが広がってきています。資産運用の場面でも、パートナーに財産を託したいというニーズに応えるため、遺言や信託契約と併せて活用されることがあります。
遺族年金
遺族年金とは、家計の支え手である人が亡くなった際に、残された家族の生活を保障するために支給される年金のことです。公的年金制度の中に組み込まれており、国民年金から支給される「遺族基礎年金」と、厚生年金から支給される「遺族厚生年金」があります。対象となるのは、主に配偶者や子どもで、支給額や期間は家族構成や被保険者の加入状況などによって異なります。遺族年金は、残された家族が安定した生活を続けるための公的な支援制度として、生活設計においてとても重要な役割を果たします。
重婚的内縁
重婚的内縁とは、すでに法律上の配偶者がいる人が、別の相手とあたかも夫婦のように共同生活を営んでいる状態のことを指します。つまり、法律上の婚姻関係を解消していないまま、別の異性と事実婚のような関係を築いている状態です。 日本の民法では重婚は禁じられており、重婚的内縁は正式な婚姻としては認められませんが、長期間の共同生活や経済的依存関係などが認められる場合には、裁判所が一定の法的保護を与えることがあります。たとえば、別れた際の慰謝料請求や、相手の死後に特別縁故者として財産を受け取れる可能性などがその一例です。ただし、相続権や扶養義務などの権利は原則として認められないため、こうした関係にある場合には、遺言や契約による事前の備えが不可欠です。