雇用保険とは?加入条件や保険料、加入するメリットなどをわかりやすく解説

雇用保険とは?加入条件や保険料、加入するメリットなどをわかりやすく解説
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公開:
2025.11.27
更新:
2025.11.27
雇用保険は、失業や育児・介護による収入減少を支え、再就職やスキルアップを後押しする公的制度です。失業時に給付を受けられるだけでなく、在職中に資格の取得やリスキリングをする際にも支援を受けられるのをご存じでしょうか。この記事では、制度の仕組みから加入手続き、保険料計算、未加入リスクまでを整理し、働く人が知っておくべき雇用保険の全体像をわかりやすく解説します。
サクッとわかる!簡単要約
雇用保険は、失業や育児・介護などで働けない期間に所得を補う重要な社会保障制度です。加入すると雇用保険料が差し引かれますが、この保険料は失業時やキャリアアップなど、さまざまな場面での財源として使われています。読了後には、加入条件や給付内容、保険料計算の仕組みまでを体系的に理解し、雇用保険制度の全貌や加入するメリットを把握できます。
目次
雇用保険とは
雇用保険とは、労働者が失業した際の生活安定や、育児・介護による休業時の所得保障、再就職の促進などを目的とした公的な保険制度です。労働者を雇用するすべての事業所に適用され、一定の要件を満たす労働者は原則として強制加入となります。
雇用保険の基本
雇用保険は、失業による収入の途絶えや、育児・介護で働けない期間の経済的不安を軽減する役割を担っています。単なる失業手当だけでなく、働く人のさまざまなライフステージを支える総合的なセーフティネットとして機能している点が特徴です。
具体的には、失業時の基本手当(いわゆる失業手当)のほか、再就職が決まった際の就職促進給付、スキルアップのための教育訓練給付、育児休業給付金、介護休業給付金など、多岐にわたる給付制度が用意されています。
雇用保険と社会保険の違い
社会保険は健康保険、厚生年金保険、介護保険、雇用保険、労災保険の総称です。つまり雇用保険は社会保険の一部なのです。
一般的に「社会保険」と言う場合は、健康保険と厚生年金保険を指すことが多く、これらは主に病気やケガの医療費補助、老後の年金給付を目的としています。
一方、雇用保険は失業時の生活を支えるための保険で、失業給付や育児休業給付、教育訓練給付などが受けられます。
雇用保険と社会保険の違いに関しては、こちらのQ&Aも参考にしてみてください。
雇用保険の目的
雇用保険法の目的は、以下のように定められています。
雇用保険の目的
- 労働者の生活および雇用の安定
- 求職活動の促進
- 労働者の能力開発および向上
このように雇用保険は、失業時の所得保障にとどまらず、労働者の雇用維持や能力開発まで幅広く支援する総合的な制度として設計されています。
雇用保険被保険者証とは
雇用保険被保険者証とは、労働者が雇用保険に加入していることを証明する重要な書類です。
出典:愛知ハローワーク「【名古屋南】雇用保険被保険者証を再発行する方法は?(転職された方向け)」
会社が労働者を雇用保険に加入させた際に、ハローワークから発行されます。
| 記載項目 | 内容 |
|---|---|
| 被保険者番号 | 一人ひとりに割り当てられる11桁の番号 |
| 資格取得年月日 | 雇用保険に加入した日付 |
| 事業所番号 | 勤務先の事業所を識別する番号 |
| 事業所名称 | 勤務先の会社名 |
| 被保険者氏名 | 本人の氏名 |
| 生年月日 | 本人の生年月日 |
入社時に会社から交付されるのが原則ですが、会社が保管している場合もあります。その場合、退職時に離職票とともに渡されることが一般的です。転職する際には、新しい勤務先に被保険者番号を伝える必要があるため、大切に保管しておきましょう。
もし雇用保険被保険者証を紛失した場合でも、ハローワークで再発行が可能です。再発行の手続きは本人が直接ハローワークに行くか、勤務先の人事担当者を通じて申請できます。
雇用保険の加入条件を状況別で確認
具体的に、どのような条件を満たすと雇用保険に加入するのかを見ていきましょう。
基本的な加入要件
雇用保険に加入するための基本的な要件は、以下の2つです。
雇用保険の加入条件
- 31日以上引き続き雇用される見込みがあること
- 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
この2つの要件を両方満たす労働者は、雇用保険の被保険者となります。要件を満たしているにもかかわらず加入していない場合、事業主が手続きを怠っている可能性があるため、確認が必要です。
正社員の加入条件
正社員の場合、ほとんどのケースで雇用保険の加入対象となります。正社員は一般的に、契約期間の定めがない無期雇用契約を結んでおり、週40時間程度のフルタイム勤務が前提です。そのため、基本的な加入要件である「31日以上の雇用見込み」と「週20時間以上の労働時間」を自動的に満たします。
パート・アルバイトの加入条件
パートやアルバイトであっても、加入要件を満たせば雇用保険の被保険者となります。週の所定労働時間が20時間以上で、31日以上の雇用見込みがある場合は雇用保険に加入します。
| 区分 | 主な勤務条件の例 |
|---|---|
| 加入対象となるケース | ・週5日、1日4時間勤務(週20時間)で3ヶ月契約のアルバイト ・週3日、1日7時間勤務(週21時間)で期間の定めなく働くパート |
| 加入対象外となるケース | ・週3日、1日5時間勤務(週15時間)のパート 週5日、1日3時間勤務(週15時間)のアルバイト 単発バイトや日雇いで、継続雇用の見込みがない場合 |
パートやアルバイトの方は、雇用契約書で労働時間と契約期間を必ず確認しましょう。要件を満たしているのに加入していない場合は、会社に手続きを求めることができます。雇用保険に加入することで、失業時の給付や育児休業給付金、教育訓練給付など、さまざまな支援を受ける権利が得られます。
扶養内で働く場合における雇用保険の取り扱いに関しては、こちらのQ&Aも参考にしてみてください。
派遣社員の加入条件
派遣社員も、加入要件を満たせば雇用保険の被保険者となります。派遣社員の場合、雇用契約は派遣先企業ではなく派遣元の人材派遣会社と結んでいるため、派遣会社が雇用保険の加入手続きを行います。
派遣社員の加入判断も、基本的な要件は同じです。週20時間以上の労働時間で、31日以上の雇用見込みがあれば加入対象となります。
派遣社員として働く場合は、派遣会社から雇用保険被保険者証を受け取っているか確認しましょう。また、給与明細に雇用保険料が控除されているかもチェックポイントです。
ダブルワークの加入条件
複数の仕事を掛け持ちしている場合(ダブルワーク)、雇用保険は原則として1つの事業所でのみ加入します。すべての勤務先で加入するわけではない点に注意が必要です。
雇用保険に加入できるのは、「生計を維持するに必要な主たる賃金を受ける雇用関係」にある事業所のみです。簡単に言えば、収入が多い職場で加入するということです。
たとえば、A社で15万円・B社で8万円を得ている場合、主たる収入源であるA社で雇用保険に加入します。B社での勤務は副業とみなされ、雇用保険の加入対象とはなりません。
65歳以上の加入条件
65歳以上の労働者も、加入要件を満たせば雇用保険の被保険者となります。かつては65歳以上の新規加入が制限されていましたが、2017年1月の法改正により、年齢に関係なく加入できるようになりました。
65歳以上の被保険者は「高年齢被保険者」という区分になります。一般の被保険者と基本的な加入要件は同じで、週20時間以上の労働時間と31日以上の雇用見込みがあれば対象です。
なお、2022年1月から「雇用保険マルチジョブホルダー制度」が導入され、複数の事業所での労働時間を合算して週20時間以上となる場合、雇用保険に加入できるようになりました。
雇用保険の年齢上限に関しては、こちらのQ&Aも参考にしてみてください。
外国人労働者の加入条件
外国人労働者も、国籍に関係なく加入要件を満たせば雇用保険の被保険者となります。日本国内で働く外国人であれば、日本人と同じ条件で雇用保険が適用されます。
適法な就労資格があり、週20時間以上の労働時間と31日以上の雇用見込みがあれば、雇用保険の加入対象です。この点は日本人と変わりません。
外国人労働者の雇用保険加入手続きには、在留カードやパスポートなど、在留資格を証明する書類が追加で必要となります。
学生アルバイトの加入条件
学生アルバイトは、原則として雇用保険の加入対象外です。学生の本分は学業であり、労働者としての保護を主目的とする雇用保険の趣旨にそぐわないと考えられているためです。
ただし、以下のような場合は例外的に雇用保険に加入できます。
- 夜間学部や通信制の学生
- 定時制高校の生徒
- 卒業見込みで内定先で働き始めた場合
- 休学中の学生
学生アルバイトをしている方は、自分が昼間学生に該当するかを確認しましょう。夜間や通信制の学校に通っている場合は、要件を満たせば加入対象となるため、会社に手続きを確認することをおすすめします。
雇用保険へ加入できない人
雇用保険には、法律や制度上の理由で加入できない人がいます。労働時間や雇用期間の要件を満たしていても、以下に該当する場合は対象外となります。
法人の代表者や役員
会社の代表取締役や取締役などの役員は、労働者ではなく経営者とみなされるため、雇用保険の対象外です。ただし、取締役であっても従業員としての業務を兼務している「兼務役員」の場合、労働者性が認められれば加入できることがあります。
兼務役員として認められるには、「兼務役員雇用実態証明書」をハローワークに提出し、以下の条件を満たす必要があります。
- 役員報酬とは別に、労働者としての賃金が支払われている
- 他の従業員と同様に、就業規則の適用を受けている
- 労働時間の管理を受けている
個人事業主・自営業者・フリーランス
フリーランスや個人事業主として働く場合、雇用されている労働者ではないため、雇用保険には加入できません。業務委託契約や請負契約で働く場合も同様です。
なお、個人事業主と雇用保険・労災保険の関係については、こちらのQ&Aもご覧ください。
公務員
国家公務員や地方公務員は、雇用保険の対象外です。公務員には別途、独自の失業給付制度や共済制度が用意されています。
同居の親族のみを雇用する事業所の従業員
家族経営の事業所で、同居している親族のみを雇用している場合、その家族従業員は原則として雇用保険の対象外となります。ただし、以下の条件をすべて満たす場合は例外的に加入できます。
- 事業主の指揮命令に従っていることが明確
- 就業実態が他の労働者と同様
- 賃金の支払いなど、労働の対価としての性格が明確
- 取締役などの役員ではない
日雇労働者(特例あり)
日々雇用される日雇労働者や、30日以内の期間を定めて雇用される労働者は、一般の雇用保険ではなく「日雇労働被保険者」という別の制度の対象となります。ただし、以下の条件に該当した場合は、一般の被保険者に切り替わります。
- 同一事業所で2ヶ月連続して18日以上雇用された場合
- 同一事業所で31日以上継続して雇用された場合
これらに該当する方は、自分が雇用保険に加入できない理由を理解しておきましょう。もし判断に迷う場合は、勤務先の人事担当者やハローワークに相談することをおすすめします。
雇用保険へ加入したときに納める保険料
雇用保険の保険料は、労働者の賃金に保険料率を乗じて計算されます。保険料は労働者と事業主の双方が負担し、労働者負担分は毎月の給与から天引きされます。
雇用保険料の計算方法
雇用保険料は、「賃金総額×保険料率」という計算式で算出されます。ここでいう賃金総額とは、毎月の給与だけでなく、残業手当や通勤手当、住宅手当などを含めた総支給額を指します。
| 区分 | 含まれる賃金の例 |
|---|---|
| 計算に含まれる賃金 | 基本給 残業手当、深夜手当、休日手当 通勤手当 家族手当、住宅手当 役職手当 その他、労働の対価として支払われるすべての手当 |
| 計算に含まれない賃金 | 賞与(ボーナス)は別途計算 退職金 出張旅費や慶弔見舞金など、実費弁償的なもの |
令和7年度の雇用保険保険料率
雇用保険料率は、事業の種類によって異なります。令和7年度の保険料率は以下の通りです。一般の事業が最も低く、建設業が最も高い保険料率となっています。
| 事業の種類 | 労働者負担 (失業等給付・ 育児休業給付) | 事業主負担 合計 | 雇用保険料率 合計 |
|---|---|---|---|
| 一般の事業 | 5.5/1,000 (0.55%) | 9/1,000 (0.9%) | 14.5/1,000 (1.45%) |
| 農林水産・清酒製造業 | 6.5/1,000 (0.65%) | 10/1,000 (1.0%) | 16.5/1,000 (1.65%) |
| 建設業 | 6.5/1,000 (0.65%) | 11/1,000 (1.1%) | 17.5/1,000 (1.75%) |
出典:厚生労働省「令和7(2025)年度 雇用保険料率のご案内」
ほとんどの労働者は「一般の事業」に該当し、労働者負担は0.55%となります。給与明細を確認する際は、この料率で計算された金額が控除されているかチェックしましょう。
なお、保険料率は年度ごとに見直されることがあるため、最新の料率は厚生労働省のホームページやハローワークで確認できます。
雇用保険料の計算例
雇用保険料の計算例を、事例に基づいて見てみましょう。
一般の事業で働く労働者
- 月給:25万円(基本給20万円、残業手当3万円、通勤手当2万円)
- 保険料率:0.55%(労働者負担分)
- 雇用保険料:250,000円×0.55%=1,375円
この場合、毎月の給与から1,375円が雇用保険料として控除されます。
賞与(ボーナス)からも雇用保険料が控除されます。計算方法は給与と同じです。
賞与がある場合
- 賞与:60万円
- 保険料率:0.55%
- 雇用保険料:600,000円×0.55%=3,300円
賞与支給時には、この3,300円が雇用保険料として控除されます。
雇用保険制度で定められている給付の種類
雇用保険から支給される給付には、さまざまな種類があります。失業時の基本手当だけでなく、育児や介護で休業する際の給付、再就職を促進するための手当、キャリアアップを支援する教育訓練給付など、働く人のライフステージに応じた多様な支援制度が用意されています。
失業等給付
失業等給付は、雇用保険の中心的な給付制度です。失業した労働者の生活を支えるだけでなく、再就職を促進し、労働者の能力開発を支援する目的があります。
失業等給付には、大きく分けて4つの給付があります。
失業等給付の種類
- 失業した際に受け取れる「求職者給付」
- 再就職が決まった際の「就職促進給付」
- 働きながらスキルアップを目指す「教育訓練給付」
- 雇用を継続する方への「雇用継続給付」
失業等給付という名称ですが、実際には失業していなくても受けられる給付も含まれています。それぞれの給付は受給要件や支給額が異なるため、自分がどの給付を受けられるのか事前に確認しておくことが大切です。
育児休業給付・介護休業給付
育児休業給付金は、1歳未満(条件によっては最長2歳まで)の子どもを養育するために育児休業を取得した場合に支給される給付です。育児休業中は給与が支払われないことが一般的ですが、この給付金により経済的な不安を軽減し、安心して育児に専念できます。
介護休業給付金は、家族を介護するために休業した場合に支給される給付です。要介護状態にある家族の介護を理由として、仕事を休まざるを得ない労働者の経済的負担を軽減します。
育児休業給付金に関しては、こちらの記事で詳しく解説しています。
高年齢雇用継続給付
高年齢雇用継続給付は、60歳以上65歳未満の労働者が、60歳到達時点と比較して賃金が75%未満に低下した状態で働き続ける場合に支給される給付です。定年後の再雇用などで賃金が大幅に下がった場合の収入を補填し、高齢者の雇用継続を支援します。
雇用保険に加入するメリット
雇用保険に加入することで、さまざまなメリットを受けられます。失業時の経済的な支援だけでなく、育児や介護で休業する際の給付、キャリアアップのための教育訓練費用の補助など、働く人の人生のさまざまな場面で役立つ制度が用意されています。
失業時の生活保障を得られる
雇用保険の最も基本的なメリットは、失業時の生活を支える基本手当(失業手当)です。予期せぬ解雇や倒産、やむを得ない理由での退職など、失業により収入が途絶えた際に、一定期間の経済的支援を受けられます。
失業すると収入がなくなり、生活費の不安から焦って条件の悪い仕事に就いてしまうケースがあります。しかし基本手当を受給できれば、経済的な余裕を持って自分に合った職場をじっくり探すことができます。
基本手当の金額は、離職前の賃金の50%から80%程度です。たとえば月給30万円で働いていた方の場合、基本手当日額は約6,000円から7,000円となり、月額では18万円から21万円程度を受け取れる計算になります。
育児・介護休業中に経済的な支援を受けられる
雇用保険は、失業を防ぐための経済的支援を行っています。育児休業給付金と介護休業給付金により、休業期間中の収入減少を補い、仕事と家庭の両立を可能にしているのです。
たとえば、育児休業給付金は、休業開始から180日目までは休業前賃金の67%、それ以降は50%が支給されます。この給付金は非課税のため、所得税や住民税がかかりません。
教育訓練制度を活用してキャリアアップを目指せる
雇用保険の教育訓練給付制度は、働きながらスキルアップやキャリアチェンジを目指す方をサポートします。受講費用の一部が支給されるため、自己投資のハードルが大きく下がります。
たとえば、一般教育訓練給付金は受講費用の20%、最大で10万円を受給できます。受講費用が15万円の講座の場合、3万円が支給され、実質的な負担は12万円で済む計算です。
教育訓練給付金は、在職中でも利用できる点が特徴です。働きながら資格取得を目指すことで、キャリアアップや転職の準備ができます。
雇用保険に加入していない場合のデメリットや注意点
雇用保険に加入していない場合、失業時や育児・介護で休業する際に、さまざまな給付を受けられません。本来加入すべき条件を満たしているにもかかわらず未加入の状態が続くと、将来的に大きな経済的損失につながる可能性があります。
失業時に給付を受けられない
雇用保険に加入していない場合、失業した際に基本手当(失業手当)を受け取れません。再就職しない限り収入がストップしてしまうため、生活に悪影響が出てしまうでしょう。
収入が途絶えると、生活費や家賃、光熱費などの支払いが困難になります。雇用保険に加入していれば、離職前の賃金の50%から80%程度の基本手当を受け取れますが、未加入の場合はすべて貯蓄で賄わなければなりません。
育児休業・介護休業給付を受けられない
雇用保険に加入していない場合、育児休業を取得しても育児休業給付金を受け取れません。育児休業中は給与が支払われないことが一般的なため、無収入の状態が続くことになります。
また、介護休業給付も受けられません。親の介護が必要になった場合、介護離職を余儀なくされ、収入が止まったり将来のキャリアアップに悪影響が出てしまうでしょう。
介護離職を防ぐ方法に関しては、こちらのQ&Aも参考にしてみてください。
教育訓練給付制度を利用できない
雇用保険に加入していない場合、教育訓練給付制度を利用できません。スキルアップやキャリアチェンジを目指して資格取得や講座受講をする際、受講費用をすべて自己負担しなければなりません。
教育訓練給付がないことで、資格取得を断念し、スキルアップやリスキリングができない事態になりかねません。新しいスキルを身につけられないことで、転職時の選択肢が限られます。より良い条件の仕事に就く機会を失う可能性があります。
再就職手当を受給できない
雇用保険に加入していない場合、失業後に再就職が決まっても再就職手当を受け取れません。再就職手当は、早期に再就職することへのインセンティブとして設けられており、金額も決して小さくありません。
早期に良い就職先が見つかった場合、数十万円程度の給付を受けられる可能性もあります。早く就職するほど経済的にメリットがある仕組みですが、未加入の場合はこのインセンティブが働きません。
再就職手当がないことで、早期に就職するモチベーションが低下する可能性があります。結果的に、就職活動が長期化して失業期間が延びてしまい、再就職が難しくなる悪循環に陥るかもしれません。
雇用保険の手続き
雇用保険の手続きは、加入時と離職時、そして給付を受ける際にそれぞれ必要となります。基本的には事業主が手続きを行うため、労働者本人が直接ハローワークで手続きをする機会は多くありません。
しかし、手続きの流れを理解しておくことで、自分の権利を守り、スムーズに給付を受けられます。
加入時の手続き
雇用保険の加入手続きは、原則として事業主が行います。労働者が入社した際、事業主は「雇用保険被保険者資格取得届」をハローワークに提出する義務があります。
もし入社から2ヶ月以上経過しても雇用保険料が控除されていない場合、会社が手続きを怠っている可能性があります。その場合は、人事担当者に確認し、必要に応じてハローワークに相談しましょう。
離職時の手続き
退職や解雇により会社を離職する際の手続きは、今後の失業給付に直結するため重要です。会社側の手続きと、労働者自身が行うべき手続きの両方があります。
会社が行う手続き
- 資格喪失届の提出:事業主は、労働者が離職した日の翌日から10日以内に、「雇用保険被保険者資格喪失届」をハローワークに提出する
- 離職証明書の作成:労働者が離職票の交付を希望する場合、事業主は「雇用保険被保険者離職証明書」を作成する
- 離職票の交付:ハローワークが離職票を発行し、事業主を通じて労働者に交付される。離職票は通常、退職後10日から2週間程度で届く
退職後、会社から離職票が送られてくることを確認します。2週間以上経っても届かない場合は、会社に問い合わせましょう。
離職票には、離職理由、賃金額、被保険者期間などが記載されています。内容に誤りがないか必ず確認してください。特に離職理由は、給付制限の有無や給付日数に影響するため重要です。
自分が雇用保険に加入しているか確認する方法
雇用保険に加入しているかどうかを確認するには、いくつかの方法があります。自分の加入状況を正しく把握することで、将来的に必要な給付を確実に受けられるようになります。
雇用保険被保険者証が手元にあるか確認する
雇用保険被保険者証は、雇用保険に加入した際にハローワークから発行される重要な書類で、11桁の被保険者番号が記載されています。
入社時に会社から受け取っている場合は、大切に保管しておきましょう。ただし、会社によっては被保険者証を会社側で保管しているケースもあります。その場合、退職時に離職票とともに渡されるのが一般的です。
もし被保険者証を受け取った記憶がない場合は、まず会社の人事担当者に確認してみましょう。「雇用保険に加入しているか確認したい」「被保険者証を受け取っていない」と伝えれば、加入状況を教えてもらえます。
給与明細で雇用保険料が引かれているか確認する
毎月受け取る給与明細をチェックし、給与から雇用保険料が天引きされているか確認しましょう。加入している場合、健康保険料や厚生年金保険料と並んで、雇用保険料が記載されているはずです。
もし給与明細に雇用保険料の記載がない場合、加入していない可能性があります。この場合は、会社が手続きを怠っている可能性があります。その場合は速やかに人事担当者に確認し、必要に応じてハローワークに相談しましょう。
雇用保険の加入漏れがある場合はハローワークへ相談
雇用保険の加入に関して問題や疑問がある場合、ハローワークに相談することが確実で効果的な方法です。ハローワークは雇用保険を管轄する公的機関であり、労働者の権利を守るための支援を行っています。
以下のような場合は、迷わずハローワークに相談しましょう。
- 自分が加入しているか不明:給与明細に雇用保険料の控除がない、被保険者証を受け取っていないなど、加入状況が不明
- 会社が手続きをしてくれない:加入を申し出ても、会社が対応してくれない
- 加入漏れに気づいた:本来加入すべきだったのに、長期間未加入だったことに気づいた
ハローワークに相談する際は、以下のものを持参すると話がスムーズに進みます。
- 本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカードなど)
- 雇用契約書または労働条件通知書
- 給与明細(できれば直近3ヶ月から6ヶ月分)
- タイムカードやシフト表(あれば)
- 雇用保険被保険者証(持っている場合)
ハローワークでの相談は、すべて無料です。何度相談しても費用はかかりません。遠慮せずに、疑問や不安があればすぐに相談しましょう。
この記事のまとめ
雇用保険は、働く人の生活を守るセーフティネットです。週20時間以上・31日以上の雇用見込みがあれば加入義務があり、失業や育児・介護、教育訓練など、生活やキャリアアップを支援する多様な給付制度があります。
未加入の場合、失業手当や育児休業給付を受けられないなどの不利益が生じるため、勤務先の加入状況を早めに確認しましょう。不明点があればハローワークに相談することで、加入漏れの是正や給付申請の手続きをスムーズに進められます。

金融系ライター
厚生労働省や保険業界・不動産業界での勤務を通じて、社会保険や保険、不動産投資の実務を担当。FP1級と社会保険労務士資格を活かして、多くの家庭の家計見直しや資産運用に関するアドバイスを行っている。金融メディアを中心に、これまで1,000記事以上の執筆実績あり。
厚生労働省や保険業界・不動産業界での勤務を通じて、社会保険や保険、不動産投資の実務を担当。FP1級と社会保険労務士資格を活かして、多くの家庭の家計見直しや資産運用に関するアドバイスを行っている。金融メディアを中心に、これまで1,000記事以上の執筆実績あり。
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関連する専門用語
雇用保険
雇用保険とは、労働者が失業した際に一定期間、給付金を受け取ることができる公的保険制度です。日本では、労働者と事業主がそれぞれ保険料を負担しており、失業給付だけでなく、教育訓練給付や育児休業給付なども提供されます。 この制度は、収入が途絶えた際の生活資金を一定期間補う役割を果たし、資産の取り崩しを抑えるという意味でも、資産運用と補完的な関係にあります。雇用の安定を図るとともに、労働市場のセーフティネットとして重要な位置を占めています。
被保険者番号
被保険者番号とは、健康保険や年金などの社会保険制度において、加入者一人ひとりに割り当てられる個別の識別番号のことです。たとえば、健康保険証にはこの番号が記載されており、医療機関での受診や保険料の管理、給付の手続きなどに使われます。年金制度では「基礎年金番号」が該当し、日本年金機構が管理しています。 被保険者番号は、制度ごとに異なる場合があり、転職や保険者の変更によって番号が変わることもありますが、年金の基礎年金番号は原則として一生涯同じ番号が使われます。個人の保険に関する記録や履歴の正確な管理に欠かせないものであり、手続きの際には必ず確認される重要な情報です。
離職票
離職票とは、会社を退職した際に元の勤務先から発行される書類で、主に雇用保険に関連する手続きで使われます。正式には「雇用保険被保険者離職票」と呼ばれ、退職者がハローワークで失業給付(失業保険)を受け取るために必要になります。 この書類には、退職日、退職理由、在職中の給与などが記載されており、失業手当の金額や給付開始時期に影響する重要な情報が含まれています。資産運用の観点では、収入が途絶える退職期間中に離職票を使ってスムーズに失業給付を受け取ることは、生活資金を確保するうえで非常に大切な行動となります。
基本手当
基本手当とは、雇用保険の制度において、失業中の生活を支えるために支給されるお金のことです。働く意思と能力がありながらも仕事に就けない「失業状態」にある人が、一定の条件を満たすことで受け取ることができます。 支給額は、退職前の賃金や年齢、被保険者としての加入期間などをもとに計算されます。給付は通常、4週間ごとの「失業認定日」にハローワークで認定を受けることで進められます。なお、自己都合退職か会社都合退職かによって、支給が始まるまでの期間や支給日数が変わる点も特徴です。基本手当は生活費の一部として活用されるほか、再就職までの経済的な安心材料ともなります。
教育訓練給付金
教育訓練給付金とは、厚生労働省が所管する雇用保険制度のひとつで、働く人がスキルアップや資格取得のために講座を受講した際に、その費用の一部を国が支給する制度です。 主に雇用保険に一定期間加入していた人が対象で、現職中の人だけでなく、退職後の求職者も条件を満たせば利用できます。対象となる講座は、あらかじめ厚生労働大臣の指定を受けたもので、語学、IT、医療・介護、簿記、建設業関連など幅広く用意されています。 給付額は支払った受講料の20%から最大70%までと制度の種類によって異なり、条件を満たせば何度も活用することも可能です。キャリアアップを目指す人や再就職を目指す人にとって、経済的な負担を軽減しながら学び直しを支援してくれる制度です。
育児休業給付金
育児休業給付金とは、赤ちゃんが生まれたあとに育児のために仕事を休む人に対して、雇用保険から支給されるお金のことです。この制度は、子どもが1歳になるまで(一定条件を満たせば最長2歳まで)育児に専念できるよう、収入を一部補うことを目的としています。対象となるのは雇用保険に加入していて、一定期間働いていた労働者で、男女問わず利用できます。 支給額は、休業前の給与の67%(一定期間以降は50%)で、会社から給与が出ていないことが条件となります。出産手当金が終わったあとに引き続き申請されるケースが多く、家計を支える大切な制度の一つです。手続きは会社を通して行うのが一般的です。
介護休業給付金
介護休業給付金とは、家族の介護を理由に会社を一時的に休む「介護休業」を取得した労働者に対して、雇用保険から支給される給付金のことです。支給対象となるのは、要介護状態にある家族(配偶者、父母、子、祖父母など)を介護するために休業し、一定の条件を満たした雇用保険加入者です。 給付額は、原則として介護休業開始前の賃金の67%相当(一定期間)であり、最大で通算93日分まで受給することができます。休業中の収入減を補いながら、家族の介護に専念できる制度として整備されており、介護離職を防ぐための重要な支援策の一つです。利用には、事前に事業主を通じて申請手続きが必要となるため、職場との調整や制度の理解が欠かせません。
マルチジョブホルダー制度
マルチジョブホルダー制度とは、複数の事業所で働いている人が、その収入を合算して厚生年金や健康保険に加入できる仕組みを指します。従来は、1つの勤務先で一定の労働時間や収入基準を満たさなければ社会保険に加入できませんでしたが、この制度によって複数の職場での働き方を合わせて条件を満たす場合には加入が可能となりました。特にパートタイムや副業など多様な働き方が広がる中で、公的年金や医療保険の保障を受けられるようにすることを目的としています。資産運用の観点からは、将来の年金額を増やす手段や医療リスクに備える仕組みとして重要であり、安定した老後資金形成につながります。
社会保険
社会保険とは、国民の生活を支えるために設けられた公的な保険制度の総称で、健康保険、厚生年金保険、雇用保険、介護保険などが含まれます。労働者や事業主が保険料を負担し、病気や高齢による収入減少、失業時の経済的支援を受けることができます。社会全体でリスクを分担し、生活の安定を図る仕組みです。 また、社会保険は万が一の備えとして機能し、資産運用においては「公的保障の不足分をどのように補うか」を考える前提となる存在です。
厚生年金
厚生年金とは、会社員や公務員などの給与所得者が加入する公的年金制度で、国民年金(基礎年金)に上乗せして支給される「2階建て構造」の年金制度の一部です。厚生年金に加入している人は、基礎年金に加えて、収入に応じた保険料を支払い、将来はその分に応じた年金額を受け取ることができます。 保険料は労使折半で、勤務先と本人がそれぞれ負担します。原則として70歳未満の従業員が対象で、加入・脱退や保険料の納付、記録管理は日本年金機構が行っています。老後の年金だけでなく、障害年金や遺族年金なども含む包括的な保障があり、給与収入がある人にとっては、生活保障の中心となる制度です。
健康保険
健康保険とは、病気やけが、出産などにかかった医療費の自己負担を軽減するための公的な保険制度です。日本では「国民皆保険制度」が採用されており、すべての人が何らかの健康保険に加入する仕組みになっています。 会社員や公務員などは、勤務先を通じて「被用者保険」に加入し、自営業者や無職の人は市区町村が運営する「国民健康保険」に加入します。保険料は収入などに応じて決まり、原則として医療費の自己負担は3割で済みます。また、扶養されている家族(被扶養者)も一定の条件を満たせば保険の対象となり、個別に保険料を支払わなくても医療サービスを受けられる仕組みになっています。健康保険は日常生活の安心を支える基本的な社会保障制度のひとつです。
使用人兼務役員
使用人兼務役員とは、会社の役員でありながら、同時に従業員としての職務も行っている人のことを指します。たとえば、取締役として経営判断に関わりながら、部長や工場長などの役職について、実際に業務執行にあたっている場合がこれにあたります。 使用人としての業務が明確に存在していれば、その分の給与(使用人給与)は通常の従業員と同じように「給与所得」として税務上認められます。ただし、実態としては業務を行っていないにもかかわらず形式的に肩書だけを付けた場合、税務上でその給与が「役員報酬」と見なされる可能性があり、損金算入が認められなくなることもあります。 したがって、使用人兼務役員として適正に扱われるためには、役員としての職務と使用人としての職務が明確に区別され、実際に業務が行われていることが重要です。中小企業などでは、親族がこの立場になることも多いため、税務リスクを避けるためにも正しい理解が求められます。




