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退職金3,000万円を活かすラップ運用術 ― 60代の生活費ギャップと相続対策を両立する方法

退職金3,000万円を活かすラップ運用術 ― 60代の生活費ギャップと相続対策を両立する方法

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公開:

2025.07.17

更新:

2025.07.17

退職金3,000万円をどう活かすか──60歳定年後から年金開始までの最大5年間、平均月3〜4万円の生活費ギャップが生じるうえ、2024年以降のインフレ率2〜3%が預貯金の実質価値を削ります。さらに生前贈与の加算期間が7年に延長されるなど税制も変化中。本記事では「収入空白期間への備え」「インフレ・長寿リスク対策」「相続・贈与計画」を軸に、ラップ運用と新NISA・iDeCoを組み合わせた具体策を提示し、なぜ今総点検が必要かを解説します。

サクッとわかる!簡単要約

本文を読めば、退職金3,000万円を元本毀損リスクを抑えつつ年3〜4%で育てながら、年金開始前の月20万円を賄うキャッシュフロー設計と、教育資金1,500万円の非課税贈与を両立する手順がつかめます。ラップ運用の自動リバランスと年1.5〜2%手数料の意味、2024年刷新の新NISA1,800万円枠やiDeCoの65歳加入延長をどう活かすか、さらに暴落・解約・相続時の落とし穴まで網羅。読み終えた瞬間、自分に適した「運用×節税×家族共有」の設計図が描けるはずです。

目次

なぜ退職金の運用が重要なのか?

年金開始までの“無収入期間”をどう乗り切るか

インフレと長寿に備える「お金の寿命」戦略

子ども世帯への支援と、相続を見据えた準備とは

ラップ運用という選択肢:プロの伴走と仕組みの力

1.リスクを抑えて増やす「自動リバランス」の実力

2.手数料は高い?安い?納得できるコスト構造とは

3.家族で共有できる運用レポートとライフサポート機能

ラップサービス比較:公募型・ファンドラップ・SMA

最低投資額、契約方法、チャネルの比較

手数料と実質コストの中身を徹底チェック

名義・税制・相続対応の違いを理解する

3,000万円をどう投じるか?退職金運用の実践シミュレーション

一括vs積立、どちらが正解?シナリオ別に検証

「思ったより増えない」はなぜ起こる?コスト控除後の実質リターンとリスクを理解する

生活費と贈与の両立はできる?キャッシュフロー設計の考え方

ラップ運用で失敗しないために

暴落時のリバランスに驚かないために知っておくべきこと

解約・乗り換え時にかかる費用の注意点

相続時に起こりがちな落とし穴とその対策

ラップ×非課税制度で“税ゼロ”を最大化する

iDeCoの活用:節税と資産形成を両立する方法

新NISAの活用:1,800万円の非課税枠をどう使うか

ラップとの役割分担:税優遇×一任運用のハイブリッド設計

ラップの弱点を補う“低コスト運用”オプション

自分で運用してコストを抑える:ETF・インデックスファンドの活用

手間なく低コストを実現:ロボアドバイザーという中間解

コストと安心の両立を目指す:ラップ×ETFの併用戦略

安全資産の組み合わせで、運用に安心感を加える

自分に合った“ラップ+α”を見つけよう

なぜ退職金の運用が重要なのか?

退職金は、老後の生活を支える重要な原資です。特に60代は、年金受給前の「収入空白期間」や、インフレ・長寿といった時代背景にさらされ、運用設計の巧拙が生活の質に直結します。本章では、退職後の運用設計に影響する3つの課題を整理します。

年金開始までの“無収入期間”をどう乗り切るか

60歳で定年を迎えた会社員が、原則65歳から老齢年金の支給を受けるまでには、最大5年の「無年金期間」が生じます。この間の生活費は、退職金や貯蓄でまかなう必要があります。

さらに、年金受給開始後も平均的な年金額では生活費を十分にカバーできず、月3〜4万円程度の赤字が発生しているのが現実です。ゆとりある生活を望む場合、このギャップはさらに広がり、結果的に退職金を一部取り崩して補う設計が欠かせません。

年金の受給開始を70歳まで繰り下げることで受給額を増やす選択肢もありますが、その分だけ生活費ギャップが拡大するため、繰り下げには備えが必要です。退職金は、運用しながら計画的に取り崩していくことが求められます。特に年金が始まるまでの数年間は、元本の減少を抑えながら安定的に生活費を確保する資金管理が重要になります。

インフレと長寿に備える「お金の寿命」戦略

退職後の資産運用においては、インフレと長寿化という2つの構造的リスクへの備えも不可欠です。近年、日本の消費者物価指数は前年比2〜3%台の上昇が続いており(出典:総務省2024年)、預貯金だけではお金の実質的な価値が目減りしかねません。仮に年3%のインフレが20年間続けば、物価は約1.8倍になり、同額の資金で買えるモノ・サービスは半分近くになります。

同時に、平均寿命の延びにも備える必要があります。厚生労働省の2023年の統計によれば、65歳時点の平均余命は男性で約19.5年、女性で約24.4年。90代まで生きることは珍しくありません。医療や介護といった高齢期特有の支出も後年に増えやすく、資金の「寿命」をいかに延ばすかが課題になります。

インフレに打ち勝つ利回りと、長期運用でも持続可能な資産配分。この両立が、退職後の運用戦略では求められます。

子ども世帯への支援と、相続を見据えた準備とは

退職金の用途には、生活費の補填だけでなく、子や孫への支援や円滑な相続も含まれます。たとえば、子どもの住宅取得や孫の教育資金を援助したいと考える方も少なくありません。

その場合は、各種贈与非課税制度の活用が選択肢になります。たとえば、毎年110万円までの暦年贈与非課税枠に加え、教育資金の一括贈与非課税制度(最大1,500万円、2026年3月まで延長)や住宅取得資金贈与の特例(期間限定)などが利用できます(出典:税制改正2023年)。

ただし、贈与を優先するあまり自分の老後資金を削りすぎるのは避けるべきです。2024年からは生前贈与の加算期間が従来の3年から7年に延長され、贈与時期によっては相続税課税の対象となる場合もあります。贈与は慎重に時期と手段を選び、必要に応じて「相続時精算課税制度」の利用も検討しましょう。

相続そのものについても、遺言書や家族信託などを活用し、あらかじめ資産の配分方針を明確にしておくことが重要です。配偶者への相続には税制上の優遇措置(配偶者控除)がありますが、最終的には次世代への相続税負担が発生する可能性もあるため、長期的な視点で資産の移転計画を立てておく必要があります。

ラップ運用という選択肢:プロの伴走と仕組みの力

退職金の運用においては、元本の保全、資産の持続的な成長、家族との共有可能性、そして運用負担の軽減といった多くの課題があります。こうしたニーズに対し、「ラップ運用(ラップ口座を活用した投資一任サービス)」は、プロの助言と管理のもとで安定した資産運用を実現する選択肢のひとつです。

本章では、ラップ運用が退職世代にもたらす3つの具体的な価値について解説します。

1.リスクを抑えて増やす「自動リバランス」の実力

ラップ運用では、事前に設定した資産配分に沿って、株式・債券・REITなど複数の資産クラスに分散投資を行い、リスクを抑えながら資産成長を目指します。最大の特徴は、市場環境に応じて資産配分を自動で調整する「リバランス機能」です。

たとえば株式市場が急落してポートフォリオ内の株式比率が下がった際には、過小となった株式を買い増す調整が自動的に行われ、感情に左右されない冷静な再配分が実行されます。これにより、下落時に過剰反応して売却してしまうといった個人投資家が陥りがちな失敗を回避できます。

また、株式など一部の資産が不調でも、債券や他の資産クラスで補う設計がなされているため、極端な元本毀損のリスクを軽減しながら、長期的な資産の安定成長が期待できます。特に退職金のように一括で受け取るまとまった資金を長期にわたって活かすには、「守りと攻めのバランス」が取れたこのような設計が有効です。

2.手数料は高い?安い?納得できるコスト構造とは

ラップ運用において避けて通れないのが手数料です。一般的には、運用残高に対して年1〜1.5%程度の基本報酬がかかり、さらに組み入れられる投資信託にも0.5〜1%前後の信託報酬が発生します。合計では年2%を超えるケースもあり、これは一般的な投資信託よりも割高です。

しかし、単に「高コスト」と捉えるのではなく、何に対して費用を払っているかという視点が重要です。ラップ運用では、無理な売買によって手数料を稼ぐインセンティブが排除されており、運用残高に連動して報酬が変動する仕組みのため、運用者と顧客の利益が一致しやすい設計になっています。

近年では「成功報酬型」の料金体系も登場しており、たとえば楽天証券の「楽ラップ」では、固定報酬を抑える代わりに運用益の一部(例:5.5%)を成果報酬として支払う方式が採用されています。この仕組みでは、資産が増えたときにのみ追加の費用が発生するため、納得感のある支払いが可能です。

重要なのは、1〜2%の費用に見合う価値があるかを判断することです。きめ細かなアドバイス、安定的な運用設計、そして大きな失敗を回避できる仕組みに価値を見いだせるのであれば、長期的には十分な費用対効果が得られるでしょう。反対に、サービスの質やサポートが不十分であれば、「コスト倒れ」となる懸念もあります。契約前には必ず、費用体系と提供サービスの中身を十分に確認することが重要です。

3.家族で共有できる運用レポートとライフサポート機能

ラップ口座では、定期的な運用報告書(四半期・年次)を通じて資産状況の可視化が図られています。残高推移や各資産クラスの運用成績、今後の方針などが明示され、専門的な内容についても担当アドバイザーが丁寧に解説してくれる体制が整っています。

特に配偶者や子どもとの資産共有が必要な場合、ラップ運用は「家族での情報共有がしやすい仕組み」である点も評価できます。たとえ口座が個人名義であっても、配偶者との同席面談や報告書の共有を歓迎する金融機関が多く、家族全体で資産の見える化が可能です。

さらに、ラップサービスには生活設計に役立つ付帯機能もあります。代表的なものが「定期引き出しサービス」で、公的年金の開始までの間に、あらかじめ設定した金額を毎月自動的に取り崩す仕組みです。年金のように一定額が送金されることで、収支の安定に貢献します。

また、相続や贈与に関する相談や支援体制が充実していることも、ラップ運用の大きな魅力です。相続発生時の手続き支援、生前贈与の制度設計、信託銀行との連携による遺言信託の紹介など、単なる資産運用を超えた「次世代への円滑な資産移転」を見据えたサポートが提供されています。

さらに、一定額以上の契約者向けには、定期預金金利の優遇や住宅ローン金利の割引など、家計全体にプラスとなる特典が付帯されるケースもあります。こうした包括的なサポート体制は、特にリスクに敏感なご家族にとって、大きな安心材料となるでしょう。

ラップ運用は「お金を増やす」だけではなく、「守りながら育て、家族と共有し、次世代へとつなぐ」ための仕組みです。自分での運用に不安を感じる方や、プロの伴走とサポートを求める方にとって、有力な選択肢となり得ます。費用だけに注目せず、受けられる価値とのバランスを冷静に見極めることが、ラップ運用を正しく活用するための第一歩です。

ラップサービス比較:公募型・ファンドラップ・SMA

ラップサービスは、資産運用の全体設計を専門家に委ねる仕組みですが、提供形態によって必要な資金規模や契約の流れ、コストや税務処理が大きく異なります。本章では、主要な3つのタイプ「公募型ラップ」「ファンドラップ」「SMA(Separately Managed Account)」について、金額要件、契約チャネル、手数料、税制、名義、相続対応といった実務上の違いを整理します。

ファンドラップの基本と手数料については以下の記事で詳しく解説しています。

最低投資額、契約方法、チャネルの比較

公募型ラップは、投資信託として設定されたバランスファンドを通じて提供されており、1万円程度から購入できるのが特徴です。たとえば「のむラップ・ファンド」は少額から始められ、リスク許容度に応じた複数の運用タイプから選択できます。

ファンドラップは、証券会社や銀行と投資一任契約を結び、プロが資産配分やリバランスを代行するサービスです。一般的な最低契約金額は300万〜500万円程度で、対面契約が基本です。一部のネット証券や地方金融機関では100万円台から提供するケースもありますが、一定のまとまった資金が求められます。

SMAは数千万円〜1億円以上を最低契約額とする、富裕層向けのオーダーメイド型資産運用です。たとえば大和証券のSMAでは、契約額1億円以上が目安とされています。

契約チャネルも異なります。公募型ラップは、銀行窓口や証券会社、あるいはネット証券を通じて自分で購入可能です。ファンドラップは、面談を通じてリスク診断や運用方針の確認を行い、契約書に署名・捺印する対面契約が中心です。ただし、近年はオンラインで完結するファンドラップも登場し始めています。SMAは各証券会社のウェルスマネジメント部門や信託銀行のプライベートバンキング部門との継続的な対話を経て、個別に契約内容を設計していきます。

手数料と実質コストの中身を徹底チェック

公募型ラップの主なコストは信託報酬で、年率1%前後の商品が多く、販売手数料が無料(ノーロード)の場合もあります。実質的には、売買委託手数料などを含めて年1〜1.5%程度の負担が想定されます。

ファンドラップでは、契約資産に応じて年1〜1.3%程度のラップ口座手数料が発生し、さらに組み入れられた各投資信託の信託報酬(年0.5〜1%)も間接的に負担します。総合的なコストは1.5〜2%を超える場合もあり、たとえば野村ファンドラップでは、最大年1.32%の口座手数料に加えて、最大年1.35%程度の信託報酬が発生します。

SMAでは、基本報酬が年1〜1.7%程度に設定されており、加えて運用益の一部を成果報酬(15〜20%)として支払う方式が一般的です。内容によっては、ファンドラップよりも高コストになることもありますが、長期保有割引や低コストファンドの組み入れなど、顧客維持を目的とした優遇策が用意されることもあります。

契約前には、信託報酬以外の実質コスト、ファンド構成の中立性、系列会社ファンドの偏重など、透明性にも注意が必要です。

名義・税制・相続対応の違いを理解する

税制面でも各タイプに違いがあります。公募型ラップは通常の投資信託と同じく、分配金や解約益に対し20.315%の金融所得課税が適用されます。売却タイミングを自分で選べるため、含み益を繰り延べることが可能です。

ファンドラップでは、口座内でのリバランスやファンドの入替えに伴い都度課税が発生します。自動再投資型ファンドを用いることで分配金の課税は抑えられますが、運用中に細かく税コストが生じ、複利効果を削ぐ要因になり得ます。

SMAは、個別株式や債券などの売買で譲渡益課税が発生します。場合によっては含み損を意図的に実現し節税につなげるなど、高度な税務戦略をとることも可能です。

なお、NISA制度では投資一任口座(ラップ口座)は非対応ですが、公募型ラップファンドをNISAで購入すれば、運用益は非課税となります。

名義については、すべて契約者本人名義での単独管理が基本であり、共同名義や途中の名義変更はできません。ただしSMAでは、信託銀行と連携して家族信託を活用し、認知症リスクなどに備える工夫を取り入れる富裕層もいます。

相続が発生した場合、公募型ラップやファンドラップでは投資一任契約は終了し、保有資産は名義書換または解約のうえ相続対象となります。SMAも同様に契約終了後、未約定ポジションの清算や資産移管の手続きが行われます。各サービスとも死亡時点の時価で相続税評価され、取得費加算の特例などが適用される場合もあります。

手続きの円滑化に向けては、家族と事前に情報共有しておくことが重要です。

野村證券が提供するラップサービスの徹底解説はこちらの記事をご参照ください。

3,000万円をどう投じるか?退職金運用の実践シミュレーション

退職金3,000万円という大きな資金をどのように運用するかは、今後の生活の安心感と資産寿命を大きく左右します。資産をどのタイミングで、どのような手法で投入するかによって、運用成果は大きく異なります。

本章では、一括投資と積立投資それぞれの特性を比較したうえで、現実的な組み合わせ方やリスク・リターン、キャッシュフローへの影響を丁寧に解説します。

退職金の受け取り方と税についてはこちらのQ&Aもご参照ください。

一括vs積立、どちらが正解?シナリオ別に検証

投資のタイミングによって、同じ商品に投じても得られる成果は大きく変わります。ここでは、退職金を「まとめて投資」する方法と「分けて投資」する方法を比較し、それぞれの戦略の利点と注意点を見ていきましょう。

ドルコスト平均法のメリットは以下の記事で詳しく解説しています。

相場上昇の波に乗る「一括投資」の強みとリスク

一括投資は、全額を一度に市場へ投入するため、相場が好調なときには最大のリターンが期待できる手法です。たとえば、年4%のリターンが見込める商品に3,000万円を投資すれば、1年後には約120万円の利益が期待できます。

一方で、投資直後に市場が下落した場合のインパクトも大きく、仮に20%の下落が起これば2,400万円にまで資産が減少する可能性があります。短期的な値動きに強く影響される点は、精神的にも負担となり得るため、投資タイミングに自信がある場合に有効な手法といえるでしょう。

値動きのブレを抑える「積立投資」の安心感

積立投資は、資金を一定期間に分けて投資することで、価格変動の影響を平準化する方法です。仮に12カ月かけて毎月250万円ずつ投資する場合、価格が下落している局面では安く買い付けられるメリットがあります。

たとえば運用初月に20%の下落が起きても、残りの資金は未投資のため影響を受けず、低い価格で残りの資金を投じることができます。その結果、平均購入単価が下がり、将来的な回復局面では早期のリカバリーが可能になります。高値掴みを避けたい方や相場を読む自信がない方には、積立による時間分散が有効な選択肢です。

リスクを抑えつつ機会も逃さない「ハイブリッド戦略」

一括と積立の“いいとこ取り”をしたのがハイブリッド型の資金投入法です。たとえば3,000万円のうち1,000万円を安全資産として確保し、残り2,000万円のうち半分を一括、もう半分を12カ月積立で投資する形です。

こうすることで、上昇相場のチャンスを部分的に捉えつつ、下落局面では積立分で安値買いが可能になります。相場が読みにくい局面では、心理的な安心感も含めて現実的で柔軟性の高い戦略となります。

「思ったより増えない」はなぜ起こる?コスト控除後の実質リターンとリスクを理解する

資産運用では「どれだけ増えたか」だけでなく、「いくらかかって、結果いくら残るか」に注目することが重要です。この章では、ラップ口座を含む投資商品の実質的な成果を見極めるために、リターンから費用を差し引いた“ネットリターン”と、想定されるリスクの幅を具体的に確認します。

「高リターンでも損をする?」費用が運用成績に与える影響

たとえば年4%の期待利回りの商品でも、ラップ口座の基本手数料や信託報酬を合わせて年1.5%かかれば、実質的なリターンは年2.5%となります。これに対してインフレ率が2%であれば、実質の増加分はわずか0.5%。インフレが3%であれば、実質的にはマイナス成長です。

このように、費用に見合う価値(助言、運用の安定性、リスク管理など)があるかを、定期的に見直す視点が欠かせません。

ラップ運用モデルにみる現実的なリスクとリターン幅

ある大手銀行のラップモデルでは、表面リターン6.0%に対して、コスト控除後は3.9%程度まで低下しています。さらに、標準偏差(ブレ幅)は約10%であり、1年で資産が±300万円変動する可能性があることになります。

シミュレーションでは、最悪ケースで▲7.9%(▲237万円)、好調な年には+27%(+810万円)といった幅の運用実績も報告されており、こうしたブレの中で資産を維持・成長させる戦略が必要です。

運用成果を評価する習慣を持とう

リスクの許容度は人によって異なります。大きな下落が不安であれば、保守的な資産配分への見直しも選択肢です。また、運用期間中は常に「費用を引いた後のリターン」で成果を判断し、インフレ率や預金金利との比較も行いながら、運用の妥当性を継続的に評価する姿勢が求められます。

生活費と贈与の両立はできる?キャッシュフロー設計の考え方

資産運用は「増やすこと」だけでなく、「いつ・いくら使うか」に応じた配分設計があってこそ意味を持ちます。この章では、生活費の補填と子や孫への支援といった支出を同時に見据えた、実務的なキャッシュフロー設計の考え方を整理します。

年金開始までに必要な生活費は安全資産で確保

定年退職後、年金受給までの5年間に必要な生活費(たとえば月20万円×5年=1,200万円)は、運用リスクにさらさず、安全資産として確保するのが基本です。

定期預金や個人向け国債などでこの金額を確保しておけば、残りの資産(1,800万円など)を安心して運用に回すことができます。ラップ口座の「定期引出サービス」を活用すれば、年金のように毎月一定額を受け取る設計も可能です。

運用益だけで生活費はまかなえるか?

仮に1,800万円を年2〜3%で運用しても、得られる運用益は年間36〜54万円程度にとどまります。年240万円を取り崩す場合、その差額は元本から引き出す必要があるため、資産寿命の見積もりと併せて収支のバランスを考える必要があります。

年金受給後は取り崩し額を減らせる可能性もあるため、将来の生活設計と連動させた支出計画を作成しておくことが重要です。

贈与や支援予定の資金も早めに分離

数年後に住宅取得支援や教育費援助として500万円を贈与予定であれば、その資金も市場変動の影響を受けにくい安全資産として早めに管理しておくと安心です。

ラップ口座から解約する際はタイミング次第で譲渡益課税が発生する可能性もあるため、贈与予定時期が近づいたら運用資産の一部をリスクオフしておくなど、計画的な準備が求められます。

キャッシュフロー表の作成と定期的な見直し

生活費補填と贈与支援を両立させるためには、「いつ・いくら必要か」を具体的に可視化したキャッシュフロー表を作成し、年1回程度の頻度で見直すことが有効です。支出の優先順位や必要時期に応じて資産を柔軟に再配分することで、退職金3,000万円をより持続可能な形で活用できるようになります。

ラップ運用で失敗しないために

ラップ運用は、プロの知見を活かした効率的な資産形成手段ですが、リスクをゼロにするものではありません。むしろ、市場変動や制度対応、相続時の取り扱いなど、特有の注意点が存在します。本章では、ラップ口座を活用するうえで押さえておくべき3つの主要な論点を整理します。

暴落時のリバランスに驚かないために知っておくべきこと

ラップ運用では、市場環境の変動に応じて資産配分が機械的にリバランスされます。これは感情に左右されず運用を継続できる利点ですが、特に大幅な株価下落時には「下がった株式を買い増し、値下がりが小さい債券を売却する」という行動が取られます。

この戦略は長期的には合理的ですが、下落局面では含み損が拡大するため、心理的に不安を感じやすい点には注意が必要です。実際、多くのラップ運用ではリーマンショックやコロナショック級の暴落時にも資産配分戦略を維持しており、パニック的な現金化は基本的に行われません。

心配な方は、あらかじめ保守的な運用コースを選んでおくか、金や最低保証型商品などの下落耐性資産を一部組み入れるよう相談しておくと安心です。また、楽天証券の「楽ラップ」など一部のサービスでは、市場急落時に自動的に株式比率を抑える「下落ショック軽減機能(DRC)」が搭載されており、事前にこうした仕組みの有無も確認しておくと良いでしょう。

重要なのは、リバランスの方針に納得したうえで契約し、暴落時にも「自分が選んだ戦略を信じて保有を続ける」心構えを持つことです。担当アドバイザーとのコミュニケーションを密にし、冷静な判断を下すための環境づくりも欠かせません。

解約・乗り換え時にかかる費用の注意点

ラップ口座を解約・乗り換える際には、運用成果に関わる税負担や費用の発生に注意が必要です。まず解約時には、口座内の資産が売却され、含み益が出ていれば譲渡益税(約20%)が課されます。たとえば、含み益が500万円あれば、約100万円が税金として差し引かれる計算です。

加えて、残高に対する報酬は日割りで最終日まで発生し、四半期ごとの徴収タイミング次第では解約時期によって支払額が変動することもあります。また、成功報酬型の場合、解約時点の運用益に対して成果報酬が発生するため、解約時にまとめて費用が請求される可能性もあります。

さらに、新たな商品へ乗り換える際にも、購入時手数料や新たな報酬体系が再スタートするため、「二重コスト」になる点に注意が必要です。乗り換えを検討する際は、現行のラップ口座内で運用コースを切り替える(例:株式比率の低いコースに変更する)ことでコストを抑えられるケースもあります。

総じて、ラップ運用は中長期前提で設計されており、短期解約を繰り返すと費用倒れになりかねません。もし乗り換えを検討する場合は、相場動向や税制も踏まえて専門家と事前にシミュレーションを行い、最適な解約タイミングを見極めることが重要です。

相続時に起こりがちな落とし穴とその対策

ラップ口座の契約者が亡くなった場合、投資一任契約は自動的に終了し、新たな売買は停止されます。その後は相続人が証券会社に連絡し、口座凍結と相続手続きに進むことになります。

ラップ口座内の資産は、基本的に遺産として評価され相続人に分配されますが、ラップ専用ファンドの一部は名義変更できず、いったん現金化が必要となる場合があります。

この際、含み益がある資産を売却すると譲渡益税が課されますが、「取得費加算の特例」により、一定条件下で相続税分を取得費に加えることができ、課税を圧縮できる可能性があります。

ただし、この特例は相続税を実際に支払っていることが前提であり、配偶者が全額相続して相続税ゼロで済んだ場合などには適用されません。結果として、売却益がそのまま課税対象となるリスクがあります。

また、相続人がラップ口座の契約をそのまま引き継ぐことは基本的にできず、新たに自身の名義で契約し直す必要があります。このため、既存のポートフォリオは一旦解約・清算されることが一般的です。

このリスクを避ける工夫として、長生きが見込まれる配偶者名義でラップ口座を開設・運用することで、相続発生までの間は運用を継続できるようにする設計も考えられます。また、遺族の生活資金確保の観点からは、生命保険の非課税枠(法定相続人×500万円)を活用し、ラップ口座とは別に死亡保険金として準備しておくと安心です。

さらに、口座の存在や連絡先をエンディングノートに明記しておくことで、相続人がスムーズに手続きできる体制を整えておくことも忘れてはなりません。証券会社の相続専用窓口やアドバイザーの連絡先も、あらかじめ家族に共有しておきましょう。

ラップ運用は、長期的な資産形成に有効な手段である一方、契約解除や相続時の取り扱いにおいて特有の注意点を伴います。これらを理解した上で運用に臨むことが、結果として費用対効果を高め、家族の安心にもつながります。契約前には「暴落時にどう動くか」「解約・相続時の費用や手続きはどうなるか」といったポイントを事前に確認し、納得のうえで取り組むことが、ラップ運用成功の鍵となるでしょう。

ラップ×非課税制度で“税ゼロ”を最大化する

退職金の運用では、ラップ口座の活用だけでは得られない“税制メリット”をいかに取り込むかが重要な視点です。とくにiDeCoや新NISAといった非課税制度は、運用益に対して税金がかからないという強力な制度的後押しを提供しており、うまく組み合わせることで資産の成長スピードや手取り額を大きく改善できます。

この章では、ラップ口座を軸に据えつつ、iDeCo・新NISAという2大制度をどのように併用すれば最大限の恩恵が得られるのかを、実務的な観点から解説します。

iDeCoの活用:節税と資産形成を両立する方法

iDeCo(個人型確定拠出年金)は、所得控除と非課税運用の両方を兼ね備えた制度です。退職後でも60歳未満であれば、国民年金の第1号被保険者として自営業者枠で加入することが可能です。2022年の制度改正によって、加入可能年齢は原則65歳未満までに引き上げられています。

現役時代に企業型DCやiDeCoを利用していた人は、退職後は「運用指図者」として引き続き非課税での資産運用を継続できます。受け取り開始も最大75歳まで繰り延べることができ、資産の受け取り時期を柔軟に選べる点もメリットです。

また、配偶者が60歳未満であれば、その名義でiDeCoに新規加入することも可能です。退職金の一部を家族名義のiDeCoに振り向けることで、所得控除と運用益非課税のダブルメリットを享受でき、世帯単位での資産最適化につながります。

新NISAの活用:1,800万円の非課税枠をどう使うか

2024年に刷新された新NISA制度では、年齢制限が撤廃され、誰でも利用可能な“生涯非課税投資枠”として1,800万円(うち成長投資枠1,200万円)が用意されました。65歳以降でもNISA口座を開設・活用できるため、退職金運用との相性は非常に高い制度といえます。

たとえば、年100万円の運用益が発生した場合、通常であれば約20万円の税金が引かれますが、新NISA枠内であればこの税金が一切かかりません。さらに、配当や分配金にも非課税が適用されるため、定期的な生活費補填にも有効です。

注意点として、ラップ口座自体はNISAの対象外であり、ラップ契約資産をそのままNISA口座内に組み込むことはできません。そのため、成長投資枠を使って自分でETFやインデックスファンドに投資しつつ、ラップ口座では中長期の安定運用を行うといった役割分担が効果的です。

退職金×新NISAの活用例についてはこちらのQ&Aもご参照ください。

ラップとの役割分担:税優遇×一任運用のハイブリッド設計

非課税制度の枠には上限があります。すべての資産を非課税で運用することは難しいため、高リターンが期待できる資産や配当収入を見込める商品は、なるべくNISA枠やiDeCoで保有するのが合理的です。

一方で、まとまった金額で広く分散し、管理もプロに任せたいというニーズには、ラップ口座が適しています。このように、制度と商品で“役割を分けて使い分ける”ことで、手数料や税金のバランスが取れたポートフォリオ設計が可能になります。

たとえば、「新NISAで成長枠1,200万円を活用してETF・投信に投資し、残りの退職金をラップ口座で運用する」といった構成は、税効率と運用効率の両立を目指すうえで現実的かつ実践的な設計です。

制度を最大活用するための実務チェックポイント 非課税制度を効果的に活用するには、以下のような実務的な段取りが必要です。

  • iDeCo:自身または配偶者の年齢・年金加入状況を確認する
  • 新NISA:証券口座の開設と成長投資枠の利用可能額を確認する
  • 退職金の配分:必要な生活費や安全資産を除いた上で、制度枠とラップに振り分ける
  • 夫婦での名義分散も視野に入れた上で、非課税口座を複数活用する

こうしたステップを踏むことで、退職金という限られた資産を“税金で減らさない”運用が実現できます。制度の詳細や最新ルールは年度ごとに変更される可能性があるため、必ず公式サイトや証券会社の案内を確認しながら進めましょう。

ラップの弱点を補う“低コスト運用”オプション

ラップ運用は、「プロに任せて安心」「自動でリバランスされる」といった魅力を持ちますが、その一方で年間1.5〜2%前後のコストがかかる点は見過ごせません。

こうした背景から、より費用を抑えた「低コスト運用」の選択肢として、ETF(上場投資信託)やインデックスファンドに自分で投資するセルフ運用や、ロボアドバイザーの活用が注目されています。

さらに、定期預金や個人向け国債といった安全資産を組み合わせることで、リスクを抑えながら心の安定も図ることができます。この章では、ラップ運用に加えて取り入れたい「低コスト×安心感」の補完戦略をわかりやすく整理します。

自分で運用してコストを抑える:ETF・インデックスファンドの活用

ETFやインデックスファンドを用いたセルフ運用は、何よりもコストの低さが魅力です。信託報酬は年0.1〜0.3%台に抑えられ、ラップ口座の約10分の1で済む計算です。

たとえば3,000万円を年0.2%のコストで運用すれば、年間の手数料は約6万円。ラップ口座の年間1.5〜2%(約45〜60万円)に比べると、その差は非常に大きく、長期的な複利効果にも大きく影響します。

さらに、自分で商品を選べば、系列ファンドへの偏りを避けた中立的なポートフォリオも構築可能です。ただし、資産配分の設計や定期的なリバランス、市場環境に応じた見直しなど、一定の運用知識や判断力は求められます。

手間なく低コストを実現:ロボアドバイザーという中間解

「コストは抑えたいけれど、自分で管理するのは不安…」という方には、ロボアドバイザーが中間的な選択肢となります。

ロボアドは、ETFを活用した分散投資を自動で行ってくれるサービスです。資産配分やリバランスもアルゴリズムが担うため、投資の知識がなくても運用が可能です。

代表的なサービスには以下のようなものがあります。

  • ウェルスナビ:グローバルETFに自動投資。リスク許容度に応じた設計。
  • SBIラップ/THEO+docomo:よりカスタマイズ性が高く、多様な資産に対応。

手数料は年0.5%前後とラップより抑えられる一方で、アドバイザーによる個別提案やライフプラン連動型のサポートはなく、基本的には「自動化されたインデックス運用」という位置づけです。

コストと安心の両立を目指す:ラップ×ETFの併用戦略

退職金をすべてラップ口座で運用するのではなく、一部を低コスト運用に振り分けるという考え方も有効です。

たとえば、以下のような組み合わせが現実的です。

  • 1,000万円:ETFやインデックスファンドを自分で運用
  • 2,000万円:ラップ口座で分散投資+定期引出サービスを活用

このように、一部を“自律的”に運用することで、トータルの費用を抑えつつ、ラップのメリット(プロの管理・長期分散・自動リバランス)も享受できます。

実際に、金融リテラシーの高い方の中には、「自分でできる範囲は自分で行い、手間がかかる部分はプロに任せる」というスタンスで、ハイブリッド型の運用を実践している人も少なくありません。

安全資産の組み合わせで、運用に安心感を加える

高齢期の資産運用では、価格変動のある資産だけでなく、元本保証のある“安全資産”もポートフォリオに含めることで、心理的な安定が得られます。

代表的な安全資産には以下があります。

  • 個人向け国債(変動10年型)

    市中金利に応じて利率が上昇する仕組み。元本保証あり。2025年6月時点では年利1.0%。

  • 高金利型定期預金

    預金保険制度の対象(1金融機関あたり1,000万円まで)。流動性も高め。

これらは、生活予備費や突発的な支出に備える資金として役立つだけでなく、リスク資産が値下がりしたときでも冷静な判断を保つ“心の余裕”にもなります。

たとえば3,000万円のうち、1,000万円を国債や定期に振り分け、残り2,000万円をラップやETFで運用する設計は、実務面でも非常にバランスの取れたモデルです。

自分に合った“ラップ+α”を見つけよう

ラップ運用は、手間をかけずに分散投資をしたい方にとって、非常に便利な選択肢です。しかし、すべてを任せきりにするのではなく、低コスト商品や制度をうまく組み合わせることで、より柔軟で効率的な運用が可能になります。

  • コスト意識が強い方には:ETFやロボアドの併用
  • 安定性を求める方には:国債や定期預金の活用
  • 税制も意識したい方には:iDeCo・新NISAの活用

重要なのは、「ラップvsその他」と二者択一で考えるのではなく、「ラップ+自分でできること」という視点で戦略を組み立てることです。

自分自身と家族の将来像に合わせて、どのように資産を配分し、どこに安心を置くか。こうした判断をすることで、退職金運用は“ただ増やす”から“安心して使いながら守る”ものへと進化していきます。

この記事のまとめ

退職金運用は「増やす」「守る」「渡す」を同時に考えることが鍵です。本記事で示した①生活費5年分を安全資産で確保し安心を確立、②ラップ口座・ETF・非課税制度でコストと税負担を最適化、③解約・相続時の費用と手続きを前もって確認という三つのステップを実践すれば、3,000万円は長寿とインフレに負けない家計エンジンへ変わります。迷ったときは手数料構造や相続対応を説明できる専門家に相談し、計画を継続的にアップデートする習慣を持ちましょう。

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投資のコンシェルジュ編集部は、投資銀行やアセットマネジメント会社の出身者、税理士など「金融のプロフェッショナル」が執筆・監修しています。 販売会社とは利害関係がないため、主に個人の資産運用に必要な情報を、正確にわかりやすく、中立性をもってコンテンツを作成しています。

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インフレ(インフレーション)

インフレーションとは、物価全体が持続的に上昇し、その結果、通貨の購買力が低下する現象です。経済活動が活発になり、需要が供給を上回ると価格が上昇しやすくなります。また、生産に必要な原材料費や人件費の上昇が企業のコストに転嫁されることで、さらに物価が上昇することがあります。適度なインフレーションは経済成長の一側面とされる一方、過度な物価上昇は家計の負担を増大させ、経済全体の安定性を損なうリスクがあるため、中央銀行は金利操作などの金融政策を通じてインフレーションの抑制に努めています。

相続時精算課税制度

相続時精算課税制度とは、60歳以上の父母や祖父母から、18歳以上の子や孫へ財産を贈与する場合に利用できる、特別な贈与税の制度です。この制度を使うと、贈与を受けた年に2,500万円までの金額については贈与税がかからず、それを超えた部分にも一律20%の税率が適用されます。そして、その後贈与者が亡くなったときに、過去の贈与分をすべてまとめて「相続財産」として扱い、最終的に相続税として精算します。 つまり、この制度は「贈与税を一時的に軽くし、あとで相続税の段階でまとめて精算する」という仕組みになっています。将来の相続を見据えて早めに資産を移転したい場合や、大きな金額を一括で贈与したい場合に活用されることが多いです。 ただし、一度この制度を選ぶと、同じ贈与者からの贈与については暦年課税(通常の贈与税制度)には戻せないという制限があるため、利用には慎重な判断が必要です。資産運用や相続対策を計画するうえで、制度の特徴とリスクをよく理解しておくことが大切です。

信託報酬

信託報酬とは、投資信託やETFの運用・管理にかかる費用として投資家が間接的に負担する手数料であり、運用会社・販売会社・受託銀行の三者に配分されます。 通常は年率〇%と表示され、その割合を基準価額にあたるNAV(Net Asset Value)に日割りで乗じる形で毎日控除されるため、投資家が口座から現金で支払う場面はありません。 したがって運用成績がマイナスでも信託報酬は必ず差し引かれ、長期にわたる複利効果を目減りさせる“見えないコスト”として意識されます。 販売時に一度だけ負担する販売手数料や、法定監査報酬などと異なり、信託報酬は保有期間中ずっと発生するランニングコストです。 実際には運用会社が3〜6割、販売会社が3〜5割、受託銀行が1〜2割前後を受け取る設計が一般的で、アクティブ型ファンドでは1%超、インデックス型では0.1%台まで低下するケースもあります。 同じファンドタイプなら総経費率 TER(Total Expense Ratio)や実質コストを比較し、長期保有ほど差が拡大する点に留意して商品選択を行うことが重要です。

成功報酬(パフォーマンスフィー)

成功報酬(パフォーマンスフィー)とは、資産運用や投資において、一定の成果を達成した場合に支払われる報酬のことを指します。主にヘッジファンドやプライベート・エクイティ・ファンド、富裕層向けの投資サービスに加え、一部の投資信託や投資顧問サービスでも採用される報酬体系であり、運用者のインセンティブとなります。 通常、基準となるリターン(ハードルレート)を超えた利益に対して、一定割合(例:20%)の成功報酬が発生します。また、「ハイウォーターマーク」が設定されている場合は、過去の最高評価額(NAV)を更新した場合にのみ成功報酬が発生します。この仕組みにより、投資家の利益と運用者の利益が一致しやすくなります。 一方で、運用者が過度なリスクを取る可能性や、短期的な利益を優先する可能性もあるため、投資家にとっては報酬体系の詳細を理解することが重要です。また、成功報酬は通常、運用管理手数料(Management Fee)と組み合わせて設定されることが多いため、全体のコストを把握することも大切です。 成功報酬の仕組みを理解し、リスクとリターンのバランスを考慮した上で投資判断を行うことが望ましいです。

公募型ラップ

公募型ラップとは、証券会社などの金融機関が多数の投資家に対して提供する、あらかじめ設定された運用方針に基づいて資産を一括管理・運用する仕組みのことです。通常のラップ口座(個別契約型)とは異なり、公募型ラップは複数の投資家が同じ運用プランに参加する形で、運用が標準化されているのが特徴です。 そのため、最低投資額が比較的低く、資産運用の初心者でも始めやすいサービスとして広がっています。投資対象は主に投資信託で構成されており、ポートフォリオの見直しや分散投資も自動的に行われるため、手間をかけずに長期の資産形成をしたい人に向いています。なお、運用管理費用(信託報酬など)がかかる点や、元本保証がないことには注意が必要です。

ファンドラップ

ファンドラップは、金融機関が顧客から資産運用を一任され、顧客の目標やリスク許容度に応じてポートフォリオを構築・管理するサービスです。顧客の資産を複数の投資信託やETFなどに分散投資し、運用を行います。運用内容や資産配分の調整(リバランス)は専門家が行い、定期的な運用状況の報告も提供されます。 主に、初心者や忙しい投資家が利用することが多く、手数料はファンドラップ・フィーとして一括で支払う形式が一般的です。この手数料には運用管理費やアドバイス料が含まれます。

SMA(投資一任口座)

SMAとは「Separately Managed Account(セパレートリー・マネージド・アカウント)」の略で、日本語では「投資一任口座」と呼ばれます。これは、投資家が証券会社や運用会社などの専門家に運用を一任し、個別に運用してもらう口座のことです。ファンドのように他の投資家と資産をまとめて運用するのではなく、あくまで一人ひとりの投資家の口座単位で運用が行われる点が特徴です。運用方針の設計や銘柄選定などはプロが担当するため、投資の知識や時間がない方でも、本格的な資産運用が可能になります。また、個別運用であることから、資産の透明性が高く、税金対策や柔軟なカスタマイズがしやすいというメリットもあります。その一方で、一定の資産規模が求められることが多く、主に富裕層向けのサービスとされています。

ノーロード

ノーロードとは、投資信託などの金融商品を購入する際に「購入手数料がかからない」という特徴を表す言葉です。通常、投資信託を買うときには購入金額の一定割合が手数料として差し引かれることがありますが、ノーロード型の投資信託ではその手数料がゼロになっています。そのため、投資した金額のすべてを運用に回すことができ、コスト面で有利になります。特に長期投資を考える初心者にとっては、手数料の負担が少ないことは大きなメリットといえます。ただし、ノーロードでも信託報酬などの運用中にかかる費用はあるため、商品の内容をしっかり確認することが大切です。

NISA

NISAとは、「少額投資非課税制度(Nippon Individual Saving Account)」の略称で、日本に住む個人が一定額までの投資について、配当金や売却益などにかかる税金が非課税になる制度です。通常、株式や投資信託などで得られる利益には約20%の税金がかかりますが、NISA口座を使えばその税金がかからず、効率的に資産形成を行うことができます。2024年からは新しいNISA制度が始まり、「つみたて投資枠」と「成長投資枠」の2つを併用できる仕組みとなり、非課税期間も無期限化されました。年間の投資枠や口座の開設先は決められており、原則として1人1口座しか持てません。NISAは投資初心者にも利用しやすい制度として広く普及しており、長期的な資産形成を支援する国の税制優遇措置のひとつです。

iDeCo(イデコ/個人型確定拠出年金)

iDeCo(イデコ)とは、個人型確定拠出年金の愛称で、老後の資金を作るための私的年金制度です。20歳以上65歳未満の人が加入でき、掛け金は65歳まで拠出可能。60歳まで原則引き出せません。 加入者は毎月の掛け金を決めて積み立て、選んだ金融商品で長期運用し、60歳以降に年金または一時金として受け取ります。加入には金融機関選択、口座開設、申込書類提出などの手続きが必要です。 投資信託や定期預金、生命保険などの金融商品で運用し、税制優遇を受けられます。積立時は掛金が全額所得控除の対象となり、運用時は運用益が非課税、受取時も一定額が非課税になるなどのメリットがあります。 一方で、証券口座と異なり各種手数料がかかること、途中引き出しが原則できない、というデメリットもあります。

一括投資

一括投資とは、まとまった資金を一度に投資する方法のことです。市場のタイミングが良ければ大きなリターンが期待できますが、反対に、投資直後に相場が下がると大きな損失を抱えるリスクもあります。短期間でリターンを狙いたい人や、投資タイミングを自分で判断できる人に向いています。

積立投資

積立投資とは、一定のサイクル(例:毎月や毎週など)で、あらかじめ決めた金額ずつ同じ銘柄や投資信託などを購入していく投資手法です。 この方法は、一度にまとまった資金を投じる「一括投資」とは異なり、少額から始められるのが特徴です。また、購入時期を複数回に分散できるため、相場が高いタイミングで一度に大量購入してしまうリスク(いわゆる高値づかみ)を抑えられると期待されています。 具体的には、「相場が下がったときはより多くの口数や株数を買える」「相場が高いときは割高な投資を抑えられる」という形で、平均取得単価が平準化される効果があります。この仕組みは英語で「ドルコスト平均法(Dollar Cost Averaging)」とも呼ばれ、特に長期運用を考えている初心者からベテランまで、多くの投資家が活用している戦略です。 ただし、積立投資を行ったからといって必ずリスクが軽減されるわけではなく、投資対象自体の価格が大きく下落した場合には損失が出る可能性もあります。したがって、積立する商品や期間、目標リスクなどをしっかり考えたうえで、自分の資産配分に合った方法を選ぶことが大切です。

実質リターン

実質リターンとは、投資によって得られた収益からインフレの影響を差し引いた後の「実際の利益」のことです。表面的な収益、つまり名目リターンがたとえ高くても、物価が上昇して生活にかかるコストが増えていれば、手元に残る「価値ある利益」は目減りしている可能性があります。 そのため、資産運用においては名目の数字だけを見るのではなく、物価変動を考慮に入れた実質リターンを見ることが非常に重要です。たとえば年率5%の利益があっても、インフレ率が3%であれば、実質的なリターンは2%に過ぎません。特に長期の資産形成を考える際には、この視点を持つことが資産の「目減り」を防ぐカギとなります。

標準偏差

標準偏差とは、データが平均からどれだけ散らばっているか、つまりデータのばらつき(変動の大きさ)を表す統計的な指標です。資産運用の世界では、主にリターンの変動性を測るために使われ、「リスク」の指標として重要な役割を持っています。 たとえば、ある投資商品の平均リターンが年5%だったとしても、その年ごとの実際のリターンが毎回大きく上下していれば、それは「リスクが高い」と判断されます。この変動の大きさを数値化したものが標準偏差であり、数値が大きいほどリターンのブレが大きく、不確実性が高いことを意味します。 逆に、標準偏差が小さい場合はリターンが安定しており、将来の見通しが立てやすい投資対象とされます。ポートフォリオのリスク管理や資産配分を考える際にも、標準偏差を活用することで、全体のリスク水準を定量的に比較・評価することができます。

キャッシュフロー表

キャッシュフロー表とは、一定期間の収入と支出の動きを一覧にして、将来の資金残高を予測するための表のことです。 主に家計や企業の資金計画に使われ、毎年の収入や生活費、教育費、住宅ローンの返済、投資などを記録することで、お金の流れが見える化されます。 資産運用を考える際にも、いつどれだけのお金が必要になるかを把握するために欠かせないツールです。特に投資初心者の方にとっては、自分のお金の使い方や貯蓄・運用のバランスを把握する第一歩として活用されることが多いです。

ETF(上場投資信託)

ETF(上場投資信託)とは、証券取引所で株式のように売買できる投資信託のことです。日経平均やS&P500といった株価指数、コモディティ(原油や金など)に連動するものが多く、1つのETFを買うだけで幅広い銘柄に分散投資できるのが特徴です。通常の投資信託に比べて手数料が低く、価格がリアルタイムで変動するため、売買のタイミングを柔軟に選べます。コストを抑えながら分散投資をしたい人や、長期運用を考えている投資家にとって便利な選択肢です。

エンディングノート

エンディングノートとは、自分の人生の終わりに備えて、大切な情報や希望、思いを家族や関係者に伝えるために記しておくノートのことです。遺言書のような法的効力はありませんが、自分の資産の内容、介護や医療に関する希望、葬儀の方法、相続に関する意向、SNSや口座の管理などについて、あらかじめ整理しておくことで、家族の負担を減らし、トラブルを防ぐ手助けになります。 資産運用の観点でも、保有している金融資産や保険、不動産などの情報を明確にしておくことで、相続人がスムーズに把握・管理できるようになります。エンディングノートは「人生の整理帳」とも言える存在であり、自分の意思を形にする大切な準備の一つです。

インデックスファンド

インデックスファンドとは、特定の株価指数(インデックス)と同じ動きを目指して運用される投資信託のことです。たとえば「日経平均株価」や「TOPIX(東証株価指数)」などの市場全体の動きを示す指数に連動するように設計されています。この仕組みにより、個別の銘柄を選ぶ手間がなく、市場全体に分散投資ができるのが特徴です。また、運用の手間が少ないため、手数料が比較的安いことも魅力の一つです。投資初心者にとっては、安定した長期運用の第一歩として選びやすいファンドの一つです。

ロボアドバイザー(ロボアド)

ロボアドバイザーとは、投資家のリスク許容度や運用目的に応じて、自動的に資産配分や投資商品を提案・運用するサービスです。利用者は、いくつかの質問に答えるだけで最適なポートフォリオの提案を受けることができ、少額からでも投資を始められるのが特徴です。 ロボアドバイザーには、「提案型(アドバイス型)」と「運用型(投資一任型)」の2種類があります。提案型は、投資家に適したポートフォリオを提案するものの、実際の運用は投資家自身が行います。一方、運用型は、提案だけでなく資産運用もロボアドバイザーが自動で行い、定期的なリバランスも実施します。 主にインデックス運用を中心としたバランス型の商品が提供され、現代ポートフォリオ理論(MPT)を活用した分散投資が行われます。そのため、個別株の選定や細かい資産管理には向いていません。また、投資家の保有資産全体を考慮した包括的なアドバイスを受けることができない点に注意が必要です。 ロボアドバイザーのメリットとして、投資初心者でも簡単に分散投資ができること、感情に左右されない合理的な運用が可能であること、対面の投資アドバイザーと比較して低コストで運用できることが挙げられます。一方で、一定の手数料がかかること、投資家が細かくカスタマイズできないこと、相場急変時の柔軟な対応が難しいことがデメリットとして存在します。 それでも、投資初心者や手間をかけずに資産運用を始めたい人にとって、ロボアドバイザーは手軽に利用できるサービスとして人気を集めています。

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個人向け国債とは、日本政府が個人投資家向けに発行する債券で、安全性が高く元本保証が特徴です。最低1万円から購入可能で、3年・5年の固定金利型と10年の変動金利型があります。変動金利型は半年ごとに金利が見直され、市場金利の上昇に伴い受取利息が増加するメリットがあります。 一方、株式投資ほどの高いリターンは期待できず、インフレ時には実質的な資産価値が目減りする可能性があります。また、購入後1年間は中途換金ができず、その後の換金時には直前2回分の利子相当額が差し引かれる点に注意が必要です。銀行預金より高い金利を求めるが、リスクを避けたい投資初心者や安全資産を確保したい方に適した商品です。

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