高額療養費制度とは?自己負担限度額の計算方法や還付の申請方法などをわかりやすく解説

高額療養費制度とは?自己負担限度額の計算方法や還付の申請方法などをわかりやすく解説
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公開:
2025.11.18
更新:
2026.02.16
医療費が思わぬ高額になったとき、「いくら払えばよいのか」「どれだけ戻るのか」「申請は必要なのか」など、正しい判断ができず不安を抱える方は少なくありません。高額療養費制度は誰でも利用できる公的制度ですが、所得区分ごとの上限額や月またぎ入院の注意点、限度額適用認定証の使い方など、知っておくべきポイントが多くあります。
本記事では、制度の仕組みから具体的な計算方法、申請の流れ、対象外費用、年齢別の注意点までを体系的に整理し、支払うべき医療費を正しく把握できるよう解説します。
高額療養費制度の基本
高額療養費制度とは、医療機関や薬局の窓口で支払った医療費が、1か月(暦月:1日から末日まで)で一定額を超えた場合に、その超過分が払い戻される公的な医療保険制度です。
この制度により、医療費の自己負担額には所得や年齢に応じた上限が設けられ、家計への過度な負担を軽減できます。
制度の目的:医療費負担が過重にならないための仕組み
高額療養費制度の目的は、病気やケガによる医療費の負担が重くならないよう、患者の経済的負担を軽減することです。公的医療保険の給付のひとつとして位置づけられ、健康保険組合、協会けんぽ、国民健康保険、後期高齢者医療制度など、すべての公的医療保険で共通して適用されます。
- 仕組みとしては、まず医療機関の窓口で通常の自己負担割合(3割など)に基づいて医療費を支払います。その後、1か月間の自己負担額が所定の上限額を超えた場合、加入している保険者(健康保険組合や市区町村など)に申請することで、超過分が払い戻される流れです。
また、高額療養費制度には「多数回該当」という仕組みもあります。過去12か月以内に3回以上、高額療養費の支給を受けた場合、4回目以降はさらに自己負担限度額が引き下げられ、長期的な治療でも負担が軽減される設計になっています。
対象となる費用は公的医療保険が適用される診療
高額療養費制度の対象となるのは、公的医療保険が適用される診療にかかった医療費の自己負担額です。具体的には、診察料、検査料、手術料、入院料、処方された薬剤費などが含まれます。
外来診療の場合、医療機関で支払った自己負担額に加え、院外処方で薬局に支払った薬剤費も合算して計算されます。たとえば、病院で5,000円、薬局で3,000円を支払った場合、合計8,000円が自己負担額として扱われます。
入院の場合も同様に、医療行為にかかった費用の自己負担分が対象です。ただし、入院時の食事代や居住費の一部は、高額療養費の計算には含まれない点に留意してください。
- 複数の医療機関を受診した場合、それぞれの自己負担額を合算できます。ただし、69歳以下の方の場合、1つの医療機関での自己負担額が21,000円以上でなければ合算の対象になりません。70歳以上の方は金額にかかわらず合算可能です。
申請方法に関しては、加入している保険制度によって異なります。以下のQ&Aも、あわせて参考にしてみてください。
保険外併用療養費との違い
保険外併用療養費とは、通常は認められていない保険診療と保険外診療の併用を、一定の条件下で例外的に認める制度です。
日本の医療保険制度では原則として、保険診療と自由診療(保険外診療)を混ぜて受けると、保険診療部分も含めて全額が自己負担になる「混合診療の禁止」のルールがあります。しかし、この制度を利用すれば、保険診療部分については通常通り保険が適用され、保険外診療部分のみを自己負担することができます。
対象となるのは主に2つです。「評価療養」は、将来的な保険適用を検討中の先進医療や治験などです。「選定療養」は、差額ベッド代や予約診療、180日を超える入院など、患者の選択によるサービスです。
この制度により、患者は先進的な医療を受ける選択肢が広がり、保険診療部分の自己負担は通常通り1〜3割で済むため、経済的負担が軽減されます。
【年収別】高額療養費の限度額一覧表
以下は、70歳未満・会社員の健康保険(協会けんぽ等)を前提に、年収の目安(400万〜1,200万円)を200万円刻みで並べた「高額療養費(1か月)の自己負担限度額」の表です。
| 年収(万円) | 自己負担限度額(月額・1〜3回目) | 医療費が100万円かかった場合の自己負担額 | 多数回該当(4回目以降) |
|---|---|---|---|
| 400 | 80,100円+(総医療費−267,000円)×1% | 87,430円 | 44,400円 |
| 600 | 80,100円+(総医療費−267,000円)×1% | 87,430円 | 44,400円 |
| 800 | 167,400円+(総医療費−558,000円)×1% | 171,820円 | 93,000円 |
| 1,000 | 167,400円+(総医療費−558,000円)×1% | 171,820円 | 93,000円 |
| 1,200 | 252,600円+(総医療費−842,000円)×1% | 254,180円 | 140,100円 |
実際の区分判定は年収そのものではなく標準報酬月額等で行い、限度額は「総医療費(保険適用分の10割)」から計算します。直近12か月で3回以上上限に達すると4回目以降は多数回該当で上限が下がります。
国民健康保険の自己負担限度額の計算方法
国民健康保険(国保)は、自営業者やフリーランス、無職の方などが加入する公的医療保険です。所得区分の判定には「旧ただし書き所得」が用いられます。旧ただし書き所得とは、前年の総所得金額等から基礎控除43万円を差し引いた金額です。
会社員が加入する健康保険(協会けんぽや健康保険組合)とは所得区分の判定基準が異なるため、同じ年収でも自己負担限度額が変わる場合があります。自分がどの区分に該当するかは、住所地の市区町村の国保窓口で確認できます。
69歳以下の場合
69歳以下の国民健康保険加入者の自己負担限度額は、旧ただし書き所得に応じて以下の5区分に分かれます。
| 所得区分 | 旧ただし書き所得 | 自己負担限度額(月額) | 多数回該当時の限度額 |
|---|---|---|---|
| 区分ア | 901万円超 | 252,600円+(医療費総額−842,000円)×1% | 140,100円 |
| 区分イ | 600万円〜901万円 | 167,400円+(医療費総額−558,000円)×1% | 93,000円 |
| 区分ウ | 210万円〜600万円 | 80,100円+(医療費総額−267,000円)×1% | 44,400円 |
| 区分エ | 210万円以下 | 57,600円 | 44,400円 |
| 区分オ | 住民税非課税世帯 | 35,400円 | 24,600円 |
計算シミュレーション:区分ウの場合
該当者が多い区分ウ(旧ただし書き所得210万〜600万円)で、医療費総額が100万円かかったケースを見てみましょう。
計算シミュレーション
- 窓口での自己負担(3割):30万円
- 自己負担限度額:80,100円+(1,000,000円−267,000円)×1%=**87,430円**
- 高額療養費として支給される額:300,000円−87,430円=212,570円
窓口で30万円を支払っても、申請すれば約21万円が払い戻され、最終的な自己負担は87,430円に抑えられます。
なお、69歳以下の方が複数の医療機関を受診した場合、1つの医療機関での自己負担額が21,000円以上でなければ合算の対象になりません。同じ医療機関でも入院と外来、医科と歯科は別々に計算される点にも注意が必要です。
70歳以上の場合
70歳以上の国民健康保険加入者には、69歳以下とは異なる区分と計算方法が適用されます。最大の特徴は、外来診療のみの上限額が個人単位で設定されている点です。
| 所得区分 | 外来(個人ごと) | 外来+入院(世帯ごと) | 多数回該当時の限度額 |
|---|---|---|---|
| 現役並み所得Ⅲ(課税所得690万円以上) | 252,600円+(医療費−842,000円)×1% | 252,600円+(医療費−842,000円)×1% | 140,100円 |
| 現役並み所得Ⅱ(課税所得380万円以上) | 167,400円+(医療費−558,000円)×1% | 167,400円+(医療費−558,000円)×1% | 93,000円 |
| 現役並み所得Ⅰ(課税所得145万円以上) | 80,100円+(医療費−267,000円)×1% | 80,100円+(医療費−267,000円)×1% | 44,400円 |
| 一般(課税所得145万円未満等) | 18,000円(年額上限144,000円) | 57,600円 | 44,400円 |
| 住民税非課税世帯Ⅱ | 8,000円 | 24,600円 | ー |
| 住民税非課税世帯Ⅰ(年金収入80万円以下等) | 8,000円 | 15,000円 | ー |
70歳以上の方は、69歳以下と異なり自己負担額の金額にかかわらず合算が可能です。21,000円の基準はありません。
「一般」区分の方は、外来のみであれば月18,000円(年額上限144,000円)が上限となるため、通院治療が中心の場合は負担がかなり軽減されます。入院が発生した場合は世帯単位で57,600円が上限です。
なお、70〜74歳の方は国民健康保険に加入したままですが、75歳になると自動的に後期高齢者医療制度へ移行します。後期高齢者医療制度でも上記と同様の自己負担限度額が適用されますが、保険者が変わるため、申請先が市区町村の後期高齢者医療担当窓口または広域連合に変わります。
協会けんぽ・健康保険組合の自己負担限度額の計算方法
協会けんぽ(全国健康保険協会)や健康保険組合は、会社員・公務員などの被用者とその扶養家族が加入する医療保険です。所得区分の判定には標準報酬月額が用いられます。標準報酬月額とは、毎年4〜6月の報酬(基本給+諸手当)の平均をもとに決定される、社会保険料の算定基礎となる金額です。
国民健康保険の「旧ただし書き所得」とは判定基準が異なりますが、自己負担限度額の金額そのものは同じ5区分で設定されています。
69歳以下の場合
69歳以下の協会けんぽ・健康保険組合加入者の自己負担限度額は、標準報酬月額に応じて以下の5区分に分かれます。
| 所得区分 | 標準報酬月額 | 年収の目安 | 自己負担限度額(月額) | 多数回該当時の限度額 |
|---|---|---|---|---|
| 区分ア | 83万円以上 | 約1,160万円以上 | 252,600円+(医療費総額−842,000円)×1% | 140,100円 |
| 区分イ | 53万〜79万円 | 約770万〜1,160万円 | 167,400円+(医療費総額−558,000円)×1% | 93,000円 |
| 区分ウ | 28万〜50万円 | 約370万〜770万円 | 80,100円+(医療費総額−267,000円)×1% | 44,400円 |
| 区分エ | 26万円以下 | 約370万円未満 | 57,600円 | 44,400円 |
| 区分オ | 住民税非課税世帯 | ー | 35,400円 | 24,600円 |
計算シミュレーション:区分ウの場合
多くの会社員が該当する区分ウ(標準報酬月額28万〜50万円、年収約370万〜770万円)で、いくつかの医療費パターンを見てみましょう。
医療費総額が100万円の場合
- 窓口での自己負担(3割):30万円
- 自己負担限度額:80,100円+(1,000,000円−267,000円)×1%=**87,430円**
- 高額療養費として支給される額:300,000円−87,430円=212,570円
医療費総額が300万円の場合
- 窓口での自己負担(3割):90万円
- 自己負担限度額:80,100円+(3,000,000円−267,000円)×1%=107,430円
- 高額療養費として支給される額:792,570円
300万円という高額な医療費でも、自己負担は約10万円に収まります。
月をまたぐ入院には注意
高額療養費は暦月(1日〜末日)単位で計算されるため、月をまたぐ入院は注意が必要です。
| 11月分 | 12月分 | 自己負担の合計 | |
|---|---|---|---|
| 同一月内に入院(医療費200万円) | 97,430円 | なし | 97,430円 |
| 月またぎで入院(各月100万円ずつ) | 87,430円 | 87,430円 | 174,860円 |
同じ医療費200万円でも、月をまたぐと自己負担が約2倍になるケースがあります。手術の日程を調整できる場合は、できるだけ同一月内に収まるよう検討するとよいでしょう。
なお、国民健康保険の69歳以下と同様に、1つの医療機関での自己負担額が21,000円以上でなければ合算の対象にならない点も共通です。
70歳以上の場合
70歳以上の協会けんぽ・健康保険組合加入者にも、国民健康保険と同じ自己負担限度額が適用されます。判定基準は課税所得(住民税の課税標準額)です。
| 所得区分 | 外来(個人ごと) | 外来+入院(世帯ごと) | 多数回該当時の限度額 |
|---|---|---|---|
| 現役並み所得Ⅲ(課税所得690万円以上) | 252,600円+(医療費−842,000円)×1% | 252,600円+(医療費−842,000円)×1% | 140,100円 |
| 現役並み所得Ⅱ(課税所得380万円以上) | 167,400円+(医療費−558,000円)×1% | 167,400円+(医療費−558,000円)×1% | 93,000円 |
| 現役並み所得Ⅰ(課税所得145万円以上) | 80,100円+(医療費−267,000円)×1% | 80,100円+(医療費−267,000円)×1% | 44,400円 |
| 一般(課税所得145万円未満等) | 18,000円(年額上限144,000円) | 57,600円 | 44,400円 |
| 住民税非課税世帯Ⅱ | 8,000円 | 24,600円 | ー |
| 住民税非課税世帯Ⅰ(年金収入80万円以下等) | 8,000円 | 15,000円 | ー |
70歳以上は合算に21,000円の基準がなく、金額にかかわらず合算できる点は国民健康保険と同じです。
会社員の場合、70歳以降も勤務を続けていれば引き続き協会けんぽや健康保険組合に加入します。退職して被扶養者資格も失った場合は、国民健康保険に移行することになります。いずれの保険に加入していても、70歳以上の自己負担限度額の表は共通ですが、申請先の保険者が変わる点に注意してください。
健康保険組合の場合は付加給付を受けられる可能性がある
大企業や企業グループが運営する健康保険組合に加入している方は、法定の高額療養費に加えて、付加給付(ふかきゅうふ)を受けられる可能性があります。
付加給付とは、健康保険組合が独自に設けている上乗せ給付のことです。国の制度で定められた自己負担限度額よりも、さらに低い上限を設定している組合があります。たとえば、国の制度では区分ウの方の自己負担限度額が月額約8万円であるのに対し、付加給付がある組合では月25,000円を超えた分を払い戻すといった、より手厚い条件を設けているケースがあります。
付加給付の有無や内容は組合ごとに異なります。確認方法は以下のとおりです。
付加給付の確認方法
- 健康保険証に記載されている組合名で公式サイトを検索する
- 組合から配布される冊子やガイドブックを確認する
- 勤務先の人事部・総務部に問い合わせる
付加給付がある場合、民間医療保険の入院給付金を減額し、その分を貯蓄や資産運用に回すという選択も合理的です。自分の組合の給付内容を正確に把握しておくことは、医療費への備えを考えるうえで非常に重要です。
なお、中小企業の会社員が加入する協会けんぽ(全国健康保険協会)には付加給付の制度はありません。協会けんぽの加入者は、国の高額療養費制度の自己負担限度額がそのまま上限となります。
一般的な会社員のケーススタディ:加入する保険はどう変わる?
会社員の場合、人生のステージによって加入する公的医療保険が変わり、それに伴って高額療養費の申請先や利用できる制度も変化します。ここでは、一般的な会社員が経験する保険の切り替わりを時系列で整理します。
在職中(〜65歳頃):協会けんぽまたは健康保険組合
現役で働いている間は、勤務先を通じて協会けんぽや健康保険組合に加入します。所得区分は標準報酬月額で判定され、扶養家族がいれば世帯合算も活用できます。健康保険組合に加入している場合は、付加給付により自己負担がさらに軽減される可能性もあります。高額療養費の申請は、協会けんぽなら都道府県支部、健康保険組合なら組合が窓口です。
退職後(65歳頃〜74歳):3つの選択肢
定年退職などで会社を離れると、医療保険の選択が必要になります。主な選択肢は3つです。
| 選択肢 | 概要 | 手続き・条件 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 国民健康保険 | 住所地の市区町村で加入する | 市区町村窓口で手続き | 退職直後は前年所得が反映され、保険料や所得区分が想定より高くなる場合がある |
| 任意継続被保険者 | 退職前の健康保険に最長2年間継続加入する | 退職後20日以内に申請が必要 | 保険料は全額自己負担になるが、健康保険組合の付加給付を引き続き受けられる場合がある |
| 家族の扶養に入る | 会社員の家族の被扶養者になる | 年収130万円未満(60歳以上は180万円未満)等の条件あり | 保険料の自己負担がなく、経済的には最も有利 |
1つ目は国民健康保険への加入です。住所地の市区町村で手続きを行い、所得区分は旧ただし書き所得で判定されます。退職直後は前年の所得が反映されるため、保険料や所得区分が想定より高くなる場合があります。
2つ目は任意継続被保険者として、退職前の健康保険に最長2年間加入を続ける方法です。退職後20日以内に申請が必要で、在職中は会社と折半だった保険料が全額自己負担になります。ただし、付加給付がある健康保険組合の場合、任意継続中も付加給付を受けられる場合があり、メリットが大きいこともあります。
3つ目は家族の扶養に入る方法です。配偶者や子どもが会社員で健康保険に加入していれば、年収130万円未満(60歳以上は180万円未満)などの条件を満たすことで被扶養者になれます。保険料の自己負担がなくなるため、経済的には最も有利な選択肢です。
これらの判断は難しいため、詳細なシミュレーションが欠かせません。詳しくは、こちらのQ&Aも参考にしてみてください。
75歳以降:後期高齢者医療制度
75歳になると、それまで加入していた医療保険に関係なく、全員が後期高齢者医療制度に自動的に移行します。自己負担割合は原則1割(現役並み所得者は3割、一定以上所得者は2割)です。高額療養費の自己負担限度額は70歳以上の表がそのまま適用され、申請先は住所地の市区町村または後期高齢者医療広域連合です。
このように、会社員は退職を境に保険制度が大きく変わります。特に退職直後は選択肢が複数あり、それぞれ保険料や給付内容が異なるため、事前にシミュレーションしたうえで判断することが大切です。どの保険に加入していても高額療養費制度は利用できますが、付加給付の有無や申請先が変わる点を押さえておきましょう。
後期高齢者医療保険制度における高額療養費制度に関しては、こちらのQ&Aも参考にしてみてください。
自己負担額の計算と実際に還付を受けるまでの流れ
高額療養費制度を実際に活用するには、自己負担額の正しい計算方法と還付申請の流れを理解することが不可欠です。制度の仕組みは複雑に見えますが、基本的なルールを押さえれば、自分でも概算の負担額を把握できます。
計算の基本ステップ
高額療養費の計算は、以下の基本ステップに従って行います。まず、対象となる診療月を確認し、その月の1日から末日までの医療費を集計します。
ステップ1:診療月を調査する
高額療養費は暦月(その月の1日から末日まで)単位で計算されます。たとえば、11月15日から12月14日まで入院した場合、11月分と12月分に分けて計算する必要があります。
ステップ2:対象となる医療費を集計する
公的医療保険が適用される診療の自己負担額を集計します。差額ベッド代や食事代、先進医療の技術料などは含まれません。複数の医療機関を受診した場合も、すべて合算します。
ステップ3:21,000円ルールを適用する(69歳以下の場合)
69歳以下の方は、1つの医療機関での自己負担額が21,000円以上でなければ合算の対象になりません。ただし、同じ医療機関でも、入院と外来、医科と歯科は別々に計算されます。
ステップ4:世帯合算できるかを確認する
同一世帯(同じ公的医療保険に加入している家族)で複数人が受診している場合、世帯合算が適用できるか確認します。
ステップ5:自己負担限度額を計算する
所得区分に応じた計算式を用いて、自己負担限度額を算出します。実際に支払った自己負担額が限度額を超えていれば、その差額が高額療養費として支給されます。
この一連の流れを理解すれば、医療費がどの程度還付されるか事前に見積もることができます。
月単位での医療費を集計する
高額療養費制度における「月」とは、暦月(その月の1日から末日まで)を指します。診療を受けた日ではなく、医療機関に支払いをした月でもなく、「診療を受けた月」が基準です。
たとえば、11月20日に外来診療を受け、11月25日に窓口で支払いをした場合、この医療費は11月分として計算されます。支払いが12月になったとしても、診療月は11月です。
月をまたぐ入院の場合は注意が必要です。11月15日から12月14日まで30日間入院した場合、11月15日〜11月30日の16日分と、12月1日〜12月14日の14日分に分けて計算されます。それぞれの月で自己負担限度額が適用されるため、月をまたぐと負担が増える可能性があります。
具体例で見てみましょう。年収500万円の方(区分ウ)が、医療費総額200万円の手術を受けたとします。
| 11月分 | 12月分 | 総額 | |
|---|---|---|---|
| 【同一月内の場合】 11月1日〜11月30日に入院・手術 | 80,100円+(2,000,000円-267,000円)×1%=97,430円 | なし | 97,430円 |
| 【月をまたぐ場合】 11月25日〜12月6日に入院・手術(医療費が各月100万円ずつ) | 80,100円+(1,000,000円-267,000円)×1%=87,430円 | 80,100円+(1,000,000円-267,000円)×1%=87,430円 | 174,860円 |
このように、同じ医療費でも月をまたぐと負担額が約2倍になるケースがあります。手術日程を調整できる場合は、可能な限り同一月内に収まるよう検討するとよいでしょう。
医療費をはじめ、リスクに対して適切に備えておかないと、万が一の際に困ってしまいます。あなたや家族の生活を守るためにも、不安なことがあれば専門家への相談を検討してみてください。
事前申請をすれば申請しなくても自動で戻ってくる
高額療養費制度の適用タイミングには、「事後申請」と「事前申請」の2つのパターンがあります。どちらを選ぶかで、窓口での支払い方法が大きく変わります。
事後申請
事後申請の場合、まず医療機関の窓口で通常の自己負担割合に基づく金額を全額支払います。その後、加入している保険者に高額療養費の支給申請を行い、上限額を超えた分が払い戻される流れです。払い戻しまでには診療月から約3か月かかるため、一時的にまとまった資金を用意する必要があります。
事前申請
一方、事前に「限度額適用認定証」を取得して医療機関の窓口で提示すれば、最初から自己負担限度額までの支払いで済みます。これにより、高額な医療費を一時的に立て替える負担がなくなります。
- マイナンバーカードを健康保険証として利用している方(マイナ保険証)は、限度額適用認定証がなくても、医療機関の窓口で自動的に自己負担限度額までの支払いとなります。マイナ保険証の登録がまだの方は、事前に手続きを済ませておくと便利です。
限度額適用認定証を用意する
限度額適用認定証とは、医療機関の窓口で提示することで、支払額を自己負担限度額までに抑えられる証明書です。保険証とは別に発行され、カードサイズの書類として交付されます。
- この認定証があれば、たとえ医療費総額が高額でも、窓口では所得区分に応じた自己負担限度額のみを支払えばよくなります。残りの費用は医療機関が直接保険者に請求するため、患者が後日還付申請をする必要もありません。
特に入院や手術など、高額な医療費が事前に予想される場合は、限度額適用認定証を取得しておくことをおすすめします。急な入院でも、入院中に家族が代理で申請して認定証を取得し、会計時に提示すれば適用されます。
認定証には有効期限があり、多くの場合は毎年7月31日までです。これは、所得区分の判定が前年の所得に基づくためです。有効期限が切れたら更新手続きが必要ですが、更新を忘れると窓口で全額を支払うことになるため注意しましょう。
マイナ保険証を用意する
マイナンバーカードを健康保険証として利用する「マイナ保険証」は、限度額適用認定証の代わりとなる便利な仕組みです。マイナ保険証を医療機関の窓口で提示するだけで、限度額適用認定証を持っているのと同じ効果が得られます。
この仕組みにより、事前に認定証を申請する手間が省けるだけでなく、有効期限の更新を気にする必要もなくなります。急な入院や外来診療でも、マイナ保険証さえあればすぐに限度額が適用されます。
マイナ保険証の利用には、事前にマイナポータルで健康保険証利用の登録が必要です。一度登録すれば、その後は自動的に最新の保険情報が反映されるため、保険証の切り替えや更新の手続きも不要になります。
ただし、すべての医療機関がマイナ保険証に対応しているわけではありません。利用できるのは、オンライン資格確認対応医療機関で、窓口で限度額情報の表示に同意した場合に限られる点に注意しましょう。
減額認定証を取得する
住民税非課税世帯の方には、医療費の自己負担限度額をさらに引き下げるだけでなく、入院時の食事代も減額できる「限度額適用・標準負担額減額認定証」があります。通常の限度額適用認定証とは異なり、食事代の軽減も含まれる点が大きな特徴です。
この減額認定証を医療機関の窓口で提示すれば、自己負担限度額が低所得者の区分(区分オ、低所得者ⅠまたはⅡ)に設定されるとともに、入院時の食事代の標準負担額も軽減されます。
具体的な手続き方法は、こちらのQ&Aでも解説しています。あわせてごらんください。
高額療養費制度が適用されない代表的な費用
高額療養費制度には対象外となる費用もあり、これらは全額自己負担となります。制度を活用する際は、どの費用が対象外なのかを正しく理解しておくことが重要です。
差額ベッド代
差額ベッド代(特別療養環境室料)は、高額療養費制度の対象外です。個室や少人数部屋を希望した場合にかかる追加料金であり、患者の選択による費用のため、公的医療保険の適用を受けません。
差額ベッド代は医療機関によって金額が異なり、1日あたり数千円から数万円まで幅があります。長期入院では大きな負担となるため、必要性をよく検討したうえで選択しましょう。
- なお、病院側の都合で個室に入った場合や、医学的な必要性から個室が必要と判断された場合は、差額ベッド代を請求されないケースもあります。
先進医療の技術料
先進医療とは、厚生労働大臣が認める高度な医療技術のうち、まだ公的医療保険の適用対象となっていない治療法を指します。先進医療の技術料は全額自己負担となり、高額療養費制度の対象外です。
たとえば、がん治療における重粒子線治療や陽子線治療などが該当し、技術料だけで数百万円かかるケースもあります。ただし、先進医療を受けた際の診察料や検査料、入院料など、通常の保険診療と共通する部分は保険適用となります。
先進医療を検討する場合は、民間医療保険の先進医療特約でカバーできるか確認しておくとよいでしょう。
入院時の食事代
入院時の食事代は、「入院時食事療養費」として一部が公的医療保険でカバーされますが、患者が負担する標準負担額は高額療養費制度の対象外です。
標準負担額は1食あたり510円(一般所得者の場合)で、1日3食とすると1,530円の自己負担となります。住民税非課税世帯の方は軽減措置があり、所得区分に応じて1食240円または110円に減額されます。
自由診療
自由診療とは、公的医療保険が適用されない診療全般を指します。美容整形や歯科のインプラント治療、一部の不妊治療など、保険診療として認められていない医療サービスが該当します。
自由診療の費用は全額自己負担となり、高額療養費制度の対象外です。さらに、保険診療と自由診療を併用する「混合診療」は原則として認められておらず、併用した場合は本来保険適用となる部分も含めて全額自己負担となる可能性があります。
ただし、先進医療や評価療養など、一定の条件下で保険診療との併用が認められるケースもあります。自由診療を検討する際は、事前に医療機関で詳細を確認しましょう。
高額療養費制度の対象外となる費用の詳細は、こちらのQ&Aもあわせて参考にしてみてください。
高額療養費の申請はどこで?還付申請手続きの流れ
高額療養費の還付を受けるには、加入している保険者に申請書を提出する必要があります。多くの場合、診療月から約3か月後に保険者から「高額療養費支給申請書」が自動的に送付されてきますが、届かない場合は自分で申請書を取り寄せて手続きを行います。
健康保険組合の場合は組合に申請する
大企業や企業グループが独自に運営する健康保険組合に加入している場合、その健康保険組合が申請先です。保険証に「○○健康保険組合」と記載されています。会社の人事部や総務部に問い合わせれば、申請方法を案内してもらえます。
協会けんぽの場合は都道府県支部に申請する
中小企業の会社員や従業員が加入する全国健康保険協会(協会けんぽ)の場合、都道府県支部が申請先です。保険証に「全国健康保険協会」または「協会けんぽ」と記載されています。各都道府県の協会けんぽ支部に申請書を郵送するか、窓口に持参します。
協会けんぽの場合、多くのケースで診療月から約3か月後に支給申請書が自動的に送付されてきます。必要事項を記入して返送すれば手続きは完了です。
国民健康保険の場合は住所地の市区町村へ申請する
自営業者や無職の方が加入する国民健康保険の場合、住所地の市区町村が申請先です。市役所・区役所の国民健康保険担当窓口で申請書を入手し、提出します。
国民健康保険の場合も、多くの市区町村では診療月から約3か月後に支給申請のお知らせが届きます。届かない場合は、窓口で確認しましょう。
後期高齢者医療制度の場合は住所地の市区町村または後期高齢者医療広域連合へ申請する
75歳以上の方が加入する後期高齢者医療制度の場合、住所地の市区町村または後期高齢者医療広域連合が申請先です。市区町村の後期高齢者医療担当窓口で手続きを行います。
共済組合の場合は勤務先の共済へ申請する
公務員が加入する共済組合の場合、各共済組合が申請先です。勤務先の共済組合担当部署に問い合わせましょう。
申請先が不明な場合は、保険証に記載されている保険者名で検索するか、直接電話で確認するとよいでしょう。
高額療養費制度以外に医療費負担を抑えられる仕組み
高額療養費制度は医療費負担を軽減する重要な制度ですが、似たような名称や目的を持つ関連制度も存在します。
特に混同しやすいのが「医療費控除」です。高額療養費制度は公的医療保険からの給付であるのに対し、医療費控除は税制上の控除であり、仕組みも申請先も全く異なります。両制度は併用できますが、控除額の計算では高額療養費の支給額を差し引く必要があります。
多数回該当:過去12か月以内に高額療養費の支給を受けるのが4回目以降
多数回該当とは、過去12か月以内に高額療養費の支給を3回以上受けた場合、4回目以降の自己負担限度額がさらに引き下げられる仕組みです。長期的な治療や慢性疾患で継続的に医療費がかかる方への負担軽減策として設けられています。
この制度により、たとえば一般所得者(区分ウ)の場合、通常は月額8万円台の上限額が、4回目以降は44,400円に引き下げられます。上限額がほぼ半減するため、長期治療における経済的負担が大幅に軽減されます。
- 多数回該当の判定は、同一の保険者における直近12か月が対象です。転職などで保険者が変わった場合、カウントはリセットされる点に注意しましょう。また、世帯合算で高額療養費を受けた場合も、多数回該当の回数に含まれます。
重要なのは、多数回該当は「自動的に適用される」という点です。申請者が特別な手続きをする必要はなく、保険者側で過去の支給実績を確認し、4回目以降は自動的に引き下げられた限度額で計算されます。
高額療養費の世帯合算と多数回該当の仕組みについては、こちらのQ&Aで解説しています。あわせて参考にしてみてください。
世帯単位の合算:同じ医療保険に加入していることが条件
高額療養費制度の世帯合算とは、同じ医療保険に加入している家族が、同じ月に医療機関でそれぞれ医療費を支払った場合、その自己負担額を合算できる仕組みです。
具体的には、家族それぞれの自己負担額が21,000円以上のものを合算して、世帯全体での自己負担限度額を超えた分について払い戻しを受けることができます。例えば、夫が30,000円、妻が25,000円の医療費を同じ月に支払った場合、合計55,000円として計算し、世帯の自己負担限度額を超えた分が高額療養費として戻ってきます。
ここで重要なのは「同じ医療保険に加入している」という条件です。例えば、夫が会社の健康保険に加入していて、妻がその扶養家族として同じ保険に入っている場合は世帯合算できます。しかし、夫婦がそれぞれ別の会社の健康保険に加入している場合は、たとえ同じ世帯に住んでいても合算することはできません。
健康保険(会社員や公務員など)の場合
被保険者本人と、その被扶養者として認定されている家族が対象です。配偶者、子、父母などが扶養に入っていれば、全員の医療費を合算できます。別居していても、仕送りなどにより生計を維持している場合は被扶養者として認定されるため、合算可能です。
国民健康保険の場合
同一世帯で国民健康保険に加入している家族全員が対象です。住民票上の世帯が基準となるため、同居している家族であれば原則として合算できます。ただし、世帯分離をしている場合や、一部の家族が社会保険に加入している場合は合算できません。
後期高齢者医療制度の場合
75歳以上の方が加入する後期高齢者医療制度では、同じ制度に加入している世帯員同士で合算できます。夫婦ともに75歳以上であれば世帯合算が可能ですが、75歳以上の方と74歳以下の方は制度が異なるため、原則として合算できません。
合算できない主なケース
以下のようなケースでは、世帯合算が適用されません。
- 共働き夫婦で別々の健康保険に加入している場合
- 75歳以上(後期高齢者医療制度)と74歳以下(健康保険や国保)が同一世帯にいる場合
- 世帯分離をしている場合
- 生計を別にしている家族
世帯合算を活用するには、まず家族全員がどの公的医療保険に加入しているかを確認することが重要です。
健康保険組合の付加給付:さらに低い上限額が適用される
付加給付とは、健康保険組合が法律で定められた給付に加えて、独自に上乗せして支給する給付のことです。つまり、国が決めた基本的な給付よりも、さらに手厚い保障を受けられる制度です。
医療費の自己負担額について、国の高額療養費制度の限度額よりもさらに低い上限を設定している健康保険組合があります。例えば、国の制度では月の自己負担限度額が80,100円だったとしても、付加給付がある健康保険組合では「月25,000円を超えた分は払い戻します」といった、より有利な条件を設けていることがあります。
- この付加給付は、主に大企業の健康保険組合や財政状況の良い組合で実施されています。中小企業が加入する協会けんぽ(全国健康保険協会)には、基本的に付加給付の制度はありません。
あなたの加入している健康保険組合に付加給付があるかどうか、またその内容については、健康保険証に記載されている組合に直接問い合わせるか、組合から配布される冊子やウェブサイト、ホームページなどで確認できます。
高額長期疾病の特例:難病の方に適用される
高額長期疾病の特例とは、厚生労働大臣が指定する特定の疾病で長期間継続して高額な治療を受ける必要がある方を対象に、自己負担限度額をさらに引き下げる制度です。通常の高額療養費制度よりも手厚い保護が受けられます。
対象となる疾病は、人工透析が必要な慢性腎不全、血友病、HIV感染症(抗ウイルス剤を投与している場合)の3つです。これらの疾病は、生涯にわたって継続的な治療が必要であり、医療費の累積負担が非常に大きくなります。
この特例を受けるには、「特定疾病療養受療証」の交付を受け、医療機関の窓口で保険証とともに提示する必要があります。受療証があれば、月額の自己負担額が原則1万円までとなり、大幅に負担が軽減されます。
高額介護合算制度:医療保険と介護保険を両方利用している世帯に適用
高額介護合算療養費制度(正式名称:高額医療・高額介護合算療養費制度)は、医療保険と介護保険の両方で自己負担が発生する世帯を対象に、年間の自己負担額の合計に上限を設ける制度です。
高額療養費制度が「月単位」で医療費の負担を軽減するのに対し、高額介護合算制度は「年単位」で医療費と介護費用を合算して負担を軽減します。月単位の高額療養費制度で負担が軽減されても、それが12か月続けば年間では大きな負担となります。
- 特に、高齢者のいる世帯では、医療と介護の両方で継続的に費用がかかるケースが多くあります。親の介護と自分の医療費、配偶者の医療費などが重なると、家計への負担は深刻です。こうした世帯の負担を軽減するのが、この制度の目的です。
該当する可能性のある世帯は、年に一度、計算期間(毎年8月1日〜翌年7月31日)の自己負担額を確認し、上限を超えていれば申請しましょう。
高額医療費貸付制度
高額医療費貸付制度とは、高額療養費の支給を受けられる見込みがあるものの、支給されるまでの間、医療費の支払いが困難な場合に、無利子で資金を貸し付ける制度です。高額療養費の支給には通常3か月程度かかるため、その間の資金繰りを支援します。
貸付額は、高額療養費支給見込額の8割から9割程度です。たとえば、高額療養費として20万円が支給される見込みの場合、約16万円から18万円を借りられます。
貸付制度を利用するには、加入している保険者に申請し、審査を受ける必要があります。審査が通れば、通常1〜2週間程度で指定口座に貸付金が振り込まれます。
後日、高額療養費が支給される際、貸付金が差し引かれて返済されます。自分で返済手続きをする必要はなく、自動的に相殺される仕組みです。
医療費控除:確定申告で医療費の一部の還付を受けられる
医療費控除とは、1年間(1月1日〜12月31日)に支払った医療費の合計が一定額を超えた場合、所得税や住民税の計算において所得から控除できる制度です。税制上の優遇措置であり、公的医療保険の給付である高額療養費制度とは全く別の制度です。
両制度は目的も仕組みも異なりますが、併用することができます。ただし、医療費控除の計算では、高額療養費として支給された金額を差し引く必要があります。これは、同じ医療費に対して二重に優遇を受けることを防ぐためです。
医療費控除は確定申告で手続きを行い、還付金は税務署から振り込まれます。一方、高額療養費は加入している保険者に申請し、保険者から支給されます。申請先も支給元も全く異なる点を理解しておきましょう。
医療費控除に関しては、こちらの記事で詳しく解説しています。あわせて参考にしてみてください。
高額療養費制度を理解したうえでの医療保険の見直し戦略
高額療養費制度の仕組みを理解したうえで、次に考えるべきは「どのように備えるか」です。公的制度があるとはいえ、月額8万円から30万円程度の自己負担は発生します。この負担に対して、どのように準備すればよいのでしょうか。
多くの方が、公的制度の内容を十分に理解しないまま民間医療保険に加入し、過剰な保障で保険料負担が重くなっているケースを見かけます。一方で、生活防衛資金がまったくない状態で突然の医療費に直面し、家計が逼迫するケースもあります。
公的制度を前提にリスクへ備える
医療費のリスクに備える際、まず押さえるべきは「公的制度でどこまでカバーされるか」という点です。高額療養費制度により、医療費には明確な上限があります。この上限額を把握したうえで、必要な備えを設計することが合理的なアプローチです。
公的制度前提のリスク設計とは、高額療養費制度で自己負担額が月額8万円から30万円程度に抑えられることを前提に、その金額を支払える現金を確保しておく考え方です。この現金を「生活防衛資金」として準備しておけば、突発的な医療費にも対応できます。
- 重要なのは、保険で備えるべきリスクと、現金で備えるべきリスクを区別することです。高額療養費制度でカバーされる範囲のリスクは、基本的に現金で備えることが合理的です。
なお、生活防衛資金を用意する方法は、こちらの記事で詳しく解説しています。併せて参考にしてみてください。
民間医療保険の役割を理解したうえで本当に必要かどうかを判断する
民間保険は「公的制度でカバーされないリスク」を補完するためのツールとして位置づけるべきです。
高額療養費制度により、保険診療の医療費には上限があります。したがって、民間医療保険の主な役割は以下の3つです。
民間保険の役割
- 差額ベッド代や食事代など、高額療養費の対象外費用をカバーする
- 先進医療など、保険適用外の治療費をカバーする
- 入院や療養による収入減をカバーする
これらのリスクに対して、どの程度の保障が必要かを検討し、過不足のない保険設計を行うことが重要です。過剰な保障は保険料負担を増やし、家計を圧迫します。一方、保障が不足していると、いざというときに自己資金で対応できなくなります。
年代やライフステージごとに、必要な保険は異なります。「自分の年代ではどのような保険が必要なのか」を知りたい場合は、こちらの記事をご覧ください。
自己負担限度額が高い層はどのように備えるべきか
高所得層の方は、自己負担限度額が高めに設定されているため、医療費負担も大きくなります。また、収入が高い分、万が一働けなくなったときの収入減のリスクも大きくなります。
大企業にお勤めの高所得層の方は、健康保険組合の付加給付を必ず確認してください。月額2〜3万円の自己負担上限を設けている組合も多く、国の制度より大幅に負担が軽減されます。付加給付がある場合、民間医療保険の入院給付金を減額し、その分を資産運用に回すという選択も合理的です。
生活防衛資金の用意方法としては、医療費専用の預金口座を作る方法があります。この口座は医療費以外には手を付けないルールを設定し、使った分は速やかに補充するよう習慣化しましょう。
医療保険に加入する場合は、入院給付金の日額を1万5千円から2万円に設定するなど、手厚い保障を検討することも選択肢です。ただし、保険料負担も増えるため、本当に必要かを慎重に判断しましょう。
また、収入補償保険や就業不能保険で月額30万円から50万円程度の補償を設定し、働けなくなったときの収入減に備えることも重要です。
高年収の会社員が医療費に備える方法は、こちらの記事でも解説しています。併せて参考にしてみてください。
自営業者はより手厚い保障を用意する必要がある
自営業者やフリーランスの方は、会社員と異なり、公的な保障が手薄です。傷病手当金がないため、働けなくなると即座に収入が途絶えます。
短期の入院や療養には「所得補償保険」、長期療養には「就業不能保険」という使い分けが効果的です。所得補償保険は免責期間7日程度で最長2年間の補償、就業不能保険は免責期間60日程度で60歳まで補償というように、期間に応じた二段構えの設計により、保険料を抑えながら手厚い保障を実現できます。
個人の生活防衛資金とは別に、事業用の予備資金も確保しておくべきです。目安としては、固定費の6か月分から12か月分です。自営業者の方は、自分・家族の生活だけでなく事業資金にも意識を向けましょう。
就業不能保険に関しては、こちらの記事で詳しく解説しています。あわせて参考にしてみてください。
よくある質問(FAQ)
2025.12.12
男性30代
“民間の医療保険の加入率について、年代別に教えてください。”
A. 日本の医療保険加入率は6〜7割で、30〜50代が最も高い傾向です。公的医療保険で多くは賄えますが、貯蓄や働き方により必要性は異なります。
2025.12.12
男性30代
“民間の医療保険と、公的な健康保険の違いを教えてください。”
A. 公的保険で治療費の多くはカバーされますが、差額ベッド代や先進医療、収入減などは自己負担です。民間保険はその不足分を補う補完役として必要性を判断するのがポイントです。
2026.01.29
男性60代
“入院費用に対して、高額医療費制度は適用されますか?”
A. 高額療養費制度は、入院中の診療費・手術代・検査代・薬代など「保険診療」の自己負担に適用され、月額上限を超えた分が軽減されます。ただし、食事代や差額ベッド代などの自費は原則対象外です。

金融系ライター
厚生労働省や保険業界・不動産業界での勤務を通じて、社会保険や保険、不動産投資の実務を担当。FP1級と社会保険労務士資格を活かして、多くの家庭の家計見直しや資産運用に関するアドバイスを行っている。金融メディアを中心に、これまで1,000記事以上の執筆実績あり。
厚生労働省や保険業界・不動産業界での勤務を通じて、社会保険や保険、不動産投資の実務を担当。FP1級と社会保険労務士資格を活かして、多くの家庭の家計見直しや資産運用に関するアドバイスを行っている。金融メディアを中心に、これまで1,000記事以上の執筆実績あり。
関連する専門用語
高額療養費制度
高額療養費制度とは、1か月に医療機関で支払った自己負担額が一定の上限を超えた場合、その超過分が払い戻される公的な医療費助成制度です。日本では公的医療保険により治療費の自己負担割合は原則3割(高齢者などは1〜2割)に抑えられていますが、手術や長期入院などで医療費が高額になると家計への影響は大きくなります。こうした経済的負担を軽減するために設けられているのが、この高額療養費制度です。 上限額は、70歳未満と70歳以上で異なり、さらに所得区分(年収の目安)によって細かく設定されています。たとえば、年収約370万〜770万円の方(一般的な所得層)では、1か月あたりの自己負担限度額は「約8万円+(総医療費−26.7万円)×1%」となります。これを超えた分は、後から申請によって保険者から払い戻しを受けることができます。 また、事前に健康保険の窓口で「限度額適用認定証」を取得し、医療機関に提示しておけば、病院の窓口で支払う金額そのものを最初から自己負担限度額までに抑えることも可能です。これにより、退院後の払い戻しを待たずに現金の一時的な負担を軽減できます。 同じ月に複数の医療機関を受診した場合や、同一世帯で同じ医療保険に加入している家族がいる場合には、世帯単位で医療費を合算して上限額を適用することもできます。さらに、直近12か月以内に3回以上この制度を利用して上限を超えた場合、4回目以降は「多数回該当」となり、上限額がさらに引き下げられる仕組みもあります。なお、払い戻し申請から実際の支給までには1〜2か月程度かかるのが一般的です。 資産運用の観点から見ると、この制度によって突発的な医療費リスクの一部を公的にカバーできるため、民間の医療保険や緊急時資金を過剰に積み上げる必要がない場合もあります。医療費リスクへの備えは、公的制度・民間保険・現金準備のバランスで考えることが大切です。特に高所得者や自営業者の場合は、上限額が比較的高めに設定されている点や支給までのタイムラグを踏まえ、制度と現金の両面から備えておくと安心です。
自己負担限度額
自己負担限度額とは、公的医療保険で定められた高額療養費制度において、同じ月に患者が支払う医療費の上限を示す金額です。外来受診や入院でかかった費用の自己負担分を合計し、この限度額を超えた分は後から払い戻されるか、限度額適用認定証を提示することで窓口負担を最初から抑えられます。 限度額は年齢と所得区分によって細かく区分され、低所得者ほど上限が低く設定されていますので、家計状況に応じた保護が図られています。慢性疾患で医療費が長期にわたって高くなる場合や、同じ世帯で医療費がかさむときに大きな助けとなる制度であり、事前に手続きをしておくと負担を最小限に抑えやすくなります。
多数回該当
多数回該当とは、高額療養費制度で同じ世帯が過去12か月以内に自己負担限度額を3回超えた場合、4回目以降の自己負担限度額が引き下げられる仕組みを指します。これにより、慢性的な病気や長期入院で医療費がかさむ世帯でも、4回目からは月ごとの負担上限を抑えられ、家計の負担を軽減できます。 多数回該当の判定は健康保険組合や全国健康保険協会が行い、該当すると翌月以降の払戻額が自動的に増えるか、限度額適用認定証を提示することで窓口負担が最初から低く抑えられます。対象となる月数や回数のカウント方法は保険者共通で、同じ世帯で合計した医療費が基準になるため、家族の医療費が多い場合にも効果が大きい仕組みです。
世帯合算
世帯合算とは、公的医療保険で高額療養費制度を利用するときに、同じ世帯である家族それぞれの自己負担額を同じ月内で合計し、一定額を超えた分について払い戻しを受けられる仕組みを指します。個々の医療費はそれぞれが負担しますが、一人あたり21,000円を超えた自己負担が複数ある場合には家族分を足し合わせて判定できるため、同じ月に家族が続けて受診したときなどに医療費負担を抑えやすくなります。 払い戻しを申請するときは世帯主がまとめて手続きを行うのが一般的で、医療機関の領収書や保険証、公的機関が発行する限度額適用認定証などをそろえて提出します。世帯合算を活用することで、家計全体の医療費負担を軽減できる可能性が高まるため、家族で医療費がかさんだ月には忘れずに確認することが大切です。
限度額適用認定書
限度額適用認定書とは、高額な医療費がかかった場合でも、あらかじめ健康保険の自己負担限度額までに支払いを抑えることができる証明書のことです。この認定書を病院などの窓口に提示することで、医療機関での支払いが高額療養費制度の自己負担限度額までにとどまり、それ以上の立て替えが不要になります。 通常、高額療養費制度を利用するには、いったん医療費を全額支払い、後から払い戻しを受ける手続きが必要ですが、この認定書があれば、最初から限度額以内の支払いですみます。所得や年齢に応じて限度額は異なりますが、認定書は加入している健康保険組合に申請することで取得できます。高額な治療が予想されるときに、事前に準備しておくと経済的負担を軽減できる便利な制度です。
付加給付
主に大企業が設立する健康保険組合が独自に設けている追加保障で、高額療養費制度の自己負担限度額をさらに下回る水準まで医療費の負担を軽減したり、入院時の食事療養費や差額ベッド代の一部を補填したりする仕組みです。公的医療保険の基本給付だけでは賄いきれない費用をカバーすることで、組合員とその家族の医療費負担を大幅に抑えられる点が大きなメリットになります。 給付内容や支給条件は健康保険組合ごとに異なり、入院日数や自己負担額の下限設定がある場合もありますので、利用を検討する際には自分が加入する組合の規約を確認し、手続きに必要な書類や申請期限を把握しておくことが大切です。







