ムーディーズの格付けの読み方や定義を教えて下さい
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2025/08/15 08:42
男性
30代
ムーディーズの格付けについて、アルファベットや記号の意味やランク付けの基準がよく分かりません。例えばAaaやBaaなどどのような読み方でどのような定義かを教えて下さい。
回答
株式会社MONOINVESTMENT / 投資のコンシェルジュ編集長
ムーディーズの格付けは、債券や発行体(企業・国など)が将来きちんと元利払いを続けられるかという「信用リスク」に関する専門家の意見です。価格の上がり下がりを予測するものでも、投資を推奨・非推奨する助言でもありません。まずは「何についての意見か(発行体なのか個別債券なのか)」「期間は長期か短期か」を確認するのが出発点です。
長期格付けは満期がおおむね11か月超の債務を対象に、上から Aaa、Aa、A、Baa、Ba、B、Caa、Ca、C という順番で並びます。Aaa は信用力が最も高く、C に近づくほど支払い不能(デフォルト)に陥る可能性や損失の大きさが高まる、というイメージです。たとえば Baa は「中程度の信用リスク」、Ba 以下は投機的要素が強い、と読みます。
この長期格付けレンジのうち、Aa〜Caa には 1〜3 の数字が付き、同じレンジ内での上下関係を示します(1が上位、3が下位。例:Baa1 > Baa2 > Baa3)。また、条件が劣後するハイブリッド証券などには “hyb” が付くことがあり、同じ発行体でも劣後性や優先順位の違いにより、個別債券の格付けは発行体格付けより低くなることがあります(ノッチング)。
短期格付けは満期13か月以下の債務向けで、P-1(最上位)/P-2/P-3/NP(Not Prime)というシンプルなスケールです。実務上の対応関係としては、概ね Aaa〜A2 は P-1、A3〜Baa2 は P-2、Baa3 は P-3、Ba1 以下は NP といった幅感で理解されます。ただしこれは目安であり、必ずしも機械的に一致するわけではありません。
市場でよく使う線引きが「投資適格」と「投機的(ハイイールド)」の境目です。ムーディーズでは Baa3 以上が投資適格、Ba1 以下が非投資適格と扱われます。投資適格=安全と短絡せず、Baa 帯は「中程度の信用リスク」という評価である点に注意してください。
格付けには将来の方向感を示す補助的なシグナルもあります。アウトルック(Outlook)は中期的な方向性の見立てで、Positive/Negative/Stable/Developing などが付きます。これに対して、レーティング・レビュー(Review)は近い将来に格上げ・格下げ等の見直しを検討中であることを示す「監視入り」に近い状態です。アウトルックは方向感、レビューは見直しプロセスに入った事実、という違いを押さえましょう。
実務での読み解きは次の順番が分かりやすいです。まず、対象が発行体か個別債券か、そして長期か短期かを確認します。次に、長期なら Aaa〜C と 1〜3 の数字、短期なら P-1〜NP を読み、投資適格かどうか(Baa3 が境目)をチェックします。そのうえで、アウトルックやレビューの有無を見て、近い将来の変更リスクを把握します。
個別債券では、劣後性、担保の有無、優先順位、満期や通貨条件などにより、同じ発行体でも格付けが違うことがよくあります。ハイブリッド証券や劣後債は、発行体格付けより1〜数ノッチ低くなるのが一般的です。したがって、発行体格付けだけで判断せず、購入する債券そのものの格付けと条件を必ず確認してください。
あわせて、短期と長期の対応は幅を持っている点にも注意が必要です。たとえば P-1 と言っても長期側は Aaa〜A2 程度まで広がる可能性があります。短期の資金繰り能力は高くても、長期の事業・財務見通しにはばらつきがある、という読み解きが必要です。
最後に、格付けは「信用リスク」に関する意見であり、価格変動リスクや金利・為替・流動性・早期償還条項など、投資の成否に影響する他の要素は別途評価する必要があります。実務では、格付けに加えてスプレッド(利回り上乗せ)、財務指標、契約条項、発行体の事業環境などを組み合わせ、総合的にリスクとリターンを判断します。必要であれば、具体的な銘柄を例に、発行体格付けと個別債券格付けの読み替えや、ポートフォリオ内でのリスク配分まで落とし込んで解説できます。
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信用リスク(クレジットリスク)
信用リスクとは、貸し付けた資金や投資した債券について、契約どおりに元本や利息の支払いを受けられなくなる可能性を指します。具体的には、(1)企業の倒産や国家の債務不履行(いわゆるデフォルト)、(2)利払いや元本返済の遅延、(3)返済条件の不利な変更(債務再編=デット・リストラクチャリング)などが該当します。これらはいずれも投資元本の毀損や収益の減少につながるため、信用リスクの管理は債券投資の基礎として非常に重要です。 この信用リスクを定量的に評価する手段のひとつが、格付会社による信用格付けです。格付は通常、AAA(最上位)からD(デフォルト)までの等級で示され、投資家にとってのリスク水準をわかりやすく表します。たとえば、BBB格付けの5年債であれば、過去の統計に基づく累積デフォルト率はおおよそ1.5%前後とされています(S&Pグローバルのデータより)。ただし、格付はあくまで過去の情報に基づいた「静的な指標」であり、市場環境の急変に即応しにくい側面があります。 そのため、市場ではよりリアルタイムなリスク指標として、同年限の国債利回りとの差であるクレジットスプレッドが重視されます。これは「市場に織り込まれた信用リスク」として機能し、スプレッドが拡大している局面では、投資家がより高いリスクプレミアムを求めていることを意味します。さらに、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の保険料率は、債務不履行リスクに加え、流動性やマクロ経済環境を反映した即時性の高い指標として、機関投資家の間で広く活用されています。 こうしたリスクに備えるうえでの基本は、ポートフォリオ全体の分散です。業種や地域、格付けの異なる債券を組み合わせることで、特定の発行体の信用悪化がポートフォリオ全体に与える影響を抑えることができます。なかでも、ハイイールド債や新興国債は高利回りで魅力的に見える一方で、信用力が低いため、景気後退時などには価格が大きく下落するリスクを抱えています。リスクを抑えたい局面では、投資適格債へのシフトやデュレーションの短縮、さらにCDSなどを活用した部分的なヘッジといった対策が有効です。 投資判断においては、「高い利回りは信用リスクの対価である」という原則を常に意識する必要があります。期待されるリターンが、想定される損失(デフォルト確率×損失率)や価格変動リスクに見合っているかどうか。こうした視点で冷静に比較検討を行うことが、長期的に安定した債券運用につながる第一歩となります。
長期格付け
長期格付けとは、企業や国、自治体などの債務者が、1年以上の長期にわたって元本や利息を滞りなく返済できるかを評価した信用格付けのことです。格付け会社(ムーディーズ、S&P、R&Iなど)が財務状況、収益力、事業環境、経済情勢などを分析し、AAAやA、BBBなどの記号で評価します。 長期格付けが高いほど、返済能力が高く、債券の信用リスクが低いとされ、低いほどデフォルトの可能性が高いとみなされます。資産運用では、長期格付けは債券投資や貸付判断の重要な参考指標となり、利回りや調達コストにも影響します。
短期格付け
短期格付けとは、企業や国、自治体などの債務者が、1年以内の短期間に元本や利息を返済できるかを評価した信用格付けのことです。格付け会社が財務の健全性、資金繰りの安定性、短期的な収益力などを分析し、A-1、P-1、R-1などの記号や記号と数字の組み合わせで表します。 短期格付けが高いほど、短期債券や商業手形などの返済リスクが低いとされ、資金調達コストが下がります。逆に低い格付けはデフォルトの可能性が高いと見なされ、投資家から高い利回りを要求されることがあります。資産運用においては、短期金融商品の安全性を判断する際の重要な基準となります。
投資適格
投資適格とは、信用格付け機関が企業や債券の信用力を評価する際に、一定以上の安全性があると認定された格付けを指す。S&Pの格付けではBBB-以上、ムーディーズではBaa3以上が投資適格とされる。これらの債券はデフォルトのリスクが低く、機関投資家を中心に安定的な投資対象とされる。一方で、投資適格債はリスクが低い分、利回りも低くなる傾向がある。金融市場では、投資適格と投機的格付けの境界を意識した投資判断が重要とされる。
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アウトルックとは、信用格付機関が発行体(企業や国など)の将来の信用状況について、今後1~2年程度で格付がどの方向に変わる可能性があるかを示す見通しのことです。たとえば、「ポジティブ(改善方向)」「ネガティブ(悪化方向)」「ステーブル(安定的)」などの形で表され、現時点では格付が変わらなくても、今後変更される可能性があることを投資家に示唆します。 アウトルックは、格付そのものではありませんが、将来の信用リスクを予測するための重要な補足情報として使われます。債券投資や信用分析を行う際に、格付だけでなくアウトルックもあわせて確認することで、より立体的なリスク判断が可能になります。
ノッチング
ノッチングとは、格付け会社が特定の金融商品や債務について、その発行体の基本的な信用格付けを基準に、個別の条件やリスク要因を加味して数段階(ノッチ)上下させる調整のことです。例えば、ある企業の長期格付けが「A」の場合でも、その発行する劣後債は返済順位が低いため「A−」や「BBB+」といった形で格下げされることがあります。 逆に、担保付き債券や保証付き債券などは、発行体格付けより高く評価される場合もあります。資産運用では、ノッチングの内容を理解することで、同じ発行体でも商品ごとに異なる信用リスクを適切に把握できます。