
プロスペクト理論とは?損失回避バイアスを踏まえて投資判断する方法を解説
難易度:
執筆者:
公開:
2025.08.13
更新:
2025.08.13
プロスペクト理論とは、人が不確実な状況で下す投資判断に潜む心理的な癖を明らかにした行動経済学の理論です。ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンらが提唱し、「損失の痛みは利益の喜びよりも大きく感じる」「確率を感覚的に歪めて捉える」といった人間特有の傾向を示しました。本記事では、この理論の基本から投資で陥りやすい心理バイアス、感情に流されないための8つの対策までを事例とともに解説します。
サクッとわかる!簡単要約
この記事を読むと、投資判断を狂わせる心理的バイアスの正体と、それを克服するための具体策が体系的に理解できます。ディスポジション効果やアンカリングなど代表的な行動パターンを、プロスペクト理論の枠組みと実例を交えて学べます。さらに、ルールベース運用やドルコスト平均法など感情を排して継続投資を可能にする8つの実践的対策を知ることで、相場の急変時にも冷静さを保ち、長期的に安定した成果を目指せるようになります。
目次
プロスペクト理論とは?投資判断を歪める2つの心理をわかりやすく解説
「損切りできない心理」の正体は?投資家が陥りがちな4つの行動バイアス
1.ディスポジション効果:利益はすぐ確定(利食い千人力)、損失は塩漬けにしてしまう
2.アンカリング:「あの時の高値」や「自分の買値」という呪縛から逃れられない
3.メンタルアカウンティング:「これは生活費、これは投資用」とお金に色を付けてしまう
4.自信過剰バイアス:「自分だけは勝てる」という根拠なき思い込み
罠1.相場次第で変わるリスク許容度:好況では強気、暴落時にはパニックに
罠2.面倒で先延ばしにするリバランス:気づけばポートフォリオがハイリスクに
「損失回避性」に打ち勝つ!明日からできる8つの行動バイアス対策
対策1.ルールベース運用:「感情」を排除し、FXも株も機械的に売買する
対策2.ドルコスト平均法:「いつ買うか」で悩まず、感情のブレなく投資を続ける
対策3.二重口座管理:「心の会計」を逆手に取り、目的別に資金を分ける
対策4.第三者の視点:「自分の判断は正しい」という思い込みを捨てる
対策5.投資方針書の作成:未来の自分への「約束」でパニックを防ぐ
対策6.定期的な振り返り:「今この株を持っていなかったら買うか?」と自問する
対策7.反対意見に触れる:自分に都合の良い情報ばかり集めていないか確認する
対策8.バイアスを学ぶ:自分の「弱点」を知ることがコントロールの第一歩
プロスペクト理論とは?投資判断を歪める2つの心理をわかりやすく解説
プロスペクト理論は、不確実な状況で人が「ついやってしまう非合理的な意思決定」を、心理学的な観点から説明する行動経済学の理論です。
従来の経済学では、人間は常に合理的に行動し、満足度が最大になる選択をすると考えられていました。しかし実際には、私たちの判断は必ずしも合理的ではありません。
プロスペクト理論は、ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンらが、実験によって明らかにした「利益や損失、確率に対する人間の独特な感じ方」をモデル化したものです。これにより、投資家がなぜ時に非合理的な行動をとってしまうのかを理解できます。
価値関数:人は「損得」で物事の価値を感じる
プロスペクト理論の中心的な考え方が「価値関数」です。これは、客観的な金額のプラスマイナスに対し、人がどれくらいの満足や不満を感じるか(主観的な価値)を表したものです。価値関数には主に3つの特徴があります。
基準(参照点)からの変化で判断する
人は資産の総額そのものではなく、「基準(参照点)からどれだけ増えたか、減ったか」で物事の価値を判断します。この基準は、多くの場合「現状」や「投資した元本(購入価格)」になります。
例えば、同じ1万円の利益でも、「元本から1万円増えた」場合と、「一時的に2万円増えていた状態から1万円減って、結果的にプラス1万円になった」場合とでは、後者の方が満足度は低くなります。
利益の喜びより「損失の痛み」が強い
人は同じ金額なら、利益を得る喜びよりも損失を被る苦痛のほうを、精神的により重く受け止める傾向があります。一般的に「10万円儲かる」喜びより、「10万円損する」苦痛のほうが、2倍以上強く感じるといわれています。これを「損失回避」と呼びます。
利益が出ると慎重に、損失が出ると大胆になる
人は、利益が出ている場面では「これ以上リスクを冒して利益を失いたくない」と慎重(リスク回避的)になります。利益が1万円から2万円に増える喜びより、10万円から11万円に増える喜びの方が小さく感じるため、大きなリターンより確実な利益を優先しがちです。
反対に、損失が出ている場面では「リスクを取ってでも損失を取り返したい」と大胆(リスク愛好的)になりがちです。損失額が大きくなるほど追加の痛みに鈍感になるため、一発逆転を狙った行動に傾いてしまいます。
確率加重関数:人は「確率」を感覚で歪めてしまう
プロスペクト理論のもう一つの柱が「確率加重関数」です。これは、客観的な確率を、人が感覚的にどう捉えているか(主観的な確率)を表したものです。ここにも2つの特徴的な歪みがあります。
「万が一」を過大に評価してしまう
人は、客観的に見れば滅多に起こらないこと(低い確率)を、実際よりも「起こりそうだ」と過大に評価する傾向があります。
例えば、「宝くじが当たるかもしれない」という期待は、実際の確率以上に大きく感じられます。逆に、発生確率が極めて低い飛行機事故のリスクを過剰に恐れてしまうのも、この心理が働いています。
「ほぼ確実」を割り引いて考えてしまう
反対に、ほぼ確実に起こりそうなこと(高い確率)については、「絶対とは限らない」とその確実性を少し割り引いて考えてしまう傾向があります。
例えば、95%の確率で成功する投資話を聞いても、「残りの5%で失敗するかも」という不安を必要以上に感じて、慎重になりすぎてしまうケースがこれにあたります。
このように、人は確率をありのままに認識しているわけではありません。この感覚の歪みが、投資においては「低確率の大穴狙い(ギャンブル的な投機)」や「極端なリスク回避(過度な安全志向)」といった、非合理的な行動につながるのです。
「損切りできない心理」の正体は?投資家が陥りがちな4つの行動バイアス
ここからは、多くの投資家が陥りがちな心理的な「罠」を4つ紹介します。プロスペクト理論で解説した心理が、実際の投資シーンでどのように影響するのか、ご自身の経験と照らし合わせながら読み進めてみてください。
1.ディスポジション効果:利益はすぐ確定(利食い千人力)、損失は塩漬けにしてしまう
これは、多くの投資家が経験する「利益が出ている株はすぐに売ってしまうのに、損失が出ている株はなかなか売れずに持ち続けてしまう」という行動パターンです。
この現象は、まさにプロスペクト理論で説明した「利益が出ると慎重に、損失が出ると大胆になる」という心理が原因で起こります。含み益が出ると「利益を失いたくない」とリスクを避けて早めに利益を確定し、逆含み損を抱えると「損を取り返したい」とリスクを取って損失の確定を先延ばしにしてしまうのです。
2.アンカリング:「あの時の高値」や「自分の買値」という呪縛から逃れられない
これは、最初に見た価格や情報(アンカー=錨)が強烈な印象として残り、その後の判断がその情報に引きずられてしまう心理です。
投資では、特に「過去の最高値」や「自分が買ったときの価格」が強力なアンカーになります。例えば、過去に1000円だった株が今500円になっていると、「本来は1000円の価値があるはずだ」と考えてしまいがちです。しかし、会社の業績などが変化し、現在の企業価値は500円以下になっているかもしれません。
このバイアスは、高値圏で「以前より安いから割安だ」と買い急いだり、逆に暴落時に「まだ高いはずだ」と買いの好機を逃したりする原因にもなります。
3.メンタルアカウンティング:「これは生活費、これは投資用」とお金に色を付けてしまう
これは、心の中でお金に「色」や「ラベル」を貼り、目的別に分けて管理しようとする心理です。「心の会計」とも呼ばれます。
例えば、「このお金は子どもの教育費だから安全に」「このお金は余裕資金だからリスクを取ってもいい」と考えるのが典型例です。このようにお金にラベルを貼ることは、一見、計画的に見えますが、資産全体で最適なリスク管理をすることを妨げる場合があります。本来は一つの財布として管理すべき資産を細かく分けることで、かえってバランスの悪い投資判断につながる恐れがあります。
4.自信過剰バイアス:「自分だけは勝てる」という根拠なき思い込み
これは、自分の知識や判断力を実際よりも高く評価してしまう心理です。
特に、投資で少し成功体験をすると「自分には相場が読める」と思い込み、リスク管理を怠ったまま頻繁な売買や集中投資に走りがちになります。その結果、相場の変化に対応できずに大きな損失を出してしまうのは、よくある失敗パターンです。一時的に上手くいった手法に固執しすぎたり、自信満々に大きなリスクを取ったりするのは、このバイアスが影響している可能性があります。
その投資、大丈夫?心理バイアスが資産配分を歪ませる2つの罠
長期投資の成功の鍵は「資産配分」と、それを維持するための「リバランス」にあると言われます。しかし、頭では分かっていても、心理的な要因でこれらが疎かになってしまうことがよくあります。
ここでは、あなたの資産配分を気づかぬうちに歪めてしまう、代表的な2つの心理的な罠を見ていきましょう。
罠1.相場次第で変わるリスク許容度:好況では強気、暴落時にはパニックに
相場の雰囲気によって、自分のリスク許容度が大きく揺らいでしまうことがあります。
例えば、相場が好調なときは「もっと儲かるはずだ」と強気になり、リスクの高い資産を買い増してしまう(高値掴み)。逆に、相場が急落すると恐怖に駆られ、「これ以上損をしたくない」と資産を投げ売りしてしまう(安値売り)。
本来、ご自身の年齢や投資目標などが大きく変わらない限り、リスク許容度も一定のはずです。しかし、感情によってこの方針がブレてしまうことが、資産配分を大きく乱し、多くの投資家が「高値で買って安値で売る」という失敗を繰り返す原因となります。
罠2.面倒で先延ばしにするリバランス:気づけばポートフォリオがハイリスクに
これは「現状維持バイアス」が原因で、ポートフォリオのメンテナンスを先延ばしにしてしまう問題です。
「多少バランスが崩れても大丈夫だろう」「見直すのが面倒だ」といった心理で放置した結果、気づけば当初の想定以上に株式の比率が高まるなど、ハイリスクな状態になっていることが少なくありません。
また、「もし変更して損をしたら後悔する」という気持ちも、合理的な判断をためらわせる一因です。定期的な点検と調整を怠ることが、知らぬ間にリスクを高めてしまう罠なのです。
「損失回避性」に打ち勝つ!明日からできる8つの行動バイアス対策
これまで見てきた心理バイアスは、誰にでもある自然な反応です。大切なのは、その存在を理解したうえで、感情に流されないための「仕組み」を作ることです。
ここでは、投資判断をより冷静かつ合理的に行うための、8つの実践的な対策を紹介します。
対策1.ルールベース運用:「感情」を排除し、FXも株も機械的に売買する
感情に流されない最も効果的な方法は、あらかじめ売買のルールを決め、それに従って機械的に実行することです。「〇%下落したら売る(損切り)」「〇%上昇したら一部を売る」といったルールを設定し、逆指値注文などを活用しましょう。重要なのは、相場が良い時も悪い時も、冷静な時に決めたルールを淡々と守ることです。
対策2.ドルコスト平均法:「いつ買うか」で悩まず、感情のブレなく投資を続ける
ドルコスト平均法を用いた定額積立投資は、タイミングの判断を不要にするため、行動バイアスを抑制する強力な手段です。毎月決まった額を投資し続ければ、「いつ買うか」で悩む必要はありません。価格が下がった時には多く買えるため、「下落は買い増しのチャンス」と前向きに捉えることもできます。iDeCoや企業型DCなどを活用し、投資を自動化・習慣化するのがおすすめです。
対策3.二重口座管理:「心の会計」を逆手に取り、目的別に資金を分ける
「心の会計」の習性を逆手に取り、目的別に口座を分けて管理するのも有効な対策です。例えば、「生活防衛資金」と「長期運用資金」の口座を明確に分ければ、運用資産の価格が変動しても、精神的な落ち着きを保ちやすくなります。また、資産の大部分を占める「コア口座」と、少額で個別株などを楽しむ「サテライト口座」に分けるのも良いでしょう。
対策4.第三者の視点:「自分の判断は正しい」という思い込みを捨てる
「自分の判断は正しい」という思い込みから抜け出すには、信頼できる第三者の視点を取り入れることが役立ちます。家族や信頼できるアドバイザーに自分の投資方針を話し、客観的な意見をもらいましょう。自分一人では気づけなかったリスクや思い込みを指摘してもらえるかもしれません。ただし、他人の意見に流されすぎず、自分の投資計画の軸はぶらさないことが大切です。
対策5.投資方針書の作成:未来の自分への「約束」でパニックを防ぐ
自身の投資ルールを「投資方針書(IPS)」として文章に書き出すことで、判断のブレを防ぎます。これはプロも実践する手法です。資産配分の比率、リバランスのルール、暴落時の対応などを具体的に明記しておきましょう。この「未来の自分との約束」が、相場の急変時にもパニック売りなどの衝動的な行動を抑える助けとなります。
対策6.定期的な振り返り:「今この株を持っていなかったら買うか?」と自問する
定期的にポートフォリオを見直す際に、「リフレーミング」という手法で視点を変えてみましょう。例えば、塩漬けになっている株について「今、現金を持っていたとして、この株を新たに買うだろうか?」と自問します。答えが「No」であれば、保有し続ける理由はありません。この問いかけは、自分が保有している資産への愛着(保有効果)から距離を置き、冷静な判断を下すのに役立ちます。
対策7.反対意見に触れる:自分に都合の良い情報ばかり集めていないか確認する
人は無意識に自分に都合の良い情報ばかり集めてしまいがちです(確証バイアス)。これを防ぐため、あえて自分と反対の意見や、投資先のネガティブな情報も探すようにしましょう。「この投資の最大のリスクは何か?」と常に自問することで、視野が広がり、より客観的な判断が可能になります。
対策8.バイアスを学ぶ:自分の「弱点」を知ることがコントロールの第一歩
最後に、最も基本的な対策は「人間は心理的なバイアスを持つものだ」と知ること自体です。行動経済学の知識は、自分の判断を客観視するための「地図」になります。「これは損失回避の心理だな」と自覚できるだけで、衝動的な行動を抑制する力が高まります。「自分は大丈夫」と過信せず、謙虚に学び続ける姿勢が大切です。
プロスペクト理論で学ぶ、近年の相場での成功例・失敗例
これまで見てきた心理バイアスが、近年の市場でどのように投資家の行動を左右したのか、具体的な事例で振り返ってみましょう。記憶に新しい「コロナショック」と「インフレ局面」を取り上げます。
失敗例:コロナショックで「損失回避バイアス」に負け、底値で売ってしまった
2020年初頭のコロナショックでは、世界的な株価急落を受け、市場全体が極度の不安と恐怖に包まれました。連日のように流れる悲観的なニュースは群集心理を煽り、パニック売りを誘発します。
本来、暴落は長期投資家にとって絶好の買い場です。しかし、強烈な「損失回避バイアス」が働き、「これ以上損をしたくない」という一心で、多くの投資家が底値圏で資産を手放してしまいました。また、「まだ下がるかもしれない」と直近の動きに囚われる心理(リセンシーバイアス)も、この悲劇的な売却を後押ししました。
成功例:インフレ局面で「確率の過大評価」を逆手に取り、ヘッジに成功した
コロナショック後の2021年頃からは、世界的なインフレが新たなリスクとして浮上しました。現金や預金の価値が目減りするとの不安から、多くの投資家が「インフレに備えなければ」という心理に動かされます。
これは、プロスペクト理論における「確率の過大評価」の一例と見なせます。インフレのリスクを重く見た結果、金(ゴールド)やコモディティ、不動産投資信託(J-REIT)といったインフレに強いとされる資産に資金を移す動きが加速しました。
この期間、こうした資産をポートフォリオに組み入れていた投資家は、株式市場が軟調な中でも資産の目減りを抑えることに成功しました。もっとも、こうした行動も行き過ぎればポートフォリオの偏りを生むため、常に分散を意識したバランス感覚が重要であることに変わりはありません。
この記事のまとめ
投資の成否は知識や情報量だけでなく、意思決定に影響する心理的バイアスをいかに制御できるかにも左右されます。プロスペクト理論が示すように、人は損失を過大に恐れたり、確率を感覚的に歪めたりする傾向があります。こうした特性を理解し、ルールベース運用や定期的な振り返りなどの仕組みを取り入れることで、感情に左右されない判断が可能になります。今日から一つでも実践し、長期的に安定した資産形成へつなげましょう。

MONO Investment
投資のコンシェルジュ編集部は、投資銀行やアセットマネジメント会社の出身者、税理士など「金融のプロフェッショナル」が執筆・監修しています。 販売会社とは利害関係がないため、主に個人の資産運用に必要な情報を、正確にわかりやすく、中立性をもってコンテンツを作成しています。
投資のコンシェルジュ編集部は、投資銀行やアセットマネジメント会社の出身者、税理士など「金融のプロフェッショナル」が執筆・監修しています。 販売会社とは利害関係がないため、主に個人の資産運用に必要な情報を、正確にわかりやすく、中立性をもってコンテンツを作成しています。
関連記事
関連する専門用語
プロスペクト理論
プロスペクト理論とは、人が不確実な状況で意思決定を行うときの心理的な傾向を説明する理論です。伝統的な経済学が前提とする「人は常に合理的に判断する」という考え方とは異なり、この理論では人は利益と損失を同じように評価せず、特に損失に対して強い回避傾向を持つと説明されます。また、確率を評価する際にも実際の数値どおりではなく、小さな確率を過大評価し、大きな確率を過小評価する傾向があります。例えば、宝くじを買ったり、保険に加入したりする行動は、この理論で説明できます。資産運用では、投資家の行動を現実的に理解し、リスク管理や商品の設計に応用されます。
価値関数
価値関数とは、将来にわたって得られると期待される利益や効用を数値として表したものです。資産運用では、投資判断を行う際に「今の選択がどれだけの価値を生むのか」を評価するために使われます。例えば、ある投資商品を購入した場合、その商品が時間の経過とともにどの程度利益をもたらすかを予測し、その合計を現在の価値に換算して評価します。価値関数を理解することで、目先の利益だけでなく、将来のリターンを含めた長期的な視点で判断できるようになります。
確率加重関数
確率加重関数とは、人が将来の出来事の発生確率をどのように感じ、判断に反映させるかを数値化したものです。行動経済学や投資判断の研究では、人は実際の確率をそのまま受け止めず、低い確率の出来事を過大に評価し、高い確率の出来事を過小に評価する傾向があることが知られています。この関数を使うことで、実際の確率ではなく、投資家が心理的に感じる確率をモデル化できます。例えば、宝くじの当選確率は非常に低いのに多くの人が購入するのは、確率加重関数によって小さな確率が大きく感じられるためです。資産運用においては、リスク認識やポートフォリオ設計にこの考え方が応用されます。
ディスポジション効果
ディスポジション効果とは、投資家が利益の出ている資産を早く売却し、損失が出ている資産を長く保有し続ける傾向のことを指します。本来であれば、将来のリターンやリスクに基づいて合理的に売買判断をすることが望ましいのですが、人は「利益を確定したい」という心理や「損失を確定させたくない」という心理に強く影響されます。このため、上昇している銘柄を早めに手放し、下落している銘柄を塩漬けにしてしまう行動が生まれます。資産運用では、この効果を理解することで感情に左右されず、より合理的な売買判断を下すことができるようになります。
アンカリング
アンカリングとは、人が意思決定を行うときに、最初に与えられた数値や情報(アンカー)を基準にして判断してしまう心理的傾向のことです。資産運用では、株価や不動産価格、為替レートなどにおいて「過去に見た価格」や「最初に提示された数値」が判断基準になり、その後の評価や売買判断に影響を与えることがあります。例えば、株を購入したときの価格が頭に残り、それを基準に売却タイミングを決めてしまうケースです。合理的な判断のためには、市場の変化や新しい情報をもとに評価を更新することが大切ですが、アンカリングはその妨げになることがあります。
メンタルアカウンティング
メンタルアカウンティングとは、人が自分のお金や資産を心の中で別々の「口座」に分けて管理し、それぞれ異なるルールや感覚で使い分ける心理的傾向のことです。実際の銀行口座のように物理的に分かれているわけではありませんが、たとえば「ボーナスは贅沢に使うお金」「給与は生活費」「株の利益は旅行資金」といった具合に、資金の性質や用途を主観的に分けます。資産運用においては、この傾向が合理的判断を妨げることがあり、本来は同じ価値を持つお金でも、メンタルアカウンティングによって異なる扱いをしてしまいます。この考え方を理解することで、資金配分や投資判断の偏りを見直すことができます。
自信過剰バイアス
自信過剰バイアスとは、自分の知識や判断力、予測の正確さを実際以上に高く評価してしまう心理的傾向のことです。資産運用では、自信過剰な投資家が「自分の相場観は正しい」と過信して過度な取引を行ったり、リスクを過小評価して集中投資をしたりすることがあります。短期的にうまくいった経験が、このバイアスをさらに強める場合もあります。その結果、過剰な売買コストや予期せぬ損失を招くことが多く、長期的な資産形成に悪影響を与える可能性があります。この傾向を理解し、自分の判断に対して客観的な検証を行うことが、健全な資産運用には欠かせません。
現状維持バイアス
現状維持バイアスとは、たとえより良い選択肢があっても、現状を変えることを避けて今の状態を保とうとする心理的傾向のことです。資産運用においては、既存の投資配分や保有資産を見直す機会があっても、手間や不安、変化に伴うリスクを避けたい気持ちから行動を起こさないケースが見られます。例えば、長期間同じ銘柄を保有し続けたり、相場環境が変化してもポートフォリオを再構築しなかったりする行動がこれにあたります。現状維持バイアスを理解することで、感情や習慣に流されず、合理的な資産見直しや戦略変更を行いやすくなります。
ドルコスト平均法
ドルコスト平均法とは、一定の金額を定期的に投資する方法です。価格が高いときは少なく、価格が低いときは多く買えるため、購入価格が平均化され、リスクを分散できます。市場のタイミングを読む必要がないため、初心者に最適な方法とされています。長期投資で効果を発揮し、特に投資信託やETFで利用されることが多い手法です。
二重口座管理
二重口座管理とは、同じ資産や資金を実際の口座とは別に、心理的または帳簿上で二つの異なる口座として扱うことを指します。特に行動経済学や資産運用の分野では、投資家が現実の資金管理とは別に「心理的口座」を作り、異なるルールで管理することを意味します。例えば、ある投資の元本と利益部分を別々の「口座」として扱い、元本は安全に保護しつつ利益部分は積極的に運用するといった行動がこれに当たります。この管理方法は、資金の使い方に一定の秩序を与える一方で、全体最適を阻害し、合理的な判断を妨げる可能性もあります。資産運用においては、この心理的傾向を理解することで、無意識の偏りを減らすことができます。
交付目論見書
交付目論見書は、投資信託を購入する前に販売会社が投資家へ必ず渡す公式な説明資料です。ファンドの目的や運用方針、主な投資対象、リスク要因、手数料、分配方針などの重要情報が網羅されており、金融商品取引法によって内容と形式が細かく定められています。投資家は購入前にこれを読むことで商品の特徴や費用、リスクを十分に理解し、適切な判断ができるようになります。
リフレーミング
リフレーミングとは、同じ事実や状況を別の見方や表現に置き換えることで、受け止め方や判断を変える手法のことです。資産運用では、情報の提示方法によって投資家の行動が大きく変わることがあります。例えば、「この投資の成功確率は70%」と聞くのと、「失敗する確率は30%」と聞くのでは、数字は同じでも心理的な印象は異なります。リフレーミングは、損失回避やリスク認知などの心理的特性と組み合わせると、投資行動に強い影響を与えます。投資家がこの効果を理解すれば、情報の見せ方に惑わされず、事実そのものを冷静に評価できるようになります。
確証バイアス
確証バイアスとは、自分がすでに信じている考えや仮説を支持する情報ばかりを重視し、それに反する情報を無視したり軽視したりする心理的傾向のことです。資産運用においては、ある銘柄が将来上がると信じていると、その見方を裏付けるニュースや意見ばかりを集めてしまい、逆のリスク要因や否定的な情報には目を向けなくなるケースがあります。 これにより、判断の偏りが生じ、冷静で客観的な投資判断を妨げてしまうことがあります。特にSNSや動画サイトなど、自分に都合の良い情報だけが表示されやすい環境では、このバイアスが強まりやすくなります。資産運用では、異なる意見や反対の視点にも耳を傾ける姿勢を持つことが、確証バイアスを避けるために重要です。
リセンシーバイアス
リセンシーバイアスとは、直近の出来事や結果を過大に評価し、それが将来も続くと考えてしまう心理的傾向のことです。資産運用では、最近の株価上昇を見て「今後も上がり続ける」と過信したり、直近の下落を見て「これからも下がり続ける」と悲観したりする行動がこれに当たります。本来は長期的なデータや全体的な傾向を考慮して判断すべきですが、このバイアスが強く働くと短期的な情報に偏った投資判断をしてしまいます。リセンシーバイアスを理解することで、一時的な市場の動きに振り回されず、冷静な投資戦略を維持することが可能になります。
損失回避
損失回避とは、人が同じ金額の利益よりも損失の方を強く意識し、避けようとする心理的傾向のことです。行動経済学の研究によると、人は利益の喜びよりも損失の苦痛をおよそ2倍以上強く感じるとされます。資産運用では、この傾向が投資家の行動に大きな影響を与え、含み損のある資産を売らずに保有し続けたり、損失を恐れて有望な投資機会を逃したりする原因になります。損失回避を理解することは、感情に左右されない冷静な判断を下し、長期的に合理的な投資行動を維持するために重要です。