特別支給の老齢厚生年金とは?もらえない人の7つの特徴やデメリット、受給できる金額をわかりやすく解説

特別支給の老齢厚生年金とは?もらえない人の7つの特徴やデメリット、受給できる金額をわかりやすく解説
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公開:
2025.09.05
更新:
2025.12.09
60歳が近づくと、「特別支給の老齢厚生年金」という言葉は聞いたことがあっても、自分が本当に対象なのか、いつから・いくら・働きながら受け取れるのかが分からず不安になりがちです。請求を忘れて時効で受け取れない期間が出たり、在職老齢年金や失業給付との関係で「もらえるはずの年金が0円になる」ケースもあります。
この記事では、特別支給の老齢厚生年金の目的と通常の老齢年金との違い、生年月日別の開始年齢・受給要件・もらえない人の特徴まで、損をしないために押さえるべき実務ポイントを整理して解説します。
サクッとわかる!簡単要約
この記事を読むことで、特別支給の老齢厚生年金の仕組みや通常の老齢年金との違い、生年月日・加入歴別の受給開始年齢と金額の目安、在職老齢年金・失業給付・高年齢雇用継続給付による支給停止、必要な手続きまで体系的に理解できます。そのうえで、「自分はいつから・いくら・どの条件で受け取れるのか」を具体的に確認し、請求のタイミングや働き方、配偶者や離婚の影響も踏まえたうえで、損をしない受け取り方を自分で判断・行動できるようになります。
目次
「特別支給の老齢厚生年金」とは?制度の目的と通常の年金との違い
1. 生年月日・年齢の要件:男性は昭和36年、女性は昭和41年4月1日以前生まれ
2. 年金加入期間の要件:厚生年金1年以上+受給資格10年以上
特徴1. 収入が高く、計算の結果「0円」つまり全額停止になる
特徴2. 失業給付(雇用保険の基本手当)を受給している期間は全額停止
特徴3. 高年齢雇用継続給付を受けており、在職停止に追加の一部停止が上乗せされる
特徴4. そもそも特別支給の受給権がない、つまり制度の対象外である
特別支給の老齢厚生年金はいくら?計算方法と「ねんきんネット」での確認手順
年金額を決める2つの要素:「定額部分」と「報酬比例部分」とは
特別支給の老齢厚生年金はだいたいいくらもらえる?受給額のシミュレーション
モデル1:平均月収20万円・厚生年金加入20年/30年/40年
モデル2:平均月収30万円・厚生年金加入30年/35年/40年
切り替えも自動ではない!65歳になる3ヶ月前に届く請求書の提出が必要
女性が特別支給を受ける際の注意点(第3号期間・育児特例・年金分割)
「特別支給の老齢厚生年金」とは?制度の目的と通常の年金との違い
特別支給の老齢厚生年金は、年金の支給開始年齢が65歳に引き上げられた際の経過措置として設けられました。なぜ65歳前に年金がもらえるのか、その目的と背景を解説します。
また、65歳から受け取る本来の老齢厚生年金とは何が違うのか、受給期間や繰下げ制度の有無といった重要なポイントを比較し、制度の全体像をわかりやすく説明します。
年金の種類については以下Q&Aでも説明しています。
なぜもらえる?65歳前に年金が支給される目的と制度の背景
特別支給の老齢厚生年金とは、老齢厚生年金の支給開始年齢が60歳から65歳へ引き上げられたことに伴い、スムーズな移行を目的として設けられた制度です。1985年の法改正で生じた60歳代前半の収入がない期間を補うため、一定の条件を満たす人を対象に、本来65歳から受け取る年金の一部を先行して支給する仕組みです。
通常の老齢厚生年金との主な違い
この制度は、65歳から生涯受け取れる本来の老齢厚生年金とは異なる点がいくつかあります。特に重要な違いは以下の通りです。
特別支給の老齢厚生年金の特徴
- 受給期間:65歳になるまでの期間限定の給付
- 繰下げ受給:受給開始を遅らせて年金額を増やす「繰下げ受給」の制度はない
このため、特別支給の受給資格が発生した際は、時効にかからないよう速やかに請求手続きを行うことが大切です。
年金の受給開始年齢がわかる男女別・生年月日早見表
特別支給の老齢厚生年金の受給開始年齢は、ご自身の生年月日と性別によって細かく定められています。年金額は「報酬比例部分」(現役時代の収入に応じる部分)と「定額部分」(加入期間に応じる部分)で構成され、それぞれ支給が始まる年齢が異なる点が重要です。
| 報酬比例部分の開始年齢 | 定額部分の開始年齢 | 対象となる生年月日(男性) | 対象となる生年月日(女性) |
|---|---|---|---|
| 60歳 | 60歳 | ~ 1941年4月1日 | ~ 1946年4月1日 |
| 60歳 | 61歳 | 1941年4月2日~1943年4月1日 | 1946年4月2日~1948年4月1日 |
| 60歳 | 62歳 | 1943年4月2日~1945年4月1日 | 1948年4月2日~1950年4月1日 |
| 60歳 | 63歳 | 1945年4月2日~1947年4月1日 | 1950年4月2日~1952年4月1日 |
| 60歳 | 64歳 | 1947年4月2日~1949年4月1日 | 1952年4月2日~1954年4月1日 |
| 60歳 | (支給なし) | 1949年4月2日~1953年4月1日 | 1954年4月2日~1958年4月1日 |
| 61歳 | (支給なし) | 1953年4月2日~1955年4月1日 | 1958年4月2日~1960年4月1日 |
| 62歳 | (支給なし) | 1955年4月2日~1957年4月1日 | 1960年4月2日~1962年4月1日 |
| 63歳 | (支給なし) | 1957年4月2日~1959年4月1日 | 1962年4月2日~1964年4月1日 |
| 64歳 | (支給なし) | 1959年4月2日~1961年4月1日 | 1964年4月2日~1966年4月1日 |
| (受給資格なし) | (受給資格なし) | 1961年4月2日以降 | 1966年4月2日以降 |
表の通り、男性は1961年4月1日、女性は1966年4月1日以前に生まれた方が対象です。生年月日が遅くなるにつれて定額部分の支給が段階的になくなり、最終的には報酬比例部分のみが支給対象となることが分かります。
また、年齢の計算方法にも注意が必要です。法律上、年齢は「誕生日の前日」に到達するとみなされます。例えば60歳から受給できる方は、60歳の誕生日の前日から請求手続きが可能になります。
特別支給の老齢厚生年金をもらえる人の3つの受給要件
特別支給の老齢厚生年金を受け取るには、主に3つの受給要件をすべて満たす必要があります。ご自身が対象となるか、以下の項目で確認してみましょう。
1. 生年月日・年齢の要件:男性は昭和36年、女性は昭和41年4月1日以前生まれ
まず、対象となる生年月日が定められています。男性は1961年(昭和36年)4月1日、女性は1966年(昭和41年)4月1日以前に生まれた方が原則的な対象です。その上で、ご自身の生年月日に応じて個別に決められた支給開始年齢に到達している必要があります。
2. 年金加入期間の要件:厚生年金1年以上+受給資格10年以上
次に、年金の加入期間に関する要件です。国民年金や厚生年金の保険料を納めた期間などを合計した「老齢基礎年金の受給資格期間」が10年以上必要です。加えて、会社員や公務員として厚生年金保険に加入していた期間が通算で1年以上なければなりません。
例外:44年特例や障害者特例に該当する場合
原則として上記の要件を満たす必要がありますが、一部例外となる特例措置があります。生年月日の要件を満たさない方でも、以下のようなケースでは対象となる場合があります。
- 厚生年金の加入期間が44年以上ある(長期加入者特例)
- 障害等級1級から3級のいずれかに該当する
- 坑内員や船員として15年以上勤務した経歴がある
これらの特例は適用されるケースが限られます。多くの場合、前述した3つの基本要件をすべて満たすことで、特別支給の老齢厚生年金を請求できます。
特別支給の老齢厚生年金がもらえない人の7つの特徴
「特別支給の老齢厚生年金」は、働き方や他の給付との併用で結果的に0円になったり、制度の対象外になったりします。ここでは公式ルールをもとに、該当しやすい7パターンを整理しました。
特徴1. 収入が高く、計算の結果「0円」つまり全額停止になる
在職老齢年金は、基本月額と総報酬月額相当額の合計が基準額を超えると支給停止が始まります。令和7年度、つまり2025年度の基準額は51万円です。
ここでいう基本月額とは、老齢厚生年金の月額のことで、加給年金額は除きます。
支給月額は以下の計算式で算出されます。
計算式:支給月額 = 基本月額 −{(基本月額 + 総報酬月額相当額 − 51万円)÷ 2}
この計算の結果、停止される額が基本月額以上になれば、支給額は0円です。
例えば、基本月額が10万円の人の場合、総報酬月額相当額が61万円以上になると原則0円に到達します。
在職老齢年金に関しては、こちらの記事でも詳しく解説しています。併せて参考にしてみてください。
特徴2. 失業給付(雇用保険の基本手当)を受給している期間は全額停止
特別支給の老齢厚生年金と失業給付は同時受給不可です。ハローワークで求職申込みをした月の翌月から、受給期間が終わる月まで年金は全額支給停止。再開は原則として手続後約3か月後の支払いから反映されます。
特徴3. 高年齢雇用継続給付を受けており、在職停止に追加の一部停止が上乗せされる
60歳から64歳の在職者が高年齢雇用継続給付を受けると、通常の在職老齢年金の停止に加えて、さらに年金が一部追加で停止されます。
この追加停止額は、原則として標準報酬月額の上限4%です。ただし、2025年3月31日以前に要件を満たした一部の方には、上限6%とする経過措置が適用されます。
- なお、高年齢雇用継続給付の支給率自体も2025年4月から変更され、従来の15%から原則10%に引き下げられています。
注意点として、高年齢雇用継続給付の初回申請が認められると、その後ご自身で申請を止めても年金の一部停止は自動で解除されません。この停止措置は、退職したり65歳に到達したり、あるいは給付の不支給が決定した情報が提供されたりした際に、後から遡って解除される仕組みです。
特徴4. そもそも特別支給の受給権がない、つまり制度の対象外である
「特別支給の老齢厚生年金」を受けるには、いくつかの要件をすべて満たす必要があります。
例えば、生年月日要件があり、男性は昭和36年4月1日以前、女性は昭和41年4月1日以前生まれでなければなりません。
加えて、老齢基礎年金の受給資格期間が10年以上あること、さらに厚生年金などの加入期間が1年以上あることも必要です。
これらの要件のうち一つでも満たさない場合、在職老齢年金の仕組みが適用される以前に、特別支給そのものの対象外となります。
特徴5. 賞与(ボーナス)が高額だと年金が全額停止されうる
年金の支給額を計算する「総報酬月額相当額」は、その月の月給にあたる「標準報酬月額」に、「過去1年間の標準賞与額の合計を12で割った額」を足して算出されます。
この計算方法のため、高額な賞与が支給されると、総報酬月額相当額が支給停止の基準である51万円を超えやすくなります。その結果、月によっては年金が0円になることがあります。
この支給停止額の見直しは、総報酬が変わった月、または退職した月の翌月に反映されます。
特徴6. 複数の厚生年金は、停止額が按分され合計0円になる
共済組合から支給される分も含め、複数の老齢厚生年金を受け取る人も在職老齢年金の対象です。
この場合、計算された支給停止額は、それぞれの年金額の割合に応じて割り振られます。これを「按分」と呼びます。その按分の結果、受け取る年金の合計額が0円になるケースがあります。
特徴7. 自分の希望で年金の受け取りを止めている
年金は、本人の希望によって支給を止めることができます。
老齢基礎年金と老齢厚生年金は、それぞれ個別に支給停止や再開の申し出が可能です。支給の停止や再開は、申し出た月の翌月分から適用されます。
- ただし、一度停止した期間の年金を後から遡って受け取ることはできません。そのため、支給を停止するかどうかは慎重に判断する必要があります。
特別支給の老齢厚生年金はいくら?計算方法と「ねんきんネット」での確認手順
特別支給の老齢厚生年金の年金額は、「報酬比例部分」と「定額部分」の2つで構成されます。これは65歳からの年金と同様の内訳ですが、特別支給の期間中は生年月日により定額部分が支給されない場合がある点に注意が必要です。
年金額を決める2つの要素:「定額部分」と「報酬比例部分」とは
年金額は主に「定額部分」と「報酬比例部分」という2つの要素で決まります。それぞれがどのような性質を持つのか、計算の基礎となる考え方を解説します。また、条件を満たすと加算される「加給年金」についても説明し、ご自身の受給額の全体像を掴む手助けをします。
「定額部分」とは?老齢基礎年金に相当する部分
定額部分は、65歳から受け取る老齢基礎年金に相当する部分を補完する役割を持つ、加入期間に応じた一定額の年金です。ただし、この定額部分が支給されるのは、原則として男性は1949年4月1日、女性は1954年4月1日以前に生まれた方に限られます。支給される場合の金額は、加入月数に比例して増え、加入1月あたり約1,700円を基準に計算されます(上限480月)。
「報酬比例部分」とは?現役時代の給与に応じて決まる部分
報酬比例部分は、厚生年金の加入期間中の給与や賞与に応じて計算される年金です。現役時代の収入と加入月数などに基づいて金額が決まるため、収入が高く、加入期間が長いほど受給額は多くなります。特別支給の老齢厚生年金の対象者であれば、この報酬比例部分が年金額の基本となります。
加給年金額(扶養手当的な加算)
加給年金とは、条件を満たす場合に年金に上乗せされる、扶養手当のような制度です。主に以下の条件をすべて満たす場合に加算の対象となります。
- 厚生年金の加入期間が20年以上ある
- 65歳未満の配偶者や18歳未満の子などの扶養家族がいる
- 特別支給の老齢厚生年金の「定額部分」が支給される
加算額は2025年度基準で以下のとおりです。
加給年金額
- 配偶者・第1子・第2子:各239,300円/年
- 第3子以降:79,800円/年
- ユーザーとの親密度を上げることでブランドへの好感度も上がる
なお、配偶者が65歳になるとこの加算は終了し、代わりに配偶者自身の年金に「振替加算」がつく場合があります。
加給年金については以下記事で詳しく解説しています。
自分の年金見込額を確認する3つの方法
ご自身の特別支給の老齢厚生年金がいくらになるか、事前に概算額を確認する方法があります。主な確認方法は以下の通りです。
1. ねんきん定期便を確認する
毎年誕生月に届く「ねんきん定期便」で確認できます。50歳以上の方の場合、60歳から64歳の間に受け取れる特別支給の老齢厚生年金の見込額が記載されていますので、まずは最新の通知書を見て、何歳からいくら受け取れるのかを把握しましょう。
2. ねんきんネットで試算する
日本年金機構のウェブサイト「ねんきんネット」でも、ご自身の加入記録に基づいた年金額の試算が可能です。ただし、この試算機能は65歳以降の年金額が対象のため、特別支給の老齢厚生年金の額は直接表示されない点に注意してください。
ねんきんネットへの登録と注意点は以下Q&Aでも説明しています。
3. 年金事務所に相談する
最も正確な見込額や個別の状況について知りたい場合は、お近くの年金事務所や街角の年金相談センターで相談するのが確実です。特に受給開始年齢が近い方や、働きながら受け取る場合の減額について詳しく知りたい方は、専門機関に相談することをおすすめします。
特別支給の老齢厚生年金はだいたいいくらもらえる?受給額のシミュレーション
特別支給の老齢厚生年金(60〜64歳)は、多くの現役世代で 「報酬比例部分のみ」 が支給されており、定額部分は65歳以降の老齢基礎年金に移っています。
なお、報酬比例部分はおおむね次のようなイメージで計算されます。
平均標準報酬額(おおよその平均月収)× 0.005481×加入月数
以下の金額は、令和7年度水準・報酬比例部分のみで計算した「目安」 です。実際の金額は、加入時期やボーナスの有無などで前後します。
モデル1:平均月収20万円・厚生年金加入20年/30年/40年
| 厚生年金加入期間 | 報酬比例部分の年額(目安) | 月額目安 |
|---|---|---|
| 20年(240ヶ月) | 約26万円 | 約2.2万円 |
| 30年(360ヶ月) | 約39万円 | 約3.3万円 |
| 40年(480ヶ月) | 約53万円 | 約4.4万円 |
平均月収20万円前後の場合、特別支給の老齢厚生年金は「月数万円」というイメージになります。
モデル2:平均月収30万円・厚生年金加入30年/35年/40年
| 厚生年金加入期間 | 報酬比例部分の年額(目安) | 月額目安 |
|---|---|---|
| 30年(360ヶ月) | 約59万円 | 約4.9万円 |
| 35年(420ヶ月) | 約69万円 | 約5.8万円 |
| 40年(480ヶ月) | 約79万円 | 約6.6万円 |
標準的なサラリーマンで、平均月収30万円・加入35〜40年なら、特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)は月5〜7万円前後がひとつの目安になります。
モデル3:平均月収40万円・厚生年金加入30年/40年
| 厚生年金加入期間 | 報酬比例部分の年額(目安) | 月額目安 |
|---|---|---|
| 30年(360ヶ月) | 約79万円 | 約6.6万円 |
| 40年(480ヶ月) | 約105万円 | 約8.8万円 |
平均月収40万円・加入年数が40年程度あると、特別支給の老齢厚生年金だけで月8〜9万円程度というイメージになります
このように、特別支給の老齢厚生年金の金額は「いくら稼いできたか」と「どれだけ長く厚生年金に入っていたか」で大きく変わります。
特別支給の老齢厚生年金を受給する際のデメリットや注意点
特別支給の老齢厚生年金を申請または受給する際には、いくつか知っておくべき注意点があります。
年金は課税対象で年末調整または確定申告が必要
特別支給の老齢厚生年金は、雑所得として所得税・住民税の課税対象となります。ただし、公的年金等控除があるため、年金収入のみで年間110万円(65歳未満の場合)程度までであれば、所得税はかからない計算になります。
年金額が年間400万円以下で、年金以外の所得が20万円以下など一定の条件を満たす場合は確定申告が不要になる制度もありますが、年金も課税対象であることは覚えておきましょう。
なお、年金にかかる税金については以下記事で詳しく解説しています。
請求し忘れて5年が経過すると時効で消滅する
年金の受け取り権利には5年の時効があります。権利が発生してから5年が経過した分は、さかのぼって受け取ることができなくなります。例えば、60歳から受給できる方が手続きを忘れたまま66歳で請求した場合、5年を過ぎた60歳から61歳になるまでの1年分は時効で消滅してしまいます。受給権が発生したら、忘れずに5年以内に請求手続きを行いましょう。
繰下げ受給はできず「受け取らない」という選択はできない
65歳から受け取る本来の老齢年金は、受給開始を遅らせる「繰下げ受給」によって年金額を増やすことができます。しかし、65歳になるまでの特別支給の老齢厚生年金にこの制度はありません。
受給を先延ばしにしても年金額は増えず、むしろ時効で権利を失うリスクがあるだけです。対象年齢に達したら、速やかに請求するのが原則です。
特別支給の老齢厚生年金を受け取るための手続きと必要書類
年金は権利が発生しても自動では受け取れないため、受給開始年齢に達したら自ら請求手続きを行う必要があります。特別支給の老齢厚生年金を受け取るための、手続きの流れと留意点を解説します。
手続きの全体像:請求書の到着から初回振込までの5ステップ
手続きの大まかな流れは、「①年金請求書の到着」→「②必要書類の準備」→「③請求書の提出」→「④審査」→「⑤初回振込」という5段階で進みます。各ステップの詳細は以下で解説します。
いつ何をする?請求のタイミングと提出先
年金請求は適切なタイミングで行うことが重要です。ここでは、いつ日本年金機構から案内が届き、いつから請求書を提出できるのかを解説します。また、どこに提出すればよいのか、手続きの場所についても具体的に説明します。
受給開始年齢の3ヶ月前に日本年金機構から書類が届く
特別支給の受給資格を満たす方には、受給開始年齢に達する約3か月前に、日本年金機構から氏名や加入記録などがあらかじめ印字された年金請求書が郵送されます。同封の案内に従い、内容を確認して準備を進めましょう。ただし、この時点ではまだ提出しません。
なお、厚生年金加入期間が1年未満の方は、代わりに「年金に関するお知らせ(ハガキ)」が届きます。その場合、65歳からの年金を請求するための書類が、65歳になる3か月前に改めて送付されます。
請求書の提出は「受給開始年齢に達した日」以降
年金請求書は、受給権が発生する「受給開始年齢に到達した日」以降に提出します。法律上、年齢は誕生日の前日に到達するとみなされるため、例えば60歳になる方は、60歳の誕生日の前日から提出可能です。提出先は、原則としてお住まいの地域を管轄する年金事務所となります。近年は、マイナンバーを利用した公金受取口座を登録していれば、金融機関での口座証明や通帳コピーの添付を省略できます。
年金請求手続きの必要書類一覧
年金の請求手続きには、請求書以外にもいくつかの書類が必要です。ご自身の状況に合わせて準備しましょう。主な必要書類は以下の通りです。
基本となる書類
- 年金手帳または基礎年金番号通知書
- 本人確認書類(マイナンバーカード、運転免許証など)
- 受取先金融機関の通帳など(口座番号がわかるもの)
配偶者や子がいる場合(加給年金の対象となるとき)
- 戸籍謄本
- 世帯全員の住民票の写し
- 配偶者や子の収入が確認できる書類など。
※マイナンバーを提出することで、一部の書類は省略可能です。
これらの書類は、原則として受給権発生日以降に発行されたものを準備してください。
年金の申請から受給までの期間は?初回振込はいつになる?
年金請求書を提出してから、実際に年金が振り込まれるまでには一定の期間がかかります。ここでは、書類提出後の審査期間の目安と、初回の年金がいつ、どのように支払われるのか、具体的なスケジュールについて解説します。
- 書類を提出すると、日本年金機構で審査が行われ、1~2か月ほどで年金証書・裁定通知書が届きます。初回の年金が振り込まれるのは、受給権が発生してから最初に迎える偶数月の15日です。例えば、4月1日に受給権が発生した場合、初回の支払いは6月15日となります。年金は2か月分がまとめて支払われるため、6月15日には4月・5月分の年金が振り込まれます。
65歳になったらどうなる?本来の老齢年金への切り替え手続き
特別支給の老齢厚生年金は65歳までの一時的な措置であるため、受給者が65歳に達すると支給が終了します。その後は、生涯にわたって受け取れる本来の老齢年金(老齢基礎年金と老齢厚生年金)に切り替わります。
特別支給が終了し老齢基礎年金・老齢厚生年金の受給が始まる
65歳になると、それまでの特別支給の老齢厚生年金は終了し、新たに本来の年金を受け取る権利が生まれます。ここでは、65歳から受け取る年金の種類と、その金額がどのように決まるのか、基本的な仕組みについて解説します。
- 65歳からは、「老齢基礎年金」と「老齢厚生年金」の2種類を受け取ることになります。老齢基礎年金の額は加入期間に応じて決まり、2025年度では満額で年約83万円です。老齢厚生年金の額は、特別支給で受け取っていた報酬比例部分が基本となり、60歳代前半に働きながら年金を受け、支給停止されていた分がある場合は、その分も反映されて再計算されます。
切り替えも自動ではない!65歳になる3ヶ月前に届く請求書の提出が必要
特別支給の老齢厚生年金を受け取っていた方も、65歳からの年金は自動的には始まりません。最も重要な注意点は、ご自身で改めて請求手続きが必要だということです。具体的な手続きの流れと、忘れてはいけないポイントを説明します。
- 65歳になる約3か月前に、日本年金機構から「年金請求書(国民年金・厚生年金保険老齢給付)」が郵送されます。これは、65歳から本来の老齢基礎年金と老齢厚生年金を受け取るための重要な書類です。特別支給を受けていた方も、この請求書を提出しない限り、特に老齢基礎年金は支給されません。「手続きは不要」という誤解をしないよう、必ず提出してください。
65歳からの年金は「繰下げ受給」で増やす選択肢もある
65歳から受け取る本来の年金には、特別支給にはなかった柔軟な選択肢があります。その一つが、受給開始を遅らせて年金額を増やす「繰下げ受給」です。ご自身のライフプランに合わせて検討できるこの制度の概要を紹介します。
- 65歳から受け取る年金は、受給開始を66歳以降75歳までの間に遅らせることで、1か月あたり0.7%ずつ年金額を増額できます。例えば70歳まで繰り下げると42%、上限の75歳まで繰り下げると84%増額された年金を生涯受け取ることが可能です。ライフプランに応じて、こうした選択肢も検討することができます。
なお、公的年金の繰上げ・繰下げに関する損益分岐点に関しては、こちらの記事も参考にしてみてください。
女性が特別支給を受ける際の注意点(第3号期間・育児特例・年金分割)
女性が特別支給の老齢厚生年金を受け取る際は、特有の注意点があります。専業主婦だった「第3号被保険者」期間の扱いや、出産・育児休業、離婚時の年金分割が、受給資格や年金額にどう影響するかを解説します。
注意点1:第3号被保険者(専業主婦)期間は厚生年金加入期間に含まれない
「第3号被保険者」(専業主婦など)期間は、老齢基礎年金の受給資格期間には算入されます。しかし、老齢厚生年金の加入期間とはみなされないため、「特別支給」の受給要件や年金額の計算には含まれません。
第3号被保険者とは、厚生年金加入者に扶養されている配偶者を指します。この期間は国民年金保険料が納付済みと扱われ、老齢基礎年金の受給資格期間には算入されます。しかし、第3号期間は厚生年金の加入期間ではないため、老齢厚生年金(報酬比例部分)を増やす効果はありません。
特別支給の受給資格である「厚生年金加入1年以上」にも、この期間はカウントされません。そのため、厚生年金加入歴が1年未満の専業主婦の方は、特別支給の対象外です(65歳から老齢基礎年金のみ受給)。結婚前に1年以上の厚生年金加入歴がある女性は、生年月日要件を満たせば特別支給の対象となる場合があります。
注意点2:産休・育休中の「育児期間特例」で年金額を維持
出産・育児で休業したり、時短勤務で給与が下がったりした場合も、将来の年金額が減らないよう特例措置が用意されています。保険料免除や、給与が下がっても休業前の水準で年金額を計算する「みなし措置」が利用可能です。
産前産後休業・育児休業中は、申請により厚生年金保険料が免除されます。保険料負担はなくなりますが、厚生年金の被保険者期間として扱われるため、将来の年金額計算に反映され、特別支給の受給要件にも影響しません。
さらに「養育期間標準報酬月額のみなし措置」もあります。これは、3歳未満の子を養育するために時短勤務などで給与が下がった場合でも、年金額の計算上は休業前の賃金水準を維持したものとみなす特例です。この特例の適用には、在職中に年金事務所への申出が必要です。厚生年金加入者でない場合は、国民年金の産前産後期間の免除制度が利用できます。
注意点3:離婚時の「年金分割」は特別支給にも影響
離婚する場合、「年金分割」制度を利用して婚姻期間中の厚生年金記録を分割できます。これは将来の年金確保に直結し、「特別支給」の年金額にも影響します。制度には種類があり、請求期限も定められています。
年金分割は、離婚時の厚生年金記録を分ける制度で、特に専業主婦だった女性にとって重要です。「合意分割」は夫婦の合意に基づき、婚姻期間中の厚生年金記録の最大1/2を分割するものです。「3号分割」は、2008年4月以降の第3号被保険者期間について、相手の同意なしに厚生年金記録の1/2を分割できる制度です。
- 年金分割が成立すると、妻の将来の老齢厚生年金(特別支給を含む)が増え、夫は減ります。この請求は離婚成立後2年以内に行う必要があります。なお、離婚すると夫が死亡した際の遺族厚生年金は受け取れなくなるため、自身の年金を確保する上で年金分割は非常に重要です。
なお、公的年金の繰上げ・繰下げに関する損益分岐点に関しては、こちらの記事も参考にしてみてください。
この記事のまとめ
この特別支給の老齢厚生年金の目的と通常の年金との違い、生年月日別の受給開始年齢、受給要件、「もらえない人」になりやすいパターンなどを整理してきました。
まずは早見表とねんきん定期便・ねんきんネットで「自分はいつから・いくら・どの条件で受け取れそうか」を確認し、請求時期や働き方を具体的にイメージしてみてください。もし、在職しながらの受給や加給年金、65歳以降の繰下げなどで迷いが残る場合は、「投資のコンシェルジュ」の無料相談も活用しながら、ご自身にとって損のない受け取り方を一緒に整理していきましょう。

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投資のコンシェルジュ編集部は、投資銀行やアセットマネジメント会社の出身者、税理士など「金融のプロフェッショナル」が執筆・監修しています。 販売会社とは利害関係がないため、主に個人の資産運用に必要な情報を、正確にわかりやすく、中立性をもってコンテンツを作成しています。
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関連する専門用語
特別支給の老齢厚生年金
特別支給の老齢厚生年金とは、一定の年齢以上で厚生年金に長く加入していた人が、65歳になる前から受け取ることができる特別な年金制度です。現在の年金制度では、原則として老齢厚生年金の支給開始は65歳からとなっていますが、昭和36年4月1日以前に生まれた方については、60歳から65歳までの間に特別に年金を受け取れる仕組みが設けられています。 これは制度変更の経過措置として設けられたもので、年金制度が65歳支給開始に移行する過程で、不公平が生じないようにするための配慮です。受け取れる金額は、加入期間や報酬額などによって決まり、加給年金や特別加算がつく場合もあります。現在は新たにこの制度の対象になる人はいませんが、過去に対象となった方にとっては大切な収入源となっています。
老齢厚生年金
老齢厚生年金とは、会社員や公務員などが厚生年金保険に加入していた期間に応じて、原則65歳から受け取ることができる公的年金です。この年金は、基礎年金である「老齢基礎年金」に上乗せされる形で支給され、収入に比例して金額が決まる仕組みになっています。つまり、働いていたときの給与が高く、加入期間が長いほど受け取れる年金額も多くなります。また、一定の要件を満たせば、配偶者などに加算される「加給年金」も含まれることがあります。老後の生活をより安定させるための重要な柱となる年金です。
老齢基礎年金
老齢基礎年金とは、日本の公的年金制度の一つで、老後の最低限の生活を支えることを目的とした年金です。一定の加入期間を満たした人が、原則として65歳から受給できます。 受給資格を得るためには、国民年金の保険料納付済期間、免除期間、合算対象期間(カラ期間)を合計して10年以上の加入期間が必要です。年金額は、20歳から60歳までの40年間(480月)にわたる国民年金の加入期間に応じて決まり、満額受給には480月分の保険料納付が必要です。納付期間が不足すると、その分減額されます。 また、年金額は毎年の物価や賃金水準に応じて見直しされます。繰上げ受給(60~64歳)を選択すると減額され、繰下げ受給(66~75歳)を選択すると増額される仕組みになっています。 老齢基礎年金は、自営業者、フリーランス、会社員、公務員を問わず、日本国内に住むすべての人が加入する仕組みとなっており、老後の基本的な生活を支える重要な制度の一つです。
経過措置
経過措置とは、法律や制度が新しく変更・施行されたときに、すぐにすべての人や取引にその新制度を適用するのではなく、一定期間だけ旧制度や特例を認めることで、影響を緩やかにするための対応措置のことです。 資産運用や税制の分野では、例えば税率が上がる場合や控除制度が変わる場合に、それまでのルールで手続きした人に対しては旧ルールをしばらく適用し続ける、という形で使われます。 これにより、投資家や納税者が急な制度変更による不利益や混乱を避けられるようになります。ただし、経過措置には期限があるため、その適用期間や条件をよく確認しておくことが大切です。
加給年金
加給年金とは、厚生年金に加入していた人が老齢厚生年金を受け取る際に、一定の条件を満たしていれば上乗せして支給される年金のことです。主に、年金を受け取る人に扶養している配偶者や子どもがいる場合に支給されます。この制度は、家族の生活を支えることを目的としており、会社員などが退職後に受け取る厚生年金にプラスされるかたちで支給されます。 ただし、配偶者や子どもが一定の年齢や収入要件を超えていると対象外になることがあります。つまり、定年後の生活を家族と一緒に支えていく仕組みの一つといえます。
振替加算
振替加算とは、国民年金の制度において、老齢厚生年金を受け取る配偶者に対して加算される年金の一部です。具体的には、配偶者が一定の要件を満たし、かつ自分自身の基礎年金を満額もらえない(たとえば国民年金の加入期間が短い)場合に、老齢厚生年金に上乗せして支給されるものです。この制度は、年金制度が整備される以前に結婚・子育てをしていた専業主婦(主夫)などが不利にならないように設けられました。受給の条件には、生年月日や配偶者との関係、国民年金の納付状況などが関係します。資産運用や老後の生活設計においては、年金収入の見込みを正しく把握するために、振替加算の有無は重要な確認ポイントの一つです。
失業保険
失業保険とは、正式には「雇用保険の基本手当」と呼ばれ、働いていた人が離職し、一定の条件を満たして失業状態になったときに生活を支えるために支給される給付金のことです。 この制度は、雇用保険に加入していた人が対象となり、仕事を失った後も再就職までの間、一定期間収入を確保できるように設けられています。受給するためには、ハローワークで求職の申し込みを行い、失業認定を受ける必要があります。また、自己都合退職か会社都合退職かによって、給付開始までの待機期間や受給日数が変わるのも特徴です。失業保険は一時的な収入支援だけでなく、再就職に向けた活動を促す役割も担っています。
繰下げ受給
繰下げ受給とは、本来65歳から支給される公的年金(老齢基礎年金や老齢厚生年金など)の受け取り開始を自分の希望で後ろ倒しにする制度です。66歳以降、最大75歳まで1か月単位で繰り下げることができ、遅らせた月数に応じて年金額が恒久的に増えます。 増額率は1か月当たり0.7%で、10年(120か月)繰り下げた場合にはおよそ84%の上乗せとなるため、長生きするほどトータルの受取額が増えやすい仕組みです。ただし、繰下げた期間中は年金を受け取れないため、その間の生活資金や健康状態、就労収入の見通しを踏まえて慎重に検討することが大切です。
ねんきん定期便
ねんきん定期便とは、日本年金機構が毎年1回、すべての年金加入者に対して送付する通知書のことです。この通知には、これまでの年金加入期間や納付状況、将来受け取れる年金の見込額などが記載されており、自分の年金記録を確認できる大切な資料です。 特に35歳、45歳、59歳の節目の年齢には、より詳しい内容が記載された特別バージョンが届きます。自分の年金情報に誤りがないか確認したり、老後の生活設計を考えたりするうえで、非常に役立つ資料です。資産運用やライフプランを立てる際にも、将来受け取れる公的年金の見込み額を把握することは重要な出発点になります。
ねんきんネット
ねんきんネットとは、日本年金機構が提供しているオンラインサービスで、自分の年金に関する情報をインターネット上で確認できる仕組みです。年金の加入履歴や将来の年金受取見込み額、保険料の納付状況などを、自宅のパソコンやスマートフォンからいつでも確認できます。 ログインには基礎年金番号やマイナンバーが必要で、安全性にも配慮されています。紙の通知だけではわかりにくかった年金情報を自分で管理できるようになるため、資産運用や老後の生活設計を考えるうえで非常に便利なツールです。
年金事務所
年金事務所とは、日本の公的年金制度に関するさまざまな手続きや相談を受け付ける国の機関です。主に日本年金機構が運営しており、厚生年金や国民年金の加入、保険料の納付、受給に関する手続きや質問に対応しています。会社員や自営業の方、年金をこれから受け取る予定の方など、すべての人が自分の年金に関することを確認したり、相談したりする場所です。 たとえば、「年金をいつからもらえるのか」や「どれくらいの金額になるのか」などの情報を知りたいときには、この年金事務所を訪れることで、詳しい案内を受けることができます。
時効
時効とは、一定の期間が経過することで、法律上の権利が消滅したり、逆に新たに取得されたりする制度のことです。 これは、長いあいだ権利を行使しなかった場合や、反対に長期間にわたって安定的に事実関係が続いた場合に、法的な区切りをつけるために設けられています。 代表的なものとして、以下の2つがあります。 - 消滅時効:たとえば、お金を貸していたとしても、一定期間請求しないままでいると、その請求する権利が消滅してしまうことがあります。 - 取得時効:他人の土地を長年にわたって平穏に、かつ継続して使い続けていた場合には、その土地の所有権を取得できることがあります。 このように時効制度は、社会の秩序や公平性を保つために重要なルールです。 権利や財産の状態をいつまでも不安定なままにせず、一定のタイミングで「けじめ」をつける仕組みといえます。 資産運用や相続の場面でも、債権の管理や財産の引き継ぎにおいて影響を及ぼす可能性があるため、基本的なしくみを理解しておくことが大切です。
雑所得
雑所得(ざつしょとく)とは、所得税法において定められた10種類の所得のうち、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得、一時所得のいずれにも該当しない所得を指します。具体的には、公的年金や副業による収入、仮想通貨の売却益、FXの利益、非営業用貸金の利子などが該当します。 経費を差し引いた金額が課税対象となり、総合課税の対象となります。また、雑所得が年間20万円を超える場合、確定申告が必要になります。
公的年金等控除
公的年金等控除とは、年金を受け取っている人の所得税や住民税を計算する際に、年金収入から一定額を差し引ける控除制度です。これにより課税対象となる金額が減り、税負担を軽減できます。 対象となるのは、国民年金・厚生年金・共済年金などの「公的年金」に限られます。これらは所得税法上の「公的年金等」に分類され、控除の対象となります。 一方で、iDeCo(個人型確定拠出年金)や企業型DC、個人年金保険などは、たとえ年金形式で受け取ったとしても税法上は「公的年金等」に該当せず、公的年金等控除の対象外です。これらは「雑所得(その他)」として課税されます。 控除額は受給者の年齢と年金収入の額に応じて異なり、特に65歳以上の高齢者には手厚い控除が設けられています。 | 年齢 | 公的年金等の収入額 | 控除額 | | --- | --- | --- | | 65歳未満 | 130万円以下 | 60万円 | | | 130万円超〜410万円以下 | 収入額 × 25% + 37.5万円 | | | 410万円超〜770万円以下 | 収入額 × 15% + 78.5万円 | | | 770万円超 | 一律195.5万円 | | 65歳以上 | 330万円以下 | 110万円 | | | 330万円超〜410万円以下 | 収入額 × 25% + 27.5万円 | | | 410万円超〜770万円以下 | 収入額 × 15% + 68.5万円 | | | 770万円超 | 一律195.5万円 | たとえば、65歳以上で年金収入が250万円であれば、110万円の控除が適用され、課税対象となる所得は140万円に圧縮されます。


