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特別支給の老齢基礎年金とは? (2)

特別支給の老齢厚生年金とは?手続きや支給金額、デメリットやもらえない人まで徹底解説

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執筆者:

公開:

2025.09.05

更新:

2025.09.05

公的年金

特別支給の老齢厚生年金は、1985年の制度改正により年金支給開始年齢が65歳へ引き上げられた際の経過措置として設けられた制度です。対象となる生年月日や加入期間を満たす人は60歳代前半から年金を受け取れますが、請求をしないと時効で受け取れない分が発生します。また、在職中の支給停止や失業給付との関係など、見落とすと損をする仕組みもあります。この記事では、受給開始年齢の確認方法から手続きの流れ、注意すべきリスクまで整理して解説します。

サクッとわかる!簡単要約

この記事を読むと、自分が特別支給の老齢厚生年金を「いつから」「いくら」受け取れるかを整理でき、手続きの見落としや損失を防ぐ行動につなげられます。男性1961年、女性1966年生まれまでが対象で、在職中は給与と年金の合計が51万円を超えると支給停止となるなど注意が必要です。さらに、請求を怠ると5年で時効となるリスクも解説。読むことで、受給開始の流れやリスクを把握し、自信を持って備えられるようになります。

目次

そもそも「特別支給の老齢厚生年金」とは?制度の目的と通常の年金との違い

なぜもらえる?65歳前に年金が支給される目的と制度の背景

通常の老齢厚生年金との主な違い

特別支給の老齢厚生年金をもらえる人の3つの受給要件

1. 生年月日・年齢の要件:男性は昭和36年、女性は昭和41年4月1日以前生まれ

2. 年金加入期間の要件:厚生年金1年以上+受給資格10年以上

例外:44年特例や障害者特例に該当する場合

年金の受給開始年齢がわかる男女別・生年月日早見表

早見表のポイントと年齢計算の注意点

年金額はいくら?受給額の計算方法と「ねんきんネット」での確認手順

年金額を決める2つの要素:「定額部分」と「報酬比例部分」とは

自分の年金見込額をシミュレーション・確認する3つの方法

特別支給の老齢厚生年金を受け取るための手続きと必要書類

手続きの全体像:請求書の到着から初回振込までの5ステップ

いつ何をする?請求のタイミングと提出先

年金請求手続きの必要書類一覧

年金の申請から受給までの期間は?初回振込はいつになる?

知らないと損する5つの落とし穴:デメリットと注意点

1. 働きながらもらうと減額?「在職老齢年金」による支給停止

2. 失業保険(基本手当)と同時に受け取れない点に注意

3. 年金に税金はかかる?確定申告・年末調整のポイント

4. 請求し忘れると時効で消滅!5年以内に手続きを

5. 繰下げ受給はできない!65歳からの年金との違い

65歳になったらどうなる?本来の老齢年金への切り替え手続き

特別支給が終了し、老齢基礎年金・老齢厚生年金の受給が開始

切り替えも自動ではない!65歳になる3ヶ月前に届く請求書の提出が必要

参考:65歳からの年金は「繰下げ受給」で増やす選択肢も

働き方でどう変わる?4つのケーススタディ

ケース1:在職中で収入がある場合(在職老齢年金)

ケース2:60歳で定年退職し、すぐに年金を受け取りたい場合

ケース3:扶養している配偶者がいる場合(加給年金)

ケース4:請求を忘れていた…65歳を過ぎてから気づいた場合

そもそも「特別支給の老齢厚生年金」とは?制度の目的と通常の年金との違い

特別支給の老齢厚生年金は、年金の支給開始年齢が65歳に引き上げられた際の経過措置として設けられました。なぜ65歳前に年金がもらえるのか、その目的と背景を解説します。

また、65歳から受け取る本来の老齢厚生年金とは何が違うのか、受給期間や繰下げ制度の有無といった重要なポイントを比較し、制度の全体像をわかりやすく説明します。

年金の種類については以下Q&Aでも説明しています。

なぜもらえる?65歳前に年金が支給される目的と制度の背景

特別支給の老齢厚生年金とは、老齢厚生年金の支給開始年齢が60歳から65歳へ引き上げられたことに伴い、スムーズな移行を目的として設けられた制度です。1985年の法改正で生じた60歳代前半の収入がない期間を補うため、一定の条件を満たす人を対象に、本来65歳から受け取る年金の一部を先行して支給する仕組みです。

通常の老齢厚生年金との主な違い

この制度は、65歳から生涯受け取れる本来の老齢厚生年金とは異なる点がいくつかあります。特に重要な違いは以下の通りです。

  • 受給期間:65歳になるまでの期間限定の給付です。
  • 繰下げ受給:受給開始を遅らせて年金額を増やす「繰下げ受給」の制度はありません。

このため、特別支給の受給資格が発生した際は、時効にかからないよう速やかに請求手続きを行うことが大切です。

特別支給の老齢厚生年金をもらえる人の3つの受給要件

特別支給の老齢厚生年金を受け取るには、主に3つの受給要件をすべて満たす必要があります。ご自身が対象となるか、以下の項目で確認してみましょう。

1. 生年月日・年齢の要件:男性は昭和36年、女性は昭和41年4月1日以前生まれ

まず、対象となる生年月日が定められています。男性は1961年(昭和36年)4月1日、女性は1966年(昭和41年)4月1日以前に生まれた方が原則的な対象です。その上で、ご自身の生年月日に応じて個別に決められた支給開始年齢に到達している必要があります。

2. 年金加入期間の要件:厚生年金1年以上+受給資格10年以上

次に、年金の加入期間に関する要件です。国民年金や厚生年金の保険料を納めた期間などを合計した「老齢基礎年金の受給資格期間」が10年以上必要です。加えて、会社員や公務員として厚生年金保険に加入していた期間が通算で1年以上なければなりません。

例外:44年特例や障害者特例に該当する場合

原則として上記の要件を満たす必要がありますが、一部例外となる特例措置があります。生年月日の要件を満たさない方でも、以下のようなケースでは対象となる場合があります。

  • 厚生年金の加入期間が44年以上ある(長期加入者特例)
  • 障害等級1級から3級のいずれかに該当する
  • 坑内員や船員として15年以上勤務した経歴がある

これらの特例は適用されるケースが限られます。多くの場合、前述した3つの基本要件をすべて満たすことで、特別支給の老齢厚生年金を請求できます。

年金の受給開始年齢がわかる男女別・生年月日早見表

特別支給の老齢厚生年金の受給開始年齢は、ご自身の生年月日と性別によって細かく定められています。年金額は「報酬比例部分」(現役時代の収入に応じる部分)と「定額部分」(加入期間に応じる部分)で構成され、それぞれ支給が始まる年齢が異なる点が重要です。

報酬比例部分の開始年齢定額部分の開始年齢対象となる生年月日(男性)対象となる生年月日(女性)
60歳60歳~ 1941年4月1日~ 1946年4月1日
60歳61歳1941年4月2日~1943年4月1日1946年4月2日~1948年4月1日
60歳62歳1943年4月2日~1945年4月1日1948年4月2日~1950年4月1日
60歳63歳1945年4月2日~1947年4月1日1950年4月2日~1952年4月1日
60歳64歳1947年4月2日~1949年4月1日1952年4月2日~1954年4月1日
60歳(支給なし)1949年4月2日~1953年4月1日1954年4月2日~1958年4月1日
61歳(支給なし)1953年4月2日~1955年4月1日1958年4月2日~1960年4月1日
62歳(支給なし)1955年4月2日~1957年4月1日1960年4月2日~1962年4月1日
63歳(支給なし)1957年4月2日~1959年4月1日1962年4月2日~1964年4月1日
64歳(支給なし)1959年4月2日~1961年4月1日1964年4月2日~1966年4月1日
(受給資格なし)(受給資格なし)1961年4月2日以降1966年4月2日以降

早見表のポイントと年齢計算の注意点

表の通り、男性は1961年4月1日、女性は1966年4月1日以前に生まれた方が対象です。生年月日が遅くなるにつれて定額部分の支給が段階的になくなり、最終的には報酬比例部分のみが支給対象となることが分かります。

また、年齢の計算方法にも注意が必要です。法律上、年齢は「誕生日の前日」に到達するとみなされます。例えば60歳から受給できる方は、60歳の誕生日の前日から請求手続きが可能になります。

年金額はいくら?受給額の計算方法と「ねんきんネット」での確認手順

特別支給の老齢厚生年金の年金額は、「報酬比例部分」と「定額部分」の2つで構成されます。これは65歳からの年金と同様の内訳ですが、特別支給の期間中は生年月日により定額部分が支給されない場合がある点に注意が必要です。

年金額を決める2つの要素:「定額部分」と「報酬比例部分」とは

年金額は主に「定額部分」と「報酬比例部分」という2つの要素で決まります。それぞれがどのような性質を持つのか、計算の基礎となる考え方を解説します。また、条件を満たすと加算される「加給年金」についても説明し、ご自身の受給額の全体像を掴む手助けをします。

「定額部分」とは?老齢基礎年金に相当する部分

定額部分は、65歳から受け取る老齢基礎年金に相当する部分を補完する役割を持つ、加入期間に応じた一定額の年金です。ただし、この定額部分が支給されるのは、原則として男性は1949年4月1日、女性は1954年4月1日以前に生まれた方に限られます。支給される場合の金額は、加入月数に比例して増え、加入1月あたり約1,700円を基準に計算されます(上限480月)。

「報酬比例部分」とは?現役時代の給与に応じて決まる部分

報酬比例部分は、厚生年金の加入期間中の給与や賞与に応じて計算される年金です。現役時代の収入と加入月数などに基づいて金額が決まるため、収入が高く、加入期間が長いほど受給額は多くなります。特別支給の老齢厚生年金の対象者であれば、この報酬比例部分が年金額の基本となります。

加給年金額(扶養手当的な加算)

加給年金とは、条件を満たす場合に年金に上乗せされる、扶養手当のような制度です。主に以下の条件をすべて満たす場合に加算の対象となります。

  • 厚生年金の加入期間が20年以上ある
  • 65歳未満の配偶者や18歳未満の子などの扶養家族がいる
  • 特別支給の老齢厚生年金の「定額部分」が支給される

加算額は2023年度の価格で配偶者1人につき年額223,800円などと定められています。なお、配偶者が65歳になるとこの加算は終了し、代わりに配偶者自身の年金に「振替加算」がつく場合があります。

加給年金については以下記事で詳しく解説しています。

自分の年金見込額をシミュレーション・確認する3つの方法

ご自身の特別支給の老齢厚生年金がいくらになるか、事前に概算額を確認する方法があります。主な確認方法は以下の通りです。

1. ねんきん定期便を確認する

毎年誕生月に届く「ねんきん定期便」で確認できます。50歳以上の方の場合、60歳から64歳の間に受け取れる特別支給の老齢厚生年金の見込額が記載されていますので、まずは最新の通知書を見て、何歳からいくら受け取れるのかを把握しましょう。

2. ねんきんネットで試算する

日本年金機構のウェブサイト「ねんきんネット」でも、ご自身の加入記録に基づいた年金額の試算が可能です。ただし、この試算機能は65歳以降の年金額が対象のため、特別支給の老齢厚生年金の額は直接表示されない点に注意してください。

ねんきんネットへの登録と注意点は以下Q&Aでも説明しています。

3. 年金事務所に相談する

最も正確な見込額や個別の状況について知りたい場合は、お近くの年金事務所や街角の年金相談センターで相談するのが確実です。特に受給開始年齢が近い方や、働きながら受け取る場合の減額について詳しく知りたい方は、専門機関に相談することをおすすめします。

特別支給の老齢厚生年金を受け取るための手続きと必要書類

年金は権利が発生しても自動では受け取れないため、受給開始年齢に達したら自ら請求手続きを行う必要があります。特別支給の老齢厚生年金を受け取るための、手続きの流れと留意点を解説します。

手続きの全体像:請求書の到着から初回振込までの5ステップ

手続きの大まかな流れは、「①年金請求書の到着」→「②必要書類の準備」→「③請求書の提出」→「④審査」→「⑤初回振込」という5段階で進みます。各ステップの詳細は以下で解説します。

いつ何をする?請求のタイミングと提出先

年金請求は適切なタイミングで行うことが重要です。ここでは、いつ日本年金機構から案内が届き、いつから請求書を提出できるのかを解説します。また、どこに提出すればよいのか、手続きの場所についても具体的に説明します。

受給開始年齢の3ヶ月前に日本年金機構から書類が届く

特別支給の受給資格を満たす方には、受給開始年齢に達する約3か月前に、日本年金機構から氏名や加入記録などがあらかじめ印字された年金請求書が郵送されます。同封の案内に従い、内容を確認して準備を進めましょう。ただし、この時点ではまだ提出しません。

なお、厚生年金加入期間が1年未満の方は、代わりに「年金に関するお知らせ(ハガキ)」が届きます。その場合、65歳からの年金を請求するための書類が、65歳になる3か月前に改めて送付されます。

請求書の提出は「受給開始年齢に達した日」以降

年金請求書は、受給権が発生する「受給開始年齢に到達した日」以降に提出します。法律上、年齢は誕生日の前日に到達するとみなされるため、例えば60歳になる方は、60歳の誕生日の前日から提出可能です。提出先は、原則としてお住まいの地域を管轄する年金事務所となります。近年は、マイナンバーを利用した公金受取口座を登録していれば、金融機関での口座証明や通帳コピーの添付を省略できます。

年金請求手続きの必要書類一覧

年金の請求手続きには、請求書以外にもいくつかの書類が必要です。ご自身の状況に合わせて準備しましょう。主な必要書類は以下の通りです。

<基本となる書類>

  • 年金手帳または基礎年金番号通知書
  • 本人確認書類(マイナンバーカード、運転免許証など)
  • 受取先金融機関の通帳など(口座番号がわかるもの)

<配偶者や子がいる場合(加給年金の対象となるとき)>

  • 戸籍謄本
  • 世帯全員の住民票の写し
  • 配偶者や子の収入が確認できる書類など。
  • 注:マイナンバーを提出することで、一部の書類は省略可能です

これらの書類は、原則として受給権発生日以降に発行されたものを準備してください。

年金の申請から受給までの期間は?初回振込はいつになる?

年金請求書を提出してから、実際に年金が振り込まれるまでには一定の期間がかかります。ここでは、書類提出後の審査期間の目安と、初回の年金がいつ、どのように支払われるのか、具体的なスケジュールについて解説します。

書類を提出すると、日本年金機構で審査が行われ、1~2か月ほどで年金証書・裁定通知書が届きます。初回の年金が振り込まれるのは、受給権が発生してから最初に迎える偶数月の15日です。例えば、4月1日に受給権が発生した場合、初回の支払いは6月15日となります。年金は2か月分がまとめて支払われるため、6月15日には4月・5月分の年金が振り込まれます。

知らないと損する5つの落とし穴:デメリットと注意点

特別支給の老齢厚生年金には、事前に知っておかないと損をしてしまう可能性のある注意点があります。ここでは特に重要な5つのポイントを解説しますので、受け取る前に必ず確認しておきましょう。

1. 働きながらもらうと減額?「在職老齢年金」による支給停止

特別支給の老齢厚生年金を受け取りながら厚生年金に加入して働く場合、給与と年金の合計額によっては年金の一部または全部が支給停止されます。これを「在職老齢年金制度」といいます。

2025年度の基準では、毎月の給与(標準報酬月額)と年金額(月額)の合計が51万円を超えると、超えた額の半分が年金から減額される仕組みです。例えば、給与45万円・年金月額10万円(合計55万円)の場合、基準額を4万円超えるため、その半分の2万円が支給停止となります。

ただし、支給停止になったとしても、厚生年金保険料を払い続けることで、65歳以降に受け取る本来の老齢厚生年金額は増えていきます。

2. 失業保険(基本手当)と同時に受け取れない点に注意

ハローワークで求職の申込みを行い、失業保険(雇用保険の基本手当)を受け取っている期間は、特別支給の老齢厚生年金は全額支給停止となります。両方を同時に受け取ることはできないため、どちらかを選択する必要があります。一般的に失業保険の方が給付額は高い傾向にあるため、退職後はまず失業保険を受給し、その期間が終わってから年金を請求する方が有利な場合があります。

3. 年金に税金はかかる?確定申告・年末調整のポイント

特別支給の老齢厚生年金は、雑所得として所得税・住民税の課税対象となります。ただし、公的年金等控除があるため、年金収入のみで年間110万円(65歳未満の場合)程度までであれば、所得税はかからない計算になります。

年金額が年間400万円以下で、年金以外の所得が20万円以下など一定の条件を満たす場合は確定申告が不要になる制度もありますが、年金も課税対象であることは覚えておきましょう。

年金にかかる税金については以下記事で詳しく解説しています。

4. 請求し忘れると時効で消滅!5年以内に手続きを

年金の受け取り権利には5年の時効があります。権利が発生してから5年が経過した分は、さかのぼって受け取ることができなくなります。例えば、60歳から受給できる方が手続きを忘れたまま66歳で請求した場合、5年を過ぎた60歳から61歳になるまでの1年分は時効で消滅してしまいます。受給権が発生したら、忘れずに5年以内に請求手続きを行いましょう。

5. 繰下げ受給はできない!65歳からの年金との違い

65歳から受け取る本来の老齢年金は、受給開始を遅らせる「繰下げ受給」によって年金額を増やすことができます。しかし、65歳になるまでの特別支給の老齢厚生年金にこの制度はありません。受給を先延ばしにしても年金額は増えず、むしろ時効で権利を失うリスクがあるだけです。対象年齢に達したら、速やかに請求するのが原則です。

65歳になったらどうなる?本来の老齢年金への切り替え手続き

特別支給の老齢厚生年金は65歳までの一時的な措置であるため、受給者が65歳に達すると支給が終了します。その後は、生涯にわたって受け取れる本来の老齢年金(老齢基礎年金と老齢厚生年金)に切り替わります。

特別支給が終了し、老齢基礎年金・老齢厚生年金の受給が開始

65歳になると、それまでの特別支給の老齢厚生年金は終了し、新たに本来の年金を受け取る権利が生まれます。ここでは、65歳から受け取る年金の種類と、その金額がどのように決まるのか、基本的な仕組みについて解説します。

65歳からは、「老齢基礎年金」と「老齢厚生年金」の2種類を受け取ることになります。老齢基礎年金の額は加入期間に応じて決まり、2025年度では満額で年約83万円です。老齢厚生年金の額は、特別支給で受け取っていた報酬比例部分が基本となり、60歳代前半に働きながら年金を受け、支給停止されていた分がある場合は、その分も反映されて再計算されます。

切り替えも自動ではない!65歳になる3ヶ月前に届く請求書の提出が必要

特別支給の老齢厚生年金を受け取っていた方も、65歳からの年金は自動的には始まりません。最も重要な注意点は、ご自身で改めて請求手続きが必要だということです。具体的な手続きの流れと、忘れてはいけないポイントを説明します。

65歳になる約3か月前に、日本年金機構から「年金請求書(国民年金・厚生年金保険 老齢給付)」が郵送されます。これは、65歳から本来の老齢基礎年金と老齢厚生年金を受け取るための重要な書類です。特別支給を受けていた方も、この請求書を提出しない限り、特に老齢基礎年金は支給されません。「手続きは不要」という誤解をしないよう、必ず提出してください。

参考:65歳からの年金は「繰下げ受給」で増やす選択肢も

65歳から受け取る本来の年金には、特別支給にはなかった柔軟な選択肢があります。その一つが、受給開始を遅らせて年金額を増やす「繰下げ受給」です。ご自身のライフプランに合わせて検討できるこの制度の概要を紹介します。

65歳から受け取る年金は、受給開始を66歳以降75歳までの間に遅らせることで、1か月あたり0.7%ずつ年金額を増額できます。例えば70歳まで繰り下げると42%、上限の75歳まで繰り下げると84%増額された年金を生涯受け取ることが可能です。ライフプランに応じて、こうした選択肢も検討することができます。

年金の繰り上げ・繰り下げについては以下Q&Aでも説明しています。

働き方でどう変わる?4つのケーススタディ

最後に、特別支給の老齢厚生年金についてありがちな状況をケーススタディ形式で紹介します。ご自身の状況に近い例を参考に、制度のポイントを確認してみましょう。

ケース1:在職中で収入がある場合(在職老齢年金)

例えば、60歳で役職定年後も月50万円ほどの給与で働き続けたBさんのケースです。Bさんは昭和30年生まれのため、61歳から報酬比例部分を受け取る権利がありましたが、「働いている間はもらえないだろう」と考え、請求していませんでした。

63歳で退職した際に請求したところ、幸い時効(5年)にはかからず、さかのぼって受け取ることができました。しかし、在職中の期間は収入が高く、在職老齢年金の仕組みによって年金が全額支給停止となる計算だったため、実際に支給されたのは退職後の63歳から64歳までの分のみでした。

このように収入が高い場合、請求を後回しにする判断も一つですが、請求自体は65歳になる前に必ず行いましょう。

ケース2:60歳で定年退職し、すぐに年金を受け取りたい場合

次に、60歳で定年退職し、すぐに年金生活に入りたいAさんのケースを見てみましょう。昭和32年生まれのAさんは、62歳から報酬比例部分が支給される世代です。Aさんは定年退職して収入がなくなったため、62歳になると同時に満額の年金を受け取ることができました。

もし請求を忘れていると、その間は無収入の期間が生まれてしまいます。Aさんのように退職後すぐに請求したことで、収入の空白期間を作らずに済みました。

また、扶養している妻がいたため、Aさん自身が65歳になると、妻が65歳になるまで加給年金を受け取れる見込みです。

ケース3:扶養している配偶者がいる場合(加給年金)

配偶者がいる場合の加給年金がポイントとなるCさんのケースです。昭和24年生まれのCさんは、20年以上厚生年金に加入し、60歳で退職。扶養する妻Dさんがいたため、特別支給の老齢厚生年金に加えて加給年金も受け取っていました。

しかし、妻Dさんが65歳になると、妻自身の老齢基礎年金の受給権が発生するため、Cさんに支給されていた配偶者の加給年金は停止となります。

このように、加給年金は配偶者が65歳になるまでの期間限定の加算です。その後は夫婦それぞれが自身の年金を受け取る形に変わります。

ケース4:請求を忘れていた…65歳を過ぎてから気づいた場合

では、もし請求を忘れたまま65歳を過ぎてしまったらどうなるでしょうか。年金の受け取り権利には5年の時効がありますが、5年以内であれば、過ぎてしまってもさかのぼって請求することが可能です。

例えば62歳から受け取れた方が67歳で請求した場合、過去5年分にあたる62歳から67歳の誕生日前月までの分は受け取れます。

しかし、70歳で請求したような場合は、5年以上前の期間は時効で権利が消滅しているため、全額は受け取れません。請求忘れに気づいたら、できるだけ早く年金事務所へ相談しましょう。

この記事のまとめ

特別支給の老齢厚生年金は、60歳代前半の生活を支えるための限定的な制度であり、繰下げはできません。対象となる生年月日や加入期間を必ず確認し、受給開始年齢の3か月前に届く請求書をもとに忘れずに手続きを進めることが重要です。在職中の支給停止や失業給付との併給不可、請求漏れによる時効消滅などのリスクもあるため、早めに把握して備えることが安心につながります。迷ったときは年金事務所へ相談し、確実な受給に向けて準備を整えましょう。

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特別支給の老齢厚生年金とは、一定の年齢以上で厚生年金に長く加入していた人が、65歳になる前から受け取ることができる特別な年金制度です。現在の年金制度では、原則として老齢厚生年金の支給開始は65歳からとなっていますが、昭和36年4月1日以前に生まれた方については、60歳から65歳までの間に特別に年金を受け取れる仕組みが設けられています。 これは制度変更の経過措置として設けられたもので、年金制度が65歳支給開始に移行する過程で、不公平が生じないようにするための配慮です。受け取れる金額は、加入期間や報酬額などによって決まり、加給年金や特別加算がつく場合もあります。現在は新たにこの制度の対象になる人はいませんが、過去に対象となった方にとっては大切な収入源となっています。

老齢厚生年金

老齢厚生年金とは、会社員や公務員などが厚生年金保険に加入していた期間に応じて、原則65歳から受け取ることができる公的年金です。この年金は、基礎年金である「老齢基礎年金」に上乗せされる形で支給され、収入に比例して金額が決まる仕組みになっています。つまり、働いていたときの給与が高く、加入期間が長いほど受け取れる年金額も多くなります。また、一定の要件を満たせば、配偶者などに加算される「加給年金」も含まれることがあります。老後の生活をより安定させるための重要な柱となる年金です。

老齢基礎年金

老齢基礎年金とは、日本の公的年金制度の一つで、老後の最低限の生活を支えることを目的とした年金です。一定の加入期間を満たした人が、原則として65歳から受給できます。 受給資格を得るためには、国民年金の保険料納付済期間、免除期間、合算対象期間(カラ期間)を合計して10年以上の加入期間が必要です。年金額は、20歳から60歳までの40年間(480月)にわたる国民年金の加入期間に応じて決まり、満額受給には480月分の保険料納付が必要です。納付期間が不足すると、その分減額されます。 また、年金額は毎年の物価や賃金水準に応じて見直しされます。繰上げ受給(60~64歳)を選択すると減額され、繰下げ受給(66~75歳)を選択すると増額される仕組みになっています。 老齢基礎年金は、自営業者、フリーランス、会社員、公務員を問わず、日本国内に住むすべての人が加入する仕組みとなっており、老後の基本的な生活を支える重要な制度の一つです。

経過措置

経過措置とは、法律や制度が新しく変更・施行されたときに、すぐにすべての人や取引にその新制度を適用するのではなく、一定期間だけ旧制度や特例を認めることで、影響を緩やかにするための対応措置のことです。 資産運用や税制の分野では、例えば税率が上がる場合や控除制度が変わる場合に、それまでのルールで手続きした人に対しては旧ルールをしばらく適用し続ける、という形で使われます。 これにより、投資家や納税者が急な制度変更による不利益や混乱を避けられるようになります。ただし、経過措置には期限があるため、その適用期間や条件をよく確認しておくことが大切です。

加給年金

加給年金とは、厚生年金に加入していた人が老齢厚生年金を受け取る際に、一定の条件を満たしていれば上乗せして支給される年金のことです。主に、年金を受け取る人に扶養している配偶者や子どもがいる場合に支給されます。この制度は、家族の生活を支えることを目的としており、会社員などが退職後に受け取る厚生年金にプラスされるかたちで支給されます。 ただし、配偶者や子どもが一定の年齢や収入要件を超えていると対象外になることがあります。つまり、定年後の生活を家族と一緒に支えていく仕組みの一つといえます。

振替加算

振替加算とは、国民年金の制度において、老齢厚生年金を受け取る配偶者に対して加算される年金の一部です。具体的には、配偶者が一定の要件を満たし、かつ自分自身の基礎年金を満額もらえない(たとえば国民年金の加入期間が短い)場合に、老齢厚生年金に上乗せして支給されるものです。この制度は、年金制度が整備される以前に結婚・子育てをしていた専業主婦(主夫)などが不利にならないように設けられました。受給の条件には、生年月日や配偶者との関係、国民年金の納付状況などが関係します。資産運用や老後の生活設計においては、年金収入の見込みを正しく把握するために、振替加算の有無は重要な確認ポイントの一つです。

標準報酬月額

標準報酬月額(ひょうじゅんほうしゅうげつがく)とは、日本の社会保険制度において、健康保険や厚生年金保険の保険料や給付額を計算する基準となる月額報酬のことを指します。これは、従業員の給与や賃金を基にして決定されますが、月ごとの変動を考慮して一定の範囲に分類されます。 <計算対象の例> 基本給、能率給、奨励給、役付手当、職階手当、特別勤務手当、勤務地手当、物価手当、日直手当、宿直手当、家族手当、休職手当、通勤手当、住宅手当、別居手当、早出残業手当、継続支給する見舞金等、事業所から現金または現物で支給されるもの

失業保険

失業保険とは、正式には「雇用保険の基本手当」と呼ばれ、働いていた人が離職し、一定の条件を満たして失業状態になったときに生活を支えるために支給される給付金のことです。 この制度は、雇用保険に加入していた人が対象となり、仕事を失った後も再就職までの間、一定期間収入を確保できるように設けられています。受給するためには、ハローワークで求職の申し込みを行い、失業認定を受ける必要があります。また、自己都合退職か会社都合退職かによって、給付開始までの待機期間や受給日数が変わるのも特徴です。失業保険は一時的な収入支援だけでなく、再就職に向けた活動を促す役割も担っています。

繰下げ受給

繰下げ受給とは、本来65歳から支給される公的年金(老齢基礎年金や老齢厚生年金など)の受け取り開始を自分の希望で後ろ倒しにする制度です。66歳以降、最大75歳まで1か月単位で繰り下げることができ、遅らせた月数に応じて年金額が恒久的に増えます。 増額率は1か月当たり0.7%で、10年(120か月)繰り下げた場合にはおよそ84%の上乗せとなるため、長生きするほどトータルの受取額が増えやすい仕組みです。ただし、繰下げた期間中は年金を受け取れないため、その間の生活資金や健康状態、就労収入の見通しを踏まえて慎重に検討することが大切です。

ねんきん定期便

ねんきん定期便とは、日本年金機構が毎年1回、すべての年金加入者に対して送付する通知書のことです。この通知には、これまでの年金加入期間や納付状況、将来受け取れる年金の見込額などが記載されており、自分の年金記録を確認できる大切な資料です。 特に35歳、45歳、59歳の節目の年齢には、より詳しい内容が記載された特別バージョンが届きます。自分の年金情報に誤りがないか確認したり、老後の生活設計を考えたりするうえで、非常に役立つ資料です。資産運用やライフプランを立てる際にも、将来受け取れる公的年金の見込み額を把握することは重要な出発点になります。

ねんきんネット

ねんきんネットとは、日本年金機構が提供しているオンラインサービスで、自分の年金に関する情報をインターネット上で確認できる仕組みです。年金の加入履歴や将来の年金受取見込み額、保険料の納付状況などを、自宅のパソコンやスマートフォンからいつでも確認できます。 ログインには基礎年金番号やマイナンバーが必要で、安全性にも配慮されています。紙の通知だけではわかりにくかった年金情報を自分で管理できるようになるため、資産運用や老後の生活設計を考えるうえで非常に便利なツールです。

年金事務所

年金事務所とは、日本の公的年金制度に関するさまざまな手続きや相談を受け付ける国の機関です。主に日本年金機構が運営しており、厚生年金や国民年金の加入、保険料の納付、受給に関する手続きや質問に対応しています。会社員や自営業の方、年金をこれから受け取る予定の方など、すべての人が自分の年金に関することを確認したり、相談したりする場所です。 たとえば、「年金をいつからもらえるのか」や「どれくらいの金額になるのか」などの情報を知りたいときには、この年金事務所を訪れることで、詳しい案内を受けることができます。

時効

時効とは、一定の期間が経過することで、法律上の権利が消滅したり、逆に新たに取得されたりする制度のことです。 これは、長いあいだ権利を行使しなかった場合や、反対に長期間にわたって安定的に事実関係が続いた場合に、法的な区切りをつけるために設けられています。 代表的なものとして、以下の2つがあります。 - 消滅時効:たとえば、お金を貸していたとしても、一定期間請求しないままでいると、その請求する権利が消滅してしまうことがあります。 - 取得時効:他人の土地を長年にわたって平穏に、かつ継続して使い続けていた場合には、その土地の所有権を取得できることがあります。 このように時効制度は、社会の秩序や公平性を保つために重要なルールです。 権利や財産の状態をいつまでも不安定なままにせず、一定のタイミングで「けじめ」をつける仕組みといえます。 資産運用や相続の場面でも、債権の管理や財産の引き継ぎにおいて影響を及ぼす可能性があるため、基本的なしくみを理解しておくことが大切です。

雑所得

雑所得(ざつしょとく)とは、所得税法において定められた10種類の所得のうち、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得、一時所得のいずれにも該当しない所得を指します。具体的には、公的年金や副業による収入、仮想通貨の売却益、FXの利益、非営業用貸金の利子などが該当します。 経費を差し引いた金額が課税対象となり、総合課税の対象となります。また、雑所得が年間20万円を超える場合、確定申告が必要になります。

公的年金等控除

公的年金等控除とは、年金を受け取っている人の所得税や住民税を計算する際に、年金収入から一定額を差し引ける控除制度です。これにより課税対象となる金額が減り、税負担を軽減できます。 対象となるのは、国民年金・厚生年金・共済年金などの「公的年金」に限られます。これらは所得税法上の「公的年金等」に分類され、控除の対象となります。 一方で、iDeCo(個人型確定拠出年金)や企業型DC、個人年金保険などは、たとえ年金形式で受け取ったとしても税法上は「公的年金等」に該当せず、公的年金等控除の対象外です。これらは「雑所得(その他)」として課税されます。 控除額は受給者の年齢と年金収入の額に応じて異なり、特に65歳以上の高齢者には手厚い控除が設けられています。 | 年齢 | 公的年金等の収入額 | 控除額 | | --- | --- | --- | | 65歳未満 | 130万円以下 | 60万円 | | | 130万円超〜410万円以下 | 収入額 × 25% + 37.5万円 | | | 410万円超〜770万円以下 | 収入額 × 15% + 78.5万円 | | | 770万円超 | 一律195.5万円 | | 65歳以上 | 330万円以下 | 110万円 | | | 330万円超〜410万円以下 | 収入額 × 25% + 27.5万円 | | | 410万円超〜770万円以下 | 収入額 × 15% + 68.5万円 | | | 770万円超 | 一律195.5万円 | たとえば、65歳以上で年金収入が250万円であれば、110万円の控除が適用され、課税対象となる所得は140万円に圧縮されます。

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