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配偶者居住権とは?設定する要件・評価額・二次相続の活用法まで解説
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公開:
2026.05.29
更新:
2026.05.29
配偶者が亡くなった後、自宅に住み続けられるかは多くの人にとって切実な問題です。近年は配偶者居住権が新設され、住まいと生活資金の両立が図れる一方、仕組みを理解しないまま選択すると不利な分割やトラブルにつながる可能性もあります。この記事では、制度の基本から要件・評価額・メリットデメリット、手続き、他制度との比較までを体系的に整理し、自分のケースで活用すべきか判断できる視点を解説します。
目次
配偶者居住権の基本
配偶者居住権は2020年4月に施行された比較的新しい制度で、住まいと老後資金を同時に確保できる画期的な仕組みです。従来の所有権相続とは性質が大きく異なるため、まずは制度の全体像を整理しておく必要があります。
制度の概要と目的
配偶者居住権とは、亡くなった方の配偶者が、自宅に無償で住み続けられる権利です。被相続人所有の建物(配偶者との共有建物を含む)に相続開始時点で居住していた場合、一定の要件を満たすと取得できます。
制度の目的は、住み慣れた住居の確保と老後の生活資金確保を両立させる点にあります。所有権より低い評価額で住まいを確保できるため、預貯金など他の財産をより多く取得しやすくなる仕組みです。
新設された背景
この制度が設けられた最大の理由は、高齢化社会における残された配偶者の生活保障にあります。平均寿命の伸長により、配偶者の一方が亡くなった後、残された方が10年、20年と生活を続けるケースが一般化しました。
- 従来の相続では、遺産の大部分が自宅不動産である家庭において、配偶者が自宅を相続すると預貯金をほとんど取得できず、生活資金に困る事態が頻発していたのです。逆に生活資金を優先して預貯金を相続すれば、住み慣れた自宅を手放さざるを得ない状況も発生していました。
こうした「住まいか、お金か」の二者択一を解消するため、約40年ぶりとなる相続法改正で新設された経緯があります。
所有権との違い
配偶者居住権の特徴は、自宅の権利を「使う権利(居住権)」と「処分する権利(所有権)」に分離できる点にあります。従来の所有権相続では、住むことと売却・賃貸することが一体でした。この制度では、配偶者が居住権のみを取得し、所有権は子など他の相続人が取得する分割が可能になります。
- 例えば評価額3,000万円の自宅について、配偶者居住権1,500万円・負担付き所有権(居住権の負担が付いた所有権)1,500万円に分けて相続させるイメージです。結果として、配偶者は住まいを確保しつつ、残りの相続枠で預貯金などの生活資金も取得できます。
対象になる建物の範囲
対象となるのは、被相続人が単独で所有していた建物、または被相続人と配偶者が共有していた建物に限られます。ここで注意したいのは、被相続人と配偶者以外の第三者(子や兄弟など)との共有建物は対象外となる点です。
例えば親子で共有名義にしていた二世帯住宅では、配偶者居住権を設定できません。これは、共有者である第三者の権利を不当に制限しないためのルールです。
短期居住権との違い
配偶者居住権と配偶者短期居住権は、名称が似ていて混同されやすい制度です。長期の権利と短期の権利という違いに加え、取得方法や手続き面でも大きく異なります。両者の違いを正確に把握しておきましょう。
短期居住権の概要
配偶者短期居住権は、遺産分割協議が確定するまで、または相続開始から最低6ヶ月間、配偶者が自宅に無償で住み続けられる暫定的な権利です。特徴は、遺言や特別な手続きを必要とせず、相続開始と同時に自動的に発生する点にあります。
- さらに配偶者が相続放棄をした場合でも認められるため、借金などの負債が多い相続でも住まいを一時的に守れます。生活を立て直すための猶予期間として設計された、いわば「引っ越しまでの緩衝期間」といえる制度です。
存続期間の比較
両者の最も大きな違いは、住み続けられる期間にあります。配偶者居住権は原則として配偶者の生存中ずっと有効で、有期設定した場合はその期間(例:10年、20年)が適用されます。
一方、配偶者短期居住権は、遺産分割により自宅の帰属が確定した日か、相続開始から6ヶ月を経過した日のいずれか遅い日までに限定されます。
遺贈によって第三者が自宅を取得した場合は、その者からの消滅申入れの日から6ヶ月経過までが期限です。短期居住権はあくまで一時的な保護であるため、長期的に住み続けたいなら配偶者居住権の設定が不可欠といえます。
| 項目 | 配偶者居住権 | 配偶者短期居住権 |
|---|---|---|
| 存続期間 | 原則終身または設定期間 | 最低6ヶ月 |
| 取得方法 | 遺贈・遺産分割協議・死因贈与・家裁審判 | 自動発生 |
| 相続放棄時 | 放棄すると取得不可 | 放棄しても認められる |
| 登記 | 可能(第三者対抗要件) | 登記不可 |
取得方法の違い
配偶者短期居住権は相続開始と同時に法律上自動で発生するため、配偶者側で特別な手続きは不要です。これに対し配偶者居住権は、遺贈・遺産分割協議・死因贈与・家庭裁判所の審判のいずれかによって能動的に取得する必要があります。
何も行動しなければ権利は発生しないため、生前の遺言作成や相続発生後の協議合意といった具体的な動きが求められます。
配偶者居住権が成立する3つの要件
配偶者居住権が成立するには、民法で定められた3つの要件をすべて満たす必要があります。1つでも欠ければ権利は発生しないため、自分のケースで適用可能かを判断する基準として活用しましょう。
法律上の配偶者であること
配偶者居住権は、戸籍上の婚姻関係にある配偶者のみに限定されます。民法は法律婚の配偶者だけを相続人として扱うため、配偶者居住権もこの考え方を踏襲しています。
- そのため、内縁関係や事実婚のパートナーは、何十年共に暮らしていても対象外です。一方で、別居中の法律婚配偶者は他の要件を満たせば対象になります。
ただし、後述する「相続開始時の居住」要件も満たす必要があり、被相続人と共に住んでいた自宅が別にあるかどうかが判断のポイントとなります。同性パートナーについても現行法では法律婚が認められていないため、配偶者居住権の対象にはなりません。
相続開始時に居住していること
2つ目の要件は、被相続人の死亡時点で、配偶者がその建物に現に居住していたことです。ここで言う「居住」とは、単に表面的に住んでいるだけでなく、その建物を「生活の本拠」としていた実態を指します。
- 例えば住民票だけ置いて別の場所で暮らしていた場合、要件を満たさないと判断される可能性があります。注意したいのは、相続開始時に一時的な入院や短期施設入所をしていたケースです。自宅に家財道具が残されており、退院後は戻る予定であった場合は、「生活の本拠」として認められる余地があります。
老人ホームへの長期入居については判断が分かれやすく、住民票の所在や帰宅頻度、家財の状況などから総合的に判断されるため、個別ケースでは専門家への相談が欠かせません。
遺産分割等で取得したこと
3つ目の要件は、遺産分割協議・遺贈・死因贈与・家庭裁判所の審判のいずれかによって配偶者居住権を実際に取得したことです。配偶者短期居住権と異なり、何もせずに自動発生する権利ではありません。
つまり、被相続人が遺言を残していない場合は、相続発生後に相続人全員で協議するか、協議がまとまらなければ家裁に申し立てる必要があります。生前対策を考えるなら公正証書遺言での遺贈指定が、発生後の対応なら早期の遺産分割協議が現実的な選択肢です。
配偶者居住権を設定する4つの方法
配偶者居住権を取得するルートは、大きく「生前対策」と「相続発生後の対応」に分かれます。被相続人が生きている段階で準備するか、亡くなった後に相続人間で決めるかによって、適切な方法が変わるためです。
遺贈による設定
遺贈は、遺言書で配偶者に配偶者居住権を取得させる方法です。公正証書遺言(公証人が作成する遺言)での作成が推奨される理由は、形式不備による無効化リスクを排除できる点にあります。
また、婚姻20年以上の夫婦間では「持戻し免除の推定」(遺贈を特別受益として相続分から差し引かない扱い)が働きます。そのため、配偶者が他の財産もより多く取得できる点は大きな利点です。
死因贈与で設定
死因贈与は、被相続人と配偶者の間で「死亡時に配偶者居住権を贈与する」契約を結ぶ方法です。遺贈との最大の違いは、遺贈が遺言者の一方的な意思表示であるのに対し、死因贈与は双方の合意による契約である点にあります。
そのため、配偶者本人が権利取得について明確に同意しているという確実性が担保されます。実務では口頭契約も有効とされていますが、後の紛争を防ぐため公正証書や書面での締結が一般的です。遺贈との使い分けの目安としては、遺言作成が難しい状況や、より確実に相手の承諾を得たい場合に死因贈与が選ばれる傾向にあります。
遺産分割協議で決定
遺産分割協議で決定する方法は、被相続人の死亡後に相続人全員で話し合って配偶者居住権を設定するアプローチです。最大のハードルは、相続人全員の合意が必要な点にあります。一人でも反対すれば成立しないため、子との関係性が良好で、配偶者の住まい確保に理解がある家庭に向いた選択肢といえるでしょう。
協議が整ったら、遺産分割協議書に「配偶者○○は、○○所在の建物について配偶者居住権を取得する」旨を明記し、相続人全員が署名押印します。協議書は登記申請時の添付書類にもなるため、建物の所在地や存続期間など必要事項を正確に記載しなければなりません。
家庭裁判所の審判
家庭裁判所の審判は、遺産分割協議がまとまらない場合の最終手段です。民法1029条により、家裁が配偶者居住権を認められるのは2つのケースに限定されています。
配偶者居住権を認められるケース
- 相続人全員で配偶者居住権の取得自体には合意があるものの、他の条件で調整がつかない場合
- 居住建物の所有者が受ける不利益を考慮してもなお、配偶者の生活維持に特に必要と認められる場合
後者のケースでは、配偶者の年齢・従前の居住状況・他の相続財産の内容・配偶者と所有者との関係性などが総合的に判断されます。合意なしで認められるハードルは決して低くないため、可能な限り協議段階での解決が望ましい選択肢です。
配偶者居住権を設定する5つのメリット
配偶者居住権を活用するメリットは、「住まい」「生活資金」「節税」「円満な相続」の観点から整理できます。単なる住居確保の制度ではなく、老後の資産設計や二次相続対策まで視野に入れた戦略的な選択肢として機能する点が特徴です。
配偶者の住まいを確保できる
最大のメリットは、自宅の所有権が子など他の相続人に渡っても、配偶者が住み慣れた自宅に終身で住み続けられる点にあります。例えば、父が亡くなり母と長男が相続人となるケースを考えてみましょう。
自宅の所有権を長男が取得した場合でも、母が配偶者居住権を取得していれば、長男から退去を求められる心配はありません。高齢期の住環境変化は心身への負担が大きいため、長年慣れ親しんだ住まいを維持できる効果は、生活の質と精神的安定の両面で大きな意味を持ちます。
生活資金も相続できる
配偶者居住権を活用すると、配偶者は住まいを確保しつつ預貯金などの生活資金も相続しやすくなります。理由は、自宅の評価額が「居住権」と「所有権」に分割されるためです。
例えば遺産が自宅3,000万円・預貯金3,000万円で配偶者と子1人が相続人の場合、従来は配偶者が自宅を取得すると預貯金はほぼ取得できませんでした。配偶者居住権1,500万円に分割できれば、配偶者は居住権と預貯金1,500万円を取得でき、老後資金の確保が格段に容易になります。
二次相続の節税効果が見込める
配偶者居住権は、適切に設計すれば一次相続と二次相続を通じた相続税の圧縮に大きな効果を発揮します。特に効果が表れるのは配偶者の死亡(二次相続)時点です。
相続税法上、配偶者の死亡によって配偶者居住権が消滅しても、その価値の移転には相続税が課されません。
一次相続での効果
一次相続(被相続人から配偶者・子への相続)では、配偶者居住権自体にも相続税は課税されます。ただし、配偶者の税額軽減(配偶者の取得分が1億6,000万円または法定相続分まで非課税となる制度)と組み合わせれば、配偶者分の税額は実質ゼロに抑えられます。
さらに所有権を取得した子側も、負担付き所有権として評価額が圧縮されるため、通常より低い相続税で自宅の所有権部分を取得できる仕組みです。
二次相続での効果
節税効果が最も顕著になるのは、配偶者が亡くなった二次相続の段階です。配偶者の死亡により配偶者居住権は自動的に消滅し、子が持っていた負担付き所有権は完全な所有権に回復します。
- ここで重要なのは、この権利の完成過程で相続税は一切課されない点です。つまり、一次相続時に圧縮された評価額のまま子に権利が引き継がれるため、本来自宅全体にかかるはずだった二次相続時の課税を大幅に軽減できます。
遺産分割が円滑化する
配偶者居住権は、自宅をめぐる相続人間の対立を和らげる効果も持っています。自宅の権利を「居住」と「所有」に2分割できるため、「自宅を取るか現金を取るか」の二者択一で揉めていた従来の遺産分割協議を柔軟に進めやすくなるためです。
例えば、配偶者は自宅に住みたい一方で、子は現金での相続を希望するケースでは、従来は代償金支払いや自宅売却で調整するしかありませんでした。
- 配偶者居住権を活用すれば、配偶者は居住権で住まいを確保し、子は所有権を取得したうえで預貯金も手にできます。選択肢が広がる点は、相続トラブル予防の観点からも重要な価値です。
取得後は家賃負担なく住み続けられる
配偶者居住権を取得すると、所有者となる子などに賃料を支払わず自宅に住み続けられます。なお、存続期間は原則として終身ですが、有期で設定される場合もあります。これは、単に物件を借りる賃借権とは根本的に異なる法的性質を持つためです。
例えば自宅の所有権を子が取得した場合、通常であれば子に賃料相場並みの家賃を払うか、使用貸借(無償で借りる契約)として子の善意に依存する関係になります。
配偶者居住権があれば、こうした金銭的・心理的負担を一切負わずに、法的に保護された立場で住み続けることが可能です。
配偶者居住権に関する5つのデメリット
配偶者居住権は強力な住まい保護制度である一方、設定後に予想外のトラブルや負担が生じるケースも少なくありません。設定前にデメリットを正確に理解しておくことが、後の「こんなはずではなかった」を防ぐ鍵となります。
売却や譲渡はできない
配偶者居住権は一身専属的な権利(配偶者本人だけが持てる権利)であり、第三者への売却や譲渡は認められていません。そのため、将来まとまった資金が必要になっても、居住権を現金化できないデメリットがあります。
- 例えば配偶者が老人ホームに入居するための資金として2,000万円必要になった場合、通常の不動産なら売却で調達できますが、居住権単体では不可能です。資金化するには所有者である子との合意解除や放棄という形を取るしかなく、その際には贈与税が発生する可能性もあります。
増改築や賃貸に制限がある
所有者の承諾なしに増改築や第三者への賃貸ができない点も、実務で問題になりやすい制限です。民法1032条では、配偶者居住権を取得した配偶者は、所有者の承諾を得なければ建物の増改築や第三者への使用収益を認める行為ができないと定められています。
例えば高齢期に必要になりやすいバリアフリー改修(手すり設置、段差解消など)も、規模によっては所有者の承諾が必須となる場合があります。さらに違反した場合には所有者から是正の催告が行われ、期間内に是正されなければ配偶者居住権自体を消滅させられるリスクもあります。
実家を改修して長く住み続けたい配偶者にとって、無視できない制約といえるでしょう。
認知症発症時のリスクがある
配偶者が認知症を発症した場合、配偶者居住権の放棄や合意解除ができなくなるリスクがあります。これらの法律行為には判断能力が必要であり、認知症により意思能力を欠いた状態では有効に行えないためです。
- 例えば配偶者が施設に入居して自宅を売却したい状況が生じても、本人が認知症であれば居住権を放棄できず、結果として所有者である子も自宅を売却できません。対処するには成年後見制度を利用する必要がありますが、手続きに時間と費用がかかるうえ、家庭裁判所の監督下での財産管理となります。
配偶者が高齢のときに配偶者居住権を設定する場合は、将来の認知機能低下リスクも見据えて判断すべき論点です。
所有者側の負担がある
配偶者居住権は、所有権を取得した子など「もらう側」にも無視できない負担を課す制度です。最大の負担は、居住権が存続する間(原則として配偶者の終身)は建物を自由に使えない点にあります。
自宅を売却したくても居住権がある限り実質的に売却できず、自分で住みたくても配偶者が住んでいれば立ち入れません。加えて、建物の固定資産税は所有者の納税義務となり(通常必要費として配偶者に請求可能)、使えない資産に税負担が継続する構造です。
こうした不公平感が家族間の感情的対立の火種になる可能性があるため、設定前に所有者となる相続人とも十分な合意形成を図る必要があります。
評価額が高くなり節税にならないケースがある
配偶者居住権は常に節税になるわけではなく、条件次第ではむしろ不利になる可能性があります。特に注意すべきは、配偶者が若く存続期間が長い場合と、建物が古い場合の2パターンです。
配偶者の平均余命年数が長いほど居住権の評価額は高くなり、節税効果は薄れます。また、建物の築年数が耐用年数を超えていると、居住権の評価額が建物時価と同額になります。その結果、所有権の価値はゼロ評価となり、分割の意味が失われてしまうのです。
さらに、二次相続で「小規模宅地等の特例」(自宅の土地評価額を最大80%減額できる制度)を適用できるなら、居住権を使わない方が有利になる場合もあります。これらはさまざまな要素が複雑に絡み合っているため、事前の綿密なシミュレーションが欠かせません。
配偶者居住権の評価額の計算方法
配偶者居住権の評価額は、国税庁が定める計算式に基づいて算定します。建物と敷地利用権の2つに分けて計算する必要があり、建物の残存耐用年数や配偶者の平均余命といった数値が評価額を左右します。
建物の評価額
建物部分の配偶者居住権は「建物の相続税評価額 − 建物の相続税評価額 ×(残存耐用年数 − 存続年数)÷ 残存耐用年数 × 複利現価率」という式で求めます。将来配偶者居住権が消滅した時点の建物価値を現在価値に割り戻し、元の評価額から差し引いて居住権の価値を算出する考え方です。
建物の所有権は、相続税評価額から配偶者居住権の価額を引いた残額として導きます。なお、計算に使う「相続税評価額」は実勢価格ではなく、固定資産税評価額(市町村が課税のために算定する評価額)を用いる点に注意しましょう。
敷地利用権の評価
土地部分にあたる敷地利用権は「土地の相続税評価額 − 土地の相続税評価額 × 複利現価率」で計算します。建物の計算よりシンプルで、将来所有権が完全な状態に戻る時点の土地価値を現在価値へ引き直し、元の評価額との差分を居住権の価値とする仕組みです。
敷地所有権は、土地の相続税評価額から敷地利用権の価額を引いて求めます。ここで押さえておきたいのは、土地自体には配偶者居住権の登記ができない点です。登記の対象となるのは建物のみですが、税務上は敷地利用権として配偶者の財産に含めて評価されます。
存続年数と複利現価率
計算に使う存続年数と複利現価率は、設定条件によって数値が変わります。存続年数は、終身設定の場合は厚生労働省の「完全生命表」に基づく配偶者の平均余命年数を用い、有期設定の場合はその期間を使います。
複利現価率は、民法の法定利率(現行年3%、2029年3月31日まで据え置き決定済み)に基づく割引率で、国税庁の複利現価表から存続年数に対応する数値を参照します。例えば存続年数20年なら0.554、16年なら0.623です。
残存耐用年数は、住宅用建物の法定耐用年数(木造22年、鉄筋コンクリート造47年など)を1.5倍した年数から、経過年数を差し引いて算出します。
具体的な計算例
実際の計算イメージをつかむため、代表的なケースで試算してみましょう。
前提条件
- 木造住宅(築8年)の相続税評価額1,000万円
- 土地の相続税評価額2,000万円
- 配偶者は70歳女性で終身設定
ここでは説明の便宜上、70歳女性・平均余命約20年として試算します。なお、2026年4月1日から2029年3月31日までの法定利率は年3%です
これらの条件を踏まえると、計算結果は以下のとおりとなります。
| 区分 | 計算式 | 評価額 |
|---|---|---|
| 配偶者居住権(建物) | 1,000万円−1,000万円×(25−20)÷25×0.554 | 約889万円 |
| 建物所有権 | 1,000万円−889万円 | 約111万円 |
| 敷地利用権 | 2,000万円−2,000万円×0.554 | 892万円 |
| 土地所有権 | 2,000万円−892万円 | 1,108万円 |
自宅全体3,000万円のうち、配偶者取得分(居住権+敷地利用権)は約1,781万円、所有者取得分は約1,219万円となります。
配偶者居住権を活用しやすいケース
配偶者居住権が真価を発揮するのは、特定の家族構成や資産状況に当てはまる場合です。3つの典型的なパターンに自分のケースが該当するか確認することで、制度活用を検討すべきかの判断材料になります。
自宅以外の資産が少ない
遺産の大半が自宅不動産で、預貯金などの金融資産が少ない家庭は、配偶者居住権が有効に機能しやすいケースです。配偶者が自宅を所有権で相続すると、生活資金となる預貯金の取得分がほとんど残らず、老後の生活費が不足するリスクがあるためです。
例えば遺産が自宅2,500万円・預貯金500万円で配偶者と子1人が相続する状況を考えてみましょう。法定相続分で分割すると、配偶者が自宅を取得すれば預貯金はゼロになり、生活費に直結する問題が生じます。
配偶者居住権を活用して自宅を居住権と所有権に分割すれば、配偶者は住まいと預貯金を両立して確保できます。
配偶者と子の折り合いが悪い
配偶者と子の関係が良好でない家庭では、配偶者居住権が住まいを守る強力な盾となります。特に後妻(先妻との間に子がいる家庭)や継子との関係が複雑なケースでは、自宅の所有権を子が取得すると将来の退去リスクがつきまといます。
- 配偶者居住権を設定すれば、所有権が子に移っても配偶者は法的に保護された形で終身住み続けられます。例えば夫の先妻の子に自宅の所有権が渡り、後妻と対立するケースでは、居住権の登記をしておけば売却や立ち退き請求にも対抗できる仕組みです。感情的な対立を法的な権利で遮断できる点は、この制度の大きな価値といえるでしょう。
二次相続対策をしたい
将来の二次相続まで見据えた節税戦略を考えている家庭にも、配偶者居住権は適した選択肢です。配偶者の死亡により配偶者居住権が消滅する際、所有権者となる子は完全な所有権を無税で取得できるためです。
これは一次相続時に評価額を圧縮した状態で所有権を子に移転させ、二次相続時の追加課税を回避するという二段構えの節税効果を生みます。
特に自宅の評価額が高く、預貯金も相当額ある富裕層世帯では、一次相続と二次相続を合算したトータル税額を大きく減らせる可能性があります。
ただし、小規模宅地等の特例(自宅土地の評価額を最大80%減額できる制度)との効果比較や、配偶者の平均余命を踏まえた総合判断が欠かせません。
配偶者居住権の活用を避けたほうがよいケース
配偶者居住権は便利な制度ですが、家族構成や資産状況によっては設定が裏目に出るケースもあります。事前に「使わない方がよいパターン」を確認しておくことで、設定後の後悔や家族間の深刻なトラブルを回避できます。
将来売却する可能性がある
将来的に自宅を手放す可能性がある場合は、配偶者居住権の設定を慎重に検討すべきです。配偶者居住権が設定された自宅は、所有権者であっても配偶者の同意なしに売却できず、売却活動そのものが実質的に不可能となるためです。
例えば、配偶者が将来サービス付き高齢者向け住宅や有料老人ホームへの入居を検討しているケースを考えてみましょう。入居一時金を自宅売却で捻出したくても、居住権がある限り自由に売れず、結果として資金繰りに行き詰まる事態が起こり得ます。
- 合意解除や放棄で対応する方法もありますが、贈与税が発生するリスクが伴うため、住み替え・施設入居の可能性が少しでもあるなら別の選択肢も視野に入れるべきです。
建物が相当古い
建物の築年数が耐用年数に近づいている、あるいは超えている場合、配偶者居住権の節税効果はほぼ消滅します。計算式の「残存耐用年数 − 存続年数」がゼロまたはマイナスになると、配偶者居住権の評価額が建物時価と同額になり、建物所有権の価値がゼロ評価になるためです。
例えば木造住宅(1.5倍後の耐用年数33年)で築35年の建物では、残存耐用年数が実質ゼロとなり、建物部分の居住権評価額は建物時価そのままになります。
こうなると「評価額を圧縮して配偶者が他の財産を多く取得する」という制度本来のメリットが働かず、設定する意味自体が失われる結果となります。
再婚家庭で感情の対立が懸念される
再婚家庭で先妻の子と後妻の関係が悪い場合は、配偶者居住権の設定がかえって紛争の火種になることがあります。居住権を後妻が、所有権を先妻の子が取得する構造は、両者の利害が長期間(配偶者の終身)にわたって対立し続ける関係を生み出すためです。
例えば、修繕費の負担範囲・増改築の承諾・固定資産税の清算などの細かな論点で意見が衝突しやすく、対立が先鋭化する傾向にあります。こうしたケースでは、自宅を売却して現金で分けるか、別の財産を後妻に充当する形で決着させるほうが、将来的なトラブル予防につながる選択肢です。
配偶者居住権と他の選択肢との比較
配偶者居住権は住まいを守る有力な制度ですが、配偶者の住居と資産を保全する手段は他にも存在します。4つの代替・併用選択肢と比較することで、自分のケースに最適な方法を選びましょう。
| 選択肢 | 主なメリット | 主なデメリット | 向いている家庭 |
|---|---|---|---|
| 配偶者居住権 | 住まい確保+生活資金の両立、二次相続節税 | 売却困難、認知症時リスク | 遺産の大半が自宅 |
| 所有権相続 | 自由度が高く売却・賃貸も可 | 生活資金が不足しがち | 金融資産も豊富 |
| 自宅売却 | 流動性・運用自由度が高い | 居住環境の変化を伴う | 住み替え志向 |
| 家族信託 | 認知症対策に強い | 専門家報酬が高い | 財産管理の柔軟性重視 |
| おしどり贈与 | 生前に確実な財産移転 | 取得税・登録免許税負担 | 相続財産が高額 |
所有権で相続する場合
配偶者が自宅の所有権をそのまま相続する従来型の方法は、権利の自由度が最も高い選択肢です。売却・賃貸・増改築・リバースモーゲージ(自宅を担保に借入する制度)などを必要に応じて自由に選択できます。
一方で、遺産全体に占める自宅の割合が大きい場合、相続分の枠を自宅が占めてしまい、預貯金などの生活資金がほとんど相続できないリスクが生じます。
例えば、遺産が自宅2,000万円+預貯金500万円で配偶者と子1人が法定相続する場合を考えてみましょう。この場合、配偶者が自宅を取得すると預貯金はゼロとなる計算です。
自宅を売却する場合
相続後に自宅を売却して現金化し、賃貸住宅やサービス付き高齢者向け住宅に住み替える選択肢もあります。この方法の最大の利点は、資金の流動性と運用の自由度が高まる点にあります。例えば売却益3,000万円を得れば、運用しなくても月15万円で16年以上の生活費を賄える計算です。
さらに投資信託や債券で年3%程度の運用に回せば、取り崩し期間を大幅に延長できます。一方で、住み慣れた環境を離れる心理的負担や高齢での引っ越しに伴う身体的負担も見逃せない要素といえるでしょう。
家族信託を活用する場合
家族信託は、信頼できる家族(受託者)に財産の管理・処分を委ねる仕組みで、認知症対策として注目されています。配偶者居住権との最大の違いは、認知症発症後も柔軟な財産管理が可能な点です。配偶者居住権では、配偶者が認知症になると放棄や合意解除ができず、施設入居費の捻出に苦労するケースが頻発します。
家族信託なら受託者の判断で自宅売却や資金運用ができ、施設費用の確保もスムーズに進められます。ただし、契約書作成や登記で数十万〜数百万円の専門家報酬が発生する点は留意しましょう。
おしどり贈与との比較
おしどり贈与(贈与税の配偶者控除)は、婚姻20年以上の夫婦間で居住用不動産または取得資金を贈与した場合、2,000万円まで贈与税が非課税となる制度です。配偶者居住権と異なり、生前に確実な財産移転を完了できる点が特徴といえます。
ただし、不動産取得税や登録免許税の負担がある点、小規模宅地等の特例(自宅土地の評価を最大80%減額できる制度)や配偶者の税額軽減と比べて必ずしも節税にならない点には注意が必要です。
なお、生前におしどり贈与で持分を移転し、残った持分に配偶者居住権を設定する併用も可能です。
二次相続での節税戦略
配偶者居住権の真価は、一次相続と二次相続を通じた総合的な節税戦略と組み合わせてこそ最大化します。自宅評価の圧縮効果だけに依存せず、金融資産の組み換えや保険活用まで視野に入れた設計が欠かせません。
一次・二次相続の比較
配偶者居住権を活用すると、一次相続と二次相続を合算した相続税のトータル負担を圧縮できる可能性があります。例えば自宅5,000万円+預貯金3,000万円で配偶者と子1人が相続するケースでは、配偶者居住権を活用した方が二次相続まで含めた税負担が数百万円単位で軽減できる可能性もあります。
ただし、小規模宅地等の特例との兼ね合いによって結果が逆転するケースもあり、個別シミュレーションが必須です。
金融資産へ組み換える
配偶者が一次相続で取得した預貯金を生前贈与で子世代へ移す手法は、二次相続の課税財産を圧縮する代表的な方法です。活用しやすい枠組みは、暦年贈与と相続時精算課税の2つに大別されます。
暦年贈与は年110万円以下なら贈与税非課税ですが、2024年以降の贈与は相続開始前の加算期間が3年から段階的に延長されます。最終的には、7年以内の贈与が全額加算となる点には注意が必要です。
- 相続時精算課税制度は、2024年1月の改正で年110万円の基礎控除が新設され、この範囲内の贈与は相続財産への持ち戻しが不要となりました。高齢配偶者で加算リスクを避けたい場合は、後者の方が相性のよい場面も増えています。
保険と組み合わせる
生命保険の非課税枠を活用すれば、二次相続の納税資金を税優遇の中で確保できます。配偶者を契約者・被保険者、子を受取人とする終身保険に加入する設計が基本形です。死亡保険金は「500万円×法定相続人の数」まで非課税となるため、子2人の家庭なら1,000万円まで非課税枠を使えます。
この枠は配偶者居住権の消滅による自宅の税圧縮効果と別枠で機能するため、両者を重ねれば節税効果は累積的に高まります。さらに、保険金は受取人固有の財産として遺産分割協議の対象外となる点も大きな利点です。相続税の納税資金を現金で即座に準備できる意味で、流動性リスクへの備えとしても有効な選択肢といえます。
配偶者居住権設定後によくあるトラブルと対処法
配偶者居住権は設定して終わりではなく、その後の実務運用で家族間トラブルに発展するケースが少なくありません。典型的な3つのトラブルと対処法を事前に押さえておくことで、家族関係の悪化や余計な税負担を防げます。
修繕費・固定資産税で揉める
建物の修繕費と固定資産税の負担区分は、設定後に最も揉めやすい論点です。民法上、建物の通常の必要費(小規模な修繕費など)は配偶者負担、建物の固定資産税は法的には所有者の納税義務です。しかし、実質的には配偶者が通常必要費として負担することになっています。
問題になるのは、屋根の葺き替えや外壁塗装など大規模修繕の扱いで、「通常必要費」か「特別必要費(所有者負担)」かの解釈で意見が割れやすいのが実情です。
対処法としては、設定時に「修繕費の負担区分合意書」を作成し、金額の閾値(例えば50万円超は所有者負担など)を明文化しておくことが効果的です。固定資産税についても、請求と清算の方法を事前に取り決めておくことでトラブルを未然に防げます。
所有者が売却を望んでいる
所有権者である子が資金化のために売却を希望しても、配偶者居住権があるため実質的に売れないケースもトラブルの温床です。この場合の解決策は、配偶者と所有者の合意で居住権を消滅させる「合意解除」となりますが、対価の設定で注意が必要です。
所有者が配偶者に消滅対価を支払わない、または著しく低い対価しか払わない場合、差額分について所有者に贈与税が課される仕組みがあります。逆に配偶者が対価を受け取れば、その金額は譲渡所得として所得税・住民税の課税対象です。
売却希望が出た時点で税理士に相談し、居住権の残存評価額を算出したうえで適正な対価を設定することが、税務上のトラブルを回避する最善策となります。
配偶者が施設へ入居することになった
配偶者が老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅に入居して自宅を使わなくなるケースが起こり得ます。この場合、主な選択肢は以下の3つです。
- そのまま居住権を維持する
- 合意解除または放棄により居住権を消滅させる
- 所有者の承諾を得て第三者に賃貸する
注意したいのは、放棄する場合の贈与税リスクです。放棄により所有者が完全所有権を無償で得ることになり、贈与税が課税される可能性があります。
施設入居時点で自宅を売却したいなら、「合意解除+適正対価の支払い」が現実的な解決策です。しかし、配偶者が認知症を発症していると合意自体が困難になるため、元気なうちの意思決定が重要です。
配偶者居住権に関する留意点
配偶者居住権には、一般的な解説書では見落とされがちな判断ポイントが存在します。設定の可否や手続きに直結する4つの論点を、判断を誤らないために事前に押さえておきましょう。
老人ホーム入居時も認められる余地がある
被相続人の死亡時に配偶者が老人ホームに入居中でも、配偶者居住権が認められる可能性はあります。「居住」の要件は、単なる物理的な居住ではなく「生活の本拠」としての実態があるかで判断されるためです。
具体的には、住民票の所在、家財道具の保管状況、自宅への帰宅実態などが総合的に考慮されます。一時的な入院や短期入所で復帰予定が明確なら要件を満たしやすく、長期入居の場合は判断が分かれやすい傾向にあります。老人ホーム入居中のケースで設定を検討するなら、専門家への個別相談が欠かせません。
内縁の妻・事実婚のパートナーは対象外になる
配偶者居住権は法律上の婚姻関係にある配偶者に限定されており、内縁関係・事実婚のパートナーは一切対象になりません。戸籍上の婚姻届を提出していないパートナーは、相続権そのものが認められないためです。
同性パートナーも現行法では法律婚が認められていないため同様の扱いとなります。代替策としては、遺贈・死因贈与・家族信託などで住まいを確保する設計が現実的です。長年連れ添った事実婚カップルでも、相続の場面では法的保護の格差が大きいため、元気なうちの対策が不可欠といえます。
権利の放棄は可能だが贈与税リスクを伴う
配偶者居住権は放棄できますが、放棄によって所有者である子などに贈与税が課される可能性があります。放棄により所有者は制限のない完全な所有権を無償で取得することになり、経済的利益の移転とみなされるためです。
課税額は放棄時点の配偶者居住権の残存評価額を基準に算定されるため、設定直後の放棄ほど高額の贈与税が発生する構造です。回避策としては、配偶者が所有者から相応の対価を受け取る「合意解除」という形を取る方法が考えられます。ただし対価は配偶者側の譲渡所得となるため、事前の税務シミュレーションが欠かせません。
相続放棄をすると配偶者居住権も取得できない
配偶者が相続放棄をした場合、配偶者居住権は取得できません。相続放棄により相続人の地位そのものを失うため、遺産分割協議への参加権も消滅するためです。
ただし、配偶者短期居住権は相続放棄後も認められる仕組みであり、最低6ヶ月は無償で住み続けられます。被相続人に多額の借金があり相続放棄を検討するケースでは、居住権を失う代償と負債を免れる利益を慎重に天秤にかける必要があります。
この記事のまとめ
この記事では、配偶者居住権の制度趣旨や要件、評価方法、メリット・デメリット、活用判断の軸を整理しました。重要なのは「住み続ける権利」と「資産配分」のバランスを踏まえ、自分の相続設計に適合するかを見極めることです。まずは自宅と金融資産の構成や家族関係を整理し、制度適用の可否を確認しましょう。不安が残る場合は、相続の専門家に相談しながら具体的な分割案や税負担をシミュレーションすることが有効です。

金融系ライター
厚生労働省や保険業界・不動産業界での勤務を通じて、社会保険や保険、不動産投資の実務を担当。FP1級と社会保険労務士資格を活かして、多くの家庭の家計見直しや資産運用に関するアドバイスを行っている。金融メディアを中心に、これまで1,000記事以上の執筆実績あり。
厚生労働省や保険業界・不動産業界での勤務を通じて、社会保険や保険、不動産投資の実務を担当。FP1級と社会保険労務士資格を活かして、多くの家庭の家計見直しや資産運用に関するアドバイスを行っている。金融メディアを中心に、これまで1,000記事以上の執筆実績あり。
関連する専門用語
配偶者居住権
配偶者居住権とは、被相続人(亡くなった人)が所有していた住まいに、その配偶者が相続後も引き続き住み続けることができる法的な権利です。これは2020年の民法改正によって新しく設けられた制度で、特に高齢の配偶者が安心して暮らし続けられるようにするための仕組みです。 たとえば、自宅の所有権は子どもなど他の相続人が相続したとしても、配偶者は自分の生活の場を奪われることなく、その家に住み続けることができます。この権利は、財産分けの方法を柔軟にし、残された配偶者の生活を守る役割を果たします。資産運用や相続対策を考えるうえでも重要なポイントとなります。
遺産分割協議
遺産分割協議とは、相続人が複数いる場合に、誰がどの財産をどのように受け取るかを話し合って決める手続きのことです。預貯金や不動産、有価証券などすべての遺産が対象になります。原則として相続人全員の合意が必要で、話し合いの結果を「遺産分割協議書」という文書にまとめて、全員が署名・押印します。遺言書がない場合や、遺言があっても一部の財産について分け方が指定されていないときに行われます。もし話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所での調停手続きに進むことになります。
遺贈
遺贈とは、遺言書によって自分の財産を相続人や第三者に無償で譲ることを指します。生前の贈与とは異なり、遺贈は本人が亡くなったときに初めて効力が生じるのが特徴です。たとえば、「私の預金を○○さんに渡す」といった内容を遺言書に書いておけば、その人が相続人であってもなくても、遺贈として財産を受け取ることができます。 遺贈は、特定の財産を指定して渡す「特定遺贈」と、財産の一定割合を指定して渡す「包括遺贈」に分けられます。また、相続人以外の人や団体(たとえば知人や慈善団体など)にも遺贈することが可能なため、本人の意思を柔軟に反映できる方法として活用されています。資産運用や相続の場面では、誰にどの財産をどのように渡すかを明確にする手段として、遺贈はとても大切な制度です。
死因贈与契約
死因贈与契約とは、「自分が亡くなったときに、ある財産を特定の人に贈与する」という約束を生前に結ぶ契約のことです。遺言と似ていますが、死因贈与は契約であるため、贈与する側と受け取る側の双方の合意が必要です。この契約が成立すると、贈与者が亡くなった時点で契約が効力を発し、指定された人が財産を受け取れるようになります。生前に意志を確実に伝えておく方法の一つであり、特定の人に感謝の気持ちを込めて財産を渡したいと考える方に向いています。ただし、相続税の対象となるため、税務上の確認や、後々のトラブルを防ぐための契約書の作成が重要になります。
公正証書遺言
公正証書遺言とは、公証人が本人の意思に基づいて作成する遺言書で、遺言の中でも最も法的な信頼性と実効性が高い形式とされています。作成にあたっては、公証役場にて遺言者が口頭で内容を伝え、それを公証人が文書にまとめ、証人2名の立会いのもとで公正証書として正式に成立します。 この方式の最大の特徴は、家庭裁判所による検認手続きが不要である点です。つまり、相続開始後すぐに法的に効力を持つため、遺族による手続きがスムーズに進むという実務上の大きな利点があります。また、公証人による作成と原本保管によって、遺言の紛失や改ざん、内容不備といったリスクも大幅に軽減されます。 一方で、公正証書遺言の作成には一定の準備が必要です。財産の内容を証明する資料(不動産登記簿謄本や預金通帳の写しなど)や、相続人・受遺者の戸籍情報などが求められます。また、証人2名の同席も必須であり、これには利害関係のない成人が必要とされます。公証役場で証人を紹介してもらえるケースもありますが、費用が別途発生することもあります。 費用面では、遺言に記載する財産の価額に応じた公証人手数料がかかりますが、将来のトラブル回避や手続きの簡素化といったメリットを考えれば、特に財産規模が大きい場合や、遺産分割に不安がある家庭では非常に有効な手段と言えるでしょう。 資産運用や相続対策において、公正証書遺言は重要な役割を果たします。特定の資産を特定の人に確実に引き継がせたい場合や、相続人間の争いを未然に防ぎたい場合には、公正証書遺言を活用することで、遺言者の意思を明確かつ安全に残すことができます。
相続放棄
相続放棄とは、亡くなった人の財産を一切受け取らないという意思を家庭裁判所に申し立てて、正式に相続人の立場を放棄する手続きのことです。相続には、プラスの財産(預貯金や不動産など)だけでなく、マイナスの財産(借金や未払い金など)も含まれるため、全体を見て相続すると損になると判断した場合に選ばれることがあります。 相続放棄をすると、その人は最初から相続人でなかったものとみなされるため、借金の返済義務も一切負わなくて済みます。ただし、相続があったことを知ってから3か月以内に家庭裁判所に申し立てる必要があり、その期限を過ぎると原則として相続を受け入れたとみなされてしまいます。したがって、放棄を検討する場合は早めの判断と手続きが重要です。






