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相続放棄の手続きはどう進める?必要書類や申述書の書き方などを解説
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執筆者:
公開:
2025.07.25
更新:
2026.08.18
親族が亡くなったあとに借金や連帯保証、管理が難しい不動産が見つかった場合、相続放棄を検討することがあります。ただし、相続放棄には原則3か月の期限があり、遺産を処分するなどの行為によっては放棄できなくなるおそれもあります。この記事では、相続放棄の判断基準から財産調査、必要書類、家庭裁判所での手続き、期限後の対応、放棄後の注意点まで具体的に解説します。
目次
データで見る相続放棄|受理件数は年間30万件を突破し過去最多
相続放棄・単純承認・限定承認を比較|あなたに最適な選択肢は?
NG行為1:預貯金の引き出しや形見分けなど、相続財産を処分する
相続放棄の手続きと必要書類|自分で行う場合の5ステップを徹底解説
Step1.必要書類を漏れなく集める|戸籍謄本などの取得先リスト
Step3.家庭裁判所に提出する|管轄の調べ方と郵送・窓口での手順
Step4.裁判所からの照会書に回答する|失敗しないための記入ポイント
Step5.受理通知書が届けば完了|債権者や金融機関への連絡方法
相続放棄の期限(3か月)を過ぎたらできない?諦める前に試せる3つの救済策
相続放棄とは?失敗しないための3原則
相続放棄とは、被相続人の財産や借金を一切受け継がないと家庭裁判所に申し出る手続きのことです。この手続きが認められると、その人は初めから相続人ではなかったと扱われます。
つまり、預貯金や不動産といったプラスの財産を相続できなくなる代わりに、借金などのマイナスの財産を引き継ぐ義務もなくなるのです。
相続放棄は「期限」「単純承認」「延長策」の3点を最初に押さえるだけで、失敗リスクを大きく減らせます。まずは結論として、次の3原則で判断と行動の順番を固定しましょう。
相続放棄で失敗しない3原則
- 期限は原則3か月(起算点は「自分が相続人だと知った時」)
- 財産に触らない(単純承認とみなされるリスクを避ける)
- 迷うなら「期間伸長」も選択肢(家庭裁判所に延長を申し立てられる)
最も重要なのが「3か月ルール」です。この3か月間は「熟慮期間」と呼ばれ、遺産を調査し、相続するか放棄するかをじっくり考えるための期間とされています。期間内に何もしないと、すべての財産と借金を相続する「単純承認」を選んだと自動的にみなされるため注意が必要です。
- 預金の払戻しや遺産の処分など相続財産に手を付けると、単純承認とみなされ放棄できなくなるおそれがあります。判断が固まるまでは触れないのが安全です。債務の有無が不明で調査に時間がかかるなら、期限前に家庭裁判所へ期間伸長を申し立て、判断時間を確保しましょう。
データで見る相続放棄|受理件数は年間30万件を突破し過去最多
相続放棄の受理件数は年々増加しており、2024年(令和6年)には308,753件と初めて30万件を突破しました。
直近の推移は以下のとおりです。
| 年 | 相続放棄の申述受理件数(新受) |
|---|---|
| 2021年(令和3年) | 251,994件 |
| 2022年(令和4年) | 260,497件 |
| 2023年(令和5年) | 282,785件 |
| 2024年(令和6年) | 308,753件(過去最多) |
背景には、死亡数の増加に加え、維持費や固定資産税の負担が重い実家・空き家を手放したいというニーズの高まりがあります。相続放棄は特別な手続きではなく、多くの人が現実的に選ぶ選択肢といえるでしょう。
なお、同じ年の「期間伸長(熟慮期間の延長)」の申立ては1,518件、「限定承認」の申述受理は690件でした。放棄に比べると利用は少ないものの、状況によっては有効な手段になります。
相続放棄・単純承認・限定承認を比較|あなたに最適な選択肢は?
相続の方法には、相続放棄のほかに「単純承認」と「限定承認」があり、財産状況に応じて最適なものを選ぶ必要があります。
3つの違いを比較表で整理しました。
| 項目 | 相続放棄 | 単純承認 | 限定承認 |
|---|---|---|---|
| 意味 | 相続する権利を完全に放棄する | プラス・マイナスの財産をすべて引き継ぐ | プラスの財産の範囲内でのみマイナスを引き継ぐ |
| プラスの財産(資産) | 受け取れない | 受け取れる | 受け取れる(ただし債務返済に充当) |
| マイナスの財産(借金・債務) | 一切引き継がない | すべて引き継ぐ | プラスの財産を超える分は支払わなくてよい |
| 手続き方法 | 家庭裁判所に申述 | 手続き不要(何もしなければ自動的に成立) | 家庭裁判所に申述(相続人全員で行う) |
| 期限 | 相続を知った日から3か月以内 | 期限なし(3か月経過で自動成立) | 相続を知った日から3か月以内 |
| こんな時に選ぶ | 借金が多い・関わりたくない | 財産が明らかにプラスの場合 | 財産の内容が不明で損をしたくない場合 |
| 撤回 | 原則できない | 原則できない | 原則できない |
| 年間利用件数(2024年) | 308,753件 | ―(大多数) | 690件 |
要するに、「単純承認」はすべてを受け継ぐ、「限定承認」はプラスの財産の範囲で返済する、「相続放棄」はすべて手放す、という違いがあります。限定承認は合理的に見えますが、相続人全員の合意が必要で手続きも複雑なため、利用は年間690件と極めて少ないのが実情です。
単純承認と限定承認については、以下の記事で詳しく解説しています。あわせて参考にしてみてください。
負債・不要な不動産があるなら相続放棄も選択肢
相続放棄を検討する際は、まず亡くなった方の遺産内容を正確に調査することが不可欠です。どのようなプラスの財産があり、どれくらいの負債があるのかを把握しましょう。
調査結果をもとに財産の一覧表を作り、プラスとマイナスを比較します。明らかに負債が多い場合や、管理が難しい不動産だけが残されているような場合は、相続放棄が有力な選択肢となります。
判断の前に必須|借金の総額を正確に調べる方法
財産調査では、以下の4つの視点でプラスとマイナスの財産を漏れなく洗い出します。
借金の総額を正確に調べる方法
- 現金・預貯金の確認:金庫やタンス預金の有無、故人名義のすべての銀行通帳を確認し、残高証明書を取り寄せる
- 有価証券や保険の確認:株式や投資信託の取引残高報告書、生命保険の保険証券などを探し、資産価値を評価する。証券保管振替機構(ほふり)への開示請求で、故人の口座がある証券会社を特定できる
- 不動産の確認:固定資産税の納税通知書や名寄帳(なよせちょう)を取り寄せ、所有する不動産とその評価額を調べる
- 負債の確認:ローン契約書や返済予定表、クレジットカードの利用明細、消費者金融からの郵便物などを確認し、借金の総額を把握する。見落としを防ぐために信用情報機関(JICC・CIC・全国銀行個人信用情報センター)への開示請求もおすすめ
繰り返しになりますが、相続放棄は一度きりの手続きで、撤回はできません。遺産の調査を丁寧に行い、家族ともよく話し合ったうえで慎重に判断しましょう。調査が3か月の期限に間に合いそうにない場合は、家庭裁判所に期間伸長を申し立てることも可能です。
相続放棄ができない?手続き前に知るべき3つのNG行為
相続放棄を考えているなら、手続きが完了するまで故人の財産には一切手を付けないのが原則です。特定の行為をしてしまうと、法律上「単純承認」を選んだとみなされ、相続放棄が認められなくなる可能性があります。
特に注意すべき3つのNG行為を確認しておきましょう。
NG行為1:預貯金の引き出しや形見分けなど、相続財産を処分する
相続財産の「処分」にあたる行為をすると、単純承認とみなされ放棄できなくなるおそれがあります(民法第921条1号)。
以下のような行為は、「相続する意思がある」と判断されやすい典型例です。
単純承認とみなされやすい例
- 故人の預金口座から現金を引き出して使用する
- 故人名義の不動産や自動車を売却したり、名義変更したりする
- 上場株式・投資信託などの金融資産を解約・換金する
- 骨董品・宝石・高価な遺品を「形見分け」として自分で持ち帰る
これらはいずれも財産処分行為に該当し得るため、家庭裁判所に申述しても受理されない、あるいは後から債権者に放棄の効力を争われるリスクがあります。
ただし例外的に、社会通念上相当とされる範囲での葬儀費用の支払いは、処分行為には当たらないと解されています。とはいえ「相当性」の判断は事案ごとに異なるため、領収書や支出記録を必ず保管してください。判断に迷う場合は財産に極力触れず、事前に弁護士・司法書士へ相談するのが確実です。
NG行為2:故人の借金や未払いの税金を一部でも返済する
債権者から支払いの督促が来ても、故人の財産から安易に返済してはいけません。相続財産から借金を一部でも返済すると、債務の存在を認めて相続したとみなされる可能性があります。
督促を受けた場合は「現在、相続放棄を検討中です」と伝え、支払いを保留するようにしましょう。なお、自分自身の固有の財産から支払う場合はただちに単純承認とはなりませんが、トラブル防止の観点から専門家に相談してから対応するのが安全です。
NG行為3:相続放棄申述書を期限(3か月)までに提出しない
相続放棄の手続きは、自分が相続人だと知った時から3か月以内に、家庭裁判所への申述を済ませる必要があります。
郵送で提出する場合は、期限ギリギリではなく余裕を持って発送しましょう。書類に不備があると補正のやり取りで時間がかかるため、提出前のチェックも欠かせません。期限に間に合わないと判断したら、「期間伸長の申立て」を早めに行うことが重要です(詳細は後述)。
相続放棄の手続きと必要書類|自分で行う場合の5ステップを徹底解説
相続放棄の手続きは、①書類収集、②申述書の作成、③家庭裁判所への提出、④照会書への回答、⑤受理通知書の受領、という5つのステップで進みます。それぞれの段階でやるべきことを順に確認していきましょう。
Step1.必要書類を漏れなく集める|戸籍謄本などの取得先リスト
まず、手続きに欠かせない書類を集めます。書類には全員共通で必要なものと、自分の立場に応じて追加で必要になるものがあります。
| 立場 | 基本書類(全員共通) | 追加で必要な書類 |
|---|---|---|
| 全員共通 | 被相続人の住民票除票または戸籍附票、申述人の戸籍謄本 | ― |
| 配偶者 | 同上 | 被相続人の死亡記載がある戸籍謄本 |
| 子 | 同上 | 被相続人の死亡記載がある戸籍謄本 |
| 孫(代襲相続人) | 同上 | 上記に加え、親(被相続人の子)の死亡記載がある戸籍謄本 |
| 親・祖父母(第2順位) | 同上 | 被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本類。亡くなっている子がいる場合はその子の出生から死亡までの戸籍謄本類も必要 |
| 兄弟姉妹(第3順位) | 同上 | 被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本類、上位相続人(子・親など)が不在と証明する戸籍謄本類 |
| 甥・姪(第3順位の代襲相続人) | 同上 | 上記に加え、親(被相続人の兄弟姉妹)の死亡記載がある戸籍謄本 |
これらの戸籍類は、本籍地の市区町村役場で取得できます。2024年3月から戸籍の広域交付制度が始まり、本人の直系分は最寄りの役所でまとめて請求できるようになりましたが、兄弟姉妹の戸籍は対象外です。郵送請求は時間がかかるため、早めに手配しましょう。
Step2.相続放棄申述書を作成する|裁判所から用紙を入手
次に、家庭裁判所へ提出する正式な書類「相続放棄申述書」を用意します。申述書は、相続放棄をする1人につき1通ずつ作成が必要です。
用紙は裁判所の公式サイトからダウンロードするか、家庭裁判所の窓口で直接入手できます。記載するのは、被相続人の情報、申述人自身の情報、放棄の理由、相続財産の概略などです。放棄の理由は「債務超過のため」「生活が安定しているため」など、正直に記載すれば問題ありません。
未成年者が手続きする場合は、親などの法定代理人が代行します。ただし、その法定代理人も共に相続人であるなど利害が対立する関係にある場合は、家庭裁判所で「特別代理人」の選任が必要です。
Step3.家庭裁判所に提出する|管轄の調べ方と郵送・窓口での手順
書類の準備が整ったら、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に一式を提出します。管轄は裁判所のウェブサイトで確認できます。
提出方法は、郵送または窓口への直接持参のいずれかです。郵送の場合は、配達記録が残る書留郵便などを利用すると安心でしょう。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 収入印紙代(申述人1人あたり) | 800円 |
| 連絡用の郵便切手代 | 数百円〜1,000円程度(裁判所ごとに異なる) |
| 戸籍謄本などの取得費用 | 戸籍謄本1通450円、除籍・改製原戸籍1通750円など実費 |
Step4.裁判所からの照会書に回答する|失敗しないための記入ポイント
申立てをすると、後日、家庭裁判所から「照会書」という書類が郵送されてきます。本当に自分の意思で相続放棄をしようとしているのか、単純承認にあたる行為をしていないか、といった点を確認するための質問書です。
質問事項に沿って「回答書」に記入し、速やかに返送します。返送期限は7日〜10日程度と短いことが多いため、届いたらすぐに中身を確認しましょう。「財産を処分しましたか」といった質問には正直に答えつつ、事実と異なる不利な記載をしないよう注意が必要です。
Step5.受理通知書が届けば完了|債権者や金融機関への連絡方法
回答書を返送し、内容に問題がなければ、家庭裁判所から「相続放棄申述受理通知書」が送られてきます。この通知書を受け取った時点で、相続放棄の手続きは正式に完了です。
受理通知書は、相続放棄を証明する非常に重要な書類となります。債権者から支払い請求をされた際に提示する必要があるため、大切に保管してください。金融機関などから公的な証明書の提出を求められた場合は、「相続放棄申述受理証明書」(1通150円)を家庭裁判所に発行してもらうことも可能です。
- また、自分が放棄すると相続権は次順位の親族(親、兄弟姉妹など)へ移ります。突然の債権者からの請求で親族が困らないよう、放棄した旨を一言連絡しておくとトラブル防止につながります。
相続放棄の期限(3か月)を過ぎたらできない?諦める前に試せる3つの救済策
3か月の期限を過ぎても、事情によっては相続放棄が認められる可能性があります。「もう手遅れだ」と自己判断で諦めず、すぐに弁護士や司法書士といった専門家へ相談することが重要です。
そのうえで、以下のような対策が取れないか検討しましょう。
救済策1.期限後でも放棄が認められる特別な事情を主張する
「借金の存在を知らなかったことに相当な理由がある」場合、借金を知った日から3か月以内であれば放棄が認められる可能性があります。
代表的なのは、「被相続人には借金が一切ないと信じており、そう信じるに足る相当な理由があった」にもかかわらず、後から多額の債務が発覚したケースです。たとえば以下のような状況が該当する可能性があります。
救済される可能性がある例
- 被相続人と長年疎遠で、遺産の実情が不明だった
- 通帳・借用書など債務の証拠が残っていなかった
- 死後に突然、連帯保証債務の履行請求が届いた
この判断について、最高裁昭和59年4月27日判決は「相続人が負債の存在を知らなかったことに相当な理由がある場合には、熟慮期間は負債を知った時から起算される」との立場を示しています(最判昭59・4・27民集38巻6号698頁)。
- ただし、認められるかどうかは家庭裁判所の判断に委ねられます。借金の存在を知った時期や信じていた理由の証拠(郵便物・相談記録・信用情報開示など)を客観的に整理したうえで、速やかに専門家へ相談することが不可欠です。
救済策2.家庭裁判所に認められなかった場合の「即時抗告」
仮に、期限後の相続放棄の申立てが家庭裁判所に認められなかった(却下された)場合でも、まだ方法はあります。
「即時抗告」という不服申立てを行えば、高等裁判所でもう一度、相続放棄を認めるべきか審理してもらえます。却下の審判を受け取ってから2週間以内という短い期限があるため、迅速な対応が必要です。
救済策3.期限前なら「期間伸長の申立て」が可能
「期限が迫っているのに財産調査が終わらない」という状況では、熟慮期間そのものを延長できます。
まだ3か月の熟慮期間内であれば、家庭裁判所に「相続の承認又は放棄の期間の伸長」を申し立てることで、判断期間を数か月延長してもらえる可能性があります。2024年の申立件数は1,518件と、実際に活用されている手続きです。期限ギリギリで焦っている場合は、まずこの手続きを検討しましょう。
【2023年民法改正】相続放棄しても残る「保存義務」に注意
2023年4月1日施行の改正民法により、相続放棄をしても、放棄時に相続財産を「現に占有」している場合は保存義務が残ることが明確になりました(民法第940条1項)。
改正後の条文では、放棄の時に相続財産を現に占有している人は、相続人または相続財産清算人に財産を引き渡すまでの間、自己の財産と同一の注意をもって保存しなければならないとされています。
保存義務を負うのは「現に占有」している人だけ
改正のポイントは、義務を負う人の範囲が限定された点です。
保存義務を負う人
- 保存義務を負うケース:被相続人と同居していた家で放棄後もそのまま暮らしている、故人の車や貴金属を手元で管理しているなど
- 保存義務を負わないケース:遠方に住んでいて実家に一切関与していないなど、財産を事実上支配・管理していない場合
つまり、遠隔地の実家を相続放棄した別居の子どもなどは、原則として管理責任を負いません。一方、同居していた人は、次順位の相続人や相続財産清算人に引き渡すまで建物を壊したり傷めたりしないよう保存する義務が続きます。
放棄後の空き家管理から完全に解放されたい場合は、家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立て、財産を引き継ぐ方法があります。ただし、選任には予納金(数十万円〜100万円程度が目安)がかかる点に注意しましょう。
不動産だけ手放したいなら「相続土地国庫帰属制度」という選択肢も
「預貯金は相続したいが、田舎の土地だけはいらない」という場合、相続放棄は不向きです。相続放棄は財産の一部だけを選んで放棄できず、すべてを手放すことになるからです。
こうしたケースでは、2023年4月に始まった「相続土地国庫帰属制度」の検討も選択肢になります。相続などで取得した土地について、法務大臣の承認を受けたうえで負担金(原則20万円)と審査手数料(土地1筆あたり14,000円)を納付すれば、国に引き取ってもらえる制度です。
ただし、建物がある土地や境界が不明確な土地などは対象外です。「全部手放す相続放棄」か「土地だけ手放す国庫帰属」か、財産全体を見て判断しましょう。
なお、土地の相続に関してはこちらの記事でも詳しく解説しています。
相続放棄しても受け取れる財産と、税金の注意点
相続放棄をしても、受取人固有の権利とされる財産は受け取れます。代表的なものを整理しましょう。
生命保険金:原則受け取れる(受取人次第で例外あり)
死亡保険金は、契約で指定された保険金受取人の固有財産です。そのため、相続放棄をしても「受取人として」受け取れるケースが多くあります。
一方で、次のような場合は扱いが変わり得るため、受取前に契約関係を確認してください。
- 受取人が亡くなった本人になっている給付金(入院給付金など)は相続財産となるため、受け取ると単純承認のリスクがある
- 故人が契約者で、解約返戻金など「契約上の権利」が問題になる場合
- 受取人の指定が曖昧、または契約内容が特殊な場合(約款・指定方法による)
「契約者・被保険者・受取人」をセットで確認し、どのお金が受取人固有で、どれが相続財産側に寄るのかを切り分けるのが安全です。
生命保険の「契約者・被保険者・受取人」については、こちらの記事で解説しています。あわせて参考にしてみてください。
死亡退職金:規程次第で判断が割れ得る
死亡退職金は、会社の退職金規程などで受給者(順位・範囲)が定められているかで性質が変わります。規程があり「遺族が固有の権利として取得する」と判断できる場合は、相続放棄と切り分けて受け取れることがあります。
ただし、規程が不明確なときや受給者の定めがないときは、相続財産に準じた扱いが問題になり得ます。受領前に会社(人事・総務)へ「受給権者の根拠となる規程条項」を確認してから進めるのが無難です。
遺族年金・未支給年金:受給者固有の権利として受け取れる
遺族年金は、遺族自身の生活保障のために支給される固有の権利であり、相続財産には含まれません。相続放棄をしても、受給要件を満たせば問題なく受け取れます。未支給年金も、請求できる遺族の固有の権利とされているため同様です。
このほか、香典やお墓・仏壇などの祭祀財産、遺族固有の権利である葬祭費・埋葬料も、相続放棄の影響を受けずに受け取れます。
株式・投資信託がある場合の相続放棄|3つの注意点
故人が株式や投資信託などの運用資産を持っていた場合、相続放棄の判断には金融資産ならではの落とし穴があります。
1.「値下がりしそうだから」と故人の株を売るのは絶対NG
相場が下落局面にあると、「放棄するか決める前に、とりあえず故人の株を売って現金化しておきたい」と考えがちです。しかし、故人名義の株式や投資信託の売却・解約は財産の処分行為にあたり、単純承認とみなされるリスクが極めて高い行為といえます。
相続放棄の可能性が少しでもあるうちは、評価額の変動があっても金融資産には手を付けないでください。放棄後の値動きによる損失は、放棄者が責任を負うものではありません。
2.信用取引・FXなど「見えない負債」を証券会社に確認する
借金というと銀行や消費者金融のローンを想像しますが、投資をしていた人の場合、信用取引の建玉やFXのポジションが「隠れた負債」になることがあります。相場急変時には、預けた資産を超える損失(追証)が発生している可能性も否定できません。
これらは信用情報機関(JICC・CIC)への開示請求では把握できないため、取引残高報告書や証券会社からの郵便物・メールを確認し、必要に応じて各証券会社へ直接照会しましょう。口座のある証券会社が分からない場合は、証券保管振替機構(ほふり)の開示請求で登録済加入者情報を確認できます。
3.放棄すると生命保険の「非課税枠」が使えなくなる
生命保険金は放棄しても受け取れますが、税金面では不利になる点に注意が必要です。
相続税には「500万円×法定相続人の数」の死亡保険金非課税枠がありますが、相続放棄をした人が受け取る保険金には、この非課税の適用がありません。一方、非課税限度額を計算する際の「法定相続人の数」には、放棄した人も含めてカウントされます。
つまり、多額の保険金の受取人になっている人が相続放棄をすると、想定外の相続税負担が生じる可能性があります。「借金はあるが保険金も大きい」というケースでは、放棄による税負担の変化まで試算したうえで判断しましょう。相続税の基礎控除や各種控除については、以下の記事も参考にしてください。
出典:国税庁「No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金」
相続放棄は自分でできる?専門家に頼むべきケースと費用相場
相続放棄は自分一人でも手続きできますが、期限が迫っている場合や事情が複雑な場合は専門家への依頼が安全です。まずは費用の違いと、専門家の役割分担を見ていきましょう。
自分で行う場合と専門家に依頼する場合の費用の違い
自分で手続きする場合の費用
- 収入印紙代(申述人1名あたり):800円
- 戸籍謄本や住民票などの取得費用:通数により数百円〜数千円
- 裁判所指定の郵便切手代:数百円〜1,000円程度
合計で概ね3,000円〜5,000円程度に収まるのが一般的です。時間に余裕があり、書類作成や役所での取得が苦にならない方には、自力での対応も現実的な選択肢となります。
専門家に依頼する場合の費用相場
- 司法書士に依頼:1名あたり3万円〜5万円程度
- 弁護士に依頼:1名あたり5万円〜10万円程度(着手金や実費が加算される場合あり)
期限まで時間がない、3か月を過ぎている、債権者対応が必要といったケースでは、費用が上がる傾向にあります。
司法書士と弁護士、どちらを選ぶべきか
書類作成のサポートで足りるなら司法書士、交渉や紛争対応まで任せたいなら弁護士が基本の使い分けです。
| 専門職 | 向いているケース | 依頼できる主な範囲 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 司法書士 | 争いがなく、書類不備を避けつつ費用を抑えたい場合 | 申述書・添付書類の作成、提出のサポート | 他の相続人との代理交渉や紛争対応は不可 |
| 弁護士 | 期限後の放棄を主張したい、債権者対応や紛争が予想される場合 | 書類作成から代理交渉、裁判所対応まで包括的に対応 | 司法書士より費用が高くなりやすい |
専門家を選ぶ際は、費用だけでなく以下の3点を確認するのがおすすめです。
- 相続案件の実績と専門性:相続放棄の手続きに精通しているか、実績を確認する
- 明確な料金体系:どこまでの業務にいくらかかるのか、追加費用の可能性を含め事前に見積もりを取る
- 担当者との相性や対応の丁寧さ:質問に親身に、分かりやすく答えてくれるかを見極める
費用面で不安な方は、市区町村の無料法律相談や、法テラス(日本司法支援センター)の利用も検討しましょう。収入などの条件を満たせば、無料相談や費用の立替制度を利用できる場合があります。
なお、相続に関する相談相手の探し方は、こちらの記事でも解説しています。あわせて参考にしてみてください。
この記事のまとめ
この記事では、相続放棄の基本的な仕組みから、3か月の期限、財産調査、単純承認とみなされる行為、必要書類と家庭裁判所での手続き、期限を過ぎた場合の対応、放棄後の保存義務や税金の注意点まで確認しました。まずは故人の資産と負債を整理し、相続放棄の可能性がある間は財産を安易に処分しないことが重要です。期限が迫っている場合や借金・保証債務など判断が難しい事情がある場合は、早めに弁護士や司法書士へ相談し、手続きを進めましょう。

金融系ライター
厚生労働省や保険業界・不動産業界での勤務を通じて、社会保険や保険、不動産投資の実務を担当。FP1級と社会保険労務士資格を活かして、多くの家庭の家計見直しや資産運用に関するアドバイスを行っている。金融メディアを中心に、これまで1,000記事以上の執筆実績あり。
厚生労働省や保険業界・不動産業界での勤務を通じて、社会保険や保険、不動産投資の実務を担当。FP1級と社会保険労務士資格を活かして、多くの家庭の家計見直しや資産運用に関するアドバイスを行っている。金融メディアを中心に、これまで1,000記事以上の執筆実績あり。
関連する専門用語
相続放棄
相続放棄とは、亡くなった人の財産を一切受け取らないという意思を家庭裁判所に申し立てて、正式に相続人の立場を放棄する手続きのことです。相続には、プラスの財産(預貯金や不動産など)だけでなく、マイナスの財産(借金や未払い金など)も含まれるため、全体を見て相続すると損になると判断した場合に選ばれることがあります。 相続放棄をすると、その人は最初から相続人でなかったものとみなされるため、借金の返済義務も一切負わなくて済みます。ただし、相続があったことを知ってから3か月以内に家庭裁判所に申し立てる必要があり、その期限を過ぎると原則として相続を受け入れたとみなされてしまいます。したがって、放棄を検討する場合は早めの判断と手続きが重要です。
被相続人
被相続人とは、亡くなったことにより、その人の財産や権利義務が他の人に引き継がれる対象となる人のことです。つまり、相続が発生したときに、その資産の元々の持ち主だった人を指します。たとえば、父親が亡くなって子どもたちが財産を受け継ぐ場合、その父親が「被相続人」となります。相続は被相続人の死亡と同時に始まり、相続人は法律や遺言の内容にしたがって財産を引き継ぎます。資産運用や相続対策を考える際、この「被相続人」という概念はすべての出発点となる重要な言葉です。
単純承認
単純承認とは、相続が発生した際に、被相続人(亡くなった方)の財産をそのまま全て受け継ぐと決める手続きのことをいいます。この場合、預貯金や不動産といったプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産もすべて引き継ぐことになります。単純承認は特別な手続きをしなくても、相続人が財産を使ったり処分したりすると自動的に成立することが多いため、慎重な判断が必要です。 たとえば、被相続人に多額の借金があった場合、それも自分が返済する責任を負うことになりますので、相続を受ける前には、財産の内容をよく調べることが大切です。
限定承認
限定承認とは、相続人が引き継ぐ財産について、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産(借金など)を支払うことを条件に、相続を受ける方法のことです。つまり、相続によって得られる資産が借金を上回っている場合にはその差額を受け取ることができますが、もし借金が多くても、自分の財産を使ってまで返済する必要はありません。 この方法を使えば、相続することで損をするリスクを減らすことができます。ただし、限定承認を行うには、相続の開始を知ってから原則として3か月以内に、他の相続人全員と一緒に家庭裁判所に申立てをする必要があるため、手続きがやや複雑です。
相続放棄申述書
相続放棄申述書とは、相続人が「相続を放棄します」という意思を正式に表すために、家庭裁判所に提出する書類のことです。この書類を提出することで、相続人は被相続人の財産や負債を一切引き継がないという選択を法的に行うことができます。相続放棄をするには、被相続人が亡くなったことを知ってから3か月以内に、この申述書を家庭裁判所へ提出しなければなりません。 申述書には、放棄する理由や自分が相続人であることの確認情報などを記載します。借金などのマイナスの財産を抱えたくない場合に用いられる重要な書類ですので、記入ミスや提出期限に注意する必要があります。
申述人(しんじゅつにん)
申述人とは、裁判所などに対して正式な申し立て(申述)を行う人のことを指します。資産運用や相続の場面では、たとえば相続放棄や限定承認などの手続きを家庭裁判所に申し立てる人が申述人となります。申述人は、相続人や利害関係人など、法的にその手続きに関わる正当な立場の人に限られます。 申述人が提出する書類には、自身の氏名、住所、申述の理由などが記載されており、手続きの正当性を裏付ける重要な役割を果たします。申述人という言葉は日常ではあまり使われませんが、法的な手続きを進めるうえで中心的な存在です。







