海外へ単身赴任する場合に必要な手続きや注意点はありますか?
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2025/09/29 09:07
男性
30代
海外へ単身赴任する際には、住民票の移動や健康保険・年金の扱い、口座や投資商品の継続利用可否など、多くの実務的な課題があると聞きました。これらの手続きや注意点をどのように整理し、準備すればよいのか具体的に教えていただけますか?
回答
株式会社MONOINVESTMENT / 投資のコンシェルジュ編集長
海外赴任で最も重要なのは、自分が日本の居住者か非居住者かを判断することです。居住者のままであれば日本で全世界所得に課税され、健康保険や年金も継続でき、NISAや証券口座も利用できます。一方、非居住者になると日本での課税は国内源泉所得に限られ、住民税は非課税となる代わりに、NISAの新規投資ができなくなり、証券会社によっては取引が制限されます。この分岐がすべての前提になるため、まず会社や税理士と相談して自分の区分を確定させることが必要です。
出発前には社会保障協定の有無を確認し、必要であれば年金機構から証明書を取得します。健康保険は海外療養費の手続きや駐在保険への加入を検討し、iDeCoは厚生年金加入状況によって継続可否が変わります。役所へは国外転出届や納税管理人届を出し、マイナンバーカードの電子証明書は失効する点に注意してください。金融機関へは海外転居を届け出て、証券口座や銀行口座、クレジットカードが使えるかを事前に確認し、送金コストやネットバンキングの認証方法も見直す必要があります。不動産を持っている場合は管理委託や税金の支払い方法を整えておきましょう。
渡航後は現地で在留届を提出し、税務番号や現地口座を取得します。医療機関の利用方法や保険の適用範囲も確認しておくことが欠かせません。投資面では、非居住者になると新規のNISA買付ができなくなり、証券口座の利用が制限されることがあります。配当や利子には外国と日本の両方で課税される場合があるため、外国税額控除のための証憑を必ず保管しておくべきです。
出国の年の住民税や外国税額控除の証明不足など、税務面での見落としは大きな負担につながります。扶養控除も要件を満たしているか確認が必要です。帰任時には現地の納税証明を持ち帰り、転入届やマイナンバーカードの再発行、金融機関の住所登録変更を行い、NISAやiDeCoを再開できます。
結局のところ、海外単身赴任の手続きは居住区分と社会保障協定の確認から始まり、その結果に応じて税務・保険・投資・役所届出を整理していけば混乱なく進められます。会社のサポートを活用しつつ、金融機関や役所への届出を漏れなく済ませることが成功の鍵です。
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関連する専門用語
居住者
居住者とは、日本の税法や外為法などにおいて、日本国内に住所があるか、または現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人を指します。つまり、生活の本拠地が日本にある人や、長期的に日本に滞在している人が「居住者」として扱われます。 これに対して、日本に住んでいない、または一時的な滞在でしかない人は「非居住者」とされます。税務上の居住者になると、日本国内外の所得すべてが課税対象となり、国外で得た収入にも日本の所得税がかかることがあります。金融取引や資産運用においても、居住者か非居住者かによって課税の扱いや手続きが大きく異なるため、自分の居住者区分を正確に理解しておくことは非常に重要です。
国外転出届
国外転出届とは、日本に住民票を持つ人が1年以上の期間で海外に住む予定がある場合に、市区町村に提出する届け出のことです。この届出を行うことで、日本の住民票が削除され、住民税や国民健康保険、年金などの制度から一時的に外れることになります。資産運用の面では、国外転出届を提出することにより、特定口座やNISA口座を閉鎖しなければならなくなるなど、日本国内の金融サービスに制限が生じるため、海外移住を検討している人や長期出張を予定している人にとっては、事前に金融資産の整理や納税義務の確認が必要です。また、2023年時点で一定額以上の資産を持つ人が国外転出する場合、「出国税(国外転出時課税制度)」の対象となるため、特に富裕層にとっては重要な手続きです。
納税管理人
納税管理人とは、日本に住所や居所がない非居住者が、日本国内で所得を得る場合に、その納税義務を履行するために選任する代理人のことです。非居住者は原則として日本の税務署からの通知や納税手続きを直接行うことができないため、日本国内で納税関連業務を代行できる者を「納税管理人」として届け出る必要があります。 たとえば、不動産を貸して賃料収入を得ている海外在住者が、日本での所得税を納める場合などに活用されます。納税管理人は税務署との窓口として機能し、確定申告、納税、通知の受領などを行う役割を担います。この制度により、非居住者であっても円滑に納税義務を果たすことが可能となり、税務の透明性と確実性が確保されます。
社会保障協定
社会保障協定とは、日本と他の国との間で結ばれる取り決めで、海外で働く人や外国から来た人が社会保障制度を重複して負担しなくてもよいようにするための制度です。たとえば、日本人が海外で働くと、その国でも年金保険などの社会保険に加入しなければならない場合があります。 そうすると、日本とその国の両方で保険料を支払うことになり、負担が大きくなります。社会保障協定は、こうした二重の負担を避けるために、どちらか一方の国の制度だけに加入すればよいとするルールを定めています。また、年金の受給資格期間を通算することもできるため、海外で働いた期間も年金受給に必要な期間としてカウントできるようになります。これにより、海外勤務がキャリアに影響することなく、安心して働ける環境が整えられています。
NISA
NISAとは、「少額投資非課税制度(Nippon Individual Saving Account)」の略称で、日本に住む個人が一定額までの投資について、配当金や売却益などにかかる税金が非課税になる制度です。通常、株式や投資信託などで得られる利益には約20%の税金がかかりますが、NISA口座を使えばその税金がかからず、効率的に資産形成を行うことができます。2024年からは新しいNISA制度が始まり、「つみたて投資枠」と「成長投資枠」の2つを併用できる仕組みとなり、非課税期間も無期限化されました。年間の投資枠や口座の開設先は決められており、原則として1人1口座しか持てません。NISAは投資初心者にも利用しやすい制度として広く普及しており、長期的な資産形成を支援する国の税制優遇措置のひとつです。
外国税額控除
外国税額控除とは、日本に住んでいる個人や法人が、海外で所得を得てその国で税金を支払った場合に、同じ所得に対して日本でも課税される「二重課税」を避けるために、日本で支払う税金からその分を差し引くことができる制度のことをいいます。たとえば、外国株式の配当金を受け取った際に、外国で源泉徴収された税金がある場合、その金額を一定の計算に基づいて日本の所得税や法人税から控除することができます。この制度を利用することで、国際的な投資やビジネスを行う際の税負担を適正に調整できるようになります。ただし、控除できる金額には上限があり、正確な申告と証明書類の提出が必要です。資産運用や海外取引を行ううえで、知っておきたい重要な税務上の仕組みです。