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遺留分侵害額請求とは?減殺請求との違いや時効・流れ、請求された側の対応
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公開:
2026.10.26
更新:
2026.10.26
親の遺言で財産の大半が兄弟姉妹に渡る、生前贈与によって自分の取り分がほとんど残らないなど、相続の内容に納得できないケースがあります。一定の相続人には最低限の取り分である「遺留分」が認められますが、権利があっても自動的に支払われるわけではありません。
請求には期限があり、相手や金額を誤って判断すると解決が難しくなるおそれがあります。この記事では、遺留分侵害額請求の仕組みと旧制度との違いから、請求額の計算、期限、内容証明郵便・調停・訴訟の手続き、費用や税金まで具体的に解説します。
遺留分侵害額請求とは:遺留分を下回った分を金銭で請求する権利
遺留分侵害額請求とは、遺留分を侵害された相続人などが、遺贈や贈与を受けた人に対し、侵害額に相当する金銭の支払を求めることです。民法1046条1項は、遺留分権利者とその承継人が、受遺者または受贈者に対して請求できると定めています。受遺者には、「相続させる」旨の遺言(特定財産承継遺言)で財産を受け継いだ相続人なども含まれる、というのが条文の定めです。
ここでいう「遺留分の侵害」とは、遺言や生前贈与の結果、ある相続人が実際に得る財産が、その人の遺留分の額に届かない状態のことです。不足がなければ、遺言の内容が偏っていても請求はできません。
出典:e-Gov法令検索「民法(明治二十九年法律第八十九号)」
請求の前提になる遺留分の基本
遺留分は、兄弟姉妹以外の相続人(配偶者・子・直系尊属)に保障された最低限の取り分です。全体の割合は2分の1(直系尊属だけが相続人なら3分の1)で、それを各自の法定相続分で分け合います(民法1042条)。
- 遺言でも奪えない一方、黙っていて受け取れるものではなく、権利を行使して初めて金銭債権が生じる仕組みです。
遺留分がある人・ない人や相続人の組み合わせ別の割合の早見表、生前贈与を含む計算方法と具体例、生命保険金や遺留分の放棄の扱いは、こちらの記事でくわしく解説しています。
出典:法務省「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について(相続法の改正)」
遺留分減殺請求との違い【新旧比較表】
2019年7月1日に施行された改正民法で、旧制度の「遺留分減殺請求」は現在の「遺留分侵害額請求」に改められました。改正法の公布は2018年(平成30年)7月13日で、施行が2019年(令和元年)7月1日です。
今も「遺留分減殺請求」という言葉が使われることがありますが、2019年7月1日以後に開始した相続で使う制度は遺留分侵害額請求となります。主な違いは次の表のとおりです。
| 項目 | 遺留分減殺請求(旧制度) | 遺留分侵害額請求(現行制度) |
|---|---|---|
| 対象となる相続 | 2019年6月30日以前に開始した相続 | 2019年7月1日以後に開始した相続 |
| 請求の効果 | 遺贈や贈与の効力が失われ、財産に関する権利が請求者に移転する | 侵害額に相当する金銭債権が生じる |
| 不動産などの扱い | 受け取った人と請求者の共有状態になることがある | 受け取った人が持ち続け、金銭で精算する |
| 受け取った側の対応 | 価額を弁償して返還の義務を免れることができた(旧1041条) | 金銭で支払い、裁判所に支払期限の許与を求められる(1047条5項) |
| 負担の順序 | 遺贈を減殺した後に贈与を減殺し、贈与は後のものから(旧1033条・旧1035条) | 受遺者が先で、受贈者は後の贈与から(1047条1項) |
| 相続人への贈与の算入 | 特別受益にあたる贈与は903条の準用で算入され、期間を区切る規定はなかった(旧1044条) | 原則として相続開始前の10年間(1044条3項。双方が損害を加えることを知ってした贈与はそれより前も算入) |
| 期限 | 知った時から1年、相続開始から10年(旧1042条) | 知った時から1年、相続開始から10年(1048条) |
出典:法務省「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について(相続法の改正)」
出典:法務省「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律 新旧対照条文」
出典:e-Gov法令検索「民法(明治二十九年法律第八十九号)」
出典:法務省「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について(相続法の改正)」
※旧制度の欄の条番号は改正前の民法、現行制度の欄は現行の民法の条番号です。
改正の理由について法務省は、減殺請求で共有状態が生じることが事業承継の支障になっているという指摘や、共有割合の分母・分子が極めて大きな数字になり持分の処分に支障が出るおそれを挙げています。
- 金銭債権にしたことで共有関係を避けられ、遺贈や贈与の目的財産を受遺者等に与えたいという遺言者の意思も尊重できる、という整理です。自宅や会社の土地建物を受け継いだ人が、持ち続けたまま金銭で精算できるようになったわけです。
2019年6月30日以前に開始した相続は旧制度のまま
改正法は、施行日の2019年7月1日より前に開始した相続には適用されず、旧法が適用される仕組みです(平成30年法律第72号附則2条)。法務省の資料も、相続開始時を基準とする旧法主義を採用したと説明しています。裁判所の手続案内によると、令和元年7月1日より前に被相続人が亡くなった相続は、遺留分侵害額の請求調停の対象外です。
この場合は改正前の規定にもとづき、遺留分減殺による物件返還請求等の調停を申し立てることになります。たとえば2019年6月に開始した相続なら、相続開始から10年を経過する2029年6月までは、旧制度での請求が問題になり得る期間です。適用される制度は被相続人が亡くなった日で決まるため、まず死亡日を確かめることが出発点になります。
出典:e-Gov法令検索「民法(明治二十九年法律第八十九号)」
誰が誰に請求できるか:請求できる人・請求の相手・負担の順序
遺留分侵害額請求では、誰が請求でき、誰がどの順番でいくらまで負担するかが条文で決まっています。
請求できる人:遺留分権利者とその承継人
請求できるのは、遺留分を侵害された遺留分権利者(兄弟姉妹以外の相続人)と、その承継人です(民法1046条1項)。裁判所の手続案内は、承継人の例として相続人と相続分譲受人を挙げています。兄弟姉妹や甥・姪、相続放棄をした人は遺留分を持たないため、請求することはできません。
出典:e-Gov法令検索「民法(明治二十九年法律第八十九号)」
請求の相手:受遺者が先、受贈者は後の贈与から
請求の相手は、遺贈を受けた人(受遺者)と、遺留分の計算に算入される生前贈与を受けた人(受贈者)です。相手が複数いる場合の負担の順序と上限について、民法1047条1項は次のように定めています。
遺留分の請求相手
- 受遺者と受贈者がいるときは、受遺者が先に負担する
- 受遺者が複数いるとき、または同時にされた贈与の受贈者が複数いるときは、目的の価額の割合に応じて負担する(遺言で別の意思が示されていればそれに従う)
- 受贈者が複数いるとき(同時の贈与を除く)は、後の贈与の受贈者から順に、前の贈与の受贈者が負担する
- 負担の上限は遺贈や贈与の目的の価額で、受遺者・受贈者が相続人なら、そこから本人の遺留分の額を差し引いた額になる
まず遺言で財産を受け取った人が負担し、足りない分を、相続開始に近い時期の贈与を受けた人から順に負担する仕組みです。相手が相続人の場合は、その人自身の遺留分を残した額までしか負担を求められません。
このほか、請求を受けた受遺者・受贈者が、遺留分権利者が引き継いだ被相続人の債務を弁済するなどして消滅させた場合は、意思表示によってその額の限度で負担する債務を消滅させられます(1047条3項)。受遺者・受贈者に資力がなく支払を受けられないときの損失は遺留分権利者の負担になる、というのが同条4項の定めです。
出典:e-Gov法令検索「民法(明治二十九年法律第八十九号)」
請求できる金額の計算:侵害額の式と計算例
請求できる金額は、遺留分の額をもとに、民法1046条2項の式で計算します。
遺留分侵害額の求め方
遺留分侵害額とは、遺留分の額から実際に得た分を差し引いた不足額のことです。
遺留分侵害額の求め方
- 遺留分の額から遺贈や特別受益にあたる贈与の額を差し引く
- さらに相続で取得すべき遺産の額を差し引く
- 承継する被相続人の債務の額を加える
遺留分の額は、基礎財産(遺留分を算定するための財産の価額)に、全体の割合と自分の法定相続分を掛けた額です。基礎財産には、相続開始前1年間の相続人以外への贈与や、10年間の相続人への婚姻・養子縁組・生計の資本としての贈与も加わる点が特徴です。
出典:e-Gov法令検索「民法(明治二十九年法律第八十九号)」
計算例:受遺者と受贈者の両方がいる場合
父が亡くなり、相続人は長男と長女の2人(母は既に死亡)というケースで考えてみましょう。遺言は、自宅と預貯金の計2,000万円をすべて長男に相続させる内容です。父は亡くなる8か月前に、めい(父の兄の子)へ現金3,000万円を贈与しており、債務はありません。
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 相続開始時の財産(遺言で長男が取得) | 自宅と預貯金 | 2,000万円 |
| 算入する贈与 | めいへの現金(相続開始の8か月前・相続人以外) | 3,000万円 |
| 基礎財産 | 2,000万円+3,000万円-債務0円 | 5,000万円 |
| 長女の遺留分 | 5,000万円×1/2×法定相続分1/2 | 1,250万円 |
| 長女の遺留分侵害額 | 1,250万円-0円-0円+0円 | 1,250万円 |
| 長男(受遺者)の負担の上限 | 2,000万円-長男自身の遺留分1,250万円 | 750万円 |
| 長男の負担額 | 受遺者が先に負担 | 750万円 |
| めい(受贈者)の負担額 | 1,250万円-750万円 | 500万円 |
出典:e-Gov法令検索「民法(明治二十九年法律第八十九号)」
※編集部が設定した仮の例です。めいへの贈与は、相続開始前1年間にした相続人以外への贈与として基礎財産に算入しています。実際の金額は、財産の評価方法や贈与の事実関係によって変わります。
- この例で長女は、受遺者である長男に750万円、残りの500万円を受贈者のめいに請求する計算です。長男は遺言で2,000万円を受け取っていますが、自分にも1,250万円の遺留分があるため、負担の上限は750万円になります。請求する側は、負担の順序と上限を踏まえて、誰にいくら請求するかを組み立てることが大切です。
遺留分侵害額の計算で差し引く特別受益に当たる贈与・当たらないものや、持ち戻しの計算方法、遺留分との注意点は、こちらの記事でくわしく解説しています。
遺留分侵害額請求の期限:1年・10年と請求後の時効
遺留分侵害額請求には、請求するまでの期限のほか、請求した後に生じる金銭債権の時効も問題になり得ます。
知った時から1年、相続開始から10年
遺留分侵害額の請求権は、相続の開始と、遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時から1年間行使しないと、時効によって消滅します(民法1048条)。起算点は相続開始の日ではなく、両方を知った時です。遺言の内容を知った日などが基準になり得るため、その日付の記録を残しておくと期限の確認に役立ちます。
- 10年の期間について、条文は「相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。」と定めるのみです。この期間を除斥期間と呼ぶ解説もありますが、性質の呼び方は解釈上の整理で、侵害を知らなくても相続開始から10年を過ぎると請求できなくなります。話し合いを続けている途中でも期限は進むため、日付の管理が欠かせません。
出典:e-Gov法令検索「民法(明治二十九年法律第八十九号)」
請求後に生じる金銭債権の時効と遅延損害金
期限内に請求の意思表示をすれば1年・10年の期限は守れますが、それで手続きが終わるわけではない点に注意が必要です。法務省は、遺留分に関する権利の行使によって、遺留分侵害額に相当する金銭債権が生じると説明しています。この金銭債権には、債権の消滅時効を定めた民法166条1項(権利を行使できることを知った時から5年など)が及ぶと考えられています。
支払が遅れた場合の遅延損害金は、金銭債務では法定利率で計算するのが原則です(民法419条1項)。法定利率は年3%で、3年ごとに見直す仕組みになっています(民法404条)。
期限の定めのない債務は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負うというのが412条3項の定めです。遺留分侵害額の支払債務にもこの規定が当てはまると考えられているため、支払を求めた日付も記録しておくと後の確認に役立ちます。
法務省によると、令和8年4月1日から令和11年3月31日までの法定利率も、変わらず年3%です。
出典:法務省「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について(相続法の改正)」
遺留分侵害額請求の流れ【フロー表】
遺留分侵害額請求は、必ず裁判所の手続きを使わなければならないものではありません。一般的な流れを表にまとめると、次のとおりです。
| 段階 | すること | 主な根拠・注意点 |
|---|---|---|
| ①侵害の確認 | 遺言・贈与・財産と債務を確認し、侵害額を試算する | 1年の期限を意識して並行して進める |
| ②意思表示 | 受遺者・受贈者に請求する意思を伝える | 裁判所の手続案内は内容証明郵便等による意思表示を挙げている |
| ③協議 | 金額・支払時期・支払方法を話し合う | 合意した内容は書面に残す |
| ④調停 | 家庭裁判所に遺留分侵害額の請求調停を申し立てる | 申立てだけでは②の意思表示にならない |
| ⑤訴訟 | 地方裁判所または簡易裁判所に訴えを起こす | 訴える前に原則として家事調停の申立てが必要(家事事件手続法257条) |
出典:e-Gov法令検索「家事事件手続法(平成二十三年法律第五十二号)」
期限との関係で問われるのは②の意思表示で、④の調停を申し立てても②の代わりにはなりません。
ステップ1:意思表示は内容証明郵便と配達証明で証拠を残す
民法1046条は、請求の意思表示の方式を定めていません。ただし、期限内に請求したことを後で示せるよう、裁判所の手続案内は内容証明郵便等による意思表示を挙げています。意思表示は相手に届いた時から効力を生じるため(民法97条1項)、期限の直前に送る場合は配達にかかる日数にも注意が必要です。
内容証明郵便は、いつ、どのような内容の文書を誰から誰あてに差し出したかを、差出人が作成した謄本によって証明するサービスです。文書の内容が真実かどうかまでは証明しません。相手に配達された事実も残したい場合は、配達したという事実を証明する配達証明をあわせて付けられます。
何を請求するのかを相手に伝えるため、たとえば次のような事項を書いておくのが1つの方法です。
内容証明郵便に書くべき内容
- 差出人(遺留分権利者)と相手方(受遺者・受贈者)の氏名・住所
- 被相続人の氏名と亡くなった日
- 遺留分を侵害している遺言や贈与の内容
- 遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求する意思
- 差し出す日付
財産の調査が終わらず、金額を書けない段階で期限が迫ることもあります。期限との関係では請求の意思を相手に届けたかどうかが問われるため、金額の算定に時間がかかる場合の書き方は、弁護士に確認しておくとよいでしょう。
ステップ2:当事者で協議し、合意は書面に残す
意思表示の後は、金額・支払時期・支払方法を当事者で話し合います。不動産や非上場株式などは評価の方法で金額が変わるため、根拠となる資料を示し合うことが話し合いの土台です。合意できた場合は、後の紛争を防ぐため、合意内容を書面に残しておきます。
ステップ3:家庭裁判所の遺留分侵害額の請求調停
話し合いがまとまらない、または話し合いができない場合は、家庭裁判所の調停を利用できます。調停手続では、当事者双方から事情を聴いたり資料を出してもらったりしたうえで、解決案の提示や助言をしながら話し合いを進めるのが特徴です。裁判所の手続案内による申立ての概要は、次の表のとおりとなります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申立人 | 遺留分を侵害された人(兄弟姉妹以外の相続人)、その承継人(相続人、相続分譲受人) |
| 申立先 | 相手方の住所地の家庭裁判所、または当事者が合意で定める家庭裁判所 |
| 費用 | 収入印紙1,200円分、連絡用の郵便切手(郵便料は裁判所ごとに異なる) |
| 主な必要書類 | 申立書とその写し(相手方の数)、被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本、遺言書の写しまたは検認調書謄本の写し、遺産に関する証明書 |
| 遺産に関する証明書の例 | 不動産登記事項証明書、固定資産評価証明書、預貯金通帳の写しまたは残高証明書、有価証券写し、債務の額に関する資料など |
| 対象となる相続 | 令和元年7月1日以後に被相続人が亡くなった相続 |
注意したいのは、調停を申し立てただけでは相手方への意思表示にならない点です。裁判所は、調停の申立てとは別に内容証明郵便等で意思表示をする必要があると案内しています。調停で合意が成立して調書に記載されると、その記載は確定判決と同一の効力を持ちます(家事事件手続法268条1項)。
出典:e-Gov法令検索「家事事件手続法(平成二十三年法律第五十二号)」
ステップ4:訴訟は地方裁判所または簡易裁判所へ
調停が成立しない場合は、訴訟で裁判所の判断を求めることになります。遺留分侵害額請求訴訟は金銭の支払を求める民事訴訟で、訴額が140万円を超えれば地方裁判所、140万円以下なら簡易裁判所が第一審です(裁判所法24条・33条)。訴えの手数料も、訴訟の目的の価額(訴額)などに応じて法律で定められた額です。
家事事件手続法257条1項は、家事調停を行うことができる事件について訴えを起こす人は、まず家庭裁判所に家事調停を申し立てなければならないと定めています。
- 調停を経ずに訴えた場合、裁判所は原則として事件を調停に付しますが、調停に付すのが相当でないと認めるときはこの限りではない、というのが同条2項の定めです。調停が成立せずに終わった通知を受けた日から2週間以内に訴えを起こすと、調停の申立ての時に訴えたものとみなされます(272条3項)。
訴訟では、遺留分が侵害されていることやその額を証拠にもとづいて主張する必要があり、弁護士に相談しながら進めることも選択肢になります。
出典:e-Gov法令検索「裁判所法(昭和二十二年法律第五十九号)」
出典:e-Gov法令検索「家事事件手続法(平成二十三年法律第五十二号)」
出典:e-Gov法令検索「民事訴訟費用等に関する法律(昭和四十六年法律第四十号)」
遺留分侵害額請求の費用の目安と相談先
遺留分侵害額請求にかかる費用は、自分で進める部分の実費と、専門家に依頼する場合の報酬に分かれます。公的な資料で確認できる主な費用は次のとおりです。
| 項目 | 金額の目安 | 確認先 |
|---|---|---|
| 内容証明郵便(謄本1枚・定形郵便物) | 1,070円 | 日本郵便 |
| 配達証明(差出時に付ける場合) | 350円 | 日本郵便 |
| 遺留分侵害額の請求調停 | 収入印紙1,200円分と連絡用の郵便切手 | 裁判所 |
| 調停の添付書類(戸籍謄本など) | 取得する通数や種類によって異なる | 取得先の窓口 |
| 訴えの提起の手数料 | 訴額などに応じて法律で定められた額 | 民事訴訟費用等に関する法律 |
| 弁護士費用 | 依頼先との契約で決まる | 依頼先の見積もり |
※2026年10月23日時点の日本郵便・裁判所の公表資料をもとに編集部が作成しました。郵便料金は重量や謄本の枚数、付けるオプションによって変わります。
弁護士費用は事務所ごとに定め方が異なり、相談料・着手金・報酬金などの名目や、協議・調停・訴訟の段階ごとの扱いも一律ではない点に注意が必要です。依頼を検討する場合は、見積もりで総額の目安と内訳を確かめ、複数の事務所を比べると判断しやすくなります。
法テラスの民事法律扶助
費用の支払が難しい場合は、日本司法支援センター(法テラス)の民事法律扶助を利用できる可能性があります。民事裁判等の費用を支払う資力がない人などのための、代理人の報酬や実費の立替えは、総合法律支援法30条が定める法テラスの業務の1つです。
相続の悩みを弁護士・税理士・司法書士のどこに相談するかや、法テラスなど無料で相談できる公的窓口、相談前に準備しておきたいものは、こちらの記事が参考になるでしょう。
遺留分侵害額請求をされた側の対応
遺言や生前贈与で財産を受け取り、遺留分侵害額の請求を受けた側にも、確認すべき点と使える制度があります。
支払う前に確認すること
請求を受けたら、支払う前に次の点を確かめておくと、金額や対応の方針を判断しやすくなります。
遺留分を支払う前に確認すること
- 請求者が遺留分権利者か(兄弟姉妹、甥・姪、相続放棄をした人には遺留分がない)
- 期限内の請求か(相続の開始と侵害を知った時から1年、相続開始から10年)
- 適用される制度は何か(2019年6月30日以前に開始した相続なら旧制度)
- 計算の前提は正しいか(算入した贈与の範囲、財産の評価方法、請求者自身の特別受益や取得した遺産が差し引かれているか)
- 自分の負担の範囲はどこまでか(受遺者が先に負担する順序や、相続人なら自分の遺留分を残した額が上限になること)
根拠が分からない点は、書面で計算の内訳や資料の提示を求めることも選択肢の1つです。一方で、理由のある請求に応答しないまま放置すると、調停や訴訟に進む可能性があり、遅延損害金の負担も生じ得ます。
一括で払えないときは支払期限の許与
受け取った財産が自宅や事業用の資産ばかりで、すぐに金銭を用意できないケースも考えられます。そのための制度が、裁判所による支払期限の許与です。民法1047条5項は、受遺者・受贈者の請求により、裁判所が支払の全部または一部につき相当の期限を許与できると定めています。
法務省は、金銭を直ちには準備できない受遺者等の利益を図るための見直しと説明しています。どれだけの期限が認められるかは裁判所の判断で、当事者間の協議で分割払いや支払時期を合意する方法もある、という点も押さえておきたいところです。
不動産などで支払う代物弁済と譲渡所得
当事者が合意すれば、金銭の代わりに不動産などを渡して債務を消滅させることもできます。これは代物弁済と呼ばれ、その給付は弁済と同一の効力を持つとされています(民法482条)。ただし、税金の扱いには注意が必要です。
- 国税庁の所得税基本通達33-1の6は、金銭の支払に代えて資産を移転したときは、原則として消滅した債務の額に相当する価額で資産を譲渡したこととなるとしています。渡した側には、相続税とは別に譲渡所得の課税が生じ得るわけです。
受け取った側は、原則として消滅した債権の額に相当する価額でその資産を取得したことになります(所得税基本通達38-7の2)。
国税庁の質疑応答事例では、代物弁済で宅地を受け取った人は相続や遺贈で取得したわけではないため、小規模宅地等の特例を受けられないとされています。代物弁済を検討する場合は、登記の前に税理士へ相談し、課税関係を確かめておくことが大切です。
なお、小規模宅地等の特例については、こちらの記事でも解説しています。あわせて参考にしてみてください。
出典:国税庁「法第38条《譲渡所得の金額の計算上控除する取得費》関係」
出典:国税庁「遺留分侵害額の請求に伴い取得した宅地に係る小規模宅地等の特例の適用の可否(令和元年7月1日以後に開始した相続)」
遺留分侵害額請求と税金:受け取った側・支払った側
遺留分侵害額の金銭をやり取りすると、相続税の申告にも影響します。相続税の申告期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です(相続税法27条1項)。請求が申告期限までに決着しない場合の扱いは、通達で示されています。
申告の時点で遺留分侵害額の請求に基づき支払う金額が確定していなければ、確定の事由がないものとした場合の各相続人の相続分をもとに課税価格を計算するのが通達の取扱いです(相続税法基本通達11の2-4)。金額が確定した後は、立場に応じて次の手続きをとります。
| 立場 | 手続き | 期限・根拠 |
|---|---|---|
| 受け取った側(すでに申告している) | 修正申告 | 相続税法31条1項 |
| 受け取った側(新たに申告が必要になった) | 期限後申告 | 相続税法30条1項 |
| 支払った側 | 更正の請求(払いすぎた税額の減額を求める) | 金額の確定を知った日の翌日から4か月以内(相続税法32条1項3号) |
国税庁の質疑応答事例は、代物弁済で宅地を受け取った側について、遺留分侵害額に相当する金銭を取得したものとして相続税の修正申告をすることになるとしています。支払った側は、金額の確定を知った日の翌日から4か月以内に更正の請求ができます。
更正の請求にもとづく更正があった場合、税務署長は受け取った側の課税価格や税額を更正・決定することになります。ただし、その更正・決定ができる期間には制限があります(相続税法35条3項)。
相続税の申告の要否や税額は、遺産全体と各人の取得額で決まるため、税理士への確認も選択肢です。相続税の計算の全体像や基礎控除、税額の早見表と具体的な計算例は、こちらの記事でくわしく解説しています。
出典:e-Gov法令検索「相続税法(昭和二十五年法律第七十三号)」
出典:国税庁「遺留分侵害額の請求に伴い取得した宅地に係る小規模宅地等の特例の適用の可否(令和元年7月1日以後に開始した相続)」
この記事のまとめ
遺留分侵害額請求は、遺言や生前贈与によって最低限の取り分が侵害された場合に、その不足分を金銭で請求する制度です。請求できる人と相手方、金額の計算方法に加え、相続開始と侵害を知った時から1年、相続開始から10年という期限を押さえることが重要です。
まずは被相続人の死亡日、遺言書、財産・債務、生前贈与の記録を確認し、請求額の見通しを立てましょう。期限が近い場合は、内容証明郵便などで請求の意思表示を残すことを優先し、財産評価や親族間の協議が難しければ弁護士に相談して進めましょう。

金融系ライター
厚生労働省や保険業界・不動産業界での勤務を通じて、社会保険や保険、不動産投資の実務を担当。FP1級と社会保険労務士資格を活かして、多くの家庭の家計見直しや資産運用に関するアドバイスを行っている。金融メディアを中心に、これまで1,000記事以上の執筆実績あり。
厚生労働省や保険業界・不動産業界での勤務を通じて、社会保険や保険、不動産投資の実務を担当。FP1級と社会保険労務士資格を活かして、多くの家庭の家計見直しや資産運用に関するアドバイスを行っている。金融メディアを中心に、これまで1,000記事以上の執筆実績あり。







