年金の平均受給額はいくら?最新データ、老後生活に備える対策や「WPP理論」を解説

年金の平均受給額はいくら?最新データ、老後生活に備える対策や「WPP理論」を解説
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公開:
2025.11.19
更新:
2025.11.19
老後の生活を支える年金は、誰もが関心を持つ重要なテーマです。令和5年度のデータによると、国民年金の平均受給額は月額約5.8万円、厚生年金は約14.7万円と、働き方によって大きな差が生じています。人生100年時代を迎え、年金だけでは不足する老後資金をどう準備するかが課題となっています。
サクッとわかる!簡単要約
本記事では、令和5年度の最新データをもとに、年金の平均受給額と老後資金の準備方法を解説します。繰下げ受給による最大84%の増額効果、iDeCoや新NISAなどの私的年金制度、そして「Work longer(就労延長)」「Private pensions(私的年金)」「Public pensions(公的年金)」を組み合わせたWPP理論による老後設計まで、具体的なシミュレーションを交えて紹介。この記事を読むことで、自分が将来受け取れる年金額の目安と、不足分を補うための現実的な資金戦略が理解できます。
目次
年金の平均受給額【2025年最新データ】
年金の平均受給額は、加入している年金制度や働き方によって異なります。ここでは厚生労働省が公表している令和5年度の最新データをもとに、国民年金と厚生年金それぞれの平均受給額を詳しく見ていきましょう。
自分がどの程度の年金を受け取れるのかを把握することは、老後の生活設計を立てるうえで欠かせません。まずは全体像を理解し、ご自身の状況と照らし合わせてみてください。
国民年金の平均受給額
国民年金(老齢基礎年金)の平均受給額は、令和5年度時点で月額57,700円です。年額に換算すると約69万2,000円となります。
なお、男女別の平均受給額は以下のようになっています。
- 男性:月額59,965円(年額約72万円)
- 女性:月額55,777円(年額約67万円)
出典:厚生労働省「令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
この金額は、自営業者や専業主婦など、厚生年金に加入していない方が受け取る年金の平均値です。令和7年度(2025年度)の満額は月額69,308円であるため、平均受給額は満額より約1万1,600円少ない計算になります。
- この差が生じる主な理由は、保険料の未納期間や免除・猶予期間がある方がいるためです。国民年金は20歳から60歳までの40年間(480か月)すべて保険料を納めることで、はじめて満額を受け取れます。
国民年金の受給額は、納付した月数に比例して決まります。たとえば20年間(240か月)しか納めていない場合、受給額は満額の半分になってしまうため注意が必要です。
厚生年金の平均受給額
厚生年金(老齢厚生年金)の平均受給額は、令和5年度時点で月額147,360円です。年額に換算すると約176万7,000円となります。
なお、男女別の平均受給額は以下のようになっています。
- 男性:月額166,606円(年額約200万円)
- 女性:月額107,200円(年額約128万6,000円)
出典:厚生労働省「令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
厚生年金は会社員や公務員が加入する制度であり、在職中の給与や賞与に応じた保険料を納めることで、老後により手厚い保障が受けられます。
厚生年金は国民年金に比べて平均で約9万円多く受け取れるため、老後の生活水準に大きな影響を与えます。
年代別の年金受給額
年金の受給額は、年代によっても異なります。これは繰上げ受給や繰下げ受給の影響、在職中の収入による調整などが関係しているためです。
ここでは厚生労働省のデータをもとに、年代別の平均受給額を詳しく見ていきましょう。ご自身の年代と照らし合わせることで、より具体的な老後のイメージを持つことができます。
60代の年金受給額
厚生労働省「令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、60代の年金受給額は以下のとおりでした。
| 年代 | 老齢基礎年金 | 老齢厚生年金 |
|---|---|---|
| 60~64歳 | 44,836円 | 75,945円 |
| 65~69歳 | 59,331円 | 147,428円 |
出典:厚生労働省「令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
60代前半の受給額が他の年代より少ない理由は、繰上げ受給を選択しているケースが多いためです。繰上げ受給とは、本来65歳から受け取る年金を60歳~64歳の間に前倒しで受け取る制度を指します。
繰上げ受給を選択すると、1か月あたり0.4%(令和4年4月以降に60歳到達の場合)ずつ年金額が減額されます。たとえば60歳から受給を開始すると、65歳から受け取る場合と比べて24%も減額される計算です。
- 65歳以降は原則どおりの年金を受け取る方が多いため、60歳前半よりも受給額が増加します。厚生年金の受給額は60代前半の約2倍になっており、老後の生活資金として十分に機能する水準といえるでしょう。
70代以降の年金受給額
70代以降の年金受給額は、65~69歳とほぼ同水準か、やや高い傾向にあります。これは繰下げ受給を選択している方が一定数いることや、過去の加入期間が長い世代であることが影響しています。
年代別の平均受給額は以下のとおりです。
| 年代 | 老齢基礎年金 | 老齢厚生年金 |
|---|---|---|
| 70~74歳 | 58,421円 | 144,520円 |
| 75~79歳 | 57,580円 | 147,936円 |
| 80~84歳 | 57,045円 | 155,635円 |
| 85~89歳 | 57,336円 | 162,348円 |
| 90歳以上 | 53,621円 | 160,721円 |
出典:厚生労働省「令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
令和4年4月からは繰下げの上限年齢が70歳から75歳に引き上げられました。75歳まで繰り下げると、年金額は65歳時点の1.84倍(84%増)になります。
- 長寿化が進む現代において、繰下げ受給は老後の生活をより豊かにする有効な選択肢といえるでしょう。ただし、繰下げ期間中の生活資金をどう確保するかが重要なポイントです。
職業別の年金受給額シミュレーション
年金の受給額は、職業や働き方によって異なります。会社員と自営業者では加入する年金制度が違ううえ、専業主婦の場合は独自の仕組みがあるためです。
ここでは代表的な3つの職業パターンについて、具体的な受給額をシミュレーションしていきます。あなたやご家族の働き方と照らし合わせながら、将来受け取れる年金額をイメージしてみましょう。
サラリーマン(会社員・公務員)の年金受給額
サラリーマンは厚生年金に加入しているため、国民年金(老齢基礎年金)に加えて老齢厚生年金を受け取れます。この2階建ての構造により、自営業者や専業主婦と比べて手厚い保障が受けられるのが特徴です。
厚生年金の受給額は、現役時代の給与(標準報酬月額)と加入期間によって決まります。標準報酬月額とは、社会保険料の計算基礎となる月収のことで、給与明細に記載されています。
平均的なサラリーマンの受給額モデル
年収400万円のサラリーマンが40年間厚生年金に加入した場合、受給額は以下のようになります。
- 老齢基礎年金:月額約69,308円(満額)
- 老齢厚生年金:月額約72,000円
- 合計:月額約141,000円
年収が高いほど厚生年金部分が増えるため、年収600万円なら合計で月額約19万5,000円、年収800万円なら月額約23万3,000円となります。ただし、これはあくまで概算であり、実際の受給額は加入期間や賞与の有無によっても変動します。
夫婦共働きの受給額モデル
共働き世帯では、夫婦それぞれが厚生年金を受け取れるため、世帯全体の年金額は大幅に増えます。
たとえば夫の年収が550万円、妻の年収が350万円で、ともに40年間厚生年金に加入した場合を見てみましょう。
- 夫:月額約187,800円(基礎年金69,308円+厚生年金118,492円)
- 妻:月額約144,940円(基礎年金69,308円+厚生年金75,632円)
- 世帯合計:月額約332,740円
世帯で月額30万円を超える年金が受け取れれば、ゆとりある老後生活も十分に視野に入ります。共働きは現役時代の収入が増えるだけでなく、老後の年金額も改善する効果があるのです。
配偶者の扶養内で働いている方も、社会保険に加入することで将来の年金額を増やせる可能性があるため、働き方の見直しを検討する価値があるでしょう。
自営業者の年金受給額
自営業者やフリーランスは厚生年金に加入していないため、受け取れるのは国民年金(老齢基礎年金)のみです。会社員と比べると年金額が少なくなるため、老後資金を別途準備する必要があります。
20歳から60歳までの40年間、国民年金保険料を満額納めた場合、受給額は以下のとおりです。
- 老齢基礎年金:月額69,308円(令和7年度)
- 年額:約83万2,000円
会社員の平均受給額(月額約14万円)と比べると、半分以下の水準です。夫婦ともに満額の国民年金を受け取れる場合でも、世帯で月額約13万8,000円程度にしかならず、老後の生活費としては不十分といえるでしょう。
専業主婦(夫)の年金受給額
専業主婦(主夫)は、配偶者が会社員や公務員の場合、国民年金の第3号被保険者となります。この制度により、自分で保険料を納めなくても国民年金に加入している扱いになります。
第3号被保険者になるための条件は以下のとおりです。
- 配偶者が厚生年金に加入している
- 年収が130万円未満(障害者の場合は180万円未満)
- 配偶者の扶養に入っている
この条件を満たせば、保険料を納めずに国民年金に加入でき、将来は老齢基礎年金を受け取れます。ただし、受け取れるのは国民年金のみで、厚生年金は対象外です。
専業主婦が40年間第3号被保険者だった場合の受給額は、自営業者と同じく月額69,308円(満額)となります。
夫が会社員(年収550万円、40年間加入)、妻が専業主婦(40年間第3号被保険者)の世帯を想定してみましょう。
- 夫:月額約187,800円(基礎年金+厚生年金)
- 妻:月額約69,308円(基礎年金のみ)
- 世帯合計:月額約257,108円
夫婦で月額約25万7,000円の年金が受け取れれば、平均的な生活を送ることは可能です。ただし、共働き世帯(月額約33万円)と比べると、約7万円の差があります。
老後の生活水準を高めたい場合は、専業主婦であってもパートなどで厚生年金に加入することを検討する価値があるでしょう。
なお、年収の壁に関してはこちらの記事でも詳しく解説しています。
年収別の厚生年金受給額早見表
厚生年金の受給額は、現役時代の年収によって変わります。ここでは年収別の受給額を早見表でわかりやすく整理しました。
あなたの年収と照らし合わせることで、将来受け取れる年金額の目安がつかめるはずです。老後の生活設計を立てる際の参考にしてください。
年収300万円~500万円:13万~17万円程度
年収300万円から500万円の層は、日本の平均的な給与水準に該当します。国税庁の「民間給与実態統計調査」によると、令和6年分の平均給与は478万円であり、多くの方がこの範囲に含まれるでしょう。
以下の表は、20歳から60歳まで40年間(480か月)厚生年金に加入し、平成15年4月以降の期間のみで計算した概算値です。
| 年収 | 標準報酬月額 | 厚生年金部分(月額) | 基礎年金(月額) | 合計(月額) |
|---|---|---|---|---|
| 300万円 | 26万円 | 約65,552円 | 69,308円 | 約134,860円 |
| 350万円 | 30万円 | 約75,632円 | 69,308円 | 約144,940円 |
| 400万円 | 34万円 | 約85,722円 | 69,308円 | 約155,030円 |
| 450万円 | 38万円 | 約95,802円 | 69,308円 | 約165,110円 |
| 500万円 | 41万円 | 約103,372円 | 69,308円 | 約172,680円 |
年収300万円の場合、月額約13万5,000円の年金が受け取れます。年額にすると約161万8,000円です。単身世帯であれば最低限の生活は送れますが、ゆとりある暮らしには追加の資金準備が必要でしょう。
年収400万円になると月額約15万5,000円に増え、年収500万円では月額約17万3,000円となります。年収が100万円上がるごとに、月額約1万円ずつ年金額が増える計算です。
年収550万円~800万円:18万~23万円程度
年収500万円を超えると、厚生年金の受給額は月額17万円以上となり、老後の生活にある程度のゆとりが生まれます。年収800万円に達すると、月額23万円を超える年金が受け取れるでしょう。
| 年収 | 標準報酬月額 | 厚生年金部分(月額) | 基礎年金(月額) | 合計(月額) |
|---|---|---|---|---|
| 550万円 | 47万円 | 約118,492円 | 69,308円 | 約187,800円 |
| 600万円 | 50万円 | 約126,062円 | 69,308円 | 約195,370円 |
| 650万円 | 53万円 | 約133,622円 | 69,308円 | 約202,930円 |
| 700万円 | 59万円 | 約148,752円 | 69,308円 | 約218,060円 |
| 750万円 | 62万円 | 約156,312円 | 69,308円 | 約225,620円 |
| 800万円 | 65万円 | 約163,882円 | 69,308円 | 約233,190円 |
年収600万円の場合、月額約19万5,000円の年金が受け取れます。総務省の家計調査によると、高齢夫婦無職世帯の平均支出は月額約28万円程度です(消費支出と非消費支出の合計)。配偶者も国民年金を受給できれば、世帯で月額26万円程度となり、平均的な生活を送れる水準に達します。
年収700万円以上になると、単身でも月額20万円を超える年金が受け取れるため、老後の経済的不安は軽減されるでしょう。ただし、年金には税金や社会保険料がかかるため、手取り額はさらに少なくなる点に注意が必要です。
年金は雑所得として課税対象になるため、最終的な手取り額をベースに生活設計をしましょう。年金と税金の関係については、こちらの記事で解説しています。
年金受給額を増やす6つの方法
将来受け取れる年金額に不安を感じている方は、今からでも受給額を増やす対策ができます。年金制度にはさまざまな仕組みが用意されており、ご自身の状況に応じて活用することが可能です。
ここでは、年金受給額を増やすための具体的な方法を6つご紹介します。それぞれのメリットや注意点を理解し、できることから始めてみましょう。
国民年金の追納制度を活用する
国民年金保険料の納付を免除または猶予されていた期間がある場合、後から保険料を納めることで、将来の年金額を増やせます。これを追納制度といいます。
たとえば学生納付特例制度を利用していた場合、その期間は年金の受給資格期間には算入されますが、年金額には反映されません。追納をすると、免除・猶予されていた期間が「保険料納付済期間」として扱われるため、年金額が満額に近づきます。
国民年金の追納については、こちらの記事もあわせてご覧ください。
任意加入制度を活用する
60歳になると国民年金への加入義務はなくなりますが、年金額が満額に達していない場合は、60歳以降も任意で加入し続けることができます。これを任意加入制度といいます。
任意加入制度を利用できるのは、以下の条件を満たす方です。
- 60歳以上65歳未満で、年金の受給資格期間(10年)を満たしている
- 老齢基礎年金を受給していない
- 厚生年金保険に加入していない
- 日本国内に住所がある
この制度を利用すれば、最大5年間(60歳から65歳まで)保険料を納めることで、年金額を増やせます。
たとえば35年間(420か月)しか保険料を納めていない場合、60歳時点での年金額は月額約60,600円です。これを任意加入で5年間納めれば、満額の月額69,308円まで引き上げることができます。
できるだけ長く厚生年金に加入する
厚生年金は70歳まで加入できるため、長く働き続けることで年金額を増やせます。近年は高齢者雇用が推進されており、60歳以降も働きやすい環境が整ってきました。
厚生年金の加入期間が延びれば、その分だけ年金額が増えます。しかも厚生年金には加入期間の上限がないため、40年を超えて加入しても年金額に反映されます。
たとえば年収400万円で60歳から70歳まで10年間働き続けた場合、月額約2万円の年金増額が見込めます。65歳から95歳まで30年間受給すると仮定すると、総額で約720万円も多く受け取れる計算です。
- また、60歳以降も働くことで老後資金の準備期間が延び、取り崩し期間が短くなります。これにより、必要な貯蓄額を大幅に減らせる効果もあるのです。
健康で働ける限りは、できるだけ長く厚生年金に加入し続けることが、将来の安心につながるでしょう。
繰下げ受給を活用する
年金の受給開始年齢を遅らせることで、受給額を増やせます。これを繰下げ受給といいます。令和4年4月からは、繰下げの上限年齢が75歳まで延長されました。繰下げ受給の増額率は、1か月あたり0.7%です。計算式は以下のとおりです。
繰下げ受給の計算方法
- 増額率(%)=0.7%×65歳に達した月から繰下げ申出月の前月までの月数
75歳まで10年間(120か月)繰り下げれば、増額率は84%となり、年金額は1.84倍になります。
具体例を見てみましょう。65歳時点の年金額が月額15万円の場合、繰下げによる受給額は以下のようになります。
| 受給開始年齢 | 増額率 | 月額受給額 |
|---|---|---|
| 65歳(通常) | 0% | 15万円 |
| 70歳 | 42% | 21万3,000円 |
| 75歳 | 84% | 27万6,000円 |
75歳まで繰り下げれば、月額で12万6,000円も増えます。これは大きなメリットといえるでしょう。
付加年金への加入
国民年金の第1号被保険者(自営業者など)は、月額400円の付加保険料を追加で納めることで、将来の年金額を増やせます。これを付加年金といいます。
付加年金額(年額)は「200円×付加保険料納付月数」です。たとえば20年間(240か月)納めた場合、年額4万8,000円の年金が上乗せされます。月額に換算すると4,000円の増額です。
付加年金については、こちらの記事で解説しています。あわせて参考にしてみてください。
国民年金基金を活用する
国民年金基金は、自営業者やフリーランスが厚生年金に相当する年金を準備できる制度です。付加年金よりも大きな金額を積み立てられるため、より手厚い保障が必要な方に適しています。
国民年金基金のメリットは、掛金が全額社会保険料控除の対象になることです。これにより、所得税や住民税が軽減されます。
また、国民年金基金は確定給付型のため、将来受け取れる年金額が事前に確定しています。老後の生活設計が立てやすく、安心感があります。
国民年金基金について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
自助努力で老後資金を準備する方法
公的年金だけでは老後の生活に不安がある場合、私的年金を活用することで不足分を補えます。私的年金とは、公的年金に上乗せして受け取れる年金のことで、企業や個人が任意で加入する制度です。
税制優遇が受けられる制度も多いため、効率的に老後資金を準備できます。ここでは代表的な4つの私的年金制度について、仕組みやメリット・デメリットを詳しく解説します。
iDeCo(個人型確定拠出年金)
iDeCo(イデコ)は、個人型確定拠出年金の愛称で、自分で掛金を拠出し、運用方法を選んで資産を形成する制度です。公的年金に上乗せできる私的年金として、多くの方に利用されています。
iDeCoの特徴は、3つの段階で税制優遇が受けられることです。
| 段階 | 税制優遇の内容 | 具体例・補足 |
|---|---|---|
| 第一段階 掛金拠出時 | 掛金が全額所得控除の対象 | 年収500万円の会社員が月額2万円を拠出した場合、所得税と住民税を合わせて年間約7万2,000円の節税効果 |
| 第二段階 運用時 | 運用益が非課税 | 通常の投資信託では利益に約20%の税金がかかるが、iDeCoでは非課税。長期運用するほど効果大 |
| 第三段階 受取時 | 受取方法に応じた控除が適用 | ・一時金受取:退職所得控除 ・年金受取:公的年金等控除 いずれも税負担が軽減 |
運用商品は、定期預金や保険商品などの元本確保型と、投資信託などの価格変動型から選べます。リスク許容度に応じて、自由に組み合わせることが可能です。
運用商品は途中で変更できるため、年齢や相場環境に応じて柔軟に調整することが可能です。ただし、頻繁な売買は手数料がかさむため、基本的には長期保有を前提に考えるべきでしょう。
iDeCoに関して詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考にしてみてください。
NISA(少額投資非課税制度)
NISAは投資で得た利益が非課税になるため、効率的に資産形成ができます。
2024年に新しくなったNISA制度には「つみたて投資枠」と「成長投資枠」の2つがあり、併用も可能です。つみたて投資枠は、長期・積立・分散投資に適した投資信託が対象で、年間120万円まで投資できます。
つみたて投資枠の対象商品は、金融庁が定めた基準を満たした投資信託に限られています。販売手数料が無料で、信託報酬も低水準に抑えられているため、初心者でも安心して始められるでしょう。
成長投資枠は、年間240万円まで投資でき、個別株式やアクティブファンドなど、幅広い商品が対象となります。つみたて投資枠と併用すれば、年間最大360万円まで非課税で投資できます。
成長投資枠は、よりリターンを狙いたい方や、個別株式に投資したい方に適しています。ただし、個別株式は値動きが大きく、元本割れのリスクも高いため、投資経験がある方向けといえるでしょう。
NISAについては、こちらの記事で解説しています。あわせて参考にしてみてください。
企業型確定拠出年金(企業型DC)
企業型確定拠出年金(企業型DC)は、会社が制度を導入している場合に加入できる年金制度です。会社が掛金を拠出し、従業員が運用方法を選んで資産を形成します。
勤務先の制度次第では、「マッチング拠出」が可能です。マッチング拠出とは、会社が拠出する掛金に加えて、従業員が自分でも掛金を上乗せできる制度です。すべての企業型DCで導入されているわけではありませんが、制度がある場合は積極的に活用すべきでしょう。
マッチング拠出の掛金は、全額所得控除の対象となります。iDeCoと同様に、拠出時・運用時・受取時の3段階で税制優遇が受けられるため、非常に効率的な資産形成手段です。
企業年金制度については、こちらの記事でも解説しています。あわせて参考にしてみてください。
個人年金保険
個人年金保険は、保険会社が提供する私的年金商品です。契約時に将来受け取れる年金額が確定しているため、計画的に老後資金を準備できます。
円建て年金保険は、日本円で保険料を払い込み、円で年金を受け取る商品です。予定利率は低めですが、元本割れのリスクがなく、安全性を重視する方に適しています。
外貨建て年金保険は、米ドルや豪ドルなどの外貨で運用する商品です。予定利率が円建てより高く設定されているため、高いリターンが期待できます。ただし、為替リスクがあり、円高になると受取額が減少する可能性があります。
変額年金保険は、保険料を投資信託などで運用し、運用成績に応じて年金額が変動する商品です。運用がうまくいけば年金額が増えますが、元本割れのリスクもあります。
どのタイプを選ぶかは、リスク許容度や運用期間によって判断すべきです。老後まで時間がある若い世代は、リターンの高い外貨建てや変額型を検討する価値があるでしょう。
個人年金保険について詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考にしてみてください。
WPP理論で実現する安心の老後生活設計
近年、老後の生活設計において注目を集めているのが「WPP理論」です。これは人生100年時代に対応した新しい年金受給戦略で、厚生労働省の審議会でも紹介されています。
WPPとは、「Work longer(就労延長)」「Private pensions(私的年金)」「Public pensions(公的年金)」の頭文字を取った造語です。この3つの要素を組み合わせることで、安心できる老後生活を実現しようという考え方になります。
Work longer(就労延長)の意味
最初のWは「Work longer(就労延長)」を意味します。働けるうちはできるだけ長く働き続けることで、老後資金の準備期間を延ばし、年金に頼る期間を短くする考え方です。
令和3年4月からは、70歳までの就業機会確保が企業の努力義務となりました。内閣府の「令和6年版高齢社会白書」によると、60代後半の就業率は年々上昇しており、令和4年には65~69歳の就業率が53.5%に達しています。
- 就労延長には、老後の家計収支を二重に改善する効果があります。第一に、働いている間は収入があるため、貯蓄の取り崩しを遅らせられます。第二に、厚生年金に長く加入することで、将来の年金額も増やせます。
Private pensions(私的年金)の役割
2つ目のPは「Private pensions(私的年金)」です。就労を引退してから公的年金の受給を開始するまでの期間を、私的年金でつなぐという考え方になります。
私的年金には、企業年金・退職金・iDeCo・個人年金保険など、さまざまな種類があります。これらを組み合わせて、公的年金を受給するまでの生活資金を確保します。
- 従来は「私的年金で一生涯の保障を得る」という考え方が主流でした。しかしWPP理論では、私的年金の役割を「つなぎ」に限定することで、より現実的で効率的な設計が可能になります。
Public pensions(公的年金)の活用法
3つ目のPは「Public pensions(公的年金)」です。公的年金を繰り下げて受給額を増やし、終身で受け取ることで、長生きリスクに備えるという考え方になります。
公的年金の最大の強みは、生きている限り一生涯受け取れることです。75歳まで繰り下げれば受給額は1.84倍に増え、その金額を死ぬまで受け取り続けられます。これは民間の金融商品では実現が難しい、貴重な特徴といえます。
- 民間の終身年金は、低金利環境や長寿化により、提供が困難になっています。公的年金こそが、長生きリスクに最も効率的に対応できる手段といえるでしょう。
なお、公的年金の繰上げ受給や繰下げ受給に関しては、こちらの記事で詳しく解説しています。あわせて参考にしてみてください。
WPP理論の具体的なシミュレーション
WPP理論を実際にどう活用するかは、個人の状況によって異なります。ここでは4つの代表的なパターンを紹介し、それぞれのメリットを解説します。
パターン①:70歳まで働き、私的年金でつなぐ
最も標準的なWPPのパターンです。60歳以降も働き続け、70歳で引退します。その後は企業年金や退職金で生活し、75歳から増額した公的年金を受給するモデルです。
【具体例】
- 60~70歳:再雇用で年収300万円で働く(厚生年金に加入)
- 70~75歳:企業型DCを5年確定年金(月額10万円)で受給
- 75歳~:公的年金を84%増額して受給(月額27万円)
このパターンのメリットは、70歳まで働くことで厚生年金の加入期間が延び、年金額がさらに増えることです。また、70歳までの10年間で老後資金を追加で準備できるため、貯蓄の余裕も生まれます。
70~75歳の5年間は企業型DCでつなぐため、貯蓄を取り崩す必要がありません。75歳以降は増額された公的年金で安心して暮らせます。
このモデルでは、65歳時点で必要な貯蓄額を大幅に削減できます。従来の「老後2,000万円」が、WPP理論では600万円程度で済む計算になります。
パターン②:就労と貯蓄で生活費をまかなう
企業年金や退職金が少ない場合や、私的年金の準備が十分でない場合のパターンです。67歳まで働き、その後は貯蓄を取り崩しながら70歳から公的年金を受給します。
【具体例】
- 60~67歳:パートで年収180万円で働く
- 67~70歳:貯蓄を取り崩して生活(月額5万円程度)
- 70歳~:公的年金を42%増額して受給(月額21万円)
このパターンは、私的年金が充実していなくても実践できる点がメリットです。67歳までパートで働けば、貯蓄の取崩しを最小限に抑えられます。
70歳から受給する公的年金は42%増額されているため、単身であれば十分に生活できる水準です。配偶者の年金と合わせれば、世帯で月額30万円程度になるでしょう。
このモデルでは、67歳時点で約200万円程度の貯蓄があれば対応できます。現役時代に十分な貯蓄ができなかった方でも、就労延長と繰下げ受給を組み合わせることで、老後の安心を確保できます。
自分の年金額を確認する方法
老後生活を設計するうえで重要なのは「自分が実際にいくら年金を受け取れるのか」を正確に把握することです。
年金記録は個人によって異なるため、未納期間や転職歴、配偶者の有無などによって受給額は変わります。ここでは、ご自身の年金額を確認する3つの方法を詳しく解説します。
ねんきんネット
ねんきんネットは、日本年金機構が提供するオンラインサービスです。パソコンやスマートフォンから24時間いつでも、あなたの年金記録や将来の受給額を確認できます。
ねんきんネットでは、将来の年金額を詳細にシミュレーションすることも可能です。たとえば「65歳から受給した場合」と「70歳まで繰り下げた場合」を比較すれば、どちらが自分に適しているか判断材料になります。
また、転職や独立を考えている方は、働き方が変わった場合の年金額をシミュレーションすることで、将来設計に役立てられるでしょう。
ねんきんネットに関しては、こちらの記事で詳しく解説しています。
ねんきん定期便
ねんきん定期便は、毎年誕生月に日本年金機構から送られてくる書類です。これまでの年金加入記録や、将来受け取れる年金見込額が記載されています。
ねんきん定期便には、以下の情報が記載されています。
- 基礎年金番号
- これまでの保険料納付額
- 年金加入期間
- 現時点での年金見込額
- 直近1年間の納付状況
特に重要なのは「年金見込額」の欄です。ここに記載されている金額が、将来受け取れる年金額の目安となります。
ただし、50歳未満の方と50歳以上の方では、年金見込額の計算方法が異なります。
50歳未満の方の場合、記載されているのは「これまで納めた保険料に基づく年金額」です。つまり、加入実績に応じた見込であり、実際に受け取れる金額ではありません。
50歳以上の方の場合、記載されているのは「60歳まで現在の条件で加入し続けた場合の年金額」です。こちらのほうが、実際の受給額に近い数字といえるでしょう。
年金事務所での相談
ねんきんネットやねんきん定期便で疑問点が解消できない場合は、年金事務所で直接相談することをおすすめします。専門の相談員が、ご自身の年金記録をもとに詳しく説明してくれます。
年金事務所では、以下のような相談ができます。
- 将来の年金見込額の詳細な計算
- 繰上げ・繰下げ受給のシミュレーション
- 年金記録の訂正や照会
- 保険料の追納に関する相談
- 年金受給手続きの案内
- 離婚時の年金分割について
特に、繰上げ・繰下げ受給の判断や、年金記録に誤りがある場合は、専門家に相談したほうが確実です。複雑なケースでは、ねんきんネットだけでは正確な金額を把握できない場合もあります。
また、年金受給開始の直前には、手続きに関する具体的な案内が必要になります。提出書類や期限について、事前に確認しておくとスムーズでしょう。
この記事のまとめ
令和5年度のデータによると、国民年金(老齢基礎年金)の平均受給額は月額57,700円、厚生年金(老齢厚生年金)の平均受給額は月額147,360円です。
老後資金の準備は、早く始めるほど有利です。時間を味方につけることで、複利効果により資産が大きく成長するからです。
年金制度は複雑で、個人の状況によって最適な戦略が異なります。自分だけで判断するのが難しい場合は、専門家に相談することをおすすめします。特に、繰下げ受給の判断や複数の私的年金の組み合わせなど、複雑な判断が必要な場合は、専門家のサポートが有効です。

金融系ライター
厚生労働省や保険業界・不動産業界での勤務を通じて、社会保険や保険、不動産投資の実務を担当。FP1級と社会保険労務士資格を活かして、多くの家庭の家計見直しや資産運用に関するアドバイスを行っている。金融メディアを中心に、これまで1,000記事以上の執筆実績あり。
厚生労働省や保険業界・不動産業界での勤務を通じて、社会保険や保険、不動産投資の実務を担当。FP1級と社会保険労務士資格を活かして、多くの家庭の家計見直しや資産運用に関するアドバイスを行っている。金融メディアを中心に、これまで1,000記事以上の執筆実績あり。
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老齢年金
老齢年金とは、一定の年齢に達した人が、現役時代に納めた年金保険料に基づいて受け取ることができる公的年金のことをいいます。基本的には、日本の年金制度における「老後の生活を支えるための給付」であり、国民年金から支給される老齢基礎年金と、厚生年金から支給される老齢厚生年金の2つがあります。 国民年金に加入していたすべての人が対象となるのが老齢基礎年金で、会社員や公務員など厚生年金に加入していた人は、基礎年金に加えて老齢厚生年金も受け取ることができます。原則として65歳から支給されますが、繰上げや繰下げ制度を利用することで、受け取り開始年齢を60歳から75歳まで調整することも可能です。老齢年金は、長年の働きと保険料の積み重ねに対して支払われる、生活設計の中心となる制度です。
在職老齢年金
在職老齢年金(ざいしょくろうれいねんきん)とは、年金を受け取りながら働く人の年金額を、賃金とのバランスをとるために一時的に減額または支給停止する制度です。高齢期の就労を促進しつつ、年金財政の公平性を保つことを目的としています。 対象となるのは、老齢厚生年金の受給権があり、厚生年金保険の適用事業所で報酬を受け取っている人です。具体的には、60歳以上で老齢厚生年金を受け取っている人が勤務を続けている場合に適用されます。70歳を超えると厚生年金保険料の支払い義務はなくなりますが、報酬を得ている限り、この在職老齢年金の支給停止の仕組みは引き続き適用されます。 支給停止の判定は、年金(月額)と給与・賞与の合計額が一定の基準を超えるかどうかで行われます。年金の支給額を算定する際に用いられる「基本月額」と、給与や賞与から算出される「総報酬月額相当額」を合計し、基準額(支給停止調整開始額)を上回る場合、超過分の2分の1が年金から差し引かれます。たとえば、年金10万円、給与50万円で合計60万円の場合、基準額51万円を9万円超えるため、その半分の4.5万円が支給停止となり、受け取れる年金は5.5万円になります。 基準額は制度改正により段階的に引き上げられています。2024年度までは47万円でしたが、2025年度(令和7年度)からは51万円に引き上げられました。さらに、2026年4月(令和8年4月)からは62万円に引き上げられる予定です。これにより、高齢になっても働き続ける人がより多くの年金を受け取れるようになります。 在職老齢年金には、60〜64歳を対象とする「低在老」と、65歳以上を対象とする「高在老」があります。60〜64歳の場合の基準額は28万円と低く設定されていますが、65歳以上は51万円(現行)と緩やかです。なお、雇用保険の高年齢雇用継続給付を受けている場合などは、年金額が追加で調整されることもあります。 在職老齢年金は「働く高齢者の所得と年金の調整」という考え方に基づく仕組みであり、年金制度の公平性と持続可能性を保ちながら、就労意欲を支える制度として位置づけられています。今後も高齢者の就労促進と制度の簡素化を目的とした見直しが進む見通しです。
繰下げ受給
繰下げ受給とは、本来65歳から支給される公的年金(老齢基礎年金や老齢厚生年金など)の受け取り開始を自分の希望で後ろ倒しにする制度です。66歳以降、最大75歳まで1か月単位で繰り下げることができ、遅らせた月数に応じて年金額が恒久的に増えます。 増額率は1か月当たり0.7%で、10年(120か月)繰り下げた場合にはおよそ84%の上乗せとなるため、長生きするほどトータルの受取額が増えやすい仕組みです。ただし、繰下げた期間中は年金を受け取れないため、その間の生活資金や健康状態、就労収入の見通しを踏まえて慎重に検討することが大切です。
老齢厚生年金
老齢厚生年金とは、会社員や公務員などが厚生年金保険に加入していた期間に応じて、原則65歳から受け取ることができる公的年金です。この年金は、基礎年金である「老齢基礎年金」に上乗せされる形で支給され、収入に比例して金額が決まる仕組みになっています。つまり、働いていたときの給与が高く、加入期間が長いほど受け取れる年金額も多くなります。また、一定の要件を満たせば、配偶者などに加算される「加給年金」も含まれることがあります。老後の生活をより安定させるための重要な柱となる年金です。
老齢基礎年金
老齢基礎年金とは、日本の公的年金制度の一つで、老後の最低限の生活を支えることを目的とした年金です。一定の加入期間を満たした人が、原則として65歳から受給できます。 受給資格を得るためには、国民年金の保険料納付済期間、免除期間、合算対象期間(カラ期間)を合計して10年以上の加入期間が必要です。年金額は、20歳から60歳までの40年間(480月)にわたる国民年金の加入期間に応じて決まり、満額受給には480月分の保険料納付が必要です。納付期間が不足すると、その分減額されます。 また、年金額は毎年の物価や賃金水準に応じて見直しされます。繰上げ受給(60~64歳)を選択すると減額され、繰下げ受給(66~75歳)を選択すると増額される仕組みになっています。 老齢基礎年金は、自営業者、フリーランス、会社員、公務員を問わず、日本国内に住むすべての人が加入する仕組みとなっており、老後の基本的な生活を支える重要な制度の一つです。
繰上げ受給
繰上げ受給とは、公的年金を本来の支給開始年齢より早く受け取り始める制度で、日本では原則65歳からの老齢基礎年金や老齢厚生年金を60歳から前倒しで請求できます。早く受け取る代わりに、受給額は繰上げた月数に応じて永久的に減額される仕組みになっており、減額率は請求月ごとに定められています。長く受給するメリットと生涯受取額が減るデメリットを比較し、健康状態や生活資金の必要度、就労の予定などを踏まえて選択することが大切です。また、一度繰上げを行うと原則として取り消しや遅らせることはできないため、将来のライフプランを十分検討したうえで判断する必要があります。
厚生年金
厚生年金とは、会社員や公務員などの給与所得者が加入する公的年金制度で、国民年金(基礎年金)に上乗せして支給される「2階建て構造」の年金制度の一部です。厚生年金に加入している人は、基礎年金に加えて、収入に応じた保険料を支払い、将来はその分に応じた年金額を受け取ることができます。 保険料は労使折半で、勤務先と本人がそれぞれ負担します。原則として70歳未満の従業員が対象で、加入・脱退や保険料の納付、記録管理は日本年金機構が行っています。老後の年金だけでなく、障害年金や遺族年金なども含む包括的な保障があり、給与収入がある人にとっては、生活保障の中心となる制度です。
第3号被保険者
第3号被保険者とは、日本の公的年金制度において、20歳以上60歳未満で会社員や公務員の配偶者(主に専業主婦・主夫など)として扶養されている人を指します。具体的には、第2号被保険者(厚生年金に加入している人)に扶養されている配偶者で、自分自身は収入が一定額以下で厚生年金などに加入していない人が対象です。 この制度の特徴は、自ら保険料を納めなくても、国民年金(基礎年金)の加入者として扱われ、将来的に年金を受け取る権利がある点です。制度的には、配偶者の厚生年金保険料に含まれる形で保険料が負担されている仕組みです。結婚や就労状況の変化によって資格を失うこともあるため、制度内容の正しい理解が重要です。年金やライフプランを考えるうえで、特に家庭内の役割分担や働き方に関連して注目される制度です。
第2号被保険者
第2号被保険者とは、日本の公的年金制度において、主に会社員や公務員として厚生年金保険に加入している人のことを指します。原則として20歳以上60歳未満の人が対象で、企業に勤めている正社員や一定の条件を満たすパート・アルバイトも含まれます。 第2号被保険者は、給与から毎月自動的に保険料が天引きされ、労使折半(従業員と会社が半分ずつ負担)で納付されます。この保険料は、将来の老齢厚生年金や障害厚生年金、遺族厚生年金の給付原資となります。 また、第2号被保険者に扶養されている配偶者(主に専業主婦・主夫など)は、自ら保険料を支払うことなく年金制度に加入できる**「第3号被保険者」**として扱われます。このように、第2号被保険者は日本の年金制度における中心的な役割を果たしており、年金制度の財政にも大きな影響を与える存在です。 資産運用や老後資金計画を立てる際には、自身がどの被保険者に該当するかを理解し、公的年金からの給付見込みをもとに私的年金や投資の必要性を判断することが重要です。
第1号被保険者
第1号被保険者とは、日本の公的年金制度において、20歳以上60歳未満の自営業者や農業従事者、フリーランス、無職の人などが該当する国民年金の加入者区分のひとつです。会社員や公務員などのように厚生年金に加入していない人が対象で、自分で国民年金保険料を納める義務があります。 保険料は定額で、収入にかかわらず同じ金額が設定されていますが、経済的に困難な場合には免除制度や納付猶予制度を利用できることがあります。将来の年金受給の基礎となる制度であり、自分でしっかりと手続きや納付を行う必要があります。公的年金制度の中でも、自主的な加入と負担が特徴の区分です。
国民年金
国民年金とは、日本に住む20歳以上60歳未満のすべての人が原則として加入しなければならない、公的な年金制度です。自営業の人や学生、専業主婦(夫)などが主に対象となり、将来の老後の生活を支える「老齢基礎年金」だけでなく、障害を負ったときの「障害基礎年金」や、死亡した際の遺族のための「遺族基礎年金」なども含まれています。毎月一定の保険料を支払うことで、将来必要となる生活の土台を作る仕組みであり、日本の年金制度の基本となる重要な制度です。
任意加入
任意加入とは、法律や制度によって義務づけられているわけではなく、自分の意思で加入することを選べる仕組みのことを指します。資産運用の分野では、主に年金制度や保険商品などで使われる用語です。たとえば、国民年金の任意加入制度では、定年退職後も年金を増やしたい人や、年金受給資格期間を満たしていない人が自ら希望して加入できます。また、投資信託や確定拠出年金(iDeCo)のように、自分の将来の資産形成を目的として自発的に加入する場合も任意加入と呼ばれます。強制ではないため、自分のライフプランやリスク許容度に応じて判断することが大切です。
付加年金
付加年金とは、国民年金に加入している人が、定額の保険料(月額400円)を上乗せして納めることで、将来の年金額を増やせる制度です。自営業者やフリーランスなどの第1号被保険者が対象で、支払った付加保険料に応じて、老齢基礎年金に上乗せして受け取ることができます。 受け取り額は、付加保険料を納めた月数に200円をかけた金額が年金に加算される仕組みで、長生きするほどお得になるとされています。特に、iDeCoなどの他の自助努力型制度と併用することで、老後の年金対策に柔軟性を持たせることができます。資産運用の観点からは、少ない負担で将来の収入を増やす手段として、非常に効率的な選択肢の一つです。
追納
追納とは、過去に国民年金保険料の免除や納付猶予を受けた期間について、後からさかのぼって保険料を納めることをいいます。この制度を利用することで、将来受け取る老齢基礎年金の受給額を増やすことができ、年金の受給資格期間にも有利に働きます。 ただし、追納できるのは原則として免除・猶予を受けた期間に限られ、単なる未納期間には適用されません。また、追納には期限があり、原則として免除・猶予された年度の翌年度から起算して10年以内となっています。 追納することで本来の保険料負担に戻る形になりますが、2年以上前の期間については加算金が上乗せされることがあります。経済的に余裕があるときに計画的に追納を行うことで、将来の年金額をしっかり確保することができます。
国民年金基金
国民年金基金とは、自営業者やフリーランスなどの国民年金第1号被保険者が、将来の年金額を上乗せするために任意で加入できる制度です。これは、国民年金(基礎年金)だけでは老後の生活費として不十分な場合に備えて、公的に用意された追加の年金制度です。加入者は自分の希望に合わせて受け取る年金の型や金額を選ぶことができ、掛金もそれに応じて決まります。終身で年金を受け取れる選択肢もあるため、長生きリスクへの備えとして有効です。また、支払った掛金は全額が所得控除の対象となるため、節税効果も得られます。資産運用の視点では、自分で備える年金制度の一つとして、iDeCoなどと並んで重要な選択肢となります。
iDeCo(イデコ/個人型確定拠出年金)
iDeCo(イデコ)とは、個人型確定拠出年金の愛称で、老後の資金を作るための私的年金制度です。20歳以上65歳未満の人が加入でき、掛け金は65歳まで拠出可能。60歳まで原則引き出せません。 加入者は毎月の掛け金を決めて積み立て、選んだ金融商品で長期運用し、60歳以降に年金または一時金として受け取ります。加入には金融機関選択、口座開設、申込書類提出などの手続きが必要です。 投資信託や定期預金、生命保険などの金融商品で運用し、税制優遇を受けられます。積立時は掛金が全額所得控除の対象となり、運用時は運用益が非課税、受取時も一定額が非課税になるなどのメリットがあります。 一方で、証券口座と異なり各種手数料がかかること、途中引き出しが原則できない、というデメリットもあります。
企業型確定拠出年金 (企業型DC)
「企業型確定拠出年金(企業型DC:Corporate Defined Contribution Plan)」とは、企業が従業員のために設ける年金制度の一つです。企業が毎月一定額の掛金を拠出し、そのお金を従業員が自分で運用します。運用商品には、投資信託や定期預金などがあり、選び方によって将来の受取額が変わります。 この制度は、老後資金を準備するためのもので、掛金の拠出時に税制優遇があるというメリットがあります。ただし、運用によっては資産が増えることもあれば、減ることもあります。また、個人型確定拠出年金(iDeCo:Individual Defined Contribution Plan)と異なり、掛金は企業が負担します。企業にとっては福利厚生の一環となり、従業員の定着にも役立つ制度です。
新NISA
新NISAとは、2024年からスタートした日本の新しい少額投資非課税制度のことで、従来のNISA制度を見直して、より長期的で柔軟な資産形成を支援する目的で導入されました。この制度では、投資で得られた利益(配当や売却益)が一定の条件のもとで非課税になるため、税負担を気にせずに投資ができます。新NISAでは「つみたて投資枠」と「成長投資枠」の2つの枠が用意されており、年間の投資可能額や総額の上限も大幅に引き上げられました。 また、非課税期間が無期限となったことで、より長期的な運用が可能となっています。投資初心者にも利用しやすい仕組みとなっており、老後資金や将来の資産形成の手段として注目されています。
個人年金保険
個人年金保険とは、公的年金だけでは不足しがちな老後資金を、自助努力で補うために設計された私的年金商品です。契約者が決められた期間にわたり保険料を払い込み、あらかじめ設定した開始年齢(60歳・65歳など)に達すると年金形式で受け取りが始まります。受取方法には、決められた年数だけ確実に受け取る「確定年金型」と、生存している限り終身で受け取れる「終身年金型」があり、どちらを選ぶかによって総受取額や万一の際の遺族保障の形が異なります。変額型や外貨建て型など、インフレ対応や為替分散を意識したバリエーションも登場しています。 大きな魅力の一つは税制優遇です。一定の要件(受取人が契約者本人または配偶者、払込期間が10年以上など)を満たす契約であれば、払込保険料は「個人年金保険料控除」として所得控除の対象になります。たとえば年間保険料が8万円の場合、所得税で最大4万円、住民税で最大2万8千円が控除され、課税所得を圧縮できるため実質負担を抑えながら老後資金を積み立てられる点がメリットです。 一方で注意すべき点もあります。途中解約時には元本割れが生じやすく、解約返戻金が払込総額を下回るケースが多いこと、固定利率型の商品ではインフレに追いつけない可能性があること、そして保険会社が破綻した場合でも保険契約者保護機構による補償は責任準備金の90%が上限となることです。また、税優遇制度としては個人型確定拠出年金(iDeCo)や新NISAも利用できるため、流動性・運用商品の自由度・掛金上限などを比較し、自分に合った組み合わせを検討する必要があります。 これらの特徴を踏まえると、個人年金保険は「計画的に積立を続け、税制メリットを生かしながら老後の生活費を補完したい」人に適した選択肢といえます。生活防衛資金や他の運用枠を確保したうえで長期的な資産形成の一環として活用すれば、老後のキャッシュフローに安定感をもたらす手段となるでしょう。
社会保険料控除
社会保険料控除とは、健康保険、厚生年金、介護保険、雇用保険などの社会保険料を支払った場合に、その金額を所得から差し引くことができる所得控除の一種です。これは、納税者の生活を守る公的制度に協力しているという前提で、税負担を軽くするための仕組みです。 本人が支払った分だけでなく、配偶者や親族の保険料を本人が負担している場合にも控除の対象になります。会社員であれば給与から自動的に天引きされた社会保険料も対象となっており、年末調整や確定申告の際に自動的に反映されるケースが多いです。税額を計算する際の重要な調整要素となるため、税制の基本知識として知っておくと役立ちます。
公的年金等控除
公的年金等控除とは、年金を受け取っている人の所得税や住民税を計算する際に、年金収入から一定額を差し引ける控除制度です。これにより課税対象となる金額が減り、税負担を軽減できます。 対象となるのは、国民年金・厚生年金・共済年金などの「公的年金」に限られます。これらは所得税法上の「公的年金等」に分類され、控除の対象となります。 一方で、iDeCo(個人型確定拠出年金)や企業型DC、個人年金保険などは、たとえ年金形式で受け取ったとしても税法上は「公的年金等」に該当せず、公的年金等控除の対象外です。これらは「雑所得(その他)」として課税されます。 控除額は受給者の年齢と年金収入の額に応じて異なり、特に65歳以上の高齢者には手厚い控除が設けられています。 | 年齢 | 公的年金等の収入額 | 控除額 | | --- | --- | --- | | 65歳未満 | 130万円以下 | 60万円 | | | 130万円超〜410万円以下 | 収入額 × 25% + 37.5万円 | | | 410万円超〜770万円以下 | 収入額 × 15% + 78.5万円 | | | 770万円超 | 一律195.5万円 | | 65歳以上 | 330万円以下 | 110万円 | | | 330万円超〜410万円以下 | 収入額 × 25% + 27.5万円 | | | 410万円超〜770万円以下 | 収入額 × 15% + 68.5万円 | | | 770万円超 | 一律195.5万円 | たとえば、65歳以上で年金収入が250万円であれば、110万円の控除が適用され、課税対象となる所得は140万円に圧縮されます。
退職所得控除
退職所得控除とは、退職金を受け取る際に税金を軽くしてくれる制度です。長く働いた人ほど、退職金のうち税金がかからない金額が大きくなり、結果として納める税金が少なくなります。この制度は、長年の勤続に対する国からの優遇措置として設けられています。 控除額は勤続年数によって決まり、たとえば勤続年数が20年以下の場合は1年あたり40万円、20年を超える部分については1年あたり70万円が控除されます。最低でも80万円は控除される仕組みです。たとえば、30年間勤めた場合、最初の20年で800万円(20年×40万円)、残りの10年で700万円(10年×70万円)、合計で1,500万円が控除されます。この金額以下の退職金であれば、原則として税金がかかりません。 さらに、退職所得控除を差し引いた後の金額についても、全額が課税対象になるわけではありません。実際には、その半分の金額が所得とみなされて、そこに所得税や住民税がかかるため、税負担がさらに抑えられる仕組みになっています。 ただし、この退職所得控除の制度は、将来的に変更される可能性もあります。税制は社会情勢や政策の方向性に応じて見直されることがあるため、現在の内容が今後も続くとは限りません。退職金の受け取り方や老後の資産設計を考える際には、最新の制度を確認することが大切です。





