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相続時精算課税制度とは?メリット・デメリットと2024年改正後の活用戦略を解説

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Gift tax deferral system settled at inheritance

相続時精算課税制度とは?メリット・デメリットと2024年改正後の活用戦略を解説

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執筆者:

公開:

2026.05.29

更新:

2026.05.29

相続

親や祖父母からの生前贈与を考えるとき、相続時精算課税制度を使うべきか、暦年課税を続けるべきかで迷う方は少なくありません。2024年改正により基礎控除110万円が新設され、制度の使い勝手は大きく変わりましたが、選び方を誤ると、相続税や不動産コストで不利になることもあります。この記事では、制度の仕組み、改正点、暦年課税との違い、メリット・デメリット、向いている人、手続きの流れまでを具体的に解説します。

サクッとわかる!簡単要約

この記事を読むことで、相続時精算課税制度の基本構造や2024年改正の意味、暦年課税との違い、資産別の向き不向き、申告手続きの流れまで体系的に理解できます。そのうえで、自分や家族の資産状況に照らして制度を使うべきか判断しやすくなり、相続税対策や財産承継を感覚ではなく根拠を持って検討できるようになります。

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目次

相続時精算課税制度の基本を理解する

基本的な仕組み

利用できる対象者の要件

贈与税の計算方法

2024年改正のポイント

基礎控除110万円の新設

土地・建物の再評価特例

相続時精算課税制度と暦年課税との徹底比較

各制度の主要項目を比較

改正後の損益分岐点

財産規模別の有利・不利

相続時精算課税制度を利用するメリット5つ

メリット① 2,500万円まで非課税で柔軟に贈与できる

メリット② 将来値上がりが期待できる資産の贈与に有利

メリット③ 収益物件の早期承継に適している

メリット④ 相続前に財産分割の方針を決められる

メリット⑤ 贈与税率が一律20%に抑えられる

相続時精算課税制度のデメリット6つ

デメリット① 選択後は暦年課税に戻れない

デメリット② 贈与財産が相続税に持ち戻される

デメリット③ 土地を贈与すると小規模宅地特例が使えない

デメリット④ 不動産贈与は税コストが余分にかかる

デメリット⑤ 贈与時の評価額で課税される

デメリット⑥ 相続税の物納に充当できない

資産タイプ別の向き不向き

現金・預貯金の場合

不動産・収益物件の場合

上場株式・投資信託の場合

非上場株式・事業資産の場合

相続時精算課税制度を使うべき人

相続税が非課税範囲内の人

短期間で多額の贈与をしたい人

収益不動産を所有している人

値上がりが期待できる資産を持つ人

相続時精算課税制度が向いていない人

相続税の発生が見込まれる人

暦年贈与を長期で継続したい人

自宅の土地を贈与する予定の人

資産戦略との合わせ技

生命保険との組み合わせ

NISAとの役割分担

相続時精算課税制度の利用手続きと申告の進め方

必要書類と届出方法

申告期限と注意点

相続時精算課税制度の基本を理解する

相続時精算課税制度は、生前に財産を贈与し、贈与者が亡くなった時点で相続税としてまとめて精算する課税の仕組みです。まずは、制度の骨格を正確に理解しておきましょう。

基本的な仕組み

贈与時には、年110万円の基礎控除や累計2,500万円の特別控除の範囲内であれば贈与税の負担を抑えて財産を移転できますが、相続が発生した際には、基礎控除後の贈与財産を相続財産に加算して相続税を計算します。

また、相続税の税率が比較的低い家庭では、贈与時に支払った贈与税額が相続税額から控除されることで、追加負担が大きくなりにくい場合があります

  1. 「非課税」という言葉から「税金がかからない」と誤解されがちですが、正確には課税のタイミングを先送りにする制度です。贈与時に支払った贈与税は相続税から差し引けますが、相続税が発生する家庭では節税効果がゼロになるケースもあります。

制度を選択する前に「相続税が発生するかどうか」を見極めることが、最初の重要な判断ポイントです。

利用できる対象者の要件

この制度には、贈与する側・受け取る側の両方に年齢と続柄の要件があります。

立場要件
贈与者(あげる側)贈与した年の1月1日時点で60歳以上の父母または祖父母
受贈者(もらう側)贈与を受けた年の1月1日時点で18歳以上の子または孫

重要なのは、一度選択すると同じ贈与者との関係では取り消せないという点です。選択届出書を提出した後は、その贈与者からのすべての贈与に永続的に精算課税が適用されます。

たとえば父からの贈与には相続時精算課税を選択し、母からの贈与には暦年課税を継続するという使い分けも認められています。父と母それぞれの資産状況や贈与の目的に応じて制度を使い分けられる点はメリットです。

  1. ただし、同一年に2人以上の特定贈与者から相続時精算課税の適用を受ける場合、基礎控除110万円は特定贈与者ごとの課税価格で按分されるため、単純に110万円ずつ増えるわけではありません。

暦年課税(毎年110万円の基礎控除を活用する通常の贈与課税方式)へ戻る選択肢はなくなるため、「少し試してみる」という使い方はできません。選択前に十分なシミュレーションが必須です。

贈与税の計算方法

2024年改正後における、相続時精算課税性を活用した場合、贈与税を計算するステップは以下のとおりです。

  1. 課税対象額=年間贈与額-基礎控除110万円
  2. 贈与税額=(課税対象額-特別控除の残額)×20%

特別控除は累計2,500万円まで使え、使い切るまで贈与税はかかりません。2,500万円を超えた部分には一律20%が課税されます。

事例納税額
1,000万円を贈与した場合1,000万円 - 110万円 = 890万円(課税対象額) 890万円は特別控除の範囲内 → 贈与税:0円
3,000万円を贈与した場合3,000万円 - 110万円 = 2,890万円(課税対象額) 2,890万円 - 2,500万円(特別控除)= 390万円 390万円 × 20% = 贈与税:78万円

暦年課税で3,000万円を贈与した場合、父母・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与で特例税率を用いる前提では、贈与税は約1,035.5万円になります。精算課税は、贈与税額だけを比較すると大型贈与ほど有利になりやすい制度です。

2024年改正のポイント

2024年1月の税制改正により、相続時精算課税制度の使い勝手は大きく向上しました。改正の内容を正確に把握しておきましょう。

基礎控除110万円の新設

改正前は、相続時精算課税制度を選択した場合、少額の贈与でも申告が必要でした。しかし、2024年からは年110万円の基礎控除が創設され、選択後の贈与が基礎控除内であれば、原則として贈与税の申告や納税は不要となり、相続時に加算する対象にもなりません。

ただし、この制度を初めて選択する年は、基礎控除内であっても相続時精算課税選択届出書の提出が必要です。

暦年課税にも年間110万円の基礎控除がありますが、これとは別枠です。両方を同時に使えるわけではなく、同一の贈与者からの贈与は精算課税か暦年課税のどちらか一方にしか適用されません。

  1. この改正により、毎年110万円以内で贈与を続ければ、贈与税も相続税への持ち戻しも生じません。特に相続税が発生しない家庭にとっては、実質的な無税移転の手段として活用しやすくなりました。

土地・建物の再評価特例

贈与後に災害で一定以上の被害を受けた土地・建物については、要件を満たす場合に、相続時精算課税に係る土地又は建物の価額の特例を適用できます。一般的な再評価制度ではなく、災害による被害が生じた場合の特例として理解しておくことが重要です。

改正前は、贈与後に不動産の価値が災害で大きく下がっても、相続税の計算には贈与時の高い評価額がそのまま適用されていました。これが精算課税で不動産を贈与する際のリスクのひとつでしたが、今回の改正で一定の救済措置が設けられています。

適用要件は「贈与後に災害により土地・建物が一定以上の被害を受けた場合」で、相続時に改めて評価額を算定し直せます。不動産の生前贈与を検討している方には、見逃せない改正点です。

相続時精算課税制度と暦年課税との徹底比較

制度選択の判断は、両者の違いを正確に比較したうえで行う必要があります。どちらが有利かは家庭の資産状況によって異なります。

各制度の主要項目を比較

まず5つの主要項目を一覧で整理します。

項目相続時精算課税暦年課税
基礎控除年間110万円(2024年改正で新設)年間110万円
非課税枠の上限累計2,500万円(特別控除)上限なし(毎年リセット)
税率超過分一律20%10〜55%の累進課税
申告義務基礎控除超で必要基礎控除超で必要
持ち戻し期間贈与財産の全額(基礎控除110万円分を除く)相続開始前7年以内の贈与
選択の可逆性一度選択すると取消不可いつでも選択可能

暦年課税の持ち戻し期間は、2024年以降の贈与から段階的に3年→7年へ延長されています。一方、精算課税は基礎控除110万円を超えた贈与財産のすべてが持ち戻し対象です。

改正後の損益分岐点

どちらが有利かを左右する最大の変数は、贈与者が何年後に亡くなるかです。

暦年課税で毎年110万円ずつ贈与した場合、持ち戻し対象外となる贈与を積み上げるには長い年数が必要です。一方、精算課税は短期間で大きな金額を移転できます。

期間暦年課税(持ち戻しなし分)精算課税(基礎控除分)
5年持ち戻し対象のため実質0円※550万円(非課税)
10年330万円(7年超分のみ)1,100万円(非課税)
20年1,430万円2,200万円(非課税)
毎年110万円贈与した場合の累積移転額

※2024年以降の贈与は7年以内が持ち戻し対象。ただし直近4年分は総額100万円を控除。

この試算からわかるとおり、贈与開始から10年以内に相続が発生する場合は精算課税が有利になりやすい傾向があります。

なお、暦年課税の加算対象期間は、被相続人の死亡時期によって異なります。

相続開始日加算対象となる贈与
2026年12月31日まで相続開始前3年以内の贈与
2027年1月1日〜2030年12月31日2024年1月1日以後の贈与
2031年1月1日以後相続開始前7年以内の贈与

さらに、延長された4年分については総額100万円まで加算対象外となります。そのため、「5年ならこう」「10年ならこう」と一律に比較するよりも、贈与者の年齢や想定される相続開始時期を前提に個別試算することが重要です。

財産規模別の有利・不利

相続財産の総額が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人数)を下回るかどうかで、有利・不利の判断は大きく変わります。

相続税がかからない家庭の場合

精算課税で贈与した財産が相続財産に持ち戻されても、相続税の課税対象にならないため、不利益が生じません。2,500万円の特別控除を活用した贈与税ゼロの移転が、そのまま節税効果に直結します。

相続税が発生する家庭の場合

贈与財産は相続財産に合算されるため、精算課税の節税効果は限定的です。むしろ暦年課税で7年超の贈与を積み上げるほうが、長期的には課税ベースの圧縮効果が大きくなるケースがあります。

相続財産が基礎控除を超えるかどうかの見極めが、制度暦年課税で3,000万円を贈与した場合、最高税率選択の出発点です。判断に迷う場合は、税理士への事前相談を通じて、節税や資産移転の方法を検討することをおすすめします。

相続時精算課税制度を利用するメリット5つ

精算課税制度には、資産の種類や家族の状況によって大きな効果を発揮する場面があります。5つのメリットを具体的に解説します。

メリット① 2,500万円まで非課税で柔軟に贈与できる

特別控除の2,500万円は累計カウントのため、一括でも分割でも自由に使い切れます。たとえば初年度に1,500万円、翌年に1,000万円と分けて贈与しても、合計2,500万円まで贈与税はかかりません。

暦年課税で同額を無税移転しようとすると、110万円ずつ贈与しても23年かかります。まとまった資産を早期に移転したい場合、精算課税の優位性は明らかです。

メリット② 将来値上がりが期待できる資産の贈与に有利

精算課税では、相続税の計算基準となる評価額は贈与時点の価額で固定されます。贈与後に資産価値が上昇しても、その値上がり分は課税対象になりません。

上場前の非上場株式・開発前の土地・成長フェーズにある事業資産などが典型例です。たとえば贈与時に1,000万円だった株式が相続時に5,000万円に値上がりしていた場合、4,000万円分の値上がり益への課税を回避できます。

含み益(資産の取得価額と現在の時価との差額)が大きいほど、この効果は際立ちます。

メリット③ 収益物件の早期承継に適している

相続時精算課税制度を有効活用できるのが、収益物件の承継です。賃貸アパートや収益マンションを精算課税で贈与すると、贈与した時点から家賃収入は受贈者のものになります。贈与者の手元に家賃収入が残り続けると、その分だけ相続財産が膨らむため、早期に移転することで課税ベースの拡大を防げるのです。

  1. たとえば月収50万円の収益物件を10年間保有し続けた場合、家賃収入の累積額は6,000万円に達します。この収入が贈与者の財産として積み上がれば、相続税の負担も相応に増加します。収益物件は精算課税との相性がとくに高い資産クラスといえます。

また、受贈者が得られた家賃収入を、相続税の納税資金としてプールするという対応も可能です。

メリット④ 相続前に財産分割の方針を決められる

生前に特定の相続人へ財産を渡しておくと、相続発生後の遺産分割トラブルを未然に防げます。とくに、不動産など物理的に分けにくい資産を複数の相続人がいる家庭で承継させる際に有効です。

遺産分割協議(相続人全員で遺産の分け方を話し合う手続き)が長期化するケースの多くは、不動産の取り扱いが原因です。精算課税を活用して生前に承継先を確定しておくと、相続後の手続きをスムーズに進められます。

メリット⑤ 贈与税率が一律20%に抑えられる

暦年課税の贈与税率は最高55%に達する累進課税ですが、精算課税では2,500万円の特別控除を超えた部分も一律20%です。

贈与額暦年課税の贈与税精算課税の贈与税
500万円約48万円0円(控除内)
1,000万円約177万円0円(控除内)
3,000万円約1,195万円78万円

※暦年課税は特例税率(直系尊属からの贈与)を適用。精算課税は基礎控除110万円控除後の金額で計算。

さらに、相続税の限界税率(課税対象額に対して実際にかかる税率)が20%以下に収まる家庭では、贈与時に払った税額と相続税がほぼ相殺されます。相続税率が低い家庭ほど、この税率優位性が実質的な節税に直結します。

相続時精算課税制度のデメリット6つ

精算課税制度には、見落としやすいリスクが複数あります。メリットだけでなく、デメリットを正確に把握したうえで選択を判断しましょう。

デメリット① 選択後は暦年課税に戻れない

一度選択届出書を提出すると、同じ贈与者からの贈与は永続的に精算課税の対象となります。「やっぱり暦年課税に戻したい」という選択肢は存在しません。

とくに影響が大きいのは、長期にわたって毎年少額贈与を続けたい場合です。暦年課税であれば7年超の贈与は持ち戻し対象外になりますが、精算課税に切り替えた時点でその選択肢は失われます。選択前のシミュレーションが必須です。

デメリット② 贈与財産が相続税に持ち戻される

基礎控除110万円を超えた贈与財産は、贈与者の死亡時に相続財産へ加算されます。贈与時に払った贈与税は相続税から差し引けますが、相続税率が高い家庭では追加納税が生じることがあります。

たとえば相続税の限界税率が40%の家庭が、精算課税で20%の贈与税を払っていた場合、差額の20%分が相続時に追加で課税される計算です。相続税が確実に発生する家庭では、節税効果が期待できないどころか、負担が増えるリスクもあります。

デメリット③ 土地を贈与すると小規模宅地特例が使えない

小規模宅地等の特例とは、被相続人(亡くなった人)の自宅や事業用の土地について、相続税評価額を最大80%減額できる制度です。しかし精算課税で贈与した土地には、この特例が適用されません。

たとえば評価額5,000万円の自宅土地を相続する場合、特例を使えば評価額は1,000万円まで圧縮できます。この特例を放棄してまで精算課税で贈与するメリットがあるかどうかを、事前に必ず試算すべきです。

デメリット④ 不動産贈与は税コストが余分にかかる

不動産を贈与すると、相続で取得する場合と比べて登録免許税と不動産取得税が余分に発生します。

税目相続での取得贈与での取得
登録免許税固定資産税評価額の0.4%固定資産税評価額の2.0%
不動産取得税非課税固定資産税評価額の3〜4%

固定資産税評価額が3,000万円の不動産を例にすると、相続なら登録免許税は12万円ですが、贈与では登録免許税60万円+不動産取得税90〜120万円と、合計で138〜168万円のコスト差が生じます。

物件価格が高いほど差額は拡大するため、不動産の贈与には必ず事前試算が必要です。

デメリット⑤ 贈与時の評価額で課税される

精算課税では、贈与時の評価額が相続税計算の基準として固定されます。贈与後に財産価値が下落しても、高い贈与時の評価額で課税される点がリスクです。

たとえば贈与時に3,000万円だった株式が相続時に1,000万円に下落していても、相続税は3,000万円をベースに計算されます。2024年改正で災害による不動産の再評価特例は新設されましたが、株式や通常の地価下落には適用されません。値動きのある資産を贈与する際は、下落シナリオも想定したシミュレーションが欠かせません。

デメリット⑥ 相続税の物納に充当できない

物納とは、現金での相続税納付が困難な場合に不動産などの現物で納税できる制度です。しかし精算課税で取得した財産は、この物納の対象外となります。

現預金が少なく不動産中心の資産構成の家庭では、相続税の納税資金を別途現金で用意しなければなりません。精算課税を活用する際は、相続発生時の納税資金の手当てまでセットで計画しておく必要があります。

資産タイプ別の向き不向き

精算課税制度の効果は、贈与する資産の種類によって大きく異なります。資産クラスごとに向き不向きを整理します。

現金・預貯金の場合

現金・預貯金は評価額が変動しないため、贈与後に価値が下がるリスクがありません。手続きもシンプルで、精算課税との相性は比較的良好です。

ただし相続税が発生する家庭では、贈与した現金がそのまま相続財産に持ち戻されるため節税効果は限定的です。

一方、相続財産が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人数)以内に収まる家庭であれば、精算課税の基礎控除110万円を毎年活用した無税移転が有効な手段になります。

現金贈与を検討する際は、まず相続財産の総額を試算し、相続税が発生するかどうかを確認するのが先決です。

不動産・収益物件の場合

不動産は資産の性質によって評価が分かれます。

収益物件(賃貸アパート・マンションなど)は贈与した時点から家賃収入が受贈者のものになるため、その後の収入が贈与者の相続財産を膨らませるリスクを遮断できます。

値上がり期待のある土地も、贈与時の評価額で課税が固定されるため精算課税との相性が高い資産です。

  1. 一方、自宅土地は要注意です。精算課税で贈与すると小規模宅地等の特例(自宅土地の評価額を最大80%減額できる制度)が使えなくなります。また不動産贈与では登録免許税・不動産取得税のコストも発生します。自宅土地については、特例の節税効果と精算課税のメリットを必ず比較してください。

上場株式・投資信託の場合

上場株式や投資信託は値動きがあるため、精算課税との相性は状況次第です。

贈与後に株価が上昇すれば、値上がり分への課税を回避できます。しかし下落した場合は贈与時の高い評価額で相続税が課税されるリスクがあります。

運用益の非課税化はNISAで行い、資産の世代間移転は精算課税で行うという役割分担が合理的です。ただしNISA口座は名義変更ができないため、親のNISA資産は相続財産として切り分け、別途現金や不動産を精算課税で移転するという設計が現実的な選択肢になります。

局面推奨手段
資産の運用・増やすNISA口座で非課税運用
資産の世代間移転精算課税で評価額を固定して承継

非上場株式・事業資産の場合

後継者への自社株承継において、精算課税は有力な選択肢のひとつです。非上場株式は市場での売却が難しいうえ、評価額が高くなりやすいため、早期に承継することで将来の相続税負担を抑えられます。

ただし事業承継には事業承継税制(納税猶予制度)という別の選択肢もあります。これは一定要件を満たせば贈与税・相続税の納税を猶予(一時的に支払いを免除)できる制度です。

状況次第では、精算課税よりも税負担を大きく圧縮できるケースがあります。

制度特徴向いている状況
精算課税手続きが比較的シンプル株式評価額が低い・要件を満たしにくい場合
事業承継税制納税猶予で負担を大幅軽減後継者が明確・要件を満たせる場合

非上場株式の承継は税負担が大きくなりやすく、選択を誤ると多額の税コストが生じます。必ず税理士に相談したうえで判断してください。

相続時精算課税制度を使うべき人

制度のメリットが最大限に活きるのは、家庭の資産状況が一定の条件を満たす場合です。自分に当てはまるか確認しましょう。

相続税が非課税範囲内の人

相続財産の総額が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人数)以内に収まる見込みの家庭は、精算課税の恩恵を受けやすい層です。

贈与財産が相続財産に持ち戻されても、相続税の課税対象にならないため、デメリットがほぼ生じません。2,500万円の特別控除を活用した贈与税ゼロの移転が、そのまま財産承継のコスト削減に直結します。

まず相続財産の総額を概算し、基礎控除を下回るかどうかを確認するのが最初のステップです。

短期間で多額の贈与をしたい人

教育資金・住宅購入資金・事業立ち上げ資金など、まとまった金額を一度に渡したい場合は精算課税が有効です。

  1. 暦年課税で1,000万円を非課税移転しようとすると、毎年110万円ずつ贈与しても約9年かかります。精算課税であれば特別控除の範囲内で一括贈与でき、受贈者が資金を必要なタイミングに合わせて移転できます。

贈与者の年齢が高く、長期にわたる贈与計画が現実的でない場合にも、精算課税による早期移転が合理的な選択肢です。

収益不動産を所有している人

賃貸アパートやマンションなどの収益物件を持つ人は、精算課税の活用を積極的に検討する価値があります。

早期に子世代へ移転することで、その後の家賃収入が贈与者の相続財産を膨らませるリスクを遮断できます。たとえば月収30万円の収益物件を15年間保有し続けると、家賃収入の累積だけで5,400万円が相続財産に加わる計算です。この金額に相続税率30%が適用されれば、約1,620万円の税負担増につながります。

収益物件は保有期間が長くなるほど相続税への影響が拡大するため、早めの承継判断が節税効果を高めます。

値上がりが期待できる資産を持つ人

含み益のある資産を今の評価額で移転できる点は、精算課税ならではの優位性です。贈与後の値上がり分は課税対象にならないため、将来の相続税負担を大幅に圧縮できます。

資産の例期待される効果
IPO前の非上場株式上場後の値上がり分が非課税
開発前・再開発エリアの土地地価上昇分への課税を回避
成長フェーズの事業資産事業価値増加分を非課税で承継

ただし、値上がりはあくまでも見込みにすぎません。下落リスクがある資産に対しては、下落シナリオでの税負担も必ず試算したうえで判断してください。

相続時精算課税制度が向いていない人

制度の選択が裏目に出るケースも存在します。以下の条件に当てはまる場合は、慎重に検討する必要があります。

相続税の発生が見込まれる人

相続財産が基礎控除を超える家庭では、精算課税で贈与した財産が相続財産に持ち戻され、課税ベースが拡大します。

たとえば相続税の限界税率が40%の家庭が精算課税で贈与税20%を支払っていた場合、相続時に差額の20%が追加課税されます。暦年課税で7年超の贈与を積み上げるほうが、長期的には課税ベースの圧縮効果が大きくなるケースが多く、相続税が確実に発生する家庭には不向きです。

暦年贈与を長期で継続したい人

毎年110万円ずつ長期で贈与する計画がある場合、精算課税への切り替えは大きなリスクを伴います。

同一の贈与者からの贈与は永続的に精算課税の対象となり、7年超の贈与が持ち戻し対象外になる暦年課税の恩恵を受けられません。20年以上の長期贈与計画がある家庭では、暦年課税の累積節税額が精算課税を上回るケースが大半です。

自宅の土地を贈与する予定の人

自宅土地を精算課税で贈与すると、小規模宅地等の特例(自宅土地の評価額を最大80%減額できる制度)が使えなくなります。

評価額5,000万円の自宅土地であれば、特例が適用されると評価額を1,000万円まで圧縮できます。この節税効果は非常に大きく、精算課税のメリットを大幅に上回るケースがほとんどです。自宅土地の贈与は精算課税を使わず、相続で承継するほうが有利といえます。

資産戦略との合わせ技

精算課税制度は単独で使うより、他の税制ツールと組み合わせることで効果が高まります。代表的な2つの活用パターンを解説します。

生命保険との組み合わせ

精算課税と生命保険を組み合わせると、財産移転と納税資金の確保を同時に実現できます。

具体的には、精算課税で贈与した現金を受贈者が終身保険の保険料に充てるスキームです。相続発生時に保険金が支払われ、そのまま相続税の納税資金として活用できます。

非課税枠を二重に活用する

精算課税の特別控除2,500万円と、生命保険の非課税枠(500万円×法定相続人数)は独立した枠のため、同時に活用できます。

たとえば法定相続人が3人いる家庭では、生命保険の非課税枠だけで1,500万円の非課税移転が可能です。精算課税の2,500万円と合わせると、最大4,000万円を実質的に非課税で次世代へ移転できます。

制度非課税枠条件
精算課税(特別控除)2,500万円累計枠・相続時精算あり
生命保険非課税枠500万円×法定相続人数相続人が受取人の場合

納税資金確保に使う方法

相続税の納付は原則として現金一括です。不動産中心の資産構成の家庭では、納税資金が不足するケースが少なくありません。

精算課税で現金を贈与し、受贈者が終身保険に加入しておくことで、相続発生時の納税資金を確実に準備できます。贈与のタイミング・保険加入時期・相続発生時の3つの時点を意識した資産設計が重要です。

NISAとの役割分担

NISAと精算課税は目的が異なるため、組み合わせることで資産運用と世代間移転を効率的に両立できます。

運用益の非課税化はNISAで、資産の世代間移転は精算課税でという役割分担が基本的な考え方です。

ただし、NISA口座は名義変更ができません。

非課税口座の開設者が死亡すると、その口座内の上場株式等は非課税口座から払い出され、相続人の特定口座または一般口座へ移管されます。そのため、親のNISA資産は相続財産として扱い、世代間移転は別途、現金や不動産などを使って設計するのが現実的です。

目的活用する制度
資産を増やす・運用益を非課税にNISA口座
資産を次世代へ移転する精算課税
相続税の納税資金を確保する精算課税+生命保険

それぞれの制度が干渉しない独立した枠であることを活かし、組み合わせて活用することで単独利用では得られない節税効果を実現できます。

相続時精算課税制度の利用手続きと申告の進め方

制度を選択すると決めたら、書類の準備と期限の管理が重要です。手続きの全体像を把握しておきましょう。

必要書類と届出方法

精算課税を選択する際に必要な書類は以下の3点です。

書類取得先
相続時精算課税選択届出書税務署・国税庁ウェブサイト
贈与税申告書税務署・国税庁ウェブサイト
戸籍謄本(贈与者と受贈者の関係を証明するもの)市区町村役場

提出方法は税務署への窓口持参・郵送・e-Tax(インターネット申告)の3つから選べます。初めて手続きする場合はe-Taxの利用が手間を省けます。なお選択届出書は最初の贈与を受けた年に一度提出すれば、翌年以降の再提出は不要です。

申告期限と注意点

届出の提出期限は、最初の贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日です。この期限を過ぎると自動的に暦年課税として扱われ、精算課税の選択が認められません。

贈与を受けたタイミングと申告カレンダーを必ず照合してください。たとえば2024年12月に贈与を受けた場合、翌年2025年の3月15日までに届出と申告を完了させる必要があります。

また年間贈与額が基礎控除110万円以内であっても、選択初年度は必ず届出書の提出が必要です。申告書の提出が不要なケースと届出書の提出が不要なケースは異なるため、混同しないよう注意しましょう。

手続きに不安がある場合や、贈与する資産が不動産・非上場株式など複雑なケースでは、税理士への相談を強くおすすめします。

この記事のまとめ

この記事では、相続時精算課税制度の仕組みと2024年改正のポイントを踏まえ、暦年課税との違い、メリット・デメリット、向いている人・向いていない人、資産別の活用法、申告手続きまでを整理しました。大切なのは、制度の有利不利を一般論で決めず、自身の相続財産の規模や贈与したい資産の種類に合わせて判断することです。迷う場合は早い段階で試算を行い、不明点は税理士などの専門家に相談しながら進めましょう。

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柴田充輝

金融系ライター

厚生労働省や保険業界・不動産業界での勤務を通じて、社会保険や保険、不動産投資の実務を担当。FP1級と社会保険労務士資格を活かして、多くの家庭の家計見直しや資産運用に関するアドバイスを行っている。金融メディアを中心に、これまで1,000記事以上の執筆実績あり。

厚生労働省や保険業界・不動産業界での勤務を通じて、社会保険や保険、不動産投資の実務を担当。FP1級と社会保険労務士資格を活かして、多くの家庭の家計見直しや資産運用に関するアドバイスを行っている。金融メディアを中心に、これまで1,000記事以上の執筆実績あり。

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関連する専門用語

相続時精算課税制度

相続時精算課税制度とは、60歳以上の父母や祖父母から、18歳以上の子や孫へ財産を贈与する場合に利用できる、特別な贈与税の制度です。この制度を使うと、贈与を受けた年に2,500万円までの金額については贈与税がかからず、それを超えた部分にも一律20%の税率が適用されます。そして、その後贈与者が亡くなったときに、過去の贈与分をすべてまとめて「相続財産」として扱い、最終的に相続税として精算します。 つまり、この制度は「贈与税を一時的に軽くし、あとで相続税の段階でまとめて精算する」という仕組みになっています。将来の相続を見据えて早めに資産を移転したい場合や、大きな金額を一括で贈与したい場合に活用されることが多いです。 ただし、一度この制度を選ぶと、同じ贈与者からの贈与については暦年課税(通常の贈与税制度)には戻せないという制限があるため、利用には慎重な判断が必要です。資産運用や相続対策を計画するうえで、制度の特徴とリスクをよく理解しておくことが大切です。

暦年課税

暦年課税とは、1月1日から12月31日までの1年間に贈与された金額に対して課税される仕組みのことをいいます。特に贈与税の計算方法として使われており、年間の贈与額が基礎控除額である110万円を超えた部分について課税されます。たとえば、1年間に親から子へ150万円を贈与した場合、110万円を差し引いた40万円に対して贈与税がかかるというわけです。 この制度は毎年リセットされるため、長期的に少しずつ財産を移す「生前贈与」の手段として活用されることが多いです。ただし、相続税との関係で、亡くなる前の一定期間内の贈与については相続財産に加算される「10年ルール」があるため、計画的な利用が大切です。初心者の方にとっては、贈与に関する基本的な課税制度として、まず最初に押さえておくべき考え方です。

生前贈与

生前贈与とは、本人が亡くなる前に、自分の財産を家族や親族などに贈り与えることを指します。たとえば、子どもや孫に現金や不動産などを自分の意思で生きているうちに渡す行為がこれにあたります。生前贈与を活用することで、相続時に財産が一度に多額に移転するのを防ぎ、相続税の負担を軽減する効果が期待できます。ただし、贈与にも贈与税がかかるため、贈与額やタイミング、誰に贈るかによって課税額が大きく変わることがあります。また、一定の条件を満たせば非課税になる特例制度もあるため、計画的に行うことが重要です。資産運用や相続対策として、生前贈与は家族に財産を無理なく引き継がせるための有効な手段のひとつです。

基礎控除

基礎控除とは、所得税の計算において、すべての納税者に一律で適用される控除のことを指す。一定額の所得については課税対象から除外されるため、納税者の負担を軽減する役割を持つ。所得に応じて控除額が変動する場合もあり、申告不要で自動適用される。

特別控除

特別控除とは、一定の条件を満たした場合に特別に認められる所得控除のことを指す。例えば、不動産譲渡所得に対する3,000万円特別控除や、住宅ローン控除などが含まれる。通常の控除とは異なり、特定の政策目的のために設けられており、適用を受けるには条件を満たす必要がある。

相続財産

相続財産とは、被相続人(亡くなった方)が死亡時点で保有していた財産のうち、法律上相続の対象となるものを指します。 具体的には、現金や預貯金、不動産、株式、車、貴金属などのプラスの財産だけでなく、借金やローン、保証債務といったマイナスの財産も含まれます。 相続人は、これらの財産すべてを一括して引き継ぐ「単純承認」だけでなく、財産の範囲内で債務を引き継ぐ「限定承認」や、相続自体を放棄する「相続放棄」などの選択も可能です。 なお、生命保険金や死亡退職金など、一定の財産は「相続財産」に含まれず、相続税の計算上も特別な扱いになることがあります。 相続財産を正しく把握することは、遺産分割協議や相続税申告を円滑に進めるうえで、最初の重要なステップとなります。

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