
株の相続手続きガイド:必要書類から税金計算、名義変更まで徹底解説
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公開:
2025.08.18
更新:
2025.08.18
株式の相続は、相続開始からの時間管理と正確な手続きが成否を分けます。上場株は証券会社、非上場株は発行会社と、名義変更の窓口や必要書類が異なり、手続きの遅れは売却や納税の遅延につながります。さらに、評価方法の誤りや相続人間の合意不足は、分割や税負担でトラブルを招きかねません。本記事では、発生直後の対応から名義書換、上場・非上場株の評価と相続税計算、現物・代償・換価分割の選択、取得費加算や配当金の扱い、事業承継税制までを網羅し、リスクを抑えて円滑に手続きを進めるための実務的な判断軸を提供します。
サクッとわかる!簡単要約
この記事を読むと、株式相続の全体像を短時間で把握できます。相続発生直後の対応から、上場株と非上場株それぞれの名義変更方法、現物・代償・換価分割の比較、上場株の4基準評価と非上場株の三方式評価、基礎控除や配偶者の税額軽減といった相続税の特例、譲渡益課税と取得費加算、配当金の課税取扱まで幅広く解説します。さらに、相続放棄や限定承認、遺留分への配慮、事業承継税制の適用判断など、手続きを進める上で欠かせない判断ポイントを整理。期限管理や準備書類の確認を通じて、手戻りや余計なコストを防ぎ、安心して進められる知識を得られます。
株の相続手続きタイムライン:発生直後から10ヶ月後までの流れ
株式を相続する際は、法律で定められた期限内に手続きを終える必要があります。特に相続税の申告と納税は10ヶ月が期限です。計画的に進めるため、まず全体の流れを把握しましょう。
相続発生〜48時間:関係各所への連絡と情報収集
まず証券会社などの金融機関へ連絡し、相続が始まったことを伝えます。口座はその連絡をもって凍結されますが、後の手続きを円滑に進めるため、故人宛ての郵送物や取引明細を探し、保有株式の情報を集めておきましょう。
〜3ヶ月:相続人と財産の確定
相続放棄の期限である3ヶ月を目安に、戸籍謄本などを集めて相続人を確定させます。同時に、株式を含む全ての財産を調査して一覧にし、財産全体を相続するかどうかを決めます。
〜10ヶ月:株式の評価から申告・納税までを完了
財産の相続を決めたら、申告期限の10ヶ月後までに、株式の評価、遺産分割協議、相続税の計算、そして申告・納税までの一連の手続きをすべて完了させます。
相続の準備|誰が・何を相続するのかを確定させる
相続手続きは、まず誰が相続する権利を持つか(相続人)を明確にすることから始まります。故人が遺した遺言書の有無を確認し、なければ法定相続人を戸籍謄本などで確定させます。その上で、遺言書の内容、または相続人全員による遺産分割協議によって、誰が株式を相続するのかを正式に決定します。このプロセスには、戸籍謄本一式や印鑑証明書といった公的な書類の準備が必要です。
株の名義変更手続き:上場株・非上場株(自社株)別の違いとは?
相続した株式の売却や配当金受領には、名義変更が必須です。市場で売買される上場株は証券会社、オーナー企業などの非上場株は株式を発行した会社が手続きの窓口となり、手順が異なります。ここでは、両者の手続きの違いと具体的な進め方を解説します。
上場株:証券会社で口座を移管
上場株式の相続は、証券会社を通じて行います。故人の証券口座は死亡の連絡をもって凍結され、取引ができなくなります。手続きは、相続人が自身の証券口座へ株式を移管してもらうのが一般的な流れです。ここでは、口座の開設から名義変更完了までの手順を具体的に説明します。
証券口座の確認と開設
まず、故人が利用していた証券会社に連絡し、相続が発生したことを伝えます。故人の口座は凍結され取引はできなくなります。株式を引き継ぐ相続人は、同じ証券会社にご自身の口座がなければ、新たに開設する必要があります。その後、相続人の口座へ株式を移管する手続きを進めます。
名義変更手続きと配当金の扱い
必要書類一式を証券会社に提出すると、審査を経て相続人名義への株式移管が完了します。手続きには数週間かかる場合があり、その間は株式の売却はできません。手続き中に発生した配当金は、名義変更後に相続人が受け取れるのが一般的ですが、詳細は証券会社の案内に従いましょう。
非上場株・自社株:発行会社に名義書換を請求
非上場株式には市場がなく、証券会社を介した取引はできません。そのため相続手続きは、株式を発行した会社と直接行います。手続きの基本は、会社の株主名簿を故人から相続人へ書き換えてもらうことです。会社の定款など、独自のルールを確認することも重要になります。
株主名簿の書換請求
非上場株式の名義変更は、株式を発行した会社に直接連絡して行います。「名義書換請求」が手続きの中心となり、会社所定の請求書を提出します。故人が株券を保有していた場合はその原本、加えて戸籍関係書類や遺産分割協議書など、相続を証明する書類も一式必要です。
経営権の承継と現金化の注意点
非上場株の相続は、会社の経営権承継を意味する場合もあります。事業を引き継がない場合でも、株主としての権利と責任が生じます。また、株式の現金化を希望する際は、市場で売却できないため、発行会社や他の株主に買い取ってもらうなどの交渉が必要です。いずれの場合も、まずは相続人への名義変更を完了させることが前提となります。
株式を公平に分割する3つの方法
遺言書がない場合、株式の分け方は相続人全員の話し合い(遺産分割協議)で決めます。株式は現金と違い物理的に分けにくいため、公平な分割方法を知ることが後のトラブルを防ぐ鍵となります。ここでは代表的な3つの分割方法と、それぞれの特徴を解説します。
話し合いの基本:遺産分割協議と株式特有の注意点
遺産分割協議は、相続人全員が遺産の分け方に合意するための話し合いです。特に株式は、将来の価値変動や経営権の問題が絡むため、評価額や誰が引き継ぐかを巡って意見が対立しがちです。全員が納得できる着地点を見つけるため、まずは分割の選択肢を知ることが重要です。
パターン1.現物分割:株式を株数のまま分ける方法
現物分割は、株式をそのまま株数に応じて分ける最もシンプルな方法です。例えば「100株を長男に60株、次男に40株」というように分配します。ただし、株数が割り切れない場合や、相続人の中に株式の保有を望まない人がいる場合には不向きな方法です。
パターン2.代償分割:一人が株式を取得し、差額を現金で精算する方法
代償分割は、相続人の一人が株式をすべて相続する代わりに、他の相続人に対してその人の取り分に相当する現金(代償金)を支払う方法です。会社の経営権を後継者に集中させたい場合などに有効ですが、株式の評価額を巡って利害が対立しやすい点に注意が必要です。
パターン3.換価分割:株式を売却し、現金を分ける方法
換価分割は、相続した株式をすべて売却して現金に変え、その現金を相続人で分配する方法です。全相続人が公平に金銭を受け取れるため、最もトラブルになりにくい分け方と言えます。ただし、売却益に対して譲渡所得税がかかる点や、売却のタイミングを考慮する必要があります。
パターン4.相続放棄・限定承認:相続しない選択肢
株式の価値が低い、または故人に多額の負債がある場合など、財産を相続しない選択も可能です。相続権そのものを手放す「相続放棄」や、プラスの財産の範囲内でのみ負債を弁済する「限定承認」という手続きが法律で認められており、3ヶ月以内に家庭裁判所への申述が必要です。
相続放棄・限定承認の違いについては以下Q&Aでも説明しています。
株の相続税はいくら?評価方法から申告・納税まで
株式を相続した場合、その価値を正しく算定(評価)し、相続税を計算・申告する必要があります。株式の評価方法は、市場で取引される上場株と、そうでない非上場株とで全く異なります。この章では、それぞれの評価方法の仕組みから、相続税の計算、申告までの流れを解説します。
上場株の相続税評価額の調べ方:最も有利な価格を選ぶ4つの基準
上場株式の評価は、日々変動する市場の株価を基にします。ただし、相続日の株価がたまたま高騰していた等の不公平をなくすため、過去数ヶ月の平均株価を含めた4つの価格から、最も低いものを納税者が選択できる有利な仕組みになっています。
評価額は、以下の4つの価格のうち最も低いものを採用します。
- 相続開始日(死亡日)の終値
- 相続開始月の終値の月間平均額
- 相続開始月の前月の終値の月間平均額
- 相続開始月の前々月の終値の月間平均額
例えば8月12日に相続が開始した場合、8月12日の終値と、8月・7月・6月の3ヶ月分の月間平均株価を比較し、最も安い価格を評価額として申告できます。
非上場株の相続税評価額の計算方法:専門知識が必須の3方式
市場価格のない非上場株式は、会社の規模や財産、利益などを用いて評価額を計算します。評価方法は複数あり、専門知識が不可欠なため、自社株評価に詳しい税理士への相談が一般的です。ここでは、その代表的な3つの評価方式の概要を説明します。
- 類似業種比準方式:事業内容が似ている上場企業の株価などを参考に評価します。主に大企業で用いられます。
- 純資産価額方式:会社の総資産から負債を差し引いた純資産を基に評価します。主に中小企業で用いられます。
- 配当還元方式:過去の配当実績を基に評価します。経営に関与しない少数株主が株式を相続した場合などに適用されます。
相続税の計算と申告・納税の手順
算出した株式評価額と他の財産を合算し、相続税がいくらかかるかを計算します。全ての財産に課税されるわけではなく、税負担を軽くする基礎控除や配偶者のための特例があります。ここでは、計算の仕組みと10ヶ月という申告期限について解説します。
相続税の計算方法:基礎控除と税率
相続税は、遺産総額が基礎控除額「3,000万円+600万円×法定相続人の数」を超える場合にのみかかります。例えば相続人が3人なら、基礎控除額は4,800万円です。課税対象となる金額には、10%から55%までの累進課税率が適用されます。
配偶者の税額軽減とは
配偶者が財産を相続する場合、法律上の大きな優遇措置があります。最低でも1億6,000万円までは配偶者に相続税がかからない制度で、これを利用すれば税負担を大幅に、あるいはゼロにできる場合があります。ただし、適用には申告書の提出が必要です。
申告・納税の期限と注意点
相続税の申告と納税は、相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に完了させなければなりません。期限を過ぎるとペナルティが課されるため注意が必要です。また、自社株を後継者が相続する際は、納税が猶予・免除される「事業承継税制」という特例もあります。
相続した株のその後:売却する?保有し続ける?
相続手続きを終えた株式は、ご自身の資産として自由に活用できます。主な選択肢は売却して現金化するか、そのまま保有し続けるかです。どちらを選ぶ場合でも、税金の知識は欠かせません。ここでは、売却時の税金、節税できる特例、保有を続けた場合の配当金について解説します。
相続した株を売却すると税金はかかる?譲渡所得税の仕組み
相続した株式を売却して利益が出た場合、その利益に対して相続税とは別に「譲渡所得税」がかかります。税額を計算する上で最も重要なのが、故人がその株式を購入したときの価格(取得費)が基準になるという点です。この取得費が低いほど税負担は重くなります。
売却による利益(譲渡所得)は、売却価格から故人の購入価格(取得費)と手数料を差し引いて計算します。この利益に対し、所得税・住民税を合わせて約20.315パーセントの税率で課税されます。
税金を抑える「取得費加算の特例」とは?適用要件と計算方法
相続税を納めた人が、相続開始から3年10ヶ月以内に株式を売却した場合、税負担を軽減できる「取得費加算の特例」があります。これは、支払った相続税の一部を株式の取得費に上乗せできる制度で、結果として売却益が圧縮され、譲渡所得税が安くなります。
この特例は、故人の購入価格を引き継ぐことによる税負担を緩和するための救済措置です。適用を受けるには確定申告が必要なため、売却する際は税理士などに相談すると良いでしょう。
継続保有する場合の配当金の扱い
株式を売却せずに保有し続ける場合、配当金を受け取ることができます。これは株主としての権利であり、相続手続きの途中であっても、相続人として受け取ることが可能です。ただし、受け取った配当金には、売却益と同様に税金がかかります。
配当金は、権利が確定する日に株主である人に対して支払われます。受け取った配当金には、譲渡所得税とほぼ同じ約20.315パーセントの税率で課税されます。
株の相続トラブルを避けるための事前対策
株式の相続では、財産の分け方を巡って親族間トラブルに発展することも少なくありません。ここでは、相続が始まってから揉めないための注意点と、それを未然に防ぐために被相続人が生前にできる有効な対策について解説します。
相続発生後の注意点:相続人同士の合意形成が鍵
株式の相続で最も重要なのは、相続人全員の合意形成です。株式は現金と違って分けにくく、誰が引き継ぐかで不公平感が生まれやすいためです。法定相続人に保障された最低限の取り分である「遺留分」にも配慮し、全員が納得できる分け方を話し合いましょう。限られた申告期限の中で対立が長引かぬよう、必要であれば専門家の仲介を得て早期解決を図ることが大切です。
生前の対策:遺言書作成と計画的な生前贈与
最も有効な対策は、被相続人が生前に遺言書を作成しておくことです。誰に株式を継がせるかを明確に指定しておけば、相続人同士の争いを大幅に防げます。また、計画的に株式を生前贈与し、相続財産そのものを減らしておく方法もあります。ただし、相続開始前の7年以内に行われた贈与は相続財産に加算されるルールがあるため、長期的な視点で実行することが重要です。
株の相続は誰に相談すべき?専門家の選び方と役割分担
株式の相続では、税金の計算、法的な書類作成、親族間の交渉など様々な専門知識が求められます。手続きを一人で抱え込まず、適切な専門家に相談することがスムーズな解決への近道です。ここでは、どの専門家がどの分野を担当するのか、その役割分担を解説します。
相続全般について誰に相談するべきかについては以下記事で詳しく解説しています。
税理士:相続税の計算と株式評価の専門家
相続税の申告が必要な場合、税理士は不可欠なパートナーです。特に市場価格のない非上場株式(自社株)の評価は極めて専門性が高く、税理士の腕次第で納税額が大きく変わることもあります。納税に関する手続き全般を安心して任せることができます。
弁護士:相続人同士のトラブル解決の専門家
相続人同士で遺産の分け方を巡る意見が対立し、話し合いで解決できない場合に頼りになるのが弁護士です。代理人として他の相続人と交渉したり、家庭裁判所での調停や審判の手続きを進めたりと、法的な紛争解決を専門とします。
司法書士・行政書士:煩雑な書類作成と手続き代行の専門家
相続手続きには、膨大な量の戸籍謄本を集めたり、金融機関へ提出する専門的な書類を作成したりする必要があります。司法書士や行政書士は、こうした煩雑な事務手続きを代行し、相続人の負担を大幅に軽減してくれます。
専門家への依頼には費用がかかりますが、誤った手続きによるペナルティや、親族間トラブルが長引くリスクを考えれば、安心して相続を終えるための有効な投資と言えるでしょう。
この記事のまとめ
株式相続は、期限管理と正確な評価が基本です。3ヶ月以内の放棄・限定承認、10ヶ月以内の申告・納税を守り、上場株は4基準、非上場株は三方式で妥当な評価を行うことが重要です。名義変更中は売却できないため流動性の確保も課題となり、譲渡益課税や取得費加算、配当金課税など税務面の確認も欠かせません。分割は現物・代償・換価の選択肢を比較し、遺留分や相続人間の合意形成に配慮しましょう。事業承継税制の適用可否や必要書類の準備を早めに進めることで、手戻りや余計なコストを防げます。必要に応じて専門家に相談するのも選択肢です。

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投資のコンシェルジュ編集部は、投資銀行やアセットマネジメント会社の出身者、税理士など「金融のプロフェッショナル」が執筆・監修しています。 販売会社とは利害関係がないため、主に個人の資産運用に必要な情報を、正確にわかりやすく、中立性をもってコンテンツを作成しています。
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非上場株式(未公開株式/非公開株式)
非上場株式(未公開株式/非公開株式)とは、証券取引所に上場していない企業の株式を指します。 上場株式とは異なり、公の市場で自由に売買できず、流動性が低いのが特徴です。特に買い手を見つけるのが難しく、売却までに時間を要することが多いです。主にベンチャー企業や中小企業が発行しており、取得方法としてはベンチャーキャピタル(VC)、エンジェル投資家、投資ファンド、従業員持株会などを通じた投資が一般的です。 また、売却や譲渡には会社の承認が必要な場合が多く、定款や契約によって譲渡制限が設けられていることもあります。そのため、希望するタイミングで売却できるとは限りません。 投資家にとっては、企業の成長による大きなリターンを期待できる一方で、換金の難しさや情報の透明性の低さといったリスクもあります。未公開企業は決算情報や事業計画の開示義務がない場合もあり、投資判断が難しくなる可能性があるため、十分な調査が必要です。 さらに、非上場株式は相続や贈与の際の評価が難しいという課題もあります。相続税や贈与税の計算では、国税庁の「財産評価基本通達」に基づき、類似業種比準方式や純資産価額方式などの方法で評価されます。しかし、これらの方式による評価額は事業の業績や市場環境によって変動しやすく、納税額が予想以上に高くなることがあります。 また、非上場株式は市場での換金が難しいため、相続税の納税資金を準備するのが困難な場合があります。このようなリスクを避けるために、事前に事業承継対策や株式の分散を検討することが重要です。
名義書換
名義書換とは、株式や投資信託などの金融商品について、その保有者の名前を変更する手続きのことを指します。たとえば、誰かから株式を譲り受けた場合や相続が発生した場合には、証券会社や信託銀行に申請して、正式に自分の名前に変更する必要があります。この手続きを行うことで、配当金や議決権などの権利が新しい名義人に正式に移ることになります。名義書換をしておかないと、本来受け取れるはずの権利が行使できない可能性があるため、手続きは忘れずに行うことが大切です。
基礎控除
基礎控除とは、所得税の計算において、すべての納税者に一律で適用される控除のことを指す。一定額の所得については課税対象から除外されるため、納税者の負担を軽減する役割を持つ。所得に応じて控除額が変動する場合もあり、申告不要で自動適用される。
配偶者の税額軽減
配偶者の税額軽減とは、相続税における特例の一つで、亡くなった方の配偶者が相続する財産について、一定の金額までは相続税が課されない、または大きく軽減される制度です。 具体的には、「1億6,000万円」または「法定相続分相当額」のいずれか大きい金額までの相続について、配偶者には相続税がかからないという非常に大きな優遇措置です。 これは、夫婦の共同生活によって築かれた財産を配偶者が引き継ぐことを社会的に保護するための制度です。配偶者がその後亡くなった場合に、残された財産が再度相続税の対象になるため、一時的な繰延べ的性格も持ちますが、結果として相続税の負担を大きく軽くする効果があります。
事業承継税制
事業承継税制とは、中小企業の経営者が後継者に自社株式などの事業用資産を引き継ぐ際にかかる相続税や贈与税の負担を、大幅に軽減するための特例制度です。通常、自社株式の相続や贈与には高額な課税が伴いますが、本制度を活用すれば、一定の条件下でこれらの税金の納税が猶予され、最終的に免除される可能性もあります。 この制度の目的は、経営者の高齢化が進む中で、後継者への円滑な事業承継を支援し、中小企業の継続的な成長や地域経済の安定を確保することにあります。特に、長年にわたり地域や雇用を支えてきた企業にとっては、承継時の税負担が事業継続の大きな壁となるケースもあり、本制度はその打開策として注目されています。 制度の適用には、事業承継計画の策定や、都道府県への認定申請など、事前の準備と継続的な要件の遵守が求められます。適用条件も多岐にわたるため、税理士や行政書士などの専門家の支援を受けながら、計画的に取り組むことが重要です。 資産運用の一環として事業を所有している方や、将来的に経営権を譲渡する予定がある方にとって、本制度は事業と資産の両面を守るための有力な選択肢といえるでしょう。
現物分割
現物分割とは、相続財産を現金化せずに、実際の形のままで分ける方法を指します。たとえば、相続財産に土地や建物、預貯金、株式などが含まれている場合、それぞれを相続人が現物のまま受け取って分け合うことをいいます。たとえば、長男が自宅の土地と建物を、次男が預貯金を受け取るといった形です。 財産の形や評価額に偏りが出やすいため、公平性を保つために他の相続人に代償金を支払う「代償分割」と併用されることもあります。現物分割は、故人の遺志や相続人の希望に沿って、相続財産をできるだけそのまま活かして引き継ぐ方法として利用されますが、トラブル防止のためには評価や調整が慎重に行われる必要があります。
代償分割
代償分割とは、相続において遺産を現物で平等に分けることが難しい場合に、一部の相続人が特定の財産を単独で取得し、その代わりに他の相続人に現金などを支払って調整する方法です。たとえば、相続財産が一つの不動産しかないとき、その不動産を1人の相続人が引き継ぎ、他の相続人にはその分に相当する金額を支払うといったケースが該当します。 これにより、財産の形を変えることなく円満な分割がしやすくなります。代償分割は、財産の価値を正確に評価したうえで合意が必要であり、トラブルを避けるためには専門家の助言を受けることが重要です。
換価分割
換価分割とは、相続財産をいったん現金に換えてから、そのお金を相続人の間で分ける方法のことを指します。たとえば、亡くなった方が所有していた不動産を相続人全員の合意で売却し、その売却代金を人数や相続割合に応じて分配するといった形です。現物分割では分けにくい不動産や事業用資産が含まれている場合、公平性や現金化のしやすさを重視して換価分割が選ばれることがあります。 この方法は、財産を細かく分けづらいときや、相続人同士で特定の財産にこだわりがない場合に有効です。ただし、売却には時間や手間がかかるうえ、譲渡所得税などの税金が発生することもあるため、事前の確認や専門家への相談が重要になります。
相続放棄
相続放棄とは、亡くなった人の財産を一切受け取らないという意思を家庭裁判所に申し立てて、正式に相続人の立場を放棄する手続きのことです。相続には、プラスの財産(預貯金や不動産など)だけでなく、マイナスの財産(借金や未払い金など)も含まれるため、全体を見て相続すると損になると判断した場合に選ばれることがあります。 相続放棄をすると、その人は最初から相続人でなかったものとみなされるため、借金の返済義務も一切負わなくて済みます。ただし、相続があったことを知ってから3か月以内に家庭裁判所に申し立てる必要があり、その期限を過ぎると原則として相続を受け入れたとみなされてしまいます。したがって、放棄を検討する場合は早めの判断と手続きが重要です。
限定承認
限定承認とは、相続人が引き継ぐ財産について、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産(借金など)を支払うことを条件に、相続を受ける方法のことです。つまり、相続によって得られる資産が借金を上回っている場合にはその差額を受け取ることができますが、もし借金が多くても、自分の財産を使ってまで返済する必要はありません。 この方法を使えば、相続することで損をするリスクを減らすことができます。ただし、限定承認を行うには、相続の開始を知ってから原則として3か月以内に、他の相続人全員と一緒に家庭裁判所に申立てをする必要があるため、手続きがやや複雑です。
相続税の取得費加算の特例
相続税の取得費加算の特例とは、相続によって取得した土地や株式などの資産を一定期間内に売却した場合に、支払った相続税の一部をその資産の取得費に加えることができる制度です。この特例を使うことで、譲渡所得の計算上の利益が少なくなり、結果として譲渡所得税(売却益に対する税)の負担を軽減することができます。 対象となるのは、相続開始の日の翌日から3年10か月以内に売却した資産で、実際に相続税を支払っていることが条件です。相続と資産売却が関わる場面では、税金を抑えるために非常に有効な制度であるため、早めの手続きや専門家への相談が重要です。
配当(配当金)
配当とは、会社が得た利益の一部を株主に分配するお金のことをいいます。企業は利益を出したあと、その一部を将来の投資に使い、残った分を株主に還元することがあります。このときに支払われるお金が配当金です。株を持っていると、持ち株数に応じて定期的に配当金を受け取ることができます。多くの場合、年に1回または2回支払われ、企業によって金額や支払い時期は異なります。配当は企業からの「お礼」のようなもので、株を長く持ち続ける理由の一つになることがあります。
遺留分
遺留分とは、被相続人が遺言などによって自由に処分できる財産のうち、一定の相続人に保障される最低限の取り分を指す。日本の民法では、配偶者や子、直系尊属(親)などの法定相続人に対して遺留分が認められており、兄弟姉妹には認められていない。遺留分が侵害された場合、相続人は「遺留分侵害額請求」によって不足分の金銭的補填を請求できる。これは相続財産の公平な分配を確保し、特定の相続人が極端に不利にならないようにするための制度である。
遺言書
遺言書とは、自分が亡くなったあとに財産をどのように分けてほしいかをあらかじめ書き残しておく文書のことです。生前に自分の意思を明確に示す手段であり、誰にどの財産を渡すか、あるいは誰には渡さないかなどを記載することができます。遺言書があることで、相続人同士のトラブルを防いだり、法定相続とは異なる分け方を実現したりすることが可能になります。法的に有効な遺言書にするためには、決められた形式に沿って作成する必要があります。代表的な形式には自筆証書遺言や公正証書遺言があります。資産運用においても、相続の計画を立てるうえで非常に重要な役割を果たします。
生前贈与
生前贈与とは、本人が亡くなる前に、自分の財産を家族や親族などに贈り与えることを指します。たとえば、子どもや孫に現金や不動産などを自分の意思で生きているうちに渡す行為がこれにあたります。生前贈与を活用することで、相続時に財産が一度に多額に移転するのを防ぎ、相続税の負担を軽減する効果が期待できます。ただし、贈与にも贈与税がかかるため、贈与額やタイミング、誰に贈るかによって課税額が大きく変わることがあります。また、一定の条件を満たせば非課税になる特例制度もあるため、計画的に行うことが重要です。資産運用や相続対策として、生前贈与は家族に財産を無理なく引き継がせるための有効な手段のひとつです。
類似業種比準方式
類似業種比準方式とは、非上場企業の株式の評価額を算出する際に使われる方法のひとつです。この方式では、評価対象の会社と事業内容や規模が似ている上場企業の株価や財務指標を参考にして、対象会社の株価を間接的に見積もります。上場企業のデータは市場で公開されており信頼性が高いため、それを基準として非上場企業の適正な価値を判断しようとするのが特徴です。特に相続税や贈与税の申告において、未公開株の評価が必要なときに用いられることが多いです。
純資産価額方式
純資産価額方式とは、非上場企業の株式の価値を評価するための方法の一つで、その会社が保有する資産から負債を差し引いた「純資産」の額をもとに株価を算出するものです。企業の貸借対照表に記載されている資産や負債を適正な時価に修正したうえで、株主にとっての持ち分を計算し、1株あたりの価値を導き出します。この方式は、会社の事業の収益性よりも、保有している資産の内容に重点を置いて評価するため、主に資産を多く持つ企業や、事業が活発でない企業の株式評価に適しています。相続や贈与に関わる非上場株式の評価時に使われることが多い方法です。
配当還元方式
配当還元方式とは、非上場企業の株式を評価する際に、その株式が生み出す配当金の額を基準として株価を算出する方法です。具体的には、過去に支払われた配当金の平均額を基にして、一定の利回りで割り戻すことで株式の価値を見積もります。この方式では、企業がどれだけの利益を上げているかよりも、実際に株主に分配される配当が重視されます。特に、少数株主が保有する株式や、経営に関与しない株主の持ち分評価に使われることが多く、相続税や贈与税の申告時によく用いられます。配当が安定して継続的に出ている企業に対して有効な評価方法です。