
推定相続人とは?相続人・法定相続人との違いを分かりやすく解説
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公開:
2025.08.22
更新:
2025.08.22
推定相続人とは、現時点で相続が発生した場合に法定相続人になると推定される人のことです。法定相続人や相続人とは概念が異なるため、混乱してしまう方もいるのではないでしょうか。
この記事では、推定相続人の基本的な定義から実務での重要性まで、わかりやすく解説していきます。正しい知識を身につけ、相続対策に役立てていきましょう。
サクッとわかる!簡単要約
本記事で得られるのは、推定相続人の概念だけではなく、効果的な相続対策に役立つ判断軸です。推定相続人と法定相続人の切り替わり、配偶者が常に対象である点、子・直系尊属・兄弟姉妹の順位と再代襲の範囲、実務上の注意点まで一気に把握できます。さらに、相続時精算課税の2,500万円非課税や基礎控除、保険金の「500万円×人数」も押さえ、相続対策の確認事項が明確になります。戸籍一式の集め方と調査上の注意点も整理しているので、家族構成が複雑でも漏れを減らせます。複雑な事例は専門家に橋渡しする基準も提示し、読後すぐに生前対策と情報共有を始められます。
目次
推定相続人とは何か?
推定相続人は、相続制度を理解するうえで重要な概念の一つです。民法では「相続が開始した場合に相続人となるべき者」と規定されており、現在の家族構成に基づいて判断されます。
推定相続人の基本的な定義
推定相続人とは、現時点で相続が発生した場合に、民法の規定により法定相続人になると推定される人のことです。「推定」という言葉が使われているのは、実際に相続が発生するまでは確定していないためです。
例えば、夫・妻・子ども2人の4人家族を考えてみましょう。もし夫が今亡くなったと仮定した場合、妻と子ども2人が法定相続人になります。つまり、現時点での夫の推定相続人は、妻と子ども2人ということになります。
ただし、推定相続人は状況の変化により変わる可能性があります。離婚や養子縁組、死亡などの事情により、家族構成が変われば推定相続人も変化するのです。
推定相続人の特徴
推定相続人には、いくつかの重要な特徴があります。まず、被相続人(財産を残す人)が存命中であることが前提です。実際に相続が発生していない段階での、あくまで「推定」に基づく相続人なのです。
次に、相続権がまだ確定していない点も特徴といえます。推定相続人は、将来相続を受けることを期待する権利(期待権)を持つにとどまり、現在の財産に対して具体的な権利を有しているわけではありません。
さらに、推定相続人は状況変化により変動する可能性があります。被相続人より先に亡くなったり、配偶者の場合は離婚したりすることで、推定相続人ではなくなることもあるのです。このような変動性も、推定相続人の重要な特徴といえるでしょう。
推定相続人・法定相続人・相続人の違い
これら3つの用語は似ているため混同されがちですが、それぞれ異なる意味を持っています。最も大きな違いは、相続が発生しているかどうかという時系列にあります。
時系列による使い分け
推定相続人、法定相続人、相続人は、相続の進行段階に応じて使い分けられます。相続発生前の段階では「推定相続人」、相続発生後は「法定相続人」や「相続人」という呼び方に変わるのです。
用語 | 被相続人の状態 | 相続権の状態 | 使用場面 |
---|---|---|---|
推定相続人 | 存命中 | 期待権のみ | 生前対策・遺言作成時 |
法定相続人 | 死亡後 | 確定 | 相続手続き開始時 |
相続人 | 死亡後 | 実際に相続 | 遺産分割完了後 |
相続発生前は、被相続人が存命中のため、相続人はまだ確定していません。この段階で「相続するであろう」と推定される人が推定相続人です。一方、実際に被相続人が亡くなると相続が開始され、民法の規定により法定相続人が確定します。
そして、最終的に法定相続人のうち実際に遺産を相続した人が「相続人」と呼ばれます。相続放棄をした人は、法定相続人であっても相続人にはなりません。このように、3つの用語は相続の進行段階に応じて使い分けられているのです。
実際に推定相続人・法定相続人・相続人が異なるケース
推定相続人と法定相続人が異なるケースもあります。推定相続人が被相続人より先に死亡した場合、その人は法定相続人にはなりません。代わりに、代襲相続により子や孫が法定相続人になることがあります。
推定相続人が先に死亡した場合
推定相続人が被相続人より先に死亡した場合、その人は法定相続人にはなりません。例えば、父親Aさん、母親Bさん、長男Cさんの3人家族で、Aさんの推定相続人がBさんとCさんだったとします。
しかし、Aさんより先にCさんが亡くなった場合、法定相続人はBさんのみとなります。
ただし、Cさんに子ども(Aさんの孫)がいた場合は代襲相続が発生し、その孫が法定相続人となります。つまり、推定相続人の段階ではBさんとCさんでしたが、実際の法定相続人はBさんと孫になるのです。このように、推定相続人と法定相続人の顔ぶれが変わることがあります。
相続廃除により相続権を失った場合
相続廃除(相続人の相続権を奪う手続き)により、推定相続人が法定相続人になれないケースもあります。例えば、被相続人Dさんの推定相続人が妻Eさんと長男Fさんだったとします。
しかし、FさんがDさんに対して日常的に暴力をふるったり、財産を無断で使い込んだりしていたとしましょう。
この場合、DさんはFさんの相続廃除を家庭裁判所に申立てることができます。廃除が認められれば、Fさんは相続権を失い、実際の法定相続人はEさんのみとなります。
推定相続人の段階ではEさんとFさんでしたが、廃除により法定相続人がEさんだけになるのです。なお、Fさんに子どもがいる場合は、その子が代襲相続により法定相続人となります。
相続放棄により相続人とならない場合
法定相続人であっても、相続放棄により相続人にならないケースがあります。例えば、被相続人Gさんが多額の負債を抱えて亡くなり、法定相続人が妻Hさんと子どもIさん・Jさんだったとします。
負債が資産を上回っていることが判明した場合、法定相続人は相続放棄を検討するでしょう。HさんとIさんが家庭裁判所で相続放棄の手続きを行った場合、実際に相続する「相続人」はJさんのみとなります。
つまり、法定相続人は3人でしたが、相続人は1人だけという状況が生まれるのです。相続放棄は相続開始を知った時から3か月以内に手続きする必要があります。
なお、相続放棄、単純承認、限定承認の違いに関しては、以下のFAQも参考にしてみてください。
推定相続人の範囲と順位
推定相続人の範囲と順位は、民法の相続制度により明確に定められています。
配偶者相続人
配偶者は、他の相続人の有無に関係なく、常に推定相続人となります。ただし、法律上の婚姻関係にあることが必要で、内縁関係や事実婚では推定相続人にはなれません。
配偶者の相続権は非常に強く保護されており、他の血族相続人と組み合わせて相続することになります。たとえば、配偶者と子がいる場合は、配偶者が2分の1、子が2分の1を相続します。配偶者と直系尊属(父母など)の場合は、配偶者が3分の2、直系尊属が3分の1です。
なお、離婚した元配偶者は推定相続人にはなりません。離婚により婚姻関係が解消されると、相続権も同時に失われるからです。これは離婚の届出をした時点で効力が発生します。
血族相続人の順位
血族相続人には明確な優先順位があり、上位の順位の人がいれば、下位の順位の人は推定相続人になりません。第1順位は子(養子を含む)、第2順位は直系尊属(父母・祖父母など)、第3順位は兄弟姉妹です。
順位 | 相続人 | 対象者 | 配偶者との相続分 |
---|---|---|---|
第1順位 | 子 | ・実子 ・養子 ・認知された子 | 配偶者:1/2 子:1/2を均等分割 |
第2順位 | 直系尊属 | ・父母 ・祖父母 ・曾祖父母 | 配偶者:2/3 直系尊属:1/3を均等分割 |
第3順位 | 兄弟姉妹 | ・全血兄弟姉妹 ・半血兄弟姉妹 | 配偶者:3/4 兄弟姉妹:1/4を分割 |
第1順位の子には、実子と養子の区別はありません。また、婚姻外で生まれた子であっても、認知されていれば同等の相続権を持ちます。複数の子がいる場合は、全員が推定相続人となり、相続分を均等に分けることになります。
第2順位の直系尊属は、父母が優先され、父母がいない場合に祖父母が推定相続人となります。第3順位の兄弟姉妹は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹と、父母の一方のみを同じくする半血兄弟姉妹がありますが、半血兄弟姉妹の相続分は全血兄弟姉妹の2分の1です。
代襲相続の考え方
代襲相続とは、本来相続人となるべき人が被相続人より先に死亡していた場合に、その子や孫が代わって相続することです。代襲相続が発生する場合、代襲者も推定相続人に含まれます。
第1順位の子が先に死亡していた場合、その子(被相続人の孫)が代襲相続します。孫も先に死亡していれば、ひ孫が代襲相続する「再代襲」も可能です。このように、直系卑属については無制限に代襲相続が認められています。
一方、第3順位の兄弟姉妹の代襲相続は、その子(被相続人の甥・姪)までにとどまり、再代襲は認められていません。また、第2順位の直系尊属については、代襲相続の概念はありません。これらの違いを理解しておくことが大切です。
推定相続人の調べ方
推定相続人を正確に把握するためには、戸籍謄本による調査が不可欠です。家族関係が複雑な場合や、過去に養子縁組や離婚の経験がある場合は、特に注意深い調査が必要となります。
戸籍謄本による確認
推定相続人の確定には、被相続人の出生から現在までのすべての戸籍謄本が必要です。まず、現在の本籍地の市区町村役場で現在戸籍謄本を取得し、そこから過去の戸籍をさかのぼって調査していきます。
戸籍謄本には、婚姻・離婚・養子縁組・認知などの身分関係の変動がすべて記載されています。これらの記録を丁寧に確認することで、推定相続人を正確に把握できるのです。特に、認知された子や養子がいる場合は、見落としがないよう注意が必要です。
また、戸籍の電算化により、古い戸籍が除籍謄本として保管されている場合があります。戸籍の改製により記載されなくなった事項もあるため、改製前の戸籍も取得して確認することが重要です。
調査上の注意点
戸籍調査では、転籍により戸籍が複数の市区町村に分散していることがよくあります。戸籍謄本の「従前戸籍」欄を確認し、前の本籍地の戸籍も順次取得していく必要があります。
除籍謄本は、戸籍に記載されていた人全員が除籍(死亡・転籍など)された場合に作成されます。除籍謄本には80年、改製原戸籍には150年の保存期間がありますが、古いものは廃棄されている可能性もあります。
また、戸籍の記載方法は時代により変化しており、古い戸籍では読み取りが困難な場合もあります。筆書きの戸籍や旧字体で書かれた戸籍もあるため、専門的な知識が必要になることもあるでしょう。
専門家へ相談する
複雑な家族関係や多数の転籍がある場合は、司法書士や弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。専門家であれば、効率的かつ正確に戸籍調査を行い、推定相続人を確定できます。
特に、相続人の中に行方不明者がいる場合や、養子縁組の経緯が複雑な場合は、一般の方では調査が困難です。専門家に依頼することで、時間と労力を節約できるうえ、調査漏れのリスクも回避できます。
また、推定相続人の確定後は、相続税の概算や遺言書の作成など、さらなる相続対策が必要になることもあります。早い段階から専門家と連携しておくことで、包括的な相続対策を進められるでしょう。
なお、相続に関する相談は、内容によって頼れる専門家が異なります。詳しくは、以下のFAQを参考にしてみてください。
推定相続人が相続できないケース
推定相続人であっても、必ずしも相続できるとは限りません。相続欠格や推定相続人の廃除により相続権を失ったり、状況の変化により推定相続人でなくなったりすることがあります。
相続欠格
相続欠格とは、民法891条に規定された重大な非行により、被相続人の意思に関係なく当然に相続権を失う制度です。相続欠格に該当すると、推定相続人であっても法定相続人にはなれません。
相続欠格事由は5つあります。
- ①被相続人や他の相続人を殺害、または殺害しようとして刑に処せられた場合
- ②被相続人の殺害を知っていながら告発・告訴しなかった場合
- ③詐欺・強迫により遺言の作成・撤回・取消・変更を妨げた場合
- ④詐欺・強迫により遺言をさせ、撤回・取消・変更をさせた場合
- ⑤遺言書を偽造・変造・破棄・隠匿した場合
相続欠格の効果は絶対的で、被相続人が許したとしても相続権は回復しません。ただし、相続欠格者に子がいる場合は、その子が代襲相続により相続権を取得します。相続欠格は本人のみに及び、その子には影響しないのです。
推定相続人の廃除
推定相続人の廃除とは、被相続人の意思により、遺留分を有する推定相続人の相続権を奪う制度です。民法892条により、虐待・重大な侮辱・その他の著しい非行があった場合に、家庭裁判所に請求できます。
廃除は相続欠格ほど重大ではないものの、被相続人との関係を破綻させるような行為があった場合に利用されます。具体的には、暴力・暴言・借金の肩代わり強要・犯罪行為・浮気・財産の無断使用などが代表例です。
廃除には「生前廃除」と「遺言廃除」があります。生前廃除は被相続人が生前に家庭裁判所に申立てる方法で、遺言廃除は遺言により廃除の意思を示し、相続開始後に遺言執行者が申立てる方法です。なお、兄弟姉妹は遺留分がないため、廃除の対象外となっています。
その他の失権事由
推定相続人が被相続人より先に死亡した場合、その人は法定相続人にはなりません。ただし、代襲相続の要件を満たす場合は、その子が代襲相続により相続権を取得します。
配偶者の場合、離婚により推定相続人ではなくなります。離婚の届出により婚姻関係が解消されると、相続権も同時に失われるのです。また、養子の場合は、養子縁組の解消により推定相続人でなくなります。
さらに、相続放棄により相続権を放棄することも可能です。相続放棄は相続開始後に家庭裁判所で行う手続きで、放棄すると初めから相続人でなかったものとして扱われます。これにより、負債を含めて一切の相続関係から離脱できるのです。
推定相続人に関する実務上の重要性
推定相続人の概念は、単なる法律用語にとどまらず、相続実務において重要な意味を持ちます。遺言書作成や税制活用の場面で、推定相続人の正確な把握が必要となるケースが多いのです。
遺言書作成時の考慮
遺言書を作成する際、推定相続人の把握は不可欠です。特に、公正証書遺言や秘密証書遺言では2人以上の証人が必要ですが、推定相続人やその配偶者・直系血族は証人になれません(民法974条)。
推定相続人を正確に把握していないと、適切な証人を選定できない可能性があります。また、遺言内容を検討する際も推定相続人の遺留分を考慮する必要があるため、事前の確認が重要なのです。
さらに、推定相続人が先に死亡する可能性を考慮した「予備的遺言」の作成も検討すべきでしょう。予備的遺言とは、遺言で指定した相続人が先に死亡した場合に備えて、代わりの相続人を指定しておく遺言です。
相続時精算課税制度利用時の留意点
相続時精算課税制度は、60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与について、2,500万円まで贈与税を非課税とする制度です。この制度の適用要件として、受贈者が贈与者の「推定相続人」である必要があります。
重要なのは、推定相続人の判定は「贈与の日」を基準とすることです(相続税法基本通達21の9-1)。つまり、贈与後に養子縁組をしても、贈与時点で推定相続人でなければ制度を利用できません。
また、年の途中で養子縁組をした場合、贈与のタイミングによって制度の適用可否が変わります。養子縁組前の贈与では制度を利用できず、縁組後の贈与でのみ利用可能となるのです。このように、推定相続人の判定タイミングが重要な意味を持ちます。
生前贈与・遺留分対策への活用
推定相続人の把握は、効果的な生前対策の第一歩です。将来の相続を見据えて、相続税の概算計算や遺産分割の検討を行う際の基礎資料となります。
相続税の基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算されます。推定相続人の数を把握することで、将来の相続税負担を概算できるのです。また、生命保険金や死亡退職金の非課税枠も「500万円×法定相続人の数」で計算されるため、保険加入の検討にも役立ちます。
さらに、推定相続人間の関係性や経済状況を踏まえて、争族対策を講じることも可能です。遺留分を考慮した遺言書の作成や、生前贈与による財産移転など、推定相続人の状況に応じた対策を検討できるでしょう。
遺留分に関しては、以下の記事で詳しく解説しています。
推定相続人を把握するメリット
推定相続人を正確に把握することは、将来の相続に向けた準備として多くのメリットをもたらします。計画的な相続対策により、税負担の軽減や家族間トラブルの予防が可能となるのです。
相続対策の立案に役立つ
推定相続人の把握により、将来の相続をシミュレーションできます。法定相続分に基づく遺産分割を想定して、各相続人の取得予定額を概算できるのです。これにより、相続税の負担額や納税資金の準備額を事前に検討できます。
相続税の概算計算では、まず遺産総額から基礎控除額を差し引いて課税遺産総額を求めます。次に、法定相続分で按分した各相続人の取得金額に税率を適用し、相続税の総額を計算します。最後に、実際の取得割合に応じて各相続人の納税額を按分するのです。
また、推定相続人の把握により、効果的な生前贈与の計画も立てられます。相続時精算課税制度や年110万円の暦年贈与を活用して、計画的に財産を移転できるでしょう。特に、相続税率が高い場合は、生前贈与による節税効果が大きくなります。
「争族」のトラブルを予防できる
推定相続人を事前に把握し、家族間で情報共有しておくことで、相続時のトラブルを予防できます。相続人の範囲について争いが生じるケースは意外に多く、事前の確認が重要です。
特に、認知された子や養子がいる場合、他の相続人が存在を知らないケースがあります。相続開始後に突然現れた相続人により、遺産分割が複雑になることも少なくありません。生前に推定相続人を確定し、必要に応じて家族間で情報共有しておくことが大切です。
また、推定相続人の経済状況や生活状況を把握しておくことで、適切な遺産分割方法を検討できます。不動産を相続予定の相続人が納税資金に困らないよう、預貯金の配分を調整するなどの配慮が可能となるでしょう。
財産を把握して適切に管理できる
推定相続人を把握することで、将来への漠然とした不安を解消できます。誰がどの程度の遺産を相続するのか、相続税はどの程度かかるのかを事前に把握できれば、安心して老後を過ごせるでしょう。
また、推定相続人の中に財産管理能力に不安がある人がいる場合、成年後見制度や家族信託の活用を検討できます。認知症などで判断能力が低下する前に、適切な財産管理体制を構築しておくことが重要です。
さらに、推定相続人との関係性を良好に保つための努力も可能となります。定期的な家族会議の開催や、相続に関する意思の伝達により、家族の絆を深められるでしょう。良好な家族関係は、円滑な相続手続きにつながります。
相続発生時の対応
実際に相続が発生した場合、推定相続人の調査結果を基に、正式な相続人確定手続きを行います。被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本を取得し、法定相続人を確定させましょう。
相続手続きでは、相続人全員の合意による遺産分割協議が必要となります。相続人の中に行方不明者や認知症の人がいる場合は、不在者財産管理人の選任や成年後見人の選任が必要になることもあります。
また、相続放棄や限定承認を検討する場合は、相続開始を知った時から3か月以内に家庭裁判所で手続きをしなければなりません。期限を過ぎると単純承認したものとみなされ、負債も含めて相続することになるため、注意が必要です。
遺産分割協議書に関しては、以下の記事で詳しく解説しています。あわせて参考にしてみてください。
この記事のまとめ
推定相続人とは、現時点で相続が発生した場合に法定相続人になると推定される人です。法定相続人や相続人との違いは主に時系列にあり、相続発生前は推定相続人、発生後は法定相続人・相続人という使い分けがなされます。
推定相続人の範囲は民法により明確に定められており、配偶者は常に推定相続人となり、血族相続人には優先順位があります。正確な把握には、戸籍調査が不可欠です。
相続は複雑な制度であり、個々の事情により適切な対応が異なります。推定相続人の確定や相続対策については、税理士・司法書士・弁護士などの専門家と連携して進めることをおすすめします。早めの準備により、円滑で安心な相続を実現していきましょう。

金融系ライター
厚生労働省や保険業界・不動産業界での勤務を通じて、社会保険や保険、不動産投資の実務を担当。FP1級と社会保険労務士資格を活かして、多くの家庭の家計見直しや資産運用に関するアドバイスを行っている。金融メディアを中心に、これまで1,000記事以上の執筆実績あり。
厚生労働省や保険業界・不動産業界での勤務を通じて、社会保険や保険、不動産投資の実務を担当。FP1級と社会保険労務士資格を活かして、多くの家庭の家計見直しや資産運用に関するアドバイスを行っている。金融メディアを中心に、これまで1,000記事以上の執筆実績あり。
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予備的遺言とは、遺言で指定した相続人や受遺者が先に亡くなっていた場合など、主な内容が実行できなくなったときのために、あらかじめ定めておく「代わりの内容」を記載した遺言のことです。 たとえば「長男に財産を相続させる」としていたが、その長男が先に亡くなっていた場合に備えて、「もし長男が先に死亡していたときは、その子どもに相続させる」といった形で書かれます。 このように、予備的遺言を用意しておくことで、遺言の内容が無効になることを防ぎ、相続における混乱や争いを回避することができます。法律的にも有効と認められており、特に複雑な家族構成や高齢の相続人が関係する場合に重要な役割を果たします。
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廃除とは、推定相続人のうち特定の人物に対して、被相続人が生前または遺言によって相続権を失わせるための法的な手続きのことを指します。これは、たとえば暴力や重大な侮辱、著しい義務違反など、被相続人との信頼関係を著しく損なうような事情があった場合に限って認められます。 廃除を行うには家庭裁判所の審判が必要で、単に気に入らないという理由だけでは認められません。また、廃除された人は相続人ではなくなるため、遺産を受け取ることはできません。相続の公平性や被相続人の意思を尊重する制度として設けられており、慎重に扱うべき法的措置です。
遺留分
遺留分とは、被相続人が遺言などによって自由に処分できる財産のうち、一定の相続人に保障される最低限の取り分を指す。日本の民法では、配偶者や子、直系尊属(親)などの法定相続人に対して遺留分が認められており、兄弟姉妹には認められていない。遺留分が侵害された場合、相続人は「遺留分侵害額請求」によって不足分の金銭的補填を請求できる。これは相続財産の公平な分配を確保し、特定の相続人が極端に不利にならないようにするための制度である。
相続欠格
相続欠格とは、本来なら遺産を受け取る権利があるはずの相続人が、法律で定められた特定の理由によって、その権利を失うことをいいます。たとえば、被相続人(亡くなった方)を故意に殺害しようとした場合や、遺言書を無理やり書き換えたり隠したりしたような行為があった場合に、その相続人は「相続欠格者」として扱われます。 つまり、重大な非行が原因で相続の資格を失う制度です。これにより、故人の意思や家族の秩序を守ることが目的とされています。相続欠格になると、その人自身だけでなく、その子どもにも影響が出ることがありますが、代襲相続が認められるケースもあるため、正確な判断には法律の専門家の助言が必要です。
推定相続人
推定相続人とは、現在の法律に基づいて、ある人が亡くなった場合にその財産を相続する立場になると見なされる人物のことを指します。たとえば、まだ被相続人(財産を遺す人)が生存している時点で、配偶者や子ども、親、兄弟姉妹など、相続順位に基づいて相続する可能性がある人が推定相続人と呼ばれます。 あくまで「将来的に相続人になると推定される人」であり、被相続人の死亡によって正式に「相続人」となる点が重要です。推定相続人は、遺言や相続対策を考える際に登場し、遺言書で相続人から外されたり、廃除されたりすることもあります。そのため、相続を円滑に進めるためにも、誰が推定相続人にあたるのかを生前に確認しておくことが大切です。
相続人(法定相続人)
相続人(法定相続人)とは、民法で定められた相続権を持つ人のことを指します。被相続人が亡くなった際に、配偶者や子ども、親、兄弟姉妹などが法律上の順位に従って財産を相続する権利を持ちます。配偶者は常に相続人となり、子がいない場合は直系尊属(親や祖父母)、それもいない場合は兄弟姉妹が相続人になります。相続税の基礎控除額の計算や遺産分割の際に重要な概念であり、相続対策を検討する上で欠かせない要素となります。
代襲相続
代襲相続とは、本来であれば相続人となるはずだった人が、相続が始まる前にすでに亡くなっていたり、相続欠格や廃除などの理由で相続できなくなった場合に、その人の子ども(直系卑属)が代わりに相続する仕組みのことをいいます。たとえば、亡くなった人(被相続人)の子どもがすでに他界していた場合、その子どもの子ども、つまり被相続人から見ると孫が相続するという形になります。この制度は、家族間の公平性を保ち、血縁のつながりに沿って財産が引き継がれることを目的としています。代襲相続は主に「子ども」や「兄弟姉妹」が相続人になる場合に認められており、それ以外の親族では適用されない点に注意が必要です。
相続人順位
相続人の順位とは、被相続人(亡くなった方)の財産を、法律上誰がどの順番で引き継ぐ権利を持つかを定めた制度です。日本の民法では、一定の優先順位に基づいて相続人が決まっており、上位の人がいる場合は下位の人に相続権は原則として発生しません。ただし、配偶者については特別で、順位に関係なく常に相続人になります。 まず、配偶者は常に相続人となります。その上で、配偶者とともに相続する「血族相続人(子や親、兄弟姉妹)」の順位は以下の通りです。 第1順位は子どもです。実子・養子・非嫡出子を含みます。子がすでに亡くなっている場合、その子(被相続人にとっての孫)が代わって相続する「代襲相続」が認められます。複数人いる場合は均等に分け合います。 第2順位は直系尊属、つまり父母や祖父母です。第1順位の相続人がいない場合に限り相続権を持ちます。両親が存命であれば通常は両親が相続し、すでに亡くなっていれば祖父母がその代わりになります。直系尊属には代襲相続は認められていません。 第3順位は兄弟姉妹です。第1順位にも第2順位にも相続人がいない場合に限り、兄弟姉妹が相続人となります。兄弟姉妹がすでに亡くなっている場合、その子である甥や姪が代襲相続人となることが可能です。ただし、甥や姪に対しては再代襲(孫甥など)は認められていません。 このように、相続順位は「子 → 親 → 兄弟姉妹」の順であり、上位の相続人がいる場合には下位の相続人には相続権がないという原則が適用されます。配偶者はこの順位に関係なく常に相続人となり、その割合や具体的な相続分は誰と一緒に相続するかによって異なります。 さらに実務上は、相続開始時に相続人がすでに亡くなっていたり、相続放棄をしていたりする場合もあるため、代襲相続や再代襲の可否、法定相続分の計算にも注意が必要です。相続人の範囲を正確に把握することは、遺産分割協議や相続税の申告、遺言書の効力確認などにおいて極めて重要です。
戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)
戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)とは、日本における家族関係を公的に証明する書類で、本籍地の市区町村役場で管理・発行されています。 相続手続きでは、誰が法定相続人であるかを確認するために必要不可欠な書類です。被相続人(亡くなった方)の出生から死亡までの戸籍をすべて取得することで、配偶者・子ども・親・兄弟姉妹など、関係する相続人を明らかにできます。 戸籍は複数の場所に分かれていることもあるため、「戸籍の取り寄せ」は相続手続きの最初のステップとして重要です。
相続時精算課税制度
相続時精算課税制度とは、60歳以上の父母や祖父母から、18歳以上の子や孫へ財産を贈与する場合に利用できる、特別な贈与税の制度です。この制度を使うと、贈与を受けた年に2,500万円までの金額については贈与税がかからず、それを超えた部分にも一律20%の税率が適用されます。そして、その後贈与者が亡くなったときに、過去の贈与分をすべてまとめて「相続財産」として扱い、最終的に相続税として精算します。 つまり、この制度は「贈与税を一時的に軽くし、あとで相続税の段階でまとめて精算する」という仕組みになっています。将来の相続を見据えて早めに資産を移転したい場合や、大きな金額を一括で贈与したい場合に活用されることが多いです。 ただし、一度この制度を選ぶと、同じ贈与者からの贈与については暦年課税(通常の贈与税制度)には戻せないという制限があるため、利用には慎重な判断が必要です。資産運用や相続対策を計画するうえで、制度の特徴とリスクをよく理解しておくことが大切です。
直系卑属
直系卑属とは、自分から見て「直接下の世代」にあたる血縁関係のある人を指します。たとえば、自分の子どもや孫、ひ孫などがこれに該当します。逆に、甥や姪、いとこなどは直系ではないため、直系卑属には含まれません。 法律や相続の分野では、直系卑属がいるかどうかによって、相続の順位や税金の取り扱いが大きく変わります。たとえば、贈与税には「直系卑属への贈与」であれば、特例として税率が軽減されたり、非課税枠が広がったりする制度があります。また、遺言書を作成する際にも、直系卑属への配慮が重要視されることが多く、財産の引き継ぎにおける中心的な存在です。資産運用や相続対策を行ううえでは、この「直系卑属」という概念を正しく理解しておくことが非常に重要です。
直系尊属
直系尊属とは、自分から見て「直接上の世代」にあたる血縁関係のある人を指します。具体的には、父母、祖父母、曽祖父母などがこれに該当します。たとえば、自分の親や祖父母はすべて直系尊属ですが、叔父や伯父、兄姉などは含まれません。 法律や相続の分野では、この「直系尊属」という関係性が非常に重要です。たとえば、相続税の計算や贈与税の特例などで、直系尊属からの贈与であれば税金が軽くなる制度が用意されていることがあります。また、法定相続の順位や扶養義務などでも、直系尊属であるかどうかが判断の基準になることがあります。資産運用や相続対策を考えるうえで、家族の中の関係性を正確に理解することが大切であり、その基本となるのがこの直系尊属という考え方です。
相続権
相続権とは、亡くなった人(被相続人)の財産を、法律に定められた権利として受け継ぐことができる資格を指します。通常は配偶者や子ども、父母、兄弟姉妹などが相続人となり、その範囲や優先順位は民法で定められています。相続権を持つ人は「法定相続人」と呼ばれ、財産を法的に引き継ぐことができます。 また、遺言がある場合には、遺言によって指名された人(遺贈を受ける人)にも一定の財産を受け取る権利が生じることがあります。ただし、相続には権利だけでなく義務(借金などの負債の承継)も含まれるため、相続放棄や限定承認といった選択も可能です。資産運用や相続設計の場面では、誰に相続権があるかを明確にすることが、円滑な財産承継のために非常に重要です。
相続放棄
相続放棄とは、亡くなった人の財産を一切受け取らないという意思を家庭裁判所に申し立てて、正式に相続人の立場を放棄する手続きのことです。相続には、プラスの財産(預貯金や不動産など)だけでなく、マイナスの財産(借金や未払い金など)も含まれるため、全体を見て相続すると損になると判断した場合に選ばれることがあります。 相続放棄をすると、その人は最初から相続人でなかったものとみなされるため、借金の返済義務も一切負わなくて済みます。ただし、相続があったことを知ってから3か月以内に家庭裁判所に申し立てる必要があり、その期限を過ぎると原則として相続を受け入れたとみなされてしまいます。したがって、放棄を検討する場合は早めの判断と手続きが重要です。
公正証書遺言
公正証書遺言とは、公証人が本人の意思に基づいて作成する遺言書で、遺言の中でも最も法的な信頼性と実効性が高い形式とされています。作成にあたっては、公証役場にて遺言者が口頭で内容を伝え、それを公証人が文書にまとめ、証人2名の立会いのもとで公正証書として正式に成立します。 この方式の最大の特徴は、家庭裁判所による検認手続きが不要である点です。つまり、相続開始後すぐに法的に効力を持つため、遺族による手続きがスムーズに進むという実務上の大きな利点があります。また、公証人による作成と原本保管によって、遺言の紛失や改ざん、内容不備といったリスクも大幅に軽減されます。 一方で、公正証書遺言の作成には一定の準備が必要です。財産の内容を証明する資料(不動産登記簿謄本や預金通帳の写しなど)や、相続人・受遺者の戸籍情報などが求められます。また、証人2名の同席も必須であり、これには利害関係のない成人が必要とされます。公証役場で証人を紹介してもらえるケースもありますが、費用が別途発生することもあります。 費用面では、遺言に記載する財産の価額に応じた公証人手数料がかかりますが、将来のトラブル回避や手続きの簡素化といったメリットを考えれば、特に財産規模が大きい場合や、遺産分割に不安がある家庭では非常に有効な手段と言えるでしょう。 資産運用や相続対策において、公正証書遺言は重要な役割を果たします。特定の資産を特定の人に確実に引き継がせたい場合や、相続人間の争いを未然に防ぎたい場合には、公正証書遺言を活用することで、遺言者の意思を明確かつ安全に残すことができます。
暦年課税
暦年課税とは、1月1日から12月31日までの1年間に贈与された金額に対して課税される仕組みのことをいいます。特に贈与税の計算方法として使われており、年間の贈与額が基礎控除額である110万円を超えた部分について課税されます。たとえば、1年間に親から子へ150万円を贈与した場合、110万円を差し引いた40万円に対して贈与税がかかるというわけです。 この制度は毎年リセットされるため、長期的に少しずつ財産を移す「生前贈与」の手段として活用されることが多いです。ただし、相続税との関係で、亡くなる前の一定期間内の贈与については相続財産に加算される「10年ルール」があるため、計画的な利用が大切です。初心者の方にとっては、贈与に関する基本的な課税制度として、まず最初に押さえておくべき考え方です。
法定相続分
法定相続分とは、相続人が相続できる取り分について、民法であらかじめ定められている割合のことをいいます。 たとえば、被相続人に配偶者と子どもがいる場合、配偶者が2分の1、残りの2分の1を子どもたちが均等に分けるというように、法定相続分が設定されています。 相続人の組み合わせによって割合は異なり、たとえば「配偶者と親」が相続人の場合は、配偶者が3分の2、親が3分の1、「配偶者と兄弟姉妹」の場合は、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1というように決まっています。 遺言書がある場合は、その内容が優先されますが、遺言がない場合や、遺産分割協議の目安として法定相続分が使われることが一般的です。 この割合はあくまで「基準」であり、相続人間の話し合いで異なる分け方をすることも可能です。
熟慮期間
熟慮期間とは、相続人が相続を「する」「しない」を決めるために与えられている法的な猶予期間のことです。具体的には、相続が開始されたことを知った日から3か月以内に、相続するかどうかを決めて家庭裁判所に申し出る必要があります。 この3か月の間に、亡くなった方の財産や借金の状況を確認し、自分にとって相続が得か損かを見極めることが求められます。もし期間内に何も手続きをしなければ、法律上は「相続する」と判断され、自動的にすべての財産と負債を引き継ぐことになります。資産運用の観点からは、負の遺産を回避するための重要な判断期間であり、財産の内容を冷静に分析する時間でもあります。
単純承認
単純承認とは、相続が発生した際に、被相続人(亡くなった方)の財産をそのまま全て受け継ぐと決める手続きのことをいいます。この場合、預貯金や不動産といったプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産もすべて引き継ぐことになります。単純承認は特別な手続きをしなくても、相続人が財産を使ったり処分したりすると自動的に成立することが多いため、慎重な判断が必要です。 たとえば、被相続人に多額の借金があった場合、それも自分が返済する責任を負うことになりますので、相続を受ける前には、財産の内容をよく調べることが大切です。
限定承認
限定承認とは、相続人が引き継ぐ財産について、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産(借金など)を支払うことを条件に、相続を受ける方法のことです。つまり、相続によって得られる資産が借金を上回っている場合にはその差額を受け取ることができますが、もし借金が多くても、自分の財産を使ってまで返済する必要はありません。 この方法を使えば、相続することで損をするリスクを減らすことができます。ただし、限定承認を行うには、相続の開始を知ってから原則として3か月以内に、他の相続人全員と一緒に家庭裁判所に申立てをする必要があるため、手続きがやや複雑です。
遺言執行者
遺言執行者とは、遺言書に記された内容を実際に実行するために選任される人物で、相続財産の名義変更や不動産の登記、銀行預金の払戻し、相続人への遺産分配などを法的権限をもって行います。遺言書であらかじめ指名しておくことができ、相続開始後は家庭裁判所の選任状を受けて職務を開始します。 遺言執行者がいると、相続人全員の同意を都度取り付ける手間が省け、紛争を避けながら遺言の内容を迅速かつ確実に履行できるメリットがあります。一方、職務に必要な費用や報酬は相続財産から支払われるため、事前に相続人へ説明しておくことが望ましいです。
自筆証書遺言
自筆証書遺言とは、遺言者ご本人が遺言書の全文・日付・氏名を自筆し、押印することで成立する最も手軽な遺言方式です。公証役場に出向く必要がないため費用を抑えられる一方、書式の不備や保存中の紛失・偽造リスクがあるほか、相続開始後には家庭裁判所で検認を受けなければ法的効力が発揮されない点に注意が必要です。近年は法務局での自筆証書遺言の保管制度も始まり、保管と検認手続きが簡素化されるなど利用しやすさが向上していますが、内容の法的妥当性を確保するためには、作成前に専門家へ相談することをおすすめいたします。
遺留分侵害額請求
遺留分侵害額請求とは、相続人の最低限の取り分である「遺留分(いりゅうぶん)」を侵害された場合に、その不足分に相当する金銭の支払いを求める手続きのことを指します。たとえば、遺言によって特定の相続人だけに多くの財産が渡され、他の相続人が本来もらえるはずの遺留分を受け取れなかったときに、侵害された相続人が他の相続人や受遺者に対してその差額を金銭で請求することができます。 この制度は、相続人間の不公平を防ぎ、一定の相続権を保護するために設けられています。2019年の民法改正により、かつては「遺留分減殺請求」として行われていたものが、現在は金銭による支払いを求める「遺留分侵害額請求」となりました。資産運用や相続の場面では、遺言によって財産の分け方を自由に決める一方で、遺留分という法律上の制約を理解し、トラブルを防ぐための知識として非常に重要です。
特別受益
特別受益とは、相続人のうちの誰かが、生前に被相続人(亡くなった人)から特別に多くの財産や援助を受けていた場合に、その分を相続の際に考慮して公平に分けるという考え方です。たとえば、住宅購入のための多額な資金援助や、結婚時の持参金、学費の負担などがこれにあたります。 これは「すでに相続の一部をもらっていた」とみなすもので、相続財産を平等に分けるために、他の相続人とのバランスを取る目的があります。特別受益がある場合、その金額は相続財産に加えて計算され、そこから改めて相続分が決められます。
寄与分
寄与分とは、亡くなった方(被相続人)の財産を増やすことに特別な貢献をした相続人が、その貢献に応じて他の相続人よりも多くの財産を受け取ることができる制度です。たとえば、長年にわたり家業を手伝っていた子どもや、介護を通じて費用負担を減らした家族などが該当することがあります。 この制度は、全員で平等に財産を分けるだけでは不公平になる場合に、そのバランスを取るために設けられています。ただし、寄与分が認められるには、他の相続人との協議や家庭裁判所での判断が必要になることもあります。
遺産分割協議
遺産分割協議とは、相続人が複数いる場合に、誰がどの財産をどのように受け取るかを話し合って決める手続きのことです。預貯金や不動産、有価証券などすべての遺産が対象になります。原則として相続人全員の合意が必要で、話し合いの結果を「遺産分割協議書」という文書にまとめて、全員が署名・押印します。遺言書がない場合や、遺言があっても一部の財産について分け方が指定されていないときに行われます。もし話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所での調停手続きに進むことになります。
遺産分割
遺産分割とは、亡くなった方が残した財産を、相続人たちがどのように分け合うかを決める手続きのことです。遺言書がある場合は、その内容に従って分けるのが基本ですが、遺言がない場合や一部しか書かれていない場合には、相続人全員で話し合って分け方を決める必要があります。分割の対象には、現金や不動産だけでなく、株式や投資信託などの金融資産も含まれます。 話し合いがまとまらないときは、家庭裁判所に調停を申し立てることもあります。遺産分割は、相続税の申告や資産の名義変更にも影響するため、早めの準備と手続きが大切です。
遺産分割調停
遺産分割調停とは、相続人同士で遺産の分け方について話し合いがまとまらないときに、家庭裁判所に申し立てて、裁判所を通じて解決を図る手続きのことです。相続財産が不動産や株式、預貯金など多岐にわたる場合、誰がどれだけ相続するのかでもめることがあります。 そのようなとき、当事者だけで解決できない場合に、この調停を利用することで、中立な第三者である調停委員が間に入り、円満な解決を目指すことができます。調停はあくまで話し合いによる解決を前提としており、合意に至ればその内容に基づいて遺産を分割することになります。 資産運用の観点からは、相続財産の整理や名義変更、運用方針の見直しが必要となるため、遺産分割調停は相続後の資産管理にも大きな影響を与える重要な手続きです。
特別縁故者
特別縁故者とは、亡くなった人に法定相続人がいない場合に、その人と特に深いつながりがあったとして、家庭裁判所の判断によって遺産を受け取ることができる人を指します。たとえば、長年一緒に生活していた内縁の配偶者や、介護や看病をしていた知人などが該当することがあります。遺産は通常、相続人がいない場合には国庫に帰属しますが、この制度を利用すれば、亡くなった人に貢献してきた人がその恩恵を受けることが可能になります。ただし、特別縁故者として認められるには、裁判所への申し立てや証明が必要であり、認められるかどうかは状況によって異なります。資産運用や終活の観点からは、遺言書を残しておくことで確実に希望する人に財産を渡すことができ、トラブルを未然に防ぐことができます。
相続土地国庫帰属制度
相続土地国庫帰属制度とは、相続や遺贈で取得した土地を、一定の条件のもとで国に引き渡すことができる制度です。2023年4月27日に施行され、所有者不明土地や管理放棄された土地の増加といった社会問題に対応するために導入されました。相続した土地が「使い道がない」「管理や税金の負担が重い」といった理由で手放したい場合に、この制度を利用することで国に土地を引き取ってもらうことが可能になります。 この制度を利用できるのは、相続や遺贈によって土地を取得した人(相続人・受遺者)です。売買や贈与などの契約によって取得した人は対象外です。申請対象となる土地には厳格な条件が設けられており、たとえば、境界が明確であること、建物や残置物が存在しないこと、地中に汚染物質や埋設物がないこと、第三者の権利(賃借権・地上権・抵当権など)が設定されていないことなどが必要です。要するに、国がそのまま保有しても管理上問題が生じない土地である必要があります。 制度の利用には手続きが必要で、まず申請者は土地の所在する法務局に必要書類を提出し、書面や現地調査を経て、法務大臣の承認を得る必要があります。申請には1筆あたり14,000円の審査手数料がかかり、さらに承認された場合には土地の種類に応じて「負担金(管理費相当額)」を支払います。宅地であれば原則1㎡あたり20円、ただし20万円が最低金額とされており、山林などでは1㎡あたり4円と軽く設定されています。 一方で、制度にはいくつかの注意点もあります。まず、要件を満たすためには、建物の解体や境界確定測量、担保権の抹消登記など事前の整備が必要となることが多く、手続きや費用がかさむことがあります。また、申請してもすべての土地が承認されるわけではなく、不承認となるケースも少なくありません。たとえば、アスベストの埋設が疑われる土地や、越境物のある土地、地元と境界紛争がある土地などは却下される可能性が高いです。 制度の利用件数は開始から徐々に増えており、2025年6月末時点では累計で4,000件を超える申請がありましたが、そのうち帰属が承認されたのは約1,700件程度です。申請後に取り下げられるケースや、不承認とされるケースも一定数存在しており、制度の運用実態は「使える土地は限られるが、条件を満たせば現実的な選択肢」といった評価が一般的です。 最後に、この制度は2024年4月から義務化された相続登記制度とも密接に関係しています。相続人が相続登記をせずに土地を放置すると10万円以下の過料が科される可能性があり、相続人にとっては「登記して持ち続けるか」「国に引き渡して負担を解消するか」の選択が求められる時代になりました。また、空き家対策の強化などとも相まって、本制度の重要性は今後さらに高まっていくと見られています。土地の処分や相続に悩む場合は、早めに法務局への相談や専門家との協議を行うことが望ましいでしょう。