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単純承認とは?リスクと注意点、限定承認・相続放棄との違いを整理

単純承認とは?リスクと注意点、限定承認・相続放棄との違いを整理

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公開:

2025.09.09

更新:

2025.09.09

相続

相続が発生したとき、一般的に選ばれる方法が「単純承認」です。単純承認とは、被相続人の相続財産をすべて相続する方法です。

しかし、単純承認はプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も無制限に引き継ぐため、思わぬ負担を抱えるリスクがあります。特に、相続開始から3か月以内に相続放棄や限定承認を選ばなければ自動的に単純承認となる点は、見落とされやすい重要事項です。

本記事では、単純承認の仕組みやメリットとデメリット、注意すべきケースを具体例やシミュレーションを交えて解説します。

サクッとわかる!簡単要約

この記事を読むことで、単純承認とは何か、どんな場合に適切かを明確に理解できます。例えば「相続財産1000万円・債務500万円」のケースではプラスが確実に残りますが、負債が上回る場合は、負担を抱えるリスクがあります。こうした具体的な数値例を踏まえながら、単純承認が自動的に成立する条件や避けるべき危険パターンも整理。本記事を通じて、相続の判断を誤らず安心して対応できる視点が得られます。

目次

単純承認の基本概要

単純承認の定義

相続における位置づけ

プラス財産とマイナス財産

相続の3つの方法の比較

単純承認の特徴

限定承認との違い

相続放棄との違い

選択すべきケースの判断基準

単純承認の手続きと期限

手続きが不要な理由

3ヶ月の熟慮期間

財産の調査方法

単純承認すべきかのケース別シミュレーション

相続財産1000万円・債務500万円のケース

相続財産500万円・債務800万円のケース

単純承認とみなされるケース

法定単純承認の概要

相続財産の全部または一部を処分したとき

熟慮期間内に限定承認または相続放棄をしなかったとき

背信的行為を行ったとき

単純承認を避けるべき危険パターン

事業承継がからむ争族

不動産投資家の相続

空き家のリスク

単純承認のメリット

手続きが簡便

遺産分割がスムーズ

単純承認のデメリット

債務承継のリスク

取消しが困難

単純承認の基本概要

単純承認とは、被相続人(亡くなった人)の一切の相続財産を、無制限・無条件にすべて相続することです。民法920条の条文では、単純承認の効力について「相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する」と定められています。

つまり単純承認を選択すると、プラスの財産もマイナスの財産も、すべてをそのまま引き継ぐということになります。

単純承認の定義

単純承認とは、相続人が被相続人の権利義務を承継することを無限定に承認することです。これは相続における最も基本的な方法で、相続人が被相続人の地位をそのまま受け継ぐことを意味します。

「無限定に承認する」とは、相続財産の範囲や金額に制限を設けることなく、すべてを引き継ぐということです。そのため、もし被相続人に多額の借金があった場合でも、相続人はその債務を全額返済する義務を負わなければなりません。

相続における位置づけ

相続が開始されると、被相続人(亡くなった人)と一定の関係にあった親族は「相続人」となります。相続人は、被相続人が遺した財産(遺産)にかかわる権利義務を、相続によって引き継ぐこととなります。

単純承認は、相続人が何も手続きをしなかった場合に自動的に選択される方法です。熟慮期間内に相続人が相続財産の調査を行った上で、単純承認・限定承認・相続放棄のいずれかを選択しなくてはなりません。

プラス財産とマイナス財産

相続財産には、プラスの財産とマイナスの財産が含まれます。

区分代表的な内容
プラスの財産・現金・預貯金
・不動産(土地・建物)
・株式・有価証券
・生命保険金(※相続人が受取人でない場合)
・車両・貴金属・美術品など
マイナスの財産・住宅ローン・事業資金の借入
・クレジットカードの未払い金
・連帯保証債務
・未払いの税金
・医療費などの未払い債務

被相続人に借金などのマイナスの財産が残っていれば、その債務の弁済義務も相続によって引き継がれます。単純承認では、これらすべてを無条件で引き継ぐことになるため、事前の財産調査が重要です。

生命保険を活用した相続税対策は、こちらの記事で詳しく解説しています。

相続の3つの方法の比較

相続が発生すると、相続人は被相続人の財産をどのように引き継ぐかについて、法律で定められた3つの方法から選択できます。それぞれの方法には特徴があり、被相続人の財産状況や相続人の意向によって最適な選択が異なります。

単純承認の特徴

単純承認とは、被続人の財産にかかわる権利と義務を、そのまますべて引き継ぐ方法です。

単純承認を選択するにあたり、特別な手続きは必要ありませんが、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も、すべて無制限に引き継ぐことになります。つまり、借金が多額であっても、相続人の固有財産から返済する義務を負います。

単純承認を選択すべきケースは、マイナスの財産よりもプラスの財産が多い場合です。

限定承認との違い

限定承認とは、相続で得た預金などのプラス財産の中から、被相続人の借金などのマイナスの財産を弁済し、残ったプラス財産があればこれを引き継ぐ方法です。

限定承認の大きな特徴は、相続したプラスの財産の範囲内でのみ債務を負担すればよい点です。限定承認とは、あなたが故人のプラスの財産の範囲内でマイナスの財産を相続することです。

例えば、相続財産が500万円、借金が800万円の場合、単純承認なら800万円すべてを返済する義務がありますが、限定承認なら500万円分のみを返済すればよく、300万円分の資産を相続できます。

限定承認は共同相続人全員で限定承認をしなければならず、相続人の中に1人でも反対する人がいる場合は、限定承認は利用できません。

限定承認に関しては、こちらの記事で具体的なメリットやデメリットなどを解説しています。あわせてご覧ください。

相続放棄との違い

相続放棄とは、プラスの財産もマイナスの財産も含め、一切の財産を引き継がない方法です。

相続放棄を選択すると、相続人は最初から相続人でなかったものとして扱われます。そのため、借金を引き継ぐリスクはありませんが、価値のある財産があってもそれを受け取ることはできません。

なお、相続放棄は、相続人が個別に選択できます。

相続放棄に関しては、こちらの記事で解説しています。あわせてご覧ください。

選択すべきケースの判断基準

相続方法の選択は、主に以下の基準で判断することができます。

相続方法選ぶべきケース
単純承認・プラスの財産がマイナスの財産を明らかに上回っている
・相続財産の全体像が把握できておりリスクが低い
・特別な手続きを避けたい
限定承認・プラスの財産よりマイナスの財産が大きいが、どうしても手放したくない財産(自宅や事業用資産など)がある
・相続財産の全体像が不明で、債務が多い可能性がある
・事業を引き継ぎたいが、借金の状況が心配
相続放棄・プラスの財産よりもマイナスの財産が多い「債務超過」の場合
・被相続人と疎遠で財産状況がまったく分からない
・相続に関わりたくない場合

「マイナスの財産がある=相続放棄」という安易な判断は禁物です。「プラスマイナスの財産を正確に把握すること」「相続人同士で話し合うこと」が重要です。慎重な財産調査と相続人間での十分な協議が、適切な選択につながります。

単純承認・限定承認・相続放棄の違いに関しては、以下のQ&Aでも解説しています。あわせて参考にしてみてください。

単純承認の手続きと期限

単純承認は相続の基本的な方法であり、他の相続方法と比べてシンプルです。しかし、手続きが不要だからこそ、その期限や自動的に単純承認となる仕組みについて正しく理解しておくことが重要です。

手続きが不要な理由

単純承認する場合には、手続きは特に必要ありません。

手続きが不要の理由は、単純承認が相続の原則的な方法だからです。単純承認は、限定承認や相続放棄と異なり、その意思表示の方法については民法上何ら規定がありません。

したがって、相続人が単純承認をする旨の意思表示を表示すれば、これにより、単純承認の効果は発生するとされています。

つまり、相続人が積極的に何かの意思表示をしなくても、自動的に単純承認が選択されるように法律が設計されているのです。これにより、相続手続きが滞ることなく進められます。

3ヶ月の熟慮期間

単純承認の期限は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内と定められています(民法第915条)。この3ヶ月間を、よく考えてどうするか決める期間という意味で、「熟慮期間(じゅくりょきかん)」と呼びます。

民法915条の「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、原則として、次の2つの事実を知った時と解されています。

  • ①相続開始の原因である被相続人が死亡した事実
  • ②自分が法定相続人となった事実

相続人には十分な検討時間を与える一方で、債権者や他の利害関係者への影響も考慮した合理的な期間設定となっています。

相続方法を選択する期限である3か月を過ぎてしまうと、自動的に単純承認とみなされます。この期限を過ぎてしまうと、後から借金が判明しても、原則として相続放棄や限定承認を選択することはできません。

期間延長の申請方法

熟慮期間は、家庭裁判所に3カ月以内に申請することにより延長できます。

期間延長が認められる条件について、伸長の審判は「3か月の期間だけでは、相続の承認や放棄の判断をするための相続財産の調査ができない」という場合に下されます。

具体的には、以下のようなケースです。

  • 相続財産の構成が複雑
  • 所在地、相続人の所在が不明
  • 財産の存在が不明

熟慮期間伸長の申立ては熟慮期間内にしなければならず、期間経過後の申立ては許されません。つまり、3ヶ月が経過してしまってからでは延長申請はできないため、早めの判断が必要です。

熟慮期間の伸長の申立ては、相続人がそれぞれ行う必要があります。1人の相続人が熟慮期間の伸長の申立てを行っても、他の相続人の熟慮期間には反映されません。

相続人全員が熟慮期間の伸長を行いたい場合は必ず全員が申立てを行う必要があるため注意が必要です。

複雑な相続財産がある場合や、被相続人の債務状況が不明確な場合には、早めに専門家に相談し、必要に応じて期間延長の申立てを検討することが大切です。

財産の調査方法

相続が発生した際、プラス財産とマイナス財産を調査する必要があります。相続人自身が書類や郵便物を確認し、必要に応じて専門家へ依頼する方法が一般的です。

区分調査対象調査方法・確認資料
プラス財産預貯金通帳・キャッシュカード・郵便物(残高通知など)を確認。金融機関に残高証明を請求
不動産固定資産税納税通知書・不動産登記簿謄本を確認。役所で名寄帳を取得
有価証券証券会社の通知・取引報告書を確認。不明な場合は証券保管振替機構(ほふり)に情報開示請求
その他自動車・貴金属・ゴルフ会員権などを家や書類から調査
マイナス財産借金・ローン借用書・借入残高表・督促状などの郵送物を確認
税金滞納等税金未納通知や自治体からの郵便物をチェック
信用情報機関借入先や金額が不明な場合、全国銀行個人信用情報センター・JICC・CICに照会

相続財産の調査は、まず被相続人宛の書類や郵送物の整理から始めましょう。分からない場合は信用情報機関や各種窓口に問い合わせ、不明点は専門家の力を借りることをおすすめします。

単純承認すべきかのケース別シミュレーション

実際の数値を使って、具体的なシミュレーションを行います。これらの例を参考に、ご自身の状況に当てはめて考えてみてください。

相続財産1000万円・債務500万円のケース

項目内容
前提条件現金・預金:300万円
不動産(自宅):700万円(固定資産税評価額)
住宅ローン:500万円
単純承認の場合の試算正味財産:1000万円-500万円=500万円
手取り額:約500万円

債務よりも資産が多く、相続税も発生しないため、単純承認により確実にプラスの財産を取得できます。

相続財産500万円・債務800万円のケース

項目内容
前提条件現金・預金:200万円
不動産(自宅):300万円
事業資金借入:600万円
クレジットカード債務:200万円
単純承認の場合の試算正味財産:500万円-800万円=-300万円
相続人の負担額:300万円(マイナス財産を引き継ぐため)

債務が資産を上回るため、単純承認すると相続人が300万円の債務を負担することになります。自宅不動産を絶対に手元に残したい理由がなければ、相続放棄を検討するとよいでしょう。

単純承認とみなされるケース

相続において最も注意すべきなのは、相続人の意思に関係なく自動的に単純承認したとみなされてしまうケースです。これを「法定単純承認」と呼び、一度該当してしまうと、その後は相続放棄や限定承認を選択することができなくなります。

法定単純承認の概要

法定単純承認とは、相続人による単純承認の意思表示が無い場合であっても、一定の事由が生じた場合、単純承認の意思表示が為されたものとみなすことをいいます。

この制度が設けられている理由は、相続人の行為から客観的に単純承認の意思があったと推定される場合や、相続債権者などの利害関係者を保護するためです。

「法定単純承認」にあたるとされたら、その後、「限定承認」や「相続放棄」が出来なくなります。この効果は取り消すことができないため、相続人は慎重な行動が求められます。

法定単純承認が成立する条件は、民法921条に以下の3つのケースが定められています。

  1. 相続財産の全部または一部を処分したとき
  2. 熟慮期間内に限定承認または相続放棄をしなかったとき
  3. 背信的行為を行ったとき

相続財産の全部または一部を処分したとき

故人の財産を処分することは、故人の財産を自分のものとして扱っていることになり、自分の財産であるという意思表示があったものとみなされます。

処分行為とは、相続財産の現状や性質を変更する行為のことをいいます。法律上の処分だけでなく、事実上の処分行為も含まれます。

処分に該当する行為の具体例

以下のような行為は、相続財産の処分として法定単純承認事由に該当します。

  • 相続開始後、相続放棄の申述及びその受理前に、相続人が被相続人の有していた債権を取立てて、これを収受領得する行為
  • 被相続人名義の預金口座から現金を引き出し、私的に使用する行為
  • 株式を売却する行為
  • 相続不動産を売却する行為
  • 相続人が被相続人の有していた株式の議決権を行使する行為
  • 賃料の振込先を自己名義の口座へ変更する行為
  • 一定の経済的価値を有する物品の処分
  • 自動車などの名義変更や売却

処分に該当しない行為の具体例

一方で、以下のような行為は処分に該当せず、法定単純承認事由とはなりません。

  • 相続財産の現状を維持するための修繕
  • 短期賃貸借契約の締結
  • 相続債務の弁済(ただし保存行為の範囲内)
  • 遺産から葬式費用を支払う行為
  • 相続債務を、相続人が自分の保険の解約返戻金を使って支払った場合

熟慮期間内に限定承認または相続放棄をしなかったとき

相続の開始を知ったときから3ヶ月という熟慮期間を経過してしまうと、「限定承認」や「相続放棄」はできなくなります。

被相続人に相続財産が全くないと信じていた場合で、その信念に相当な理由がある場合は、相続財産の存在を知った時から熟慮期間が開始することもあります。

背信的行為を行ったとき

たとえ「相続放棄」や「限定承認」をした後であっても、相続人が故意に相続財産の隠匿や消費や財産目録への不記載など、背信行為を行ったときには法定単純承認とみなされます。

なお、背信的行為の具体例は以下のとおりです。

  • 相続財産の全部または一部を隠匿する行為
  • 相続財産を私的に消費する行為
  • 悪意で相続財産を財産目録に記載しない行為

これらの法定単純承認事由を理解し、適切に対応することが、希望する相続方法を選択するための重要なポイントです。

単純承認を避けるべき危険パターン

事業承継や不動産投資に関わる相続では、表面的には資産が多く見えても、実際には巨額の隠れた債務を抱えている可能性があります。

これらのパターンに該当する場合は、安易に単純承認を選択せず、限定承認や相続放棄を慎重に検討することをおすすめします。

事業承継がからむ争族

事業を営んでいた被相続人の相続では、一般的な相続とは異なる複雑なリスクが存在します。事業用資産は帳簿上は価値があるように見えても、実際の換金価値は大幅に低い場合が多く、一方で事業債務は確実に承継される点に注意が必要です。

債務リスク

  1. 売掛金の回収不能リスク(取引先の倒産、経営悪化)
  2. 金融機関からの借入に対する連帯保証債務
  3. 取引先との契約に対する個人保証
  4. 役員借入金の返済義務
  5. 設備投資ローンの残債(リース契約を含む)
  6. 未払いの買掛金、外注費、人件費

事業を承継する場合、帳簿に載っていない借入金や保証債務、未払い税金が後から発覚することがあります。被相続人が事業の借入の連帯保証人だった場合、相続人がその立場を引き継ぐ点に注意が必要です。

単純承認ではこれらもすべて引き継ぐため、事前の財務調査(デューデリジェンス)が必須です。

不動産投資家の相続

不動産投資を行っていた被相続人の相続では、表面的な資産価値と実際の収益性・換金性との間に大きなギャップが存在することが多く、特に注意が必要です。

債務リスク

  1. 金利上昇による返済負担の増加
  2. 空室率上昇による賃料収入の減少
  3. 建物の老朽化による修繕費の増加
  4. 周辺環境の変化による資産価値の下落
  5. 人口減少による賃貸需要の減少
  6. 新築物件の供給過多による競争激化
  7. 入居者の高齢化による家賃滞納リスク
  8. 外国人技能実習生の減少による需要変化

不動産投資はローンを組んでいることが多いため、プラス資産(物件価値)とマイナス資産(ローン残債)のバランス確認が不可欠です。

また、物件取得後に家賃収入が途絶えても、固定資産税・修繕費・管理費などの支出は続きます。単純承認するとこれらランニングコストも相続人が負担しなければならないため、資産価値の判断は重要です。

空き家のリスク

地方の不動産を相続する場合、空き家問題と密接に関わるリスクがあります。

空き家の維持コスト

  1. 固定資産税・都市計画税の継続的な負担
  2. 建物の維持管理費(電気・水道の基本料金、保険料等)
  3. 庭木の剪定、草刈り等の管理費用
  4. 近隣への迷惑防止のための定期的な確認・清掃

空き家を放置すると、近隣トラブル(倒壊リスク、草木の越境など)や行政からの「特定空き家」指定を受ける可能性があります。また、解体費用や譲渡時の税金負担がかかるため、「資産ではなく負債」になりかねません。

「負動産」とも呼ばれることがあり、単純承認すると管理義務を負うことになる点に注意が必要です。

相続の相談相手探しで悩んでいる方は、こちらの記事も参考にしてみてください。

単純承認のメリット

これまでに解説した内容を踏まえて、単純承認のメリットを解説します。

手続きが簡便

結論:単純承認は特別の申述が不要なため、手間がかかりません。理由として、限定承認や相続放棄のように家庭裁判所へ申述する決まりがないためです。

何も手続をしないまま3か月が過ぎると、法律上は単純承認と扱われます。

遺産分割がスムーズ

単純承認は、名義変更や払戻しを進めやすくなります。承継主体が明確になり、相続財産の管理処分が円滑になるためです。

預金払戻しや不動産登記移転の実務が進み、相続手続の長期化を避けやすい点はメリットといえます。

単純承認のデメリット

最後に、単純承認のデメリットを解説します。メリットとデメリットを踏まえたうえで、適切な判断をしましょう。

債務承継のリスク

借金や保証、未納の税金などマイナスも制限なく引き継ぎます。思わぬ相続の一般的効力として、一切の権利義務を承継するからです。

財産調査が甘いと、思わぬ債務を承継するリスクがあるため、特に注意しなければなりません。

被相続人が連帯保証人だった場合やクレジットカードの未払い、固定資産税等の未納が見つかると、相続人が負担しなければなりません。

取消しが困難

法律関係の安定を守るため撤回を禁じる規定があるため、いったん単純承認すると後で撤回できません。

単純承認後に「やっぱり相続放棄や限定承認へ切り替えたい」と考えても、原則としてできません。意図せず債務を承継し、人生設計に悪影響が出てしまう可能性がある点には注意が必要です。

この記事のまとめ

単純承認は手続き不要で遺産分割がスムーズに進む反面、借金や未納税金などもすべて相続します。リスクが伴う相続方法であるため、慎重な遺産調査は欠かせません。

相続開始から3か月の熟慮期間を過ぎると自動的に承認とみなされ、取り消しは困難になります。相続財産の全体像を正確に把握し、資産と債務のバランスを慎重に判断することが重要です。

不動産や事業承継が絡む場合には隠れた債務が潜む可能性もあるため、専門家へ相談することで適切な選択と安心につながります。

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柴田充輝

金融系ライター

厚生労働省や保険業界・不動産業界での勤務を通じて、社会保険や保険、不動産投資の実務を担当。FP1級と社会保険労務士資格を活かして、多くの家庭の家計見直しや資産運用に関するアドバイスを行っている。金融メディアを中心に、これまで1,000記事以上の執筆実績あり。

厚生労働省や保険業界・不動産業界での勤務を通じて、社会保険や保険、不動産投資の実務を担当。FP1級と社会保険労務士資格を活かして、多くの家庭の家計見直しや資産運用に関するアドバイスを行っている。金融メディアを中心に、これまで1,000記事以上の執筆実績あり。

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関連する専門用語

単純承認

単純承認とは、相続が発生した際に、被相続人(亡くなった方)の財産をそのまま全て受け継ぐと決める手続きのことをいいます。この場合、預貯金や不動産といったプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産もすべて引き継ぐことになります。単純承認は特別な手続きをしなくても、相続人が財産を使ったり処分したりすると自動的に成立することが多いため、慎重な判断が必要です。 たとえば、被相続人に多額の借金があった場合、それも自分が返済する責任を負うことになりますので、相続を受ける前には、財産の内容をよく調べることが大切です。

相続財産

相続財産とは、被相続人(亡くなった方)が死亡時点で保有していた財産のうち、法律上相続の対象となるものを指します。 具体的には、現金や預貯金、不動産、株式、車、貴金属などのプラスの財産だけでなく、借金やローン、保証債務といったマイナスの財産も含まれます。 相続人は、これらの財産すべてを一括して引き継ぐ「単純承認」だけでなく、財産の範囲内で債務を引き継ぐ「限定承認」や、相続自体を放棄する「相続放棄」などの選択も可能です。 なお、生命保険金や死亡退職金など、一定の財産は「相続財産」に含まれず、相続税の計算上も特別な扱いになることがあります。 相続財産を正しく把握することは、遺産分割協議や相続税申告を円滑に進めるうえで、最初の重要なステップとなります。

限定承認

限定承認とは、相続人が引き継ぐ財産について、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産(借金など)を支払うことを条件に、相続を受ける方法のことです。つまり、相続によって得られる資産が借金を上回っている場合にはその差額を受け取ることができますが、もし借金が多くても、自分の財産を使ってまで返済する必要はありません。 この方法を使えば、相続することで損をするリスクを減らすことができます。ただし、限定承認を行うには、相続の開始を知ってから原則として3か月以内に、他の相続人全員と一緒に家庭裁判所に申立てをする必要があるため、手続きがやや複雑です。

相続債務

相続債務とは、亡くなった人(被相続人)が生前に負っていた借金や未払い金など、金銭的な負債のことです。相続が発生すると、原則として相続人がその債務を引き継ぐことになります。これは預金や不動産などの財産と同じく、負の財産も相続の対象となるためです。 ただし、相続人には相続放棄や限定承認といった選択肢があり、負債の返済を回避したり、資産の範囲内でのみ返済する方法を取ることもできます。資産運用の観点では、相続債務の存在を事前に把握しておくことが、家計や投資計画への影響を最小限に抑えるために重要です。

熟慮期間

熟慮期間とは、相続人が相続を「する」「しない」を決めるために与えられている法的な猶予期間のことです。具体的には、相続が開始されたことを知った日から3か月以内に、相続するかどうかを決めて家庭裁判所に申し出る必要があります。 この3か月の間に、亡くなった方の財産や借金の状況を確認し、自分にとって相続が得か損かを見極めることが求められます。もし期間内に何も手続きをしなければ、法律上は「相続する」と判断され、自動的にすべての財産と負債を引き継ぐことになります。資産運用の観点からは、負の遺産を回避するための重要な判断期間であり、財産の内容を冷静に分析する時間でもあります。

相続人(法定相続人)

相続人(法定相続人)とは、民法で定められた相続権を持つ人のことを指します。被相続人が亡くなった際に、配偶者や子ども、親、兄弟姉妹などが法律上の順位に従って財産を相続する権利を持ちます。配偶者は常に相続人となり、子がいない場合は直系尊属(親や祖父母)、それもいない場合は兄弟姉妹が相続人になります。相続税の基礎控除額の計算や遺産分割の際に重要な概念であり、相続対策を検討する上で欠かせない要素となります。

デューデリジェンス

デューデリジェンスとは、企業の買収や投資、不動産取引などを行う前に、対象となる資産や企業の実態を詳しく調査・分析する手続きのことです。特にM&A(合併・買収)の場面で使われることが多く、買い手側がリスクを見極め、適正な価格で取引を行うために実施されます。調査の内容は多岐にわたり、財務内容、法的リスク、税務、労務、知的財産、環境リスクなどが含まれます。専門家(弁護士、公認会計士、税理士など)が関与し、客観的な情報に基づいた意思決定を支援します。デューデリジェンスによって得られた情報は、契約条件の調整や、将来のトラブル回避、最終的な投資判断に大きな影響を与えるため、非常に重要な調査工程とされています。

債務超過

債務超過とは、企業や個人の財務状況において「資産よりも負債のほうが多い」状態を指します。つまり、持っているお金や資産をすべて使っても、借金や支払い義務を返済しきれない状況のことです。 企業の場合、貸借対照表(バランスシート)上で純資産がマイナスになっていると債務超過とみなされ、財務的には非常に厳しい状態とされます。このような状態が長く続くと、資金調達が困難になり、最終的には倒産や再建手続きに進む可能性もあります。 ただし、債務超過だからといって直ちに破綻するわけではなく、将来的に収益を上げる見込みがあったり、資本注入や再建策が講じられたりすれば、回復の可能性もあります。投資家にとっては、企業の健全性を見極めるうえで、債務超過かどうかを確認することは非常に重要なポイントとなります。

相続放棄

相続放棄とは、亡くなった人の財産を一切受け取らないという意思を家庭裁判所に申し立てて、正式に相続人の立場を放棄する手続きのことです。相続には、プラスの財産(預貯金や不動産など)だけでなく、マイナスの財産(借金や未払い金など)も含まれるため、全体を見て相続すると損になると判断した場合に選ばれることがあります。 相続放棄をすると、その人は最初から相続人でなかったものとみなされるため、借金の返済義務も一切負わなくて済みます。ただし、相続があったことを知ってから3か月以内に家庭裁判所に申し立てる必要があり、その期限を過ぎると原則として相続を受け入れたとみなされてしまいます。したがって、放棄を検討する場合は早めの判断と手続きが重要です。

遺産分割

遺産分割とは、亡くなった方が残した財産を、相続人たちがどのように分け合うかを決める手続きのことです。遺言書がある場合は、その内容に従って分けるのが基本ですが、遺言がない場合や一部しか書かれていない場合には、相続人全員で話し合って分け方を決める必要があります。分割の対象には、現金や不動産だけでなく、株式や投資信託などの金融資産も含まれます。 話し合いがまとまらないときは、家庭裁判所に調停を申し立てることもあります。遺産分割は、相続税の申告や資産の名義変更にも影響するため、早めの準備と手続きが大切です。

法定単純承認

法定単純承認とは、相続人が亡くなった人(被相続人)の財産を全て受け継ぐ意思を明示的に示さなくても、自動的に単純承認したと見なされる制度のことです。 たとえば、相続人が被相続人の財産の一部を勝手に使ってしまったり、相続放棄や限定承認をしないまま一定期間(原則として3か月)を過ぎたりすると、この法定単純承認が成立します。この制度が適用されると、プラスの財産だけでなく、借金などマイナスの財産もすべて引き継ぐことになります。 したがって、相続の判断を曖昧にしていると、知らない間に借金まで相続するリスクがあるため、注意が必要です。

背信的行為

背信的行為とは、信頼関係に基づいて任されている立場の人が、その信頼を裏切るような行動をとることを指します。資産運用の場面では、金融機関やファイナンシャル・アドバイザーなどが、投資家の利益ではなく自分や他人の利益を優先して行動する場合に用いられます。 たとえば、本来は顧客にとって最も適した金融商品を勧めるべきなのに、手数料が高い商品を優先して販売するような行為がこれに該当します。こうした行為は、投資家に損害を与えるおそれがあり、金融業界では倫理的にも法的にも問題視されます。信頼に基づく関係性が損なわれるため、投資を安心して行うためにも避けなければならない行為です。

負動産(ふどうさん)

負動産(ふどうさん)とは、本来は資産であるはずの不動産が、実際には所有することで経済的な負担ばかりが生じる物件を指す俗語です。空き家問題や相続トラブルの文脈で広く使われるようになった言葉で、「負の資産」と「不動産」を掛け合わせた造語でもあります。 典型例としては、老朽化して修繕費がかかるのに買い手や借り手がつかない空き家、利用価値が乏しいにもかかわらず固定資産税や維持費だけが発生する山林や農地などが挙げられます。これらは市場での売却が難しいばかりか、解体や処分に費用がかかる場合もあり、資産というより「負担」としての性格が強くなります。 相続により引き継いだ不動産がこうした状態にあると、遺産ではなく「負の遺産」となり、家計に長期的なコストをもたらす可能性があります。資産運用や相続対策を考えるうえでは、保有する不動産が本当に収益を生むのか、維持可能なのかを早い段階で見極めることが重要です。

隠匿(いんとく)

隠匿(いんとく)とは、本来は開示・報告すべき情報や財産などを、意図的に他人から見えないように隠す行為のことをいいます。資産運用の文脈では、例えば税務申告において収入や資産をわざと申告しない行為や、債務整理の際に所有している資産を隠すようなケースが該当します。 さらに相続の場面でも、隠匿は重大な問題となります。たとえば、相続人の一人が被相続人の預金や不動産などの財産を他の相続人に知らせずに自分だけで管理・使用したり、遺産の一部を申告せずに隠したりする行為は、「遺産の隠匿」とされ、法的なトラブルの原因になります。 民法上では、このような隠匿行為を行った相続人に対して、相続分を失わせることができると規定されており、非常に重大な結果を招く可能性があります。相続では、すべての財産を公平かつ正確に把握・分配することが信頼関係の維持に不可欠であり、隠匿はその基本を損なう行為です。

包括承継

包括承継とは、ある人の財産や義務を、全体として一括して受け継ぐことを意味します。相続においては、被相続人が亡くなったときに、その人の持っていた財産、借金、契約上の地位などを相続人が一体的に引き継ぐことが包括承継です。個別に選んで受け取るわけではなく、「プラスの財産」だけでなく「マイナスの財産(借金など)」も含めて引き継ぐのが特徴です。 この仕組みにより、相続人は被相続人の法的地位を引き継ぎ、原則として自動的にその一切の権利義務を継承することになります。ただし、相続放棄や限定承認をすることで、マイナスの財産を引き継がない選択肢もあります。資産承継の計画や相続対策を考えるうえで、包括承継の意味を正しく理解しておくことは非常に重要です。

特定承継

特定承継とは、ある特定の財産や権利だけを個別に引き継ぐことを意味します。包括承継のようにすべてを一括して引き継ぐのではなく、引き継ぐ対象が明確に指定されている点が特徴です。 たとえば、不動産売買や贈与契約によって土地や建物だけを譲り受ける場合や、遺言によって特定の資産(たとえば「○○銀行の預金をAに渡す」)を受け取るときなどが特定承継にあたります。資産運用の視点では、特定承継は柔軟な資産移転が可能である一方、債務などの負担が原則として含まれない点でリスクが抑えられるという利点もあります。 ただし、特定の財産について登記や名義変更などの手続きが必要になることもあるため、実務面での確認が重要です。

不在者財産管理人

不在者財産管理人とは、行方不明などの理由で長期間所在がわからない人(不在者)に代わって、その人の財産を管理・保全するために家庭裁判所によって選ばれる人物のことです。不在者が所有する資産が放置されてしまうと、価値が減少したり他人の権利に影響を与える可能性があるため、適切な管理を行う必要があります。 不在者財産管理人は、裁判所の許可を得ながら、必要に応じて不動産の売却や契約の更新などの重要な手続きを行います。資産運用の文脈では、不在者の財産が意図せず休眠状態になるのを防ぎ、社会的・経済的な混乱を避ける役割を果たします。不在者が戻ってきた場合は、管理していた財産を返還する義務があります。

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