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限定承認とは?相続で借金を引き継がない仕組み・デメリット・手続きの流れをわかりやすく解説

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限定承認とは?相続で借金を引き継がない仕組み・デメリット・手続きの流れをわかりやすく解説

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公開:

2025.09.09

更新:

2026.08.18

相続

相続が発生した際、財産だけでなく借金や保証債務も引き継ぐ可能性があります。特に債務の全体像が分からないまま判断すると、単純承認によって想定外の負担を抱えたり、相続放棄で残したい財産まで手放したりするおそれがあります。この記事では、限定承認の仕組みや相続放棄・単純承認との違い、メリット・デメリット、向いているケース、期限、手続き、費用や税金まで具体的に解説します。

サクッとわかる!簡単要約

この記事を読むことで、限定承認がどのような制度なのか、単純承認や相続放棄と何が違うのかを体系的に理解できます。さらに、相続財産と債務の状況、残したい財産の有無、相続人同士の合意状況などを踏まえ、自分のケースで限定承認を検討すべきか判断し、3か月の期限を意識して必要な調査や手続きに進めるようになります。

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目次

限定承認とは?プラスの財産の範囲内でのみ借金を引き継ぐ相続方法

単純承認・相続放棄との違い

限定承認の利用件数は年間約700件と少ない

限定承認のメリット3つ

①借金がプラスの財産を上回っても自分の財産で返済しなくてよい

②先買権を使えば実家など残したい財産を確保できる

③次順位の相続人に相続権が移らない

限定承認のデメリット・注意点5つ

①相続人全員が共同で申述しなければならない

②手続きが複雑で清算完了まで1年以上かかることもある

③みなし譲渡所得税が課される場合がある

④費用が相続放棄より高くなりやすい

⑤期限は相続の開始を知ってから3か月以内

限定承認が向いているケース・向いていないケース

限定承認の手続きの流れ7ステップ

ステップ1:相続財産・相続人の調査

ステップ2:相続人全員の合意形成

ステップ3:家庭裁判所への申述

ステップ4:申述の受理と相続財産清算人の選任

ステップ5:官報公告と債権者への催告

ステップ6:財産の換価と債務の弁済

ステップ7:残余財産の分配

限定承認にかかる費用の目安

限定承認で失敗しないための3つのポイント

①相続財産に手をつけない(法定単純承認に注意)

②3か月の期限から逆算してスケジュールを組む

③早い段階で専門家に相談する

限定承認を検討する前に確認したい3つのこと

①住宅ローンは団信で完済されていないか

②死亡保険金や遺族年金は限定承認の影響を受けない

③相続税の申告が必要かどうか

限定承認とは?プラスの財産の範囲内でのみ借金を引き継ぐ相続方法

限定承認とは、相続によって得た財産の限度で、被相続人(亡くなった人)の借金などの債務を引き継ぐ相続方法です。民法922条に定められており、家庭裁判所への申述によって行います。「限定」とは、相続人が責任を負う範囲を相続財産に限定するという意味です。

たとえば、被相続人が預金1,000万円と自宅2,000万円を残す一方、借金が3,500万円あった場合を考えます。限定承認を選べば、プラスの財産3,000万円の範囲で借金を返済すれば足り、残る500万円の返済義務は負いません。逆に、調べてみたら借金が2,000万円しかなかった場合は、返済後に残る1,000万円分の財産を相続できます。

  1. 裁判所は限定承認について、「被相続人の債務がどの程度あるか不明であり、財産が残る可能性もある場合等」に利用する制度と説明しています。借金の全体像がつかめないときの「保険」のような役割を果たす制度です。

出典:裁判所「相続の限定承認の申述」

単純承認・相続放棄との違い

相続の方法には、限定承認のほかに「単純承認」と「相続放棄」があります。3つの違いを整理すると以下の通りです。

項目単純承認限定承認相続放棄
プラスの財産すべて相続債務を清算して残れば相続相続しない
マイナスの財産(借金)すべて相続プラスの財産の範囲内のみ相続しない
家庭裁判所への手続き不要必要(相続人全員で共同申述)必要(1人でも可)
期限-(何もしなければ自動的に成立)相続の開始を知ってから3か月以内相続の開始を知ってから3か月以内
次順位の相続人への影響なしなし相続権が次順位に移る
単純承認・限定承認・相続放棄の違い

単純承認は、プラスもマイナスもすべて引き継ぐ通常の相続です。特別な手続きは不要で、3か月の期限内に何もしなければ単純承認したものとみなされます。相続放棄は借金を完全に避けられる反面、プラスの財産も一切受け取れません。限定承認は、その中間に位置する方法といえます。

なお、単純承認と相続放棄に関してはこちらの記事でも解説しています。あわせて参考にしてみてください。

限定承認の利用件数は年間約700件と少ない

限定承認は、相続放棄に比べて利用件数が非常に少ない制度です。最高裁判所の司法統計によると、2024年(令和6年)に全国の家庭裁判所が新たに受け付けた限定承認の申述は690件でした。同じ年の相続放棄の申述は308,753件で、限定承認の約450倍にのぼります。

限定承認相続放棄
2019年(令和元年)656件225,416件
2020年(令和2年)675件234,732件
2021年(令和3年)689件251,994件
2022年(令和4年)696件260,497件
2023年(令和5年)688件282,785件
2024年(令和6年)690件308,753件
限定承認と相続放棄の申述新受件数の推移(全家庭裁判所)

出典:最高裁判所「令和6年 司法統計年報(家事編)第2表」

利用が少ない理由は、相続人全員の合意が必要なことと、手続きが複雑で専門家への依頼費用がかかることにあります。ただし、件数が少ないからといって使えない制度ではありません。条件に合う人にとっては、財産を守りながら借金のリスクを断ち切れる貴重な選択肢です。

限定承認のメリット3つ

限定承認には、単純承認や相続放棄にはない3つのメリットがあります。いずれも「借金のリスクを抑えつつ、財産を受け取る可能性を残す」という制度の性格から生まれるものです。

①借金がプラスの財産を上回っても自分の財産で返済しなくてよい

最大のメリットは、相続人の責任がプラスの財産の範囲に限定されることです。どれほど多額の借金が後から判明しても、相続人が自分の預金や給与から返済する義務はありません。

  1. 被相続人が事業を営んでいた場合や、他人の連帯保証人になっていた可能性がある場合、債務の全体像は相続開始時点ではわからないことが少なくありません。限定承認をしておけば、後から想定外の債務が見つかっても、相続人の生活が脅かされる事態を避けられます。

②先買権を使えば実家など残したい財産を確保できる

限定承認では、相続財産を換価(お金に換えること)して債権者に弁済しますが、相続人には「先買権(さきがいけん)」が認められています。先買権とは、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価額を支払うことで、特定の財産の競売を止めて相続人が取得できる権利です(民法932条ただし書)。

この権利を使えば、先祖代々の実家や事業に必要な設備など、金銭以上の価値がある財産を手元に残せます。相続放棄ではすべての財産を手放すことになるため、この点は限定承認ならではの強みです。ただし、抵当権などの担保が付いた財産は、担保権者が別途競売を申し立てられるため、先買権だけでは確実に残せない場合があります。

③次順位の相続人に相続権が移らない

相続放棄をすると、放棄した人は初めから相続人でなかったものとみなされ、相続権は次の順位の親族に移ります。たとえば子全員が放棄すると、被相続人の親や兄弟姉妹が借金の相続問題に巻き込まれかねません。

  1. 限定承認であれば、現在の相続人だけで手続きを完結できます。高齢の親や疎遠な親族に負担を広げずに済む点は、家族関係を考えるうえで大きな利点です。

被相続人の方が生前に推定相続人を調査しておくと、相続人の確定がスムーズに進みます。詳しくは、こちらの記事を参考にしてみてください。

限定承認のデメリット・注意点5つ

限定承認には、利用件数の少なさが物語る通り、無視できないデメリットがあります。メリットとあわせて以下の5点を理解したうえで判断しましょう。

①相続人全員が共同で申述しなければならない

限定承認は、相続人全員が共同で行う必要があります(民法923条)。1人でも反対する相続人がいれば、限定承認はできません。相続人が多い場合や、普段連絡を取っていない親族がいる場合は、合意形成だけで3か月の期限が迫ることもあります。

  1. なお、反対する相続人がいても、その人が相続放棄をすれば残りの相続人だけで限定承認が可能です。放棄した人は最初から相続人でなかった扱いになるためです。

②手続きが複雑で清算完了まで1年以上かかることもある

限定承認は、家庭裁判所に受理されて終わりではありません。受理後に、官報公告・債権者への催告・財産の換価・債務の弁済・残余財産の分配という清算手続きが続きます。公告期間だけでも2か月以上かかるうえ、不動産の鑑定や売却が絡むと、全体で1年以上を要するケースも珍しくありません。

③みなし譲渡所得税が課される場合がある

限定承認をすると、税法上は被相続人が死亡時に資産を時価で相続人に譲渡したものとみなされます(所得税法59条)。国税庁も、限定承認の相続の場合は「時価で資産の譲渡があったものとされます」と明示しています。値上がりした土地や株式が含まれていると、含み益に対して所得税・住民税(譲渡所得税)が発生します。

この税金は被相続人の債務として扱われ、相続人が相続開始を知った日の翌日から4か月以内に「準確定申告」を行い、相続財産の中から納めます。相続人が自分の財産から負担する必要はありませんが、そのぶん手元に残る財産は減ります。

特に注意したいのが、先祖代々の土地のように取得時の価格がわからない資産です。取得費が不明な場合は売却価格の5%を取得費とみなす「概算取得費」で計算するため、時価の大部分が課税対象となり、想定以上の税額になることがあります。

出典:国税庁「No.3105 譲渡所得の対象となる資産と課税方法」国税庁「No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)」

④費用が相続放棄より高くなりやすい

家庭裁判所に納める収入印紙は800円ですが、それはあくまで申述時の実費です。清算手続きには官報公告費用や不動産の鑑定費用がかかり、専門家に依頼すれば報酬も必要になります。相続放棄が数千円程度の実費で済むのに対し、限定承認は総額で数十万円単位になることが一般的です。

⑤期限は相続の開始を知ってから3か月以内

限定承認の申述は、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に行わなければなりません(民法915条)。この期間を「熟慮期間」と呼びます。期限を過ぎると単純承認したものとみなされ、借金も含めてすべてを相続することになります。

財産調査や相続人間の協議に時間がかかる場合は、期限内に家庭裁判所へ「熟慮期間の伸長」を申し立てることが可能です。ただし、申立ては必ず当初の3か月以内に行う必要があります。

出典:裁判所「相続の限定承認の申述」

限定承認が向いているケース・向いていないケース

限定承認は、財産と借金のどちらが多いか不明な場合や、特定の財産を残したい場合に向いています。逆に、借金が明らかに多い場合や、相続人同士の関係が悪い場合には向きません。

状況適した選択理由
借金の有無・金額がわからない限定承認後から借金が判明しても責任は財産の範囲内。財産が残れば相続できる
実家や事業用財産を残したい限定承認先買権で特定の財産を取得できる
次順位の相続人に迷惑をかけたくない限定承認相続権が次順位に移らない
借金が明らかに財産を上回る相続放棄限定承認しても財産は残らず、手続きの負担だけが増える
相続人全員の合意が取れない相続放棄(単独で可能)限定承認は全員一致が必須
プラスの財産が明らかに多い単純承認手続き不要で費用もかからない
状況別に見る限定承認の向き・不向き

判断に迷う場合は、まず財産と債務の調査を急ぎ、期限内に専門家へ相談することをおすすめします。3か月の熟慮期間は、思っている以上に短いものです。

限定承認の手続きの流れ7ステップ

限定承認の手続きは、家庭裁判所への申述までの「準備段階」と、受理後の「清算段階」に大きく分かれます。全体の流れは以下の7ステップです。

ステップ内容期限・期間の目安
1相続財産・相続人の調査相続開始後すぐに着手
2相続人全員の合意形成3か月の熟慮期間内(伸長申立て可)
3家庭裁判所への申述相続の開始を知ってから3か月以内
4申述の受理・相続財産清算人の選任相続人が複数の場合は家庭裁判所が選任
5官報公告と債権者への催告受理後5日以内(清算人選任時は選任後10日以内)に公告開始・公告期間は2か月以上
6財産の換価と債務の弁済公告期間の満了後
7残余財産の分配弁済完了後・全体で1年以上かかることも
限定承認の手続きの流れと期限の目安

ステップ1:相続財産・相続人の調査

まず、被相続人のプラスの財産とマイナスの財産を洗い出します。不動産は登記事項証明書や固定資産税の納税通知書、預貯金は通帳や金融機関からの郵便物が手がかりです。借金については、全国銀行個人信用情報センター(KSC)・CIC・JICCの信用情報機関3社に開示請求すると、ローンやクレジットの利用状況を確認できます。

  1. あわせて、被相続人の出生から死亡までの戸籍をすべて取得し、相続人を確定させます。2024年3月からは「戸籍の広域交付制度」が始まり、本籍地が遠方でも最寄りの市区町村窓口でまとめて請求できるようになりました。

ただし、コンピュータ化されていない一部の戸籍は対象外で、代理人による請求もできない点に注意が必要です。

出典:法務省「戸籍法の一部を改正する法律について(令和6年3月1日施行)」

ステップ2:相続人全員の合意形成

相続人全員に連絡を取り、限定承認を行う方針について合意を得ます。遠方や疎遠な親族がいる場合は、できるだけ早く連絡を始めましょう。調査や協議が3か月以内に終わりそうにないときは、期限内に家庭裁判所へ熟慮期間の伸長を申し立てます。

遺産分割協議に関しては、こちらの記事で詳しく解説しています。

ステップ3:家庭裁判所への申述

相続人全員の合意が得られたら、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申述します。必要なものは以下の通りです。

限定承認の必要書類

  1. 限定承認申述書(家庭裁判所の書式)
  2. 財産目録(判明している範囲でよく、調査中の財産は「調査中」と記載可)
  3. 被相続人の出生から死亡までの戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本
  4. 被相続人の住民票除票または戸籍附票
  5. 申述人(相続人)全員の戸籍謄本
  6. 収入印紙800円分
  7. 連絡用の郵便切手(金額は裁判所により異なる)

相続人の順位によっては追加の戸籍が必要になります。事前に管轄の家庭裁判所に確認しておくと安心です。

出典:裁判所「相続の限定承認の申述」

ステップ4:申述の受理と相続財産清算人の選任

申述後、家庭裁判所から照会書が届くので、期限内に回答します。受理されると「限定承認申述受理通知書」が送付され、清算手続きに移ります。

相続人が複数いる場合、家庭裁判所は相続人の中から「相続財産清算人」を選任します(民法936条)。清算人は相続人を代表して、公告・換価・弁済といった清算手続きを進める役割です。

なお、2023年4月施行の改正民法で、従来「相続財産管理人」と呼ばれていたこの役職は「相続財産清算人」に名称が変わりました。

ステップ5:官報公告と債権者への催告

限定承認者は、受理後5日以内(相続財産清算人が選任された場合は選任後10日以内)に、官報で「債権を届け出るように」との公告を行います(民法927条・936条)。公告期間は2か月以上と定められています。すでに把握している債権者には、個別に催告も行わなければなりません。

この公告と催告を怠ると、後から現れた債権者との間でトラブルになり、限定承認の効果を十分に受けられないおそれがあります。確実に実施しましょう。

ステップ6:財産の換価と債務の弁済

公告期間が終わったら、届出のあった債権者と把握済みの債権者に対し、債権額の割合に応じて弁済します。弁済の原資が足りない場合は、不動産などを競売にかけて換価します。実家などを残したい場合は、この段階で先買権を行使し、鑑定人の評価額を支払って取得します。

ステップ7:残余財産の分配

すべての債務を弁済したうえで財産が残れば、相続人が遺産分割協議を行って取得します。ここまで完了して、限定承認の手続きは終了です。

限定承認にかかる費用の目安

限定承認の費用は、申述時の実費は数千円から1万円程度で済みますが、清算手続きと専門家報酬を含めると総額は数十万円単位になります。費用の性質によって、相続人が自己負担するものと相続財産から支出できるものに分かれる点も押さえておきましょう。

費用の項目金額の目安負担者
収入印紙(申述手数料)800円(被相続人1人につき)相続人
郵便切手数千円程度(裁判所により異なる)相続人
戸籍謄本・除籍謄本等戸籍謄本450円・除籍謄本750円/通。一式で数千円~1万円程度相続人
官報公告費用1行(22字)3,589円が基準・数万円程度相続財産から支出可
鑑定費用(先買権行使時)財産の種類・規模により変動相続人
弁護士等の専門家報酬事務所により異なり、清算まで依頼すると数十万円~100万円超も相続人(一部は相続財産から支出できる場合あり)
限定承認にかかる主な費用

出典:裁判所「相続の限定承認の申述」全国官報販売協同組合「官報公告掲載料金」

官報公告の料金は2026年4月1日掲載分から改定されており、1行3,589円(税抜)が基準です。掲載内容によって行数が変わるため、申し込み先の官報販売所に見積もりを依頼しましょう。専門家報酬は、依頼する範囲(申述のみか清算まで含むか)と事案の複雑さで大きく変わります。複数の事務所で見積もりを取ることをおすすめします。

限定承認で失敗しないための3つのポイント

限定承認で最も避けたいのは、うっかりした行為で「単純承認したもの」とみなされ、限定承認ができなくなる事態です。以下の3点を守りましょう。

①相続財産に手をつけない(法定単純承認に注意)

相続人が相続財産の全部または一部を処分すると、単純承認したものとみなされます(民法921条)。これを「法定単純承認」と呼びます。限定承認の申述前はもちろん、受理後の清算中も、相続人が勝手に財産を処分してはいけません。具体的には、以下のような行為が処分にあたるおそれがあります。

法定単純承認に該当する可能性があるケース

  1. 被相続人名義の預貯金を引き出して自分のために使う
  2. 不動産や株式などを売却・贈与する
  3. 債権者から請求を受けて、相続財産から一部でも弁済する
  4. 被相続人が借りていた物件の賃貸借契約を解除する

「借金を少しでも減らしたい」「家賃がもったいない」といった善意の行動が、結果的に単純承認とみなされるケースは実際にあります。相続人全員で「財産には一切手をつけない」というルールを共有し、債権者から請求があった場合は「限定承認の手続き中」である旨を書面で伝えましょう。

法定単純承認に関しては、以下のQ&Aも参考にしてみてください。

②3か月の期限から逆算してスケジュールを組む

相続人全員の合意と申述書類の準備を3か月以内に終えるには、相続開始直後から動く必要があります。完璧な財産目録を作ろうとして時間切れになるのが典型的な失敗です。財産目録は判明している範囲で足りるので、まず期限内の申述を優先しましょう。間に合わないと判断したら、早めに熟慮期間の伸長を申し立てます。

特に、相続財産に不動産がある場合は長期化しがちです。詳しくは、こちらの記事も参考にしてみてください。

③早い段階で専門家に相談する

限定承認は、家庭裁判所での手続き・官報公告・債権者対応・税務申告と、複数の専門領域にまたがります。清算手続きは弁護士、みなし譲渡所得税の準確定申告は税理士というように、専門家の力を借りるのが現実的です。相続人間の合意形成が難しい場合も、第三者の専門家が客観的に選択肢を説明することで話が進みやすくなります。

相続の相談は専門性が伴うため、信頼できる相手探しが欠かせません。こちらの記事も参考にしてみてください。

限定承認を検討する前に確認したい3つのこと

限定承認を検討する相談者の中には、そもそも「借金の相続」を過大に心配しているケースが少なくありません。

①住宅ローンは団信で完済されていないか

被相続人が住宅ローンを組んでいた場合、多くは団体信用生命保険(団信)に加入しています。団信に加入していれば、被相続人の死亡によって保険金でローン残債が完済されるため、住宅ローンは相続すべき借金にはなりません。「自宅にローンが残っている」と思い込んで相続放棄を検討する前に、金融機関に団信の有無を確認しましょう。

②死亡保険金や遺族年金は限定承認の影響を受けない

受取人が指定された死亡保険金は、受取人固有の財産であり、被相続人の相続財産には含まれません。限定承認や相続放棄をしても、受取人は保険金を受け取れます(ただし相続税の計算上は「みなし相続財産」として扱われます)。遺族年金も相続財産ではなく、遺族自身の権利として受給できます。これらは、当面の生活資金を考えるうえで重要な確認事項です。

③相続税の申告が必要かどうか

限定承認をしても、相続税の計算方法は通常の相続と変わりません。財産が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えれば、相続開始を知った日の翌日から10か月以内に相続税の申告が必要です。

みなし譲渡所得税は被相続人の債務として債務控除の対象になります。限定承認の清算と相続税申告のスケジュールを並行して管理しましょう。相続税の計算方法や控除の仕組みについてくわしく知りたい方は、こちらの記事も参考にしてみてください。

この記事のまとめ

この記事では、限定承認の基本的な仕組みから、単純承認・相続放棄との違い、メリット・デメリット、向いているケース、手続きの流れ、費用や税金、注意点まで整理しました。限定承認は、借金の全体像が不明でも財産を残せる可能性がある一方、相続人全員の合意や複雑な清算手続きが必要です。相続が発生したら、まず財産と債務を早めに調査し、3か月の熟慮期間から逆算して判断しましょう。迷う場合は、期限に余裕があるうちに専門家へ相談することが重要です。

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柴田充輝

金融系ライター

厚生労働省や保険業界・不動産業界での勤務を通じて、社会保険や保険、不動産投資の実務を担当。FP1級と社会保険労務士資格を活かして、多くの家庭の家計見直しや資産運用に関するアドバイスを行っている。金融メディアを中心に、これまで1,000記事以上の執筆実績あり。

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関連する専門用語

限定承認

限定承認とは、相続人が引き継ぐ財産について、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産(借金など)を支払うことを条件に、相続を受ける方法のことです。つまり、相続によって得られる資産が借金を上回っている場合にはその差額を受け取ることができますが、もし借金が多くても、自分の財産を使ってまで返済する必要はありません。 この方法を使えば、相続することで損をするリスクを減らすことができます。ただし、限定承認を行うには、相続の開始を知ってから原則として3か月以内に、他の相続人全員と一緒に家庭裁判所に申立てをする必要があるため、手続きがやや複雑です。

単純承認

単純承認とは、相続が発生した際に、被相続人(亡くなった方)の財産をそのまま全て受け継ぐと決める手続きのことをいいます。この場合、預貯金や不動産といったプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産もすべて引き継ぐことになります。単純承認は特別な手続きをしなくても、相続人が財産を使ったり処分したりすると自動的に成立することが多いため、慎重な判断が必要です。 たとえば、被相続人に多額の借金があった場合、それも自分が返済する責任を負うことになりますので、相続を受ける前には、財産の内容をよく調べることが大切です。

熟慮期間

熟慮期間とは、相続人が相続を「する」「しない」を決めるために与えられている法的な猶予期間のことです。具体的には、相続が開始されたことを知った日から3か月以内に、相続するかどうかを決めて家庭裁判所に申し出る必要があります。 この3か月の間に、亡くなった方の財産や借金の状況を確認し、自分にとって相続が得か損かを見極めることが求められます。もし期間内に何も手続きをしなければ、法律上は「相続する」と判断され、自動的にすべての財産と負債を引き継ぐことになります。資産運用の観点からは、負の遺産を回避するための重要な判断期間であり、財産の内容を冷静に分析する時間でもあります。

相続財産

相続財産とは、被相続人(亡くなった方)が死亡時点で保有していた財産のうち、法律上相続の対象となるものを指します。 具体的には、現金や預貯金、不動産、株式、車、貴金属などのプラスの財産だけでなく、借金やローン、保証債務といったマイナスの財産も含まれます。 相続人は、これらの財産すべてを一括して引き継ぐ「単純承認」だけでなく、財産の範囲内で債務を引き継ぐ「限定承認」や、相続自体を放棄する「相続放棄」などの選択も可能です。 なお、生命保険金や死亡退職金など、一定の財産は「相続財産」に含まれず、相続税の計算上も特別な扱いになることがあります。 相続財産を正しく把握することは、遺産分割協議や相続税申告を円滑に進めるうえで、最初の重要なステップとなります。

相続債務

相続債務とは、亡くなった人(被相続人)が生前に負っていた借金や未払い金など、金銭的な負債のことです。相続が発生すると、原則として相続人がその債務を引き継ぐことになります。これは預金や不動産などの財産と同じく、負の財産も相続の対象となるためです。 ただし、相続人には相続放棄や限定承認といった選択肢があり、負債の返済を回避したり、資産の範囲内でのみ返済する方法を取ることもできます。資産運用の観点では、相続債務の存在を事前に把握しておくことが、家計や投資計画への影響を最小限に抑えるために重要です。

相続放棄

相続放棄とは、亡くなった人の財産を一切受け取らないという意思を家庭裁判所に申し立てて、正式に相続人の立場を放棄する手続きのことです。相続には、プラスの財産(預貯金や不動産など)だけでなく、マイナスの財産(借金や未払い金など)も含まれるため、全体を見て相続すると損になると判断した場合に選ばれることがあります。 相続放棄をすると、その人は最初から相続人でなかったものとみなされるため、借金の返済義務も一切負わなくて済みます。ただし、相続があったことを知ってから3か月以内に家庭裁判所に申し立てる必要があり、その期限を過ぎると原則として相続を受け入れたとみなされてしまいます。したがって、放棄を検討する場合は早めの判断と手続きが重要です。

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