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損益通算・繰越控除で損失を取り戻す方法とは?特定口座の確定申告まで解説
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公開:
2026.09.17
更新:
2026.09.17
株式投資で損失が出た場合でも、確定申告を行うことで税負担を軽くできる可能性があります。ただし、損益通算できる所得の範囲や、繰越控除を使うための条件を誤ると、還付を受けられなかったり、将来の節税機会を逃したりするおそれがあります。この記事では、損益通算と繰越控除の仕組み、対象となる取引、特定口座・複数口座での申告手順、注意すべき社会保険料や扶養への影響まで具体的に解説します。
損益通算は当年・繰越控除は最長3年で活用できる
株式投資の損失を税務上活用する制度には、損益通算と繰越控除の2つがあります。前者は当年の利益と損失を相殺する仕組み、後者は相殺しきれない損失を翌年以降3年間持ち越す制度です。
損益通算は同一年内の利益と損失を相殺する制度
損益通算とは、同一年内に発生した利益と損失を合算して課税対象を圧縮する仕組みです。上場株式の譲渡損失は、他の株式の譲渡益や、申告分離課税を選択した配当所得と相殺できます。
「申告分離課税」とは、給与所得などと分けて一律20.315%(所得税15.315%+住民税5%)の税率で課税する方式のことです。
たとえば、A社株の売却益50万円とB社株の売却損30万円があった場合、損益通算により課税対象は20万円まで圧縮されます。本来であれば50万円に対して約10万円の税金がかかるところ、約4万円まで負担を軽減できる計算です。
| 項目 | 通算なしの場合 | 通算ありの場合 |
|---|---|---|
| A社株の売却益 | 50万円 | 50万円 |
| B社株の売却損 | 反映なし | △30万円 |
| 課税対象額 | 50万円 | 20万円 |
| 税額(税率20.315%) | 約10万円 | 約4万円 |
繰越控除は損失を最長3年間翌年以降に持ち越せる
繰越控除は、損益通算してもなお相殺しきれない損失を翌年以降3年間繰り越せる制度です。単年では消化できない大きな損失を救済するため、複数年にまたがって利益と相殺できる仕組みとなっています。
- たとえば、2025年に200万円の譲渡損失が発生した場合、2026年から2028年の3年間にわたり譲渡益や配当所得から控除可能です。3年を経過した時点で残った損失は失効するため、計画的な利益確定が重要となります。
ただし、繰越期間中は取引がない年でも毎年連続して確定申告を続ける必要があります。1年でも申告を忘れると、それ以降の繰越控除は受けられなくなるため注意してください。
損益通算後に残った損失を繰越控除へ回す
多くの場合、「①当年の損益通算→②残った損失を繰越控除」の順で制度を適用します。国税庁の通達では、譲渡損失はまず譲渡所得から控除し、次に申告分離課税を選択した配当所得から控除すると定められているためです。
具体例として、当年の譲渡損失100万円・譲渡益40万円・配当所得30万円のケースで考えてみます。
| ステップ | 内容 | 残りの損失 |
|---|---|---|
| ① 譲渡益と相殺 | 譲渡損失100万円 − 譲渡益40万円 | 60万円 |
| ② 配当所得と相殺 | 残り60万円 − 配当所得30万円 | 30万円 |
| ③ 翌年へ繰越 | 残り30万円を繰越控除へ | ー |
この順序を理解しておくと、年末の利益確定や配当受取の戦略を立てる際に役立ちます。
損益通算は上場株式等の損益のみが対象
損益通算の対象は、上場株式・公募投資信託・特定公社債といった「上場株式等」グループに限定されます。給与所得やNISA口座、FX・暗号資産の損失は対象外となるため注意が必要です。
上場株式・投資信託・特定公社債は同一グループで通算可能
「上場株式等」グループには、上場株式・公募株式投資信託・国債・地方債・公募公社債(特定公社債)・REITなどが含まれます。同じグループ内であれば、譲渡損益と申告分離課税を選択した配当・利子所得を相互に通算できる仕組みです。
「特定公社債」とは、国債・地方債・外国国債・公募社債など税法で定められた一定の債券を指します。2016年以降は債券の譲渡損益や償還差損益も上場株式等と同じ申告分離課税グループに統合されました。
- たとえば、株式の売却損30万円・投資信託の売却益20万円・国債の譲渡益10万円があれば、すべて同一グループ内で相殺できます。
ただし、同じ株式でも未上場の一般株式等は別グループ扱いとなり、上場株式等とは通算できません。
配当所得は申告分離課税の選択で通算できる
配当所得と株式の譲渡損失を通算するには、確定申告で申告分離課税を選択する必要があります。配当所得には総合課税・申告分離課税・申告不要の3つの方式があり、損益通算に対応するのは申告分離課税だけだからです。
| 課税方式 | 配当控除 | 損益通算 | 税率 |
|---|---|---|---|
| 総合課税 | ◯ | × | 累進(5〜45%) |
| 申告分離課税 | × | ◯ | 一律20.315% |
| 申告不要 | × | × | 一律20.315%(源泉徴収) |
「配当控除」とは、総合課税で配当所得を申告した場合に税額の一定割合を差し引ける制度のことです。申告分離を選ぶと配当控除が使えなくなるため、課税所得帯に応じた使い分けが重要となります。
なお、配当控除について詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考にしてみてください。
損益通算できないケースは3つに整理できる
損益通算の対象外となる代表的なケースは3つあります。給与所得など総合課税グループとの通算、NISA口座内で発生した損失、FX・暗号資産といった別税制グループの損益は、いずれも上場株式の損失と相殺できません。
給与所得や事業所得とは通算できない
株式の譲渡損失は「申告分離課税」グループに属するため、給与所得や事業所得など「総合課税」グループとは通算できません。
給与所得者の中には「年末調整で取り戻せる」と誤解する方もいますが、年末調整は給与所得の精算手続きであり、株式の損失処理とは別枠です。
NISA口座の損失は税務上「ないもの」とされる
NISA口座は非課税口座であるため、利益に課税されない代わりに、損失も税務上「発生しなかった」ものとして扱われます。国税庁の通達でも、非課税口座で生じた譲渡損失は他の口座との損益通算や繰越控除の対象外と明示されています。
FXと暗号資産は株式と別の所得区分で通算不可
FX(店頭取引)は「先物取引に係る雑所得等」、暗号資産は総合課税の雑所得に区分されるため、いずれも上場株式とは通算できません。
ただし、店頭FXと商品先物・日経225先物などは「先物取引に係る雑所得等」内で通算可能で、3年間の繰越控除も適用できます。
特定口座でも確定申告で追加の損益通算ができる
特定口座(源泉徴収あり)は申告不要が原則ですが、複数口座を使う場合や損失年は確定申告で追加の節税効果が得られます。源泉徴収済みの税金が還付されるケースがあるため、見逃さないようにしましょう。
源泉徴収ありは同一口座内で自動的に損益通算される
特定口座(源泉徴収あり)では、同一口座内の譲渡損益と受け入れた配当所得を、証券会社が自動的に損益通算します。
- 配当金は「株式数比例配分方式」を選択していれば、特定口座に受け入れられて自動で相殺対象となる仕組みです。原則として確定申告は不要で、源泉徴収のみで税金処理が完結します。
ただし、自動通算はあくまで同一口座内に限定されます。別の証券会社の口座や、同じ証券会社でも一般口座との損益は、自動的には合算されません。
複数の証券口座は確定申告で初めて通算できる
複数の証券会社で口座を持っている場合、各社の損益は自動では通算されないため、確定申告が必要です。
たとえば、A社の特定口座で50万円の利益・B社の特定口座で30万円の損失が発生したケースで考えてみます。A社では源泉徴収で約10万円の税金が天引きされていますが、損益通算後の課税対象は20万円(税額約4万円)となり、差額の約6万円が還付される計算です。
特定口座と一般口座の損益も合算できる
特定口座と一般口座の損益も、確定申告によって通算できます。一般口座は自分で取得価額や譲渡損益を計算する必要があり、上場前から保有する株式や相続で取得した株式を管理するケースで使われやすい口座です。
両口座を併用している場合、特定口座年間取引報告書と一般口座の取引履歴をもとに、第三表(分離課税用)で合算して申告します。
未公開株を上場時に売却する経営者層や、信用取引で複数口座を使い分ける個人投資家にとって、両口座の合算は実利の大きい手続きです。
損失年は確定申告で繰越控除の手続きを始める
源泉徴収ありの特定口座は本来申告不要ですが、損失が発生した年は、確定申告をすることで繰越控除につなげられる場合があります。
繰越控除を使うには損失発生年から連続して申告する必要があり、複数口座を持つ場合は申告で初めて他社の利益と通算できるからです。
- 特に翌年以降に大きな利益が見込める投資家にとって、損失年の申告漏れは将来3年分の節税機会を失うことに直結します。
損益通算の節税効果を3つの具体例で確認する
損益通算と繰越控除の効果は、具体的な数字に置き換えると理解しやすくなります。ここでは典型的な3つのケースを取り上げ、還付額や節税額を試算しながら制度のメリットを確認していきます。
ケース①売却損30万円と配当20万円で約4万円が還付される
上場株式で30万円の譲渡損が発生し、同年に配当所得20万円を受け取ったケースで考えます。
- 配当からは源泉徴収で約4万円(20万円×20.315%)が天引きされていますが、確定申告で申告分離課税を選んで損益通算をすると、配当所得が完全に相殺される計算です。
源泉徴収された約4万円は全額還付され、相殺しきれない10万円の損失は翌年以降に繰り越せます。
ケース②複数口座の損益合算で約10万円が還付される
A証券で50万円の利益、B証券で80万円の損失が発生した複数口座のケースです。
- A証券で源泉徴収された約10万円(50万円×20.315%)は、確定申告でB証券の損失と通算すれば全額還付されます。
通算後の差引損失30万円は、繰越控除の対象として翌年以降3年間持ち越せるため、将来の利益とも相殺可能です。
ケース③繰越控除で3年間に約40万円の節税が実現する
当年に200万円の損失が発生し、翌年以降の3年間で合計250万円の利益が出るケースを想定します。
当年は相殺する利益がないため、損失200万円を繰越控除へ回します。翌年以降は利益から繰越損失200万円を順次控除でき、200万円×20.315%=約40万円の節税効果が得られる計算です。
3年経過後に残る利益50万円のみが課税対象となり、複数年にわたる節税効果が分かります。
投資の損失を使って節税する方法は、こちらのFAQでも解説しています。
繰越控除は毎年の確定申告継続が条件
繰越控除は最長3年間損失を持ち越せる強力な制度ですが、適用を受けるには損失発生年から連続して確定申告を続ける必要があります。1年でも申告を忘れると、それ以降の繰越控除は受けられません。
損失は古いものから順に最長3年繰り越せる
繰越控除は、当年で消化しきれなかった損失を翌年以降3年間にわたって持ち越せる制度です。
- 複数年の繰越損失がある場合、古い年に発生した損失から順に当年の利益と相殺するルールとなっています。
たとえば、2024年に100万円・2025年に50万円の繰越損失がある人が、2026年に120万円の利益を得たとします。このケースでは、まず2024年分の100万円が消化され、続いて2025年分から20万円が控除される計算です。
3年経過時点で残った損失は失効するため、計画的な利益確定で古い損失から使い切る戦略が有効となります。
毎年連続して確定申告を続けないと適用が打ち切られる
繰越控除を受けるには、損失発生年から繰越期間中まで毎年連続して確定申告を続ける必要があります。
重要なのは、取引がない年でも申告を継続しなければならない点です。1年でも申告を忘れると、それ以降の繰越控除は受けられません。
具体的には「申告書付表(上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除用)」を毎年添付し、損失残高を継続的に明示する手続きが求められます。
NISA・暗号資産の損失は繰越控除の対象外
繰越控除の対象は、あくまで上場株式等の譲渡損失と申告分離課税を選んだ配当所得に限られます。以下の損失は対象外となるため、税務上のメリットが受けられません。
- NISA口座内の損失(税務上「ないもの」と扱われる)
- 暗号資産の損失(雑所得、繰越不可)
- 一般株式等(非上場株式)の損失
- 海外FX業者を通じた取引の損失(総合課税の雑所得)
なお、国内FXや先物取引(日経225先物・商品先物など)の損失は「先物取引に係る雑所得等」のグループ内で別途3年間の繰越控除が認められています。ただし、株式の譲渡損益や配当所得とは完全に別枠で管理する必要があり、混同しないよう注意が必要です。
損益通算の確定申告は5つのステップで進められる
損益通算の確定申告は「書類準備→記入→提出」の流れで完結します。国税庁の確定申告書等作成コーナーやマイナポータル連携を活用すれば、初めての方でも迷わずに手続きを進められます。
Step1.特定口座年間取引報告書など3つの書類を準備する
必要書類は「特定口座年間取引報告書」「源泉徴収票(給与所得者の場合)」「マイナンバーカード」の3点が基本です。
特定口座年間取引報告書は各証券会社のマイページから電子データで取得でき、紙の郵送を待つ必要はありません。配当の支払通知書も電子交付対応の証券会社が増えています。
複数の証券会社で取引している場合は、各社の特定口座年間取引報告書をすべて揃えるよう注意してください。
Step2.第三表と付表に損益通算・繰越控除の金額を記入する
申告書は「確定申告書」「第三表(分離課税用)」「株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書」「上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除用付表」を組み合わせて作成します。
第三表は分離課税の所得欄、計算明細書は銘柄ごとの取引内容、付表は損益通算と繰越控除の計算過程を記載する書類です。
繰越控除を初めて使う年と繰越中の翌年以降では記入箇所が異なるため、前年からの繰越損失額は付表の所定欄に必ず転記しましょう。
Step3.確定申告書等作成コーナーなら自動計算で完結する
国税庁の「確定申告書等作成コーナー」を使えば、画面の指示に従って金額を入力するだけで申告書が自動作成されます。
以下の理由から、e-Taxの活用が便利です。
- 損益通算や繰越控除の複雑な計算が自動で行われる
- 特定口座年間取引報告書などの添付書類の提出を省略できる
- 還付金が紙申告よりも早く振り込まれる(通常2〜3週間)
特に分離課税の申告は計算ロジックが複雑なため、作成コーナーの利用が安全です。
Step4.マイナポータル連携で年間取引報告書を自動取込する
マイナポータル連携を使えば、特定口座年間取引報告書のデータが確定申告書に自動で取り込まれます。手入力の手間と転記ミスを同時に削減できる機能です。
国税庁によると、令和6年分の確定申告ではマイナポータル連携の利用者が310万人に達しました。源泉徴収票や医療費、ふるさと納税のデータも一括で取得可能となっています。
利用にはマイナンバーカードと、対応スマートフォンまたはICカードリーダライタが必要です。事前に証券会社側でマイナポータル連携の設定を済ませておきましょう。
Step5.還付申告と期限後申告の扱いを確認する
還付申告は、原則として対象年の翌年1月1日から5年間提出できます。一方、申告義務がある人が期限内に申告しなかった場合は期限後申告となるため、できるだけ早く対応する必要があります。還付申告と期限後申告は扱いが異なるため、混同しないよう注意しましょう。
- ただし、上場株式等の譲渡損失を繰り越すには、損失が発生した年から繰越期間中まで連続して確定申告を行う必要があります。取引がない年でも申告を続ける必要があるため、過去分を修正したい場合は、早めに税務署や税理士へ確認しましょう。
確定申告が必要なケースについては、こちらの記事でも解説しています。
損益通算の申告で逆に損するケースもある
損益通算で還付が受けられても、申告すると社会保険料や扶養判定で逆に不利になるケースがあります。申告分は合計所得金額に算入されるため、節税額と負担増を比較した判断が欠かせません。
国民健康保険料や介護保険料が上がる場合がある
申告した株式の譲渡益や配当所得は合計所得金額に算入されるため、国民健康保険料・後期高齢者医療保険料・介護保険料の算定額が上昇する可能性があります。
特に自営業者・退職者・年金生活者など国民健康保険加入者は影響が大きく、自治体によっては年数万円単位で保険料が増えるケースもあります。
会社員の健康保険料・厚生年金保険料は、原則として給与や賞与をもとにした標準報酬月額・標準賞与額で決まるため、株式の申告が本人の社会保険料に直接影響するとは限りません。ただし、扶養判定や住民税、自治体独自の給付・負担判定に影響する可能性はあるため、世帯全体で確認しましょう。
配偶者控除や扶養控除の対象から外れる可能性がある
合計所得金額が一定額を超えると、配偶者控除や扶養控除の対象から外れる可能性があります。
令和7年分以後は、配偶者控除の基準となる配偶者の合計所得金額が58万円以下、配偶者特別控除の対象が58万円超〜133万円以下へ見直されています。令和6年分以前とは基準が異なるため、申告する年分に応じて確認が必要です。
専業主婦(夫)が株式投資をしている場合、損益通算で還付を受けても、扶養から外れることで世帯全体の税負担が増えるケースもあるため要注意です。
扶養に関する考え方については、こちらの記事もあわせて参考にしてみてください。
所得税と住民税の異なる課税方式選択は2024年度から不可
以前は「所得税は申告分離・住民税は申告不要」という有利な選択が可能でした。しかし令和4年度税制改正により、令和6年度(2024年度)の個人住民税(令和5年分所得)から所得税と住民税の課税方式を一致させる必要があります。
| 改正前(令和5年度まで) | 改正後(令和6年度から) |
|---|---|
| 所得税と住民税で別の方式を選択可能 | 所得税と住民税で同じ方式が必須 |
この改正により、確定申告すると住民税にも自動的に反映され、申告判断はより慎重に行う必要があります。
損益通算の申告要否は3つの軸で判断する
損益通算の申告は誰にでも有利とは限らないため、「損失額」「他所得の大きさ」「保険料への影響」の3軸で判断するのが現実的です。それぞれの軸で数字を当てはめて、自分のケースで申告すべきかを見極めましょう。
損失額が10万円以下なら申告メリットは小さい
損失額が10万円以下の場合、申告で得られる還付額は約2万円(10万円×20.315%)にとどまります。
書類準備や記入の手間、税理士に依頼する場合の費用と比較すると、節税メリットが限定的です。
ただし、損失が翌年以降の繰越控除で活きる可能性もあるため、翌年に大きな利益が見込めるなら少額でも申告する価値はあります。マイナポータル連携を活用すれば申告コストを下げられるので、迷ったら申告しておく選択も賢明です。
他の譲渡益や配当所得が多いほど節税効果は大きくなる
申告分離課税の税率は一律20.315%のため、通算できる利益が大きいほど還付額や節税額が増えます。
- たとえば、損失50万円があり、他社口座の利益や申告分離を選んだ配当所得を合計100万円持っているケースでは、50万円分(約10万円)の還付が見込める計算です。
複数の証券会社で口座を持つ富裕層や、配当収入が大きい高所得者ほど、申告で得られるリターンは大きくなります。
申告による保険料増加額と還付額を比較する
国民健康保険加入者や年金生活者は、申告による還付額と保険料の増加額を必ず比較してください。
合計所得金額に算入される利益が大きいほど保険料の上昇幅も増え、節税分以上に保険料負担が増えるリスクもあります。
保険料率は自治体ごとに異なるため、申告前に住所地の自治体の保険料シミュレーターで試算し、還付額との差額で判断するのが賢明です。
損失額・投資規模別に節税効果をシミュレーション
申告分離課税の税率は一律20.315%のため、還付額や節税効果は年収そのものよりも、通算できる損失額、配当所得、他口座の譲渡益の大きさによって変わります。ここでは、損失額と投資規模に応じた3つのケースで確認します。
損失50万円を全額通算できる場合は約10万円の還付が見込める
損失50万円、配当所得20万円があり、残りの損失を他社口座の譲渡益または繰越控除に回すケースで試算します。
| ステップ | 内容 | 残りの損失 |
|---|---|---|
| ① 配当所得と相殺 | 損失50万円 − 配当所得20万円 | 30万円 |
| ② 他社利益と通算/繰越控除 | 残り30万円を他社の譲渡益または繰越控除へ | ー |
| 通算後の還付額 | 50万円 × 20.315% | 約10万円 |
配当所得20万円は申告分離課税で損失と通算し、残り30万円は他社の特定口座利益との通算や繰越控除に回します。
50万円の損失を配当所得や他口座の譲渡益と全額通算できる場合、50万円×20.315%≒約10万円の税負担軽減が見込めます。ただし、実際の還付額は、すでに源泉徴収されている税額や他の所得状況によって異なります。
損失100万円を全額通算できる場合は約20万円の還付が試算できる
損失100万円、配当所得50万円、他社口座の譲渡益50万円があるケースを想定します。
| ステップ | 内容 | 残りの損失 |
|---|---|---|
| ① 配当所得と相殺 | 損失100万円 − 配当所得50万円 | 50万円 |
| ② 他社口座の譲渡益と相殺 | 残り50万円 − 他社譲渡益50万円 | 0円 |
| 通算後の還付額 | 100万円 × 20.315% | 約20万円 |
配当所得50万円を申告分離で通算し、残り50万円の損失は他社口座の譲渡益(50万円)と相殺するシナリオです。
- 100万円分の利益と損失を通算できる場合、100万円×20.315%≒約20万円の税負担軽減が見込めます。ただし、配当所得を申告分離課税で申告すると、合計所得金額や扶養判定に影響する場合があります。
ただし、申告で合計所得金額に算入されると、扶養控除の判定や住民税の課税方式統一の影響も受ける点に注意が必要です。
損失500万円を3年間で使い切ると約100万円の節税効果が見込める
当年に損失500万円が発生し、翌年以降3年間で合計500万円以上の譲渡益や申告分離課税を選択した配当所得が発生するケースを想定します。
| 年度 | 損失残高(年初) | 当年の利益 | 控除額 | 損失残高(年末) |
|---|---|---|---|---|
| 当年 | 500万円 | 0円 | 0円 | 500万円 |
| 翌年 | 500万円 | 200万円 | 200万円 | 300万円 |
| 翌々年 | 300万円 | 200万円 | 200万円 | 100万円 |
| 3年後 | 100万円 | 100万円 | 100万円 | 0円 |
| 累計節税額 | ー | 500万円 | 500万円 | 約100万円 |
当年に通算しきれない損失は翌年以降3年間の繰越控除で活用でき、最大500万円×20.315%≒約100万円の節税効果が見込めます。
損失額が大きい場合は、繰越控除を3年間連続で適用できるよう、毎年の確定申告と利益確定のタイミングを管理することが重要です。
なお課税所得900万円超の方は、配当所得を総合課税(配当控除あり)で申告するより申告分離課税(税率20.315%)を選ぶ方が有利になりやすく、税率構造を踏まえた選択が求められます。
節税制度の併用で効果を最大化する
損益通算と繰越控除を活用する際は、NISA、配当課税方式、iDeCoなどの関連制度もあわせて確認することが大切です。ただし、それぞれ税制上の目的や対象が異なるため、単純に「併用すれば有利」と考えるのではなく、所得・口座・運用目的ごとに判断しましょう。
NISAと特定口座は非課税メリットと損益通算の可否で使い分ける
NISAと特定口座は、非課税メリットと損益通算の可否を踏まえて使い分けることが重要です。
NISA口座は利益が非課税になる一方、損失が出ても特定口座や一般口座の利益とは損益通算できず、繰越控除もできません。そのため、長期保有を前提に非課税メリットを活かしたい資産をNISAで保有し、損益通算の余地を残したい取引は特定口座で管理するなど、目的に応じて使い分けましょう。
- 価格変動の大きい銘柄をNISAに集中させると、損失発生時に税務上の救済を受けられない点には注意が必要です。NISAでは、非課税メリットだけでなく、損失時の扱いも踏まえて商品を選ぶことが大切です。
NISA制度の概要については、こちらの記事もあわせて参考にしてみてください。
課税所得695万円超なら配当は申告分離課税が有利
課税所得が695万円を超える場合、配当所得は総合課税より申告分離課税(税率20.315%)を選ぶ方が有利になりやすいです。
総合課税では配当控除が使えますが、所得税の累進税率と相殺すると、課税所得が695万円を超えると実効税率が申告分離の20.315%を上回る計算となります。
2024年度の住民税課税方式統一改正により、所得税と住民税で別の方式を選ぶ方法は使えなくなりました。自分の課税所得帯を正確に把握し、シミュレーションのうえで方式を選んでください。
iDeCoの掛金で課税所得そのものを圧縮する
iDeCo(個人型確定拠出年金)の掛金は全額が所得控除の対象となり、課税所得そのものを減らせる効果があります。
損益通算・繰越控除が申告分離課税の枠で完結するのに対し、iDeCoは総合課税の課税所得を圧縮するため、両制度の併用は年間の税負担を抑える有効な手段です。
自営業者は月6.8万円、企業年金のない会社員は月2.3万円が現行の掛金上限となっており、職業や勤務先の制度で異なります。
掛金上限は職業や勤務先の企業年金の有無によって異なります。また、2026年12月1日施行予定の制度改正により、iDeCoの拠出限度額や加入可能年齢が見直される予定です。
| 区分 | 現行 | 改正後(2026年12月〜) |
|---|---|---|
| 自営業者(第1号被保険者) | 月6.8万円 | 月7.5万円 |
| 会社員(企業年金なし) | 月2.3万円 | 月6.2万円 |
| 会社員/公務員(企業年金あり) | 月2.0万円 | 月6.2万円(企業年金と合算) |
| 加入可能年齢 | 65歳未満 | 70歳未満 |
拠出限度額の引き上げや加入可能年齢の拡大により、老後資金づくりに活用できる余地が広がります。ただし、iDeCoは原則として老後まで引き出せないため、節税効果だけでなく資金拘束も踏まえて判断しましょう。
iDeCoの活用方法やメリットについて知りたい方は、こちらの記事もあわせて参考にしてみてください。
損益通算と繰越控除で押さえておきたい3つの留意点
損益通算と繰越控除の制度活用では、期限後申告・海外株式の円換算・繰越損失の消化順序など、見落としやすい論点もあります。実務で迷いやすい3点をQ&A形式で整理しました。
還付申告は5年間可能・繰越控除は連続申告が必須
確定申告義務がない人の還付申告は、原則として対象年の翌年1月1日から5年間提出できます。一方、申告義務がある人が期限を過ぎて申告する場合は期限後申告となるため、還付申告とは分けて理解する必要があります。
ただし、繰越控除を遡って適用するには損失発生年から連続して申告している必要があり、途中で抜けると以降の繰越が認められないケースが多くなります。
海外株式の譲渡損益は日本円換算で計算する
海外株式の譲渡損益は、取引時点の為替レートで日本円に換算してから計算するルールです。
国税庁の通達によれば、保有期間中の為替差損益も譲渡損益に含めて計算するため、別途雑所得として申告する必要はありません。
外国で源泉徴収された配当税は、確定申告で外国税額控除を適用すれば二重課税を回避できます。
副業所得が20万円以下でも損益通算を使うなら申告が必要
会社員には「給与以外の所得が年間20万円以下なら所得税の確定申告不要」という20万円ルールがあります。
ただし、損益通算や繰越控除を使う場合は、利益が20万円以下でも確定申告が必須となります。
この記事のまとめ
この記事では、株式投資の損益通算と繰越控除について、当年の利益と損失を相殺する仕組み、最長3年の繰越控除、対象となる所得や対象外となるNISA・FX・暗号資産などの扱い、確定申告の手順を整理しました。損失が出たときは、特定口座年間取引報告書や他口座の損益、配当所得の有無を確認し、還付額と社会保険料・扶養への影響を比較することが重要です。不安が残る場合は、税務署や税理士などの専門家に相談し、自分にとって有利な申告方法を確認しましょう。

金融系ライター
厚生労働省や保険業界・不動産業界での勤務を通じて、社会保険や保険、不動産投資の実務を担当。FP1級と社会保険労務士資格を活かして、多くの家庭の家計見直しや資産運用に関するアドバイスを行っている。金融メディアを中心に、これまで1,000記事以上の執筆実績あり。
厚生労働省や保険業界・不動産業界での勤務を通じて、社会保険や保険、不動産投資の実務を担当。FP1級と社会保険労務士資格を活かして、多くの家庭の家計見直しや資産運用に関するアドバイスを行っている。金融メディアを中心に、これまで1,000記事以上の執筆実績あり。
関連する専門用語
損益通算
投資で発生した利益と損失を相殺することで、課税対象となる利益を減らす仕組みのことです。たとえば、株式投資で50万円の利益が出た一方、別の取引で30万円の損失が発生した場合、損益通算を行うことで、課税対象となる利益は50万円から30万円を引いた20万円になります。この仕組みにより、納める税金を減らすことが可能です。 損益通算が適用されるのは、同じ「所得区分」の中でのみです。たとえば、株式や投資信託の譲渡損益や配当金などは「株式等の譲渡所得等」に分類され、この範囲内で損益通算が可能です。ただし、不動産所得や給与所得など、異なる所得区分間では基本的に通算できません。 さらに、株式投資の損失は、損益通算後も控除しきれない場合、翌年以降最長3年間繰り越して他の利益と相殺できます。これを「繰越控除」と呼び、投資初心者にとっても節税に役立つ重要なポイントです。
繰越控除
繰越控除とは、特定の損失や控除額を翌年度以降に持ち越し、将来の所得から控除できる税制上の仕組みを指す。代表的なものとして、青色申告の純損失の繰越控除があり、一定期間内に発生した損失を翌年以降の利益から差し引くことができる。これにより、赤字企業でも将来の黒字化に伴い税負担を軽減できるメリットがある。ただし、適用には一定の要件があり、期限内に申告する必要がある。
特定口座
特定口座とは、投資家の税金計算を簡便にするための口座形式です。証券会社が運用益や損益を自動計算し、年間取引報告書を発行します。特定口座には「源泉徴収あり」と「源泉徴収なし」の2種類があり、「源泉徴収あり」を選択すれば、税金が取引時点で自動的に納付されます。これにより、確定申告が不要になるため、多くの投資家に利用されています。ただし、損益通算や損失の繰越控除を行う場合は確定申告が必要です。
申告分離課税
申告分離課税とは、特定の所得について他の所得と分離して税額を計算し、確定申告を通じて納税する方式です。 主な対象となる所得は以下の通りです: - 譲渡所得: 土地や建物、株式などの譲渡による所得。 - 山林所得: 山林の伐採や譲渡による所得。 - 先物取引による所得: FXや商品先物取引による所得。 例えば、株式の譲渡所得については、他の所得と合算せずに分離して課税されます。また、上場株式等の配当所得についても、申告分離課税を選択することができます。
総合課税
総合課税は、給与や年金、事業収入、不動産収入、利子、配当など、1年間に得たさまざまな所得を合算し、その合計額に累進税率を適用して所得税を計算する方式です。 所得が増えるほど税率が高くなるため、高所得者ほど税負担が大きくなる点が特徴です。一方、金融所得には総合課税以外の課税方法を選択できる場合があります。 たとえば、株式譲渡益や先物取引益などは「申告分離課税」を選ぶことで、ほかの所得と区分して一律20.315%(所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%)で申告できます。 また、預貯金利息や一部の公社債利子などは、支払元が税金を源泉徴収する「源泉分離課税」となり、原則として確定申告は不要です。配当や利子のように課税方式を選択できるケースでは、ご自身の所得水準や控除の有無、損益通算の可能性を踏まえ、総合課税・申告分離課税・源泉分離課税のどれを採用するかを検討することが、最終的な税負担を抑えるうえで重要になります。
配当所得
配当所得とは、株式や投資信託などから得られる配当金に対して課税される所得のことを指します。企業が得た利益の一部を株主に還元するのが配当であり、それを受け取った人にとっては課税対象となります。日本では通常20%強(所得税と住民税を合わせた税率)が源泉徴収され、証券会社を通じて自動的に差し引かれる仕組みが一般的です。ただし、確定申告を行うことで総合課税や申告分離課税を選択でき、所得の状況によっては税負担を軽くできる可能性があります。投資家にとって配当所得は安定した収益源である一方、課税方法の理解が手取りを増やす工夫につながります。






