
ノバルティス社ドル建て債券(年利4.4%、2044年償還)の魅力とリスクを徹底解説
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公開:
2025.08.16
更新:
2025.08.16
外貨建てで安定的な利息収入を狙える選択肢として、年利4.4%、2044年償還のノバルティス・キャピタル社米ドル建て債券が注目されています。発行体は世界的製薬大手ノバルティス社の保証付きで、高い信用力と長期固定金利の魅力を兼ね備えています。一方で、為替変動や金利動向、繰上償還といった外貨債特有のリスクも押さえておく必要があります。本記事では、基本スペックや収益性、想定されるリスク、さらにどのような投資家に向いているかまでを整理し、長期外貨運用の判断材料を提供します。
サクッとわかる!簡単要約
この記事を読み終える頃には、ノバルティス・キャピタル社が発行する年利4.4%、2044年償還の米ドル建て債券について、信用力や利回りの魅力だけでなく、為替や金利の変動、繰上償還リスクまで含めて、投資判断に必要な視点を体系的に理解できるようになります。加えて、自分の投資スタイルや資産運用目的と照らし合わせ、この債券が長期的な保有にふさわしいかを判断する視点が身につきます。外貨建て債券の評価軸を深め、実践的な選択につながる知識を得られる記事です。
目次
ノバルティス・キャピタル社ドル建て債券の基本スペック
ノバルティス社(Novartis AG)のグループ企業であるノバルティス・キャピタル社(Novartis Capital Corporation)が発行する本社債は、年利4.4%、2044年5月6日償還の米ドル建て社債です。通貨は米ドルで、利息・償還金の支払いもすべて米ドル建てとなります。
利息は固定金利で年2回(毎年5月6日・11月6日)支払われ、初回利払い日は2014年5月6日でした。発行日は2014年2月21日、発行総額は18億5,000万米ドルに上り、複数の海外市場(ニューヨーク、ベルリン、フランクフルトなど)に上場されています。
額面は1,000米ドルと比較的小口から購入可能です。残存期間は2025年現在で約19年と長期であり、発行当初30年という超長期債だったことから現在も長期債に分類されます。
発行体であるノバルティス・キャピタル社は、親会社ノバルティス社によって設立された特別目的会社(SPC)で、グループの資金調達を担います。本債券には親会社ノバルティス社による保証が付されており、債券の信用リスクは実質的にノバルティス本体と同等とみなせます。
ノバルティス社はスイスに本拠を置く世界的製薬企業で、その信用格付はムーディーズがAa3、S&PがAA-(いずれも見通し「安定的」)と高水準です。本債券もそうした高い信用力に支えられた投資適格級の社債であり、長期の安定運用向け商品として注目されています。
債券の仕組みや外貨建て債券投資の基礎知識については、以下の記事でも詳しく解説しています。
債券の発行条件(年利・償還日・通貨など)
本債券はシニア無担保のドル建て社債で、額面金利は年4.4%(税引前)です。2014年2月21日に発行され、償還期限は2044年5月6日となっています。
利払いは毎年5月6日と11月6日の年2回で、既に2014年5月から利息支払いが開始され、償還時まで半期ごとに利息を受け取る設計です。利息・償還元本は米ドルで支払われるため、日本の投資家が保有する場合にはカストディ(国内証券会社)での外貨管理となります。
発行時の発行価格は額面に対して約99.2%で発行されました(2025年現在、市場利回りの動向によって額面100%前後で取引されています)。
発行総額は18.5億米ドルと巨額であり、ニューヨークや欧州の主要取引所に上場されています。このため流通市場でも売買が行われており、必要に応じて途中売却で現金化することも可能です。
額面単位は1,000米ドルで、日本円にして約15万円程度と個人でも手が届きやすい単位です。国内の主要証券会社を通じて購入・保管が可能で、利払い・償還時の受取通貨も円貨・外貨いずれかを選択できます。特別な手続きや海外口座は不要で、一般的な証券口座で取り扱える点も手軽です。
また、本債券には任意償還条項(コールオプション)が設定されています。発行体(ノバルティス・キャピタル)は満期前に債券を繰上償還できる権利を持ち、具体的には償還期限前であれば「額面100%」または「米国債利回り+0.15%(15bp)」の現在価値のいずれか高い価格で繰上償還可能となっています。いわゆる「メークホール(make whole)条項」に近い設計であり、早期償還時でも投資家が一方的に不利にならないよう一定のプレミアムが考慮されます(2044年5月6日以降の最終半年は額面100%で償還可能)。
一部のみ償還が行われる場合、どの債券が償還対象となるかは預託機関(DTC)の規則に基づき決定されます。つまり投資家個別に選択することはできず、想定外のタイミングで保有債券が償還される可能性もあります。このコールオプションについては後ほどリスク要因として詳述します。
基本スペックまとめ
- 発行体(Issuer):Novartis Capital Corp.(ノバルティス・キャピタル)※親会社ノバルティス社が保証
- 通貨建て:米ドル建て
- 額面金利(クーポン):年4.4%(利払い年2回)
- 発行日:2014年2月21日
- 償還期限:2044年5月6日
- 発行総額:18億5,000万米ドル
- 額面単位:1,000米ドル
- 信用格付:Aa3(Moody’s) / AA-(S&P)
発行体の概要と信用力
発行体の親会社で保証人であるノバルティス社(Novartis AG)は、製薬業界で世界トップクラスの規模と実績を持つスイスの多国籍企業です。1996年に創業(複数の医薬品メーカーの合併により誕生)し、本社はスイス・バーゼルにあります。
医療用医薬品を中心に、創薬研究から製造・販売まで幅広く手がけており、がん、中枢神経、心血管代謝など多様な治療領域でブロックバスター(大型医薬品)を有しています。地理的にも北米、欧州、新興国と売上が分散しており、製品ポートフォリオ・販売地域の両面で高い分散効果を持つことが強みです。
その結果、グローバル製薬産業のリーディング企業として強い競争力を保っており、景気変動や個別製品のライフサイクルによる業績ブレにも一定の耐性があります。
財務面でもノバルティス社の安定性は顕著です。2024年12月期の連結売上高は約517億ドル、当期純利益は約119億ドルに達しており、製薬企業として世界有数の収益規模を誇ります。近年は特許切れに伴う売上減少を新薬の投入で補う戦略を着実に遂行し、研究開発への積極投資とコスト効率化策によって高い利益水準を維持しています。
また過去にはジェネリック医薬品部門(サンド社)の分離上場など事業ポートフォリオ再編も行い、主力の創薬事業に経営資源を集中させる動きを見せています。このような堅実な経営戦略と強力なキャッシュ創出力により、ムーディーズAa3・S&P AA-という高格付を付与されています。
格付け各社はいずれもノバルティスの見通しを「安定的」と評価しており、財務基盤と事業競争力の高さから債務不履行リスクは極めて低いとみなされています。
本債券はノバルティス・キャピタル社発行ですが、前述の通りノバルティス社本体の保証付きであり、実質的にノバルティス社と同等の信用リスクを負います。そのため投資家は高い信用力に裏付けられた債券として安心感を持って保有できるでしょう。
さらに、ノバルティスは定期的に社債発行を行っており、社債市場での知名度や流通実績も豊富です。情報開示も国際水準で行われ、透明性が高い点も個人投資家にとって信頼材料です。総じて、発行体の盤石さと情報アクセスの容易さから、本債券は初心者にも取り組みやすい外貨建て社債と言えます。
ノバルティス・キャピタル社が資金調達を担う理由
ノバルティス社が自社ではなく資金調達子会社(ノバルティス・キャピタル社)を通じて社債発行を行うのは、多国籍企業の財務戦略上一般的な手法です。
最大の理由の一つは税務上の効率性で、特にスイス本社が直接社債を発行すると利息支払いに35%もの源泉徴収課税が課されてしまい、海外投資家にとって不利となります。そこでスイス国外に金融子会社(SPC)を設立し、そこで社債を発行することで、この税務上のハンディキャップを回避しているのです。
ノバルティス・キャピタル社はまさにその目的で2008年に設立されたSPCであり、既存債務のリファイナンスや大型買収時の資金調達など、グループの資金調達を専門に担う会社です。同社発行の社債には親会社ノバルティス社による完全かつ無条件の保証が付与されており、投資家にとっては実質的にノバルティス本体と同等の信用リスクである点も安心材料となっています。
また法務・財務戦略の面でも、資金調達子会社の活用にはメリットがあります。例えば米ドル建て債を米国市場で発行する場合、米国法人であるノバルティス・キャピタル社から発行した方が、米国証券取引委員会(SEC)への登録や開示が円滑に行えます。同様に、ルクセンブルク登記のノバルティス・ファイナンス社を通じてユーロ建て債を発行するといったように、市場や通貨ごとに最適な法的枠組みを選択できる柔軟性も得られます。
このように各国の規制や投資家ニーズに合わせた資金調達が可能になるため、多国籍企業は財務機能を子会社に集約する傾向があります。さらに、資金調達を専門会社で一元化することでグループ全体の資金繰り管理を効率化できるほか、万一債務問題が生じた場合でも事業本体と切り離して対処しやすいというリスク管理上の利点も挙げられます。
総じて、税務上の有利性、法規制への適合、財務戦略上の柔軟性とリスク管理の観点から、ノバルティス社はノバルティス・キャピタル社を活用してグローバルな資金調達を行っていると言えます。
この債券のメリット──利回り・信用力・換金性など
ノバルティス・キャピタル社ドル建て債券には、いくつか注目すべきメリットがあります。高い信用力に裏付けられた比較的高水準の利回り、長期固定で得られる安定したインカム収入、そして購入・換金のしやすさ(流動性の高さ)など、個人投資家にとって魅力的なポイントが揃っています。以下では、代表的なメリットを順に見ていきましょう。
比較的高いクーポン利率と長期固定のインカム収入
本債券最大の魅力は、年利4.4%というクーポン金利のもたらすインカム収入です。近年の米ドル建て社債市場では、同等の高格付け(AA前後)の発行体でも利回りはおおよそ3~4%台が多く、4.4%という水準は相対的に高めと言えます。
また、依然として低金利が続く円建て債券と比較すれば、安定したインカム収入源としての優位性は明らかです。たとえば日本の長期国債や円建て社債の利回りが1%未満に留まる中で、4%台の利息を長期間確保できる本債券は、収益面で大きな魅力となります。
債券のクーポンの基本については以下Q&Aをご参照ください。
さらに、このクーポン4.4%は2044年まで固定されているため、市場金利の変動にかかわらず一定額の利息収入を得られる設計になっています。仮に今後市場金利が低下した場合でも、投資家は相対的に有利な高金利条件を維持できます。逆に金利上昇局面では債券価格が下落する可能性はありますが、利息そのものは変わらず支払われるため、「金利が下がったら得、上がっても利息収入は確保」という長期固定金利資産として機能します。
このように長期にわたり安定収入を得られる点は、年金代わりの収入源や将来の資金承継を見据えた運用にも適した特徴と言えるでしょう。
強固な信用力とグローバル企業ならではの安心感
本債券のもう一つの魅力は、発行体の信用力の高さとグローバル企業による信頼感です。前述の通りノバルティス社は製薬業界で卓越した地位を占め、複数の収益源と広範な地域展開によって事業の安定性を確保しています。世界中に事業基盤を持ち、医薬品需要は景気に左右されにくい側面もあるため、同社の収益は比較的安定的です。
こうした発行体の盤石さは、本債券の元利支払い能力の高さに直結しており、投資家に大きな安心感を与えます。実際、本債券はAa3/AA-という投資適格等級で、格付機関からも「信用リスクが極めて低い」水準と評価されています。
また、親会社保証付きである点も信用面でのメリットです。万一発行体のノバルティス・キャピタル社単体に問題が生じても、最終的にはノバルティス社本体が債務を履行する義務を負うため、実質的にノバルティス社への投資と同等の効果があります。ノバルティス社自体が潰れる可能性は非常に低いと考えられるため、債券のデフォルトリスクはほぼ無視できるレベルでしょう。
さらに、ノバルティスは社債市場での知名度・信頼性が高く、情報開示や市場での取引実績も豊富です。世界的な上場企業の社債であることは、外債投資の初心者にとっても心理的な安心材料となります。「聞いたこともない海外企業より、誰もが知る有名企業の債券の方が安心できる」という方も多いでしょう。その点、ノバルティスは世界的企業として一般にも知られており、初めての外貨建て債券として検討する際にもハードルの低い銘柄と言えます。
信用格付けの基礎についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
十分な発行規模と上場による高い流動性
本債券は発行額18.5億ドルと規模が大きく、ニューヨーク証券取引所やドイツのフランクフルト証券取引所など複数の証券取引所に上場しています。世界中の機関投資家・個人投資家によって日々売買されており、この上場体制は万一途中で売却したい場合でも高い換金性(流動性)を担保する要因となっています。
需要のある市場で常に取引されていることで、買い手が付かず売れ残る心配が小さく、価格面でも市場実勢に沿った妥当な水準で売買できる可能性が高いです。個人投資家にとって、必要なときに現金化しやすい商品であることは大きな安心材料でしょう。
加えて、購入のしやすさも見逃せないメリットです。本債券は前述のように額面1,000ドル(約15万円)から投資できます。欧州や新興国の外債では最低投資金額が数万ドルに及ぶケースもありますが、本債券は小口から購入可能なため「まずは試しに少額だけ買ってみたい」といったニーズにも応えやすい設定です。
さらに、国内証券会社を通じて円貨決済で購入・保管が可能で、利払い・償還時も円転は自動で行えます。特別な海外口座を開設したり英語書類を用意したりする必要もなく、通常の日本円建て資産とほぼ同じ感覚で取引できる点は、外貨資産に不慣れな投資家にとって大きな利点です。
一方で個別債券の信用リスクに左右されたくない場合は、債券型投資信託に投資するという選択肢もあります。そのメリットについては以下Q&Aでご確認ください。
注意すべきリスクと制度上の留意点
どれほど魅力的な特徴を持つ社債であっても、投資にリスクはつきものです。ノバルティス・キャピタル社ドル建て債券も例外ではなく、為替変動の影響や早期償還(コール)の可能性、さらに税金・手数料・債券価格変動など、事前に理解しておくべき点があります。ここでは、投資判断にあたって押さえておきたい代表的な留意点を整理して紹介します。
為替変動による元本・利息の目減りリスク
本債券は米ドル建てで発行されており、利息・償還金もすべて米ドルで支払われます。そのため、日本の投資家が円ベースの実質利回りを得るには、為替レートの影響を避けて通れません。
仮に投資時に1ドル=150円だった為替相場が、償還時に1ドル=130円まで円高方向に動いていたとすると、同じ1万ドルの元本でも円換算では約20万円の目減りが生じる計算になります。当然、受け取る利息の円換算額も円高になった分だけ目減りします。
逆に円安が進めば為替差益を得られる場合もありますが、為替相場の予測は難しく、外貨建て債券投資において最も重要なリスク要因の一つがこの為替変動です。特に本債券のような長期債では、投資期間中に為替が大きく変動する余地があり、その影響は無視できません。
為替リスクについては以下のQ&Aもご参照ください。
対策としては、為替ヘッジ手段(為替予約や通貨先物など)の活用も考えられます。しかし、ヘッジにはコストがかかり、それが債券利回りを相殺してしまう可能性もあります。
現実的な対応策としては、利息や償還金をすぐに円転せず米ドルのまま受け取り、為替レートが有利な時期に円転するといった戦略が挙げられます。受取通貨を外貨のままに設定し、ドル建てMMFなどで一時運用しながら様子を見ることも可能です。
為替リスクと上手に付き合うためには、受取時期や方法を分散させる工夫や、自身のリスク許容度・資金用途に応じた計画的な対応が求められます。
繰上げ償還(コールオプション)による再投資リスク
本債券には、発行体の判断で満期前に債券を償還できる「任意償還条項(コールオプション)」が設定されています。
具体的には、2044年5月の満期より前であれば、発行体は本債券を額面100%または米国債利回り+0.15%のいずれか高い価格で繰上償還できる仕組みです(米国債利回り+〇〇bpで算出した現在価値が額面を上回る場合、その高い方で償還)。これは先述のようにメークホール条項に相当し、早期償還されても投資家が大きな損失を被りにくい設計にはなっています。
しかし注意すべきは、コールが実行されるタイミングは発行体に有利な状況である点です。一般に、金利低下局面など企業がより低い金利で借り換えできる環境になれば、発行体はコールオプションを行使して高いクーポンの既発債を償還しようとします。投資家にとっては、本来得られるはずだった将来の利息収入が途中で打ち切られてしまうリスクとなります。
さらに、繰上げ償還によって返ってきた資金を再び同程度の条件で運用できる保証はありません。低金利化でコールされた場合、手元に戻った資金を預金や新たな債券で運用しても、得られる利回りは以前より低くなってしまう恐れがあります。つまり、好条件の運用機会を途中で失う再投資リスクが顕在化します。特に長期債券ほど、将来の金利環境変化による再投資リスクは期間の短い債券より大きくなります。
なお、本債券では一部だけ繰上げ償還が行われる可能性もあり、その場合どの債券(どの投資家)の分が償還されるかはDTC(Depository Trust Company)の規則に基づき機械的に決定されます。個人投資家がコール対象になるか否かを選ぶことはできず、予期せぬタイミングで保有債券が償還されてしまう可能性もある点には留意が必要です。
まとめると、コールオプション付き債券では「高利回りをずっと享受したい」と思っていても、発行体側の都合で途中終了させられるリスクがあるということです。本債券の場合、一定のプレミアム価格で償還される点で投資家保護は図られていますが、再投資先の利回り低下リスクは残るため、長期収入源と考えていたプランが狂う可能性は念頭に置いておく必要があります。
税制・手数料・売買価格に関する注意点
税制面では、本債券の利息には国内公社債と同様に20.315%(所得税・住民税・復興特別所得税を含む)の源泉徴収課税が適用されます。受取利息は支払い時に自動的に課税されるため、基本的に確定申告は不要です(他の譲渡損益との損益通算をしたい場合などを除く)。ただし税引き後の手取り利回りは額面利率より低下する点には注意が必要です。例えば年利4.4%の利息は税引き後およそ3.5%前後になります。
また、償還や売却によって円ベースで為替差益(為替差損)が生じた場合、それは原則として譲渡所得(申告分離課税20.315%)として課税対象となります。売却損が出た場合は他の公社債や株式の譲渡益と損益通算が可能です。
なお、米国企業債の利子については「ポートフォリオ利子免税」の適用により、米国側で源泉徴収課税されることはありません。国内の証券会社を通じて本債券を保有する限り、特段の手続きをしなくても米国での二重課税を避けられるため、日本の税制だけを考えれば問題ない点は安心材料です。
手数料や実質コスト面にも注意が必要です。まず、外貨建て資産である以上、円貨との交換には為替スプレッドがかかります。例えば1ドル=150円の為替レート時に±0.25円のスプレッドが設定されていれば、往復で0.5円(0.33%相当)の為替コストが発生する計算です。購入時と売却時に適用されるレート差によってコストが見えづらいですが、実質的には「高く買って安く売る」形になるため、為替手数料分だけ利回りが削られる点を意識しておきましょう。
加えて、債券そのものの売買においても店頭取引の性質上買値と売値に差(スプレッド)が存在します。明示的な売買手数料が無料でも、このスプレッド分だけ損益に影響することになります。
さらに、債券価格の変動リスクも見逃せません。本債券のような残存期間の長い債券は、市場金利の変動による価格変動幅(デュレーション)が大きくなる傾向にあります。
一般に金利上昇局面では債券価格は下落し、長期債ほどその下落率が大きくなります。途中売却すれば元本割れとなる可能性も十分にあります。逆に金利低下時には債券価格が上昇して評価益が出ることもありますが、本債券は基本的にインカム収入重視で長期保有することを前提とした商品です。短期的な売買差益を狙って頻繁に売買するような運用には向きません。超長期債である本債券は価格変動リスクも大きいため、「満期まで保有できる資金かどうか」をよく考えた上で購入すべきでしょう。
以上のように、ノバルティス・キャピタル社ドル建て債券は多くの魅力を備えつつも、為替・金利・税制・償還条件など複数のリスク要因への理解と備えが必要な商品です。購入前には、ご自身の資金の性格(使途予定の有無や緊急予備資金とのバランス)や運用目的、リスク許容度をあらためて見直し、本債券が適切な選択肢かどうか慎重に判断することが重要です。
どんな投資家に向いているか?──投資判断の視点
ノバルティス・キャピタル社のドル建て債券(年利4.4%、2044年償還)は、高い利回りと信用力を兼ね備えた長期インカム型資産として、長期的な安定運用を志向する個人投資家に適した商品です。とくに、外貨(米ドル)での収益確保やポートフォリオの通貨分散を図りたい投資家にとって、有力な選択肢となり得ます。
一方で、為替変動や途中売却時の価格変動リスク、将来的な金利動向への感応度も無視できないため、そうした不確実性に対する耐性があるかもポイントです。
以下では、この債券がどのようなタイプの投資家に向いているか、または適さないかを整理して解説します。
向いている投資家
- 長期安定的にインカム収入を得たい投資家:定期預金や年金の代替手段として、確実な利息収入を長期間にわたり得たい方に適しています。年4.4%の固定利率を約20年にわたり享受できる設計は、老後の生活資金や次世代への資産承継を見据えた長期運用にも向いています。低リスク国債では物足りないが株式ほどの価格変動リスクは取りたくない、という方にとってバランスの良い商品でしょう。
- 将来米ドルでの支出ニーズがある投資家:お子様の留学費用、将来の海外移住資金、海外不動産購入や国際事業展開など、将来の米ドル建て支出を見越した資金運用を考えている方にも適しています。外貨預金で寝かせておくより高い金利収入を得ながら、為替変動も気にせずドル資産として備えることができます。必要な時期まで米ドルのまま保有し、有利なタイミングで円転すれば為替リスクを抑えつつ計画的な資金準備が可能です。
- 資産ポートフォリオに外貨建て資産を加えたい投資家:円建て資産に偏ったポートフォリオに通貨分散を図りたい方にもおすすめです。ノバルティスという信頼性の高い発行体による米ドル建て社債は、国内債券や日本株とは異なる値動きをする「インカム型」の外貨資産として、ポートフォリオ全体の安定性向上に寄与します。株式の比重が高くボラティリティが気になる場合、本債券のような高格付け債券を組み入れることで値動きを緩和しつつ利息収入を得る効果が期待できます。
向かない投資家
- 近い将来に資金需要がある投資家:数年以内に住宅購入資金や教育費など明確な資金予定がある場合、本債券は不向きです。2044年という超長期設計のため、途中売却せざるを得なくなると想定外のタイミングで元本割れリスクを負う可能性があります。数年〜十年程度で資金化する必要がある資金は、預金や短期債など流動性の高い手段で運用する方が安全でしょう。
- 為替変動に対する耐性が低い投資家:円安・円高による評価額の増減に心理的な不安を感じやすい方には適していません。為替ヘッジを行わない限り、外貨建て債券には必ず為替リスクが伴います。為替レートの上下で評価額が動くことにストレスを感じるようであれば、本債券より円建て資産で運用する方が安心できるでしょう。外貨資産は保有通貨を複数に分散することで為替リスクを薄める効果がありますが、それでもなお円以外の資産価値変動を受け入れられない場合には無理に外貨建て債券を持つ必要はありません。
- 値上がり益(キャピタルゲイン)を重視する投資家:債券は基本的に満期まで保有して利息収入を得ることを目的とする金融商品であり、特に本債券のような長期債は金利変動に対する価格感応度(デュレーション)が大きいため短期売買には不向きです。市場金利の低下によって途中で価格が上昇する局面も考えられますが、タイミング良く売却して利益確定を狙うのは容易ではありません。また繰上げ償還条項もあるため、株式のように長期的な値上がりを期待する商品ではありません。インカムゲイン(利息収入)の確保を優先し、キャピタルゲインは二の次というスタンスの方でないと、本債券の持ち味を活かしきれないでしょう。
まとめると、ノバルティス・キャピタル社ドル建て債券は、高い信用力と安定した利回りを備えた長期運用向けの外貨建て債券として、インカム収入や通貨分散を重視する投資家に適した選択肢です。
一方で、短期で資金が必要になる場合や為替リスクを受け入れにくい場合には慎重な検討が必要となります。ご自身の資産運用の目的やリスク許容度、そして運用期間などを踏まえ、本債券が「長期的に保有できる余裕資金」に該当するかどうかを冷静に判断することが大切です。長期にわたるパートナーとなる投資対象だけに、じっくり検討して上手に活用しましょう。
ノバルティスグループのその他の債券と財務の安全性
主な米ドル建て社債の発行一覧(発行額を含む)
ノバルティスグループの主要な米ドル建て社債は以下の通りです。
発行体 | 発行年 | 償還年 | クーポン(年率) | 発行額(百万米ドル) |
---|---|---|---|---|
ノバルティス・キャピタル社 | 2012年 | 2042年 | 3.70% | 500 |
ノバルティス・キャピタル社 | 2014年 | 2044年 | 4.40% | 1,850 |
ノバルティス・キャピタル社 | 2015年 | 2025年 | 3.00% | 1,750 |
ノバルティス・キャピタル社 | 2015年 | 2045年 | 4.00% | 1,250 |
ノバルティス・キャピタル社 | 2017年 | 2027年 | 3.10% | 1,000 |
ノバルティス・キャピタル社 | 2020年 | 2027年 | 2.00% | 1,250 |
ノバルティス・キャピタル社 | 2020年 | 2030年 | 2.20% | 1,500 |
ノバルティス・キャピタル社 | 2020年 | 2050年 | 2.75% | 1,250 |
ノバルティス・キャピタル社 | 2024年 | 2029年 | 3.80% | 1,000 |
ノバルティス・キャピタル社 | 2024年 | 2031年 | 4.00% | 850 |
ノバルティス・キャピタル社 | 2024年 | 2034年 | 4.20% | 1,100 |
ノバルティス・キャピタル社 | 2024年 | 2054年 | 4.70% | 750 |
※いずれもシニア無担保債であり、ノバルティス社が保証。
ノバルティスグループ全体の社債残高・有利子負債と信用安全性
ノバルティスグループ全体では、2024年12月期末時点の社債発行残高は約246億米ドルにのぼります。また、銀行借入やコマーシャルペーパー等を含む有利子負債全体では約296億米ドル(デリバティブ金融商品を含む)となっています。
自己資本(株主資本)は同時点で約441億米ドルあり、負債比率(Debt/Equity Ratio)は0.67と健全な水準です。
ノバルティスは強固な財務基盤により信用格付も高位安定しており、ムーディーズ社とS&P社からそれぞれAa3 / AA-(見通しは安定的)の格付けが付与されています。
以上から、ノバルティスグループの財務の安全性は総じて高く、社債の信用力も十分に確保されていると評価できます。
この記事のまとめ
ノバルティス・キャピタル社の米ドル建て債券は、安定した利回りと世界的製薬大手による高い信用力を備えた、長期安定運用向けの外貨建て社債として、通貨分散やインカム収入を重視する投資家に魅力的な選択肢です。
為替変動や繰上償還などの注意点はありますが、中長期的な資産形成には有効な手段となり得ます。本債券の活用に迷う場合は、投資目的や資産状況に応じて専門家へ相談し、納得感のある判断につなげることが大切です。

MONO Investment
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ドル建て債券
ドル建て債券とは、アメリカドルで発行され、利息(クーポン)や償還金もすべて米ドルで支払われる債券を指します。日本の投資家がこの債券を購入する場合、実質的に外貨であるドルに投資することになり、為替の影響を受ける金融商品となります。証券会社を通じて円で購入できることも多いですが、その際には円からドルへの為替交換が自動的に行われ、為替レートやスプレッド(手数料の一種)が適用されます。 ドル建て債券は、一般的に日本国内の円建て債券と比べて利回りが高くなる傾向があります。これは米国の金利水準が日本よりも高いことが背景にあり、米国債や投資適格のドル建て社債でその傾向がよく見られます。ただし、利回りが高いからといって常に有利な投資先とは限らず、発行体の信用力や残存期間、債券の種類(固定金利か変動金利か)によってもリスク・リターンの性質は大きく異なります。 ドル建て債券の最大の特徴は、為替リスクを伴う点です。利息も償還金もドルで支払われるため、最終的に円に換算して受け取る際の金額は、受取時点のドル円相場によって大きく変動します。たとえば、投資時に1ドル=100円だったものが、償還時に1ドル=90円へ円高が進んでいた場合、10,000ドルの元本は90万円にしかならず、当初の投資額100万円を下回る結果になります。逆に、円安が進んで1ドル=110円になっていれば、同じ10,000ドルでも110万円の償還額となり、為替差益を得ることができます。 こうした為替の影響を定量的に把握するために、「損益分岐点為替レート」という考え方があります。これは、累計のクーポン収入がどの程度の円高までなら元本割れを回避できるかを示す目安です。たとえば、年利1.5%の債券を5年間保有した場合、税後でおよそ5%程度の利息が得られるため、投資元本をカバーできる為替の上限は購入時レートの約5%円高側、つまり1ドル=100円で購入したなら、損益分岐点は約95円となります。ただし、市場金利の変動に伴う債券価格の変動、為替スプレッド、税金、外貨管理手数料などもこの分岐点に影響するため、あくまで概算の目安です。 ドル建て債券に投資する際は、為替リスクのほかにも金利リスクや信用リスク、流動性リスクといった点にも注意が必要です。米国の金利が上昇すれば既発債券の価格は下落しやすく、特に償還までの期間が長い債券ほど価格変動の影響を大きく受けます。発行体が企業である場合は、その財務状態が悪化することによって利息の支払いや元本の償還が滞るリスク(信用リスク)もあり得ます。また、ドル建て債券は多くが店頭取引であるため、売却時に希望する価格で取引が成立しない流動性リスクにも留意すべきです。 税制面でも日本の課税と米国の源泉税との関係を理解しておく必要があります。日本では利息や為替差益に対して20.315%の源泉分離課税が適用されますが、一部のドル建て債券では米国での源泉課税(通常10%)が先に行われることがあり、二重課税調整が必要になる場合もあります。また、購入時や償還時の為替スプレッドや証券会社ごとの手数料体系によっても実質利回りが変わるため、事前に確認しておくことが重要です。 為替リスクへの対策としては、為替ヘッジ付きの債券ファンドを利用する、利息や償還金をすぐに円に換えずにドル建てMMFなどで再運用しながら為替タイミングを見極める、あるいはポートフォリオ全体で複数通貨建てや円建て資産と分散するなどの方法があります。ただし、ヘッジコストが大きく利回りを押し下げることもあるため、資金用途や運用期間、為替に対する許容度などを総合的に考慮したうえで判断する必要があります。 ドル建て債券は、利回りの魅力に加えて通貨分散の効果もあり、ポートフォリオの一部として検討する価値のある投資対象です。ただし、円建て資産と異なり、為替・金利・信用・税制といった多層的なリスクを正しく理解した上で取り組むことが不可欠です。投資初心者にとっては、利回りの高さだけに注目するのではなく、資金の使用目的や投資期間、自身のリスク許容度を踏まえた慎重な判断が求められます。
クーポン
クーポンとは、債券を保有している投資家が発行体(国や企業)から定期的に受け取る利息のことです。クーポンの金額は、債券発行時に設定された利率(クーポン利率)に基づき計算されます。通常、半年ごとまたは1年ごとに支払われることが多いです。クーポン収入は安定したキャッシュフローをもたらし、特に長期保有する債券投資家にとって重要な収益源となります。
償還期限
償還期限とは、債券などの金融商品において、発行体が投資家に元本を返済する日、つまり「お金を返すと約束した期日」のことを指します。債券を購入すると、通常は定期的に利息を受け取りながら、この償還期限が来るまで保有することになります。そして、償還期限になると、元本(投資した金額)が投資家に返されます。 償還期限が短いものはリスクが低くなりやすく、長いものは利回りが高くなる傾向がありますが、その分金利の変動などの影響を受けやすくなります。投資を行う際は、自分の資金の使い道や目的に合った償還期限を選ぶことが大切です。
固定金利
固定金利とは、契約時に決めた金利が満期まで変わらない金利のことを指します。主に住宅ローンや定期預金などで採用され、金利変動のリスクを避けられるメリットがあります。市場金利が上昇しても支払額が増えないため、長期的な資金計画を立てやすい一方で、市場金利が下がった場合には高い金利を支払い続けるデメリットもあります。
シニア無担保社債
シニア無担保社債とは、企業が資金調達のために発行する社債のうち、担保となる資産を差し入れない「無担保」の形態でありながら、万が一その企業が破綻した場合には優先的に弁済を受けられる「シニア(優先)」の位置づけを持つ債券です。 担保がないため投資家は物的保証を持ちませんが、同じ無担保でも後順位の劣後債より返済順位が高く、株式よりはるかに保全性が高い点が特徴です。発行体の信用力が金利水準を左右し、信用格付けが高い優良企業のシニア無担保社債であれば、比較的低い利回りでも安定した需要があります。一方、発行企業が財務悪化で返済不能に陥れば元本毀損のリスクがあるため、投資判断には財務諸表や格付けの確認が欠かせません。
格付け(信用格付け)
格付け(信用格付け)とは、取引をする際に参考にされる基準の一つで、取引の相手側の信用度を確認するために支払い能力や財務状況、安全性などを総合的にランク付けしたものである。アルファベットや数字で表されるのが一般的である。 (例)格付投資情報センター(https://www.r-i.co.jp/index.html) による発行体格付の定義 AAA:信用力は最も高く、多くの優れた要素がある。 AA:信用力は極めて高く、優れた要素がある。 A:信用力は高く、部分的に優れた要素がある。 BBB:信用力は十分であるが、将来環境が大きく変化する場合、注意すべき要素がある。 BB:信用力は当面問題ないが、将来環境が変化する場合、十分注意すべき要素がある。 B:信用力に問題があり、絶えず注意すべき要素がある。 CCC:発行体の金融債務が不履行に陥る懸念が強い。 CC:発行体の金融債務が不履行に陥っているか、その懸念が極めて強い。 C:発行体のすべての金融債務が不履行に陥っているとR&Iが判断する格付。
投資適格
投資適格とは、信用格付け機関が企業や債券の信用力を評価する際に、一定以上の安全性があると認定された格付けを指す。S&Pの格付けではBBB-以上、ムーディーズではBaa3以上が投資適格とされる。これらの債券はデフォルトのリスクが低く、機関投資家を中心に安定的な投資対象とされる。一方で、投資適格債はリスクが低い分、利回りも低くなる傾向がある。金融市場では、投資適格と投機的格付けの境界を意識した投資判断が重要とされる。
コールオプション
コールオプションとは、「ある資産を、将来のあらかじめ決められた価格(行使価格)で購入することができる権利」のことを指します。これは金融派生商品(デリバティブ)の一種で、主に株式や指数などを対象に取引されます。 この権利は「オプション(選択権)」であり、権利を買った側(買い手)は、将来のある時点でその権利を行使するかどうかを自由に決めることができます。一方で、売り手は買い手が行使を望んだ場合、必ず応じなければなりません。なお、権利を買うためには「プレミアム」と呼ばれるオプション料を支払う必要があります。 たとえば、ある株式が現在100円で取引されているとします。このとき、1か月後にその株を100円で買えるコールオプションを10円のプレミアムで購入したとしましょう。1か月後、もしその株価が150円に上がっていれば、コールオプションを行使することで100円で買い、すぐに市場で150円で売ることで、差額の50円が利益となります。ここからプレミアムの10円を差し引けば、最終的な利益は40円となります。 一方で、もし1か月後に株価が90円に下がっていた場合、その株をわざわざ100円で買う意味はないため、コールオプションは行使されず、買い手は10円のプレミアムを失うだけで済みます。このように、コールオプションの最大損失はプレミアムに限定される一方で、株価が大きく上昇すれば利益は大きくなり得るため、リスク限定・リターン無限大の投資手法とされます。 資産運用の観点から見ると、コールオプションは次のような活用法があります。 まず、「値上がりが見込まれる銘柄に対し、小額で投資したい」場合に有効です。実際に株を購入せず、オプションの形でその値上がり分を狙うことができます。また、すでに株を保有している場合、その株に対してコールオプションを売ることで、追加の収益を得る「カバードコール戦略」などもあります。 ただし、オプションは満期(期限)がある商品であり、時間の経過とともに価値が減少する「タイムディケイ」という特性も持っています。また、価格は原資産の価格だけでなく、市場の変動性(ボラティリティ)、金利、残存期間など様々な要因によって決まるため、仕組みを理解せずに取引を行うと、思わぬ損失を被る可能性もあります。 したがって、コールオプションを活用する際は、まずはその基本的な仕組みやリスク特性をしっかりと理解したうえで、少額から始める、シミュレーションで練習するなど、段階的なアプローチが重要です。 コールオプションは、資産運用の幅を広げる有効な手段の一つです。株式や投資信託などの伝統的な商品に加え、このようなオプション取引を適切に活用することで、より柔軟で戦略的なポートフォリオ構築が可能になります。
メイクホール条項
メイクホール条項とは、債券の発行体が満期前に債券を繰上償還(予定より早く返済)する場合に、債券保有者が将来受け取るはずだった利息分を補償するための取り決めです。この条項があることで、発行体は金利が下がったときなどに債券を早期に返済できますが、保有者にとっては本来得られたはずの収益を失わないよう補填されるしくみになっています。補償金額の計算には、将来の利息を現在価値に割り引くなどの手法が使われます。資産運用の観点では、この条項があるかどうかで債券のリスクやリターンが大きく変わる可能性があるため、投資判断の際には重要なチェックポイントとなります。
再投資リスク
再投資リスクとは、債券や定期預金などの満期時に、元本や利息を再投資しようとした際に、当初よりも低い金利環境でしか運用できないリスクを指す。特に低金利時代には、満期を迎えた資産を同等の収益率で再投資することが難しくなり、将来の収益が減少する可能性がある。長期投資ではこのリスクを考慮し、分散投資や運用期間の調整が重要となる。
為替ヘッジ
為替ヘッジとは、為替取引をする際に、将来交換する為替レートをあらかじめ予約しておくことによって、為替変動のリスクを抑える仕組み。海外の株や債券に投資する際は、その株や債券の価値が下がるリスクだけでなく、為替の変動により円に換算した時の価値が下がるリスクも負うことになるので、後者のリスクを抑えるために為替ヘッジが行われる。
為替スプレッド
為替スプレッドとは、外貨を売るときと買うときに適用される為替レートの差額のことをいいます。たとえば、ある通貨を買うときのレート(TTS)と売るときのレート(TTB)には差があり、この差がスプレッドです。銀行や証券会社などの金融機関は、このスプレッドの中に利益やコストを含めています。 投資家にとっては、スプレッドが広いほど取引コストが高くなるため、外貨預金や外国為替取引(FX)などを行う際には注意が必要です。特に頻繁に取引をする場合や、短期での為替差益を狙う取引では、このスプレッドが実質的な負担となることがあります。為替スプレッドは見えにくいコストのひとつですが、運用の成果に影響するため、取引前にレートの内訳を確認することが大切です。
デュレーション
デュレーションは、債券価格が金利変動にどれほど敏感かを示す指標で、同時に投資資金を回収するまでの平均期間を意味します。 一般に「Macaulay デュレーション」を年数で表し、金利変化率に対する価格変化率を示す「修正デュレーション」は Macaulay デュレーションを金利で割って算出します。 数値が大きいほど金利 1 %の変動による価格変動幅が大きく(例:修正デュレーション 5 年の債券は金利が 1 %上昇すると約 5 %値下がり)、金利リスクが高いと判断できます。一方で金利が低下すれば同じ倍率で価格は上昇します。デュレーションを把握しておくことで、ポートフォリオ全体の金利感応度を調整したり、将来のキャッシュフローと金利見通しに応じて保有債券の残存期間やクーポン構成を選択したりする判断材料になります。特に金利の変動が読みにくい局面や長期安定運用を重視する場面では、利回りだけでなくデュレーションを併せて確認することが重要です。
ポートフォリオ利子免税
ポートフォリオ利子免税とは、アメリカ合衆国において、外国人投資家がアメリカ企業や政府などから受け取る一定の利子収入に対して、アメリカ国内での課税が免除される制度のことをいいます。 具体的には、外国人が米国の企業債や国債などの有価証券を購入し、それによって得られる利子が対象になります。この制度は、米国市場への資金流入を促す目的で設けられており、一定の条件を満たした「ポートフォリオ利子」であれば、通常かかる30%の源泉徴収税が免除されます。 ただし、利子の受け取りに関して、投資家が米国の内国法人や関連会社でないことなど、厳格な条件が定められています。投資家にとっては、税負担が軽くなるため、米国債券市場への投資を後押しするメリットがあります。
SPC(特別目的会社)
SPC(特別目的会社)とは、ある特定の事業や取引だけを行うために設立される会社のことをいいます。主に資産の流動化や証券化など、金融取引を効率的かつリスクを限定して行う目的で使われます。たとえば、不動産やローンなどの資産を切り出して、SPCに移してから証券化することで、投資家がその資産に対して投資できるようにする仕組みが一般的です。SPCは、通常の事業会社とは異なり、活動内容が限定されており、倒産リスクを本体企業から切り離す役割も果たします。これにより、投資家や関係者がより安心して取引に参加できるようになります。資産運用や金融商品の構造を理解するうえで、非常に重要な概念です。
インカムゲイン(インカム)
インカムゲイン(インカム)とは、株式や債券、不動産などの資産を保有していることで定期的または継続的に得られる収益のことを指します。具体的には、株式の配当金、債券の利息、不動産の家賃収入などが代表的な例です。一方で、資産の売買差益から生まれるキャピタルゲインとは異なり、保有し続けることで一定のペースで収入を得る点が特徴です。 インカムゲインを重視する投資では、安定したキャッシュフローを得られることが大きな魅力となります。例えば、株式の配当金は企業の利益から支払われますが、企業の業績や配当方針に応じて増減があるため、定期的なチェックが必要です。債券の利息は発行体の信用力や金利情勢に大きく左右され、金利が上昇すると既存債券の価格が下落するリスクがあります。不動産投資では家賃収入がインカムゲインとなりますが、空室が続いたり修繕費がかさんだりするリスクがあるほか、売却時の価格も景気や立地に左右されるため、投資額の回収が遅れる可能性があります。 これらのリスクを考慮する一方で、インカムゲインには安定性というメリットがあります。資産を保有しているだけでも定期的に資金が手に入り、再投資や生活費に回すことで資産形成を円滑に進めやすい面があります。また、いざ急に資金が必要になった場合には、すぐに売却しなくても配当金や利息で一定の収入を得られる可能性があるため、心理的な安心感につながることもあります。 ただし、インカムゲインを得ようとするあまり、高配当や高利回りをうたう投資商品ばかりに偏ると、発行体の信用リスクや価格変動リスクが高まるケースも考えられます。特に、株式の配当は企業の業績が悪化すれば減配や無配となる恐れがあり、債券の場合でも発行体の破綻リスクや金利上昇リスクが存在します。不動産投資では物件管理の手間や費用が大きく、地方物件などでは買い手が少なく流動性リスクも高くなるため、分散投資の観点で他の資産とバランス良く組み合わせるのが望ましいでしょう。 総じて、インカムゲインは、投資から生まれる継続的な収益を得るための有力なアプローチです。特に、キャピタルゲインだけに頼らず、配当や利息、家賃収入などの定期的な収入源を得ることでリスクを分散しながら安定した資産運用を目指すことができます。ただし、投資対象の選定やリスク管理は欠かせないポイントであり、投資する資金やライフプラン、リスク許容度に応じて最適なバランスを見極める必要があります。
キャピタルゲイン(売却益/譲渡所得)
キャピタルゲインとは、株式や不動産、投資信託などの資産を購入した価格よりも高く売却したことによって得られる利益のことです。一般的な経済用語としては「売却益」と呼ばれ、資産運用における収益のひとつとして広く使われています。日本の税法においては、このキャピタルゲインは「譲渡所得」として分類され、確定申告などで所得として扱われます。つまり、経済的な意味ではキャピタルゲインと譲渡所得は同様の概念を指しますが、前者が広義の利益、後者が課税対象としての所得という違いがあります。投資の成果を判断したり、税金を計算したりするうえで、両者の使われ方を正しく理解することが大切です。
通貨分散
通貨分散とは、資産を複数の異なる通貨で保有することで、特定の通貨に偏ったリスクを抑える投資手法のことです。たとえば、すべての資産を日本円で持っていると、円の価値が下がったときに資産全体の価値も目減りしてしまいますが、米ドルやユーロなど他の通貨で一部を保有していれば、その影響をやわらげることができます。通貨分散を行うことで、為替変動による影響を平均化し、より安定した資産運用を目指すことができます。 特に外貨建ての債券や投資信託などを活用することで、自然と通貨分散が実現できます。長期的な資産形成を考えるうえで、重要なリスク管理の一つです。
DTC(Depository Trust Company)
DTC(Depository Trust Company)とは、アメリカにおける証券の保管や決済を行う中央預託機関で、ニューヨークに拠点を置いています。株式や債券などの金融商品を電子的に管理し、売買された際の証券の受け渡しや資金のやり取りを正確かつ効率的に処理する役割を担っています。 DTCは、米国市場で取引される大半の証券が登録されている中心的な存在であり、ユーロ圏でのユーロクリアに相当するアメリカ版のインフラといえます。投資家が米国の株や外債に投資する際、その裏側ではDTCが証券の記録管理を行っており、安全でスムーズな取引を支えています。普段は目にする機会が少ない存在ですが、国際投資の基盤を支える非常に重要な機関です。
二次市場(セカンダリーマーケット)
ニジシジョウ(セカンダリーマーケット)とは、すでに発行された株式や債券などの金融商品を、投資家同士が売買する取引のことを指します。たとえば、証券取引所で株式を売買するのはすべてセカンダリー取引にあたります。これに対して、企業が新しく株式や債券を発行して資金を集める取引は「プライマリー取引」と呼ばれます。セカンダリー取引は、投資家がいつでも資金を現金化できる流動性を確保する重要な役割を果たしています。資産運用においては、こうした市場の動きや流動性を理解することが、適切な投資判断を行ううえで大切です。