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法定後見制度とは?費用・手続きと資産運用への影響を完全解説

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法定後見制度とは?費用・手続きと資産運用への影響を完全解説

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執筆者:

公開:

2026.06.02

更新:

2026.06.02

資産管理

親や配偶者の判断能力が低下すると、預金の引き出しや施設契約、不動産売却、相続手続きが思うように進まず、家族が対応に行き詰まることがあります。法定後見制度はこうした場面で本人を法的に支える仕組みですが、類型や費用、後見開始後の制約まで含めて理解しないと、判断を誤るおそれがあります。この記事では、制度の基本から申立て手続き、費用、資産運用や相続への影響、他制度との比較までを具体的に解説します。

サクッとわかる!簡単要約

この記事を読むことで、法定後見制度の3類型の違い、申立ての流れ、必要書類、費用感、後見人にできること・できないことを体系的に理解できます。そのうえで、資産凍結や相続手続きの停滞に直面したときに制度を使うべきかを判断しやすくなり、申立て準備や家族内の話し合い、専門家への相談など次の行動を具体的に進められるようになります。

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目次

法定後見制度の基本

制度の目的と背景

認知症と資産凍結の関係

利用が増えている理由

判断能力で分かれる3類型

後見の対象と権限

保佐の対象と権限

補助の対象と権限

法定後見人になれる人の条件と役割

そもそも後見人とは

親族が選ばれるケース

専門職が選ばれるケース

後見監督人の役割

後見人の欠格事由

法定後見の申立て手続きの流れ

申立てができる人の範囲

必要書類と入手方法

審理から審判までの流れ

後見開始までにかかる期間

法定後見制度の費用の内訳と相場感

申立て時にかかる費用

医師の鑑定料の目安

後見人への報酬相場

費用負担を抑える支援と方法

認知症を発症すると相続対策がほとんどできなくなる

制度開始後の財産管理ルール

預貯金口座の扱い

投資信託・株式の制限

不動産売却と家裁の許可

保険・iDeCo・NISAの扱い

後見制度支援信託の活用

法定後見制度による相続・贈与への影響

生前贈与ができなくなる

遺言の作成は意思能力の有無次第

遺産分割協議への参加は代理人が行う

相続税対策はほとんどできない

法定後見制度のメリットとデメリット

制度を使うメリット

見落とせないデメリット

どのような場面で活用を検討すべきか

親の預金が引き出せない時

実家の売却が必要な時

相続手続きが進まない時

法定後見・任意後見・家族信託の比較

資産規模別の選び方

認知症進行度別の選び方

利用すべきかの判断基準

申立てを検討すべき目安

申立てを急ぐべきケース

法定後見の申立て前にやるべき準備

本人の資産を棚卸したリストを作成する

家族での合意形成を図る

必要に応じて専門家へ相談する

申立て費用の負担者を決定する

法定後見制度に関する留意点

基本的に途中でやめられない

親族間トラブルが起こる可能性がある

本人死亡後の手続き義務がある

法定後見制度の基本

法定後見制度とは、判断能力が低下した人に代わり、家庭裁判所が選んだ後見人が財産管理や契約行為を担う制度です。認知症・知的障害・精神障害のある方を法的に支える仕組みとして機能しています。

制度の目的と背景

法定後見制度は、2000年に従来の「禁治産・準禁治産制度」を廃止し、成年後見制度として新たに整備されました。同年に施行された介護保険制度と並ぶ、高齢者支援の柱として位置づけられています。

制度の根幹にある理念は「自己決定の尊重」と「ノーマライゼーション」の2つです。ノーマライゼーションとは、障害の有無にかかわらず誰もが地域社会で普通の生活を送れる社会を目指す考え方を指します。

  1. 旧制度が財産保護を最優先としていたのに対し、現行制度は本人の意思や残存能力を尊重しながら保護を行う設計に改められました。「守る」だけでなく「本人らしく生きる」を支えることが、制度の本質です。

認知症と資産凍結の関係

認知症が進行すると、金融機関は不正出金防止の観点から口座取引を制限します。家族であっても本人に代わって預金を引き出すことは原則認められず、介護施設の入居費や医療費の支払いに支障をきたすケースが問題となっていました。

法定後見制度は、こうした「事実上の資産凍結」を解除できる正規ルートです。後見人が選任されることで金融機関との取引が再開し、必要な費用を適切に管理・支出できるようになります。

利用が増えている理由

最高裁判所事務総局家庭局の「成年後見関係事件の概況」によると、2024年(令和6年)の成年後見関係事件(後見開始・保佐開始・補助開始・任意後見監督人選任事件)の申立件数は合計41,841件で、前年の40,951件から約2.2%増加しました。ここ数年は4万件台で推移しており、緩やかな増加傾向が続いています。

背景にあるのは、高齢化のさらなる進展と認知症高齢者の増加です。2024年の認知症施策推進関係者会議で公表された厚生労働科学研究の最新推計では、2025年の認知症患者数は約471万6,000人、2030年に約523万人、2040年に約584万人、2050年には約586万6,000人に達するとされています。

  1. 加えて、核家族化や単身高齢者の増加により、親族だけで財産管理や身上保護を担いきれないケースが目立つようになりました。身寄りのない高齢者などについて市区町村長が申立てを行う「市町村長申立て」は、2024年の申立人区分で最も多く、全体の約23.9%を占めています。

判断能力で分かれる3類型

法定後見制度は、本人の判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」の3つに分かれます。類型によって後見人等に与えられる権限の範囲が大きく異なります。

後見保佐補助
対象者の状態判断能力を常に欠く判断能力が著しく不十分判断能力が不十分
本人同意の要否不要不要必要
代理権包括的に付与申立てにより追加可申立てにより追加可
取消権日用品以外すべて民法13条1項の行為申立てで指定した行為
同意権なしあり申立てで指定した行為
3類型の比較表

後見の対象と権限

後見は、判断能力を常に欠く状態にある方を対象とする、最も保護が手厚い類型です。重度の認知症や重篤な精神障害により、自分で契約の内容を理解できない状態が対象となります。

  1. 成年後見人には財産全般に関する包括的な代理権と取消権が与えられます。代理権とは本人に代わって契約を結ぶ権限、取消権とは本人が行った不利な契約を後から無効にできる権限です。

日用品の購入など日常生活に関する行為は本人が単独で行えますが、それ以外のほぼすべての法律行為を後見人が代理します。

保佐の対象と権限

保佐は、判断能力が著しく不十分な方が対象です。物事の大枠は理解できるものの、重要な判断を自分だけで行うことが難しい状態を指します。

保佐人には、民法13条1項に定められた重要行為に対する同意権と取消権が付与されます。対象となる行為は借金・保証・不動産の売買・相続の承認または放棄などです。また、申立てによって特定の行為についての代理権を追加で付与することもできます。

補助の対象と権限

補助は、判断能力が不十分ではあるものの比較的軽度なケースを対象とします。3類型のなかで最も本人の自己決定権を尊重した設計になっています。

補助人の権限は、申立て時に指定した特定の法律行為に限定されます。後見や保佐と異なり、補助の開始には本人の同意が必要です。支援の範囲を必要最小限に絞ることで、本人が主体的に生活できる余地を最大限残しています。

法定後見人になれる人の条件と役割

後見人は家庭裁判所が選任します。親族・専門職・法人など選任パターンは多様ですが、近年は専門職が選ばれるケースが主流となっています。

そもそも後見人とは

後見人とは、判断能力が低下した本人に代わって財産管理や契約行為を行う、法律上の代理人です。家庭裁判所が選任し、その職務は裁判所の監督のもとで行われます。

後見人の主な役割は「財産管理」と「身上監護」の2つです。財産管理とは、預貯金の管理・支出、不動産の維持・売却手続きなどを指します。身上監護とは、介護施設への入所契約や医療機関との手続きなど、本人の生活・療養に関わる契約行為を代理することです。

  1. つまり、後見人の役割は被後見人の財産を「守ること」です。積極的に財産を運用したり、組み替えたりすることはできません。また、本人の利益を守るために行動する立場であり、家族の都合や希望を優先することは認められません。

親族が選ばれるケース

配偶者・子・兄弟姉妹などの親族が後見人に選任されるケースでは、一定の条件が整っていることが前提となります。具体的には、管理する財産の規模が比較的小さい、親族間に争いがない、候補者が後見業務を継続して担える状況にある、といった点が重視されます。

親族後見人のメリットは、報酬が発生しないケースが多い点です。ただし、財産目録の作成や家庭裁判所への定期報告など、一定の事務負担は避けられません。また、報酬の有無や額は家庭裁判所の判断によるため、「親族なら必ず無報酬」とは限りません。

  1. また、最高裁判所の令和6年の統計では、親族が成年後見人等に選任されたものは全体の約17.1%であり、親族候補者が申立書に記載されていた事件でも約21.3%にとどまっています。親族が候補者になっても、そのまま選任されるとは限らない点に注意が必要です。

専門職が選ばれるケース

弁護士・司法書士・社会福祉士などの専門職が選任されるのは、主に以下のような場面です。

  • 管理財産が高額である
  • 親族間に対立がある
  • 不動産売却や相続手続きなど複雑な法律問題を抱えている

専門職後見人には月額報酬が発生し、家庭裁判所が管理財産額に応じて金額を決定します。財産規模が大きいほど報酬も高くなるため、富裕層の場合は長期にわたって相当額のコストが生じる点に注意が必要です。

後見監督人の役割

後見監督人とは、後見人が適正に職務を行っているかを監督する立場として家庭裁判所が選任する人物です。後見人とは別に選任され、主に専門職が担います。

後見監督人の主な役割は、後見人の財産管理状況の確認、後見人が提出する報告書のチェック、後見人による不正の防止です。親族が後見人に選任された場合に特に機能する仕組みで、横領などの不正行為の抑止につながります。

後見監督人にも別途報酬が発生するため、後見人報酬と合わせたトータルコストを事前に把握しておくことが重要です。

後見人の欠格事由

民法847条は、後見人になれない人の条件(欠格事由)を定めています。該当する場合は親族であっても選任されないため、申立て前に必ず確認が必要です。

主な欠格事由は以下のとおりです。

欠格事由内容
未成年者成年に達していない者
破産者免責を受けていない破産者
本人と訴訟関係にある者過去または現在、本人と裁判上の争いがある者
行方不明者所在が不明な者
本人に対して虐待・重大な不行跡がある者過去に本人を傷つけた行為がある者

親族候補者が欠格事由に該当する場合、家庭裁判所は職権で専門職後見人を選任します。候補者を立てて申立てをしても、必ずしもその人が選任されるとは限らない点も覚えておきましょう。

法定後見の申立て手続きの流れ

申立てから審判確定まで、一般的に2〜4ヶ月を要します。書類準備の負担が大きいため、司法書士や弁護士に依頼するケースも少なくありません。

申立てができる人の範囲

法定後見の申立てができるのは、本人・配偶者・四親等内の親族・検察官・市町村長などに限られています。四親等内の親族とは、子や兄弟姉妹だけでなく、いとこや甥・姪なども含まれます。

身寄りのない高齢者など、申立てを行える親族がいない場合は、市区町村長が職権で申立てを行う「市町村長申立て」制度を利用できます。近年はこの申立て件数も増加傾向にあり、制度の社会的セーフティネットとしての役割が高まっています。

必要書類と入手方法

申立てには多くの書類が必要です。主な書類と入手先は以下のとおりです。

書類入手先
申立書・申立事情説明書・財産目録家庭裁判所
戸籍謄本・住民票市区町村役場
登記されていないことの証明書法務局
診断書かかりつけ医・専門医
固定資産評価証明書市区町村役場
通帳・保険証券等のコピー本人または家族が用意

診断書は家庭裁判所所定の書式を使用する必要があります。主治医に依頼する際は書式を持参し、記載漏れがないよう事前に確認しましょう。

審理から審判までの流れ

申立て後の流れは、おおむね以下のステップで進みます。

審理から審判までの流れ

  1. 調査官による調査:家庭裁判所の調査官が申立人や後見人候補者と面接し、申立ての経緯や候補者の適性を確認します。
  2. 本人面接:裁判官または調査官が本人と直接面接し、判断能力の状態を確認します。
  3. 医師の鑑定:後見・保佐の申立てでは、原則として医師による鑑定が行われます。鑑定には1〜2ヶ月程度の追加期間が必要です。
  4. 審判書の交付:審理が完了すると審判書が交付され、確定後に後見登記が行われます。

補助の申立ての場合、鑑定が省略されるケースもあり、比較的短期間で手続きが完了します。

後見開始までにかかる期間

申立てから終局までの期間は事案によって異なりますが、最高裁判所の令和6年の統計では、成年後見関係事件の約72.0%が2か月以内、約93.8%が4か月以内に終局しています。

もっとも、書類収集や親族間の調整、鑑定の実施などで長引くこともあるため、不動産売却や相続手続きなど期限のある案件では、準備期間も見込んで早めに動き出すことが重要です。

法定後見制度の費用の内訳と相場感

費用は申立て時の初期費用と、開始後に継続発生するランニングコストに分かれます。初期費用は1〜20万円程度、年間ランニングコストは24〜72万円程度が目安です。

申立て時にかかる費用

申立て時に発生する実費は、以下のとおりです。

費用項目金額の目安
申立手数料(収入印紙)800円
登記手数料(収入印紙)2,600円
郵便切手代3,000〜5,000円程度
診断書作成料5,000〜1万円程度
戸籍謄本・住民票等の取得費用数千円程度
司法書士・弁護士への依頼費用10〜15万円程度

申立書類の作成を専門家に依頼する場合、10〜15万円程度の費用が別途かかります。書類の種類が多く、記載ミスがあると手続きが遅延するため、専門家への依頼はコストに見合う選択といえます。

医師の鑑定料の目安

後見・保佐の申立てでは、事案に応じて医師の鑑定が行われますが、診断書や提出資料によって判断され、鑑定が実施されないケースも少なくありません。最高裁判所の令和6年の統計では、鑑定を実施したものは成年後見関係事件の終局事件全体の約3.8%でした。

また、鑑定費用は10万円以下の事件が全体の約87.1%を占めています。補助では、本人の同意や申立内容も踏まえ、診断書を中心に進むケースがあります。

後見人への報酬相場

専門職が後見人に選任された場合、報酬は家庭裁判所が決定します。報酬額は管理する財産の規模によって異なり、東京家庭裁判所が公表している目安は以下のとおりです。

管理財産額月額報酬の目安
1,000万円以下月2万円(年24万円)
1,000万〜5,000万円月3〜4万円(年36〜48万円)
5,000万円超月5〜6万円(年60〜72万円)

なお、上記の報酬はあくまで基本報酬です。不動産売却や相続手続きなど特別な事務が発生した場合は、付加報酬としてさらに加算されます。

富裕層ほど報酬が高額になるうえ、法定後見は原則として本人が亡くなるまで継続します。仮に10年間、月5万円の報酬が発生し続けると、総額600万円を超えます。制度を利用する前に、長期的なコストを試算しておくことが不可欠です。

費用負担を抑える支援と方法

費用負担を軽減できる公的支援策が複数あります。

支援・方法対象者内容
法テラスの民事法律扶助収入・資産が一定基準以下の方申立費用の立替制度
市区町村の成年後見制度利用支援事業各自治体の基準による申立費用・後見人報酬の助成
後見制度支援信託日常的に使わない大口資産がある方信託銀行に資産を預け、払戻しに家裁の指示書が必要な仕組み

費用負担を抑える手段は複数ありますが、自治体によって使える制度や条件が異なります。まずは地域包括支援センターや法テラスに相談し、利用できる支援を漏れなく確認しましょう。後見制度支援信託はコスト削減だけでなく、不正防止の観点からも有効な選択肢です。

認知症を発症すると相続対策がほとんどできなくなる

法定後見が開始すると、財産管理だけでなく、生前贈与や不動産の組み換え、家族信託の新規設定など、多くの相続対策が困難になります。

  1. 本人の有効な意思表示を前提とする法律行為が制約されるため、判断能力が低下する前に準備できるかどうかが大きな分かれ目になります。これは「デッドロック」とも呼ばれ、多くの家族が見落としがちな制度最大のリスクです。

相続対策の多くは「本人の有効な意思表示」を前提とする法律行為です。判断能力を欠く状態では契約自体が無効となり、後見人も本人の財産を減らす行為は原則できません。

後見開始後に実行できなくなる主な対策は、以下のとおりです。

対策理由
暦年贈与・相続時精算課税による生前贈与財産を減少させる行為は後見人に認められない
生命保険の新規契約・受取人変更本人の意思確認ができず契約が無効になる
不動産の購入・組み換え・共有持分整理投機的・積極的な運用は家裁が認めない
法人設立・資産管理会社への移転本人の判断能力を要する法律行為のため不可
養子縁組本人の意思確認が必須のため実質不可能
家族信託・任意後見契約の新規締結契約能力がなければ締結自体が無効
具体的に止まる相続対策

判断能力があるうちにしか打てない手があります。「まだ大丈夫」と先送りにしていると、気づいたときには選択肢がゼロになっている可能性があります。

制度開始後の財産管理ルール

法定後見が開始すると、本人の財産管理は後見人に移り「本人の利益のための保全的管理」が原則となります。資産運用の自由度は大きく制限され、従来の方針を維持できなくなるケースがほとんどです。

預貯金口座の扱い

後見開始後、通帳・印鑑・キャッシュカードは後見人が管理します。口座名義は「本人名義+成年後見人○○」という形で登録され、後見人以外が勝手に引き出すことはできません。

日常生活費の支出は本人口座から行えますが、大口の出金は家庭裁判所への報告対象となります。後見人は定期的に収支報告書を家裁に提出する義務があり、使途が不明確な出金は問題視されます。家族であっても「必要だから引き出した」という判断は通用しません。

投資信託・株式の制限

元本割れリスクのある積極的な運用は、原則として認められません。後見人の職務は「本人の財産を守ること」であり、リスク資産への新規投資は家裁から認められないケースがほとんどです。

後見開始前から保有していた投資信託や株式についても、新規の買付けは困難になります。相場が下落しても追加投資できず、長期の積立戦略が途中で強制的にストップします。結果として資産が塩漬け状態になるケースが多く、インフレや円安に対応できないリスクも生じます。

不動産売却と家裁の許可

本人の居住用不動産を処分するには、事前に家庭裁判所の許可が必要です。売却だけでなく、抵当権設定や賃貸借契約の解除なども対象となるため、居住用不動産に関する手続きは早い段階でスケジュールを逆算して準備する必要があります。

居住用以外の不動産であっても、売却が本人の利益に資すると認められなければ家裁は許可しません。相続税対策として不動産を組み換えたい場合も、後見開始後はほぼ実行不可能と考えておく必要があります。

保険・iDeCo・NISAの扱い

各金融商品の取扱いは以下のとおりです。

金融商品後見開始後の扱い
生命保険解約・受取人変更は原則不可。既存契約の保険料支払いは継続可
iDeCo新規拠出の停止が必要になるケースあり。受取手続きは後見人が代理可
NISA(新NISA)既存の保有分は継続可能だが、新規買付けは原則困難
暗号資産管理・売却には家裁への報告が必要。投機性が高いと判断されれば売却を求められる場合も

新NISAが普及した現在、高齢の親世代が相当額の運用資産を持つケースが増えています。後見開始によってこれらの資産運用が事実上ストップすることは、家族全体の資産形成にも影響を与えます。

後見制度支援信託の活用

日常的に使わない大口の資産は、後見制度支援信託を活用して信託銀行に預けることができます。払い戻しには家庭裁判所の指示書が必要なため、後見人による横領リスクを大幅に抑制できます。

また、後見制度支援信託を利用すると後見監督人の選任が不要になるケースがあり、監督人への報酬コストを削減できるメリットもあります。ただし信託銀行への預入れには一定の手数料が発生するため、資産規模と照らして費用対効果を検討しましょう。

法定後見制度による相続・贈与への影響

法定後見が開始すると、相続税対策・生前贈与・遺言作成といった手法が事実上停止します。資産規模が大きいほど、その影響は深刻です。

生前贈与ができなくなる

後見人は本人の財産を「守る」立場であり、財産を減少させる贈与は「本人の利益にならない」と判断されます。そのため、暦年贈与(年間110万円の基礎控除を使った贈与)も相続時精算課税による贈与も、原則として認められません。

後見開始前からすでに継続していた贈与計画も、開始と同時に停止せざるを得ません。長年積み上げてきた相続税対策が途中で断ち切られることになります。

遺言の作成は意思能力の有無次第

成年被後見人であっても、一時的に判断能力が回復した状態であれば遺言を作成できます。ただしその場合、医師2名の立会いのもとで判断能力を確認し、遺言書にその旨を付記する必要があります。

ただし、この要件を満たすのは極めてハードルが高く、後見開始後に有効な遺言を作成できたケースはごく少数です。遺言は判断能力があるうちに作成しておくことが、現実的な対策といえます。

遺産分割協議への参加は代理人が行う

本人が相続人となった場合、後見人が代理で遺産分割協議に参加します。ただし、後見人自身も同じ相続の相続人である場合は「利益相反」に該当します。

利益相反とは、代理人と本人の利益が対立する状態を指します。この場合は後見人が代理できず、家庭裁判所に「特別代理人」の選任を申立てる必要があり、手続きがさらに複雑になります。

相続税対策はほとんどできない

後見開始後に実行できなくなる相続税対策は、贈与にとどまりません。不動産の購入・組み換え、法人設立による資産移転、養子縁組による法定相続人の増加なども、すべて本人の判断能力を前提とする法律行為です。

相続税対策後見開始後の可否
暦年贈与・相続時精算課税原則不可
生命保険への加入・活用新規契約は不可
不動産購入・組み換え原則不可
法人設立・資産管理会社活用不可
養子縁組実質不可
遺言作成要件を満たせば可能だが極めて困難

判断能力があるうちに対策を講じることが、相続税負担を抑えるうえで最も重要な前提条件です。「いつか動こう」という先送りが、取り返しのつかない機会損失につながります。

なお、法定相続人や法定相続分については、以下の記事で詳しく解説しています。

法定後見制度のメリットとデメリット

法定後見制度は本人を守る強力な仕組みである一方、開始後の制約は想像以上に重くなります。利用前にメリットとデメリットの両面を正確に把握しておくことが重要です。

制度を使うメリット

法定後見制度の主なメリットは以下のとおりです。

法定後見制度のメリット

  1. 悪徳商法などの不利な契約を取消権によって無効にできる
  2. 金融機関の口座凍結を解除し、介護費用・医療費の支払いが可能になる
  3. 施設入所契約や不動産売却(家裁許可が必要)を後見人が代理できる
  4. 家族が個人で財産管理を担う精神的・実務的負担が軽減される

特に「口座凍結の解除」と「契約取消権」は、他の制度では代替できない法定後見ならではの強みです。

見落とせないデメリット

一方、デメリットも無視できません。

法定後見制度のデメリット

  1. 専門職後見人への月額報酬が本人の死亡まで継続発生する
  2. 資産の積極運用・相続税対策がほぼ不可能になる
  3. 家庭裁判所への定期報告義務が後見人に課される
  4. 原則として途中で制度を終了できない

「思っていたより自由度がなかった」「報酬負担が想定外に重かった」という後悔の声は少なくありません。法定後見は、一度始めると本人が亡くなるまで継続するのが原則です。任意後見や家族信託など他の選択肢と比較したうえで、慎重に判断しましょう。

どのような場面で活用を検討すべきか

法定後見制度が必要になる場面は、ある日突然やってきます。典型的な3つのケースを押さえておくことで、いざというときに迷わず動けます。

親の預金が引き出せない時

認知症の親の口座が金融機関によって事実上凍結され、施設費・医療費・生活費の支払いができなくなるケースは少なくありません。金融機関は本人の判断能力低下を把握すると、不正出金防止の観点から取引を制限します。

  1. 家族であっても「代わりに引き出す」ことは認められません。こうした状況を打開できる正規の手段は、法定後見の申立てだけです。支払いが滞る前に早めに動き出すことが、家族全員を守ることにつながります。

実家の売却が必要な時

親が介護施設に入所し、その費用を捻出するために実家を売却したいケースは増加しています。しかし判断能力のない本人名義の不動産売買契約は、法律上無効です。

後見人による代理売却が唯一の解決策となりますが、居住用不動産の場合は家庭裁判所の許可も必要です。売却の予定がある場合は、買主探しと並行して申立て準備を進めることを強くおすすめします。申立てから審判確定まで数ヶ月を要するため、売却のタイミングを逆算して動く必要があります。

相続手続きが進まない時

父が亡くなり、認知症の母が相続人として遺産分割協議に参加しなければならないケースでは、法定後見の申立てが事実上必須となります。

遺産分割協議は相続人全員の合意が必要です。判断能力のない相続人が一人でもいると、協議が成立せず、預金解約・不動産の名義変更・相続税申告がすべて止まります。相続税の申告期限は死亡から10ヶ月以内と定められており、期限を過ぎると延滞税や加算税が発生します。相続が発生したタイミングで速やかに専門家へ相談しましょう。

法定後見・任意後見・家族信託の比較

判断能力の低下に備える手段は法定後見だけではありません。本人の状況と資産規模に応じて、最適な制度は異なります。

法定後見任意後見家族信託
契約時の判断能力不要必要必要
開始のタイミング判断能力低下後判断能力低下後(契約は事前)契約締結後すぐ
監督機関家庭裁判所任意後見監督人(家裁が選任)なし(当事者間で管理)
資産運用の自由度低い低い高い
相続対策の可否ほぼ不可ほぼ不可設計次第で可能
身上監護(介護施設の契約等)可能可能不可
月額コスト高い(専門職報酬)中程度(監督人報酬)初期費用のみが中心

資産規模別の選び方

資産規模によって適切な制度の組み合わせは変わります。数百万円規模であれば、法定後見でも十分に対応可能です。数千万円規模では任意後見を基本としつつ、一部の資産を家族信託で管理する組み合わせもできます。

1億円を超える富裕層の場合は、家族信託を中心に据えて資産運用の自由度を確保しつつ、身上監護の部分を任意後見で補う設計が現実的です。法定後見はあくまで他の手段を準備できなかった場合の最終手段と位置づけるのが賢明です。

認知症進行度別の選び方

本人の現在の状態によって、選択できる制度は絞られます。

認知症の進行度選択できる制度ポイント
健常〜軽度認知障害(MCI)任意後見・家族信託・法定後見選択肢が最も広い。早期準備が将来の自由度を守る
中等度以上法定後見のみ契約能力の問題から任意後見・家族信託の新規締結が困難

選択できる制度は、本人の状態によって大きく絞られます。判断能力があるうちに動き出すことが、最も重要な対策です。「まだ大丈夫」という先送りが、将来の選択肢をすべて奪うことになりかねません。早めの専門家相談が、家族全員を守ることにつながります。

利用すべきかの判断基準

「使うべきか」「他の手段はないか」「いつ動くか」の3つの視点で整理すると、判断がしやすくなります。状況を正確に見極め、後悔のない選択をしましょう。

申立てを検討すべき目安

以下のいずれかに該当する場合は、法定後見の申立てを具体的に検討すべき段階です。

  • 医師から認知症または判断能力の低下を指摘されている
  • 金融機関での手続きや施設との契約に支障が出ている
  • 任意後見・家族信託の準備時期をすでに逸している
  • 本人が悪徳商法の被害を受けた、または受けるリスクが高い

判断能力の低下は段階的に進むため、「まだ大丈夫」と感じていても実際には手続きが難しい状態になっているケースが少なくありません。早めに専門家へ相談し、客観的な判断を仰ぐことが重要です。

申立てを急ぐべきケース

以下の場面では、申立ての遅延が直接的な金銭的損失や権利侵害につながります。迅速な対応が求められます。

場面申立てを急ぐ理由
不動産売却の予定がある判断能力なしでは売買契約が無効になる
相続が発生した遺産分割協議が成立せず申告期限に遅れる恐れがある
高額医療費の支払いが必要口座凍結で支払いができない状態になる
悪徳商法の被害が発生している取消権を行使するために後見人の選任が必要

申立てから審判確定まで数ヶ月を要することを踏まえ、必要と判断したら即座に準備を始めることが大切です。

法定後見の申立て前にやるべき準備

申立てをスムーズに進めるには、事前準備の質が重要です。書類収集・家族の合意形成・専門家への相談を並行して進めることで、手続き全体の時間を大幅に短縮できます。

本人の資産を棚卸したリストを作成する

申立書に添付する財産目録には、本人が保有するすべての資産を記載する必要があります。以下のチェックリストを参考に、漏れなく把握しておきましょう。

資産の種類確認すべき内容
預貯金金融機関名・支店名・口座番号・残高
有価証券証券会社名・銘柄・口座番号・評価額
不動産所在地・固定資産評価額・登記内容
生命保険保険会社名・証券番号・解約返戻金
年金種類(国民・厚生・企業年金等)・受給額
iDeCo・NISA運営管理機関名・口座番号・評価額
暗号資産取引所名・種類・評価額
ネット銀行金融機関名・口座番号・残高
タンス預金・貴金属保管場所・概算金額
負債借入先・残高・返済状況

ネット銀行や暗号資産は見落とされやすい資産です。通帳や郵便物だけでなく、スマートフォンのアプリやメール履歴も確認しておきましょう。

家族での合意形成を図る

申立て前に家族間で合意しておくべき論点は主に3つです。

論点確認すべき内容
後見人候補者の選定業務を継続して担える人物か・欠格事由に該当しないかを家族全員で確認
申立て費用の負担分担専門家依頼費用を含めた初期費用の負担者を事前に決定
開始後の方針共有後見人への関わり方・報告の共有方法を家族間で話し合っておく

家族間の合意形成は、申立て後のトラブルを防ぐ最大の予防策です。特に費用負担と後見人候補者の選定は、後から揉めやすいポイントです。申立て前に時間をとって話し合い、全員が納得したうえで手続きを進めましょう。

必要に応じて専門家へ相談する

相談内容によって適切な窓口は異なります。

相談先特徴
司法書士(リーガルサポート)申立書作成・手続きサポートが得意
弁護士(権利擁護センター)親族間トラブルや複雑な法律問題に対応
社会福祉士(ぱあとなあ)身上監護・福祉的支援と組み合わせた相談が可能
法テラス費用負担が難しい方向けの無料相談・立替制度あり
地域包括支援センター介護・医療と連携した総合的な相談窓口

法定後見の申立ては、書類の種類が多く、手続きの複雑さから専門家なしで進めることが難しいケースがほとんどです。

費用面の不安があれば法テラス、介護との連携が必要であれば地域包括支援センターなど、相談内容に応じて窓口を使い分けることが大切です。一人で抱え込まず、早めに専門家へ相談することが、手続き全体をスムーズに進める近道となります。

申立て費用の負担者を決定する

申立て費用は原則として申立人が負担しますが、家庭裁判所の判断によって本人の財産から支出できる場合があります。費用負担の合意を家族間で事前に形成しておくことが、申立て後の余計なトラブルを避けるうえで不可欠です。

法定後見制度に関する留意点

制度を利用する前に知っておくべき注意点が3つあります。いずれも見落とすと、後から取り返しのつかない事態を招きかねません。

基本的に途中でやめられない

法定後見は、いったん利用を開始すると途中で任意にやめることはできず、本人の死亡または判断能力の回復による審判取消しまで継続するのが原則です。そのため、「後見人と相性が合わない」「想定より負担が重い」といった理由だけで制度自体を終了させることはできません。

  1. もっとも、本人の判断能力が回復し、家庭裁判所で取消しが認められれば終了する余地はあります。また、後見人に不正や著しい不適切な管理がある場合は、後見人の変更を申し立てることができます。

ただし変更はあくまで後見人の交代であり、制度そのものを終了させることはできません。一度始めたら長期戦になることを、利用前に十分に認識しておく必要があります。

親族間トラブルが起こる可能性がある

後見人の選任をめぐって親族間で対立が生じるケースは少なくありません。「なぜあの人が後見人なのか」「財産の使い方がおかしい」といった疑念が、家族関係を壊す火種になることがあります。

こうしたトラブルを防ぐには、申立て前の家族間での合意形成が最大の予防策です。それでも問題が生じた場合は、後見監督人への報告や家庭裁判所への申立てによって対応できます。親族後見人が不正を行った場合は解任申立ても可能ですが、すでに流出した財産の回収は現実的に困難です。

本人死亡後の手続き義務がある

本人が亡くなると後見業務は終了しますが、後見人にはその後も一定の義務が残ります。具体的には、家庭裁判所への最終報告書の提出、管理していた財産の相続人への引継ぎ、未払い報酬の精算などです。

なお、後見人の権限はあくまで本人の生前に限られます。葬儀の手配や遺品整理など、死後の事務は後見業務の範囲外です。死後の手続きまで任せたい場合は、生前に「死後事務委任契約」を別途締結しておく必要があります。法定後見と死後事務委任契約を組み合わせることで、本人の死亡後もスムーズな手続きが可能になります。

この記事のまとめ

この記事では、法定後見制度の目的や仕組み、3類型の違い、申立て手続き、費用、開始後の財産管理や相続・贈与への影響を整理しました。大切なのは、本人保護のメリットと、資産運用や財産処分の自由度が下がるデメリットをあわせて理解することです。まずは本人の判断能力の状況、保有資産、必要な手続きを整理し、法定後見が適切かどうかを家族で確認したうえで、不安があれば早めに専門家へ相談しましょう。

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柴田充輝

金融系ライター

厚生労働省や保険業界・不動産業界での勤務を通じて、社会保険や保険、不動産投資の実務を担当。FP1級と社会保険労務士資格を活かして、多くの家庭の家計見直しや資産運用に関するアドバイスを行っている。金融メディアを中心に、これまで1,000記事以上の執筆実績あり。

厚生労働省や保険業界・不動産業界での勤務を通じて、社会保険や保険、不動産投資の実務を担当。FP1級と社会保険労務士資格を活かして、多くの家庭の家計見直しや資産運用に関するアドバイスを行っている。金融メディアを中心に、これまで1,000記事以上の執筆実績あり。

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法定後見制度

法定後見制度とは、認知症や知的障害、精神障害などの理由で判断能力が不十分になった人を保護・支援するために、家庭裁判所が選任する「後見人」が本人に代わって財産管理や契約行為などを行う制度です。本人の意思決定が難しくなった後でも、生活や財産を適切に守るための仕組みであり、民法に基づいて運用されています。法定後見制度には、本人の判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」という3つの類型があり、それぞれに必要な支援の範囲や後見人の権限が異なります。 たとえば、銀行口座の管理、不動産の処分、介護サービスの契約などを後見人が代行します。制度を利用するには家庭裁判所への申立てが必要であり、親族や市区町村などが申し立て人になるケースも多く見られます。本人が元気なうちに備える「任意後見制度」との違いを理解することも大切です。

成年後見制度

成年後見制度とは、認知症や知的障害、精神障害などによって判断能力が不十分な成人に対して、法律的な支援を行う制度です。本人の財産を守ったり、契約や手続きに関して適切な判断を代わりに行ったりすることで、不利益を被らないように保護します。 この制度は家庭裁判所の関与のもとで運用され、「後見」「保佐」「補助」という3つの類型に分かれており、本人の判断能力の程度に応じて支援のレベルが異なります。また、将来の備えとして判断能力があるうちに信頼できる人と契約を結んでおく「任意後見制度」もあります。成年後見制度は、高齢化が進む社会において、安心して生活し続けるための法的インフラとして重要な役割を果たしており、資産管理や相続、医療・福祉の現場でも広く活用されています。

成年後見人 (等)

成年後見人とは、判断能力が不十分な人の生活や財産を法律的に支える人のことです。たとえば、高齢による認知症や知的障がい、精神障がいなどで、自分ひとりで契約やお金の管理が難しくなった人に対して、家庭裁判所が選任します。成年後見人には、本人の財産を管理したり、介護サービスの契約を結んだり、遺産分割の手続きに関与したりといった役割があります。「成年後見人等」と表記されることもあり、この「等」には、保佐人や補助人も含まれます。これらの支援者は、本人の権利を守り、安心して暮らせるようにサポートする大切な存在です。資産運用の面でも、必要な支出を管理し、本人にとって不利益にならないように配慮しながらお金を使う責任があります。

後見・保佐・補助

後見・保佐・補助とは、判断能力が不十分な方を法律的に支援する制度であり、成年後見制度の3つの類型を指します。これは主に高齢者や障がいを持つ方の財産管理や契約行為をサポートする仕組みです。「後見」は本人の判断能力がほとんどない場合に適用され、代理人(成年後見人)が広範囲にわたって本人の代わりに行動します。「保佐」はある程度判断能力はあるものの、不十分な方に対し、重要な契約などについて保佐人が同意や代理を行います。「補助」は判断能力が一部だけ不十分な方に対して適用され、必要に応じて特定の行為について補助人が関与します。これらは本人の意思を尊重しながら、財産の保護と適正な資産運用を実現するための制度です。

任意後見

任意後見とは、自分の判断能力が低下する将来に備えて、あらかじめ信頼できる人を後見人として選び、公正証書で契約を結んでおく制度のことをいいます。これは「元気なうち」に本人の意思で準備できる後見制度であり、判断能力が実際に低下したときに、家庭裁判所の監督のもとで任意後見人が正式に活動を開始します。 任意後見人は、本人の財産管理や生活支援などを本人の希望に沿って行うことができるため、自分らしい生活を維持するための手段として注目されています。法定後見と違い、自分で「誰に、何を任せるか」を決めておける点が特徴です。高齢化や認知症のリスクが高まる中で、資産や生活の管理を将来にわたって安心して託すための、重要な準備の一つです。初心者にとっても、「自分の老後を自分で選ぶ」ための有効な制度として知っておく価値があります。

家族信託

家族信託は、委託者が信頼できる家族を受託者として選び、財産の管理・処分・収益の使途などを契約で定める民事信託の一形態です。実務では、公正証書によって信託契約を締結し、現金や不動産、株式などを信託財産として受託者名義に移転します。もっとも、名義が移転しても財産から生じる利益を受け取る権利(受益権)は、委託者本人や指定された家族が保有します。 この仕組みの特徴は、将来、認知症などにより判断能力が低下した場合でも、財産が一律に凍結されることなく、あらかじめ定めた目的に沿って管理・支出を継続できる点にあります。生活費や医療費、介護費用などの支払いを想定した設計が可能であり、成年後見制度とは異なるアプローチで財産管理を行える場合があります。また、相続発生後は信託財産そのものではなく受益権が相続対象となるため、遺産分割の範囲や手続きを整理しやすくなるケースもあります。 一方で、家族信託は相続税を直接減らす制度ではなく、相続や遺言を不要にする仕組みでもありません。税負担や法的効果は、基本的に現行の相続・税務ルールに基づいて判断されます。家族信託はあくまで、生前から財産の管理主体や使途を柔軟に設計するための枠組みであり、節税や相続対策そのものを目的とする制度ではない点には注意が必要です。 活用時には、一定の手続きとコストが発生します。不動産を信託財産に含める場合には信託登記が必要となり、登録免許税や司法書士報酬、公証人手数料などが生じます。また、受託者には、信託口座の管理、収支状況の記録・報告、信託財産と個人財産の分別管理といった継続的な事務負担が伴います。税務上、信託契約の締結時に原則として贈与税は課されませんが、信託財産を売却した際の譲渡所得税や、信託終了時の相続税は通常どおり発生します。 そのため、家族信託は単独で評価するのではなく、成年後見制度や遺言、遺言信託などの代替手段と比較しながら、資産の種類や家族構成、将来の管理負担を踏まえて検討することが重要とされています。家族にとっての実務的な負担と得られる効果のバランスを見極めることが、制度活用の前提となります。

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