
任意後見制度とは?費用やデメリットを踏まえて活用する方法を解説
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公開:
2025.07.29
更新:
2025.07.29
「任意後見制度」とは、将来認知症などで判断力が衰えた時に備えて、自分が元気なうちに信頼できる相手と契約を結び、資産管理や生活支援の代理権を託す仕組みです。高齢化が加速する中、「もしものとき」のために資産凍結リスクを回避する手段として注目されています。しかし、後見監督人への報酬(月額約1〜2万円)など、見落としがちな費用もあり、利用にあたっての注意点も少なくありません。この記事では制度の全体像と具体的な費用、他の制度との違いや落とし穴まで詳しく解説します。
サクッとわかる!簡単要約
この記事を読むと、「任意後見制度」がどのような仕組みで、いつ、誰と契約すべきかを具体的にイメージできるようになります。任意後見監督人への報酬(月額約1〜2万円)が必要なことや、10年間で総額180万円程度の費用がかかる可能性、さらには法定後見制度や家族信託との違いといった、実際に制度を使う際に見落としがちなポイントまで整理できます。資産凍結リスクを防ぎ、将来に備えるための具体的なアクションが取れるようになるでしょう。
目次
任意後見制度とは?判断能力が低下する前に信頼できる後見人を自分で決める備え
制度の仕組み|「本人」「任意後見人」「任意後見監督人」の三者関係を理解する
契約は「公正証書」が必須|公証役場で作成する理由と3つの契約類型
なぜ今注目されるのか?認知症による資産凍結リスクへの有効な対策
任意後見制度のメリット4選:本人の意思を尊重し、資産凍結も防げる
メリット1.柔軟な財産管理:契約次第で不動産売却や資産運用も可能に
メリット2.本人の意思が最優先:後見人選びから介護方針まで自由に設計できる
メリット3.スムーズな資産承継:資産凍結を防ぎ、相続の準備を円滑に
メリット4.家族が後見人になれる安心感:信頼できる身内に財産を託せる
注意点1.「取消権」がないため、本人の不利益な契約を止められない
任意後見制度の手続きフロー|契約から発効までの6ステップをわかりやすく解説
任意後見制度にかかる費用・報酬の全貌|総額はいくら?誰が払う?
2.ランニングコスト:制度が続く限り毎月発生する継続的な報酬
任意後見制度と法定後見・家族信託の比較:あなたに合う制度はどれ?
任意後見と法定後見の違い|大きな違いは「本人の意思」を反映できるか
任意後見と家族信託の違い|財産管理の自由度と「身上監護」の有無で使い分ける
失敗例1:申立てが遅れ、結局希望しない「法定後見」になってしまった
失敗例3:選任された監督人と意見が合わず、手続きが円滑に進まない
任意後見制度とは?判断能力が低下する前に信頼できる後見人を自分で決める備え
人生100年時代を迎え、将来、認知症などで自分の判断能力が衰えたときにどう備えるかは、多くの人にとって重要な課題です。もしものときに備え、自分の財産や生活に関する事柄を誰にどのように託すか、元気なうちにあらかじめ決めておく。そのための有効な手段の一つが「任意後見制度」です。
この制度は、本人が十分な判断能力を持つ間に、将来後見人になってほしい信頼できる人物を自ら選び、その権限内容を契約によって定めておく仕組みです。
制度の仕組み|「本人」「任意後見人」「任意後見監督人」の三者関係を理解する
任意後見制度は、主に以下の三者によって成り立っています。
- 本人:将来、判断能力が低下する可能性に備える人
- 任意後見人:本人が選んだ代理人
- 任意後見監督人:家庭裁判所が選任する監督者
制度の大きな流れは、まず本人が元気なうちに「任意後見人」になる人と契約を結びます。そして将来、本人の判断能力が実際に低下した際に、家庭裁判所が「任意後見監督人」を選びます。この監督人が選任された時点から契約の効力が始まり、任意後見人はその監督のもとで本人を支援します。
任意後見人は、本人の代理として財産の管理や、生活に必要な契約手続き(これを「身上監護(しんじょうかんご)」と言います)を担います。身上監護には、例えば介護サービスの契約や入院手続きなどが含まれます。契約が発効するまでの間、後見人になる予定の人は「任意後見受任者」と呼ばれます。
注意点として、任意後見人は契約で定められた範囲で、本人の利益になることしかできません。例えば、契約書に明記されていない限り、本人のお金を家族に贈与するようなことは認められません。
一方、任意後見監督人は、任意後見人の仕事ぶりを監督する重要な役割を担います。契約が効力を持つと家庭裁判所によって必ず選任され、弁護士や司法書士といった専門家が就くのが一般的です。監督人は、任意後見人から財産状況の報告を定期的に受け、不正がないかをチェックし、家庭裁判所に報告します。
このように、本人が自ら選んだ代理人を、中立的な専門家が監督するという仕組みによって、本人の意思の尊重と財産の保護を両立させているのです。
契約は「公正証書」が必須|公証役場で作成する理由と3つの契約類型
任意後見制度を利用するには、「任意後見契約」を結ぶ必要があります。この契約は、法律によって「公正証書」で作成することが義務付けられています。
公正証書とは、公証人という法律の専門家が作成する公的な文書のことです。公証人が契約当事者の本人確認と意思の確認を行ったうえで作成するため、契約内容が法的に確実なものとなり、将来のトラブルを防ぐ効果があります。
契約手続きは、本人と任意後見人になる人が一緒に公証役場へ行き、契約内容を確認して行います。作成された契約内容は法務局で公的に記録(登記)され、その存在が証明されるようになります。
また、任意後見契約には、利用の目的に応じて主に以下の3つのタイプがあります。
- 将来型:最も一般的なタイプです。まず契約だけを結んでおき、将来、本人の判断能力が低下した時点から後見を開始します。
- 移行型:契約と同時に見守り契約なども結びます。判断能力が十分なうちは見守りなどでサポートし、低下後に任意後見へ移行します。
- 即効型:契約後すぐに家庭裁判所へ申し立て、後見を開始するタイプです。本人の判断能力がすでに低下し始めている場合に利用されることがあります。
なぜ今注目されるのか?認知症による資産凍結リスクへの有効な対策
高齢化が進む現代において、認知症などにより判断能力が低下する方は年々増加しています。もし判断能力が失われると、本人の預金口座が事実上凍結されたり、不動産の売却や管理ができなくなったりする「資産凍結」のリスクに直面します。
そうなると、たとえ本人の介護費用や生活費のためであっても、家族が自由にお金を引き出したり、資産を処分したりすることが難しくなってしまいます。
任意後見制度は、こうした事態を避けるための有効な備えです。元気なうちに将来の代理人を決め、財産管理の方法を具体的に定めておくことで、いざという時にも本人の意思に沿った、円滑な資産の活用と生活の維持が可能になります。これが、今、この制度が注目されている大きな理由です。
任意後見制度のメリット4選:本人の意思を尊重し、資産凍結も防げる
任意後見制度には、将来の財産管理や生活を自分の思い通りに設計できる大きな利点があります。後見人を自分で選べるだけでなく、契約次第で柔軟な資産運用も可能です。判断能力が低下した後も資産が凍結されるのを防ぎ、大切な財産を守ります。他の制度にはない、任意後見ならではの4つのメリットを見ていきましょう。
メリット1.柔軟な財産管理:契約次第で不動産売却や資産運用も可能に
財産をただ守るだけでなく、状況に応じて有効に活用したいと考える方にとって、この制度は大きな力になります。
判断能力が低下した方を法的に支える「法定後見制度」では、財産を「守る」ことが最優先され、本人の財産を積極的に運用することは原則として認められません。
一方、任意後見制度では、あらかじめ結ぶ契約の内容次第で、より柔軟な財産管理が可能になります。例えば、契約書に「有価証券の管理」と定めておけば、後見人が本人のために株式の売買手続きを代理で行うこともできます。本人の利益になるという前提はありますが、法定後見に比べて家族の意向も反映させやすく、より本人や家族の考えに沿った財産管理を実現しやすいのが特長です。
メリット2.本人の意思が最優先:後見人選びから介護方針まで自由に設計できる
任意後見制度の最大の利点は、徹底して「本人の意思」を尊重する点にあります。
誰に将来を託すかという「後見人選び」を、自分自身で行えるのが何より大きな違いです。法定後見では家庭裁判所が後見人を選任するため、必ずしも希望の人物が選ばれるとは限りません。しかし任意後見であれば、「この人になら任せられる」と心から信頼する子供や知人、専門家などを指名できます。
さらに、財産管理の範囲や、介護施設への入所契約といった生活に関する方針(身上監護)まで、支援してもらう内容を契約で細かく具体的に決められます。まさに「自分の人生の締めくくり方は、自分で決めたい」という願いを法的に形にできる制度と言えるでしょう。
メリット3.スムーズな資産承継:資産凍結を防ぎ、相続の準備を円滑に
判断能力が低下した後の「資産凍結」を防げることは、この制度の非常に実用的なメリットです。
認知症などで判断能力を失うと、本人の預金口座からお金を引き出したり、不動産を売却したりすることができなくなります。これが「資産凍結」です。
任意後見制度を利用すれば、判断能力が低下した後も、後見人が契約に基づいて財産を適切に管理・処分できます。これにより資産凍結を防ぎ、必要な介護費用などを計画的に引き出すことが可能です。後見人が直接、遺産分割などの相続手続きを行うことはできませんが、生前の財産をしっかりと維持管理することで、円滑に次世代へ資産を引き継ぐための「地ならし」ができるのです。
メリット4.家族が後見人になれる安心感:信頼できる身内に財産を託せる
財産管理を、全く知らない第三者ではなく、最も信頼できる家族に任せられる。これは何よりの安心材料です。
法定後見では、場合によっては弁護士や司法書士などの専門家が後見人に選ばれ、家族にとっては「突然現れた第三者に財産を預ける」という状況になることもあります。
その点、任意後見制度であらかじめ家族を後見人に指定しておけば、本人も家族も心理的な安心感が大きく、その後の支援もスムーズに進みやすくなります。家族の絆を大切にし、いざという時に身内で支え合う体制を法的に整えておきたいと考える方にとって、非常に価値のある選択肢となります。
任意後見制度のデメリットと注意点|安易な利用は後悔のもと
任意後見制度は万能ではありません。メリットの裏側にあるデメリットを正しく知ることが、後悔しないための第一歩です。本人の契約トラブルに対応できない、専門家の関与や継続的な費用を避けられないなど、安易に利用すると「こんなはずでは」という事態も。必ず知っておくべき4つの注意点を解説します。
注意点1.「取消権」がないため、本人の不利益な契約を止められない
これは任意後見制度の最も大きな弱点であり、利用する上で必ず理解しておくべき点です。
任意後見人に与えられているのは、本人の代わりに行動する「代理権」のみです。判断能力が低下した方を法的に保護する「法定後見人」が持つような、本人が結んでしまった不利益な契約を後から取り消す「取消権」はありません。
例えば、判断力が衰えた本人が悪質な訪問販売で次々と高額な契約をしてしまっても、任意後見人はその契約を法的に取り消す権限を持ちません。つまり、本人を詐欺などの消費者被害から直接守る力は、法定後見制度に比べて弱いと心得ておく必要があります。
注意点2.家族だけで完結せず、専門家の監督を避けられない
「財産管理は、家族だけで気兼ねなくやりたい」という希望は、この制度では叶えられません。
任意後見制度が始まると、家庭裁判所によって必ず「任意後見監督人」が選任されます。監督人には弁護士や司法書士などの専門家が就くのが一般的で、任意後見人が本人の財産を適切に管理しているかを監督し、家庭裁判所に報告する役割を担います。
これは財産を守るための重要な仕組みですが、裏を返せば、常に第三者の専門家によるチェックが入るということです。財産の使い道について細かい報告を求められたり、家族の意向と監督人の意見が対立したりして、ストレスを感じる可能性があることは理解しておきましょう。
注意点3.監督人への報酬など、継続的な費用負担が発生する
任意後見は、一度始まると本人が亡くなるまで続く、長期的な付き合いです。そのため、費用も継続的に発生します。
契約時の公正証書作成費用などに加え、制度が始まった後は、任意後見監督人への報酬を本人の財産から毎月支払う必要があります。管理する財産額にもよりますが、一般的に月額1万円から3万円程度の報酬が発生し、これが亡くなるまで続きます。
将来の資金計画を立てる際には、この長期的なランニングコストがかかることを必ず計算に入れておく必要があります。
注意点4.判断能力の低下後は利用できず、「手遅れ」になる
この制度は、あくまで「元気なうちの備え」です。タイミングを逃すと利用できません。
任意後見契約は、本人が契約内容を十分に理解できる判断能力を持っていることが大前提です。そのため、「まだ大丈夫」と思っているうちに認知症の症状が進み、いざ契約しようとしても本人の判断能力が不十分とみなされ、契約できなくなるケースは少なくありません。
そうなった場合は、任意後見ではなく法定後見制度を利用するしかなくなります。「いつか」ではなく「今」検討することが、この制度を確実に利用するための絶対条件です。
任意後見制度の手続きフロー|契約から発効までの6ステップをわかりやすく解説
任意後見制度の利用は「将来に備える契約」と「支援を開始する発効」の2段階で進みます。手続きにはいくつかのステップがありますが、一つずつ手順を踏めば決して難しくありません。公証役場や家庭裁判所が関わりますが、専門家のサポートも受けられます。まずは全体の流れを掴んでおきましょう。
STEP1:任意後見人候補者の選定と契約内容の設計
まず、将来自分の代理人(任意後見人)になってもらう人を決めます。家族や親族にお願いする場合は、本人の財産状況やどのような支援を希望するかを事前にしっかり話し合っておきましょう。弁護士や司法書士などの専門家に依頼する場合は、具体的な契約内容や報酬について相談し、詰めていきます。
STEP2:公証役場での契約と、契約内容の登記
任意後見人になる人が決まったら、公証役場で「任意後見契約」を締結します。この契約は、法律で「公正証書」によって作成することが定められています。
当日は、本人と任意後見人になる人が一緒に公証役場へ出向き、公証人の前で契約内容を確認します。このとき公証人は、本人が契約内容を正しく理解しているか、意思能力に問題はないかを確認します。もし判断能力が不十分とみなされると、契約はできません。
契約が無事に成立すると、公証人が法務局へ手続きを依頼し、契約内容を公的に記録(登記)します。これにより、契約の存在が法的に証明されるようになります。
STEP3:本人の判断能力の低下(見守り期間)
契約を結んだだけでは、任意後見はまだ始まりません。契約後から実際に判断能力が低下するまでの間は、いわば「見守り期間」です。そして、病気や認知症などにより本人の判断能力が衰え、「契約を発効させて支援を始める必要がある」と判断された時点で、次の段階へ進みます。
STEP4:家庭裁判所への「任意後見監督人」選任の申立て
いよいよ支援を始めるために、家庭裁判所に「任意後見監督人を選任してください」という申立てを行います。この申立ては、本人、配偶者、四親等内の親族、または任意後見受任者(後見人になる予定の人)が行うことができます。
申立ての際には、申立書のほか、主に以下のような書類が必要になります。
- 任意後見契約の公正証書の写し
- 本人の戸籍謄本や住民票
- 本人の判断能力に関する医師の診断書
- 本人の財産目録や関連資料など
STEP5:家庭裁判所による審理と、監督人の選任
申立てを受けた家庭裁判所は、提出された書類を審査し、必要に応じて本人や関係者から話を聞きます。その結果、本人のために支援を開始する必要があると判断されれば、任意後見監督人を選任するという審判(決定)を下します。監督人には、中立的な立場の弁護士や司法書士などの専門家が選ばれるのが一般的です。
STEP6:契約の効力発生と、後見事務の開始
家庭裁判所によって任意後見監督人が選任された時点で、結んでおいた任意後見契約は正式に効力を生じます。
ここからが、任意後見人による後見事務の本当のスタートです。任意後見人は、契約で定められた代理権の範囲内で、本人の預貯金の管理や、介護サービスの契約といった財産管理・身上監護のサポートを実行していきます。
任意後見制度にかかる費用・報酬の全貌|総額はいくら?誰が払う?
任意後見制度の利用には、契約時と制度開始後に費用がかかります。これらの費用は原則として全て、支援を受けるご本人の財産から支払われます。具体的に「いつ」「何に」「いくら」必要になるのか、事前に全体像を把握しておくことが、後悔しないための資金計画の第一歩です。詳しく見ていきましょう。
1.初期費用:契約時と発効時に発生する一時的な費用
まず、制度の準備と開始のために、一時的にかかる費用があります。大きく分けて「契約時」と「発効時」の2つのタイミングで発生します。
<契約時にかかる費用>
-
公証人手数料:約1.5万円から2万円程度
(内訳:基本手数料11,000円、登記嘱託料1,400円、印紙代2,600円など)
-
専門家への文案作成依頼料(依頼する場合):別途、数万円から
<発効時にかかる費用>
-
家庭裁判所への申立費用:約5,000円から1万円程度
(内訳:収入印紙2,200円、連絡用郵便切手代など)
-
医師の診断書作成料:数千円から1万円程度
-
戸籍謄本などの書類取得費用:数千円程度
-
専門家への申立代理依頼料(依頼する場合):別途、5万円から10万円程度
2.ランニングコスト:制度が続く限り毎月発生する継続的な報酬
任意後見制度で最も重要なのが、制度が続く限り発生する継続費用、すなわち「報酬」です。これには、任意後見人と任意後見監督人の両方への報酬が含まれます。
任意後見監督人への報酬
家庭裁判所が選任する監督人には、その仕事に対して報酬を支払う必要があります。報酬額は本人の財産額に応じて家庭裁判所が決定します。
- 管理財産額が5,000万円以下の場合:月額1万円から2万円
- 管理財産額が5,000万円を超える場合:月額2.5万円から3万円
これが、本人が亡くなるまで毎月発生する基本的なランニングコストになります。
任意後見人への報酬
任意後見人への報酬は、契約内容によって自由に決めることができます。
- 家族や知人が後見人になる場合:「無報酬」とすることも可能です。もちろん、月々一定額の報酬を支払う約束もできます。
- 弁護士や司法書士など専門職が後見人になる場合:一般的には有償となり、月額数万円程度の報酬を設定することが多いです。
3.モデルケース:10年間利用した場合の総費用は?
では、具体的に総額はいくらになるのでしょうか。一つのモデルケースで試算してみます。
<前提条件>
- 管理財産:5,000万円
- 継続期間:10年間
- 任意後見人:家族(無報酬)
- 手続き:専門家に依頼せず自分で行う
<費用内訳と10年間の合計費用>
- 初期費用:約2.5万円
- 任意後見監督人報酬:月額1.5万円×12ヶ月×10年=180万円
- 10年間の合計費用(目安):約182.5万円
このケースでは、10年間で約180万円以上の費用がかかる計算です。このほか、後見人の活動に必要な交通費などの実費も本人の財産から支出されます。もし後見が20年続けば、監督人報酬だけで360万円に達する可能性もあり、長期的な視点で資金計画を立てることが非常に重要です。
任意後見制度と法定後見・家族信託の比較:あなたに合う制度はどれ?
本人の判断力が低下すると、銀行口座が凍結されたり、不動産の売却や資産運用ができなくなるといった重大なリスクが生じます。認知症や事故などによって意思決定ができなくなった場合、本人の生活や財産管理をどう支えるかが大きな課題となります。
こうした「判断能力の喪失」や「資産凍結リスク」に備えるための手段として、任意後見、法定後見、家族信託といった制度があります。それぞれ、後見人の選び方や契約の柔軟性、財産管理の自由度などに違いがあり、目的や家族構成によって適した制度は異なります。
「自分の意思が伝えられなくなったときに、誰に、どこまで、どう託すか」。制度ごとの特徴を正しく理解し、将来の選択肢をあらかじめ設計しておくことが、安心につながります。
比較項目 | 任意後見制度 | 法定後見制度 | 家族信託 |
---|---|---|---|
利用開始のタイミング | 判断能力があるうちに契約し、判断能力が低下した後に効力発生 | 判断能力が不十分になってから家庭裁判所に申立てて開始 | 判断能力があるうちに契約し、契約時点から効力発生も可 |
主な目的 | 将来の財産管理と生活支援の準備 | 判断能力が低下した本人の保護と支援 | 柔軟な財産管理と承継設計(親なきあと対策含む) |
支援する人の選定方法 | 本人が任意後見人を自由に指定 | 家庭裁判所が後見人(保佐人・補助人)を選任 | 本人が信頼できる受託者を指定 |
主な権限の内容 | 契約で定めた範囲の代理権(財産・生活関連) | 法律で定められた広範な代理権・同意権・取消権 | 契約で定めた信託財産の管理・運用・処分権 |
身上監護(介護・入院等の手続き) | 可能(契約内容により) | 可能(法定の権限) | 不可(原則、財産管理のみ) |
取消権(不利益な契約の取消) | 不可 | 可(強力な保護手段) | 不可 |
監督体制 | 家庭裁判所が任意後見監督人を必ず選任 | 家庭裁判所が監督(必要に応じて監督人も) | 原則なし(任意で信託監督人を設置可) |
本人死亡後の財産の扱い | 不可(本人死亡で契約終了) | 不可(本人死亡で後見終了) | 可能(契約で死後の承継先を指定できる) |
初期費用 | 数万円程度(契約書作成・公正証書費用) | 数万円程度(申立書作成・医師鑑定費用など) | 数十万円程度(契約書・登記・専門家報酬など) |
継続費用 | 毎月1万〜2万円程度(任意後見監督人への報酬) | 毎月1万〜3万円程度(後見人報酬、専門職なら高額) | 原則なし(家族が受託者なら費用不要、専門職の場合は別途報酬) |
任意後見と法定後見の違い|大きな違いは「本人の意思」を反映できるか
任意後見と法定後見の最も本質的な違いは、「本人の意思をどれだけ反映できるか」という点にあります。
まず、制度を「いつ始めるか」が異なります。任意後見は、本人が元気なうちに自らの意思で準備する「事前の備え」です。一方の法定後見は、すでに判断能力が低下してしまった後で、家族などが家庭裁判所に申し立てて開始する「事後の救済策」です。
また、「誰が後見人になるか」も大きく違います。任意後見では本人が信頼する人を選べますが、法定後見では家庭裁判所が後見人を選任するため、家族が希望しても専門家が選ばれるケースが少なくありません。
さらに、後見人の「権限の範囲」にも差があります。任意後見人は契約で定められた代理権しか持ちませんが、法定後見人は本人の不利益な契約を取り消せる「取消権」も持つため、本人を保護する力はより強力です。
まとめると、「自由度の任意後見」、「保護力の法定後見」と整理できるでしょう。
任意後見と家族信託の違い|財産管理の自由度と「身上監護」の有無で使い分ける
財産管理の柔軟性を重視するなら、家族信託も有力な選択肢です。ただし、できることの範囲に大きな違いがあります。
最大の違いは、介護サービスの契約や入院手続きといった「身上監護」ができるかどうかです。任意後見は財産管理と身上監護の両方をカバーできますが、家族信託はあくまで財産の管理・運用・承継が目的のため、身上監護は行えません。
また、監督体制も異なります。任意後見は家庭裁判所が選任する監督人による公的なチェックが入りますが、家族信託は公的な監督はなく、家族間の信頼関係に基づいて運営されます。その分、自由で柔軟な財産管理や、本人が亡くなった後の財産の承継先まで指定できる強みがあります。
費用面では、一般的に初期費用は家族信託の方が高額になる傾向があり、ランニングコストは任意後見で監督人報酬が継続的にかかる、という特徴があります。
家族信託については以下記事で詳しく解説しています。
任意後見制度のよくある失敗事例と後悔しないための回避策
「せっかく準備したのに、こんなはずでは…」。任意後見制度で後悔しないためには、よくある失敗のパターンを知り、事前に対策を立てることが不可欠です。実は失敗例には共通点があり、事前に知っておけば防げるものがほとんどです。ここでは代表的な3つの落とし穴と、具体的な回避策を解説します。
失敗例1:申立てが遅れ、結局希望しない「法定後見」になってしまった
「高齢の母と任意後見契約を結んだものの、息子が『まだ大丈夫だろう』と手続きを先延ばしにしている間に、母の判断能力が著しく低下。結局、必要な手続きが間に合わず、他の親族が申し立てた『法定後見』が開始されてしまった」というケースです。
任意後見契約は、家庭裁判所に監督人選任の申立てをして初めて効力を生むため、契約しただけでは「絵に描いた餅」になってしまいます。
契約を結んだら、その契約書のコピーを他の親族(兄弟など)にも渡して情報共有しておくことが有効です。また、どのくらいの状態になったら申立てを行うか、あらかじめ家族内で話し合っておくと良いでしょう。後見人になる予定の人は、本人の希望を実現する責任があることを自覚し、適切なタイミングで手続きを進めることが重要です。
失敗例2:親族の任意後見人による財産の使い込みが発覚した
「信頼して後見人を任せた親族が、生活費と本人の財産を混同してしまったり、『家族だからこれくらい良いだろう』という甘えから、本人の預金を私的に流用してしまったりしていた」というトラブル事例です。
任意後見監督人によるチェックはありますが、日々の細かいお金の動きまで完全に把握することは困難です。
まず、後見事務に使うためのお金は、本人の他の財産とは別に、専用の口座で管理することを徹底しましょう。さらに、毎月簡単な収支報告書を作り、他の親族にもメールなどで共有するルールを設ければ、相互の牽制が働き、不正を防ぎやすくなります。何よりも、後見人を頼む相手が本当に信頼できる人物か、契約前に冷静に見極めることが大前提です。
任意後見制度の不正監視と対策方法については以下Q&Aでも説明しています。
失敗例3:選任された監督人と意見が合わず、手続きが円滑に進まない
「家庭裁判所が選んだ監督人(専門職)が非常に厳格で、家族が良かれと思って行った支出を『不適切だ』と指摘されたり、柔軟な財産管理を認めてもらえなかったりして、関係が悪化してしまった」という例です。
監督人はあくまで中立な立場で法律に則って職務を行うため、家族の感情とは相容れない場面も出てきます。
まず、申立ての際に、信頼できる専門家を監督人の候補者として推薦することが可能です(必ず選ばれるとは限りません)。また、監督人が決まったら、できるだけ早く面談の機会を設け、本人の人柄やこれまでの生活、家族の想いなどを丁寧に伝え、良好なコミュニケーション関係を築く努力が不可欠です。敵対するのではなく、良きパートナーとして協力する姿勢が大切になります。
任意後見の相談は誰にするべき?専門家(司法書士・弁護士)の選び方と費用
任意後見制度の利用を考え始めたら、一度専門家に相談するのが成功への近道です。しかし「誰に、何を、どう相談すれば良いか」と不安に思う方も多いでしょう。この章を読めば、専門家探しのポイントから、相談前に準備すること、面談で確認すべきことまで分かり、安心して第一歩を踏み出せます。
1.信頼できる専門家を見つける3つのポイント
相談先は主に司法書士や弁護士になりますが、誰に頼んでも同じというわけではありません。以下の3つの視点で、あなたに合う専門家を見つけましょう。
ポイント1:経験と実績
成年後見や家族信託に関する相談実績が豊富かを確認しましょう。事務所のウェブサイトで取扱業務を確認したり、関連分野でのセミナー登壇歴などを参考にしたりするのも有効です。
ポイント2:説明の丁寧さと姿勢
あなたの話を親身に聞いてくれるか、メリットだけでなくデメリットやリスクも隠さず説明してくれるかなど、誠実な姿勢かどうかを見極めましょう。難しい専門用語を分かりやすい言葉に置き換えてくれるかも重要な判断基準です。
ポイント3:費用の明確さ
相談料、契約書作成費用、申立代理費用など、何にいくらかかるのかを事前に分かりやすく提示してくれるか確認します。初回相談を無料としている事務所も多いので、まずはそうした機会を活用してみるのも良いでしょう。
地域の司法書士会や弁護士会、法テラス(国の法的支援機関)といった公的な窓口に相談して、適した専門家を紹介してもらう方法もあります。
2.相談をスムーズに進めるために、事前に準備すべきこと
限られた相談時間を有効に使うため、事前に簡単なメモを用意しておくと話がスムーズに進みます。
①実現したいことや不安に思うことの整理
「将来、認知症になった親の預金管理を子供ができるようにしたい」「自分の財産を確実に長男に管理してほしい」など、何を実現したいのか、また何に不安を感じているのかを書き出しておきましょう。
②資産状況や家族関係のメモ
おおまかな資産内容(預貯金、不動産、有価証券など)や、家族構成、登場人物の関係性が分かる簡単なメモがあると、専門家はより具体的で的確なアドバイスができます。プライベートな情報ですが、最適なプランのためには正確な情報共有が不可欠です。
3.初回相談で必ず確認したい質問リスト
専門家との面談は、疑問を解消する絶好の機会です。遠慮せず、納得できるまで質問しましょう。特に以下の点は確認しておくことをおすすめします。
- 「私のケースでは、どのような契約内容が考えられますか?」
- 「手続き完了まで、トータルでどのくらいの費用と期間がかかりますか?」
- 「私の家族構成や資産状況で、特に注意すべきデメリットはありますか?」
- 「先生(事務所)にお願いした場合、具体的にどこまでサポートしてもらえますか?」
良い専門家は、こうした質問にも快く、そして丁寧に答えてくれるはずです。複数の専門家に相談してみて、最も信頼できると感じた人に依頼するのが良いでしょう。
この記事のまとめ
任意後見制度は、自分自身の意思で資産管理や生活支援を託す相手を決め、将来の資産凍結リスクを防げる有効な手段です。ただし、任意後見監督人への報酬(月額1~2万円)や取消権がないというリスクを踏まえ、注意深い検討が欠かせません。また、判断能力が十分なうちにしか契約できないため、手遅れになると法定後見制度への移行が必要になります。家族としっかり話し合ったうえで専門家へ相談し、制度のメリットを最大限に活用しましょう。

MONO Investment
投資のコンシェルジュ編集部は、投資銀行やアセットマネジメント会社の出身者、税理士など「金融のプロフェッショナル」が執筆・監修しています。 販売会社とは利害関係がないため、主に個人の資産運用に必要な情報を、正確にわかりやすく、中立性をもってコンテンツを作成しています。
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任意後見
任意後見とは、自分の判断能力が低下する将来に備えて、あらかじめ信頼できる人を後見人として選び、公正証書で契約を結んでおく制度のことをいいます。これは「元気なうち」に本人の意思で準備できる後見制度であり、判断能力が実際に低下したときに、家庭裁判所の監督のもとで任意後見人が正式に活動を開始します。 任意後見人は、本人の財産管理や生活支援などを本人の希望に沿って行うことができるため、自分らしい生活を維持するための手段として注目されています。法定後見と違い、自分で「誰に、何を任せるか」を決めておける点が特徴です。高齢化や認知症のリスクが高まる中で、資産や生活の管理を将来にわたって安心して託すための、重要な準備の一つです。初心者にとっても、「自分の老後を自分で選ぶ」ための有効な制度として知っておく価値があります。
任意後見人
任意後見人とは、本人が将来判断能力を失った場合に備えて、あらかじめ信頼できる相手と結んでおいた「任意後見契約」に基づき、本人の財産管理や生活支援などを代わりに行う人のことです。この契約は、本人がまだ判断能力のあるうちに公正証書で結ばれ、実際に判断能力が不十分になったと家庭裁判所が判断し、任意後見監督人が選任された段階で効力が発生します。 任意後見人の業務は、日常の金銭管理や契約手続き、介護サービスの手配、不動産の管理など多岐にわたり、本人の意思を尊重しつつ、その権利や生活を守ることが求められます。家族や専門職(司法書士・弁護士など)が任命されることが多く、安心して老後を迎えるための備えとして注目されている制度です。
任意後見監督人
任意後見監督人とは、将来に備えてあらかじめ結んでおいた「任意後見契約」が実際に発効されたときに、任意後見人の業務が適正に行われているかを監督する立場として、家庭裁判所により選任される第三者のことです。本人の判断能力が低下し、任意後見契約の内容に基づいて後見が開始された場合、任意後見人だけでは不正やミスが起きるおそれがあるため、それをチェックする役割を担います。 任意後見監督人は通常、弁護士や司法書士などの専門職が選ばれ、定期的に家庭裁判所へ報告を行いながら、任意後見人の活動を見守ります。資産管理や生活支援を本人に代わって行う制度を円滑かつ安全に機能させるための重要な存在であり、任意後見制度の信頼性を支える柱となります。
任意後見受任者
任意後見受任者とは、本人がまだ十分に判断能力のあるうちに、将来判断能力が低下したときに備えて「任意後見契約」を結ぶ相手方となる人のことです。この契約は公正証書によって行われ、任意後見受任者は本人の希望に基づき、財産管理や生活支援などを将来的に担うことになります。 ただし、契約を結んだ段階では後見の業務は始まらず、本人の判断能力が実際に低下し、家庭裁判所が「任意後見監督人」を選任した時点で初めて、任意後見人としての職務が正式に開始されます。任意後見受任者には、信頼できる家族や親族のほか、弁護士や司法書士などの専門職が選ばれることが多く、将来の安心を確保するための重要な存在となります。
身上監護(しんじょうかんご)
身上監護(しんじょうかんご)とは、本人の生活や健康、福祉などに関わる事柄について、本人の意思を尊重しながら必要な支援や意思決定の代行を行うことを指します。これは成年後見制度において、後見人が担う重要な役割のひとつで、財産管理とは異なる側面の支援です。 たとえば、介護サービスの利用手続き、施設への入所契約、医療機関との対応、日常生活の環境整備などが含まれます。身上監護は、本人の人格と尊厳を守り、その人らしい生活を送れるよう支援することを目的としており、後見人には単なる「代行者」ではなく、本人の意思をくみ取り、必要な配慮をしながら行動することが求められます。高齢者や障がいのある方の生活を支えるうえで、身上監護は法的・実務的に非常に重要な概念です。
公正証書
公正証書とは、公証人という法律の専門家が法律に基づいて作成する公式な文書のことをいいます。これは、契約内容や遺言などを法的に強い効力をもって証明するために用いられ、文書の信頼性を高める役割を果たします。たとえば、金銭の貸し借りに関する契約を公正証書にしておくと、返済が滞った場合に裁判を経ずに強制執行(差し押さえなど)を行うことができるようになります。 このように、公正証書には「証明力」と「執行力」があり、将来のトラブルを防ぐために非常に有効です。資産運用や相続、離婚時の財産分与、贈与契約など、法的な取り決めを明確にしておきたい場面で利用されます。初心者にとっても、「書面で約束を残す」ことの重要性を理解するうえで、知っておくと安心な制度です。
公証役場(こうしょうやくば)
公証役場(こうしょうやくば)とは、公証人が法律に基づいて文書の作成や認証を行う場所で、公的に証明された文書(公正証書など)を作成するための機関です。公証人は法務大臣から任命された法律の専門家で、私文書に法的な効力や証明力を持たせる役割を果たします。 たとえば、金銭の貸し借りに関する契約を公正証書にしておくと、万が一返済が滞った場合には裁判を経ずに強制執行が可能になるなど、トラブルを未然に防ぐ手段として活用されます。また、遺言、公正証書遺言、任意後見契約、会社設立時の定款認証など、個人や法人の重要な法的手続きに広く利用されており、契約や証明の信頼性を高めるうえで欠かせない存在です。
登記(登記手続き)
登記とは、会社の設立や変更、財産の所有権などの法的事項を公的な記録として登録する手続きのことを指します。会社の登記は法務局で行われ、商号、本店所在地、役員構成などが記録されます。これらの登記情報は誰でも確認でき、取引の透明性を確保するために重要な役割を果たします。 投資家にとっても、登記情報は企業の実在性や信用を確認するための客観的な根拠のひとつであり、投資判断の信頼性を高める助けになります。また、不動産投資においても、登記を通じて所有権や担保権の状態を確認できます。
将来型
将来型とは、現時点では効力が発生せず、本人の判断能力が低下したときに初めて発効する契約や制度のタイプを指します。主に「任意後見契約(将来型)」において使われる用語であり、契約そのものは元気なうちに公正証書で結んでおき、実際に判断能力が衰えた段階で家庭裁判所が任意後見監督人を選任することで、後見人の職務が正式に開始されます。 このしくみによって、本人が元気なうちは自分の意思で生活を続けながら、将来に備えて信頼できる人に後見を委ねる準備ができるという安心感があります。高齢者の生活設計や認知症への備えとして、柔軟性と安全性の両方を兼ね備えた制度のひとつです。
移行型
移行型とは、任意後見制度における契約の形態の一つで、任意後見契約と同時に財産管理等の委任契約を結び、契約締結後すぐに受任者が支援を開始し、本人の判断能力が低下した後に任意後見に「移行」するしくみを指します。 この方式では、本人がまだ判断能力を保っている段階から生活支援や財産管理を受けられるため、老後の生活設計をスムーズに行うことができます。そして判断能力が不十分になったと家庭裁判所が認めた時点で、任意後見監督人が選任され、任意後見契約が発効します。移行型は、支援の継続性や信頼性を重視する人に適しており、元気なうちから少しずつ支援を受けながら、将来的な後見に備える安心感が得られる方式です。
即効型
即効型とは、任意後見契約の形態の一つで、契約締結と同時に家庭裁判所が任意後見監督人を選任し、任意後見契約の効力がすぐに発生する方式を指します。本人の判断能力がすでに不十分と判断されている場合に利用され、委任契約や移行の手続きを経ることなく、直ちに任意後見人による支援が開始されます。 これにより、本人が自力で判断や手続きができない状態であっても、信頼できる後見人が財産管理や生活支援を速やかに行えるようになります。即効型は、すぐに支援が必要な状況にある人にとって非常に有効な制度であり、家族や関係者が混乱なく対応できるようにするための仕組みとして活用されています。
資産凍結
資産凍結とは、特定の個人や法人が保有している預金口座、証券、不動産などの資産について、その使用や移動を法律的に制限または禁止する措置のことです。この措置はさまざまな場面で用いられますが、代表的な例としては、国際的な制裁、犯罪捜査、あるいは相続開始時における名義変更停止などがあります。 特に相続においては、被相続人が死亡した時点でその名義の銀行口座などが一時的に凍結され、相続人全員の合意が整うまで引き出しや運用ができなくなります。これにより、相続トラブルの防止や不正な資産移動の回避が図られる一方、生活費や葬儀費用の支払いに困るケースもあり、事前の備えや制度理解が重要となります。
法定後見制度
法定後見制度とは、認知症や知的障害、精神障害などの理由で判断能力が不十分になった人を保護・支援するために、家庭裁判所が選任する「後見人」が本人に代わって財産管理や契約行為などを行う制度です。本人の意思決定が難しくなった後でも、生活や財産を適切に守るための仕組みであり、民法に基づいて運用されています。法定後見制度には、本人の判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」という3つの類型があり、それぞれに必要な支援の範囲や後見人の権限が異なります。 たとえば、銀行口座の管理、不動産の処分、介護サービスの契約などを後見人が代行します。制度を利用するには家庭裁判所への申立てが必要であり、親族や市区町村などが申し立て人になるケースも多く見られます。本人が元気なうちに備える「任意後見制度」との違いを理解することも大切です。
取消権
取消権とは、すでに成立した法律行為(たとえば契約など)に対して、一定の理由がある場合に、その効力を後から無効にすることができる権利のことです。代表的な例としては、未成年者が親の同意なく契約した場合や、詐欺や脅迫によって契約させられた場合などに、後からその契約を取り消すことが認められています。 取消権を行使すると、その契約は最初からなかったこととされ、元の状態に戻す義務(返還義務)が発生します。この権利は、不当な契約や不利益な取引から当事者を保護するための重要な制度であり、資産運用や消費者取引、相続の現場でも用いられることがあります。特に高齢者や判断能力が不十分な人をめぐる取引では、取消権の存在が大きな安全装置となります。
家族信託
家族信託とは、ご自身の財産を信頼できる家族に託し、その管理や運用を契約で定めた目的に沿って行ってもらう仕組みです。委託者さまは公正証書で信託契約を締結し、現金や不動産、株式などを信託財産として受託者名義に移転します。これにより、たとえ将来認知症を発症されても資産が凍結されず、受益者さまへ生活費や医療費を継続して届けられる点が大きなメリットです。相続発生後は受益権そのものが相続対象となるため、遺産分割協議を簡素化できる効果も期待できます。 もっとも、家族信託には手続きと費用が伴います。不動産を組み入れる場合は信託登記が必要となり、登録免許税や司法書士報酬、公証人手数料が発生いたします。また、受託者さまは信託口座の開設、収支報告書の作成、信託財産とご自身の財産の分別管理など、煩雑な事務を担う義務があります。税務面では契約締結時に贈与税が課税されることは原則ございませんが、信託財産を売却した際の譲渡所得税や信託終了時の相続税は避けられません。そのため、成年後見制度や遺言信託と比較しながら、費用対効果や家族の負担を総合的に検討することが大切です。
受託者
受託者とは、信託契約に基づいて、委託者から託された財産を管理・運用する人や法人のことを指します。信託の目的や契約内容に従い、受益者の利益を最優先に考えて資産を扱う責任があり、この責任は「受託者責任」と呼ばれます。受託者には、高い倫理観と専門的な知識が求められるのが特徴です。 たとえば、親が子どもの将来の教育資金として自分の資産を信託した場合、受託者はその資産を信託の目的に沿って安全かつ効果的に管理・運用する義務を負います。自分の資産とは明確に分けて管理する「分別管理義務」もあり、不適切な流用は許されません。 信託において受託者は、実際に財産を動かす実務の中心的な役割を担うため、信頼関係が非常に重要です。誰を受託者に選ぶかは、信託設計の成否を左右する大きなポイントであり、専門家や信託会社の活用も選択肢となります。
司法書士
司法書士とは、不動産の名義変更や会社設立などの登記手続き、さらには裁判所に提出する書類の作成などを専門に扱う法律の専門家です。 相続の場面では、相続登記(不動産の名義変更)を代行したり、家庭裁判所への遺産分割調停申立書や遺言書の検認申立書などの作成を支援したりするなど、法的手続きをスムーズに進める役割を担います。 また、成年後見制度の申立てや、商業登記(会社役員変更など)にも対応できるため、相続以外の場面でも幅広くサポートを受けられます。特に相続に関する不動産がある場合、登記の専門家である司法書士の力は欠かせない存在です。
弁護士
弁護士とは、法律に関する問題について助言や代理を行うことができる、国家資格を持った法律の専門家です。 相続においては、遺産分割協議がまとまらない場合や、遺留分を巡るトラブル、遺言の無効主張、相続放棄の手続きなど、法的な対応が必要な場面で頼れる存在です。必要に応じて、調停や訴訟の代理人として交渉や手続きも代行してくれます。 相続人同士での意見の対立や紛争があるとき、また法的に複雑な問題が関係する場合には、早い段階で弁護士に相談することでトラブルを最小限に抑えることができます
法テラス
法テラスとは、正式名称を「日本司法支援センター」といい、法律に関する悩みを持つ人が適切な情報や専門家の支援を受けられるようにサポートする公的な機関です。経済的に余裕がない人でも、弁護士や司法書士による無料の法律相談を受けられたり、裁判費用や弁護士費用の立て替えを受けられたりする制度があります。 相続、借金問題、離婚、労働問題など、身近な法律トラブル全般に対応しており、資産運用や相続の手続きに不安がある方にとっても、心強い相談窓口です。全国に窓口があり、電話やウェブでも案内を受けられるため、初めて法律と関わる人にも利用しやすいサービスです。