
保険料(P)と保険金(S)の違いとは?毎月3万円支払う前に知るべき保険の選び方
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公開:
2025.09.03
更新:
2025.09.03
保険について調べていると、「保険料」と「保険金」という似たような言葉が出てきます。「支払うお金」と「受け取るお金」という正反対の意味を表しており、保険を契約するうえで必ず理解すべきポイントです。
2024年の生命保険文化センター調査によると、2人以上世帯の89.2%が生命保険に加入しています。しかし、基本的な仕組みを理解せずに契約している方も少なくありません。
この記事では、保険料と保険金の違いから、保険料が決まる仕組みなどを網羅的に解説します。さらには賢い保険選びまで、中立的な視点から詳しく解説するため、参考にしてみてください。
サクッとわかる!簡単要約
この記事を読み終えると、保険料と保険金の関係が理解できます。保険料が純保険料と付加保険料に分かれ、予定死亡率・予定利率・予定事業費率で決まることが直感的に理解できます。平均年間払込35.3万円や平均死亡保険金額2,027万円といった目安を手がかりに、保険金と給付金、保険金額の違いを見分け、年払いを活用して保険料を抑える工夫を把握しましょう。家計状況と備えたいリスクに応じて、あなたに合った保険を自信を持って選ぶヒントを提供します。
保険は相互扶助の仕組み
生命保険は「相互扶助」という助け合いの仕組みで成り立っています。この基本原理を理解することで、保険料と保険金の関係がより明確になります。
助け合いの基本原理
生命保険は、大勢の人々が保険料を負担し合い、万一の事態が起きた人が保障を受けられる仕組みです。
一人ひとりが負担するお金は少なくても、大勢で出し合うことでまとまった資金を用意できます。例えば、1万人が年間2万円ずつ負担すれば、2億円の財源ができます。この中から、実際に死亡事故が起きた方の遺族に保険金が支払われる仕組みです。
個人で同額の備えをしようとすると数十年かかりますが、保険なら加入直後から大きな保障を得られます。これが「貯蓄は三角、保険は四角」と言われる理由です。
収支相等の原則
生命保険では、多くの人から集めた保険料と支払う保険金の金額が等しくなる「収支相等の原則」が基本となります。
具体的には「保険金額×死亡者数=保険料×契約者数」という計算式で表されます。例えば、100人が保険金額1,000万円で契約し、年間死亡率が2%の場合、保険料は「1,000万円×2人÷100人=20万円」となります。
この原則により、保険料は統計的に算出された適正な金額に設定され、契約者間の公平性が保たれています。
保険会社の役割と責任
保険会社の役割は、相互扶助の仕組みを健全に運営し、確実に保険金を支払える体制を維持することです。
契約者から預かった保険料は責任準備金として積み立てられ、国債や株式などで長期安定的に運用されます。この運用収益も保険料の計算に反映され、契約者にメリットとして還元されています。
また、保険会社は金融庁の厳格な監督下にあり、支払能力を示すソルベンシー・マージン比率などの財務指標が常にチェックされています。これにより、契約者は安心して保険を利用できる環境が整えられています。
保険料と保険金の基本的な違い
保険料と保険金の違いは、お金の流れの方向で決まります。簡単に言えば、契約者が「支払うお金」が保険料、保険会社から「受け取るお金」が保険金です。
保険料とは「支払うお金」
保険料とは、契約者が保障を得る対価として保険会社に支払うお金です。
保険料の支払い方法は月払い、半年払い、年払い、一時払いなどから選択できます。生命保険文化センターの調査では、2人以上世帯の年間払込保険料は平均35.3万円となっており、月額換算では約2.9万円です。
保障内容を充実させるほど、一般的に保険料は高くなります。自分の収入や家計状況に合わせて、無理なく継続できる保険料を設定することが重要です。
保険金とは「受け取るお金」
保険金とは、被保険者が死亡・高度障害状態になったときや、保険期間が満了したときなどに保険会社から受取人に支払われるお金です。
代表的な保険金には、死亡保険金、満期保険金、高度障害保険金などがあります。保険金を受け取ると、一般的に契約は終了します。
生命保険文化センターの調査では、世帯あたりの平均死亡保険金額は2,027万円でした。家族の生活費や教育費を考慮した金額設定がされています。
保険料の決まる仕組みを詳しく解説
保険料がどのように決まるのか、その仕組みを理解することは保険選びにおいて非常に重要です。保険料は科学的な計算に基づいて設定されており、決して保険会社が任意に決めているわけではありません。
純保険料と付加保険料の内訳
保険料は大きく「純保険料」と「付加保険料」の2つに分けられます。
純保険料は、将来の保険金支払いに充てるための保険料です。契約者から集めた純保険料の総額と支払う保険金の総額が等しくなる「収支相等の原則」に基づいて計算されます。
付加保険料は、保険会社の運営に必要な経費に充てられる部分です。営業職員の人件費、広告宣伝費、システム維持費などが含まれます。同じ保障内容でも保険会社によって保険料が異なるのは、主にこの付加保険料の違いによるものです。
インターネット専用の保険商品が対面販売の商品より保険料が安いのは、営業職員の人件費や店舗維持費などの付加保険料を抑えられるためです。
3つの予定率による計算方式
保険料は「予定死亡率」「予定利率」「予定事業費率」という3つの予定率をもとに計算されています。これらを「予定基礎率」と呼びます。
予定死亡率
予定死亡率は、過去の統計データから性別・年齢別に算出された死亡確率です。厚生労働省が作成する生命表をもとに、保険会社が将来の死亡者数を予測します。
若い方のほうが死亡リスクが低いため、同じ保障なら保険料は安くなります。また、統計的に女性のほうが長寿のため、男性より保険料が安く設定される傾向があります。
この予定死亡率により「大数の法則」が働き、個人では予測不可能なリスクも、大きな集団で見れば統計的に予測可能になります。
予定利率
予定利率は、保険会社が契約者に約束する運用利回りです。保険会社は契約者から受け取った保険料を国債や株式などで運用し、その収益を保険料の割引として還元します。
2024年末から2025年初頭にかけて、大手生命保険会社が予定利率を相次いで引き上げており、住友生命は終身保険の予定利率を1.25%から1.3%に、日本生命は年金保険を0.6%から1%に引き上げています。
予定利率が高いほど保険料は安くなり、低いほど保険料は高くなります。金利環境の変化により、今後も予定利率の見直しが続く可能性があります。
予定事業費率
予定事業費率は、保険会社の事業運営に必要な経費の割合を示します。新契約の募集費用、保険料の収納費用、契約の維持管理費用などが含まれます。
この率が高いほど保険料は高くなります。近年、インターネット販売やAIの活用により事業費率を抑える保険会社が増えており、結果として保険料の低下につながっています。
効率的な経営を行う保険会社ほど、契約者により有利な保険料を提供できる構造になっています。
保険料を抑える方法
保険料を抑える方法はいくつかあります。最も効果的なのは支払い方法の工夫です。
月払いより年払いを選ぶと、保険料の総額を抑えられます。保険料を集金するコストが削減されるためです。さらに、保険期間全体の保険料を一括で支払う「一時払い」なら、より大きな割引を受けられます。
販売チャネルの選択も重要です。インターネット申込専用の保険商品は、営業職員の人件費や店舗維持費がかからないため、同じ保障内容でも保険料を抑えられます。
必要以上の特約を付けていないか、保険金額が適正かを定期的にチェックすることも効果的です。
保険金額と保険金の違いも知っておこう
保険に関する用語でもう一つ混同しやすいのが、「保険金額」と「保険金」の違いです。これらは似ているようで、実は明確に異なる概念です。
保険金額は「契約で決める金額」
保険金額とは、保険契約において設定する契約金額のことで、保険事故が発生した場合に支払われる保険金の最高限度額を指します。
生命保険では、契約時に「死亡保険金額1,000万円」のように設定します。この1,000万円が保険金額です。損害保険では、火災などで損害が発生したときに保険会社が支払う保険金の上限額となります。
保険金額は契約者と保険会社の合意により決定され、契約期間中は原則として変更されません。ただし、契約者の申し出により増額・減額の手続きが可能です。
実際の受取額との違い
保険金額と実際に受け取る保険金は必ずしも同じではありません。
生命保険の場合、死亡や満期の際には基本的に保険金額どおりの保険金が支払われます。しかし、契約から一定期間内の自殺や告知義務違反などの場合は、保険金が減額されたり支払われなかったりするケースもあります。
損害保険では、実際の損害額と保険金額のうち、少ないほうが保険金として支払われます。これを「実損填補(じっそんてんぽ)」の原則といい、保険金による利得を防ぐ仕組みです。
保険金額を適正に設定することで、必要な保障を効率的に確保できるうえ、保険料の無駄も省けます。
保険金と給付金の違い
保険から支払われるお金には「保険金」と「給付金」があり、それぞれ異なる特徴を持ちます。この使い分けを理解することで、保険選びがより明確になります。
保険金は「契約終了タイプ」
保険金は、原則として1度の受け取りで契約が終了するお金です。代表例は、死亡保険金や満期保険金です。
死亡保険金は、被保険者が亡くなったときに受取人に支払われます。この保険金を受け取ると、死亡保険契約は終了します。満期保険金も同様で、保険期間が満了した時点で契約は終了となります。
これらの保険金は一回限りの大きなライフイベントに対応するもので、まとまった金額が一括で支払われる特徴があります。
保険金と税金の関係に関しては、こちらの記事で詳しく解説しています。
給付金は「契約継続タイプ」
給付金は、複数回受け取ることがあり、その後も契約が継続するお金です。医療保険の入院給付金や手術給付金が代表例です。
入院給付金は入院するたびに受け取れ、手術給付金は手術を受けるたびに支払われます。給付金を受け取っても契約は継続するため、再び入院や手術をした場合には改めて給付金を受け取れます。
がん保険の診断給付金や先進医療給付金なども給付金に分類され、該当する事由が発生する度に支払いを受けられる仕組みです。
税務上の取り扱いの違い
保険金と給付金では、税務上の取り扱いも異なります。
死亡保険金や満期保険金には税金がかかり、契約形態によって相続税・所得税・贈与税のいずれかが適用されます。例えば、夫が契約者・被保険者で妻が受取人の場合、死亡保険金には相続税がかかります。
一方、入院給付金や手術給付金のような病気やけがに対する治療費を補てんするタイプの給付金は非課税です。これらは損害を補償する性質があるため、税金はかかりません。
ただし、生存給付金やお祝い金のような傷病に関係しない給付金は課税対象となるため注意が必要です。
保険の契約者・被保険者・受取人の設定次第で、発生する税金は異なります。詳しくは、こちらのQ&Aをご覧ください。
保険料と保険金で失敗しない選び方
保険選びで失敗しないためには、保険料と保険金のバランスを適切に保つことが重要です。家計状況とリスクを総合的に判断した選択が必要です。
家計に合った保険料設定
保険料の目安は、一般的に手取り収入の5~10%以内とされています。統計では2人以上世帯の平均年間払込保険料は35.3万円ですが、これはあくまで参考値です。
重要なのは、保険料を長期間継続して支払えるかどうかです。無理な保険料設定をして途中で解約してしまうと、多くの場合は元本割れとなってしまいます。
家計の状況は年齢とともに変化するため、ライフステージに応じて保険料を見直すことも大切です。子育て期は手厚い保障、子どもの独立後は保険料を抑えるなど、柔軟な調整を心がけましょう。
定期保険と終身保険の違いに関しては、こちらの記事で詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
必要な保険金額の計算方法
適切な保険金額は、遺族の生活費や教育費、住居費などを総合的に計算して決める必要があります。
まず、世帯主に万が一があった場合の月間生活費を算出します。現在の生活費の70%程度が目安とされています。次に、子どもの教育費や配偶者の老後資金を加算します。
そこから、遺族年金などの公的保障と現在の貯蓄額を差し引いた金額が、生命保険でカバーすべき保険金額となります。この計算により、過不足のない保険金額を設定できます。
保険選びの注意点
保険料の安さだけで保険を選ぶのは危険です。保険会社の財務健全性や保険金の支払い実績も重要な判断材料となります。
保険金の支払い条件も詳しく確認しましょう。特に医療保険では、入院日数の条件や対象となる手術の範囲など、細かな支払い要件があります。
保険会社の格付けやソルベンシー・マージン比率などの財務指標をチェックし、長期間にわたって安心して任せられる保険会社を選ぶことが重要です。
生命保険を選ぶとき、見直しの具体的な手順と方法については、こちらのQ&Aも参考にしてみてください。
この記事のまとめ
保険料と保険金は相互扶助による助け合いで成り立っています。多くの契約者が公平に保険料を負担することで、万が一の際に必要な保険金を受け取れる仕組みです。
保険料は純保険料と付加保険料に分かれ、3つの予定率により決定されます。この仕組みを理解することで、保険料の妥当性を判断できるようになります。必要な保障額は、まず家計の継続負担を基準に、公的保障と貯蓄を差し引いて考えましょう。
保険に加入したあとは、定期的な見直しにより、常に最適な保険料と保険金のバランスを保つことができます。保険は人生の安心を支える重要なツールであるため、専門家のアドバイスも活用しながら、賢く活用していきましょう。

金融系ライター
厚生労働省や保険業界・不動産業界での勤務を通じて、社会保険や保険、不動産投資の実務を担当。FP1級と社会保険労務士資格を活かして、多くの家庭の家計見直しや資産運用に関するアドバイスを行っている。金融メディアを中心に、これまで1,000記事以上の執筆実績あり。
厚生労働省や保険業界・不動産業界での勤務を通じて、社会保険や保険、不動産投資の実務を担当。FP1級と社会保険労務士資格を活かして、多くの家庭の家計見直しや資産運用に関するアドバイスを行っている。金融メディアを中心に、これまで1,000記事以上の執筆実績あり。
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保険料
保険料とは、保険契約者が保険会社に対して支払う対価のことで、保障を受けるために定期的または一括で支払う金額を指します。生命保険や医療保険、損害保険など、さまざまな保険商品に共通する基本的な要素です。保険料は、契約時の年齢・性別・保険金額・保障内容・加入期間・健康状態などに基づいて算出され、一般にリスクが高いほど保険料も高くなります。 また、主契約に加えて特約(オプション)を付加することで、保険料が増えることもあります。保険料は、契約を維持し続けるために必要な支出であり、未納が続くと保障が失効する場合もあるため、支払計画を立てることが大切です。資産運用の観点からも、保険料の支払いが家計に与える影響や、保障と費用のバランスを見極めることは、ライフプラン設計において重要な判断材料となります。
収支相等の原則
収支相等の原則は、保険商品を設計するときに、長い期間で見たときの保険料収入と、保険金や事業費の支出、そして運用収益がつり合うように決める考え方です。 保険会社は、死亡や事故がどのくらい起こりそうかという確率や、預かった保険料を運用したときの見込み利回りを前提にして、将来支払う可能性のある保険金と費用の合計が、将来にわたって受け取る保険料と運用益の合計と見合うように保険料水準を設定します。 これにより、保険料が高すぎて加入者に不利になったり、逆に低すぎて将来の支払いがまかなえなくなるといった偏りを防ぎます。前提に使う確率や利回りが変わればバランスも変わるため、金利の低下や平均寿命の伸びのような環境変化が起きた場合には、保険料や積立額の見直しが必要になることがあります。
保険金受取人
保険金受取人とは、生命保険や医療保険などの契約において、被保険者が亡くなったり給付条件を満たしたときに、保険金を受け取る権利を持つ人のことをいいます。契約者があらかじめ指定しておき、原則として書面により自由に変更することも可能です。 たとえば、生命保険では、被保険者が死亡した場合に保険金受取人が保険会社から死亡保険金を受け取ります。この受取人の指定によって、相続人以外の人が保険金を受け取ることもでき、保険金は原則として相続財産ではなく「受取人固有の財産」として扱われるのが特徴です。 ただし、相続税の課税対象にはなるため、課税上は「みなし相続財産」として取り扱われます。資産運用や相続対策の場面では、誰を受取人に指定するかが、遺産分割の公平性や納税負担に大きな影響を与える重要なポイントとなります。
保険金
保険金とは、生命保険や損害保険などの保険契約に基づき、あらかじめ決められた事由が発生したときに保険会社から受取人へ支払われるお金を指します。 たとえば死亡や入院、事故による損害などが起こると、契約内容に応じた金額が支払われます。これは万一の経済的損失を補うために設計されており、受け取った人は生活費や治療費、修理費などに充てることができます。
保険金支払条件
保険金支払条件とは、保険会社が契約者に対して保険金を支払うために満たさなければならない条件のことです。これは保険商品ごとに明確に定められており、たとえば死亡、入院、手術、がんの診断など、どのような状態になったときに、どの種類の保険金が支払われるかが記載されています。 保険金を確実に受け取るためには、この条件を正確に理解し、必要な書類を提出することが求められます。また、契約時に告知義務を果たしていない場合や、免責事由に該当する場合には、支払いの対象外となることもあります。資産運用においては、万一の際の保障が確実に機能するよう、支払条件を十分に確認しておくことが大切です。
保険金受取事由
保険金受取事由とは、保険契約において保険金が支払われる具体的な理由や状況のことを指します。たとえば、死亡保険であれば被保険者が亡くなったことが受取事由となり、医療保険であれば入院や手術などが該当します。この事由が発生しなければ、保険金は基本的に支払われません。 つまり、受取事由は「保険が効く条件」と考えるとわかりやすいです。保険の種類によって受取事由は異なり、契約時に詳しく説明されるほか、約款(契約内容をまとめた文書)にも記載されています。 正確に理解していないと、いざというときに保険金を受け取れない可能性があるため、自分の保険の受取事由が何かを事前に確認しておくことが重要です。
予定利率
予定利率は、生命保険会社が保険契約者に対してあらかじめ約束する運用利回りのことです。これは保険会社が保険料を計算する際に用いる重要な指標の一つで、契約者から払い込まれた保険料を運用して得られると予想される運用利回りを表します。 予定利率は保険料の設定に大きな影響を与えます。予定利率が高い場合は保険料が安くなり、低い場合は高くなります。これは、高い予定利率では将来の運用によるリターンを多く見込めるため、保険料を低く抑えることができるからです。 予定利率の決定方法は、まず金融庁が国債の利回りなどを参考に「標準利率」を設定し、その後各保険会社が標準利率を基準に自社の状況を反映して決定します。 予定利率には特徴があり、契約時点の率が適用され、基本的には支払い終了時や更新時まで同率で変わりません。バブル経済期には高い予定利率の保険が多く販売され、これらは「お宝保険」と呼ばれています。近年は低金利環境により、予定利率は低下傾向にあります。 保険料の計算には予定利率以外にも、予定死亡率(性別、年齢別に想定される死亡率)や予定事業費率(保険会社の運営に必要な経費の割合)も影響します。これら3つの要因を合わせて「予定基礎率」と呼びます。
付加保険料(生命保険・損害保険)
付加保険料は、純保険料に上乗せされる運営コストや利益などの部分を指し、契約者が実際に支払う保険料を形作るための大切な構成要素です。ここには新規契約を獲得するための費用や契約を維持管理するための事務費、システムやコールセンターの運営費、将来の不確実性に備えるための余裕分や会社の利益、税金などが含まれます。 つまり、純保険料が保険金の原価だとすれば、付加保険料はその商品を届け維持するためのサービス料のようなもので、両者を合わせたものが私たちが毎月支払う保険料になります。付加保険料の水準は、商品の設計や販売経路、会社の効率性によって変わりやすく、同じ保障内容に見えても保険料が違う理由の一つになります。
純保険料
純保険料は、保険会社が将来の保険金の支払いに充てるために必要な原価部分だけを取り出した保険料のことを指します。過去のデータから見積もった死亡や事故の発生確率と、資産運用で得られる見込みの利回りを踏まえて、将来支払う可能性のある保険金の見込み額を現在の価値に引き直して計算します。 ここには事務コストや営業経費、代理店手数料、会社の利益といった上乗せ分は含まれておらず、それらを足し合わせてはじめて実際に契約者が支払う保険料になります。英語ではnet premiumやpure premiumと呼ばれ、金利が下がると計算上の引き直し効果が弱まるため必要額が増え、結果として保険料に影響が出やすいという特徴があります。 投資初心者の方には、純保険料はあくまで「保険金の原価」であり、家計から出ていく保険料の全額ではないという点を押さえると理解が進みます。
予定事業費率
予定事業費率とは、保険会社が保険料を決めるときに見込む「事業運営にかかる費用の割合」のことです。ここでいう費用とは、保険を販売するための営業経費や社員の人件費、広告費、事務処理費などを指します。 保険料は、将来の保険金の支払いに備えるための「純保険料」と、こうした運営費用をまかなう「付加保険料」の2つから成り立っていますが、予定事業費率はその付加保険料を算出する基準となります。 つまり、予定事業費率が高ければ、それだけ保険料に含まれる運営費用の割合も高くなるということです。これは将来的な利益やコストの見込みに基づいて設定されます。
予定死亡率
予定死亡率とは、生命保険会社が保険料を計算する際に前提として用いる将来の死亡発生率です。過去の統計データや医療技術の進歩、人口動態の見通しなどを踏まえて設定されており、保険期間中に被保険者が死亡する確率をあらかじめ織り込むことで、保険会社は必要な保険料と責任準備金を適正に積み立てます。 予定死亡率が低く設定されるほど死亡リスクを低く見積もることになるため、保険料は安くなりやすい反面、保険会社にとっては収益が圧迫される可能性があります。逆に高く設定すれば保険料は高くなりますが、会社の安全余裕が厚くなります。このように予定死亡率は保険料水準と保険会社の健全性を左右する基礎数値として重要な役割を担っています。
ソルベンシー・マージン比率
ソルベンシー・マージン比率とは、保険会社がどれだけ予想外のリスクに耐えられるかを示す指標のことです。たとえば、大地震や大事故のような予測できない大きな支払いが必要になった場合に、その保険会社がしっかりと対応できるかどうかを判断するために使われます。 この比率が高ければ高いほど、経営の安定性があり、万が一のときでも契約者に対する保険金の支払い能力があると見なされます。保険会社の健全性をチェックする上でとても重要な数字です。
責任準備金
責任準備金とは、保険会社が将来の保険金や給付金の支払いに備えて積み立てておくお金のことです。保険契約者が保険に加入した時点で、保険会社はその契約に基づいて将来一定の金額を支払う義務を負うため、それに対応できるように事前に資金を準備しておく必要があります。これは、保険会社の健全性を保ち、契約者が安心して保険に加入し続けられるようにするための重要な仕組みです。資産運用の観点から見ると、責任準備金は保険会社が長期的に運用して増やす対象でもあり、その運用成績が保険商品の配当や将来の支払いに影響することがあります。ですので、保険に関心がある人や加入を検討している人は、この言葉の意味を理解しておくと安心です。
給付金
給付金とは、特定の条件を満たした場合に支給される金銭のことを指します。主に公的機関や保険会社が支払うもので、社会保障制度に基づくものや、保険契約に基づくものがあります。例えば、医療保険では入院や手術時に給付金が支払われ、失業保険では失業中の生活支援として給付金が提供されます。支給条件や金額は制度や契約内容によって異なり、受け取るためには申請が必要な場合が多いです。
実損填補の原則
実損填補の原則とは、損害保険において、実際に被った損害の範囲内でしか保険金が支払われないという基本的な考え方です。たとえば、自動車事故で修理費が30万円かかった場合には、保険で支払われる金額もその30万円が上限となります。 仮に契約上の保険金額が50万円だったとしても、実際の損害が30万円であれば、それ以上の金額は支払われません。この原則は、保険によって利益を得ることを防ぎ、あくまで被害を補うための制度であるという保険の本来の役割を守るために設けられています。 主に火災保険や自動車保険など、物的損害を対象とした損害保険(第2分野)に適用されます。資産運用とは直接関係しませんが、リスクマネジメントの一環として保険を活用する際に、この原則を理解しておくことは非常に重要です。