
半導体株の特徴は?関連銘柄や株価の上昇や下落に影響するシリコンサイクルを徹底解説
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公開:
2025.08.28
更新:
2025.08.28
AIやEVの普及を背景に半導体需要は拡大していますが、景気や供給調整に左右される循環性が大きな特徴です。本記事では、設計・製造・装置・材料・検査という5分野の構造を基点に、日本が強みを持つ装置・材料の立ち位置や1987年創業のTSMCに象徴される分業モデルを整理します。さらにSOXや日経半導体株指数を用いた市場把握、3〜4年周期のシリコンサイクル、TSMC熊本やRapidusの動向など国内特需への示唆を踏まえ、個別株とETFの使い分けを判断できる視点を提供します。
サクッとわかる!簡単要約
この記事を読むと、半導体株の基礎から実践的な投資判断まで一気に理解できます。設計・製造・装置・材料・検査という5分野の構造や、1987年創業のTSMCに端を発する分業モデル、3〜4年周期で繰り返されるシリコンサイクルの特徴を整理し、SOXや日経半導体株指数を使った市場の見方が身につきます。さらに在庫の積み上がりやガイダンス悪化、地政学的緊張といった下落要因、TSMC熊本やRapidusに代表される国内特需まで把握でき、ETF2644・213AやSMH・SOXXなどを活用した分散投資の選択肢を自信を持って検討できるようになります。
目次
半導体株の投資対象は「設計」「製造」「装置」「材料」「検査」の5分野
バリューチェーンで解説!半導体企業のビジネスモデルと利益率の違い
デバイスメーカー(完成品)の主要企業とランキングの読み解き方
製造装置・材料メーカーこそ日本の本丸!世界シェアトップ級の企業一覧
TSMC進出で注目度UP!国内の半導体工場に関連する特需銘柄
アメリカ株:AI・データセンター需要を牽引する代表的な半導体銘柄
国内の半導体ETF「GX半導体日株(2644)」「日経半導体株指数連動(213A)」の違いを比較
海外の半導体指数(SOX)に連動するETF|SMH・SOXXが代表格
半導体株の今後の見通しは?特有の値動き(シリコンサイクル)を解説
株価は業績に先行する|見通しを立てるための「シリコンサイクル」とは?
半導体株とは?投資対象になる5つの分野と儲けの仕組み
半導体株は、AIやEVの普及で長期的な成長が期待される一方、景気変動の影響を受けやすい二面性を持っています。投資を始めるには、まず業界の構造を理解することが重要です。ここでは、半導体産業を構成する「設計」「製造」「装置」「材料」「検査」という5つの主要分野と、それぞれのビジネスモデルや特徴をわかりやすく解説します。
半導体株の投資対象は「設計」「製造」「装置」「材料」「検査」の5分野
現代の自動車やスマートフォン、家電、インフラ機器に至るまで、あらゆる分野で「半導体」と呼ばれる電子部品が不可欠な存在となっています。半導体は、電気を通す導体と通さない絶縁体の中間的な性質を持つ素材で、IC(集積回路)チップとして高度な情報処理を可能にする心臓部です。その需要はAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)、5G通信、電気自動車(EV)などの技術革新に伴い、年々増加しています。
このような背景から、半導体関連企業の株式(半導体株)は将来有望な成長株とみなされる一方、景気変動で業績や在庫が大きく振れる循環株としての側面も併せ持っています。つまり、長期的には成長が期待できるものの、短期的な業績や株価は景気サイクルの影響を強く受ける点に注意が必要です。
半導体産業には多様なビジネスモデルや企業形態が存在し、それぞれの役割を理解することが投資判断の第一歩です。半導体チップそのものを手掛ける企業のほか、製造装置、素材、検査装置といった関連メーカーも幅広く存在するという点を押さえておきましょう。
バリューチェーンで解説!半導体企業のビジネスモデルと利益率の違い
半導体の供給チェーンは「設計(開発)」と「製造」に大きく分かれます。かつては両方を自社で一貫して行うIDM(垂直統合型デバイスメーカー)が一般的で、Intel(インテル)やSamsung Electronics(サムスン電子)がその代表例です。1980年代から90年代にかけては、NECや日立製作所、東芝といった日本の総合電機メーカーがIDMとして世界市場を席巻しました。
設計/ファブレス:高い利益率を誇る知的財産ビジネス
近年、半導体業界では設計と製造を分業する水平分業モデルが主流となり、工場(ファブ)を持たずチップの企画・設計に特化するファブレス企業が台頭しました。文字通り工場を持たないメーカーのことで、NVIDIAやQualcomm、AMD、Appleなどが製品設計に注力し、チップの生産は外部の専門企業に委託しています。
製造/ファウンドリ:巨額投資でスケールを追う装置産業
高度化する半導体製造には莫大な設備投資とリスクが伴うため、設計と製造の分業化が進みました。この製造を専門に請け負うのがファウンドリ企業です。代表格である台湾のTSMCは、世界初の製造専門企業として1987年に創業し、今や世界のファウンドリ売上の過半を占める巨大企業へと成長。事実上、Intelやサムスンを凌ぐ世界最大級の半導体企業となっています。
装置・材料:景気動向に敏感な川上セクター
半導体産業には、チップを作る企業を支える重要なプレーヤーもいます。チップの生産に不可欠な製造装置では、オランダのASMLや日本の東京エレクトロンが世界をリード。製造後のチップを検査するテスターでは日本のアドバンテストが、基板となるシリコンウエハーでは信越化学工業とSUMCOが世界で高いシェアを誇ります。
日本の半導体関連銘柄マップ|強みを持つ主要企業を厳選
半導体セクターには世界中に数多くの企業がありますが、ここでは初心者にも比較的馴染みやすい主要な国内銘柄を中心に、その特徴を紹介します。
日本の半導体産業は、完成チップそのもので世界の主役だった時代から、その周辺を支える装置・素材分野で世界的な競争力を発揮する形へと変化しました。投資の際は、各企業がバリューチェーンのどの部分を担っているかに着目すると、業績や株価の動き方を理解しやすくなるでしょう。
デバイスメーカー(完成品)の主要企業とランキングの読み解き方
半導体チップそのものを開発・製造する「デバイスメーカー」も、日本には有力な企業が存在します。特に自動車の制御に使うマイコンや、スマートフォンのカメラに搭載されるイメージセンサーなど、特定の分野で世界的に高いシェアを持つ企業を中心に、その強みと特徴を見ていきましょう。
ルネサス、ソニーGほか|自動車・イメージセンサーで世界と戦う企業群
ルネサスエレクトロニクス(6723)は、日立製作所や三菱電機の半導体部門が統合して誕生した、日本を代表する半導体チップメーカーです。特に自動車や産業機器向けのマイコン(マイクロコントローラ)に強みを持ち、近年のIoTや車載向け需要の拡大が業績を押し上げています。
ローム(6963)と富士電機(6504)は、電力の制御などに使われるパワー半導体分野で存在感のあるメーカーです。ロームは省エネ性能に優れるSiC(炭化ケイ素)を用いた次世代パワー半導体に注力。富士電機も産業インフラ向けを主力としており、電気自動車(EV)の普及といった「電動化ニーズ」の高まりが追い風となっています。
ソニーグループ(6758)は、総合エレクトロニクス企業でありながら、実はイメージセンサーの世界トップメーカーでもあります。スマートフォンカメラなどに使われるCMOSセンサーで世界シェアの約半分を占めており、半導体事業はグループ全体の重要な収益源です。
製造装置・材料メーカーこそ日本の本丸!世界シェアトップ級の企業一覧
日本の半導体産業が世界で最も競争力を発揮しているのが、製造装置と材料の分野です。「縁の下の力持ち」として半導体の製造プロセスを支え、特定の製品では世界シェアの大部分を占めることも珍しくありません。ここでは、日本のものづくりを象徴する企業群を紹介します。
東京エレクトロン、信越化学工業など「なくてはならない」川上企業
東京エレクトロン(8035)は、世界トップクラスの半導体製造装置メーカーです。半導体の前工程(ウエハーに回路を形成する工程)向け装置を幅広く手掛け、極めて高い市場シェアと技術力を誇ります。
アドバンテスト(6857)は、半導体のテスト(検査)装置で世界的なシェアを持つ企業です。製造後のチップに不良がないかを検査する装置を手掛け、特にメモリーテスターでは世界トップクラスです。
信越化学工業(4063)は、世界最大のシリコンウエハーメーカーです。ウエハーは半導体チップの基板となる円盤状の素材で、チップ製造に不可欠な材料です。
SUMCO(3436)は、信越化学と双璧をなすシリコンウエハーメーカーで、世界シェア2位。特に直径300mm(12インチ)の大口径ウエハーに強みがあります。
ディスコ(6146)とスクリーンホールディングス(7735)も、特定分野で高い競争力を持つ装置メーカーです。ディスコはウエハーの研削・切断装置で、スクリーンHDは洗浄装置で、それぞれ世界トップクラスのシェアを誇ります。
次世代半導体で注目のニッチトップ企業(レーザーテック、ディスコほか)
レーザーテック(6920)は、半導体用フォトマスクの欠陥検査装置で世界シェアをほぼ独占する、日本発のグローバルニッチトップ企業です。最先端の露光技術であるEUV関連の需要を取り込み、近年大きく成長しました。
TSMC進出で注目度UP!国内の半導体工場に関連する特需銘柄
近年、政府の経済安全保障政策や海外大手の工場誘致により、日本国内で半導体への投資が再び活発化しています。最先端工場の新設は、関連する装置・材料メーカーはもちろん、建設やインフラ業界にも大きなビジネスチャンスをもたらします。ここではその代表的な動きを紹介します。
政府主導のプロジェクトとしては、次世代半導体の国産化を目指す新会社「Rapidus(ラピダス)」の設立が挙げられます。IBMの技術協力を得て、日本の半導体産業が先端分野で再び競争力を高める取り組みとして注目されています。
また、海外からは世界最大のファウンドリであるTSMCが熊本県に工場を建設するなど、国内での設備投資が活発化しています。これは、関連する装置・材料メーカーや建設業界への大きな波及効果が期待される動きです。
世界の半導体株|アメリカ・台湾の代表的な銘柄と注目テーマ
日本国内だけでなく、海外の半導体関連企業にも目を向けてみましょう。米国を中心に、世界には卓越した技術やシェアを持つ企業が数多く存在します。
これらの企業の株価動向を示す代表的な指数がSOX指数(フィラデルフィア半導体株指数)であり、日本の関連株にも影響を与えるため、海外の動きにも目を配ることが重要です。
SOX指数については以下のQ&Aでも説明しています。
アメリカ株:AI・データセンター需要を牽引する代表的な半導体銘柄
世界の半導体産業を技術的にリードするのが米国企業です。特にAIやデータセンター、高性能なCPUといった最先端分野で中心的な役割を担っており、世界の株式市場でも大きな存在感を放っています。ここでは、現代のデジタル社会に不可欠なテクノロジーを生み出す企業群を紹介します。
NVIDIA、AMD、Intel|AI半導体・CPU市場のキープレイヤー
NVIDIA(エヌビディア)は、GPU(グラフィックス処理用半導体)で世界最大手の半導体設計企業(ファブレス)です。近年はAIブームの立役者として、生成AIや自動運転に不可欠な高性能半導体の需要が爆発的に増加し、驚異的な成長を遂げています。
Intel(インテル)は、PC向けCPU(中央演算処理装置)の草分け的存在である米国のIDM(垂直統合型メーカー)です。長年、世界の半導体売上高トップを維持してきましたが近年は競争が激化しています。それでもなおPC・サーバー向けCPU市場で大きなシェアを持ち、巻き返しを図っています。
AMD(エーエムディー)は、PCやデータセンター向けのCPU・GPUを開発するファブレス企業です。近年は製品の性能が市場で高く評価され、インテルの強力な競合相手として大きく成長しました。
Qualcomm、Broadcom|通信・インフラを支える半導体大手
Qualcomm(クアルコム)は、スマートフォン向け通信半導体(モデムチップ)やSoC(システム・オン・チップ)で世界をリードするファブレス企業です。5G通信が普及する現代において、その技術は重要な役割を担っています。
Broadcom(ブロードコム)は、通信インフラやデータセンター向けの半導体デバイスを幅広く提供する設計会社です。事業の安定性が高く、キャッシュフローが潤沢で高配当であることでも知られています。
台湾株:世界経済を左右するファウンドリと地政学リスク
半導体の製造に特化した「ファウンドリ」というビジネスモデルを確立し、世界中の企業から生産を請け負う台湾の巨大企業を紹介します。その圧倒的な生産能力は世界経済の根幹を支える一方、地政学的なリスクを抱える存在としても注目されています。
TSMC(台湾積体電路製造)|世界最大の半導体メーカーの強さとは
TSMC(ティーエスエムシー)は、世界最大のファウンドリ(半導体受託製造)企業です。AppleやNVIDIAなど世界中の主要半導体企業が同社に生産を委託しており、「この会社がなければ世界のIT業界は成り立たない」と言われるほど重要な存在です。近年は地政学リスクの高まりから、日本や米国への工場分散も進めています。
韓国:Samsung|メモリとファウンドリの巨大IDM
スマートフォンなどの最終製品から半導体まで自社で一貫して手掛ける、韓国の巨大コングロマリット(複合企業)を紹介します。特に世界トップクラスのシェアを誇るメモリ半導体と、製造受託事業の両面で大きな存在感を持っています。
Samsung Electronics(サムスン電子)は、韓国を代表する巨大エレクトロニクス企業です。半導体事業では、メモリ分野(DRAMやNAND型フラッシュメモリ)で世界トップクラスのシェアを誇ります。加えてTSMCに次ぐ規模のファウンドリ事業も展開しており、IDMとファウンドリのハイブリッドな存在と言えます。
オランダ:ASML|先端半導体に不可欠な露光装置メーカー
最先端の半導体製造に不可欠な「露光装置」を、世界で唯一製造できるヨーロッパの企業を紹介します。その技術的な独占力から、半導体産業全体の動向を左右するほどの重要性を持ち、「ボトルネックを握る」とまで評される企業です。
ASML(エーエスエムエル)は、オランダに本社を置く世界唯一のEUV露光装置メーカーです。半導体の回路を微細化するのに不可欠な極端紫外線(EUV)リソグラフィ装置を独占的に製造しており、世界の主要半導体メーカーがこぞって同社の製品を求めています。
半導体ETF・投資信託のおすすめは?分散投資の始め方
半導体株に投資したいけれど、どの企業を選べば良いか分からない、という方も多いでしょう。そのような場合に有力な選択肢となるのが、複数の銘柄にまとめて投資できるETF(上場投資信託)や投資信託です。
個別株投資と比べて、一つの商品で手軽に分散投資できるため、特定企業の業績不振によるリスクを抑えられるのが大きなメリットです。ここでは、具体的な商品の種類とそれぞれの特徴を解説します。
ETFと投資信託については以下の記事で詳しく解説しています。
国内の半導体ETF「GX半導体日株(2644)」「日経半導体株指数連動(213A)」の違いを比較
日本の製造装置メーカーや素材メーカーなど、国内の半導体関連企業群にまとめて投資したい場合に適した選択肢です。東京証券取引所には、「日経半導体株指数」などに連動する複数のETFが上場しています。日本のものづくりを支える企業群に、手軽に分散投資できるのが魅力です。
グローバルX 半導体関連-日本株式ETF(2644)
日本の半導体関連企業に幅広く投資するETFの代表例です。特定の指数に連動し、製造装置や素材、デバイスメーカーなど、バリューチェーン全体をカバーする構成が特徴です。
シンプレクス 日経半導体株指数連動ETF(213A)
日経新聞社が算出する「日経半導体株指数」への連動を目指すETFです。東京エレクトロンやアドバンテストなど、指数構成比率の高い主力銘柄への投資ウェイトが大きくなる傾向があります。
海外の半導体指数(SOX)に連動するETF|SMH・SOXXが代表格
NVIDIAやTSMCといった世界のトップ企業に投資したい場合は、海外の半導体指数に連動するETFが有力です。特に米国の主要半導体企業で構成される「SOX指数」に連動するETFが人気で、世界の半導体業界全体の成長を捉えやすい商品と言えるでしょう。
SOX指数に投資する方法は以下Q&Aでも説明しています。
VanEck Semiconductor ETF(SMH)
米国の取引所に上場する半導体関連企業に投資するETFの代表格です。NVIDIAやTSMCといった、世界の半導体市場をリードするトップ企業が構成銘柄の上位を占める傾向にあります。
iShares Semiconductor ETF(SOXX)
SMHと並ぶ、もう一つの代表的な米国半導体ETFです。SOX指数(ICE Semiconductor Index)への連動を目指しており、幅広い米国の半導体関連企業に分散投資できるのが特徴です。
半導体関連の投資信託を選ぶ3つのポイント
証券口座を通じて売買するETFだけでなく、銀行などでも取り扱いがあり、毎月コツコツ積み立てたい場合に便利なのが投資信託です。専門家(ファンドマネージャー)に運用を任せながら、半導体セクター全体の成長を目指すことができます。
インデックスファンド(全世界株式・S&P500など)
直接的な半導体ファンドではありませんが、全世界や米国の代表的な株価指数に連動する投資信託も有効な選択肢です。結果的にNVIDIAなどの大手半導体企業にも分散投資でき、初心者のはじめの一歩として適しています。
テーマ型・アクティブファンド(世界半導体株ファンドなど)
「世界半導体株ファンド」といった名称で、半導体株に特化して投資する商品です。専門家が独自の調査で銘柄を選定しますが、インデックスファンドに比べて信託報酬(コスト)が高くなる傾向がある点には注意が必要です。
半導体株の今後の見通しは?特有の値動き(シリコンサイクル)を解説
半導体株は長期的な成長が期待される一方で、なぜ株価の変動が激しいのでしょうか。その答えの鍵を握るのが、業界特有の「シリコンサイクル」と呼ばれる景気の波です。
このサイクルは、典型的には3〜4年周期で好況と不況を繰り返し、半導体市況や関連企業の業績、そして株価に大きな影響を及ぼします。ここでは、その仕組みと見通しの立て方を解説します。
株価は業績に先行する|見通しを立てるための「シリコンサイクル」とは?
シリコンサイクルを理解する上で最も重要なのは、株価が実際の業績に先行して動くという点です。株式市場は常に未来を予測するため、半導体株は「業績が底を打つ前」に上がり始め、逆に「業績が絶好調の時」に下がり始める傾向があります。
このため、ニュースで「半導体好況」と報じられてから投資を始めると高値掴みになったり、「業績悪化」の報道で売ってしまうと底値で手放したり、といったことが起こりやすいのです。
近年では、AIの爆発的な普及といった構造的な需要増により、「スーパーサイクル」と呼ばれる長期の好況局面に入る可能性も議論されています。ただし、たとえ大きな成長期にあっても短期的な過熱と調整は避けられません。結論として、半導体株は「長期で見れば成長するが、短期的な値動きは激しい」と認識しておくことが大切です。
なぜ半導体株は下落した?暴落時に起きている3つの典型パターン
半導体株が大きく下落する際には、いくつかの共通した要因が見られます。ここではその代表的な3つのパターンを解説します。これを理解すれば、下落局面で何が起きているのかを冷静に分析する手助けになるでしょう。
①在庫の積み上がりと製品価格の下落
シリコンサイクルにおける典型的な不況パターンです。まず需要が急拡大して製品が不足する「好況」が訪れると、各メーカーは増産のために大規模な設備投資を行います。しかし、その結果としてやがて供給が需要を上回り、「不況」へと転じます。供給過剰は製品価格の下落を招き、積み上がった在庫が企業の利益を圧迫するのです。
②主要企業の決算におけるガイダンス(業績見通し)悪化
株式市場は常に未来を予測して動きます。そのため、半導体関連企業の決算発表で示される将来の業績見通し(ガイダンス)が市場の期待を下回ると、たとえ足元の業績が良くても、将来への懸念から株価が下落する要因となります。
③米中対立など地政学リスクの高まり
半導体産業は国境を越えたグローバルな供給網で成り立っているため、地政学的なリスクや各国の政策動向にも敏感です。近年では米中間の技術覇権争いに伴う輸出規制などが業界に大きな影響を与えており、特定国への売上比率が高い企業にとっては特に注意が必要です。
市場の温度感を読む|SOX(フィラデルフィア半導体株指数)と日経半導体指数の使い方
個別のニュースだけでなく、市場全体の「温度感」を把握することも投資判断では重要です。そのために役立つのが、半導体関連の代表的な株価指数です。ここでは、世界と日本の動向を示す2つの主要な指数を紹介し、その活用法を解説します。
SOX指数(フィラデルフィア半導体株指数)
世界の半導体株の動向を見る上で最も重要な指標です。NVIDIAやTSMCなど、世界の主要な半導体関連企業(設計、製造、装置など)約30銘柄で構成されています。世界景気の先行指標とも言われ、前日のSOX指数の動きが翌日の日本の半導体株に大きく影響する傾向があるため、必ずチェックしておきたい指数です。
SOX指数の詳細については以下記事でも詳しく解説しています。
日経半導体株指数
日本の半導体セクター全体の動向を把握するための代表的な指標です。日本経済新聞社が算出し、東京証券取引所に上場する半導体関連の主要銘柄で構成されています。この指数に連動するETF(上場投資信託)も登場しており、日本の半導体企業群にまとめて投資する際のベンチマークとしても活用されています。
この記事のまとめ
半導体株は世界的な需要拡大が追い風となる一方、シリコンサイクルや地政学リスクによる変動が避けられません。投資にあたっては、設計・製造・装置・材料・検査という5分野の特徴を把握し、SOXや日経半導体株指数を活用して市場環境を点検することが重要です。加えて、在庫の積み上がりや企業ガイダンス、地政学的な要因が下落局面の典型サインとなります。国内ではTSMC熊本やRapidusの動きが関連銘柄に影響を与える可能性があるため注視が必要です。個別株に不安を感じる場合は、ETF2644・213A、SMH・SOXXといった分散手段を活用することで、変動に左右されにくい投資判断を進められます。

MONO Investment
投資のコンシェルジュ編集部は、投資銀行やアセットマネジメント会社の出身者、税理士など「金融のプロフェッショナル」が執筆・監修しています。 販売会社とは利害関係がないため、主に個人の資産運用に必要な情報を、正確にわかりやすく、中立性をもってコンテンツを作成しています。
投資のコンシェルジュ編集部は、投資銀行やアセットマネジメント会社の出身者、税理士など「金融のプロフェッショナル」が執筆・監修しています。 販売会社とは利害関係がないため、主に個人の資産運用に必要な情報を、正確にわかりやすく、中立性をもってコンテンツを作成しています。
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半導体株
半導体株とは、半導体を製造したり、関連する部品や装置を提供したりする企業の株式のことを指します。半導体はスマートフォンやパソコン、自動車、さらにはAIや5G通信といった先端分野まで幅広く使われており、現代社会に欠かせない基盤技術です。そのため半導体株は、世界的な需要や技術革新、景気動向の影響を強く受けやすい特徴があります。資産運用の観点では、成長性が期待できる一方で市況に応じて株価の変動も大きいため、分散投資や中長期的な視点が重要といえます。
AI(人工知能)
AIとは「人工知能」と呼ばれ、人間のように学習や推論、判断をコンピュータに行わせるための技術のことです。大量のデータを分析し、そこからパターンを見つけ出したり予測を立てたりすることができます。 日常生活ではスマートスピーカーや画像認識、翻訳アプリなどに活用されており、産業分野では自動運転や医療診断、金融投資など幅広い領域で導入が進んでいます。資産運用の観点では、AIは業務効率化や新しいサービスの創出を通じて企業の競争力を高めるため、関連企業や技術に投資が集まりやすい分野といえます。
IoT(Internet of Things)
IoTとは「モノのインターネット」と呼ばれ、身の回りのあらゆる機器やモノがインターネットに接続され、データをやり取りする仕組みのことを指します。たとえば、スマート家電や自動車、工場の生産設備などがインターネットにつながることで、遠隔操作や自動制御が可能になり、より効率的で便利な社会が実現されます。 資産運用の視点では、IoT関連の技術や製品を開発・提供する企業は今後の成長が期待される分野に属しているため、投資先として注目されています。
5G通信
5G通信とは、第5世代の移動通信システムを指し、これまでの4Gよりも高速で遅延が少なく、多くの機器を同時に接続できる特徴を持っています。スマートフォンでの動画視聴やゲームが快適になるだけでなく、自動運転車や遠隔医療、IoT(モノのインターネット)といった新しい技術を支える基盤として期待されています。 資産運用の観点では、5G通信関連のインフラ整備や技術開発に関わる企業の業績に影響を与えるため、投資先を考える際の注目分野となります。
ICチップ
ICチップとは「集積回路(Integrated Circuit)」を基盤上にまとめた部品のことで、多数のトランジスタや抵抗、コンデンサといった電子部品を小さな半導体の中に組み込んだものを指します。これにより電子機器は小型化・高性能化・低コスト化を実現でき、スマートフォンやパソコン、家電製品、自動車、さらにはICカードや医療機器などあらゆる分野で利用されています。 資産運用の観点では、ICチップを設計・製造する企業は常に需要が高く、技術革新や市場の成長とともに投資先として注目されやすい存在です。
ファブレス
ファブレスとは、自社では製造工場を持たず、半導体などの設計や開発に特化して事業を行う企業のことを指します。通常のメーカーは製品を設計して自ら工場で生産しますが、ファブレス企業は生産部分を外部の専門メーカーに委託することで、開発や研究に資源を集中させることができます。 この仕組みによって、高度な技術力を持つ小規模な企業でも競争力を発揮でき、半導体業界のイノベーションを支える存在となっています。投資の観点では、需要の増加に伴って利益を伸ばしやすい特徴がある一方で、生産を委託している企業の動向に影響を受けやすい点もあります。
ファウンドリ
ファウンドリとは、半導体の設計を行わずに製造だけを専門に請け負う企業や業態のことを指します。ファブレス企業が設計した半導体を実際に生産する役割を担っており、製造技術や生産設備に強みを持っています。 高度な設備投資や技術力が必要なため、世界でも限られた企業が大規模に展開しており、代表例としては台湾のTSMCや韓国のサムスン電子などが知られています。資産運用の視点では、需要の拡大や最新技術への投資状況が業績に直結するため、成長性の高い分野として注目されています。
CMOSセンサー
CMOSセンサーとは、カメラやスマートフォンなどに搭載されている撮像素子の一種で、光を電気信号に変換して画像を作り出す役割を持っています。従来主流だったCCDセンサーに比べて消費電力が少なく、高速で画像処理ができるため、スマートフォンやデジタルカメラを中心に広く普及しました。 近年では自動運転車のカメラや監視カメラ、医療機器などにも利用が拡大しており、今後の成長が期待される分野です。資産運用の観点では、CMOSセンサーを製造する企業は映像技術やIoT、自動運転などの成長市場と深く結びついており、投資対象としても注目されています。
マイコン(マイクロコントローラ)
マイコンとは「マイクロコントローラ」の略で、小型ながらも計算機能や制御機能を備えた半導体チップのことを指します。CPUに加えて、メモリや入出力機能を一つのチップにまとめているため、省スペースで安価に組み込むことができます。 家電製品や自動車、産業機械、IoT機器など、あらゆる電子機器の内部で「頭脳」として働き、動作の制御を担っています。資産運用の観点では、マイコンを製造する企業は幅広い産業に需要を持ち、安定した成長が期待できるため、投資対象として注目されています。
パワー半導体
パワー半導体とは、電気を「効率よく制御する」ことを目的とした半導体のことです。通常の半導体が情報処理を担うのに対し、パワー半導体は大きな電流や高い電圧を扱えるため、電気の変換や供給を無駄なく行う役割を持っています。 家電製品から鉄道や工場設備、電気自動車(EV)、再生可能エネルギー発電まで幅広く使われており、省エネや効率化に欠かせない存在です。資産運用の観点では、世界的な脱炭素やEV普及の流れに伴って需要が拡大している分野であり、成長が期待される投資対象といえます。
SiC(Silicon Carbide)
SiCとは「シリコンカーバイド(炭化ケイ素)」の略で、半導体材料の一種です。従来のシリコンよりも耐熱性や耐圧性に優れており、高電圧や高温の環境でも安定して動作できる特徴があります。そのため、電気自動車(EV)のパワー半導体や再生可能エネルギー設備など、省エネ性能が求められる分野で活用が広がっています。 SiCを使うことで電力の変換効率が高まり、エネルギーの無駄を減らすことができるため、次世代の産業を支える重要な素材として注目されています。資産運用の視点では、SiC関連の製造企業や技術を持つ企業は長期的な成長が期待される投資先といえます。
シリコンウエハー
シリコンウエハーとは、半導体製品をつくるための基盤となる薄い円盤状の材料のことです。砂に含まれるシリコンを精製し、単結晶に加工してから薄く切り出して磨き上げることで作られます。 このウエハーの上に回路を形成することで、パソコンやスマートフォン、家電などに使われる半導体チップが完成します。半導体の性能や生産効率はウエハーの品質や大きさに大きく左右されるため、半導体産業全体の根幹を支える重要な素材です。資産運用の観点では、シリコンウエハーを供給するメーカーの動向は、半導体需要や技術革新の影響を強く受けるため、注目される分野となります。
フォトマスク
フォトマスクとは、半導体製造工程で使われる部品の一つで、シリコンウエハーに回路パターンを転写する際の「原版」にあたるものです。ガラス基板の上に金属などで微細な回路が描かれており、光を当ててその影をウエハー上に焼き付けることで、半導体チップの回路が形成されます。 いわば半導体の設計図の役割を果たしており、その精度や品質は最終製品の性能に直結します。資産運用の観点では、フォトマスクを供給する企業は高度な技術力を持つため参入障壁が高く、半導体需要拡大の恩恵を受けやすい投資対象といえます。
EUV露光装置
EUV露光装置とは、半導体を製造する際に用いられる最先端の露光技術を搭載した装置のことです。EUVは「Extreme Ultraviolet(極端紫外線)」の略で、従来の光よりもはるかに短い波長を使うことで、シリコンウエハーにより細かく精密な回路パターンを描き込むことができます。 これにより、より小型で高性能な半導体チップの量産が可能になります。EUV露光装置は開発や製造が極めて難しく、世界でもオランダのASML社が事実上唯一の供給企業となっており、半導体産業全体の発展を左右する重要な存在です。資産運用の観点では、この装置を扱う企業や関連部品メーカーは技術的優位性が高く、長期的に成長が期待できる分野といえます。
GPU
GPUとは「Graphics Processing Unit(グラフィックス処理装置)」の略で、もともとは映像や画像を滑らかに表示するために開発された半導体チップです。多くの演算を同時並行で処理できる特徴を持ち、パソコンやスマートフォンの画面描画、ゲーム機、映像編集などに利用されてきました。 近年では、その並列処理能力がAIやディープラーニング、データ解析、仮想通貨のマイニングなどにも応用され、需要が急拡大しています。資産運用の観点では、GPUを手掛ける企業は次世代技術の中心に位置するため、長期的な成長が期待される注目分野です。
CPU
CPUとは「Central Processing Unit(中央演算処理装置)」の略で、コンピュータや電子機器の中で情報処理の中心を担う部品のことです。人間の頭脳にたとえられることが多く、プログラムの命令を解釈して計算を行い、機器全体を制御します。 パソコンやスマートフォンだけでなく、自動車や家電、産業機器など多様な分野で利用されています。資産運用の観点では、CPUを設計・製造する企業は技術力と市場支配力を持つことが多く、成長性が高いため株式市場でも注目されやすい存在です。
SoC(System on Chip)
SoC(System on Chip)とは、コンピューターの基本的な機能を1つの半導体チップ上にまとめた技術のことです。これには、プロセッサー、メモリ、通信機能、入出力制御などが含まれており、従来は複数の部品で構成されていた機能を小さく一体化することで、性能の向上や省電力化、コスト削減を実現しています。 資産運用の分野では、半導体業界への投資やテクノロジー関連の株式・ETFなどにおいて、SoC技術を活用している企業が成長の鍵を握ることがあります。スマートフォンやIoT機器、自動運転車など、現代のテクノロジーの多くに使われているため、これらの市場拡大がSoC関連企業の業績に直接影響を与える可能性があるのです。
SOX指数(フィラデルフィア半導体株指数)
SOX指数(フィラデルフィア半導体株指数)とは、アメリカ・フィラデルフィア証券取引所が算出・公表している、半導体関連企業の株価動向を示す株価指数のことです。主に米国に上場する代表的な半導体メーカー30社程度で構成されており、NVIDIA(エヌビディア)、Intel(インテル)、AMD(アドバンスト・マイクロ・デバイセズ)など、世界的に影響力のある企業が含まれています。 この指数は、半導体業界全体の成長性や市況の変化を敏感に反映するため、テクノロジー関連株式やハイテク分野の動向をつかむうえで、非常に重要な指標とされています。また、AI、5G、自動運転、クラウドなどの分野で半導体需要が高まっている中、SOX指数は投資家の注目を集める指数の一つとなっています。資産運用においては、テクノロジーセクターに投資するETFや投資信託のベンチマークとしても使われています。
日経半導体株指数
日経半導体株指数とは、日本の株式市場に上場している半導体関連企業の株価をもとに算出される株価指数のことです。日経新聞社が選定した主要な半導体関連企業を対象に、これらの企業の株価の動きをまとめて一つの数字で表しています。 半導体はパソコンやスマートフォン、自動車、さらにはAIや5Gなど、さまざまな分野で使われる重要な技術であるため、この指数の動きを見ることで、日本の半導体業界全体の勢いや市場のトレンドを把握する手がかりになります。特にハイテク株や製造業への投資を考えている方にとって、参考となる指標です。
シリコンサイクル
シリコンサイクルとは、半導体業界における景気循環(サイクル)のことで、半導体需要と供給のバランスが数年単位で波のように繰り返される現象を指します。「シリコン」は半導体チップの主材料であることからこの名前が付いており、景気やテクノロジー分野の変化に応じて、企業の設備投資や在庫調整、生産過剰や不足といったサイクルが生まれます。 このサイクルは、スマートフォン、PC、自動車、データセンターなどの需要拡大によって加熱し、企業が大量に生産を増やす「好況期」と、需要の鈍化や在庫過剰によって利益が落ち込む「不況期」を繰り返します。特に投資家にとっては、半導体関連株の株価変動と密接に関係するため、シリコンサイクルを見極めることは、テクノロジーセクターへの投資戦略を考えるうえで重要な視点となります。
ETF(上場投資信託)
ETF(上場投資信託)とは、証券取引所で株式のように売買できる投資信託のことです。日経平均やS&P500といった株価指数、コモディティ(原油や金など)に連動するものが多く、1つのETFを買うだけで幅広い銘柄に分散投資できるのが特徴です。通常の投資信託に比べて手数料が低く、価格がリアルタイムで変動するため、売買のタイミングを柔軟に選べます。コストを抑えながら分散投資をしたい人や、長期運用を考えている投資家にとって便利な選択肢です。
投資信託
投資信託は、多くの投資家から集めた資金を一つの大きな資金としてまとめ、運用の専門家が株式や債券などに投資・運用する金融商品です。運用によって得られた成果は、各投資家の投資額に応じて分配される仕組みとなっています。 この商品の特徴は、少額から始められることと分散投資の効果が得やすい点にあります。ただし、運用管理に必要な信託報酬や購入時手数料などのコストが発生することにも注意が必要です。また、投資信託ごとに運用方針やリスクの水準が異なり、運用の専門家がその方針に基づいて投資先を選定し、資金を運用していきます。