インサイダー情報を持った後でも株式売却は可能でしょうか?
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2025/04/29 15:13
男性
40代
経営者は重要な未公表情報を得る機会が多い立場です。そうした状況下でも合法的に株式を売却する手段は存在しますか?
回答
株式会社MONOINVESTMENT / 投資のコンシェルジュ編集長
金融商品取引法157条は、上場会社の役員などが重要事実(未公表の決算情報や大型提携など)を知りながら自社株を売買することを厳格に禁じています。そのため、経営者がインサイダー情報を保有している最中に自らの判断で株式を処分することは原則として不可能です。
もっとも、インサイダー情報をまだ持っていない段階で処分信託を設定し、売却条件を機械的かつ不可逆的に固定しておけば、後に重要事実を知ることになっても取引を継続できます。処分信託が適法に機能するための要件は三つあります。
第一に、信託設定時点で経営者が重要事実を保有していないことを弁護士意見書などで確認すること。第二に、信託契約で売却上限株数・期間・価格帯を具体的に定め、経営者が指図・変更・解除できない仕組みを担保すること。第三に、信託銀行が執行状況を記録・報告し、適時開示や大量保有報告などの規制報告と整合させるガバナンスを構築することです。
これらを満たせば、売却行為は経営者の意思決定から切り離され、インサイダー取引には該当しません。実務上は、リーガル・コンプライアンス部門と連携して契約条項を精査し、金融庁や取引所への事前照会を経てスキームを確定するのがセオリーです。コストと手間はかかりますが、マーケットリスクを管理しつつ資産分散を進める最も確実な合法ルートと言えます。
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インサイダー取引
インサイダー取引とは、上場企業の未公表の重要情報を知る立場にある人が、その情報を利用して株式などを売買する行為を指します。これは金融商品取引法で禁止されており、市場の公平性を守るために設けられた重要なルールです。 たとえば、決算の内容や合併・買収の計画、大口契約の締結・解消、役員の交代といった情報は、企業の株価に大きな影響を与える可能性があります。これらが公表される前に、会社の役員や従業員、関係会社、取引先などの内部関係者が株式を売買すると、公平な取引が損なわれることになります。 さらに、こうした情報を直接知らされていなくても、内部関係者から話を聞いた家族や知人が、その情報をもとに株を売買した場合も「情報受領者」としてインサイダー取引に問われる可能性があります。 たとえ意図的でなくても、未公表情報に基づく取引は規制の対象となることがあるため、企業に関わる立場にある人やその周辺の人は特に注意が必要です。投資を行う際は、常に公正な情報に基づいた判断を心がけ、市場の信頼を損なわない行動をとることが求められます。
処分信託
処分信託とは、企業や個人が保有している株式などの資産を、売却や譲渡といった処分を目的として信託銀行などに預ける仕組みのことを指します。信託を受けた側は、あらかじめ定められた条件や指示に従って、資産の売却などを行います。処分信託は、たとえば株式をまとめて市場に出さずにスムーズに売却したい場合や、資産の管理や処理を専門家に任せたい場合に活用されます。資産運用の場面では、大量の株式が処分信託に預けられたことが公表されると、その後の売却動向が市場に影響を与える可能性があるため、注目されることがあります。
ブラインド・トラスト
ブラインド・トラストとは、資産を信頼できる第三者に信託し、その運用や管理の内容について資産の元の所有者が一切関与せず、情報も知らされない仕組みのことを指します。特に政治家や企業の経営者など、利害関係による利益相反を避ける必要がある立場の人が利用するケースが多いです。この仕組みによって、本人が自らの資産運用に影響を与えたり、運用結果による不当な利益を得たりすることを防ぐことができます。資産運用の観点では、ブラインド・トラストは中立的で透明性の高い資産管理手段として位置づけられています。
大量保有報告
大量保有報告とは、上場企業の株式を一定割合以上保有した投資家が、保有状況を金融当局に報告しなければならない制度のことを指します。具体的には、株式の5%以上を取得した場合に、取得から5営業日以内に「大量保有報告書」を提出する義務があります。この報告により、誰が企業に対して大きな影響力を持ち始めたかを投資家全体が把握できるようになります。資産運用の場面では、大量保有報告によって有力な投資家やファンドの動向を知ることができるため、株式の売買判断に役立つ重要な情報源となります。
信託銀行
信託銀行とは、銀行業務に加えて信託業務を行う金融機関のことで、資産の管理・運用・承継を専門的に取り扱う。個人向けには遺言信託や資産承継のサポート、法人向けには年金信託や不動産管理などを提供する。特に、富裕層に対する資産保全や相続対策の面で重要な役割を果たし、長期的な資産管理の手段として活用される。信託契約を通じて、顧客の資産を安全に管理し、特定の目的に沿った資産運用が可能となる。